《テンプル 6階》
「舐めるなぁぁぁぁ!!!!」
アーチャーが再度疾走する。三度目の疾走。その速度と鋭さは、先程の二回とは比べ物にならない。一瞬で間合いを詰め、遅くも反応できた、あのエインスの拳を弾き返し、勢い任せに全身全霊の力で吹き飛ばした。
「きゃあっ!?」
流石のエインスも驚きを隠すこともできず、遂に初めて、エインスは一撃を受けた。テンプルの壁を突き破り、先程の戦闘していたビルまで吹っ飛んだ。
エインスの破壊力も桁違いだが、今回のもなかなかだ。エインスは呪いの力、すなわち、ある種の魔術的概念による力だ。しかし、今のは違う。アーチャーは何の小細工もなし、自身の筋力だけでエインスのような破壊を実現させた。
アーチャーは吹っ飛ばしたエインスを追いかけて、エインスの破った壁の孔から外に出る。罠にかかった獲物を追いかける狩人のように。
《テンプル 入口前広場》
「おぉら!!」
「ふっ─────!」
「畜生、何回目だこの…………!!」
テンプル入口ではセイバーとライダーの闘いが行われていた。
ライダーはセイバーから距離を取って、また接近する。先程から、この状況の繰り返しだ。
「ちぇっ、腰抜けがよォ。騎士なんだったら引いたりしねぇで、真っ向からかかってこいよ!!」
セイバーは挑発のつもりで消極的な立ち回りをするライダーを煽る。するとライダーはすぐさま剣を鞘に仕舞って、頭を下げた。
「それは失礼した。君の誇りを傷つけてしまったことを謝ろう。それでは、全力でいかせてもらう」
ライダーは背中を下げたまま顔を上げ、レイピアを目を疑う速度で構えて、それを真上、虚空に伸ばす。
「………………?」
セイバーにはこの行動の意図がわからない。セイバーにはスキルとして、刀剣審美があるが、ライダーの剣の性能からして、ここからとんでもない一撃が出る風には見えない。
「────
言って。ライダーはすぐさま剣を振り下ろした(レイピアのため、正確には突き出した)。
「なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
セイバー、間一髪の回避。
「どうなってやがる、なんでそんな針みてぇなナマクラから炎が出るんだよ!!」
セイバーの驚愕も間違いない。何せ、セイバーとライダーの距離は40メートルは離れている。その距離でさえ、攻撃が届いたのだ。しかも、その攻撃は、ライダーのレイピアから放たれた真っ赤な炎によるもの。
セイバーも幾つも刀を造ってきた職人だ。常識的に考えて、まさか刃から炎が出るとは思わないだろう。
「柄についている帯の色が、白から赤に変わっていやがるな。そりゃあ別の剣ってことか…………!」
「あぁ。三銃士伝説の挿絵を知っているかい。アレには、三銃士の仲間、アトス、ポルトス、アラミスの三人と、僕が描かれている。そして、僕はその中で一番端で、四名の剣を手に握っている。これが指す意味はただひとつ。僕たちの
それこそが、ライダーの宝具、「
「さぁ、続きを始めるんだろう?」
「あぁ。剣についてじゃあ、そんなナマクラでは俺の刀に敵わねぇぜ?俺の刀は世界最高だ。世界にあるどんな剣も、俺の刀には敵わねぇ。おら行くぞ、小僧──!!」
今度はセイバーが自ら距離を詰めていく。
「───
今度はリボンの青い剣がライダーの手に現れる。その剣の切っ先から絶対零度を伴う氷が放たれる。
セイバーも自分の刀に力を込めて、投げつける。
回転しながら飛んでいく刀とそれを迎い討つ氷。刀は氷を難なく通り過ぎて、ライダーの首筋に炸裂する。
(────取った!!)
セイバーは勝利を確信する。これが投げた刀1本だけだったら避けられていた。だが、セイバーは既にライダーとの距離を詰めきっている。ここで投げた刀を避けられても、セイバーの追撃がある以上、先程のように回避はできない。「回避」は、「今の」攻撃を躱すためのものであって、「先の」攻撃に対処するための行動ではない。それは「回避行動」であり、回避とは言わない。ライダーの取った行動は回避。先の行動に対処できない。無論、ここで回避行動の方を取っていれば、先にセイバーが投げた刀に当たっていたのだから、この選択が正解なのだが。
セイバーがここで勝利を確信するのは当然だ。サーヴァントにも、人間にも、獣にも二段階の攻撃を回避することはできない。一度に二度の攻撃は回避できない。かの有名な剣士、佐々木小次郎の「燕返し」。アレも、同時の攻撃だ。だからアレも回避できない魔剣と呼ばれたのだ。
今回は、同時ではないが、間違いなく二連撃。どのみちライダーに回避する術はないだろう。
だが、
「はぁ────!?」
ライダーはなんと、回避も回避行動も取らなかったのだ。
その代わり、「防いだ」。左肘と左脚の膝で投げつけられた刀の柄を挟み込んで止めてしまい、さらに続いたセイバーの攻撃を剣で防いでしまった。
「これが僕の
防ぐ、とは、あながち間違ってはいない。回避できないのなら、防ぐのみ。回避できない攻撃も、防ぐことならできる。なぜなら、衝撃を無効化しているだけで、攻撃自体は「受けている」からだ。英霊は山ほどいる。防げない宝具というものもあるだろう。そういったものを例外とすれば、極論すべての攻撃は避けることはできなくても防ぐことはできるのだ。それがこの男、ライダーだ。避けれない攻撃を、防ぐことでやり過ごす、研鑽された銃士の鑑。
「手前………!!」
「───
緑色のリボンの剣が姿を現す。
「まずい……!!」
吹き荒れる暴風。爆発するように炸裂した風がセイバーを弾き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁ──────!!!!」
セイバーはテンプルの広場から遥か彼方へと吹き飛ばされて、ライダーすらもその姿を見失ってしまった。
「しまった。思わず出力を間違えた。まぁ、撃退できたなら良しとしよう。僕はエインスの守護に戻ろう」
ライダーは再度撤退し、エインスを探しに向かって行った。
◆ ◆ ◆
《街中》
「ぬぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!」
アーチャーとエインスの激闘。ここでは、流石はサーヴァント。アーチャーが優勢な状況を保っていた。
「困ったわね…………」
アーチャーの勢いに気圧されたエインスの白い額にはとうとう、冷や汗が滲み始めていた。だが、エインスの苦労はこれに終わらない。
「一旦物陰に隠れてチャンスを……!!」
アーチャーの矢をよけて、路地裏に身を潜める。人間とは思えない高速移動だった。エインスが息を潜める中、アーチャーがエインスを詮索してどこかへ飛んでいく。
「ふぅ、お馬鹿さん」
安心しきる怪力。
「ええ。あんたがね!!」
その横からエインスにさらなる悲劇襲来。燃え盛る人間の拳がエインスの顔面を直撃した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エインスは攻撃力こそサーヴァントに匹敵するが、その耐久性の低さは女のそれの平均並み。寧ろ、細いだけあって、普通の女性よりも脆いくらいだ。今の一撃で顔から流血するのは当たり前だった。
近くの自転車置き場まで吹っ飛び、実に10台の自転車を蹴散らして転がる。
「うちのアーチャーがお世話になっているわね、お馬鹿さん」
そこにいたのはアーチャーのマスター、千藤麗花だった。
「痛い………!!わたしのご尊顔を汚してくれたわね…………困っちゃった」
「もとからそんな顔でしょうが、今さら火傷と流血程度でブスになんかならないわよブス」
「もう怒っちゃうわ。わたしのご尊顔の侮辱はアンザスのご尊顔の侮辱よ。妹をバカにする人は許せないわ!!」
エインスは大ジャンプでビルの屋上に飛び上がって、麗花から逃げる。
ビルの屋上を次々と飛びついで、どんどん距離を離していく。
「逃がさん!!!」
「!?」
そこにアーチャーが追い付いてきた。エインスの倍以上の速さでエインスを追いかける。
「くっ………!」
屋上から全力の跳躍。勢いよく空中に爆ぜたエインス。それを、
「貰ったぞ!」
一閃の矢がエインスの左脚を穿つ。驚きだろう。500メートルも離れた場所から、ピンポイントでエインスの膝裏を狙い、命中させたのだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
エインスはこれまで以上の苦悶を上げながら落下していく。最悪なことに、よりにもよってビルとビルの間を跳んでいたところだった。ビルの高さは7階分。エインスといえど、年頃の若い女の耐久力。落下すれば死亡するだろう。
「ふん、やはり所詮は少女。如何なる力強さといえど、その脆さは折紙だな」
アーチャーは勝ち誇って、弓をおろす。一時の激昂も終了を迎え、宝具「神世の荒くれ者」の効果が終了した。
だが、エインスも黙ってはいられない。いや、エインスではない。この状況に陥ったところとして、エインスがやられたとなれば、黙ってはいられない者がどこかにいるのだ。さぁ、来るだろう。エインスにとって、予想外の乱入となったアーチャー。だが、全て、裏には裏をかく術がある。何事も、勝って終わりではない。大事なのはその後。後始末こそが、勝利した者への最大の試練なのだ──────!!!
「おねぇぇちゃぁぁぁぁぁん!!!!」
ビルの下から、とてつもない叫びが聞こえてくる。アーチャーは興味を持って振り向いてしまった。
────そして、見てしまった。
「よくも………お姉ちゃんを………!!!」
「アンザス、アイツは………!!」
「えぇ。温泉で会ったアーチャーですね。あの時、倒しておけば、こんなことにはならなかった………」
アーチャーよりもさらに上。空高くに、一台の乗り物がある。言うまでもない。ライダーのチャリオットだ。そのライダーは、エインスのライダー、ダルタニアンではなく、エインスの妹、アンザス・マリオンの連れる、赤毛のライダーだった。
「馬鹿な…………まだ刺客がいたと言うのか…………!?」
アンザス・マリオンは、なかなか帰ってこない姉の心配をして街に来ており、そうしたらこの状況に直面していたのだ。アンザスの腕の中にはぐったりする姉のエインスが。生存を確認してアンザスは安堵しているが、それもつかの間。鬼のような形相でアーチャーを睨み付ける。
「アーチャー!!」
アーチャーの後ろから、少女が走ってくる。その顔は麗花のものだった。
「マスター!!」
アーチャーは麗花に向き直る。
「なんなの、アイツら!まさか、アイツらまで私たちの相手をしようとしているんじゃないでしょうね!?」
「さぁ……どうでしょうか、ですが、ここは危険です。この場を今すぐに離脱してください、マスター」
「逃げるのは勝手ですけど、逃げれるとは思わないでくださいね~!」
そう言って、アンザスは黒鍵を三本まとめて投擲する。
アンザスの表情はいつになく真剣だ。笑いながら怒るエインスに対して、こちらはかなり感情的になっているようだ。だが、それでもその黒鍵の投擲にブレはない。ランサーのマスター、ケイアスが見たら驚きそして頷くだろう。いくら怒りを持とうと戦士は珠に傷はつけない。この極限の感情を持ちつつ尚その投擲を正確に繰り出してこそ強き戦士だ。
速き光の矢の如く空中を我が物顔で横切っていく黒鍵。その速度と射撃の正確性はアーチャークラスのサーヴァントに匹敵し、それはサーヴァントにすら避けられなかった。
「うぐぁ!!」
アーチャーの脚に三本の黒鍵のうち二本が突き刺さる。これが刺し傷ならよかったのだがそれで終わらぬが戦士の憤り。アンザスの投擲において、感情などによるブレは生じない。だが、アンザスにおいて、怒りはマイナスには働かないが当然プラスには働く。さっきまで宝具で性能が上がっていたアーチャーのように。怒りはモノの根本的な性能を引き上げる力を秘めている。怒りによるアンザスのより強くなった投擲はアーチャーにそもそもの大ダメージを与えたが、それに留まらず、アーチャーに刺さった黒鍵がさらなる
黒鍵が刺さったアーチャーの脚。それが灰色に変色し、石のように固まった。否、石になってしまった。
「これは……!」
「土葬式典ですよ」
黒鍵は投擲武具や概念的聖痕ダメージとしても十分な威力を発揮するが、それだけではない。魔力を流せば、黒鍵に魔術的効果を付与することも可能。例えば、このように、相手を石化させる土葬式典や相手を焼き尽くす火葬式典など、幅広い応用が可能である。
さて、脚を固められたアーチャー。抜け出そうと思えば令呪の使用以外ナシ。だが、相手が、こんな大チャンスにおいて次なる一撃をわざわざ遅く繰り出す訳がない。追撃は一瞬。むしろ、こうなる前提においての行動。アンザスは黒鍵を投擲した瞬間に、ライダーに告げていた。
「ライダー、チャリオットで突進しなさい!!」
────と。
黒鍵と同じ、いや、それよりも速い速度でアーチャーへの追撃。もちろん、アンザスの指示は黒鍵を投げた後なので、到達するのは黒鍵の方が早かったが、チャリオットが続いてアーチャーに激突するまでの時間はあまり長くない。アーチャーに黒鍵が命中した時点で、激突まで一秒足らず。もはやアーチャーが確認した時点では、確認することなくアーチャーは吹っ飛ばされているだろう。さすがにチャリオット。激突して助かるのは難しい。
アーチャーが都合よく助かるには、令呪では間に合わない。つまりここでは手詰まり。アーチャーに助かる術などなく。
ここで死ぬしかなく────
「バーサーカー、行け!!!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
────横からやってきた幸運に命を救われた。
「────誰だ!?」
真っ先にその横からの刺客に気づいたのはチャリオットを運転していたアンザスのライダー。
真空を、爪が薙いだ。大空を飛ぶチャリオットが倒される。乗っていたアンザス、ライダー、エインスが宙に投げ出される。
そこには、咲き誇る白い花が一つ。白い服を纏う、白い花。金の雌しべに見える金の細い髪。
花は咲き乱れるほど美しい。満開の桜は煌びやかで、花畑いっぱいの菫もまた、麗しく、水辺に浮かぶ睡蓮も鮮やかに尽きる。だが、この花は、辺り一面の華ではなく、ただ一つだけ、我そのもの一つだけ、花は天上天下に自分のみと言わんばかりに堂々と大々的に浮かんでいる。周りに花などない。場のマスターとサーヴァントたちには、あの輝きしか目に入らない。月をバックに映る姫の影。その様子は空中浮遊どころか空中散歩。いや、月面闊歩でも可。まさに月面の餅つき兎の具現。灰色なのに
サーヴァントバーサーカー、アルクェイド・ブリュンスタッドがそこにいる。
キャラ紹介【サーヴァント-アーチャー】
須佐之男命
非正式聖杯戦争のアーチャー。一見すると可憐な世間知らずの若い娘にしか見えないが、その正体は極東の龍殺し、神世の暴れ者、スサノオ。フルネームは
いつも見てくださっている方、ありがとうございます!マジカル赤褐色でございます!
さてさて、ついに、10万文字突破致しました!おめでとう
ここまで書けたのも皆様のご協力のお陰です。読者の皆様がいなければ私はここまで書けなかったでしょう。物語自体はあまりたいしたことないですが、そこに読者と作者がいるだけで、その物語は素晴らしい一つの芸術作品となります。私の駄文を芸術へと昇華させてくれた皆さんに心から感謝を。これからも皆さんによりよい作品をお届けして行きたいと思いますので、今後ともどうぞ、このマジカル赤褐色の小説をよろしくお願いいたします!それでは、次回も、お楽しみに!!