じんせい詰め合わせ   作:湯切

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幼少期〜うちは一族虐殺事件前日までのざっくりとしたサスケ視点


番外編
大好きな兄さんたち


「ねえ、イタチにいさん」

 

 ぐいぐいと服を引っ張る。黙々と難しそうな本を読んでいたイタチにいさんが、膝の上を占拠していたオレに笑みを向けてくれた。

 

「どうした?」

 

 にいさんの意識が本からオレに移ったことが嬉しくて、えへへと笑う。

 

 家を空けることが多いイタチにいさんと過ごせる時間は貴重で大好きだった。

 

「スバルにいさんってどんな人?」

 

 ほんの短い期間、スバルにいさんが実家で過ごしていた時のことは記憶が朧げだ。

 たくさん遊んでもらったことは覚えてる。イタチにいさんのように温かくて優しい手で頭を撫でてもらったことや、不思議ともっと前から知っていたような気がすることも。

 

「スバル兄さんは……」

 

 イタチにいさんの目が柔らかく細まる。

 

「優しい人、かな」

「イタチにいさんも優しいよ」

 

 こうやって自分の勉強を後回しにしてオレを構ってくれるところとか。

 必死さが伝わりすぎてしまったのか、にいさんが苦笑する。褒め言葉を素直に受け止めてもらえないのは面白くなかったので、勢いよく抱きついた。

 

「サスケ」

「へへ、イタチにいさんだーいすき!」

 

 オレの肩を掴んで引き剥がそうとしていたイタチにいさんの動きが止まる。

 

「にいさんは?」

 

 言葉にはしてくれなかったけど、そっと抱きしめ返してくれた。

 

 

 ***

 

 

 噂をすればなんとやら、あのスバルにいさんが実家に戻ってくることになったらしい。

 

 夕方、木ノ葉の大通りで会ったスバルにいさんのことは一目見て分かった。こちらを振り返った瞳は冷たい色をしていたけれど、オレとイタチにいさんの姿を捉えた途端に柔らかい色に変わっていく。

 

 どうしてだろう。やっぱり、もっともっと前からこの色を知っていた気がする。

 

 スバルにいさんと過ごす日々は楽しかった。

 

 あのイタチにいさんですら、スバルにいさんの前ではオレと同じ“兄のいる弟”なのだと実感する。

 人間関係において、三というのは微妙な数字だ。それでもバランスさえ崩れなければ、注がれる熱量がお互いに一定であれば、これほど強固な関係はないとも思う。

 スバルにいさんがたった二人の弟に注ぐ愛情に優劣はなく、オレとイタチにいさんに等しく心を割いてくれていることが伝わってくる。

 

 オレもイタチにいさんとスバルにいさんが同じくらい好きで、きっとイタチにいさんも同じだった。

 

 オレが生まれるまではずっと二人だったスバルにいさんとイタチにいさんには、オレの知らない時間がたくさんあっただろう。

 しかし、末っ子の特権なのかオレは随分と二人の兄に可愛がられて育ってきた自信がある。

 

「スバルにいさんは、オレとイタチにいさんのこと、好き?」

 

 それでも言葉にして貰いたくなるのが弟としての(さが)なのか。

 あの日イタチにいさんから貰い損ねたものをもう一度拾ってもらおうとしたのかもしれない。

 そんな軽い気持ちで任務帰りのスバルにいさんに問いかけてしまったことをすぐに後悔した。

 

 ――スバルにいさんが笑った。いつも何をしてもほとんど表情は動かないのに、こんな時に限って口角すら上がっている。

 

《すきだよ》

 

 あっさりと、いとも簡単に。ずっと向けられたかった表情と言葉を手に入れてしまったオレは思考停止した。

 

 …………スバルにいさんって笑えたんだ。

 

 漸く動き出した頭でそんなことを考える。これまでも「なんだか嬉しそう」とか「今日は機嫌がいいみたい」とか、そうかもしれないなと感じる程度の表情の変化はあった。

 

《おまえたちは おれの たからものだ》

 

 恥ずかしげもなくさらっと言われてしまって、ボンッと湯気が出るくらい顔が赤くなった。刺激が強すぎる。

 

「…………え?」

《しらなかったのか》

「し、知ってた、けど」

 

 ここにいるのがスバルにいさんではなくイタチにいさんだったら、いつものように額を小突かれて有耶無耶にされるだけだっただろう。

 スバルにいさんの場合は頭を撫でて誤魔化すんだろうなって思ってた。まさか、こんなにストレートに言葉にしてくれるなんて。

 望んだことのはずなのに、後ろめたいような、複雑な気持ちになる。

 

 最後には嬉しさが勝って照れ笑いすると、オレと目が合ったにいさんはなぜか両手で顔を覆って空を仰いでいた。

 

「にいさん?」

 

 数秒後に手を下ろしたにいさんはいつもの無表情に戻っていた。あれ? 

 

 

 ***

 

 

「こんにちは。イタチ君と約束してるんだけど……呼んできてもらってもいいかな?」

 

 目が合った瞬間にむう、と頬を膨らませたオレにシスイさんが苦笑する。

 シスイさんのことは嫌いじゃない。でもイタチにいさんを連れていっちゃうから、やっぱり嫌いかもしれない。

 

 渋々とイタチにいさんを呼びに向かう。

 

 …………今日こそ修行に付き合ってもらおうと思ってたのに。

 スバルにいさんもイタチにいさんも、いつも任務ばかりでつまらない。

 イタチにいさんは休みの日もオレとの時間よりシスイさんとの修行を優先するから、もっともっとつまらない。

 

 部屋で何かの準備をしていたイタチにいさんより先に玄関に戻ると、見慣れた背中が見えた。思わず笑みが浮かぶ。

 

「スバルにいさんっ!」

 

 今日も夜遅くまで任務だと聞いてたのに。スバルにいさんは玄関で靴を脱ぎながらシスイさんと何かを話していた。その背中に突進する。すぐに腕が伸びてきて頭を優しく撫でられた。

 

「スバル兄さん……帰ってたんだ」

 

 後からやってきたイタチにいさんがどこか複雑そうな表情で口にする。

 

 ここ最近イタチにいさんはちょっと変だ。スバルにいさんに対してだけ気まずそうにしているような……そんな気がする。

 

 スバルにいさんは荷物を取りに寄っただけで、この後別の任務が控えているらしい。イタチにいさんもシスイさんと出かけてしまうし、また家で一人ぼっちだ。

 しょぼんと落ち込んでいると、ふわっと身体が浮いて視線が高くなる。

 

《すこし さんぽするか》

 

 スバルにいさんに肩車されていた。オレにも見えるように高い位置で指文字を見せてくれたにいさん。嬉しくて胸がいっぱいになった。

 

「…………うん!!」

 

 オレとスバルにいさんは訓練場の近くまではイタチにいさんたちと並んで歩き、二人で商店街に寄り道した。

 スバルにいさんは手に三色団子を持っている。いつの間に買ったんだろう。

 にいさんはこう見えて甘味に目がない。出先で甘味処を見かけると必ず入ろうとするし、同じくらい甘味が好きなイタチにいさんもその後に続く。

 スバルにいさんの手にはすでに三色団子はない。今度はみたらし団子に変わっていた。

 ……本当にいつ買ったんだろう。

 にいさんに買ってもらったうちは煎餅を食べながら、もっと修行したらにいさんが甘味を買う速度に追いつけるかな? なんて考えたりした。

 

 

 ***

 

 

 イタチにいさんが父さんやスバルにいさんとケンカをしたかもしれない。

 廊下ですれ違っても一言も言葉を交わさず、一緒に食事をとることも無くなってしまった。にいさんたちに向いていた父さんの関心が自分に向けられるようになってきたというのに……素直に喜べない。

 

「…………スバルにいさん」

 

 深夜。スバルにいさんの部屋の前で懇願するように名前を呼んだ。部屋からは確実に人の気配がするのに、反応は返ってこない。

 

「イタチにいさんと何があったの…………?」

 

 言葉にしたら、ぽろぽろと勝手に涙がこぼれてきた。イタチにいさんもスバルにいさんも――変わってしまった。まるで別人にでもなってしまったかのように。

 

「どうしてオレを避けるの……」

 

 シスイさんが死んでからだ。以前からにいさんたちはギクシャクしていたが、あの日に決定的な亀裂が入った気がする。

 

 障子が開いて、中からスバルにいさんが出てきた。涙で濡れた顔のままぎゅっと唇を噛みしめる。そんなオレを見下ろしているにいさんは、すぐに興味を失ったように顔を逸らした。

 

《ねるじかん だろう》

 

 こんな時間まで起きているオレを気遣っているようだが、まるで突き放そうとしているようにも見えた。

 ……冷たい目。

 以前より物腰は柔らかいのに、シスイさんが死んでからというもの、スバルにいさんの瞳が温かい色を滲ませたところを見たことがない。

 

「スバルにいさんは、オレとイタチにいさんのことが嫌いになったの?」

 

 服を握りしめる手に力が入りすぎて皺になった。にいさんは何も言ってくれない。呆れているんだろうか。

 

「………………」

 

 ずずっと鼻を啜る。《すきだよ》と言って笑ってくれたあの日のにいさんの姿が浮かんで、幻のように消えてしまった。

 

 

 ***

 

 

「スバルにいさん、今日は帰りが早いんだね」

 

 任務で忙殺されているにいさんがこの時間に帰ってくるのは珍しい。

 気配を察知して玄関にまで迎えにきたオレは、その顔をみて次の言葉を詰まらせてしまった。

 

《ただいま》

「…………おかえりなさい」

 

 先に声を掛けてくれたのは久しぶりだ。オレを見つめる瞳は優しげで温かい。

 

 スバルにいさんは腰を下ろして靴を脱ごうとしている。恐る恐るその背中に抱きついてみたら、拒絶されるどころか頭を撫でられる。涙が出そうになった。

 

「…………イタチにいさんと仲直りできたの?」

「………………」

 

 靴を脱ぎ終わったスバルにいさんが首を横に振る。その目はどこか寂しそうで、頭を撫でられた時とは別の意味で胸がぎゅっと締め付けられた。

 

 その日の夕食は久しぶりに穏やかな時間が流れていた。イタチにいさんがいないことだけが心残りだったけれど、今のスバルにいさんとなら仲直りできる気がする。スバルにいさんとたくさん話ができて、オレは満足だった。

 

 全部気のせいだったのかな。

 

 そう思えるくらい、スバルにいさんは以前のように優しくて温かい。

 

「あのね、イタチにいさんの秘密を教えてあげる。イタチにいさんには内緒だよ?」

 

 こそこそと耳打ちする。スバルにいさんは不思議そうに首を傾げていた。

 

「イタチにいさん……ずっとスバルにいさんのこと好きだって。ほとんど帰ってこなくても、時々素っ気なくても、これからもきっとずーっと大好きなんだって」

 

 それは何年も前のこと。「スバルにいさんってどんな人?」と聞いた日にイタチにいさんが教えてくれた“秘密”だった。

 

「だから早く仲直りしてね! イタチにいさんも待ってるはずなんだから」

 

 スバルにいさんの自室。にいさんの膝を陣取っていたオレにはその表情は見えない。ただ、オレを抱きしめる腕に力がこもっているのは分かった。

 

「約束だよ?」

 

 にいさんの腕がオレの正面に回ってきて、指文字を綴ろうとする。

 しかし言葉にならなかったのか何度か指が宙を彷徨って、力を失ってオレのお臍のあたりに落ちてきた。

 

「もう、にいさんたちってほんと頑固だよね」

「………………」

 

 スバルにいさんがオレの肩に顎を乗せる。にいさんの横髪が頬に触れてくすぐったかった。

 

《あしたは》

「明日?」

 

 やっと話す気になったのか、オレの目の前でにいさんの手のひらが揺れている。

 

《いたちにとって たいせつなひだ》

「明日って……誰かの誕生日でもないでしょ? どうして?」

《だきしめて やるといい》

 

 こちらからの疑問に答えないのはいつものこと。

 スバルにいさんは会話のキャッチボールがちょっと苦手だ。

 

《いたちも よろこぶ》

「……ほんと? じゃあ、先にスバルにいさんを抱きしめる!」

 

 くるりと振り返ってにいさんに飛びついた。不意打ちだったのに難なく受け止めたにいさんは、あの日ほどではなくても微かに笑みを浮かべてオレを見つめていた。

 




これどうしても本編に入らなくて落ち込んでたので供養できてよかった。読んでくれた人はありがとう!
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