第十一章 剣の夢
「うわ………寒っ………なんなのよここ……」
私こと円堂銀子は、家に帰って寝ていたら、いきなり、なんにもない、暗い雪原に飛ばされた。なるほど、マスターになればこんなこともあるのか。ここは、セイバーの夢だろうか。
暗い雪原。空を見上げれば、絵に描いたような綺麗な月が、丸々と大きく浮かんでいた。雪の積もった地面には無数の刀が刺さっている。そこらじゅうに刺さっている刀たちは、それぞれ形も長さも違う。
歩けど歩けど、景色は変わらない。変わるのは、刺さっている刀の種類形だけ。荒野に雪が積もりに積もったような、そんな物淋しい空間に、音が響く。鉄を金槌で打つ音がする。
雪原をひたすら歩く。音がする方へと歩く。月は堕ちも昇りもせず、動かぬまま空にひとりきり浮かぶ。雲は横に流れ、月を隠しては見せびらかす。雪は止むことを知らず、永遠に降り続ける。風は誰かに届けようと、私にぶつかってくる向かい風。
凍える身体を背負って、なんとか、そこら辺よりも地形が高くなっている場所に着いた。
───そこに、男は居た。
菅笠を被っていて、藍色の髪をしている。着物は臙脂色で、柿色の羽織を肩から提げている。そんな男が、無言で、無意識で無感動でただひたすら、一心に刀を鍛え続けている。男には私の姿は見えていない。私には男の姿がよく見える。私は、この男の事は知らない。だが、この男をよく知っている。こんな見た目をした彼を、よく知っている。だが、こんな心持ちの彼を私はまるで知らない。仏僧のように、ただそこに居て、地蔵のように、ただそこに在る。
だが、この時の止まった男には、確かに、熱がある。釜戸の焔のように、燃えたぎる、強い意志を持っている。それがなんであるか、第三者の私にはわからない。
ただ、男は黙ってただ刀を鍛え続ける。雪原には、ただ鋼を打つ音だけが響いている。荒野には、ただ刀を鍛える音だけがこだまする。
───あぁ、なんて、退屈な時間だ。時間の無駄だ。こんなことに打ち込んでいるなんて、暇な男もいたものだ。
だが、男は、妥協はしない。どんなに美しいところに辿り着こうと、ゴールテープを切らない。いや、とうに切ってしまっている。だが、男はゴールしても止まらない。ゴールテープの先にも、地面が続いているのなら、崖にぶつかるまで止まりやしない。崖があるなら、登って越えてしまうだろう。海が見えたら、海を泳いで行ってしまうだろう。
この星は丸い。だから、どこまでも進めば、そのうち、スタート地点だった場所に戻ってくるだろう。だから、彼はまた止まらなくなる。
完成形を求めた世界巡礼。躓くことはあっても、止めることはなく、一周したら、もう一周してしまう。それが終わったらまたその次のもう一周。それも終えたならまた一周。終わらない旅の連続。永遠の生命を持っていたら、その永遠尽きるまで巡り続けるだろう。何度廻ろうと、世界は丸いから、新天地には辿り着かない。
─────でも、もし、その最期に、ゴール、これ以上何があっても進めない境界があったと仮定するなら。
─────雪原に刺さっている刀の全てが砕け散る。
───その境界があったとするなら、
最期に、一際大きく、鋼が叩かれた。
───それは、どんなに美しい、
男が手を止める。
───広く、果てしない世界が、
男が立ち上がる。
───新しい輪廻感が、
男ができたばかりの刀を手に取る。
───眼に見えない宿業が、
満足とばかりに、男が手にしたその刀だけが、此処に残る。
───剣の鼓動が、
その刀の名は──────────
───彼の眼に見据えられるのだろうか。
「銘刀正宗」。
この男、岡崎正宗が、何を、業の目に魅せるのか。
◆ ◆ ◆
「おーい、聞こえてんのか?生きてるかー?」
「うぅ………………………いま起きるから」
なんだか、不思議な夢を見た。外から朝の光が射し込んでくる。
うっすらと目を見開くと、勿論、私の家だった。
「よう、ギンコ。昨日はよく眠れたか?まぁ、そりゃそうか、今十時だしな。そりゃあ、よく寝たよなぁ」
「嘘!?もうそんな時間なの?」
「おう、手前があんまりにも疲れてんのか、ずっと寝てたぜ。まぁ、いんじゃねぇの?今日は学校休みなんだろ?」
セイバーがなんで私の学校の休日を知っているのか不思議でしょうがない。まぁ、実際、今日は休みだ。これぐらい遅く起きたって、誰にも怒られやしない。
「朝飯、もう届いてっぞ、早く食いなよ、うどんだから、放っておくと、不味くなっぞ、ここのうどん、なかなかに美味いぜ、食ってみなって」
「なにアンタ勝手に出前なんかやってんのよ………アンタに出前なんかできんの……?」
それ、私の稼いだお金なんだけど。
「なに、心配要らねぇ。俺が稼いだ金だ。遠慮なく使ったぜ。他んとこじゃあ、ギンコが養ってくれっからな。俺はギンコに贅沢させるために金使うぜ」
「うそでしょ、アンタどこで稼いだのよ」
「アレだ、アレ。「すきるまーけっと」ってやつだ。アレで俺が打った刀売ったのさ。1本で5万稼げる、お安い御用だぜ」
なに、どゆこと!?え?この時代遅れの結晶、昭和世代よりも昔の、江戸世代の鎌倉時代生まれが、スキルマーケット!?え、スキルマーケットって、得意なことで売り買い商売するアレでしょ?オモクソインターネットじゃない!?なんでセイバーがこれ使えるの!?
「なんで、男湯と女湯が別れてることすら知らなかったアンタがそれできるのよ」
「カンタから教えてもらったのさ、解りやすい説明つったらありゃしねぇ、こんな俺でもできちまった」
それがホントなら、幹太さんは偉人だ。普通にサーヴァント候補だと思う。このセイバーにインターネットどころか、スキルマーケットまで教えるとか、どんなスーパー講師なんだ。
「しかも、五郎入道印だから、間違いなく国宝だぜ?それを5万で買えるたぁ、町人共は幸せってこたぁ違ぇねぇよ」
そうだよね、国宝だよね明らかに。普通に国宝だよね?国宝を5万で売り買いとか聞いたことがない。
「あの夢あってこの現実あり………か」
「夢?夢見てたのか手前?」
「うん」
そうしてセイバーに昨日と今朝で見た夢の内容を説明した。
「へぇん、俺の夢かい。運がいいじゃねぇか。俺が刀打ってるとこ見れるなんて、普通の人間じゃできねぇよ」
「今さら確認するけど、セイバーの真名は………」
「おう、俺の真名は「岡崎正宗」。銘刀正宗でお馴染みの日本一の刀鍛冶「五郎入道」だ。最初に鍛冶師って教えたけどよ、最近流行りの千子村正だとでも思ったか?だとしたら残念だったな、俺はあんなに現代っ子じゃねぇよ」
うーん、千子村正が現代っ子ってのはすごいね、アレも室町時代だからね。歴史好きから言わせたとしても、大差ないと思う。仮にセイバーが千子村正だったとしても、性格がこの男のままなら、絶対に時代遅れのままだろう。
「さて、俺も今日はお仕事溜まってるんでな、裏山で刀でも打ってくるぜ」
そう言って、セイバーは部屋を出ていってしまった。
◆ ◆ ◆
「はぁ………なんだかね」
ひとまず朝食のうどんだけ食べ終えて、私はごろごろしていた。
───すると、突然電話機が鳴り出した。
「はい、円堂です」
電話の主は、聞き慣れたといえば聞き慣れた声だった。
「円堂か。俺だ、晴燕寺だ。少し、用事があってな、急遽、君に来てもらいたいんだ。学校、来れそうか?」
生徒会長の「
「わかりました、じゃあ、学校行けばいいんですね?」
「あぁ、詳しいことは現地で説明する。それじゃあ、なるべく急いでくれ、例の吸血殺人について進展があったみたいでな」
電話は切れてしまった。よし、じゃあ、先輩を困らせる訳にはいかないし、早く行くとしよう。セイバーは……あ、もう外出してしまったのか。じゃあいいや。後で説明すれば。
私はひとまず制服に着替えて、学校へ向かった。しかし、学校休みの日に呼ぶなんて、晴燕寺先輩には困ったものだ。今日呼ぶ理由がなにかあるのだろうか。別に大したこと無いだろうと思って、私は何も考えず、学校へ直行した。
◇ ◇ ◇
キャラ紹介【サーヴァント-セイバー】
岡崎 正宗(おかざき まさむね)
セイバーのサーヴァント。別名、五郎入道。鎌倉時代の銘刀鍛冶師。日本最高峰の刀鍛冶と呼ばれた英霊で、刀にしか興味を示さない老人。
慢性的な時代遅れであり、現代語、現代文明、現代文化、現代常識についての知識は皆無。
知識不足で度々トラブルを起こすが、本人に悪気は一切なく、薄っぺらなノリであれ、反省はしており、改善には一応尽くしている。ぶっきらぼうな物言いと訛りの酷い話し方が特徴で、面倒見が悪い。主従関係意識もまるでなく、マスターのことを職場の後輩のように扱う。
英霊としては、遺した無数の刀にはほとんど名前が残っておらず、全てが宝具に匹敵するものであろうと、名前が無いため、宝具の真名解放が不必要という、サーヴァントとして前代未聞の能力を持つ(分かり易く言えば、聖剣を詠唱無し、真名解放無しで連発するようなものだ)。
自身の仕事が大好きで、仕事のためなら、時に残忍冷酷な手段に出ることも厭わない。だが、最終的にはマスターにとって善行に繋がろうとする、縁起に忠実な仕事人間。
いつも見てくださっている方ありがとうございます!マジカル赤褐色です!
セイバーの真名が明らかになりましたね!岡崎正宗の設定は相当前から作ってありまして、ちび助の頃に作った設定をリメイクしたり追加したりして完成させました。詳しいステータス表は別作品として現在製作中ですので、そちらの方もご期待ください!次回もお楽しみに!