「──────今のは」
俺は、蓋折の過去を視たのか?
何が起きたのかわからない。ヤツが吸血鬼になった経緯とか、ヤツがどんな過去を過ごしたかとか、そんなことはどうでもいい。今はただ、目の前の相手に集中しろ。
「────────」
オベロン・アルカディアはすぐに攻撃してくるかと思えば、俺が目を覚ました時点で黙り込んでしまった。
「──────オマエ」
オベロンの声は低い。だが、俺は、何かとんでもない地雷を踏んでしまった予感がした。背筋に悪寒が走る。正体不明の恐怖心が俺を蝕む。
「────オマエ、今、何を視たんだ」
オベロンの声が怒りに包まれる。それもそうか。オベロンの生前でこそないが、実質今は、オベロンとフタオリリアンとそのマスターである蓋折杏莉と蓋折理杏は4人で一つの身体を共有しているのだ。そして、その意志はマスターである杏莉のモノの筈だ。わずかに口調や発言こそ違うが、オベロン・アルカディアは実質蓋折杏莉の精神の具現のようなものだ。
「イミがわからないな。俺を怒らせたらどうなるか解っていながら、最後の一線を越えたのか、なら、」
オベロンの手に紅い鎌が現れる。
「お望み通りに終わらせてやる───!」
オベロンの背後に虫が現れる。だが、これはおかしい。サイズが違う。キリンと同じぐらいの大きさを持つスズメバチやクワガタ、そして人間大の羽虫たち。サイズがこの世のモノではない。
「行け、アサシンを殺せ!!」
オベロンの指示と共に、虫たちは一斉に俺に向かって襲いかかってくる。
「くっ──────」
規格外のサイズに脚がすくむ。だが、俺の器となったこの青年、シキはこれを殺せる。万物の死を視ることができる眼を持っている。どんなに大きな軀を持とうと、死があるのは変わらない。
「さぁ、始めよう、こういう物語は、戦闘シーンが一番盛り上がるからね!!!」
オベロンの手の中に、何かが現れ、巨大化する。それはすぐに、巨大なダンゴムシとなり、オベロンはサッカーボールを蹴っ飛ばすように、脚で俺に向けて吹き飛ばしてきた。
正面から一軒家大の巨大なダンゴムシが轟音を立てて突撃してくる。
巨大にして堅牢な甲殻にナイフが通るか、ハッキリ言って不明だったが、死は視える。ならば、殺せる。万物に対して平等に死を与えられる眼。とりわけ生き物を殺すことに特化したこの眼で殺せない使い魔など存在しない。
正面からダンゴムシを勢い良く解体する。線の上なら、ナイフはスッと通った。難なく化物を解体し、オベロンに一直線に斬りかかる。確かに、オベロン・アルカディアになったことで、キャスターと蓋折の戦闘能力は倍以上になっている。だが、同時に、個体が1つになったことで、殺しやすくなった。オベロン・アルカディアが、一つの存在である以上、オベロン・アルカディアの死を突くことで、キャスター陣営を即全滅させることができる。好機といえば好機。というか、この状態でないとキャスター陣営を相手にできないだろう。今はキャスターがもっとも強い状態であり、かつ同時にもっとも脆い状態。勝機は、今しかない。ここでオベロンを殺して、確実にキャスター陣営を叩く───!!
「────っ!!!」
だが、現実は当然、そうそう甘くはない。
虫たちの妨害は、明らかに激しい。オベロンの力が強くなっている証拠だ。進めど進めど、正面から虫の妨害が入って、後ろに引かざるを得ない。正面から、背後から、上空から、真横から、死角から。虫の大群が、俺をしつこく付け回す。俺だって逃げ惑っている訳ではない。確実に虫たちを殺している。なのに、数が減らない。寧ろ増えていく一方だ。食物連鎖において、植物の一つ上に位置する虫は、繁殖力が桁違いだ。たくさんの虫を食すたくさんの生き物たちがいることを考えれば、少ない繁殖力では、食物連鎖の鎖が保てず、虫が全滅してしまうからだ。虫が繁殖するためには、雄と雌は勿論、そして、幼虫を産み出す卵が必要だ。その卵の孵化する時間とか、成長スピードとか、そんなの相手がサーヴァントなのだからあまり関係がない。大事なのは、どうして虫をこんなにも大量に遣わして来るのかだ。性能や体積はともかく、相手が虫ならば、どこかに、それが産まれる卵を残した場所がある筈だ。
「─────まさか」
オベロンを睨み付ける。オベロンの顔が嗤っている。
「やっと気付いたかい?そうさ、街中に術式(タマゴ)を設置しておいたんだ。これで、いつでもどこでも虫を呼び出せるし、街じゅうの人間の精力や魔力を吸い取れる。キャスターの「陣地作成」スキルの特権さ。オマエたちがわちゃわちゃしていた昨日のうちに、街じゅうに設置しておいて正解だったね、その気になれば、街じゅうの人間の魔力と生命力を奪い尽くすことができるからね」
「─────おまえ!!!」
怒りを抑えきれず、激昂しながら真っ直ぐオベロンに向かって走り出す。この先にどんな危険があるかとか、どんな罠があるかとか、そんな些末なこと関係ない。最短距離でアイツの線を絶つ─────!!
「─────ふ」
襲いかかる虫の大群。だが、今の俺の怒りを止められるものはいない。今の俺は火のようなものだ。飛んで俺に集る夏の虫はすぐさま殺されていく。
だが、急に、
「──────」
身体が、止まった。先に進めない。脚は動く。意識もある。何かに縛られている感覚はない。ならば、何が問題なのか。
「─────あ」
俺の腹部に、太い剣のような物が刺さって、やっと気づいた。俺の目の前に、鋭い鋏を掲げた、クワガタが居たことに。勢い余って、その鋭い鋏にぶつかってしまい、同時にクワガタの突進によって、その大剣のように太い鋏が、俺の腹部を貫いたらしい。
「───────が」
痛みはなかった。代わりに、何の感覚もなかった。一気に身体の力が抜けて、地面に倒れる。
「あーあ、もうちょっと頑張ってほしかったけど、さすがに雑魚には難しかったかなー。まぁ、いいよ、つまらないけど、その分、虫たちのご馳走にしてあげるよ。こんなに良く動く元気の良い獲物が、美味しい訳がないからね。そうか、ヒーローの出番は終わりか。ならば、舞台は閉幕だ。オマエの役もおしまいだ。せめてオマエが活躍できなかった分、じっくりじっくり、何もなし得ないまま消えていくシーンを作ってあげよう。主演からの情けってやつさ」
ヤツが、何を言っているのか、聞こえない。聞きたくもない。雑音は聞こえない方がいい。だが、何も感じない。だが、目の前に大量の虫がいるのはわかる。気持ち悪いが、音もしないし、痛みもない。身体を少しずつ咀嚼されているのも承知だ。だが、身体が動くことを拒んでいる。いつまで経っても、身体は動こうとしない。今の一撃が致命的すぎたのか、俺は完全に機能を停止した。
目の前に映るものなんて、何もない。真っ暗で、暗くてなんだか怖い。子供のころ、こんな暗闇に怯えた気がする。
怖いのは嫌だ。痛いのは厭だ。だが、どうすればいい。目の前に映るのは、終わらない暗闇と、線(こんなもの)と、点(こんなもの)だけだ。
俺は俺であることを完全に放棄して、静かに全てを閉ざした。落ちる幕。カーテンが閉まるように、最後の暗闇すら、見えなくなった。
◆ ◆ ◆
「なぁんだ、やはりたいしたことがない。この程度で、よくも俺たちに大口を叩いたものだ。まぁ、それもここまで。これで、アイツは」
虫に咀嚼されていくアサシン、佐々木只三郎の姿を見て、オベロンは心の底から勝ち誇っていた。自身の圧倒的な実力に自惚れて、気が抜けている。
勝者はゆっくり、ゆっくりと、ソレに歩み寄る。あと数分でただの骸と化す肉塊を見つめて嘲り嗤う。
「ひどいザマだね。サーヴァントにしては最弱の部類だ。この程度で俺に勝てると思っていたのか?俺は最強のサーヴァント、オベロン・アルカディア。全てを滅ぼす死神。あらゆるサーヴァントを一瞬にして葬り去る、奈落の蟷螂。そんなこの俺にナイフ1本で戦うなんて、よくもまぁイキってくれたな。オマエは俺に勝てる部類じゃないんだよ!オマエは俺に触れる価値がないんだ、ホントなら、この美しい舞台にこんな穢れた野郎を繰り出す予定すらなかったんだけど。どうせなら、もっとそれらしい、それからもう少し強力な相手を劇に出してやりたかったよ」
オベロンは敗者を心行くまで罵倒したあと、背を向けて去っていく。あと少しすれば、あの肉塊は骸になる。
アサシン、シキは確実にオベロンに敗北し、この世から消え去った。英霊としての死は意味としての死。死体など残らず消えるはずだが、今回は別。虫たちがその英霊の死体を咀嚼する。英霊としては、まさに最悪の死といえる。
「──────ふん、ようやく邪魔が片付いた。さて、俺はまだまだ忙しい。どこかに隠れているこいつのマスターを殺さないと行けないからな。自分の令呪が消えて、そいつはどんな気持ちなんだろうな。自分が頼りにしていたサーヴァントが何も成し得ずにこの世から消滅した事実は…………」
敵との決着を着けて、心がひとまず落ち着いたオベロンは、公園にあったベンチに座る。木でできた椅子に、青年が座って軋む、ズガァァァァン、という音。
「───────」
ズガァァァァン?スリムなオベロンが、木の椅子に座っただけで、こんな破壊音がするものなのか?
「うん、なんだ、これは」
オベロンは訝しみ、辺りを見渡す。すると、真っ先に、オベロンがけしかけた虫の群れ、アサシンが気を失いながら食われて、1分ぐらい前には骨になっているはずの場所で、その音が起きていた。
「な、そんな、あり得ない…………!?」
虫の大群を包み込む重厚な魔力の光。稲妻のように轟く魔力は力を増し、上から多い被さる虫も耐えきれなくなっていき、ついに、
「なんだ、バカな………………!!!」
虫の大群が轟音を立てて弾け飛んだ。
中から現れたのは、身体じゅうに傷を負った、見知らぬ人物。シキはそこにはいない。シキはとっくの二分前にやられたところだ。では、目の前にいる男は一体誰だと言うか。
「─────ハ」
シキと同じ身体を持つ男はニヤリと口元を歓喜に緩ませる。
「良く頑張ったな。──あとは【オレ】に任せろ。だから、安心して眠れよ、シキ」
「な、な、そんな、」
目の前に居た男はシキとは別人。だが、見た目はシキと全く同じサーヴァント。一体どこからやってきた、どこの英霊なのか。そんなもの、決まっている。
「どうも、初めましてかな、オベロン・アルカディア。オレは佐々木只三郎。オレの器の人間が世話になったな。こんなに下準備をして、演劇でもやる気か?面白い、ならばオレも乗ってやろう。劇を始めるには役者が不揃いだ。あまりにもセッティングが粗末だ。まったく、惨劇に児童公園は合わないね、思わず性に障るな」
「オマエは─────」
誰だと言いそうになった。だが、すでに男は佐々木只三郎という真名を名乗っている。これ以上誰かと説明できない。
「反転衝動か……………?」
「まぁ、そういうコトでいいさ。同じ佐々木只三郎なんだから、中身が変わった程度で、どうこうと変わる問題なんかじゃないだろう?」
順手に持っていたナイフを逆手に持ち変えて、佐々木只三郎、アサシンはオベロンと向かい合う。
「────さぁ、本気の殺仕合(殺し合い)を始めようか、オベロン・アルカディア」
アサシンとオベロンが、初めて対峙した。
異形同士の戦いは、ここからが本番だった。反転したアサシン、シキ。
吸血鬼と殺人貴が、互いに睨み付け合ったその瞬間に、殺し合いは始まった。
◇ ◇ ◇
キャラ紹介 【サーヴァント・アサシン】
佐々木只三郎
非正式聖杯戦争のアサシン。
その正体は、「佐々木只三郎」という英雄ではなく、「坂本龍馬を暗殺したとされる日本最高の短刀使い」という概念。
事実、坂本龍馬暗殺犯は明らかになっておらず、そもそも坂本龍馬が死亡していない説、坂本龍馬がそもそも存在しない説など、様々な説がある。その中で、最も有力な説、「坂本龍馬は京都見廻組の日本最高の短刀使い佐々木只三郎に暗殺された」という説を用いている。
正直、概念というだけであって、器となる人間は誰でもいいのだが、唯一の条件として、「強力な短刀使い」という条件を持つ人間の身体を依代として顕現する。今回の器である「シキ」という男は、本来の能力に加え、日本最高の短刀使いの技量が上乗せされており、戦闘能力が大幅に跳ね上がっている。シキにはモノの死を見る魔眼が備わっており、それを使って、即死級の攻撃を浴びせたり、使い魔やサーヴァント、その他の障害物を片っ端から殺すことが可能。具体的には、シキの戦闘能力が跳ね上がっただけの存在と言ってもいい。
一定以上の状態に追い込まれると、人格が器となった人物のものから佐々木只三郎のものに変化する。戦闘経験量などもさらに跳ね上がり、一時的に更に肉体のもつ能力を引き出すことができる。だが、あくまでも、「坂本龍馬を暗殺した日本最高の短刀使い」の概念であるため、佐々木只三郎であることにあまり大きな問題はなく、佐々木只三郎の人格も、ある程度は器となった人物に影響を受け、いわゆる反転衝動のような状態に変化する。
いつも見てくださっている方、ありがとうございます!マジカル赤褐色です。最近メルブラばっかりやってて、それから絵を描きまくってて、ずっとこちらの作業が遅れていました。誰得な趣味の延長で見事に進捗率が落ちております。
いやぁ、それにしても色々と厳しいお時間が続いていましてね、びっくりしましたよ、主人公の円堂銀子、あれ完全にイナズマイレブンじゃんって今さら気づきました笑笑 別に意図的なものじゃないんですよ?イナズマイレブンほぼ知らないので笑笑 んで、なんでキャスターにオベロンを設定したか、という話ですが、それは次回に長々と語りたいと思いますので、ぜひお楽しみに。
それでは、皆さん、次回もお楽しみに!!
現在登場している内で好きなサーヴァントはどれですか?
-
非正式セイバー
-
非正式アーチャー
-
非正式ランサー
-
非正式ライダー
-
非正式キャスター・オベロン
-
非正式キャスター・妖精妃
-
オベロン・アルカディア
-
非正式アサシン
-
非正式バーサーカー
-
正式アーチャー
-
正式ライダー
-
正式アサシン