《蝦碑街中》
「───ここか」
俺は黄金さんと青緑を店に置いて、一人で街中を歩いていた。これは散歩ではなく、調査だ。今朝、ニュースを見て驚いた。またもや
ここが、その事件現場。狭苦しい児童公園だ。ここで、三十代の男性が一人、吸血鬼に血を吸われて死亡したそうだ。ニュースでは相変わらず特殊な通り魔事件として扱われているが、血が全て抜けているというキーワードは変わりない。これも、蓋折、吸血鬼の仕業か。
「───く」
右手を強く握りしめる。
これは、酷い。遺体は回収されたようだが、現場に残った血痕だけでも、事の悲惨さが脳裏に浮かぶ。
「あら、そこで何をしているんですか?」
公園の入り口から声がした。
「─────」
振り向いてみると、そこには黒髪の少女がいた。年齢は高校一年生程の、まだまだ若い子だ。
そのとなりに、明らかにヒトでないモノがいる。
「やぁ。こんにちは、君も昨日ここで起きた事件について調べようとしているのかな?」
男は銀髪。背中に虹色の羽が生えている。服装を見るに、王子様系のサーヴァント。
「……………アンタ、誰だ」
マスターとサーヴァントか?咄嗟に身構える。だが、この男のクラスがよくわからない。だが、この霊基、俺は知っている。それはどこかで。
「僕はオベロン。妖精王オベロン。この
「へぇ、自ら真名を名乗り上げるなんて、変わったサーヴァントだな。それで、その妖精王オベロンこそ、なんの用だ」
「おっと失礼。僕は君にはなんの用もないんだ。僕はマスターと話すことしか出来ないからね。戦うことは出来ない。たとえ君が素手で戦っても、僕はやられてしまう。それぐらい弱いサーヴァントだから、そんなに身構えないで、リラックスしてくれると嬉しいな」
オベロンはいかにも信じ難い笑顔で語る。
「あ、自己紹介がまだだったね。私は蓋折理杏。おとといはお姉ちゃんがお世話になったわね」
「─────!!」
その一言で、俺は警戒心を顕にした。眼鏡を外し、ナイフを構える。その様子を見て、蓋折はニヤニヤしている。
「昼は闘わないぞ。そういうルールだ」
「関係ないわよ。あの日、お姉ちゃんの腕を切り落としてくれたお礼はすぐに返さないと気が済まないよ。ついでにオベロンの友達の作った人形をバラバラにした責任も。お姉ちゃんすごく怒ってるよ」
「ルールを破ってまで、俺に復讐がしたいのか。恨みがあるのはお互い様だ。おまえがやっていることは、聖杯戦争に関係ない人々を巻き込む外道じみた行動だ。おまえたちは許せない。この街の人々を巻き込むのは、ほかのマスターたちが許しても、俺たちが許さない」
「仕方ないわよ。生き物としてのシステムなんだから。私たちがお腹が空いたからご飯を食べるのと同じよ。ただ食べている物が違うだけ。お姉ちゃんからしてみれば、いろいろな物を食べれる私たちのほうが羨ましいと思うわ」
「誰も羨ましいだなんて思っていない。おまえからはなぜか吸血鬼の気配がしない。どうしてかは知らないが、早く姿を現せ、吸血鬼」
この吸血鬼が一秒でも長くあることが許せない。こいつは確かに人間だ。だが、どういうわけか、こいつは人間の身体と吸血鬼の身体を入れ替えながら動いている。吸血鬼なら、確実に殺す。
「そう…………わかったわ」
蓋折はそう言うと、目を閉じてうつむいてしまった。すると、オベロンは溶けるようにそのカタチを変える。そして、変わりに新たなカタチが形成される。その姿は、おととい出会った、キャスター。
そして、そのとなりに居る女が顔を上げる。
「じゃあ死ね!!クソメガネ!!」
蓋折理杏は、蓋折杏莉へと反転した。
純粋な人間は、生粋の吸血鬼へと変貌した。
妖精王は、妖精妃へと姿を変えた。
おとといと同じ展開だな、これは。昼と夜の違いはあるが。
待てよ?死徒は昼間は活動できないはずだ。活動できても、性能が低くなるはず。
なぜ昼間に戦いを持ちかけてきた?それは、
「さぁ、惨劇の幕ブチ上げるわよ!!行くわよキャスター、いいえ、【フタオリリアン】!!あのクソメガネ、お姉ちゃんがズタズタに引き裂き殺してあげるからね!!さぁ、その力、アタシたちの為に使いなさい!!オベロン!!」
「英霊フタオリリアン………!?」
蓋折杏莉は、紅い光を放ちながら、どろどろと溶けていく。溶解し、融解していくその姿が、となりにいるキャスター、フタオリリアンの重なる。
これで敵は一体だけ。だが、その力は先ほどを超える。
これは「質量保存の法則」だ。いかにカタチを変えようと、二体の敵が合体しても、その
その二人の人間のカタマリが合わさった、ただの泥団子が宙に浮く。その下にオベロンが舞い降りる。だが、その姿はいつもとは異なる。
「あぁ……あァァァ………ついに来たか、「俺」の出番が」
その口調も、見た目も異なる。美しい虹色の羽は羽虫のような飾り気のない羽。服は王子様らしき服装から一転、まさに悪夢の顕現、呪いを体現した王のような姿に変わる。白い王子は黒い魔王に変わる。
「さぁ………平穏な聖杯戦争は、これで永遠に終わりだ!俺たちが、この聖杯戦争をブチ壊して、聖杯を手に入れ、この世界全てを、俺たちの呪いで満たしてやる………!!俺はオベロン。遠い、遠いひとときの物語、夏の夜の夢の妖精。そして、今の俺は
オベロンが泥を被る。
中から、新しい生き物が姿を現す。
オベロンの元の銀髪は紅毛になっていて、服装も、赤褐色と紫色の二色を基調とした、貴族服のよう。まるで、典型的な吸血鬼のイメージによく似合う。マントのように広げた小豆色の外套の裏には、赤い波紋を浮かばせる模様がうねうねと動いている。羽は虹色の蝶のような羽でも羽虫のような無色透明でもない。その羽は金色で、蟷螂のように折りたたまれている。
基本的なカタチはオベロンのものだが、紅い髪と瞳は、まるで蓋折を思わせる。
「くはははははは!!!あぁ、新しい姿ときたから、どんなものかと思えば、こんな姿になったのか!面白い、面白いなぁ、この聖杯戦争は!!さぁ、準備は整った。役者も揃った。
オベロン・アルカディアはまだそんなコトをほざいている。
「そうかい。俺はおまえと違って、役者とか、演劇とか、物語とか、そういうお芝居になるようなモノに興味はない。俺には、そんな目立った肩書は要らない。でも、」
これだけは、言っておかないと、怒りでどうかしてしまいそうだ。
「消えるのはおまえだけで結構だ」
なんの憎悪も憤怒も込めず、ただ、機械のように温度の無い言葉を吹き掛けた。
「ハ──────そうでなくちゃな。ヒーロー役はそういうセリフを発しなくちゃな。さぁ、正義の味方の出番はおしまいだ。ここから先の主人公は、曲がりくねった正義の味方なんかじゃなくて、真っ直ぐに自分達の意思を貫き通す、
オベロンが叫んだ途端、空は紅に染まる。一気に街から活気が失せる。別の次元に飛ばされたのか。これは固有結界なのかどうかも不明。キャスターの陣地作成スキルによって創り出された世界か。
ならありがたい。街に被害は出ないんだろう?であれば、特に感慨もなく好き放題暴れて殺せそうだ。
いい加減、怒りで頭がはち切れそうだ。この眼も、死を限りなく強く視ようとしている。その奥に、なにかが視えた。死が視える。その死、すべての
その奥に、フタオリリアンと、フタオリアンリの、なにかが視えた。
それは、古い記憶で、旧い物語。オベロンが今のことを物語の創作と言うのなら、これは、物語を紡ぐため、文字を書き込む白紙、それを創る行程だろう。
視てみよう。彼女の根元を─────
◇ ◇ ◇
キャラ紹介【サーヴァント・キャスター】
フタオリリアン
非正式聖杯戦争のキャスター。
フタオリリアンは当然、非正式聖杯戦争に参加するマスター、蓋折理杏のことである。理杏に英霊としての要素は存在しないが、オベロンと霊基を共有することによって、辛うじてサーヴァントとして限界できているが、英霊の実態ではないので、サーヴァントというより、一般の使い魔に近い。オベロンと令呪で繋がり、魔術回路を繋げることで、蓋折理杏の精神は、蓋折杏莉と共有する肉体を離脱し、オベロンの霊基に乗り移る。こうしてフタオリリアンは顕現することができる。普通のマスターにはできないようなことだが、これは一つの肉体に二つの別人物を内包している蓋折姉妹にのみできる。
理杏と杏莉の関係性は、表と裏ではなく、陰と陽でもなく、ただ二人の人間が奇形児として、一つの身体に重なって産まれた偶然からくる、奇跡ともいえるもの。
いつも見てくださっている方、ありがとうございます!マジカル赤褐色です!
二日目は、二つのライダー陣営を中心としたエピソードでしたが、この前予告しました通り、三日目からは非正式アサシン陣営と非正式キャスター陣営を中心に物語が展開されていきます。ここから戦闘が一気に激しくなっていくことが予想されるので、みなさん是非楽しみにしてください。ついに本来の姿を現したキャスター、街の平和と熾烈を極めていく聖杯戦争の行方は!?
次回もお楽しみに!!