こうして吸血鬼事件は幕を下ろしたが、聖杯戦争はまだ終わっていない。
同時に始まる二つの聖杯戦争。交差する二つの運命。正式と非正式。
そうして、非正式聖杯戦争で波乱が巻き起こった一方で、正式聖杯戦争が、いよいよ大きく動き出す。
《蝦碑市某所・曹総連合会本部》
「すみません、すみません、すみません、すみません…………!!!」
ここは蝦碑市を活動拠点とする一大極道組織、曹総連合会の本部。曹総連合会は、のべ2万人という多くの人員によって構成されており、その組の数も、実に10を越えている。曹総連合会は、国内だけでなく、海外にまでその魔の手を伸ばしており、これまでにフランス、イギリス、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、メキシコ、アフリカ諸国で数々の暴動を起こしている。警察は当然、この組織の存在を嫌と言うほど知っているが、ここまで来ると警察ももはや手に負えない。
その巨大な組織の本部の建物の中で最も広いこの部屋の一番大きな机に座るこの男、「時雨 木幡(しぐれ こはだ)」はこの曹総連合会の六代目会長であると同時に、此度の聖杯戦争、特に、アルケード・エンケラドゥスの開いた非正式聖杯戦争におけるマスターでもある。
そして、その時雨に向けて土下座をする男たち七人。その顔ぶれは、昨日エインス・マリオンを襲おうとして、なんなく撃退された男たちだった。
「すいません、恥さらしちまいました………!!反省してます、悪いのは俺らです、だから……!!」
エインスに金属バットを向けたあの男、リーダー格の男が一番真剣に、そして深々と謝る。
「はぁ…………」
時雨は溜め息をつく。時雨は会長とはあるが、思いの外若い。年齢は20代後半入ったばかりの頃だろう。曹総連合会には彼よりも歳上の連中も多いはずだ。実際、だいたいの連中は彼よりも歳上だ。今回の七人組はまだ若いのだったが。
「もういい。別にそんなに期待していない。知らない女に返り討ちにされたぐらいで、俺は怒ったりしない。お前らが勝手なことして勝手にやられたんなら勝手にしろって話だ。俺には関係ない」
時雨はきっぱりと切り捨ててしまう。まだまだ若いからか、部下の落ちぶりに怒ることすら知らないのだろう。
「甘いなぁ、時雨はんは。コイツら、細い女に負けとんのやで?いらん事したんやから、ケジメのひとつやふたつ、付けたれやぁ」
時雨のとなりに立つ男が嗜める。彼は古くから時雨と共に歩んできた友人のような存在だ。
「下がれ姫路(ひめじ)。俺が良いっていったらどうでもいいんだ。放っておけ、それにお前らもそのようなことでいちいち報告するな。お前らがこの夜一人で歩く女に勝てるわけないんだからな」
「時雨はん、そらどゆこっちゃ?」
姫路と呼ばれた男は訝しむ。女に勝てない?そんなわけないと。だが、時雨は表情を崩さないばかりか、この世間知らずめ、と一蹴。
「そんなことも知らないのか。最近はな、この通り物騒だ。まさか一人で歩く女なんかいないだろう。普通の女だったら大勢で帰るか車に乗って帰るさ。一人でいたら、そいつは喧嘩慣れしているか、それか人並み外れた化物だ。今回の女みたいにな」
「へぇん、おもろいなぁ、それがこの前言うとったマスターちゅうやつかいな?」
「あぁ。サーヴァントの可能性もあるし、魔術師の可能性もある。連中は並み一般の人間と思っちゃだめだ。あぁ、ここからはお前らには関係ない話だ、全員出ていけ」
戸惑う男たち七人は、「失礼します」とお辞儀して部屋を出ていった。部屋には時雨と姫路だけになる。
「奴らが言っただけで、俺は見ていないから、まだ確証はないが、あの女………」
「む、心当たりあるんか」
「あぁ。俺の一代前の親っさんのときのこと覚えてるか」
「あぁ~フランス行ったときの事やな、覚えとるでぇ。女二人組にぶっ潰されてもうたらしいな」
彼らはかつて一度だけ、フランスで暴れたことがあり、その結果、二人の少女に返り討ちにされてしまったのだ。当時向かった約400名の組員たちは全員死んでしまったそう。
「あぁ。普通に考えてあり得ない。400人がかりで武器持って突撃したのに、女、それも子供に全員殺られた。恥さらしとかの次元じゃねぇ。もはや、向こうが異常なだけだ、そこまでくると」
「せやなぁ、ほんで?それがどないしたっちゅうねん」
「その女が、今日連中が出くわした女の事なんじゃねぇかって思っているんだ。それなら、あの戦闘力にも納得がつく。そうだろう?ランサー」
時雨は部屋の隅に立ち尽くす男に話し掛ける。
「さぁ、どうかね。儂(わし)はその遠征の話は聞いておらぬ。その娘が如何なる強者か。儂は見ておらぬのでな。だが………もし、彼らの言った事が事実なのであれば、それは間違いなく並みの娘ではあるまい」
男は朽ち果てた枯れ木のような、晩年の老人だ。灰色染みた髪と濃い髭。相当な老体である。だが、外見の年齢にしては元気な様子だ。サーヴァントはサーヴァント。
「そうだろう。アレは間違いなく魔術関連による筋力強化だ。おそらく、今回の聖杯戦争ではマスターである可能性が高い。奴らは彼女以外に人物を見ていないと言うが、素人にサーヴァントを発見するなど不可能だ。一度、お前を引き連れた状態で接触を図ったほうがいい」
「応、解っておるぞ、マスターよ。女はどうする。即座に首を跳ねねばならぬか?」
「殺すな、捕らえろ。ただそれだけでいい。仮にもうちの会員を殺してきた連中だ。殺した分だけ犯(ころ)してやる。そうだな、女に飢えたやつが組ン中にいるんだったら便所にでも置いておけ。いい苗床にでもなるんじゃあないか。減らした400人のぶんだけ産みつけてやったらいいんじゃねぇか?」
「発想がクレイジーじゃのう。おまえさんの道徳心、大丈夫なのかね?」
「ハン。そんなもの、曹総を引き継ごうとした時点で棄ててるさ」
初めて、時雨が狂気的な笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
「キャスターさん!キャスターさん!」
タブレット端末を持った若い女性が【彼】のもとへ向かう。
「どうしたんだい、マスター。そんなに慌てて」
彼は作業中だったが、彼女に優しく向き直る。
「見て見て!この画像!」
無邪気な女性と、貴族服の人物の二人組が屋敷で交流を交わしていた。
貴族服の人物はもちろんサーヴァント、正式聖杯戦争にて召喚されたキャスターである。
キャスターは上品そうな印象を与える若い男性であり、分厚い本のようなものを肌身離さず持っている。
いや、本自体は浮遊しており、常に何処かしらのページが開かれている。
「これは………なんとも惨たらしい崩落の映像だ。いったい何処でこんなもの手に入れて来たのかな?」
タブレット端末に映し出されている映像を見てキャスターは興味津々のようだ。
「え?普通にSNS漁ったら出てくるよ?なんかトレンドワードで話題になってたんだ~、蝦碑市で地震による大規模な崩落だってさ~」
「ふむ。SNSでは、そのようにして情報を得ることができるのか。人々の間で噂となっている話題をピックアップし、それに触れることで世界中の誰しもがその小さくて薄い端末一台で世界中のありとあらゆる情報を入手できる、と。素晴らしい文明だね。私は自ら全てを学ぶことで全てを識(し)ったが、何を識るかさえ解っていれば、全てを知ることができるというのか」
「う………うぅ………ん?よくわかんないよ」
「あぁ、私の時代の話だよ。私の時代はコンピューターすら存在していなかったからね。遠い世界の事を知るためには現地に脚を運ぶか、風の噂を便りに旅人に訊くか、あるいはそういう特別な書籍を手にするしかなかったのさ。便利になったものだね、時代というのも悪くない」
「でも、キャスターさんのほうが知識は多いんでしょう?だって、根源の渦(アカシックレコード)に到達している大英雄なんだから!」
少女とキャスターの仲は非常に良好なようだ。好奇心旺盛なマスターの質問に答え、全てを教える好印象な青年であるキャスターと、そんな知識人であるキャスターを誇りに思う無邪気な少女。
「いや、私は根源に到達したわけではないよ。あくまで軽く触れることができるだけさ。この世の真理を知ったわけでも、この世の最奥へ引き込まれたわけでもない。ただ、識っているというだけだよ。識っているというだけでは何も無し得ることはできない。車の運転免許を持っていても、車を持っていなければ、ないしは車の通る道、あるいは車を購入する金銭がなければ、車を利用することはできない。そう………たとえば、君は未成年だったね。その例で言うと、君はお酒がどのようなものであるかを知っていても、法律的に飲めないのであればお酒は飲めない。知っていても、使えないのではあまり大きな意味はない。私は全てを知っているが、その全てを使えるわけではない。「全知」と「全能」は違うんだよ。覚えておきなさい」
「はーい!」
少女の元気の良い返事。
「………それで。話を戻そう。それは、いったい何時のニュースなのかな」
「昨日だって~。死傷者はゼロだけど、建物が20棟近く倒壊したんだって」
「ふむ。死傷者が出なかったのは素晴らしいが、こんな目立つ場所で戦闘をするとは。なるほど、今回の聖杯戦争のマスターたちは、頭の螺が少々故障中といったところかな」
「そうだね…………キャスターさん、サーヴァントとマスターの名前はわかるの?その辞書があればわかるんじゃない?」
その辞書。それは、キャスターの隣で常に浮いている本。やはり、彼の宝具のようだ。
「そうそう使っていられるような安いものじゃないよ、これは。燃費も悪いし、使い勝手が悪いから却下しよう。そもそも、検索(サーチ)するには情報(キーワード)が必要だ。見てもいない、戦ってもいないサーヴァントの真名を探るなんてことはこの本ではできない。検索するには、ある程度情報が整っていないとダメなんだ。「あれなんだっけ?」ではなく、「あの茶色くてわずかに辛くてご飯といっしょに食べると美味しい料理はなんだっけ?」のほうがカレーだと伝わりやすい。根源に繋がる辞書に「あれの名前を教えて」と質問したらどれほどの候補が出るかわかったもんじゃない。絞り出すのと炙り出すのは最低限踏まなければならない手順だ」
「そっかぁ、難しいんだね」
「あぁ。さっきのカレーの例であっても、おそらくカレー確定として絞り出せないだろう。きっと他にも数えきれないほどの候補があるはずだ。この辞書から答えを引き出すのは私ですら至難の業だ。できればやりたくない、というのが正直な感想かな」
「ざんねーん。キャスターさんの宝具見てみたかったなぁ」
残念そうな表情を見せる少女に対して、そのうち見れるさ、となだめて納得させるキャスター。
「キャスターのサーヴァントの宝具なんか見ても、あまり面白くはないよ。そうだね、あのパラケルスス氏なら奇跡を起こせるかもしれないが、私の場合はまさに彼とは真逆の神秘だよ。少なくとも、君の望むような魔法少女レーザーなどは出せないさ。魔術師(キャスター)のクラスだが、本職は錬金術師なのでね」
「ビームは別にいいよ。わたし、キャスターさんのひみつ道具を見たいの!」
「あぁ、なるほど。その様子だと、私の真名がわかったようだね。その通り、私は君の思っているその英霊だ。だからこそだ。私の宝具は、使いどころを間違えれば即座に消滅する。アレは、「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」の亜種だ。使えば即座に私の身体は五体霧散する」
「自爆………しちゃうの?」
「いいや、自爆するというより、【外から】消されるといったほうが正しいか。「聖なる献身(スプンタ・アールマティ)」とはまた別さ。抑止力のペナルティ………世界の修正能力によってこの世から消されてしまう、ということだよ。まぁ、いずれ何処かでこの宝具を使わねばならない時が来るとも。その時に、私の技術をお見せしよう、マイマスター。【リィン・トーサカ】」
その名前を聞いた瞬間に、少女の顔が変貌する。
「えぇ。私の期待、裏切らないで頂戴ね、キャスター。きちんと、最後まで活躍してもらうわよ」
リィン・トーサカの令呪が赤黒く光る。
さっきまで子供らしさの消えない幼女だった彼女は、一気に狂気を醸し出すような少女に切り替わる。
───赤いダッフルコートを羽織った、悪魔のような、小さな魔女の姿へと。
◇ ◇ ◇
キャラ紹介【正式キャスター陣営】
リィン・トーサカ
「よろしくね。私はリィン・トーサカ。名門魔術師、トーサカ家の末裔よ。機械の扱いは苦手だけど、魔術に関しては、今回の聖杯戦争に参加しているどのマスターにも負けない自信があるわ。前の聖杯戦争でも結果は残しているんだし。わざわざ時計塔からやってきてあげたんだから、感謝しなさいよね。サーヴァントは三騎士ですらないキャスターということになっているけど、私のキャスターなんだから、どんなサーヴァントよりも結果を残してくれることに間違いないわ。んじゃ、ちょっと身の程知らずなヘッポコマスターたちに、灸を据えて行こうかしら!────ふむ、こんなところかしらね」
…………とのこと。この人物については記録がほとんどなく、全てが謎に包まれているため、本人の言葉を借りることにした。
正式キャスター
トーサカと名乗る少女に召喚された、正式聖杯戦争におけるキャスターのサーヴァント。
屋敷に結界を張り、多彩な道具で敵を翻弄する正統派のキャスター。
だが、魔術師のクラスを冠しておきながら、本人は魔術の才があまりないらしい。
豊富にして強力な宝具を幾つも所持しているらしい。
────トーサカ曰くだが、このサーヴァントの真名を知った者は皆口を揃えて言うらしい。「彼はある意味、冠位を冠する(グランド)キャスターである」と。
すべての情報の源であるアカシックレコードから知識を引き出すことができるらしい。
本人は自身を「魔術師」ではなく、「錬金術師」と称している。
だが、神秘に囚われず、己のあるがままの姿を捉え、現代の人間の文明に魅入られ、人間と親しく交流し、文明の発案者たちに敬意を払うその姿は、「魔術師」でも「錬金術師」でもなく、まるで、「技術士」のようだ。
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。マジカル赤褐色です。
今回のテーマとなるのは非正式聖杯戦争のランサーと正式聖杯戦争のキャスターです。
とりわけキャスターは今後の展開に大きく関わってくる陣営となります。またまたキャスター枠が波乱を起こすんです笑笑
Fateシリーズの醍醐味、真名考察タイムなんですが、まぁ、非正式ランサーの情報はほぼないのでわかるわけないのですが、キャスターならもうすでにピンと来た人はいらっしゃるのではないでしょうか。
ひとつだけ覚えておいて貰いたいのは、これはあくまでも、「オタクの趣味の延長」であることです。なので、もちろん、Fateファン全員が出てきて欲しいと思っているような英霊が今作では鯖化されています。とりわけアイアスとかスサノオは一度は鯖化してほしいと皆さん思ったことはないですか?
個人的な予想ですが、今回出てきた正式キャスターは、Fateファンたちが鯖になって欲しいと思うキャスター系英霊、ぶっちぎりの第一位だと思います。
溢れるばかりの厨二心をくすぐるような、最高にロマンに満ちた英霊であり、型月系列の魔術世界だと屈指の異端児となるだろう、あの英霊です。ヒントはそこらじゅうに隠しておきました。本編での会話で一体何人が察してくれたのでしょうかねぇ………
とはいえ、ランサーの方も知っている人なら今後の展開で真名が明らかにあとに「あぁ、なるほどね」と思うような大英雄でしょうね。個人的に一番鯖にしたかったのはお馴染み、ダルタニアンだったんですが、この二名もぜひぜひと思っていたので、参加させてあげられて嬉しいです。
それでは、次回もお楽しみに!
項目追加版 現在登場している中で好きなサーヴァントは?(文字数の都合により、名称略の場合あり)
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岡崎正宗(菅笠のセイバー)
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須佐之男命(和服のアーチャー)
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貴族服のランサー
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アイアス(教会のライダー)
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オベロン・キャスター(妖精王)
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リアン・キャスター(妖精妃)
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オベロン・アルカディア(紅いオベロン)
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佐々木只三郎(学生服のアサシン)
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アルクェイド(金髪のバーサーカー)
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モンゴル風のアーチャー
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老人のランサー
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ダルタニアン(レイピア使いのライダー)
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貴族服のキャスター
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見えないアサシン
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メイドのバーサーカー