そんな中、偶然にも、アサシンはその魔眼で、キャスターのマスター、蓋折杏莉の過去を見てしまう。
これは、アサシンが視た、蓋折杏莉の過去の出来事。
頃は、今より16年前の冬だった。
12月8日。この日が蓋折姉妹の誕生日だった。
蓋折姉妹は双子。蓋折という変わった苗字をもつ一般人の父親と母親との間に産まれることになった。
父親と母親は、自分のはじめての子供たちを「宝物」と称し、その誕生を心待ちにしていた。
そして、この日、蓋折姉妹は産まれることになった。
結果は最高。見事というか、この世のものとは思えないほどの安産だった。陣痛が来て、僅か2時間で新しい命がこの世に誕生した。とても元気な女の子だった。おぎゃあおぎゃあと、元気な声を上げる元気な子供。父親と母親は歓喜のあまりに号泣したという。
だが、それは少し、違っていた。父親と母親は、子供がかなり特殊な体質をもっていることを、事前に知らされていた。この世には、手足の不自由な子供や、生まれつきで障害を持った子供たちが一定数産まれる。
だが、これは障害と呼べるのかというレベルのものだった。
蓋折の双子の姉妹は、どちらも身体的障害を持たない、健康的な肉体だった。精神面でも、大きな問題はなかった。だが、その姿がおかしかった。
蓋折夫妻は、最初から子供たちの名前を決めていた。双子の女の子が産まれることも知っていた。
姉には「杏莉」、妹には「理杏」という名前をつけていた。
だが、母親の身体から、一人目、杏莉が産まれてから、陣痛は完全になくなってしまった。出産したときの激痛などは残っていたが、母親のお腹のなかは、完全に空っぽだった。ほんとうなら、二人の子供が順番に産まれるはずだった。
だが、流産ではない。無事、双子は産まれていた。杏莉も理杏も、元気に産まれていた。
────これは、たまたまだった。杏莉と理杏は、偶然の先天性の奇形児だった。奇形児とは、具体的には、双子の上半身がくっついた状態で産まれたり、一人の子供が不思議な骨格をして産まれたりしてくる、肉体構造障害を持って産まれた子供たちのことだ。奇形児は、確かにいろいろな種類があった。だが、この姉妹はそのなかでも郡を抜いておかしかった。
骨格は正常。肉体は一つ。それぞれの臓器の数も、骨の数も一般人とまったく同じ。だが、その一つの肉体に、理杏と杏莉が産まれていた。先天性の乖離性同一性障害とは異なり、二つの人格を持つのではなく、二人の別人が、まったく同じ肉体に産まれた、ただの奇形児。魔術的効果も、呪いもない。何かしらの薬物投与による効果でもない。偶然の出来事だ。ただの、ほんの偶然。たまたま障害を持って産まれる子供たちとまったく同じ。そのなかでも特異なケースだっただけだ。
姉妹、理杏と杏莉はまったく同じ肉体に産まれた双子だ。この肉体は、理杏のものでも、杏莉のものでもない。二人の肉体が重なってしまっただけのもの。理杏のものであって、杏莉のものでもある肉体。二人の肉体を形成する細胞が偶然にも障害によって結合してしまい、一つの肉体として仕上がってしまった。
無論、人間ならこんなことはありえない。蓋折家は、特異な混血族でも、変な生き物でもない。ただの人間。ニンゲンというただのヒト。ほんの、幾つもの偶然が折り重なって誕生した、奇跡。
蓋折姉妹の肉体は一つ。その表の人格になるのは、力を持ったほう。だが、それは多重人格とは違い、片方が眠っているのではなく、両方が感情を持っており、そのなかでも強かったほうが、表にでてくるようになっている。両方とも喋っているが、肉体の口から発せられる音声としての声は、互いの感情のなかで強かった、表面のほう。
両方が動いているが、肉体を動かすのは、運動が強かったほう。
肉体を動かす権利をもつのは、その時強かった感情のほう。
基本的に、理杏が穏やかな感情、基本的な感情が強く、杏莉が激しい感情、つまり自分を守る感情が強い。
脳は二人で一つのため、ある時で二人が物事に対して受ける印象や感情は同じ。そのため、基本的に穏やかな感情を抱いたときは理杏が動き、物事に怒りや悲しみを覚えた時、杏莉が肉体を動かす。
───ゆえに、二人は会話をしたことがない。顔は自分の肉体(かお)と同じだから知っている。だが、その人物(じんかく)としゃべったことはなかった。
理杏と杏莉は、特異肉体を持ってはいるものの、それ以外は、健康的な子供だった。特殊な体質だが、介護が必要な訳でもないため、両親は二人を大切に育てていた。彼女たちは、人並みに幸せな生活を送っていた。
─────だが、それも長くは続かない。やはり、おおよそ人間のものとは思えないその体質から、姉妹は周囲から鬼子と忌み嫌われていた。
誰一人として、彼女の体質を理解してくれない。それもそのはず、そんな体質など、今までこの地球上に存在しないからだ。理解もなにも、理屈も構造も何もかも不明のままだろう。だからこそ、不気味。だからこそ、恐怖。人々は、彼女たちを避けていき、敬遠し、全てを嫌った。
最もその気持ちがわからなかったのは、理杏と杏莉だった。自分達はこれが普通なのだ。障害者全員を遠ざけるのならまだしも、他の障害持ちの子供たちは精一杯介護されたり、それを武器にして人間関係の幅を拡げていた。だが、自分達は何があっても認められない。奇形児と車椅子のなにが違うのか。症状(ケース)が違うが、同じ障害持ち、車椅子の子供が街の人々に優しく扱ってもらっているのに、何故自分達は愛してもらえる権利がないのか。
そんな姉妹の心の支えだった、唯一彼女たちを愛してくれた両親も、周囲の人間から迫害されていた。
両親は娘たちよりも耐えていた。娘を守る大変さ、自分達の社会的立場の喪失。
だが、いずれも耐えられなくなり、遂に、自分達の宝物、娘たちを手放すことにした。
山道まで車で向かい、適当な理由をつけて娘たちを車から降ろし、そのまま娘たちを置き去りにして車で走り去った。
バックミラー越しに映る、泣きながら車を遅足で追いかける我が子。
それを見て、両親はどんな心情だったのだろうか。
─────それは知らない。娘たちにはわからない。ただ、娘たちは解った。このとき蓋折姉妹は10歳。自分になにが起きたかはわかる。物事の右と左ぐらいはわかる。
自分たちが、親に棄てられたことは理解していた。その瞬間、蓋折姉妹は全てを喪った。残ったのは、話したこともない、ただ一人の姉妹(かぞく)だけ。心の支えはになっても、根本的な救いにはならない。なぜなら、その姉妹であったことが、彼女たちの救いを奪った原因だからだ。
けれど、姉妹どうしに恨みはない。なぜなら、唯一残った宝物であって、自分を唯一捨てることをしなかった、最後まで自分を愛してくれた家族だったから。
だが、それが全てではない。何がなんでも、結局は10歳の子供。人のない山にほったらかしにされて、生き延びることはできない。
彼女は、山道の中、一人座り続けることしかできなかった。人は一人も来ない。飢えと寒さで、命が磨り減るだけ。いつまで経っても、助けは来なかった。
自分は誰一人にも愛してもらえていない。
自分が愛しているのは、理杏(じぶん)だけ。
自分が愛しているのは、杏莉(じぶん)だけ。
恨みと悲しみと怒りが募りに募った杏莉は、ただ一人、山の中に座り続けていた。いつか、誰かが来ると。
だが、苦しみは終わらず、実に4日経った。それまで誰も来なかった。
栄養失調で死ぬのも目前。飢えと寒さによる、蓋折の命は限界だった。
その時だった。
一人の男が、彼女の前に現れた。
先に言ってしまうと、その男は、少し力を持っただけの、一般の死徒だった。
男は少女に自身が死徒、吸血鬼であることを伝えると、その上で、「お前がまだ生きていたいというのなら、自身の血を分け与えてやろう」と言った。
杏莉は弱々しく、こくん、と頷いた。その時の彼女は、それが何を意味するかはわかっていた。自分は吸血鬼になってしまうと、そして、自身は生きるために人の血を吸わなければならないと。それでも、生きたいと彼女は願った。
男、死徒は名乗ることもなく、わずかに微笑んだ後、杏莉に血を分け与えた。このとき、死徒蓋折杏莉は誕生した。蓋折姉妹は、繋がって一つの肉体に産まれているだけで、理杏と杏莉の身体はそれぞれ別。死徒になったときに表にでていた杏莉だけが死徒となり、理杏は人間のままだった。
こうして、彼女は命を繋げて、人並み外れた能力、そして、生きる希望を手に入れた。
《2ヶ月前》
2ヶ月前、蝦碑市から遠く離れた街に、死徒と化した杏莉はやってきた。
狙いははじめから一つだけだった。
庭付き一戸建ての小さな民家。自分が幾度も出入りした、実家。そこに、【奴ら】はいる。
夜11時。杏莉は一目を盗んで、一階の居間の窓ガラスを突き破って、16年ぶりに帰宅した。これまでの16年間、他の街の人間の血を吸っていたが、突然、長らく家に帰っていないことを思い出した。
16年経っても自宅はちゃんと残っており、そこにはしっかりと、人間が住んでいた。
居間に侵入した(正確には帰宅だが)杏莉は、一階に誰もいないことを確認し、寝室のある2階に上っていく。右手に、自分の血で生み出した紅い刀を握って。
寝室のドアをゆっくり開ける。ベッドに二人の人間が寝ている。そのうち一人は男で、もう一人は女。まずは寝室のドアに近かった女のほう。吸血鬼の筋力でゆっくりと抱え上げ、処刑場(リビング)に持っていく。断頭台(ソファ)に寝かせて、電気をつける。眠っている女の頭を小突き、優しく起こす。
「───────う」
女が目覚める。女の真上で刀を構えてこちらに気づくのを待つ。さぁ、昔棄てた実の娘に殺される母親の叫び声を聞かせよ。
女はしばらくして状況を把握してして、知らない女が持つ紅い刀を見て、
「き───────」
それを腹部に突き刺された。
「何があったんだ!!」
すぐさまもう一人が部屋にやってくる。
だが、リビングは完全に変貌していた。刀で串刺しにされたことで真ん中に大きな穴が空いたソファ、原型を留めていない形に変形したなぞの肉。そして、ぼこぼこになった椅子を持った女の子が一人。
椅子で何度も力強く殴打したためか、椅子の脚は4本中2本折れている。
「ひ─────あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
少女の正体も確認せず、彼は狂ったように悲鳴を上げる。少女から逃げ回り、キッチンから包丁を取り出して、そのまま牽制すべく少女に向けた。
「なんで────」
少女は呟く。
「なんで私(アタシ)を捨てたの」
「は……………?」
男は少女の問いに答えることはできなかった。答える暇もなかった。すぐに、半狂乱になりながら、力任せに包丁を少女の腹に突き刺した。
しかし、相手は吸血鬼。包丁を腹に刺された程度、小さな怪我にも程遠い。むしろ、火に油を注ぐ結果になってしまった。
この期に及んで、娘を包丁で刺すのか、と。
彼は悲鳴を上げる間もなく、少女の刀で、完膚なきまでにバラバラにされた。
────そして、食事の時間になった。
今日のメニューはおふくろたたきと、スライスファザー。
食材の恵みに感謝していただきます。
蓋折杏莉にとって、これが最後の親の味だった。
いつも見てくださっている方、ありがとうございます、マジカル赤褐色です。
今回は蓋折姉妹の設定について深く掘り下げるエピソードになりました。こういう壮絶な過去を書くのって、あんまり慣れていないので、ちょっとうまく行っていない部分もあるかもしれませんね。今後の修行と練習で、その辺りの力を身に付けられるように頑張っていきたいと思います。
最後のおふくろたたきとスライスファザーの表現、自分でも結構気に入っているんですよね。やっぱり私はこういうやつを書いたほうができるんですね笑笑
それでは、次回もお楽しみに!
現在登場している内で好きなサーヴァントはどれですか?
-
非正式セイバー
-
非正式アーチャー
-
非正式ランサー
-
非正式ライダー
-
非正式キャスター・オベロン
-
非正式キャスター・妖精妃
-
オベロン・アルカディア
-
非正式アサシン
-
非正式バーサーカー
-
正式アーチャー
-
正式ライダー
-
正式アサシン