《千藤家屋敷廊下》
「しっかし、入り組んでんなぁ…ここぁ……この屋敷、どんだけ部屋あんだよ。俺がもうちょい爺だったら迷子の爺さんになるとこだったぜ?」
「うん……すごい部屋の数。ほんとに全部使ってるのかな?」
私たちは千藤家の屋敷に入って、廊下を探索していた。この屋敷は迷ってしまうほど広くて、入り口はどこにあったか、すっかり忘れてしまった。屋敷というより、神殿…洋館を思わせる構造で、左右非対称の、かなり複雑な設計をしている。内装は大変豪華で、大理石のタイルが一面に敷いてあり、壁は真っ白で、所々にランプがついている。
「いたぞ!侵入者だ!」
「!?」
奥から、警棒を持った警備員たち四人組が押し寄せてきた。
「っと!やる気かい?」
セイバーは刀を構えて、警備隊と向かい合う。
「ちょっと待って!こんなところでそんなもの振り回したら危ないでしょう!?」
「なんでさ!?奴らは俺たちの敵だぞ!?相手が棒持ってんだから、いまさら刃物がどうもこうもねぇだろう!?」
「だめ!今は逃げるの!」
こんな野暮天に好き勝手させたら人命被害に繋がりかねない。セイバーの手を引いて、警備員から逃げ出す。長い廊下を走り回れば、入り口をど忘れするのは否めないけど、そんなことは後回しだ。今は警備隊から逃げることだけに集中する……!
「しめた!二股だ!」
二股のT字廊下を発見した。上手いこと進めば、逃げきれるかも!
「おっと!?」
「うわぁ!!」
廊下から、人影が現れて、私はぶつかって転んでしまった。
「いてて……すみません……」
「だ……大丈夫かい?怪我はない?」
怒られるかと思ったら、優しく声を掛けてもらった。ぶつかったひとは、全身真っ黒な服装の若者だった。黒ぶち眼鏡が特徴の、優しそうな青年だ。
「す、すみません、よそ見していました……」
「いや、いいよ。こっちも考え事してて、ボーッとしてたから。それより君、この屋敷の人間じゃないだろう、どんなご用でここまでわざわざ来てくれたのかな?」
「それは……この街で、吸血鬼が出たとか……そういう噂を聞いて、それについて何か知っているひとはいないかな……と」
「うんうん、あー、吸血鬼って、あれか。最近流行りの通り魔事件だね。あれ、僕も一生懸命調べているんだけど、なんにもわからないんだ。なにせ、吸血鬼っていう生き物自体、見たことも聞いたこともないし。そもそも、こんな系統の事件も、聞いたことないからさ」
「そうですか………」
どうやら、彼は知らないみたいだ。それもそっか。私も含めて、吸血鬼を信じてる人なんて、いないだろうし。凶器も判ってないなら、何のことかさっぱりなのも仕方がない。
仕方ない。ここの調査は終わりにして、次の場所へ…………………
「あれ?兄さん?こんなところで何をしているんですか?」
その時、どこから湧いて出てきたのか、一人の少女が現れた。年齢は私とあまり変わらなさそうな、思ってたより可愛い子だ。彼女の口振り……青年を「兄さん」と呼んだことから兄妹なのだろうか………?
「あ、麗花。ちょっと、この街で起きてる事件について、僕たちに聞きたい人がいるらしくて……」
「………!!ギンコ……!」
さっきまで黙っていたセイバーが咄嗟に身構える。その意味が、なんとなく解るような、解らないような……
「そうですか………初めまして。私は千藤麗花です。そちらは兄の幹太。貴女は?」
「私は、円堂銀子です。こっちは、セイバーです。私の友人で……」
麗花と名乗った少女は私と歳の変わらない顔でくすりと微笑んだあと、
「そう、なら話は早いわね。殺って!アーチャー!!」
と声を張り上げて……
「承知…!!」
それに反応したのか、廊下の角から和服のような変わった服装をした女性が、真っ白な刀を持って私たちに突進してきた。
「───っぶねぇな!?」
すかさず、セイバーが刀で弾く。刀を弾いたセイバーの反撃が炸裂するが、女性はすぐさま後ろに飛び退いて、セイバーと距離を取った。
この人……セイバーと同じぐらい……強い!
「紹介するわ。彼女が私のサーヴァント、アーチャーよ。よろしく付き合ってあげて、セイバーと、そのマスター?」
「アー………チャー……?」
アーチャー……セイバーが言ってたっけ、サーヴァントにおける、七つのクラスのうちの一つ、弓兵のサーヴァント、アーチャー。弓は……どこに?
例外はあるもの……か。多分、剣で戦うのが好きなアーチャーなのだろう。
「ま……待ってくれ!麗花!彼女はまだ何もしていない……!アーチャーもやめてくれ!目的があって訪ねて来た人を、暴力で追い返すのはだめだ!」
「セントー。私はマスターのサーヴァント。残念ですが、貴方はマスターの代理。貴方のご命令にも従いますが、私の主はマスターのみ。私は、サーヴァントとして、マスターを優先します」
「兄さん、彼女は聖杯戦争に参加するマスターです。私たちが倒すべき相手。そこには道徳も法律も関係ない。残念ですが、マスターとサーヴァントである以上、私たちが聖杯戦争に参加している以上、彼女らは殺します」
まさか……ホントに、彼女は私を殺す気なのか……?いや、殺さなければならないのか…?
対する私も、彼女らを殺さなければならないのか?
これが……聖杯戦争……!
「わ…私が囮になるから、セイバーは逃げて!」
「馬鹿もん!なに言ってんだ手前!手前が死んじまったら俺も消えちまうだろうが!俺が引き受けっから、手前はさっさと出口を探しだして逃げろ!」
そうか、サーヴァントはマスターからの魔力供給で生存しているのか。なら、私が死んだら、セイバーも消滅する……!
「分かった……けど、大丈夫なの?」
「勿論さ。言ってなかったっけか?セイバーってのはよ、七つのクラスの中では最優と呼ばれているんだぜ?」
セイバーは私にグッドサインを残して、女性………アーチャーに向き直った。
「絶対に、生きて帰ってきてね?」
「おう!任せろ、ギンコ!!」
セイバーを信じて、来た道を走って戻る。そこへ……
「通さんぞ」
「逃しません」
「諦めるんだ」
「大人しくしなさい」
さっき私たちを追っていた四人組の警備隊が現れた。手には警棒がある。一人だけ、リーチの長そうな、3メートルほどの鉄パイプを持っている。
「ごめん、警備員さん!!」
鉄パイプを持った警備員のお腹を勢い良く蹴って、くずおれさせて鉄パイプを奪い取る。
「行くぞ!」
「はい!」
「おう!」
残った三人が一斉にかかってくる。
「はっ!せいやッ!!」
鉄パイプで一番近い相手から気絶させる。
いいじゃん、鈍ってない。薙刀部の時、全国大会で優勝したときの実力、まぁまぁ残ってた……!!残りカスの力とはいえ、素人の警備員ならやっつけることならできる……!
「村谷!!クソォ!」
仲間が一人やられたからか、やけくそになって走り寄ってきた二人目の胴を鉄パイプで払う。
「ぐぁっ……!!」
「小林ぃぃ!!く、くそぉ!貴様……いい加減に………」
三人目の攻撃を受け流し、顎に鉄パイプの振り上げをぶつけて倒す。
「うぐぅ……っ!」
「……!そんな筈は……!」
驚愕は、アーチャーを引き連れた少女のものだった。
「いいわ……やるじゃない。アーチャー!あなたはそこでセイバーをお願い!私はセイバーのマスターを追うから!」
「逃げろギンコ!!そいつは魔術師だ!!」
セイバーの声を聞き入れて、一直線に私は逃げ出した。
セイバーを信じて、私は逃げる……!
「待ちなさい……!ぜったいに…逃さないから…!」
後ろから麗花が追ってくる。私の相手は……彼女になりそうか……乱暴事は慣れてないけど、自己防衛なら、やるしかない。
ひとまず、適当な部家の物陰に隠れて、逃走のチャンスを伺わないと!
◆ ◆ ◆
「降り遅れているぜ!アーチャー!どうした?弓出したいか?」
「貴様、調子に乗るなよ……その俊敏性……セイバーらしさに満ちているな。だが……」
俺の刀が、アーチャーの白い刀に破壊される。あっちゃあ……あの太刀、顕現したときに身に付けてたやつだから結構思い入れあったんだけどなぁ……
「力ではこちらのほうが一枚上手だ!!」
武器を失い、丸腰になったこちらに、アーチャーが肉薄する。
「よっこら!!」
咄嗟に仕込んでいたドスを抜いて、アーチャーの首筋に叩きつけ………
「遅い!」
………られないか。なけなしのドスも弾き飛ばされる。うぅ……もちっと、年頃の爺に加減をする孫娘の心ないのかね。
ひとまずバックステップで飛び退いて、アーチャーと距離を取る。
取りあえず、あのアーチャーの剣術はだいたい把握した。勿論、俺のような爺だ。サーヴァントとしてのスキル使ったって、あんなもん把握はできていない。
だが、俺のスキルは間違いなく本物だ。俺に読めない剣術は基本存在しない。
つまりは、
「なるほどな、やっと繋がったぜ。いやしかしよぉ、まさか名高き十束剣を目の当たりにするたぁ思ってなかったぜ。やっぱ長生きしてみるもんだなぁ。手前、日本神話の英霊だろ」
「……………ほう、解るのか」
「あぁ、俺の刀剣審美に狂いはねぇ。けど、手前の剣術はさ、構造から既に見たことねぇんだよ。なんつーか、非現実的だと思うんだよ。しかも、なんとなくの憶測だけどよぉ、それ、対人剣術つーより、退魔剣術っていうやつかね…?その、なんだ、怪物を斬る剣術っぽいっていうかさ」
「なるほど、頭が回るな、貴様。武道に余程長けた者と見受ける。ならば、容赦はしない。不毛な会話は終わりだ。ここで貴様の首をはねる」
アーチャーは白い刀を手に、こちらへ走ってくる。現在の俺は丸腰。武器を一つも所持していない。
────けれど、この手には、武器を造るという武器がある。
「────鍛造開始」
「もう一つ……!?」
俺の手に新たな刀が出現する。燃え上がった俺の焔の手から、1本の太刀が引き抜かれる。紅の刀身の、鍔の付いていない三尺程の長太刀。
「手前、【神剣】持ってるだろ、アーチャー、出しやがれ!!!!!!」
その一太刀で廊下の床を切り裂く。
瞬間、床が大爆発を起こし、真っ赤な火柱が床から天井まで吹き上がる。
白い廊下が紅い焔で崩壊する。
「い……今のは……宝具……?いや、馬鹿な、そんな……A+ランクに匹敵する……いや、事実A+ランクの強力な宝具、宝具の真名解放を使わずして、放てる筈が………」
「まぁな、生憎、俺の刀はほとんど名前がねぇんだ。宝具名もクソもねぇよ」
「その力で……鍛冶師だと?貴様……何処の英霊だ?」
「教えねぇよ。そーいう手前も、出してくれよ、もう1本」
「………そろそろ終わりだ!」
アーチャーの疾走が始まる。疾風(はやて)のような、廊下を切り裂く程の速い疾走だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ハッ!!」
白い刀と紅の刀が火花を散らしてぶつかり合う。
互いの攻撃の合間を拭って、針に糸を通すような精密な動きで、互いの隙を突いていく。隙を突いたら、それは相手の刀に流され、流してきた相手の刀をこちらが薙払う繰り返し。無限に繰り返される剣撃と金属音、無情に振るわれる斬撃と呼吸音。何十度目か、振るわれた斬撃に、再度火花が散華する。
そして、その次の一刀。短いドスを構えて一直線に突きだす。それは、
「ハァッ!!」
アーチャーの一撃によって、空中に打ち上げられる。
「そぉぉらっ!!」
太刀を一直線に投擲し、躱される。
そこに生まれた隙を突き、両手に造り出した2本の短刀で斬りかかる。
不意の一発に惑わされたアーチャーだが、
「なにを………無駄なことを……貴様では届かない!」
そこは英霊。刀で俺の攻撃を受け流す。だが、それが決め手となる。
「ハッ、おらぁぁ!」
2本の刀に全力を注ぎ込んで叩きつける。俺の様物スキルは、武器の性能を全力まで引き出す力がある。全力を発揮すれば……
「うぐ……魔力放出の衝撃が……重い……?」
この通り、俺の振る武器が自壊する程にまで力を引き出せる。2本の短刀の自壊と代償に、アーチャーの体勢を大きく崩した。
「───────」
「───────」
ここで、互いに手詰まりときた。俺の手にあった武器は全て壊れ、アーチャーの動作は停止。だが、
「貰ったぞ、アーチャー!!!」
この一手に、さらに一手が有る。
アーチャーに打ち上げられたドスが落下してくる。それに合わせて俺の力を極限まで凝縮した回し蹴りをぶつける。
柄に受けた回し蹴りの力がドスを押し出し、アーチャーの右脇腹を穿つ。
「ぐ………がはッ……!!」
さらにアーチャーに走り寄り、アーチャーの右脇腹に刺さったドスを握り締め、そのままアーチャーの左脇腹へと一文字に抜き払った。
「セイバー……貴様………」
アーチャーが地に倒れ伏す。その首に、新たに造り出した太刀を近づける。そのまま振り上げて、それを振り下ろそうとして………
「ちょっと……!待って!!」
「!?」
その声に、俺は動きを止めた。
「手前、まだそこにいたのか?」
あろうことか、その声の主は、さっきギンコとぶつかった、眼鏡の青年だった。
◇ ◇ ◇
キャラ紹介【セイバー陣営-バトルスタイル】
円堂 銀子(えんどう ぎんこ)
セイバーのマスター。
見た目中身共に平凡な女子高校生だが、元々は薙刀部に所属しており、全国大会でトップレベルの成績を残した、とんでもない武道女子。彼女に長い武器を持たせれば、無双するのは間違いない。ただ、乱暴に慣れていないため、なるべく話し合いで解決する傾向にある。ただ、それでもやる気になれば、容赦なく薙ぎ倒していく。
セイバー
剣士のサーヴァント。
とはいっても、剣術で名を馳せたことはなく、剣を造ることに特化した英霊。試剣術を極めぬいたサーヴァントで、彼が造る刀は、無銘であるにもかかわらず、A+ランク並みの宝具として扱われる。真名開放をせずに宝具を放つという、前代未聞のトンデモ能力を持った、史実上最高の刀鍛冶。中身は老人で、若々しい体の扱いに慣れておらず、「爺だからなぁ」と、何事も大目に見て貰おうとしている。
いつも見てくださってる方、ありがとうございます!
お待たせしました、遂に聖杯戦争らしい闘いが始まりました。なにげにこれが今作最初のサーヴァント同士の闘いですね。ここから、ようやく、それらしい聖杯戦争が書ける気がしてきました!書いていて自分もだんだん楽しくなってきましたね。私の自作聖杯戦争のこれからの波乱の展開、是非ともお楽しみください!