《セイバー、アーチャー陣営》
「アーチャーが二騎?」
「うん」
私たちは千藤家の屋敷を訪れて、私を含めて麗花、幹太さん、アーチャー、セイバーの五人で話し合っていた。
「馬鹿な、アーチャーは一つの聖杯戦争に一騎のみ。此度の聖杯戦争において、アーチャーは私だけの筈です」
「それがだよな、ありゃあ、マジのアーチャーだ。弓にしっかりと、経験と技量が在った。素人の俺でも解るぜ。もっとも、俺ぁ通常武装や闘い方をしっかり読む力があるんでな。あれでアーチャーじゃねぇなら、今すぐここで首かき斬っても構わねぇよ」
「セイバーが言うなら間違いないね。けれど、僕たち以外にアーチャーを引き連れているとしたら、どうして引き連れているんだろう」
幹太さんの疑問はもっともだ。私もそう思う。
アーチャーが二体居るには理由がある。一つの聖杯戦争に、どうして二騎もアーチャーがいるのだろう。普通はあり得ない、イレギュラーだ。理由があるならあるで………それは、
「────もしかして」
ひょっとして、【一つの】聖杯戦争にアーチャーが二騎いるという前提が違うのだろうか……?
◆ ◆ ◆
《バーサーカー陣営》
「なんだ、二騎目のアーチャーだと?」
おれはまた今日の記録を魔眼で視ていた。するとなんと、第二のアーチャーの存在を確認してしまった。馬鹿な。一つの聖杯戦争にアーチャーが二騎も召喚されるものか。
「教会と協会は何をしている………!!」
まさか七つのクラス全種、二騎ずつサーヴァントがいるだなんて、計十四騎による全面戦争なんてことはないだろうな。不安が現実のものになりそうな気がしてくる。
くっ、システムを弄って一般人ばかりを参加させてしまったが故に、大聖杯の予備システムが作動してしまったからか。だが、だからといって、十四騎のサーヴァントが参戦するより、ルーラーが制圧に来る方が遥かに安上がり……ならば何故、十四騎のサーヴァントが参戦するだなんて事態になったのだ?
───電話が鳴り出す。すぐそこにあったので、面倒だが仕方なく受話器を取った。
「なんだ、」
『お久しぶりですね、アルケード・エンケラドゥス』
受話器の中から女の声がする。おれの名を知る女など、おれの身内、あるいはバーサーカー以外にはいない筈だ。
「誰だ」
『リカルド・アルゴノーツ。覚えているかしら?』
「────────」
アルゴノーツ。エンケラドゥス一門とはライバル関係のような家系。エンケラドゥスと長年に渡って一門同士の争いを幾度も繰り返してきた、エンケラドゥスと同じく、神秘の独占を目指す魔術家系。
「おれたちに散々に迷惑をかけてきて、最終的に逃げていった三流魔術家系の下っ端が今更おれに何の冗談だ」
『冗談?それこそ笑い話、貴方の状況を把握しに来ただけです。そちらもそちらで、随分とお忙しいご様子で』
「流石はアルゴノーツの自称お嬢様。そこまで理解しているのなら、電話など寄越してくるな。全く持って予想と行動が矛盾している。それとも、おれが忙しいと解ってて邪魔をしに来たのか」
『いいえ?貴方に、とっておきの情報をお教えしておこうと思い、お電話致しましたが、何か?』
────おれの性に合わん。おれはこの女が相当いけ好かないからか、中々に腹が立っている所在だ。
はぁ……と心の底からこれ見よがしな溜め息をつく。
「結構だ。情報については困ってない。お前の助けを借りたところで、足手まといにしかならんだろう」
『へぇ、それでは、聖杯戦争が二つ開催されていることはご存じで?』
「何だと………?」
馬鹿な。聖杯戦争が二つ同時?あり得ない。そんなこと、断じてない。おれはここに聖杯を顕現させ、ここで聖杯戦争を独自で開いて………
「まさか、」
『はい、貴方がこの地に聖杯を顕現させ、聖杯戦争を開いたものの、貴方は、この地に聖杯が顕現したのを確認してから聖杯戦争を開催した。では、その聖杯は、もともと、何故顕現したのでしょうか?』
リカルドが問い詰めてくる。…………それは、
「おれが開いた聖杯戦争の裏で、本当の聖杯戦争が開かれていたのか…………」
『えぇ。貴方は、最初から私達が争う聖杯を巡って、あとから何でもないただの殺し合いを開催しただけです。お陰様で、こちらも随分と迷惑を被りました。【こちら側】のランサーのマスターが、【そちら側】のライダーのマスターと接触したそうですわ』
ケイアス・ヨルムンガンド・ユグドミレニア…………ヤツはあちら側の聖杯戦争に参加していたのか。となると、こちらには、また別のランサーのマスターがいる………
「くそ、こんがらがる…………ややこしいことも起きたもんだ。【そちら側】のライダーのマスターと言ったな、つまり、そちら側の聖杯戦争にも、ライダーがいるわけだな?」
『えぇ。まぁ、こちらも忙しいので、これで失礼しますわ。そちらもそちらで、せいぜい無駄な殺し合いを、楽しんでくださいませ』
電話は切られてしまった。畜生、こうなれば、おれも強行手段でいく。そっちがその気なら、こちらも全力で行く。
「いいだろう、宣戦布告として受け取ろうか。正式聖杯戦争と非正式聖杯戦争の、全面聖杯戦争といこうか…………!!!」
◆ ◆ ◆
《ライダー陣営》
「わー!!お姉ちゃんーーー!!!」
「わー!!アンザスーーーーー!!!!」
さて、オレのマスターと、その姉がなんか抱き合ってキャッキャウフフとはしゃいでいる。同じキャラ、似た見た目、同じ性格………
「地獄か、ここは」
「いや、どちらかといえば、
なるほど、あの姉あってこの妹あり、か。だが、奇跡的に、あっちのサーヴァントは中々にいいやつだったので、すぐさまオレたちは仲良くなれた。
「オマエ、ライダークラスなのは本当なのか?」
「あぁ。僕もライダーだ。マスターのお世話が大変だね、お互い」
「あぁ………その通りだ」
どうやら、彼もオレと同じライダークラスのサーヴァントで、本当の聖杯戦争に参加しているサーヴァントだそう。
「一度に二つ聖杯戦争が開かれるとか、どんな状況だ。しかも、オレたち全員、互いに戦意がないし」
「まぁ、僕も、この状況じゃあ闘う気がしないな」
だよね。そりゃあ、やりづらいわな。闘いつったって、空気感ってのがあるからな。
「さって!お散歩がてら、サーヴァント倒しに行ってくるね!」
そう言ってエインス、オレじゃない方のライダーのマスターは教会の外へと出ていった。
「行ってらっしゃ~い」
アンザスがそれを見送る。
「オマエは行かないのか?」
「あぁ。まぁ、念のため後ろはつけておくよ。あーいう風には言ってるけどエインスがサーヴァントと闘う姿は見たことがない。彼女が相手するのは、ぼーっとしてる魔術師か、女だからって侮っている男ぐらいだよ。サーヴァントぐらい余裕で殺せる怪力屋なのに、勿体無いよね、彼女」
なんだそれは。怪力屋つったって、サーヴァントを殺せるぐらい?素手でサーヴァントを殺すっていうのか?
「そうだった、コイツら、人外姉妹なんだった」
「お姉ちゃんはどのサーヴァントと闘うのでしょうね?」
アンザスが素朴な疑問を口にする。
「なぁに、彼女のことだよ。きっとセイバークラスのサーヴァントを相手にするんじゃないかな?さっき、ここへ来る途中、和服の青年に出会ってるからね」
◆ ◆ ◆
《セイバー陣営》
麗花との会議を終わらせて、取りあえず家に帰ったら、セイバーがいた。わたしより先回りして家に着いていたのだろう。
「なに、アンタ、どういう風の吹きまわし?いつになくお洒落に着飾っちゃって」
「なんでぃ、いつも洒落てねぇみてぇな言い方しやがって。俺もな、服装にゃ気ぃ配ってんだよ」
「いや、にしたってよ」
普段のセイバーとは思えない着飾りだった。
藍色の髪に被った平らな三度笠と炭のような黒い首巻きは相変わらずだが、着てる服が違う。いつもは臙脂色の紬に柿色の羽織を肩口から下げているのに、今日は、着物は白く、黒袴まで履いちゃって、さらに浅葱色の上着を羽織っている。しかも、その上着はちゃんと袖を通してる。
「なに、デートにでも行くの?そんなお洒落して」
「でぇと?」
「あーはいはい。その、友達とお出かけとか?」
「そうなんだよ。さっき偶然にも良い女に誘われてな、飯食うことになっただろ?アレさ」
あぁ、そういえばそんなこともあったかな………麗花の屋敷に行く途中、薄手のシャツにパーカーを着た、瑠璃色の髪の女性に出会って、セイバーがご飯に誘われてた。
「それで、そんな格好してるんだ」
「そーいうこった。まぁ、これが俺の本来の姿なんだがな。いつも着てるのは仕事ん時に着てるやつでな、アレで刀打ったりしてたんだよ。あっちのほうが動きやすいしな。んで、こっちはできた刀を届けに行ったり、普通に外出歩く時に着てるやつなんだ」
「なんか、新撰組みたいね」
「あれとはまた別さ。俺ぁ新撰組となんざなんの関わりもねぇよ。あれだろ、佐々木只三郎とか、沖田総司のやつだろ?」
「いや、佐々木只三郎は見廻組なんだけど…………まぁ、そーいうこと。浅葱色の羽織っていったら、新撰組の一択でしょう?」
「案外歴史通だな、ギンコ。感心したぜ」
別に、これぐらいは一般常識だと思うけど。
「他のサーヴァントの真名とか、案外わかってるんじゃないか?」
「今のところはね」
そう、今のところは、会っているサーヴァントの真名はほぼ全てわかった。知識でだけど。
麗花のアーチャーは、セイバーも真名がわかっているみたいだし。わたしもだいたいわかっている。セイバー曰く、十束剣と神剣を持っていると聞いているので、まぁ、日本神話にでてくるアイツだろう。
そして、晴燕寺先輩のアーチャー。あれも、モンゴル系のサーヴァントだろう。毒矢を持ち、撤退するときに乗っていた馬は、足の動かす順番から、間違いなくモンゴル馬だと推測できる。鎧や軍刀など、持っている武装も、蒙古襲来絵巻に描かれていたモンゴル兵そっくり。爆弾を使えるかどうかは不明だが、間違いなくモンゴルの国号が元に変わる前の話の英霊だ。そんな中で、アーチャーという強力なクラスで顕現するだろうサーヴァントは、おそらく一人だけだ。
「さてと、俺はそろそろ行ってくるぜ」
「うん、行ってらっしゃい」
そうして、セイバーが家を出ていった。部屋は私一人になる。へたへたと床に座り込む。
「あぁもう!絶対罠じゃんあんなの!」
あの女性、ゼッタイにマスターだ。じゃないとおかしい。辻褄が合わなくなる。一般人が、セイバーなんて、あんなおかしな人間に食らいつくわけがないもん。荒手の騙し討ちだ。セイバーのことだ。本人も解っているのに、行ってしまった。ケリを付けようとしてるのか?だったらそれはそれでまずい。とにかく、セイバーの後を追わないと。今日の傷が痛むところだけど、言ってる場合か。押入を久しぶりに漁ってみる。
「まったく、なんであんなヤツの為にこれを久しぶりに出さなきゃいけないのよ………!!」
押入から出てきたのは、お馴染み、薙刀だ。うちの横にある道場の片付けをしているうちにしまっていたやつだ。木製の頼りないものとはいえ、倉庫の奥から真剣を取り出すのも時間の無駄だ。今回はこれで我慢する。薙刀を持って、取りあえず見つけた適当な袋に入れて背中に背負い、そのまま私はセイバーを追って家を出た。
◇ ◇ ◇
用語紹介【正式聖杯戦争と非正式聖杯戦争】
此度の聖杯戦争は蝦碑市にて顕現した聖杯をめぐった戦い。バーサーカーのマスター、アルケード・エンケラドゥスが開催した聖杯戦争となる。だが、これはアルケードが勝手に開いてしまったものであり、アルケードが聖杯を呼び寄せたように見えて、本当はアルケードの開いたものとはまた別の聖杯戦争、正式聖杯戦争が開かれていた。正式聖杯戦争は、蝦碑市で顕現した聖杯を求めた正当な闘いであるが、アルケードの開催した非正式聖杯戦争の場合は、勝利したマスターであろうと、正式ではないため、聖杯を求めるだけの権利が与えられない、聖杯のシステムをハッキングしただけの実質ただの意味のない殺し合いである。
正式聖杯戦争にも、非公式聖杯戦争にもサーヴァントは7騎存在しており、聖杯戦争の種類によって、正式サーヴァント、非正式サーヴァントに分けられる。
アルケードは二種類の聖杯戦争の存在を確認し、自身の聖杯戦争を正当なものとしようと、非正式聖杯戦争を正式聖杯戦争に繋げてしまい、全14騎による全面聖杯戦争となってしまう。これが、今回の聖杯戦争に波乱を巻き起こすこととなる。
いつも見てくださっている方、ありがとうございます!マジカル赤褐色です!
タイトル、かつて自作した聖杯戦争、とありますが、実は作ってあるのはここまでなんです笑笑ついに終わっちゃいました。てなわけでこれにて完。皆様今までありがとうございました………とはしたくない。笑笑やっぱり自分でも続きを書きたいです。なんで、ここから続きは作っていきたいと思います。設定だけは残っているんで、あとは文章だけ書けば……。タイトルはもちろん引き続き「かつて自作した聖杯戦争」でいきたいと思っております。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!それでは、次回もお楽しみに!