かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

30 / 82
激しい激闘を終え、聖杯戦争二日目が終わりを迎える。
そんな中、眠りについていた千藤兄妹。彼らは、自身のサーヴァント、アーチャーの夢を見る。
そこは草木の生い茂る草原で、そこに、怪物がいた。
そして、その夢の中にいる怪物の前に、兄妹がよく見覚えのある人影が現れる。


第二十四章 龍の夢

 

その日の戦いを終えて、僕たちは眠りに就いていた。いろいろあったよ。聖杯戦争で生き残ることの厳しさを思い知った。

 

 

────これは、その日の夢の物語。

 

 

「ここは………」

 

目が覚めたら、僕は、草が生い茂る湿原の中に居た。

 

「夢……か……?」

 

当たりは真っ暗。夜空を観れば、幾億の星が煌めき、月も浮かんでいる。雲は………ない。夜だから暗いが、いちおう空は晴れ渡っているようだ。

 

「………簡単には目覚めさせてくれない、かな」

 

サーヴァントと居ると、夢を見るんだってことを麗花に教わった。これは、アーチャーにまつわる夢なのだろうか。

アーチャーは不思議な人物だ。まぁ、確かにアーチャーはサーヴァントだから不思議どころの騒ぎではないのだけれど。

サーヴァントは史実や逸話に登場した英霊をこの世に実体化させたもの。アーチャーがどんな英雄だったのか、時間があればその都度よく考えていた。だが、その正体は一向につかめなかった。この夢の何処かにアーチャーの姿を知る手がかりがあるのだろうか。

 

「──────」

 

湿原の中を歩いていく。背丈の高い草が、僕の脚を絡めて進むことを許さない。

 

「アーチャー、か……」

 

アーチャーは変わった()だ。紺色の浴衣がよく似合う藤色の髪の女の子で、背中まで伸びたポニーテールが特徴の、THE和風女子って感じだ。それ以上に、髪と同じ藤色の狼みたいな耳が、顔についている耳とは別で頭にもあるという変な特徴があるが。耳が四つってどういうことだろう。まぁ、あまり気にしてはならない。だが気になるものは気になるから昨日、頭についた狼みたいなふさふさの耳を触ってみたら顔を真っ赤にしたアーチャーにビンタされた。あれはかなり痛かった。

アーチャーは麗花の前ではうやうやしくしており、怖いくらいに忠誠心を剥き出しにして、召し使い?騎士?のように振る舞っている。確かに召し使いって英語でサーヴァントだけど。だが、相手が僕たちになれば一変、少女らしさを極限まで解放している。銀子ちゃんに対しては仲の良い友人のように振る舞い、セイバーにはぶちギレまくる。だが、僕はなんだか、麗花ともその二人とも別な扱いを受けている。唯一の男子だから?いや、セイバーも若い男性(確かに頭の中は晩年のお爺さんだが)だ。僕が魔術の知識がないから、一般人のように扱っているのかな。アーチャーは僕の前では他とは比べ物にならないくらいに心を開いている。普段は言いそうもないコトを言ってきたり、コミュニケーションが苦手なアーチャーなのに、自分から僕に話しかけてきたり。麗花の前ではとても見せられないような姿を見せている。日頃のストレスが影響しているのか、僕に甘えてきたり、過剰なほどに僕に接触を図ってきたりと、随分と忙しい()なのだ。

まぁ、アーチャーがリラックスしてくれるのが一番だから、僕はそれで嬉しいのだけど、二人の時間の間だけこんな僕に心を許してくれるアーチャーに、僕はゆっくりと惹かれていた。思えば、アーチャーは年頃の女の子らしい、扱いに困る性格もある。それはいい。なんなら麗花もアレだし。だが、最後に見てみれば、アーチャーはすごく素敵で魅力的な女の子なのだ。なぜかみんなには心を許していないが、僕の前では素直になってくれている。あれがきっと本物のアーチャーの顔なのだ。ちょっと厳しい一面もあるけど、結局は素直になれないだけで、きっと、まっすぐに生きている。人との関わりが少ないけれど、それでも彼女には本人にしかないような魅力がある。実際ああして僕に甘えてきているんだから、やっぱりアーチャーにとっても、僕には何か、他と異なるものがあるのだろう。

アーチャーに惹かれる僕も、やっぱり彼女と居ると若干固くなってしまい、素直になれない。

 

「一度、本音で話し合ってもいいかもね」

 

恥ずかしいから声に出さないと耐えられなかった。これで心の中だけで思っていたらあまりの恥ずかしさで叫び出しそうだった。

 

「何がですか、兄さん」

 

「え、」

 

向こうから、麗花がやってきた。あれ、麗花も同じ夢を見ているのか。まぁ、それもそうか。彼女がアーチャーのマスターなのだから。それじゃあ、マスターでもないのに夢を見れている僕は一体………

 

「兄さん、どうしてここに………」

 

僕の目の前までやってきた麗花は僕に問い掛けてくる。

 

「僕も同じこと思ってるよ。どうして麗花がここに────」

 

すると、僕が言い終わる前、地響きが起こる。

 

「わぁっ!?」

 

「きゃぁ!」

 

二人揃って地面に尻餅をついてしまう。

 

「なんだ、地震か!?」

 

この日本らしい土地なら、日本同様、地震も多いのだろうか。

 

「兄さん、あれを見てください!」

 

麗花が湿原の奥、その彼方を指差す。

 

「───あれは………」

 

その方向には、この世にはない、大きな、モノが。

おおよそ、もとい、絶対この世にあってはならない生き物が、そこにある。その体長は、建物どころか、それを優に上回る。この湿原に建物こそないが、時々生えている木々を通るだけでなぎ倒すほどの体長はある。

蒼い体表は、大蛇のよう。その(あぎと)はワニのよう。その(くび)の数、尾の数、8本。蛇の化物、龍が、そこにある、八つの頭と尾を持つ怪物、ヤマタノオロチ。その咆哮が湿原に響き、強い風を巻き起こす。

 

「うわぁぁ………っ!!」

 

「くっ……!」

 

ひどい暴風だ。台風の中に立たされているようだ。草があり得ない角度で揺れている。あそこの木々があり得ない角度に傾いている。

その咆哮が止み、怪物はとぐろを巻いて、憩いを求めて身体を地面に預ける。ダイダラボッチという大地の怪物がいる。もはやその粋に達する神秘の化物。神世にでもでない限り、こんなモノは見れないだろう。

その龍の前に、一人の可憐な娘が居た。生け贄のように、龍の中で抱かれている。獲物にでもされているのか。龍は喜ぶように八つの長い尻尾を意味もなくぶんぶん振り回す。

 

「あれが………ヤマタノオロチ?」

 

「兄さん……!」

 

麗花がさらに向こうを指差す。その方向から、すごい速度で、一人の女の子が巨大な蛇に向かって疾走する姿が見えた。紺色の薄手の着物を着て、白い剣を手にもった、藤色のロングヘアの女の子。頭には狼のような耳が生えている。

 

「あれは………」

 

「────アーチャー………?」

 

アーチャーによく似た特徴を持つ彼女。だが、唯一、髪型が違う。髪を下ろしている。いつもの簪が刺されていない。絹のように、帯のように滑らかな髪が如何にも邪魔そうにたなびいている。

 

「────あの娘を助けようとしているのかな」

 

まぁ、当然だ。そうでもなければあの蛇に近寄る訳がない。だが、相手は凄まじいほどの神々しさと力強さを兼ね備えた龍のような蛇の化身。ティタノボアを優に上回る大きさと体長を誇る化け物に対して、少女に勝ち目などなく、

 

「あ…………!」

 

向こうで、派手な水しぶきを上げて、少女は遠くへ吹き飛ばされる。

 

「───これは、スサノオノミコトの夢なのかな」

 

その様子に、僕は口を出さずには居られない。スサノオは男だったはず、だなんてつまらない疑問は掃き捨ておいて、アーチャーは、あの娘は、ひょっとして、生前のアーチャーなのか?

 

「あれが、ヤマタノオロチを討伐したという………あのスサノオですか?」

 

麗花はとても信じがたい目でアーチャーらしき少女を見据える。

 

「あ、」

 

僕は見た。少女、アーチャーがその腕にしっかりと、蛇の生け贄にされそうになっていた女の子を抱いていたことを。

少女を守りながら、アーチャーは地面に転げる。それでもまだ尚立ち上がる。諦めることはない。この蛇を仕留めるまで、帰りはしないと心に言い聞かせている。

 

────諦めない。彼女は何があっても、止まることはない。そんな言葉を知らない。高天原を追放された神世の荒くれ者。それが、喧嘩で負けず嫌いな訳がない。アーチャーもそうだった。何があっても負けられないと。セイバーに対してきつく当たるのも納得するかもしれない。あれは、セイバーが嫌いなだけじゃない。セイバーのちょっかいに腹をたてているだけではない。あれは、彼女の単なる感情だけで構成された感情ではない。もっと、特別で、美しい感情。あんな、ちょっかい掛けであろうと、色々と面倒な男であろうと、アーチャーはセイバーに腹を立てながらも、彼に憧れていたのだ。いや、正確には負けられないと彼を常に意識していた。自分の相手は、彼であると。自分の目指すべき場所は彼の上にあると。

最初にセイバーと戦って惨敗したときから彼女の眼には彼があった。負けず嫌いな彼女にとって、相手に一撃も与えられずに惨敗するなど、これ以上ない屈辱である。

だが、その悔しさが迸るエナジーとなって彼女を突き動かす。負けず嫌いは、単に往生際が悪いだけではない。勝ち負けにしか拘らないわけではない。負けたとき、そのときの相手のより高い(いただき)を目指さんと動く、その原動力。敗北こそを成長とし、養分として、最終的な勝利を目指す、絶対勝利者ではなく、勝利を目指す、永遠の努力家。人間の忍耐と修行を繰り返す仏僧の鑑。それこそが負けず嫌いの正体であり本質。

即ち、弾かれても何度でも突撃し、海に沈められれば這い上がってくるし、防がれれば、次は防がれないようにより強い一撃を与える。そうして、うまく行かない度に、業に磨きを掛け、技を極めぬく。そうして全てが研鑽された瞬間(とき)、それは勝利に向けて我が物顔で堂々と、歩き出す。

 

───アーチャーに助けられた少女の体が光る。細い少女のその姿はさらに細く小さくなり、アーチャーの小顔よりももう一回り小さくなる。針のような形状をしたソレを、アーチャーは手に取って、髪に刺す。その姿、髪を束ねたあのポニーテール、これで完全に重なった。アーチャーのシルエットが。

 

───クシナダヒメを髪に刺し。

───フツシミタマを小手に取り。

───ヤマタノオロチをその眼に納め。

───スサノオノミコトが歩を進める。

 

その姿は、まさに極東のペルセウス。極東の龍殺しが、龍の頸に肉薄した。

 

夢はここまで。先に言うと、この瞬間に、僕は目を覚ますのだ。続きが気になるところだが、この夢はここで十分だ。なぜなら、僕は今の一瞬を見ただけで、アーチャーにまた、見惚れてしまったのだから。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

創作裏話 【アーチャー陣営製作秘話】

 

既にピンと来てる方も多いと思うが、アーチャー陣営は空の境界から着想を得たキャラを起用している。千藤幹太は黒桐幹也、千藤麗花は黒桐鮮花をモチーフにしている。名前も「幹太」と「幹也」、「麗花」と「鮮花」で、元ネタとなった人物の名前も一文字ずつ使っており、変えた部分もほとんど同じ意味の文字に置き換えている。名前や容姿だけでなく、性格や能力も参考にしており、これまででも、麗花が普通に「Azolt」と詠唱していたり、幹太が情報戦に強かったりなど、全体の五割は元ネタがある。

一方、アーチャーにも製作秘話があり、最初は千藤兄妹に便乗して、両儀式を依代とした擬似サーヴァントにする予定だったがあまりにもメンバーに変化が無さすぎたため、ボツとし、アーチャーだけは全く別のキャラとして、新しいキャラクターを設定した。一応、薄手の着物を着ている、などのように、一部、ボツ案の設定も取り込んでいる。




はい、いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。マジカル赤褐色です。今回はアーチャーメインのエピソードとなりました。個人的に、ライダー陣営も思い入れがあるキャラなんですが、アーチャーもやはり好きなキャラなんです。皆さんがどのサーヴァントを気に入っていただけたかは人それぞれだとは思いますが、私個人のお気に入りは、セイバー、非正式アーチャー、非正式ライダーなんですよ。多分この三名の陣営はかなり登場回数が多いと思います。一応キャラの登場回数のバランスは厳密な調整を行っており、出てくる連中は継続的に出しておき、散々暴れてもらったらしばらくお休み、という形を取っております。なので、ここからまだ登場していない正式サーヴァントたち、現在のキーパーソンであるキャスター陣営とそれに敵対するアサシン陣営、それから地味に忘れ去られていたランサー陣営笑 彼らの登場機会が増えることになります。まだあまり全容が明かされていないキャラたちにも濃いエピソードを与える予定でいますので、ぜひともご期待ください。
あ、セイバー陣営は主人公なので出しまくりますよ?笑笑
それでは、次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。