かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

47 / 82
umberから帰路についたセイバー陣営。
しかし、そこで銀子とセイバーは大鉈と炎を武器にした戦う大柄のサーヴァントに襲われる。
初日から絶好調だったセイバーだったが、ついにサーヴァントによって強烈な一撃を受けて戦闘不能になってしまう。
もうなす術なし、最早これまで。とそのとき、銀子たちの前に助けが現れる。
そしてその人物は、前日、街でセイバーに襲いかかったマスターと、そのサーヴァントだった。


第三十八章 最後のサーヴァント

 

「はーい、ここがわたしの部屋よ、四人で入るには狭いだろうけどゆっくりしてね」

 

エインス、と名乗った女性は私とセイバーを部屋に上げると「買い出しに行ってくるわ」と部屋を出ていった。

私たちを助けてくれたエインスさんの部屋は、ここどこやねんって感じのアパートの一室。

四人集まると歩くのは少し難しい。

部屋の中央に赤い毛布の大きいベッド。

部屋の隅にはいくつか棚や引き出しがあるというだけの、絢爛な家具のわりに質素な部屋。

 

「ぐっ…………うぅ…………」

 

「セイバー、大丈夫?えーと、何か包帯とかないかな」

 

セイバーはさっき槍で貫かれたお腹を抱えながら苦しそうにしている。

そんなセイバーが可哀想だ。私を助けるので精一杯で、自分を守ることができなかった。私はサーヴァントと戦うことはできない。麗花たちみたいに魔術を使うこともできないし、幹太さんみたいに物を調べるのも得意ではない。

だから、せめて応急手当ぐらいはしてやりたかった。

包帯を探して適当に引き出しを漁っていたら、ある引き出しだけ、中で本が表紙を上に山積みになっていた。

意外にも本を読む人なんだと思ってちょっと興味を示して手に取ってみる。

なんかすごくページが少ない。厚みは60ページあるかないかぐらい。

この薄いパンフレットみたいな本が気になってちょっと適当なページをみてみる。

 

「───────ッ!!!」

 

一瞬で本を閉じて元の場所へ仕舞った。

 

「あぁ。それ、エインスのものだよ」

 

後ろから赤銅色のサーヴァントの声。

 

「エインスさんの趣味なんです!?」

 

「うん。その引き出し、エインス好みの薄い本が山積みになっているんだよ」

 

薄い本………って。その、あれ、エ○本のことでしょ。

あの人、あれだけ清楚に見えて案外こういう趣味持ってるのかな。

 

「まぁ、まぁ、薄い本っていうのは欲求不満の時に読むものだよ。彼女の欲求が満たされているならそれに越したことはないけどね」

 

平然とそんな冗談を口にするこのサーヴァントもだいぶクレイジーだ。

 

「気になるのがあったら読んでてもいいよ?」

 

「いや、遠慮しときます」

 

誰が人ん()のエ○本なんか読むか。

読むんならデリカシーなさすぎる。

 

「えーと………しゃるる………どぅ………なんたらって野郎」

 

セイバーとこの青年は面識があるようだ。

確か、彼って私が昨日街でセイバーを探していたときにぶつかった人だよね。

 

「シャルル・ドゥ・ダルタニアンだよ、岡崎正宗。名前が長いからダルタニアンって呼ばれているけど………ライダーでいいよ。外で真名呼びされたらたまったもんじゃない」

 

ダルタニアン…………シャルル・ドゥ・ヴァーツ・カステルモール。ダルタニアン伯爵のことか。いや、この場合は偉大なるアレクサンドル・デュマ作の「三銃士」のほうのダルタニアンのほうかな。

 

「ライダーさんとエインスさんはどうして私たちを助けてくれたんですか?」

 

「さぁ?エインスはほんとうに気まぐれだからね。でも、君たちツイてるよ。エインスが妹以外で人を気に入るなんて正直珍しい。昨日の戦いでなにか感じるものがあったんじゃないかな」

 

ライダーさんは声も仕草からわかりやすいぐらいの好い人。この世のイケメン主人公の条件を全て兼ね備えた、非の打ち所のない優男だ。

 

「それより、君たちが教えて欲しいな。そっちは今どうなっているのかって」

 

「どうなっているかって………手前、そらどういうこった?」

 

「だから、君たちのほうの聖杯戦争の話だよ。聖杯戦争は僕たちの側と、君たちの側に別れているって聞いているでしょう?」

 

「───────それって、」

 

「───────どういうこった?」

 

セイバーと顔を見合わせる。

ライダーさんはあっちゃあ、と頭をかきむしる仕草をしたあと、

 

「まさか………聖杯戦争が二つあるってこと自体、知らない感じかな…………」

 

ぼそっ、とライダーさんは呟いた。

 

「なにそれ私初耳なんだけど」

 

「なんそれ俺ぁ初耳なんだが」

 

 

 

 

 

《山道》

 

 

「─────まさか取り逃すとは。珍しいじゃないか、ランサー」

 

木々の後ろから水色の髪の男性が現れた。

 

「─────興が削がれた。今のおれには奴等を追う理由がない」

 

先ほどセイバーと闘った貴族服のサーヴァント、ランサーのマスター、ケイアス・ヨルムンガンド・ユグドミレニアである。

 

「─────僕は相手の嘘を見抜ける。その様子だと、追う理由がないというより、乱入者に邪魔をされたんだろう。それで君はやる気が失せた、と。…………別段、急ぎの用ではないからどうでも良かったけど、君らしからぬ姿だ。侮辱されたのなら、北海の端まで獲物を逃がさないのが君のポリシーだった筈だ」

 

「─────無論、あのセイバーを逃がすつもりは毛頭ない。…………だが、あの女の姿を何処かで見たような気がした」

 

ランサーの無感情な瞳が一瞬だけ記憶を懐かしむようなものになる。

 

「…………ふむ。サーヴァントには生前の記憶があるものなのかね。────あぁ、いや、失敬。君は疑似サーヴァントだった。肉体の記憶が【彼女】に由来するものだったんだろうね」

 

「おれの肉体となった男がかつて娶った妻に顔が似ていただけだ。───あの女を見たのか、ご当主」

 

「あぁ。セイバーを抱えて自分のサーヴァントと共に撤退する様子だけは見ることができた。彼女はあれだな、エインス・マリオン。この前対峙したアンザスの姉で、リヒュテンシュタイン聖堂騎士団の元団長だ。ネロア・リヒュテンシュタイン司祭代行殿がかつて直々に率いていたという幻の聖堂騎士団。その元団長となると、かなりの大物に違いない。サーヴァントですら対抗するのに一苦労するというそうだ」

 

「─────ほう………?」

 

「アレはね、元人間だが、現在は妹と同様に非人間だ。いつも笑っているような細目で、実に美しいが、実際のところ何年生きているのかわからない。あの若さにして、すでに百年近く生きているのかもしれない」

 

ケイアスが杖の先を弄りながら話を続ける。

 

「────要因はなんだったかな。とにかく、アレはエルフの一種だ」

 

「────アレが妖精だとでも言うのか」

 

「────妖精にも種類はある。人間大の妖精もいれば、クリオネのように小さいものもある。それに加えてメルヘンチックなフェアリーもいれば魔性寄りのエルフも存在する。彼女らが後者にあたるな。何かしらの要因でそういった存在と契約を結んだんだろう、彼女らは。だいたい、僕の氷柱で貫かれて生きているアンザスが人間の筈がない。その姉が人間でないのもまた道理だよ」

 

ケイアスは深追いするのを諦めて撤退準備を整える。

 

「さぁ、今日はお暇しよう。今の時点では僕らは彼女らに対抗する策がない。よほどセイバーが執念深いのかい?」

 

「─────殺す。気配は覚えている。あの男は、今すぐ殺す」

 

ランサーはケイアスの撤退指示を無視して飛び去った。

森の中はケイアス一人になってしまう。

 

「────参った…………」

 

予想外の出来事にケイアスが若干不満の表情を浮かべる。

 

「まるでバーサーカーだ。まぁ、騎士っていうのはそういうものか…………彼の好きにさせるとしよう。どうせ結果は見えている。まさか彼が負けることはないのだから」

 

ケイアスはランサーを止めることもなく、ただ一人、山道を外れて、木々の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

「あら、ここから先は通行止めよ、お兄さん」

 

しかし、そのケイアスの前に、

 

「──────誰かな」

 

ひとりの女性が立って居た。

木々の間から抜けた真っ暗な空。黒洞々とした大空に浮かぶ金色の月を背に、髪の長い女性が立っていた。

優雅に立つ黒髪の、着物姿の女性。その顔は実に美しい。

人間のあらゆる美を突き詰めた果てのような、女性が夢見るような穏やかな顔。

揺れる木の葉が似合うような、優雅で優美な艶やかな(かお)

 

「─────綺麗なお方だ。相手がただの女性なら、言い寄りたいところだが、そうも行かないな。何者だい、そちらの方」

 

「─────サーヴァント・セイバー、と名乗れば良いでしょうか。名前なんてこの地上ではいろいろとありましたから」

 

「ほう、女性剣豪?見るからに十二単を着て、動けるようなタイプには見えないがね」

 

あくまで冷静に対処するケイアス。

 

「これは運命か?さっきセイバーのサーヴァントを追って僕のサーヴァントが行ってしまった。これは君の狙いかな、リカルド氏」

 

「あら。さすがはユグドミレニアの最強兵器。可能な限り気配は消していたはずなのですけど」

 

セイバーの後ろからもうひとり女性が現れる。

山葵色の髪に、赤と紫の瞳。

ベージュとブラウンのコートを羽織った、まさにオトナの女性、と言った風体だ。

 

「だとしたら、気配遮断の学び直しを勧めるよ。君ほどオーラが強い魔術師は逆に少ない。アルゴノーツ、とかいう苗字なのに、バリバリの日本サーヴァントじゃないか。正直、失望の色を隠せないよ」

 

「アルゴノーツはかの有名なギリシャの英雄たちのことだけでなく、「英雄」そのものの意味も指します。我々アルゴノーツは英霊との出会いのみを神秘として見なしているのです。様々なことをやろうとして結局割れてしまった半端者のユグドミレニアには分からないでしょうね。英霊を実体化させる、このサーヴァントというシステムの素晴らしさ、美しさを」

 

女性、リカルドは手を広げて高らかに笑う。

 

「サーヴァントはマスターの道具ではなく、れっきとした英雄です。昔の英霊、英雄、伝承に伝わる存在を現実に呼び戻す、その神秘の数値は計り知れないものです。我々アルゴノーツは、そこに利用価値を見出したのです。たかだか聖杯戦争の兵器だなんて勿体無い。サーヴァントには現世を好きなだけ満喫させなければならない、そうでしょう?マスターならわかるはずです。自分のサーヴァントを、幸せにしてやりたいと」

 

「わからないね。残念だけど、訊く相手を間違えたね。僕はユグドミレニアの最強兵器。あの時から僕は、ダーニック様の大望を叶えること以外、なにも望まない」

 

「あら、失敬。筋金入りの優秀な魔術師にする話ではありませんね。一般人枠で聖杯戦争に参加している人や、覚悟のない半端な魔術師なら伝わったと思うんですが、確かに、貴方のような優秀な魔術師には伝わらないでしょう」

 

「それで?君は何が目的なんだい?リカルド氏。まだエンケラドゥス一門とやり合うつもりかい?神秘の独占なんて野暮に向かって」

 

リカルドは一瞬意外そうな表情をしたあと、おほん、と咳払いをする。

 

「残念ですが、その目的はもう諦めましたよ」

 

淡泊にひとつ。それだけ言って、リカルドは後ろへ向かって歩き出す。

 

「へぇ…………つまり、他にやることができたわけだ」

 

「えぇ、サーヴァントを、いえ、英雄を尊ぶ我々ならではの、ね。────姫、今日の所は撤退と致しましょう。これ以上、彼に干渉しても、得られるものはありませんよ」

 

リカルドは本当に、そのまま撤退してしまった。

一体僕になんの用だったんだ。とケイアスは心で思うが言わぬが花と思って口にはしなかった。

 

「そのようですね。それでは、近いうちにまたお会いしましょう、ケイアス様。マスター様の言う通り、貴方にもう用はありません。ですので、次お会いした時は、交戦となります。貴方のサーヴァントにもお伝え願います」

 

うやうやしく一礼して姫………セイバーはリカルドに続いて帰っていった。

 

「待った、最後にこれだけは訊かせてくれ、セイバー」

 

「─────はい、なんでしょう」

 

「今、この聖杯戦争はどうなっているんだ?君たちは、向こうの方にも手を出すのかい?」

 

「─────それは、マスター様が決めることです。…………まぁ、敵が何人増えようと、結果は同じだと思います」

 

セイバーはそれだけ言い残して、木々の向こうへと消えていった。

 

 

 

「──────」

 

辺りは今度こそ静寂に包まれる。

 

「まずい………かな………これ………」

 

ケイアスの危惧のつぶやきは、それこそ誰にも聞こえなかった。




いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。マジカル赤褐色です。とりあえずようやく、全サーヴァントとそのマスターが集結しました。
読者の皆様お察しの通り、本編で登場したあの正式セイバーとそのマスターであるリカルド・アルゴノーツがラスボス格の強敵として銀子の正宗の前に立ちはだかります。目的が不明なアルクェイド、謎の人物リィン・トーサカとそのサーヴァントであるキャスター、総曹連合会の時雨、密かに忘れ去られていた晴燕寺先輩、姿の見えないアサシンのサーヴァント、最強のマスターケイアス、まだまだ深いマリオン姉妹の謎、メイド姿のバーサーカー、千藤家の知られざる秘密や銀子の過去など、その他紆余曲折を経て、この正式非正式の全面聖杯戦争の闘いはもう一人のセイバー、「姫」の元へとありつきます。先に言っちゃいますが、姫セイバーは本作屈指のチートキャラです。たぶん、Fate的に、最もサーヴァント化したらまずい和鯖のうちの一人に該当すると思います。
ヤバすぎる性能に、正直「これやらかしたかも」ってなったぐらいです。
で、読者のみなさんが思っていたのが、「なんでリカルドはアルゴノーツのサーヴァントを呼ばない?」という点なんですが、リカルドが語った通りアルゴノーツに英雄という意味があるっていうのもそうなんですが………

正しくは作者がいい感じのサーヴァントを用意できなかった、というとこにあります笑笑
もとからリカルドはラスボス級キャラという絶対の設定を用意してはいたんですが、これはダメだろっていう感じのチートキャラを用意できなかったんです。アルゴノーツって強いけどラスボスにはなれないという宿命があるので。メディアもヘラクレスもアタランテも。全員強いのにギルガメッシュみたいなのがいるせいでラスボスにはなれない。
本作はアポクリファみたいな大作とは違い、聖杯戦争が正式と非正式の二つがあるってこと以外目立った特色がないので、最強のサーヴァントを用意しないとまずいなと。なんで、アダムなんかを考えてもいたんですが、いくらなんでもつまらなんな、と。気付いたらなんでもアリ枠であるバーサーカーは埋まってたし、なので後で埋めようとしていたセイバー枠で正宗と対比させるような、強力なサーヴァントを入れようとした結果、姫セイバーが誕生しました。
正宗が喚んでもないのに銀子の元にやってきた、っていうとこにもちゃんとした理由をつけたかったのもあります。
姫セイバーの真名はもちろん………あの人ですね。
それでは、これからの展開もお楽しみに!

完全版 好きなサーヴァントは?

  • 非正式セイバー(三度笠セイバー)
  • 非正式アーチャー(紬アーチャー)
  • 非正式ランサー(ランサーお爺)
  • 非正式ライダー(アンザスライダー)
  • 非正式キャスター・オベロン(妖精王)
  • 非正式キャスター・リアン(妖精妃)
  • 非正式アサシン(遠野志貴)
  • 非正式バーサーカー(アルクェイド)
  • 正式セイバー(姫セイバー)
  • 正式アーチャー(モンゴルアーチャー)
  • 正式ランサー(ケイアスランサー)
  • 正式ライダー(エインスライダー)
  • 正式キャスター(リィンキャスター)
  • 正式アサシン(見えないアサシン)
  • 正式バーサーカー(メイドのバーサーカー)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。