かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

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セイバー陣営がアンザス・マリオンと対峙している一方で、アンザスのサーヴァント、ライダーはアーチャー陣営と闘いを繰り広げることになる。連続的なダメージによって魔力も体力も何もかもが限界を迎えたアーチャー。そこへ続く容赦のないライダーによる全力の攻撃。この絶対的に不利な状況に、アーチャーは生き延びることができるのか?


第二十一章 英雄の鑑

 

《蝦碑市街中》

 

「こっちも始めようぜ!アーチャー!!」

 

セイバーとアンザスが激闘を繰り広げていた一方で、ライダーは単騎でアーチャーと麗花に戦いを挑んでいた。

 

「望むところだ!!」

 

アーチャーがライダーに向けて弓を構える。アーチャーとライダーの距離は40メートル。弓で敏捷性の高いライダークラスに対抗するにはやや不利な距離だ。

ライダーが槍を持ってチャリオットに再度乗り込む。

この戦いは、アーチャーが圧倒的に不利。アーチャーに撃てる矢は一発だけだろう。なぜなら、アーチャーが二発目をつがえているタイミングで、すでにライダーのチャリオットはアーチャーに激突しているに違いないからだ。

アーチャーもそれはよく分かっていた。だが、近づいて剣で切る、それはそれで自殺行為だ。アーチャーに取れる選択肢はこれだけ。ちなみに言うと、背後には麗花もいる。アーチャーがここでチャリオットを止めない限り、麗花もチャリオットに撥ね飛ばされる。止める、というのは、とんでもなく難易度の高いことだ。仮にも上に乗るのは戦場を駆った強き戦士。高速で動くチャリオットに乗るそれを弓で射るのも至難の業だと言うのに、止めるなんて行為は不可能だ。時速100kmを超える速度で走る車に乗っているドライバーを射殺したところで、一瞬で車が止められるか?そんな訳ない。制動距離がある。チャリオットの制動距離がどれほどかは知れたことではないが、麗花が巻き込まれる運命は避けられないのは確か。チャリオットを止めることこそアーチャー、彼女の使命。あくまでもマスターを護ることがサーヴァントにとっての第一だ。

だから、策を練る。アーチャーはこの状況における最善の策を頭に入れる。放てる弓は一発。アーチャーの技術的に、一度に放てる矢は三本まで。これでチャリオットを止めながらライダーを倒すのは不可能だ。

生還してなお、マスターである麗花を護るなんて夢物語だ────

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

だが、それは、(アーチャー)の目的ではない。私が倒すべき相手などいない。私がするべきこと、それは主を護ること。チャリオットを止めるために、マスターを護るために()を費やす。

攻撃は一度だけ。必要なのは、チャリオットを止めることだけ。そこからのことはどうでもいい。チャリオットを止めれば、ライダーを討ち取る機会を失う。そうなれば、私はライダーに倒されるだろう。そうなれば、他のマスターたちは、英霊スサノオを、マスターを勝利に導くこともできなかった役立たずの駒として語り次ぐだろう。だが、私はそれでもよい。英霊としての誇りなどいらない。「【彼】と共に過ごしたい」という聖杯に掛ける願いもいらない。聖杯戦争勝者としての名声もいらない。

ここで、マスターを護る、その使命を全うできたのなら、此に優る結果などない。ここから先は絶対死の世界。英霊スサノオがどうあっても生き延びることができない、最期の二秒。

構わない。それが、成功したのなら、サーヴァントとしての末路として、英雄としての最期として、不足はない。

────マスターさえ護れたのなら、ついでにセントーを救えたのなら、それで本望だ。

 

 

「────ハァァッ!!!」

 

全身全霊をかけた跳躍。そして空中についた瞬間に、一斉に三本の弓を構える。

十階建てビル屋上から始まる、8メートルを超える私の跳躍に0.4秒遅れてライダーのチャリオットが唸りを上げて突進を開始する動作に入る。

加速度、時速70キロ毎秒。全ては二秒で決着が付く。私が時間切れ(あくまでもその瞬間に合否が決まる)になった時点で、ライダーのチャリオットは140キロを超える速度を発揮している。まさかチャリオットが等加速度直線運動とは言いきれない。やはりこの地球上で発生する事象である以上、誤差というものが発生する。

 

───そのための三本矢。多生の時差による結果の変動は考慮に入れない。狙いさえ的確であれば、チャリオットを止めることはできる。

 

問題はその狙いの瞬間。ライダーのチャリオットは真っ直ぐ進んでいくだろう。私がその場で弓を射ると考えたからだ。確かに跳躍をしていなければ、風圧で矢が全部駄目になるところだった。

 

────1秒経過。

 

ライダーが空を見上げ、私の姿を確認する。流石だ。1秒で消えた相手を詮索するなど、人間の領域を優に上回る洞察力。英雄としての力を目の当たりにさせてもらった。

敬意を払おう。その英雄の鑑に。だが、1秒の詮索では遅い。この時点で私の勝利(せいこう)確率は8割を越えた。残り二割の失敗(オーバー)は、私が狙いを外した場合。

二割?二割で私が矢を外すと?そんな筈はない。仮に二割の確率で外すとするならばその二割を強制的に零に持っていく。必殺必中の矢に引き上げる。

八割の確率、五回に四回の確率にすべての集中力と体力と魔力を費やす。この矢は必殺必中でなくてはならない。チャリオットを止めるために、一撃で仕留められない限り、チャリオットは発進してしまう。発進した瞬間に敗北確定だ。マスターは確実にチャリオットに撥ね飛ばされる。

 

「─────ふぅ」

 

────だから。走り出す前に仕留める。

 

「─────当たれ…………!!!!」

 

矢をつがえていた指を離す。

狙いに全てをかけた一撃。三本の矢は流星となって、ライダーのチャリオットを引く、二頭の馬の脳天を目掛けて降り注ぐ。

 

「───しまった………!?」

 

ライダーの焦りが全面的に出てくる。ライダーもまさか、私がやられてまでチャリオットを止めることだけを考えていたとは思わなかっただろう。ライダーは私を視認した時点で、自身の身体に降り注ぐ矢に対抗しようと対応を待っていた筈だ。そのため、チャリオットを制御する余力と余韻は残っていない。今更あわてて操作したところで、どうにもならない。

ライダーはこの瞬間、大きく迷った筈だ。チャリオットを制御するか、それとも防御体勢を整え続けるか。一般の人間と英霊なら、すぐにチャリオットを慌てて操作するだろう。だが、

 

「───あぁ。受けて立つ!!!」

 

ライダーはチャリオットに対する対応を拒絶した。それは、どうあっても対応しきれないという判断もあるが、自身に挑もうとする挑戦者(わたし)に対する敬意も籠っており、何より、この場でみすぼらしい姿を見せられないという、英雄としての誇り、体面を優先した行動だった。

 

────まったく。これでは私の敗北だ。

チャリオットを止めればあとはどうでもいいという浅はかな考えを持っていた私とは対照的だ。

ひとつの任務(こと)に命を掛けて固執する私と、命を掛けてでも、自分が英雄であることを護ろうとする彼。

その在り方は真逆であり、「命を掛ける」意味も異なる。

まさに雑兵と英雄の構図だ。なんて、勇ましい。なんて、美しい。

 

────これが、英雄。

 

私はこれ以降、今回の聖杯戦争でどのようなサーヴァントと会っても、彼ほどの者には会うことはないだろう。そして、今の彼よりも感心するものが見つかることもないだろう───

 

ライダーも私も、この先1秒については対応を放棄している。つまり、本当の闘いはここから。

 

───二秒。

 

私の放った矢は見事、チャリオットを引く馬二頭の脳天を撃ち抜き、チャリオットは動くことができなくなった。これでマスターの安全を確保した。

私の勝ちだ。これ以降の対応は必要ない。あとは待つだけだ。【その瞬間】を───

 

「アーチャー!!!」

 

槍を持ったライダーがチャリオットからいち早く飛び降りて、私に襲いかかる。

その手には、花のような円環を成す盾が握られていた。

流石だ。これだけ追い込まれても一歩も退くことがないとは。まったく……彼には敵わない。

だが、忘れてはならない。これは「聖杯戦争」であるということを。そう、私は弓を射った以降は待つだけでよかった。それは、私が闘うことを放棄したという意味ではない。私が待つのは、その先の話。

勝って終わりではない。大事なのはその後。その後始末制するもの戦いを制す。私は確かにこれ以上ないほどの火事場。だが、奇跡の力でそれは逃げることができる。そう、最後に勝ち負けを左右するのは、結局は奇跡である。

その奇跡を起こすことができるのが、【マスター】である。そう、全てはこの一瞬のため。奇跡を起こす切り札であるマスターを残すことが、この戦いの勝敗を左右していた。

 

「アーチャー!!令呪を使うわ!!弓を射って!!」

 

マスターが令呪を解放する。そう、奇跡が勝負を左右するのであれば、勝敗を左右するのは奇跡を起こす力を秘める令呪、それを持つマスターである。

体力も魔力も何もかもが尽きた私に、令呪による命令が発動し、強制的に、【もう一発】の攻撃の準備が始まる。もう一発だけ許可された攻撃。私の体力も魔力も尽きたままだ。だが、令呪の命令となれば話は違う。強制的に動くのだから、そこに余力など関係ない。そして、奇跡を起こすマスターがもう一人────

 

(アーチャー!!ライダーの脇腹を狙うんだ、それがライダー、【英霊アイアス】に唯一攻撃を与えられる部位だ!!)

 

遠く離れたビルから、セントーの念話が私に届く。脇腹か。セントーの命令、そして、マスターの令呪が重なった今、アーチャーは確実にライダーの脇腹を穿つ。令呪の奇跡に対抗するには令呪が必要だ。だが、相手には現在マスターが不在だ。この状況を把握していなければ、回避は不可能だ。

 

「なに……………!?」

 

さっきのチャリオットへの攻撃とは比べ物にならない力で放たれた私の矢が、ライダーの脇腹を貫いた。

そういえば────

 

 

《会議中》

 

「そういや、アーチャー、こいつやるよ」

 

そう言って、セイバーはわたしに矢を三本ほど寄越してきた。

 

「なんだこれは、要らん」

 

「毒矢。手前持ってないだろうが。万一のために持っておきな、昼間に会ったもう一人のアーチャーの野郎が俺に撃って落として行ったやつだ」

 

 

 

 

 

「──────ハ」

 

まったく、まさか、ヤツのお節介に救われることになるとはな。

 

「く────ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

勢いのままに吹き飛ばされたライダーはビルから落下する。

 

「逃がすか───!!」

 

剣を構えて、ライダーを追う。ライダーに続いてビルから飛び降りて、ライダーに肉薄する。ライダーは今の攻撃でほとんどの行動を封じられている。この一瞬の攻撃を避ける術はない。

私の刀が彼の首を通るその瞬間。

 

「ライダー!!消えなさい!!」

 

───と声がした。

 

その言葉の通り、ライダーはこの世から消滅した。いや、霊体と化したのか。今の消滅速度………相手のマスターが令呪を使ったのか。

ならば、相手は撤退したという解釈で良いだろう。

地面に着地する。そこで、ほんとうに私の体は限界を迎えた。先ほどからのダメージ、全力をかけた攻撃による体力と魔力の大量消費。限界を越えた上での今の攻撃。しばらく行動は不能だろう。近くの川から派手な音がした。みていると、川の中からセイバーのマスター、銀子が出てきた。セイバーが銀子に駆け寄っている様子を見て、私は安堵した。そこで、気が抜けてしまった。気を引き締めることで辛うじて保っていた意識が断線する。

 

「アーチャー!!」

 

ビルの上からマスターの声がする。

 

「アーチャー!大丈夫?」

 

遠くから聞こえるマスターの声とはまた別で、近くから青年の声がする。

 

「セントー……ですか………」

 

「よかった、無事だったんだね、ライダーは?」

 

「撃退に……成功し……まし……た……」

 

「よかった……」

 

セントーが安心した表情(えがお)を見せる。それで、私は眠ることを自身に許可した。

 

「すみません、もう、これで………」

 

「うん、大丈夫だよ、ありがとうアーチャー。もう、ゆっくり休んでくれていいからね」

 

それが、私が今夜聴いた最後の声だった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

キャラ紹介 【サーヴァント-ライダー】

 

アイアス

 

非正式聖杯戦争のライダー。

マスターであるアンザスにとことん振り回される赤毛の心優しいツッコミサーヴァント。表向きは街に良く馴染む現代の青年だが、サーヴァントとしては此度の聖杯戦争随一の大英雄とされており、その正体はギリシャにおいてアキレウスに次ぐ大英雄と謳われたアイアス、俗に言う大アイアス。

トロイア戦争において敵の大軍を一掃し、さらに大英雄ヘクトールの投擲を、七つの円環を持つ盾で守りきり、ヘクトールと渡り合う程の、ギリシャ最強の英雄の一人。

人並み外れた巨体の持ち主でもあり、その巨体はライダークラスの身軽さと引き換えに失ってしまったが、その巨体から繰り出される怪力はスキルなどによって未だ形を残し、本来の姿に劣らない程の力を持つ。

自身の最大の宝具である盾は、あのヘクトールの投擲やグラウコスの槍などを防いだ伝説から、とりわけ投擲及び槍に対して絶対的な防御力を誇る、全英霊最硬の盾。ライダークラスとして持つ二頭の馬が引く高速のチャリオットとその怪力、アキレウスに並ぶとされた槍の技量、そしてその最強の盾を構えて、あらゆる英霊を圧倒する。

また、幼い頃、ヘラクレスが持つネメアの獅子の毛皮に包まれたことによって、不死も得ているため、ほぼすべての攻撃が通用しない。だが、唯一の例外として、矢筒をつけていた脇腹のみ不死の恩恵がない。




いつも見てくださっている方、ありがとうございます!
マジカル赤褐色です。今までで初めてだと思いますね、こうやって一瞬の出来事を膨大な文章に起こすというのは。マジカル赤褐色がやったことのない、新たなチャレンジとなりましたが、いかがだったでしょうか。だんだん私の作品も伸びてくるような片鱗も見えてきているため、ここからは真面目な低レベル作家として、いろいろな文章にチャレンジしていきたいと思っています。この作品の物語はもちろん、私自身の成長についても、是非ともご覧ください。それでは、次回もお楽しみに!
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