第二十五章 アーチャーってすごいキャラ濃いよね
《千藤邸》
朝の光が差し込む。
「う………ん」
あんまりにも眩しいから、僕こと千藤幹太はあっさり目が覚めてしまった。
「あれ」
なんで、僕のベッドの中にアーチャーが居るんだろう。ずっとすやすや眠っている。珍しい。くうくうと寝息を立てながら眠る彼女を目の前で見るのは初めてだ。
彼女の名誉のために断っておくと、彼女は僕よりも早く起きている。こんなに長い間眠っているのは珍しいことだ。
「これじゃあ、起こすのはやめておこうかな」
彼女に気づかれないようにゆっくりベッドを出ようとしていたところ、
「──────むぅ………」
アーチャーが目覚めてしまった。
「あ、ごめん、起こしちゃったかな」
「あ─────」
うわ、気まずい。無言でいられると困る。これじゃあ、誰がどうみたって僕が悪者だ。
瞬間、バタンと音がして、誰かが部屋に入ってきた。
「おはよう、手前ら!!」
入ってきたのは深くて広い三度笠。銀子ちゃんのサーヴァント、セイバーだった。
「あれ?手前ら、なにしてんだ」
「え?」
「なっ…………」
何って、そりゃ、ベッドで添い寝していただけだけど。確かに添い寝かどうかは知らないけど………
「うわぁぁぁぁぁぁ!!ウルカー!!兄貴の野郎がアーチャーと気まじぃ関係になっちまったぜー!!!」
セイバーが大騒ぎしながら、廊下を走って逃げていく。
「ちょ、」
「待て貴様ー!!!!!!!」
アーチャーがベッドから飛び降りて、セイバーを全力で追いかける。サーヴァントは寝起きでもあんなに足が速いんだ、知らなかった。
「はぁ……今朝も賑やかだね………」
「はぁ……はぁ……はぁ……見逃してしまいました」
アーチャーが息を切らして帰ってきた。そのままベッドに直行。ぱふっ、とベッドに顔を埋めて止まってしまった。
「セイバー、どうしてここにいるんだろうね、アーチャー知ってる?」
「昨日の勢いで泊まったのではないかと存じ上げます。そうだ、銀子にも挨拶に行かなければ」
アーチャーはぴょん、とベッドから降りて銀子ちゃんを探しに廊下に出ていこうとしていた。
「────────」
今朝の夢を思い出す。狼に似た耳を持つ可憐な若い女の子が、巨大な蛇の怪物と戦う夢。
あの女の子が、どうも眩しかった。今見てみれば、アーチャーのちまちました動作もなんだか少女らしくて可愛げもある。なによりその藤色の髪の毛に藤色の狼耳は反則だ。しかも紺色の浴衣なんか着ちゃって。アーチャーはいつも紺色の浴衣を着ている。日によって帯の模様や色が違うんだけど。今日は猫の肉球の模様だ。
なんだか、最近、アーチャーは寂しそうだ。いや、寂しくはないのか。疲れていそうというか、気が気でなさそうというか。
相変わらず麗花の前ではシャキッとしているアーチャーだが、最近になって僕の前ではちょっとさっきのように、行動にだらしなさが見えてくるようになってきた。別にマイナスのイメージを抱いているわけではないけど、なんだか、不安だ。
「あ、アーチャー」
だから。
「はい、どうかされましたか?」
「今日、少し出掛けないかい?」
たまには彼女にも楽しんで貰わないとね。
「──────」
「──────」
沈黙が流れる。しまった、地雷を踏んだのか?それとも、一手踏み誤ったか?どうでもいい。とにかくこの状況はかなりキツイ。気まずすぎる。誰か、この地獄から僕を助けてくれ…………
「何してるの二人とも」
「あ」
「あ」
廊下から銀子ちゃんが呼び掛けてきた。なるほど、やっぱり銀子ちゃんたち泊まっていたんだ。まぁ、それは確かに昨日の激闘もあったことだ。疲れて家には帰れなかっただろう。
「おはよう、銀子ちゃん」
「おはようございます、銀子」
「おはようございます、幹太さん、アーチャーもおはよう」
やー、感謝しないとね。銀子ちゃんに救われてしまった。危うくこの沈黙地獄で精神が擦りきれてしまうところだったよ。
《朝食後》
「さて、どうしよう、僕これから何もやることないな………」
銀子ちゃんはご飯食べ終わったら律儀にお辞儀してお家帰ってしまったし、セイバーに至っては朝アーチャーに追い回されてから姿を消してしまった。麗花も麗花で仕事があるらしく、家を出てしまった。そして朝食の後片付けを終えてしまった以上、僕の仕事はなくなってしまった。僕を唯一の社員とするあの会社(会社と呼べるのだろうか)の仕事も一段落ついてしまったし。
「さて、それじゃあ今日はオフの日ってコトでいいのかな」
居間のソファに寝っ転がる。
「何を言っているんですかセントー」
「うわぁっ!?」
不意にアーチャーの声がして起き上がった。
「アーチャー?どうしたの?その格好」
アーチャーは今朝と服装が違った。いつもの浴衣は健在だが、色が抹茶色になっている。帯も可愛い魚柄に変わってて、しかもなんとがま口ポーチをウエストバッグみたいに下げている。
「どうしたのとは何ですか、セントーが外出しようと言ってきたのではないですか」
「え?オッケーしてくれてたの?」
あのときは完璧な沈黙だったので、合否かま不明だった………アレ、オッケーだったんだ。
「当然です。セントーのお誘いなら、喜んで。それで………その………」
「うん、すごく似合ってるよ」
「はうっ!?どうしてそれが?」
顔を見ればわかる。よほど気にしているのか、自分で服をじろじろ確認していたじゃないか。
「はは……それじゃあ早速出ようか、僕、今日は何にもないから、アーチャーが心行くまで付き合ってあげられるよ」
アーチャーの手を取ろうと手を伸ばす。
「分かりました、それでは行き先はセントーに委ねます。さぁ、早く出ましょうよセントー!!」
その手が逆にアーチャーに取られて、そのまま引っ張られる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
速い、速い。行き先僕に委ねるんじゃなかったの?完全に主導権アーチャーが握っているじゃないか!?
「はぁ……」
けど、それもアリか。何だかんだって抜けまくってる僕らにはこんな自由気儘な浪漫飛行がちょうど言い。なにより…………
「セントー、早くしてくださいよー!」
こんな楽しそうなアーチャーが初めて見れたのもすごい嬉しいからね───
《街喫茶umber》
そこからというもの、僕とアーチャーは街のあちこちを歩いて回った。途中でいろいろあった。自販機で買った炭酸水にびっくりするアーチャー。大型トラックのクラクションにびっくりするアーチャー。子供たちが蹴ったサッカーボールが偶然、アーチャーの顔面に激突したことも。いろいろあってその度アーチャーは顔をしかめたり怒り出したりしたけど、それが面白くて笑っていたこっちを見るとアーチャーもまたつられて笑い出す。麗花の前ではこんな姿見せないだろう。アーチャーは麗花を大切にしている。だが、麗花の前ではしっかりしていなければ、というアーチャーの縛りも、彼女をまた疲れさせていた原因でもあったのだろう。今はその縛りはない。僕の前では好きなだけ、ありのままの自分で居ていいし、何をしてもいい。こんな日がアーチャーにはなかっただろう。確かに疲れてしまうほど動き回ったけど、アーチャーにとっては最高の休憩時間だったのだろう。
それで、今度は街にある喫茶店であるumberを訪れた。ここは、双子の姉妹が経営する喫茶店で、知る日とぞ知る隠れた名店だ。僕もつい最近知った店で、いつか行きたいと思っていたのだが、ちょうどこの機会、行くことができた。
umberはアンティークな喫茶店だ。テラス席を除いて中は完全な室内で、窓がある壁は南側の一枚だけ。残りは完全な壁。昼でも暗くて、天井のランプから出されるオレンジ色の光だけが辺りを暗く仄かに照らす。まさに、年老いたマスターが至極の一品を出してくれるようなお店の雰囲気。
テラス席や南側に座ればそれは一転。昼間は太陽の光で明るく照らされて、夜は月明かりと街灯に照らされる。
なんとも、素晴らしい構造のお店だ。設計したのは誰だろう。感謝尊敬したいところだ。
そんな中、僕とアーチャーはお昼の名目で、ちょっと甘いスイーツの方を楽しんでいた。僕はコーヒーゼリーを楽しんでいる向かいの席で、アーチャーはそれ一人で食べれるのかってぐらいに大きいパフェを食べている。パフェのかさ増しにコーンフレークはちょうどいいが、コーンフレークがほぼない。いや、あるのだろうけど、他と比べると割合が少なすぎる。ホイップとかアイスクリームとかプリンとかフルーツとかいろいろありすぎて何が何だかわからない。まぁ、それがパフェという食べ物なんだけどね。
「知らなかった、アーチャーそんなに甘党なんだね」
「甘い物は大好きです~♪このパフェもすごく美味しいです…………今日は本当にありがとうございますセントー」
幸せそうに口元を緩ませているアーチャーが破滅的に可愛い。
「いや、気にしないで。僕もすごく楽しかったし。アーチャーの可愛いところとか、意外なところとかがいっぱい見れてよかった」
「か………可愛………」
アーチャーが照れている顔もまたあまり見たことがない。無論絶景である。
「パフェ、お気に召しました?」
「?」
「?」
着物に割烹着を着た、琥珀色の髪と瞳の女の子が近寄って話しかけてきた。
この女性は、確か。
「受付に出てきてくれた、
「はい、覚えていただいて嬉しいです。本日はご利用いただきありがとうございます~」
黄金さんは嬉しそうにニコニコしている。
「いえいえ、こちらこそ、すごく楽しいし、メニューも美味しいですし、ありがとうございます」
「ところで、お二人様はどういった関係性で?ご兄妹?ご姉弟?いえ、やっぱり恋人同士とか?」
兄妹姉弟ときて恋人になった瞬間に黄金さんの表情がニコニコからニヤニヤに変化。絶対悪意あるよねこの表情。
「えっ…………」
「ひゃうん……!?」
危ない、同時に吹き出しそうになった。
「けほけほ、なんですかいきなり………」
「いえいえ、なんだか、想像を絶するほどに仲が良いと言いますか、兄妹姉弟の距離感ではないと言いますか、これは恋人以外ではないでしょうと」
サーヴァントとマスターの関係ってどうやって説明すればいいんだろう!?
「まぁ、昔からの友達ですね」
「へぇ、お好きなんですか?」
なんだこの人、悪戯好きなんだな。ずっと悪意のあるニヤニヤを続けている。
「姉さん、お客様に迷惑をかけないでください」
奥から翡翠色の髪と瞳を持ったメイド服の子が嗜める。
「はいはーい、わかってますよ~。あ!いらっしゃいませー」
「?」
「新しい客でしょうか」
アーチャーと目を見合わせる。
「いらっしゃいませーお客さまー、あら?昨日もいらっしゃった方じゃないですか!今日も来てくださったんですね!」
「まぁな。思わずここ気に入っちまったんだよ。手前俺のこと覚えていたんだな」
「もちろんですよ~三度笠を被ったお客さまなんて今まで一人もいなかったものですから~」
待ってくれ、三度笠?その特徴どう考えても…………
「今日は席どちらにされます?【セイバー】さん」
セイバー来た!?偶然にもここで会うの?
「あ、おんじゃああっこの二人組の席ん隣で頼むぜ」
「かしこまりました~では、少々お待ちください~」
セイバー来たんだ………セイバーこの店昨日も来てたんだ…………二人組って……完全に僕たちバレてるじゃん………
「よっ!元気にしてるか?お二人さんよぉぉ!」
だんっ、とセイバーが僕の肩を組んで接触してくる。
「貴様………またもや私の邪魔を………」
アーチャーが憎々しげにセイバーを睨み付ける。
「うん、元気だよ。セイバー、このお店知ってたんだね」
「おうよ、ここぁ最高だよなぁ。昨日から毎日ここ来てんだが、ここのお茶美味いんだわ」
「ハハハ、それは渋いね…………」
スプーンをコーヒーゼリーに突っ込んで口に運ぶ…………あれ。
「あれ?コーヒーゼリーは?」
コーヒーゼリーがなぜか特大パフェにすり替わっている。そしてアーチャーの特大パフェがコーヒーゼリーに変わってる。
「あれ、アーチャー、これ…………」
「カンタ、手前甘いもん好きだったんだな、知らなかったぜ。へぇ、ここん店の詰合わせ菓子たぁ、でっけえもんだな。俺も甘いもんは嫌いじゃねぇが、ついついわらび餅食っちまうんだよ。わらび餅は俺の大好物だからな。それはそうとして、アーチャー手前そりゃなんだ、羊羮?いや、寒天か?いずれにしても渋いなぁ、手前はてっきりカンタみてぇなこんな豪勢な菓子食ってんのかと思ってたんだが」
「私は基本的に甘いものは好かない。それからセイバー、これは羊羮でも善哉でもない、コーヒーゼリーだ」
「こーひーぜりー?ふーん、おもしれぇもんもあるんだな、俺が知らねぇうちに街の店にゃ、菓子類がべらぼうに増えてやがるよ。時代は甘いもん好きになったんだな、甘けりゃ、それでよしってか」
「お待たせしました~それではセイバーさん、ご注文は?」
黄金さんが戻ってきた。セイバーの注文を受付に来たのだろう。
「昨日と同じほうじ茶と……それから、そこの眼鏡が食っているソレ。あれ俺も興味沸いたぜ。ソレ一つ頼む」
「はいはーい、少々お待ちを~」
黄金さんはそそくさと早歩きで店の奥へ消えたかと思えばこちらに戻ってきた。
「さすがは円満な恋人同士。お互いのご飯を交換だなんて、ナイスアタックですよ~眼鏡さん~」
グッドサインを残して店の奥へ消えた。
最悪だ、この人。
「へぇん、アーチャーやるじゃねぇか、お前がこのでかい菓子食ってたんだな、そのこーひーぜりー、カンタが食ってたやつなんだろ?すり替える瞬間見てたけどよ、まさかと思って俺ぁ黙ってたが、マジですり替えてやがったのかよ」
セイバーが耐えきれずに大笑いする。アーチャーの顔はかつてないほどに真っ赤だ。甘党がバレたのが恥ずかしいようで、さらに僕のコーヒーゼリーとすり替えて誤魔化そうとしていたのがバレたのが羞恥心を加速させているようだ。半泣き状態である。
「うぅ……………」
「へへへ、おもしれぇな手前はよ。あ、おーい、そこの翡翠色ー、手前と一緒にいたあの男どこいるんだー?」
「シキさまでしたら、今はお出かけの最中です」
セイバーに呼ばれたメイド服のウエイトレスさんが答える。
「そうか、ありがとよ」
セイバーはこちら側に向き直る。
「─────なんだ、居ねぇのかよ」
アーチャーを説得してコーヒーゼリーとパフェを取り替える。もうバレたんだし。
改めてコーヒーゼリーにスプーンを入れて、口元に運んで上下両唇で挟み込み、舌でスプーンを包み、美味しさを実感する。
「うん、やっぱりここのコーヒーゼリー美味しいね」
アーチャーも渋々とスプーンをパフェに突き入れて、口に入れては頬を緩ませる。
「カンタ、アーチャー」
黙って見ていたセイバーが問いかける。
「どうかした?」
「どうした」
ほとんど気に留めず二人同時に応える。直後、セイバーが頭を悩ませながら言う。
「いや、やっぱなんでもねぇよ。食いもん替え戻したのはいいが、まだ手前らの食器が逆だったんじゃねぇかなぁって思っただけだ」
「─────────」
「─────────」
沈黙。
…………………やらかした。
「はぁ…………………やっちゃった」
大きなため息をついて恥ずかしさで顔を抑えながらスプーンを置いて机に顔を伏せる。
「うぅ…………………気づきませんでした」
アーチャーも恥ずかしさで俯く。
うん、これって間接だよね。
客がほとんどいない喫茶店には僕たちのため息と奥から見ていた黄金さんの拍手、それから机をバンバン叩きお腹を抱えながら大笑いするセイバーの笑い声だけが響いていた。
というわけで、いつも読んでくださっている方、ありがとうございます!マジカル赤褐色です!
というわけでこの物語も三日目突入。今回は完全な日常シーンです。最近筆が乗り易くなってきてですね、めちゃくちゃ進んでいます。
ところで、今作で皆さんが好きなサーヴァント、マスターは誰ですか?私はサーヴァントではツッコミ枠として書いていて楽しいアンザスライダー、マスターは冴えないけどほんとはめちゃくちゃ凄い銀子ですね。
実は昨日の夜遅くにちょっとしたアンケート作ってましたので、この駄文の作り手にまだお時間を使える方は是非ともご協力ください。今後の創作で深く踏み込むキャラを決めたりするときの参考になりますので。
それでは、次回もお楽しみに!