かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

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氷所冷織を連れて撤退した麗花やアーチャー。時間稼ぎをするために追っ手である氷所正親を足止めするために病院に残ることを決めたセイバーと銀子。
正親の背中から生えてくる竜の頭を前に、セイバーと銀子は勝利への活路を開くことができるのだろうか?


第四十五章 魔腕覚醒

 

「構わん、全員撃ち殺せ………!!」

 

正親の声と共に全兵が銃を構える。

だが、彼らは人を殺すことを善しとしていない。

死傷者が一人も出ていないのがその証拠だ。銀子やセイバーを妨害する気はあるが、殺すのは嫌ならしい。

 

この弾丸には命の保証がある。

だが、かといって無視できない問題ではない。万が一の事もあるし、ここで足止め食らったらただひとり殺意を持つ正親にやられる。

 

「セイバー、なるべく傷付けないように彼らを追い払って、私は正親を捕まえる」

 

「いいぜ、露払いは任しときな!!」

 

セイバーと銀子は役割分担しながら正親に接近する。

正親との距離そのものは30メートルにも満たない。

わずか数歩で詰めることができる短い距離だ。

 

「全隊、男を集中的に撃て。女のほうは私が片付ける」

 

正親の背中から生えている竜の首は次々に銀子へと放たれる。

的確だ。戦力の9割がたをセイバーの足止めに回し、その隙に正親が銀子を攻撃する。

純粋な個体のパワーにおいては正親が圧倒的。ほかの兵士は牽制にしかならない。一般人相手には一溜りもない軍隊だが、魔術師、ないしは銀子ほどの強者になってくると、意味のわからない攻撃をしてくる正親の方が脅威となりうる。

 

「邪魔だ邪魔だァ!!どけどけェ!!」

 

セイバーは手にした太刀で、雹のように次々と飛来する銃弾を切り伏せ、兵士を蹴り飛ばしていく。

 

「はぁぁぁッ!!!」

 

脇差片手に銀子が正親へ迫る。

 

「くっ…………おのれ…………」

 

床が崩れて竜の頭が銀子の身体へ肉薄してくる。

自分の身長よりも大きい怪物の頭を見ても、銀子は恐れることを知らない。

 

「ふ─────!!」

 

真上から降ってきた噛み付きをスライディングで華麗に避けていく。銀子の真後ろで床が弾けとんで大きな落とし穴が拓いた。

紙一重の回避に見えるが、銀子はギリギリを責めて少しでも体力の消費を減らしているだけなのだ。

つまるところ、銀子にとって、この状況は、自分の体力という、命と比べたら考えることでもないほどの些事を考えるほど余裕の状況なのだ。

 

滑り抜けた銀子の先から頭が襲いかかってくる。

頭の大きさは同じだが、首の長さは自由自在のようだ。おそらく、ショッピングモールの中央エリア並みに広いこの待合室の中なら余裕で端まで届くのだろう。

避けることでしか凌げない。距離を取るほど不利になる。

どこまで行っても、この病院の中にいれば正親のリーチ圏内なのだ。

「はっ!!」

 

(弾かれた…………!? 馬鹿な!)

 

銀子の脇差が口周りを押さえつけ、銀子自身の強力な後ろ蹴りが頭を弾き飛ばしたのだ。

 

(人並み外れた身体能力の持ち主………武器は脇差ではなく、その肉体そのもの。だが何故だ、質量的にも体積的にもあの攻撃に勝ち目がないことは明らかなのに。だがあの女は蹴り飛ばした。もし、あの少女が如何なる拳法や暗殺術を持っていたと仮定しても、その筋肉量と身長ではどうあっても勝てない筈だ。なぜなら、どれほど強くとも、素早くともアレは【人間の少女】なのだから)

 

正親が余計な考え事をしている間も時間が止まるわけではない。

 

「よっ…………と、」

 

強烈な攻撃で弾かれて怯んだ竜の頭に飛び乗り、首を伝って走ってきた銀子があっという間に正親との距離を詰めきってしまった。

 

「はぁ────せぃ!!」

 

「馬鹿な…………!!」

 

間一髪、別の首を盾に回したことで、正親の後退が間に合った。

しかし、

 

「─────なんだと…………!?」

 

銀子の攻撃を押さえつけようとした竜の首二体ぶんが両方真っ二つになっていた。

さらに、床には刀で切りつけたような斬痕が深く刻まれていた。

 

(純正種でないとはいえ、幻想種の頸を2本同時に切断…………!!さらに床を両断………?それも脇差で、か!?)

 

岡崎正宗の刀は全英霊の中で最高峰の刀である。

それを持てば一般人であろうと簡単なものなら一刀両断なのだ。

 

 

 

 

 

なのだが……………流石に、幻想種二体ぶんをスパッと切り捨てるのはおかしい。

 

 

 

本来ならセイバー本人でも苦労する筈だ。

それを、銀子は人間の筋力で切り捨てた。

 

 

 

(やはりこの女はおかしい。どんな方法かは不明だが、明らかに何かしらの手段で肉体を強化している。しかも魔術の類いを使った形跡が一切ない。予備動作も詠唱もなければ、魔術回路の発起もない。ただの一般人が、魔術も使わずに技術だけで肉体を強化しているというのか…………!?)

 

正親が銀子の姿を追うべく、辺りを見渡すが、そこには銀子の姿などどこにもない。

 

(何処へ消えた…………?)

 

その真後ろから。

 

(まずい…………!!)

 

真後ろ、その下からの高速の突き上げが正親の頬を切り裂いた。

 

「ぐっ…………!!」

 

頬が深々と抉られて血が飛び散る。

だが銀子の攻撃は一切終わらない。

 

(強襲とはいえ、筋肉の収縮が速すぎて見えなかった。肉体の関節、筋肉、その他機能の回転が速すぎる。戦闘用ホムンクルスの領域を越えている、これは……………)

 

銀子の伸びきった腕が90度に捻れる。

左脚が一歩先の地面を踏みしめる。

 

(竜をけしかけるときに右腕を出しているから相手は右利き。だから回避方向は右、後方の傾向にある。さっきの回避が後方で、次が身体を反らす回避────右利きの人間が後方回避をすると多くの場合、踏み切り足が後ろに行くように癖付けられている。だから背後から攻撃して【わざと躱させる】ようにすれば必然的に、私から遠い踏み切らない方の足、すなわち左脚を軸にして背後を振り向いて避ける。相手は左脚の急制動の直後の硬直により後方回避不可能。そして60センチ以上開脚しているこの状態では踏み切り脚は床を踏みしめている左脚のみ。よって左脚を爆発させた右回避が確定。そこを狙えば────!!)

 

銀子がめいっぱい伸ばした脚が正親のすぐ右側を踏みしめる。

 

(右回避…………!!開脚している状態での後方跳躍は不可能、そして右脚が浮いているため、左脚を踏み切って右に避けなければならない…………)

 

銀子の予想は完全に的中してしまう。

正親は攻撃を凌げていたのではなく、確実に仕留められるように、銀子に動きを制限されただけだった。

 

(右側の回避行動が確定、予備動作も確認。だから、避ける先に待機するように身体を翻して────!!)

 

腰のツイストから爆ぜるように大回転する銀子の上半身。

回った身体は壁になるように、突如真横から飛び出してきた車のように、正親の逃げ先の前に現れる。

 

(何っ……………!!!)

 

「ハァァァァ!!!」

 

銀子の強烈な当て身が炸裂する。

身体の芯を完全に固定し、制動をより正確なものになるよう調節した銀子の当て身は発達した柔らかい女性の身体から放たれるとは思えない威力を引き出した。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

6メートルほど吹き飛ばされ、さらにもう4メートルほど転がり、正親は10メートルも距離を引き離された。

距離が離れるほど正親は有利。先ほどと違うのは、残りの体力。

正親は老いつつある自身の体力のほぼすべてを回避行動に消費したが、目立った結果は得られず、逆に回避後の大きな隙をさらして銀子に吹き飛ばされた。

 

「甘い……………なにもかも……………」

 

銀子の小さな口からは、真っ白な煙のようなものが出ているように見える。

それは呼吸だろうか。周囲の気流の流れが変わるほどの深呼吸。

しかし、それは体育の準備体操の深呼吸とは大きく異なる。構えている状態で口を大きく開くこともなく息を吸っている。

 

(なんだ、あの呼吸法は。凄まじい量の酸素を取り込んでいる。酸素を多く取り込むことで肉体を一時的に強化しているのか?…………いや、だが。そうなるとあの女は常にその呼吸法で生活していることになる。肉体のサイズと火力が一致しない。常に彼女が肉体強化状態でなければあのような動きはできない筈だ。そもそも、息を吸ったところですぐに肉体が強化されるわけではない。酸素の循環にはある程度の時間が掛かる筈だ。その時間をどこで稼いだ?いや、逆か。どうやって酸素が循環しきるタイミングで攻撃できるように調整した?まさか、こちらの回避方向は最初から読まれていたのか…………?それなら、攻撃のタイミングが強化完了のタイミングと一致するには辻褄が合うが…………)

 

しかし、正親にはまた別の疑問が生まれる。

 

(え??????じゃあ、そもそもなんでこの女はそのような人並み外れた身体能力を持っているんだ?)

 

答えは簡単だ。銀子はそういう風に育ってきたからだ。そういう技巧を、誰かから教わっただけのことだ。

 

(不思議。こんな時になると突然、正しい身体の動かし方が分かる。もう私、無意識にできるようになっているのかもしれない。【身体を作り替える】方法を)

 

銀子の肉体は一切変形していない。

筋肉量も、身長も髪の長さも。

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

銀子の背後で竜に噛まれた状態で吊り上げられているサーヴァントが一騎。

 

「────セイバー!!」

 

あわてて銀子がセイバーを助けようと駆けつけた次の瞬間。

 

「ギンコ、バカやめろ!!」

 

「今だ────!!!」

 

地中で息を潜めていた残りの竜が正親の指示と同時に、一斉に銀子に襲いかかってきた。

 

「しまっ────」

 

四方から一斉に巨大な竜の頭。

それを避けることは流石の銀子でもできなかった。

反応が間に合わなかった時点で、銀子の回避は間に合わない。技術的には容易いものだったのかもしれないが、先程のものは銀子の判断ミスだ。

そう、聖杯戦争を知らず、間違いで巻き込まれた一般人だから無理もないが、彼女はマスターこそがサーヴァントにとって最大の弱点であることを忘れていた。

サーヴァントを使えない状態のマスターが敵に背中を向けるなど、自殺行為であった。

 

「まず……………!!」

 

銀子は絶対絶命の状況でうずくまるしかなかった。

極力身体の大きさを縮めて、少しでもやられないようにするしかない。

だがそれも虚しく、さらにもう一つ。

下から生えてきた竜の口が銀子を丸飲みしてしまった。

 

何が起きたのかわからずに口の中へ吸い込まれた銀子を覆うように、強靭な紅の(あぎと)が閉ざされた。

 

 

 

「ギンコ─────!!!」

 

セイバーが自分の身体ごと竜の首を刀で引き裂く。

潰れた首から飛び降りて、銀子が飲み込まれた首を目指す。

 

だが、その必要はなかった。

 

 

 

「う────わぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

強烈な閃光と共に、竜の首が大爆発した。

サーヴァントであるセイバーすらもモロに吹き飛ばされた。

 

 

「────手を貸そう。妹を守ってくれたぶんの返済だ」

 

 

ざっ、ざっ、と乾いた足音。

 

「ちょ、手前…………!?」

 

セイバーの横から出てきたのはさっきまで戦いを傍観していた青年だった。

 

「響也……………」

 

「なんだよ、社会の燃えないゴミ」

 

「くっ……………」

 

焼け跡から銀子が出てくる。爆発をある程度受けたのか、擦り傷などの軽傷があるが命に別状はないようだ。

 

「大丈夫かギンコ」

 

「うん…………えーと、それで…………?」

 

「どうやらあとは向こうで片付けるみてぇだ。俺らは少し離れるぜ」

 

「ちょ、なに言ってるの?いくらなんでも一人では無謀だから!」

 

銀子は響也を指差して慌てる。

 

「必要ねぇよ。雑魚は俺が全員失神させたし、たぶんアイツならあのジジイに勝てるわ」

 

「だけど…………!!」

 

「じゃあこう言えば解るか?近付くとお前たちも死ぬぞ」

 

響也本人の一言で銀子は黙ってしまった。

 

「やるか────まったく。注射は嫌いだ」

 

響也はズボンのポケットから注射器を取り出すと、服を捲って腹に突き刺した。

 

「ぐ─────っ…………うぅぅぅっ…………!!」

 

漏れる苦悶。注射ってそんなに痛くはないはずだが、それもそうか。

響也は幼い頃から注射が大の苦手なのだ。

今、注射器を刺したことになにか意味があるのかはさておき。

 

「ふぅ……………まず最初に礼儀が要るよな。殺し合いにも礼節が要る。お前ら、親父に味方するわけじゃねぇなら早く出ていけ」

 

響也の一言で失神していたはずの兵たちが魔法を掛けられたように目覚めだした。

 

「ひ、ひぃぃぃ………!!」

 

「響也様、申し訳ございませんでした!!」

 

「うるせぇ、さっさと出ていけクソ虫が!!」

 

悲鳴をあげながら次々と兵たちが逃げていく。その先で響也の後ろにいた兵たちに取り押さえられる。

 

(すんごい威圧感………)

 

(あぁ、こいつぁ悲鳴上げるのもわかるぜ)

 

響也の貫禄は銀子たちも気圧されるほどだった。

 

「これで全員か?残っているのは全員そのゴミの味方か?」

 

しかし、全員逃げるわけではなかった。

中には何人か正親側として残っていた者もいた。

響也に対する恐怖も山々だが、いわゆる旦那様にあたる正親への忠誠心がそれに打ち勝った。

 

「返事はなしか?そうか。構わない。寧ろ俺の圧に屈せず信念を貫き通したこと、実に見事だ、賞賛をくれてやる」

 

響也にも謎の礼儀やこだわりがあるようだ。

 

 

 

「では、今を以て────この場にいる氷所正親派全員を処分する」

 

 

 

一言。

 

 

 

魔腕(まわん)開放────!!」

 

 

 

響也はそう叫んで、左腕に巻き付けてあった黒い布を引き剥がした。

 

中から出てきたのは普通の人間とまったくかわらない白い腕。

常に布を巻いて日に焼けなかったからか、顔や右腕に比べるともっともっと色白だ。

生まれたての赤ん坊のように真っ白なその両手はたちまち真っ黒に変色する。

 

一秒後には人間の腕の形は一切残っていなかった。

それは真っ黒なオーラに包まれた、正常な右腕の2倍以上の長さを持つ、塗りつぶしかのような漆黒の輪郭で包まれた、黒い光を持つ悪魔の左腕(かいな)なり。

 

「死を選ぶ勇者愚者に煉獄を、我に抗う下人罪人に辺獄を。────汝との契約を以て、我が左腕に命ず。この場の全員を殺せ。その死を呼ぶ黒腕による裁きの酌量を、この肉体より生える豪腕の主導権を、この場の全ての存在の生殺与奪を、我に委ねよ!!」

 

左手の甲が赤黒く光だす。

 

「セイバー、あれ!!」

 

「あぁ、アレは…………」

 

銀子とセイバーがそれを指差す。

 

「令呪の輝きよ!?」

「令呪の輝きだ!?」

 

「魔腕駆動、(ほろ)べ!!────妄喪心腕(ザバーニーヤ)!!」

 

響也の叫びと共に、悪魔の腕が唸りを上げて急激に伸びる。

響也が銀子と良い勝負になるほどの高速の踏み込みから跳躍。前傾姿勢から、変容した左腕を突き出す。

伸びた腕は確実に兵士を捕らえようと室内を駆ける。

 

「わ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

真っ先に狙ったのは響也から一番近かった兵士ではなく、

 

「…………あ、れ……なんでオレ………」

 

「わぁぁぁぁぁぁ!?なんでオレなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

残酷にも一番距離を取っていた兵士に向けられた。凶腕は容赦なく兵士を掴む。

銃を放つが弾丸は腕の闇に呑まれて虚ろの海へと消えていった。

 

「え、なんで、うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

胴体をがっちりと捕まれる。掌の大きさは気がつけば人間の身長を上回っていた。

 

「潰れろ」

 

響也は左腕を力強く握りしめる。

当たり前だが、こんな巨大な腕で握り潰されたらあっという間にゲームオーバーだ。

 

「やめ、やめて、やめて、いぁぁぁぁぁぁぁやめてよぉぉぉぉぉ!!からだ、オレのからだが、ぎぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ミシミシという骨にヒビの入る音すらなし、真っ先に聞こえたのは骨がバキバキと折れるだけの音。

次に聞こえたのはぶちゃっ、と内蔵が圧迫されて潰れる音。

 

「あは、あははは、は、は、はハハハハハハハ!!!!オレ、…………壊れちゃった!!オレのカラダ、ぶっこわれちゃったよぉぉ、、ぉぉあぁぁぁぁぁ!!、ヒ、ャハハハ、ァァァァ!!うぇぉぅ、ぃぁぁぁぁぁ!オレ、死ぬノ?マジぃ!?こんな、潰れてぇぇぇ

あとかた、もなくきえ、

ちゃうのオレ

 

はぁぁ!?どうそれはいやだ、誰かたすけ

はあらっ、誰か

おぉぉぉ

 

うぁぁぁぁっ、!う」

 

 

ブチィィィン、という爽快な破裂音と共に、兵士の肉体が文字通りミンチのように潰れた。

黒い制服を来た白肌の若者は、酒豪一生ぶんの赤ワインとなって病院の床に散った。

白塗りの清潔な床がまがまがしい赤に染まってカラフルなアートが完成する。

白と赤の相容れないコントラストが美しい。死から逃れられるための施設が死の色に染まる相反する象徴の争いが波となって広がっていく。

 

 

響也がずかずかと正親のいる方向へ向かって歩んでいく。

すぐそこに残骸が落ちていた。

跡形もなくなっていたのに、目玉だけは綺麗に残っていたようだ。真ん丸なビー玉が転がっているみたいだ。

 

響也はそれを一度見ると、なんの感想も述べず、ただ無印象にそれをぐちゃっ、と踏み潰しながら先を急ぐ。

真っ白な繊維が赤い液体を少しだけ溢しながら無様にぺちゃんこになって元の球のカタチを失ってぶちまけられている。

 

血管も水晶体も踏み潰されてもはやそれが目玉だったことすら忘れてしまいそうだ。

 

 

「────ふん、次だ」

 

響也はさらなる標的を定めて腕を伸ばす。

 

「あぁぁぁぁ、次はオレ、かよぉぉぁあよ!?ぎぁぁぁぁぁぁ!!オレ、は、来ないでって、思ってたのにィィ、ィィ、ィィィィ、や、ぁぁあぁぁあわ、らわ

 

あわ、ぁぁぁぁ、ぁ!!!うぇげぇぇぃぁぁぁぁぁぁぶぉぉぇぇぇっ……っっ!!」

 

今度は生きたまま頭蓋を真っ二つに割られる。

ぶっ壊れた噴水のように赤水を撒き散らしながら、歯みがき粉のようなシワシワの固形物をどろどろと溢れさせていく。

 

響也はそれすらも勢いよく踏み潰しながら先へ先へと歩く。

後ろにある肉塊はまだ生きている。

 

「ぁぁぁぁあ、はぁぁぁぁぁ、ははははは!!あいうえおあああああいうえお、かきくけけけけけけこさしししし」

 

「────────」

 

心底耳障りだと言わんばかりに背を向けたまま生きた死体を左手の拳で押し潰す。

またトマトスープの鍋ができあがった。

 

 

 

「──────────」

 

銀子はその様子を見て息を飲む。

流石の銀子も、耐えられるグロテスクと耐えられないグロテスクが存在する。

 

「─────────ザバーニーヤ………?」

 

ただ一人、セイバーが冷静にものを考えている。

だが、セイバーは銀子とは違って目の前の惨状からは目を反らしている。

とても見ていられるようなものじゃないのだろう。響也の連れた兵とそれに取り抑えられた元正親側の兵は床に広がる血の海にも近い量の吐瀉物を吐き出している。

当然だ。こんな地獄絵図、常人にはとても見れるようなものではない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

余った兵たちが一斉に突撃してくる。

しかしそれはまるで通用しない。あるものは耳を千切られて四肢を切断され、あるものは目玉を潰された直後に顎を切り離され、またあるものは局部を潰された後に背中の皮を剥がされた。

 

「くっ…………!!」

 

正親の竜が下から突き出てくる。

 

「む───────」

 

それに突き上げられて高く吹き飛ばされる響也。

響也はさらに横からやってきた別の頭に噛みつかれ、身動きが取れなくなる。

 

 

 

「セイバー、火は起こせる?」

 

「なぁに、朝飯前だよ。俺を誰だと思ってやがる、ンなもんお安いご用だ」

 

セイバーが刀で床を軽く一閃すると、刀身が赤い焔を噴き上げた。

首がすべて響也に回されている隙に銀子は血溜まりから何かの入った袋を回収する。この期に及んで血溜まりに入ることを銀子は何とも思っていないようだ。

大方の物は跡形もなくなっていたが、なんとか同じ袋を四つ回収してきた。

銀子はそれを死体から回収した靴紐で器用に手早く結ぶ。

 

「手際良いな」

 

「ふん、紙ゴミの束を縛るぐらい半分寝たままでもできるから。そんなことより準備は?」

 

「おうよ、手前の考えは相棒の俺が一番わかってるぜ」

 

セイバーが燃える刀を構える。

 

「いくよ、セイバーーーーー!!!!!」

 

銀子はその塊を勢いよく響也に向かって投げつける。

響也に向かって投げつけられたその袋束は竜の口の中へ放り込まれる。

 

「そぉぉぉぉぉらよッッッ!!!」

 

燃える刀が回転しながら投擲される。

ブーメランのように回転しながら飛んでいく炎環は日輪となってちょうど竜の口の中へ飛んでいき、銀子の投げた袋に突き刺さった。

 

と、同時に。激しい閃光と共に大爆発が起こり、竜の頭がまとめて吹き飛ばされた。

 

銀子が投げた袋に入っていたのは銃に使う火薬。匂いで気づいた銀子はそれを束ねて投げつけ、セイバーの焔で着火。たちまち大爆発を引き起こしたのだ。

 

「酷いな、借りを返している最中に貸しを作るのか。かたじけないな」

 

爆発の煙の中から響也が飛び出てくる。

無傷かつ無事のようだ。

 

「なに、こんなの貸したうちに入らないわよ」

 

「そうだそうだ、お安いご用だぜ」

 

 

 

「ふん、お人好し共め────それで?どうするんだよ、クソ親父?」

 

ここで初めて、響也はニヤけながらにじりよって正親を見つめた。

 

「ふぅ…………お前もだんだん、私に逆らうようになってきたな。これはもう、反抗期とは言えないな」

 

そして、様子がさらにおかしいのは正親。

先程の当主としての貫禄は消え失せ、そこにいるのは一見穏和な表情を見せる中年の紳士だった。

 

 

悪魔と悪魔が見つめ合う。

片方は悪魔の腕、もう片方は大蛇の首。

 

 

ここに、新たなる幻想の神話が築かれた。

 

 

文字通り、神の話の舞台であるそこには誰も関われない。

部外者は認識すらされず、ただ熱量に呑まれて消えるだけ。

 

 

 

そこで始まるものは、既に殺し合いの次元を越えてしまっていた。

 

 

 

その舞台がよりにもよって病院であったことはこれ以上ない皮肉だということは明確だったのに、そこにいる誰もがそんな簡単なことすら考えられなかった。




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございますマジカル赤褐色です。
投稿速度が上がったと言うことはお察しのとおり間に合いませんでした(詳しくは前回の後書きを参照)。
まぁ、聖杯とかじゃないらしいのでまだ許す。
えーしかし、石がほぼなくなりました。お栄さんのせいです。おかげで5分の1にまで石が減りました。呼符も3分の1になりました。ここで欲しい鯖来たらー、その時はおわたにえんのお茶漬けです笑
周年鯖が気になるところですが、まぁ、近頃Fakeのアニメもありますからもちろん、あのお方でしょうね~。原作読んでいない方はアニメ見る前に是非読んでください、図書館とかで貸し出ししてるとこもあったりしますから。成田様のあの文章は何もかもが天才ですよ。良い意味で次元が違いすぎて何が起きているのか文章じゃわからないんです。まぁ、そもそもFateシリーズの中でも、屈指のハイレベルな聖杯戦争っていうのもあるんですけどね、マスターもサーヴァントもあり得ないくらい強いのばっかりなんで。とにかくハンザさんがカッコよすぎる。てかネタ枠に近い。
原作ではハンザという代行者のキャラが敵に投げつけられた椅子を蹴り返すシーンがあるんですが、それがもう頭おかしすぎて初見では爆笑不可避でした。あそこアニメ化してくれるといいな~
そしてもう発表されたムービーにもありましたが、好きな食べ物がまさかのハバネロ。辛いものと代行者はセット。────いや、その、カレーと麻婆豆腐はわかるよ。でも、ハバネロはもう香辛料そのものやん笑
辛いものと代行者がセットということで本作でもアンザスが無類の担々麺好きだったり、姉のエインスが激辛エビチリマニアだったり。もうそういう文化なんでしょうね。まぁ、チョコミント好きな教師とかワインで賭け事するサーヴァントもいますがそれはそれ。
書籍のCMでも黒鍵投げてましたが、あれもまたかっこいい。
代行者にとって黒鍵使うのはマニアらしいですね。────誰だそんなこと言ったやつ。逆に黒鍵使わない代行者の名前挙げてみろ笑
最近は代行者だけじゃなくて教師やサーヴァントまで、なんなら現役のお兄ちゃんまでもが黒鍵投げる時代だぞ。
黒鍵ない代行者は代行者じゃないだろ。大事な文化にした重要な武装だぞ。
それを時代掛かりと小バカにしたナニモンナンデス、貴様アルクコヤンシステムされてぇのか。
さて話は変わりますが、最後にセイバーが燃える刀投げるシーンありましたよね。別にセイバーの刀が燃えるのは今に始まったことではありませんが、セイバーの刀はなぜか無性に燃やしたくなります。
だってほら、刀鍛冶といえば焔ですし、そもそも日本刀って燃えがちですからね。なんで我々はこんなにも刀を燃やしたいのだろう。
日本刀は燃えるものとして定着している風潮ありますよね。でもね、こんなおかしな話しているものの、刀が燃える演出の世界って意外と深いんですよ。
だって、世代によって燃える刀と聞いて誰を想像するか大きく別れますからね。
まぁ、燃える刀といったらやっぱり志々雄の一択でしょ。るろうに剣心は和風刀剣アクションの世界に大革命をもたらした不朽の名作ですからね。志々雄はちゃんと刀が燃える科学的な理由が存在しているっていうのが面白いんですよ。そんなアクションの歴史を塗り替えた名作の敵が燃える剣使ってたらそりゃ燃える剣=志々雄でしょ。
他にはBLEACHの山本総隊長だったりね。
FGOもネロやガウェインが剣燃やしてましたね。刀に絞ったらしっかり村正も燃やすし。
厳密には燃えてないけど炎の呼吸やヒノカミ神楽も刀が燃える演出ですよね。まぁ、いちおう爆血刀はガチで燃えてるけどそんな細かいところはどうでもいいとして。
昔から刀が燃えるっていう演出がよくありますよね。やっぱり刀はとんでもない熱で鍛えられているからですかね、よくわからないけど昔から燃える風潮がある笑
たぶん、志々雄が燃える刀の歴史を作り、刀が燃えるっていうのは科学や魔法といった理由が付くものだけじゃなくて精神論にも関わってきているんじゃないかなぁって思います。
理由はそれぞれだけど、ただ科学的に燃えているっていうことじゃなくて、ただその攻撃が火を彷彿とさせていたり、キャラが自身を燃やし尽くすほどの全力を出したときに刀って燃えるんです。
うちのセイバーだって、摩擦で火を起こしたりしていたわけじゃないんです。特に理由は用意してないです。刀鍛冶のサーヴァントの能力としてあるのでもいいし、鍛造錬成の賜物として得た副産物とかでもいいし。
意味がないのに何かの意味を感じる演出って奥が深くて興味深いですよね~
さて、長くなりすぎて疲れたので今回はここでお開きといきましょう。

それでは、次回もお楽しみに!

完全版 好きなサーヴァントは?

  • 非正式セイバー(三度笠セイバー)
  • 非正式アーチャー(紬アーチャー)
  • 非正式ランサー(ランサーお爺)
  • 非正式ライダー(アンザスライダー)
  • 非正式キャスター・オベロン(妖精王)
  • 非正式キャスター・リアン(妖精妃)
  • 非正式アサシン(遠野志貴)
  • 非正式バーサーカー(アルクェイド)
  • 正式セイバー(姫セイバー)
  • 正式アーチャー(モンゴルアーチャー)
  • 正式ランサー(ケイアスランサー)
  • 正式ライダー(エインスライダー)
  • 正式キャスター(リィンキャスター)
  • 正式アサシン(見えないアサシン)
  • 正式バーサーカー(メイドのバーサーカー)
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