じんせい詰め合わせ   作:湯切

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本編31話「変わらない人」のだんごやのお姉さん視点
本編更新してから急に書きたくなったので急いで書いた


本編31.5

 子どもも大きくなってきたし、そろそろ働きに出ようかと考えていたところに偶然見かけたのが"だんごや"の求人。

 

 フルタイムでは働けない私にとって、シフト制かつ母子家庭への理解がある店主の元で働けるのは夢のようだった。

 それにここの三色団子は木ノ葉のどのお店よりも美味しいし、まかないとして出てくる甘味はどれも幸せの味がする。元々甘いものが好きな私にとって、ここはまさに天職だった。

 

「ああ、チサちゃん。いつものお客さんが来たよ」

「はーい!」

 

 暖簾をくぐって店に入ってきたのは、少し大きめのジャージを着た、フードを深く被っているせいで性別すらも分かりにくい人。

 数年ほど前から時々ふらりと現れては、一度も声を発さずに帰っていくからこの店ではちょっとした有名人になっている。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 その人は左手でフードの先を掴みながら、右手でメニュー表を指差す。骨張った手は男性特有のものだ。近くで見れば喉仏もしっかりと確認できる。

 

「今日はそれだけでいいの?」

 

 三色団子だけを差していた指が、控えめにつつつ…と横にずれる。おしるこだ。

 

「おしるこも追加ね。いつもの席が空いてるから、良かったらそこに座って」

 

 こくこくと何度も上下する頭が、なんだか可愛らしい。一度も話してるところを見たことがなく、全てを身振り手振りでやっているのが妙に和んでしまう。

 

 丁度私がここで働き始めた頃から常連になっているこのお客さんのことが、結構好きだった。

 

 フードで顔は見えないけれど、食べる前には必ず手を合わせてくれるし、何度か「美味しかったですか?」と聞くとすごい勢いで首を縦に振ってくれたことがある。

 今ではすっかり敬語もとれて、お客さん相手に馴れ馴れしい態度かもしれないが、彼は気にした素振りを見せない。

 いくら親しみやすい雰囲気だからと言って、全てのお客さんにこんな態度をとってるわけじゃない。なんだか、彼の纏う雰囲気が妙に年下っぽいというか、つい世話を焼きたくなってしまう。まだまだ手のかかる小さな子どもと一緒に暮らしているせいだろうか。

 

 他のお客さんの注文を聞いて回っていると、チリンチリンと鈴のような音が鳴った。カウンターに戻ると、出来たての三色団子とおしるこ、それから淹れたてのお茶が一つのお盆に乗っている。

 それを例の彼がいるテーブルに持っていくと、彼はまたこくこくと頷いた。多分、ありがとうと言ってくれているんだろう。

 

「ゆっくりしていきなね」

 

 彼は早速お茶を飲もうとして、熱かったのかびくりと震えていた。それから、何度も息を吹きかけて、恐る恐るもう一度口をつける。ああ、良かった。今度は大丈夫だったようだ。どこか嬉しそうにお茶を飲んでいる姿に、私や表に顔を出していた店主までもほっこりする。

 

「あのお客さん、毎回癒されるねえ」

「なんか可愛いですよね」

「うちにも昔あんな感じのお客さんがいたんだけど、いつからかぱたりと来なくなっちゃったから嬉しいよ」

 

 店主がひとしきり癒しオーラを補充してから裏に戻っていく。私もよしっと気合を入れ直して、カウンターやお客さんが立った後のテーブルの拭き掃除に専念した。

 

 すぐに次のお客さんが入ってきて、私は顔を上げてにっこりと笑う。

 

「いらっしゃいませ」

 

 私がここで働き始めてから、数回ほど見かけたことがある二人組だった。

 

「ここはいつ来ても変わってないな」

「なんだかホッとしますよ」

 

 彼らは例のお客さんの隣に座ると三色団子を二つ注文した。

 

「この店に来るといつも三色団子を注文してしまう」

 

 途切れ途切れに聞こえてくる二人組の会話に、私はこっそりと笑みを浮かべる。自慢の三色団子を食べてもらえるのは嬉しい。

 私は先ほど下げたばかりのお盆を手に、裏に戻った。

 

 私が裏に戻っている間は、もう一人のパートさんが表に出ている。

 道具の手入れやお茶の用意などをしてもう一度表に戻ると、いつも小さく穏やかな話し声が聞こえてくる店内はしん……と静まり返っていた。

 

 例のお客さんが立ち上がっていた。私の代わりに接客中だったパートさんが驚いたように「今日のは不味かったかい……?」と尋ねている。

 例のお客さんはハッと顔を上げて、私たちの顔を交互に見た。深く被っているフードの隙間から唯一見える口元にぎゅっと力が入っている。ほんとうに、どうしたんだろうか。心配になって声をかけようとする前に、彼は勢いよくおしるこの入ったお椀を掴んだ。

 

「え?」

 

 私以外にもこの状況を見守っていたお客さんの何人かが同じような反応をする。

 彼は咀嚼もせずに残っていたおしるこを全部飲み干すと、そっと手を合わせた。"ごちそうさま"だ。

 

 彼は私たちに向かって頭を下げると、そのまま出て行こうとする。そんな彼を引き止める声がしたが、聞こえなかったのか、その後ろ姿は暖簾の向こう側に消えていってしまった。

 

「……カカシ先輩、どうします?」

「追いかけるか」

 

 声をかけた人物……二人組が立ち上がって、何故かは分からないが例の彼を追いかけようとしていた。この二人と何かがあって、彼はここから逃げるように出て行ったんだろうか?

 

「あの、お客さん」

 

 二人組がこちらを振り返る。すでに席から立ち上がっていた彼らに、手に持っていたお盆を見せた。

 

「もう三色団子がご用意できていますよ。熱々のお茶も」

「すまないが、また後で……」

「………いや、いただくよ。テンゾウ、食べていこう」

「いいんですか?」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。再び席についてくれた二人の前にお茶と三色団子を並べる。

 

「ありがとう」

「ごゆっくりしていってください」

 

 にこりと笑みを浮かべる。

 

「スバルがいるはずがない。ここで静かに甘味を楽しんでいた人の邪魔をしてしまったな」

「…………そうですね」

 

 二人の会話にこっそりため息をついて、私は風を受けてゆらゆらと揺れている暖簾を見つめた。

 

 もしかしたらあの人はもうここには来ないかもしれない。

 

 また暖簾の向こう側からやってきた別のお客さんに、私はいつもの笑みを向けた。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 




うーんこのスバル相手の恋愛小説感
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