やがて俺達は、『A』の部屋へたどり着き、半開きになっていたドアに手を掛ける。
そして踏み込んだ部屋で待っていたのは――。
「大崎さん!? それに……はづきさん!?」
入り口近くでへたり込む大崎甘奈さんと、部屋の中央で仰向けに倒れているはづきさんの姿だった。
「だ、大丈夫、大崎さん!?」
八宮さんが慌てて傍へ駆け寄り、ケガがないかを確かめる。
幸い大崎さんに目立った外傷はなく、腰が抜けているだけで大事ないようだ。
だが、もう一人の女性は……。
「はづき……さん?」
俺は自分の声が震えているのを自覚していた。
今いる場所からでも後頭部付近の大量の出血が確認され、嫌でもあの事件が脳裏に蘇ってしまう。
思わず駆け寄ろうとしてしまった俺の腕を、一人の少女が慌てて掴んだ。
「待って……お弟子、さん……!」
「幽谷……さん?」
気が付けば、大崎さんの隣には八宮さん、そして合流した幽谷さんと園田さんの姿があった。
皆、一様に動揺を隠せない様子で、きっとそれは俺も同じだったのだろう。
幽谷さんは焦る気持ちを必死に抑えるような声音で、俺へ言った。
「現場は……できるだけ、そのままで……」
「し、しかし、はづきさんがまだ生きている可能性が……」
「は、はい……。お弟子さん……以前の事件でも使った、医療キットは……?」
「あ……」
その指摘を受け、俺は少し冷静さを取り戻す。
そうだ、確かにあの日、『A』の遺体を確認し、医療キットを使って死亡推定時刻を割り出したのは幽谷さんだった。
俺は一度大きく息を吸い、吐いてから彼女へ向き直る。
「すみません、動揺してしまって……。キットはガラス棚の引き出しに入っています。お願いできますか?」
「わ、分かりました……!」
その頼みに幽谷さんは勇気を振り絞りながら頷き、俺は改めて周囲へ視線を向けた。
ショックが強かったらしい大崎さんの肩に八宮さんが手を置き、園田さんは所作無さげに俯いている。
「……俺が、しっかりしないと」
彼女達の心境を考え、誰にも聞こえない声で決意表明した後、部屋の状態を確認する。
とはいえ、状況はひどいもので以前の事件を思い出させる荒れっぷりだ。
棚のガラスは割られ、壁のレコードもぐちゃぐちゃで、俺の机も例外ではない。
「とはいえ、重要なデータを紙や物理メモリーに残してないから心配はないか……」
あの事件の時は、『A』の金庫に鍵や解毒剤があったけど、今回の犯人は何が目的だったのか……?
そんな事を考えながら一通り現場検証を終えた頃、こちらへ顔を向けていた幽谷さんと視線がぶつかる。
「幽谷さん、はづきさんは……?」
その問いに彼女は俯いた後、
「……っ」
と、辛そうに首を左右に振るだけだった。
俺は胸にずん、と重いモノが伸し掛かるのを感じながら、
「現場はあの日の写し鏡……。『A』と同じ場所で死んでいるはづきさん……。四月の嘘は終わっていない、ということなのか……?」
と、天を仰ぎ、呟いた。