その結果、アサシンの犠牲と引き換えに、オベロン・アルカディアを殺すことに成功。最期の時間をも破滅のために費やしたオベロンだったが時既に遅し、真名を解放したセイバーの宝具、「銘刀正宗」によってオベロンは正真正銘、この世から消滅することとなった。
───世界は真っ白。
───視界は真っ黒。
そんなものにイミなどなく、そして、こんなものにカチなどない。
───アタシはいつも一人で。
───わたしもいつも一人だった。
───アタシには顔見知りの妹がいる。
───わたしにも顔見知りの姉がいた。
けれど、知っているのは顔だけで、アイツがどんなヤツなのかは見ず知らず。話したことも、遊んだこともない。
名前は知ってる、顔も知ってるのに、誰だかわからない不思議な家族。
───妹は理杏という名前らしい。
───姉は杏莉という名前らしい。
聞いたところ、姉は怒りっぽい性格で、妹は大人しい性格なんだそう。
きっと、面白いひとなんだろうな。
アタシはそう思っていた。
わたしもそう思っていた。
そして。ここは真っ白な世界。全てが終わったあとの、なにもない世界。あるのは、果てしない無色のキャンバスと、辺りを照らす光だけ。
そこに、彼女はいた。自分と同じ見た目をした、自分と瓜二つ、いや、自分とまったく同じのただのひとつの瓜そのもの。
けれど、それは鏡の向こうの自分とは違う印象を与えてくる。それは、
───ふだんのアタシよりも小物くさい。
───いつものわたしよりも大袈裟そう。
そんなありきたりの女の子だった。
どこにでもある、ありふれた長い髪。
色はちょっと違ったけど、そんな些末なことは問題外。
目付きは自分と同じくらい悪い。目だけで限りある人生を相当損しているような最悪の面構えだ。けれど、みすぼらしいとは思わない。自分よりもずっと輝いている。
「なんだ、アタシよりもずっとかわいいじゃん、アンタ」
「なんだ、わたしよりもずっと格好いいじゃん、あなた」
そこで、二人は初めて出会った。鏡に映る自分の像に語りかける。
答えが返ってくる期待はしていなかったけど、やっぱりそうなんだ。
思ってることは同じで、目線が姉と妹の差であるだけ。何があっても、この二名の会話は成立しない。重なっているのだから、脳が同じなら、考えていること、話すこと、見ているもの、聞いているものも同じなら、違う世界を持つ他人として会話することはできない。ただ、ふてくされたように独り言を繰り返すことしかできない。
「で?アンタ誰なのよ」
「で?あなた誰なのよ」
「アタシは蓋折杏莉よ」
「わたしは蓋折理杏よ」
「アタシの真似すんなよ………」
「わたしの真似しないで………」
結果はこう。何をやっても鸚鵡(おうむ)返し。マトモに会話しようと思った自分がバカだった。ワンチャン、おはなしできるとでも思っていたんだけど。
「アタシの妹と話したのは初めてだね」
「お姉ちゃんと話したのは初めてだね」
続くは自問自答。会話は一方通行にしか進めない。二人が自分から一方的に語りかけることしかできない。
「ところで、お姉ちゃんは聖杯で何をしたかったの?」
不意に、アタシの脳裏に、聴こえない筈の問が伝わった。そんなもの、聴こえない筈なのに。
「べつに。聖杯の力で、アンタと話したかっただけ。アンタは何がしたかったのよ」
「わたしも、お姉ちゃんと話したかったんだ。願いが叶ってよかったね、お互い」
フン、何をいっちょまえに。死徒にすらなり損ねたヘッポコが聖杯の願いなんか決めてどうする。死徒としての力すら持ち合わせない雑魚が聖杯戦争で勝てるわけないって。心配しなくても、彼女に聖杯なんて間違ってもあげたりしなかった。たとえ願いが同じだったとしてもね。
「お姉ちゃんは、わたしがサーヴァントだったのは知ってるの?」
「あ?」
なんだそりゃ、アタシが返すまでもない愚かで馬鹿馬鹿しい質問だ。アタシはヒーローなんかじゃない。ヘンなことして後世で偉い偉いされるバカがどうした。サーヴァントだっけ?なんかに興味はない。確かに、アレがどんな偉人なのかは気になってたけど。
鬼子と呼ばれて学ぶ権利すら与えられなかった人でなしに、もう死んでいる偉人なんか覚えているほど暇じゃないんだっつーの。二次関数すら習っていないんだから。
聖杯戦争に参加するために無理してあの街高校に行ったとき、勉強は全部ダメダメだったからね。中学生に高等数学なんかできるワケないから。
「んなこと知るかっての。アンタが何したのかとか知らないし」
「わたしにはね、オベロンっていうサーヴァントがいたんだ」
「なにそれ。何した人?」
「知らないの?オベロンって有名よ?シェイクスピアの演劇の夏の夜の夢っていう作品に出てくる人物なんだけどね、」
「うっさいうっさい。アタシはアンタと違って勉強なんかしてられないの。あーあ、ニンゲンは楽でいいわね。アタシら死徒は昼間ぜんっぜん動けないし、夜になったら血(ゴハン)食べなきゃいけないんだから」
「でも、その代わりお姉ちゃんはすごく強いでしょ?わたしのこと、何度も守ってくれたじゃない」
ちぇっ。褒めてもなにもないのに。褒めたからって飴ちゃんあげたりなんかしないからね。関西のババァじゃあるまいし、つーか持ってないし。
「けど、じゃあアンタのサーヴァントがオベロンってヤツなんだったら、アタシのサーヴァントもオベロンの筈よ。なんでよりにもよってアンタが来るのよ」
「お姉ちゃんが覚醒すると、わたしの居場所がなくなるから、あぁやってオベロンと霊基を共有してたの。オベロンは生まれつきのステータスとして、裏を持てるようになっていてね、まぁ、人格のスロットが他のサーヴァントよりも多くってね、それでね、オベロンのそのスロットの中にわたしの人格を保存しておいて、必要に応じてお姉ちゃんと入れ替わったタイミングで、」
「はいストップ。もうわっかんないからいいわ」
もうこれ以上は何言ってるかわからん。霊基のところからまったくわかんなかったわ。
「──────」
「──────」
こうしてすぐに沈黙。もっと話すことないの?そんなに話題ないの?退屈な子だ、まったく。姉の前でも恥ずかしがり屋なのだろうか。
「理杏、ごめん。こんな使えないヤツが姉で」
不意に、そんな言葉が溢れてしまった。よくわからないけど、アタシが、この子の未来を奪ってしまった気がしたから。元はといえば、アタシが死徒になんかなったりしなければ、こんなことにはならなかった筈だ。あるいは、死徒になっても、もっと、ニンゲンらしく、生きていれば、蓋折理杏が、もっとマトモな未来にアタシを連れていってくれたかもしれない。
ただ、憎くて、切なくて、それだけで、アタシが好き勝手暴れたのがダメだった。アタシは吸血鬼になってから、そのまま顔を出さずに、全てを理杏に託していれば。
「───────」
理杏は目の前にいる情けない姉を見て沈黙している。腐っても我が姉。こんな醜態を見せつけられて、気が気でないだろう。けれど、これも全て、アタシが悪い。ママを殺し、パパを喰ったアタシを、許してくれる筈がない。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。こんな、情けない妹で。わたしも、お姉ちゃんのことが守りたくて、お姉ちゃんに全部任せていたの。わたしも、ただ、怨めしくて、悲しくて、それを周りにぶつけて貰うように、お姉ちゃんに任せていた」
「───────」
そうだった。アタシが考えていることは、理杏が考えていることと同じなんだった。その逆もまた然り。アタシたちを捨てた両親、そしてすべての人間が憎くて、アタシたちは、全部をまっさらにしようとしたんだ。
そういえば、アルカディアが暴れていたとき、アタシは、微妙な昂りを覚えていた。
アルカディアの戦いを楽しんで、テレビでも見ているように、面白がっていた。
その時、アタシがそれを見ている横で、彼女も笑っていたのかもしれない。
やっていることがどんなに残酷でも、アタシたちは、やっぱり、二人で一つ、同じ時を過ごして同じように笑っていたのだろうか。
姉妹の絆とは、こういうものなのだろうか。アタシは勘違いしていた。自分の味方は一人もいなくて、自分は独りだと。話したこともない、話せない家族と居ても、所詮は孤独なのだと。
だが、孤立はしていなかった。味方はすぐそこにいた。家族はいつもここにいた。
あのときから、アタシは、一人だと思っていたが、そんなことはない。どんな時でもアタシを分かってくれて、どんな時でもアタシと一緒にいる不思議な同居人。
たった一人だけの、アタシのかけがえのない妹(かぞく)。
「はぁ………………」
欲しいものは、もうすでに揃っていた。
聖杯に頼るまでもなかった。家族も味方も、大切なものも、すべてここにあったんだ─────
「もう、一人じゃない」
「うん、一人じゃない」
アタシは、からっぽの世界で────
わたしは、からっぽの世界で────
─────ただ、姉妹(かぞく)で話していた。
◆ ◆ ◆
《言女高等学校校門》
「それで、最近吸血鬼事件のほうはどうなったの?」
「さぁな。昨日の犠牲者は六人。こりゃまた結構な数だ。早く解決してくれればいいんだがな」
「部活始めるにはまだ先になりそうかな」
私と淑恵と間淵くんは一緒に帰りながら今日もまた例の吸血鬼事件について話していた。最近物騒だ。聖杯戦争が始まってからろくなことが起きていない。
毎日犠牲者と破壊者と謀殺者。ニュースキャスターにも本当にお疲れさまだ。毎日のように舞い込んでくる物騒で縁起でもない訃報を読み上げるだなんて。
「最近どうなっているんだろうか。吸血殺人事件はもちろん、昨日は街でビルが倒壊しまくったらしいしな」
あ、昨日の戦いだ。
「学校の二階の床、一部壊れたんでしょう?」
あ、うちのセイバーだ。
「じゃあ、私こっちだから、じゃあね」
「ばいばーい!」
「気をつけて帰るんだぞ」
二人と別れて、家に帰る。今日はバイト休みだから帰ったら久しぶりにゆっくりできそうだ。お茶でも飲みながらゆったり釜戸で暖まろうかな………………
「あ、」
向こうに見慣れた人影発見。三度笠を被った着物の男なんて、この世でこの男しかいないだろう。だが、珍しい。いつもおしゃれで綺麗な彼だが、今日は服がひどく汚れている。というか、ボロボロ。袋叩きにされたボクサーみたいになっている。
「セイバー、大丈夫?なんかボロボロだけど」
「あぁ、ちょっと忙しくってな。この通り、こてんぱんにやられちまったよ。ったく、情けねぇったらありゃしねぇよなぁ」
大変そうな見た目とは裏腹にセイバーは自嘲気味にヘラヘラ笑っている。
考えなしに思わず呆れてしまう。
「絶対それ笑ってる場合じゃないでしょ。大丈夫なの?相当な大怪我じゃん。なに、トラックにでも轢かれたの?」
「いいか、笑うなよ?俺をこんなんにしたのはでっけぇダンゴムシだ」
いや、ガチで笑えないやつじゃん。ダンゴムシに殺されかけるサーヴァントとか初耳なんですけど。サーヴァントってそんなもんなの?逆にどんだけでかいダンゴムシが出てきたのか。
「まぁ、その代わり、吸血鬼のこたぁ、一件落着ってことでな。ギンコ、帰ったら赤飯炊いてくれ。俺ぁ腹が減って仕方がねぇんだ、ギンコの少ねぇ魔力供給じゃあ、飯か睡眠で補わねぇといけねぇんだよ」
「ちょまちょまちょま、どゆことどゆこと?」
吸血鬼事件が一件落着ってどういうことですか。
あとなんでお赤飯炊かないといけない。
「まぁまぁ、その話は帰ってからしてやるよ、俺がアーチャーらと力を併せて吸血鬼をぶっ倒す話をな」
「──────────」
よくわからないが、とんだ長話になりそうだ。まぁ、今はひとまずセイバーが元気そうでよかった。
下手にその怪我を気にかけたのが馬鹿馬鹿しいほどに、セイバーは元気を保っていた。
まぁ、これはこれでよかったとは思う。まぁ、聞いている限りはお祝い事なんだし、たまにはお赤飯にするのも悪くはない。とりあえず今日はお赤飯だけ買って帰ろ。
いつも読んでくださっている皆さん、ありがとうございます!マジカル赤褐色です。
さぁ、お待たせしました!今まで前書きで挨拶はしていましたが、こうして作者自身の言葉で挨拶をするのは初めてです。改めましてお久しぶりです。一時的に連載を停止して別作品の創作を進めていたんですが、突然こちらを進める気になって、こうして舞い戻ってきました。
戻ってきたらなんやかんやでマテリアル公開3連という始まり方をして、結局新エピソード公開となるのはかなり後になりましたね笑
ですが、ここからは間違いなく私の創作のような延長となります。いちおうサボってなどおりませんので笑
こうして長い間創作を続けてきて、自分の文章に磨きはかかってきてはいるとは思います。暇な人は一話に戻ってみてください。文章は何もかもが進化していると思います。自分でも、読みやすさや言葉選びなどが、まだデビュー当時よりもマシになってると思います。これほど長い間の創作を続けられたのは、間違いなく読者である皆さんによる暖かいご支援の恩恵だと思います。
支援というのは現金や資源の供給のことではなく、この作品を読んでくださっているということそのものが支援です。
私が創作するときはいつも「作品をつくるのは読者」ということを考えています。
これは私のモットーとも言えるものなんですが、率直に言って小説なんて文字の羅列だと思うんですよ。そりゃ、大物の方々が書かれたとは言っても、所詮はやはり文字の羅列。文章の質はともかくとして、結局は私のこの低レベル創作と同じなんですよ。じゃあ、何が違うのかというと、多分それは「読者のことを考えた執筆」だと思うんです。自身が想像したストーリーを書き起こすだけではそれは作品とはなりません。「日記」を「作品」に昇華させるには、読者の想像が必要になります。
自分の考えたストーリーをいかに正確に、正しく伝えられるかが小説だと思います。ストーリーそのものの設定がイマイチだとそれはそれでアレなんですが、少なくとも、自身のストーリーは自身の思っている情景が一番そのストーリーの味が出ると思うんです。それを上手に文章にして、それを読み手に正確に自身のイメージを共有させる、これが小説の基礎にしてゴールだと私は思っています。
きっと、先達の方々の文章を読んでみると、間違いなく伝わりやすい文章になっていて、皆さんの想像はある程度一致していると思うんです。その自分の想像を上手いこと共有させることができる小説こそが今、皆さんが暇な時に読んでいるような、小説や創作なんだと思います。
私は見ての通りの新人であり素人でもあり、だからきっと私が思っているストーリーと皆さんの思っているストーリーは若干のズレがあるでしょう。読者が想像しやすく、そして多彩な想像をより正確に伝える能力、それが私たち作者に求められるものだと思います。作者にできることは読者に想像の余地と材料を提供するだけですからね。それに感動するかしないか、好きになるかならないかとかは、全部読者の想像や嗜好、趣味に関連するものですから。読むことは想像すること。私も読者の方々のことを考えた、読みやすい小説というものを執筆できるように、これから努力して参ります。
かなり長いお話になりましたが、お付き合いありがとうございました。
それでは、次回もお楽しみに!
現在登場している内で好きなサーヴァントはどれですか?
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オベロン・アルカディア
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非正式バーサーカー
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