このままいればいつか自分は人を殺してしまう、それを恐れた銀子はセイバーと決別。
響也を連れて、正式ライダーが教えてくれた「街の外れにある教会」を目指していた。
「え!?逃げられた!?」
リィン・トーサカは自身のサーヴァントの報告を聞き付けて優雅に飲んでいた紅茶をカップの中へ噴き出してしまった。
あまりの衝撃と突然の噴き出しでゲホゲホ、とむせる。
ひとしきり咳をはらった後、リィンはキャスターを見つめる。
「何しているのよ…………折角よさげなサーヴァントを捕まえたっていうのに」
「すまない、マイ・マスター。まさか私自身も、あの結界を破られるとは思ってもいなかった。まだこの屋敷が【かつての私の陣地】にいまだ程遠いというのもあるのだが、それでも監視機能のひとつやふたつ、付けておくべきだった。心から謝罪する」
正式キャスターはそう言って、リィンの前に跪く。
「むぅ……………いいわよ別に。やられたわけじゃないんだし」
一方でリィンはこうもあっさりと許してしまった。意外と寛容な性格なのかもしれない。
「でも、アイツらが出た方法ぐらいは教えて貰うわよ」
「承知した。彼らはどうやら魔術によって脱出したようだ。と言ってもまぁ、魔術による結界から脱走する手段など魔術に限る。だが、あのアーチャー、スサノオの能力ではなさそうだ。どちらかというとマスターの方だろう」
「えぇ~。つまり、そのマスターはこの結界を破るような魔術が使えるってことね」
「まさか。考えてみなさい、君が牢屋に極悪犯を閉じ込める時、扉の鍵穴は普通外につけるものだろう。わざわざ内側になど作るものか」
「えーと、つまり………?ごめんなさい、私、魔術はさっぱりわからないの。SDの限界」
「どうやら、相手マスターによって結界のハッキングに近い行為をされたのだろう。まぁ、無論並みの魔術師では絶対に解除できぬような構造にはしていたが、こうも容易く破られるとは………式の構築に私自身が2日掛けたのだから、普通逆から1個ずつアンロックするとなればどんなに早くとも3日~5日は要する筈だったのだが、今回は相手が
「3日~5日を1日…………なんなら数時間で?信じられないわよ、大誤算にも程が無い?グルメ番組だったら一発で自腹確定よ」
「私の影響で君に何でも喩えを用いて説明する癖を移してしまったようだな……………だが申し訳ない、君の用いる比喩はまったく解らん。─────憶測だが、向こうはおそらくどのような結界でも一瞬で突破できるのかもしれん。時間さえあればピッキングに千年掛けるような鍵穴が作れないでもない。だが、【マスターキー】となるような要素があれば、どんな厳重な扉であれ一発だ。おそらく相手は、各種結界に対する共通のシステムに干渉できるという可能性が高い。成る程そういうことか、しまったな。アレを閉じ込めるのなら、下手に魔術で構築した結界よりも、普通にコンクリートブロックの中に閉じ込めるほうが早かったのかもしれん」
「ふむ、そうなると少し厄介な相手ね」
リィンにもこれなら説明がついたみたいだ。
まずいことになったなと頭を悩ませる。
「そもそも、マスターの責任にするつもりではないが、この屋敷を扱うのが少々厳しい。規模は私のものよりも広大だが、そのぶん管理が面倒だし、空気感も異なるために全く全力が尽くせん」
拗ねたようにキャスターは言う。
「まぁ、どんなサーヴァントもそんなもんよ。この屋敷はトーサカ邸に寄せたものだからね。貴方がジシン・トーサカだったら全力出せたかしら?」
平気な顔をしてリィンは冗談を言う。
「
「うるさいわね~。日本語って難しすぎるわよ。なんで片仮名と平仮名が50個ずつあるのにそこに
「君の国だってスペイン語話したりポルトガル語話したりしているじゃないか……………」
「関係ないわよ。アメリカは州で異なるんだから。てか私英語しか話せませんし!─────とにかく、逃げられたとしても宝具でも使っていない限りは大丈夫よ。貴方はその姿のままなら真名がだいたいバレないんだから」
「宝具か、「
「マジ最悪、絶対看破されたじゃん」
リィンは椅子から飛び降りたら、頭を抱えて絨毯の上にうずくまる。
「どうすれば良いだろうか、マスター。逃げた者を追って戦闘に持ち込むか?」
申し訳なさそうにキャスターはうずくまっているリィンに歩み寄る。
「あったりまえじゃない!すぐ出発よ!令呪を以て命ずるわ、そこら辺にいるマスターを全員潰しなさい!」
リィンはギンギンの目でキャスターを睨み付けると令呪を構えて命令した。
「ちょっ、君はもう少し後先を考えなさい!?」
キャスターがあわてて手を差し出すがもう遅い。令呪一画の消費が完了した。
「はぁ………………」とキャスターは俯いて頭を掻く。
「あのだな、君はいくらなんでも
「当たり前じゃない、やられる前にやる、それが私のスタンスよ」
「もう、滅茶苦茶だな…………」
呆れたようにキャスターはお手上げすると、背中を向けて部屋を去っていった。
「さて、進撃にはゴーレムを使うとするか。君はどうする、ここから私の応援をしながら寝転がってスマホを見る生活か?」
「えぇ。頑張って~。私、戦う能力ないから」
「君な、仮にも第五次聖杯戦争を勝ち抜いたリィン・トーサカだろう?まぁ、正確には敗退したが生き残った、という解釈だが。にしても、そんな強力なマスターともあろう人物が、指揮も支援もせずにニート三昧なのは感心できんぞ」
「──────リィン・トーサカの素性を知っているの?」
リィンはスマホの画面を見つめながらキャスターに問いかける。
「当然だ。マスターの事ぐらい、この本で調べるさ。だが、どうも情報が何もかも一致しない。君はなんというか、リィン・トーサカに向いていないというか?そんな気がするんだ」
「ほうほう、鋭いわね。さすがはキャスターのサーヴァント…………近世にあった最高の錬金術師ってとこかしら」
「君の方こそ、何の宝具も見せていないのに私の真名を看破するとは冴えている。お互いに隠し事をしてはいるが、どうやら相手には筒抜けのようだ」
「いやいや…………貴方の上着の胸に差してある
「まぁ、そんなとこだろうとは思っていたがね」
上着に薔薇の花を差したキャスターはやはりそこに浮かんである本と共に、トーサカ邸を後にした。
「ふぅ────────」
キャスターは初めて、作業以外の目的で屋敷の外へ出た。
進軍行為は初めてで慣れないことも多いが、そこにある愉しみは計り知れない物であろうと彼の唇が嗤っている。
「──────行こう、【マハト】。私らの到来を待ちわびいている人々に、【魔術】ではない【技術】による奇跡を見せるとしよう!」
令呪による強制とはいえサーヴァントとしてそれらしく戦うのも初めて。彼の興奮は絶頂に達していた。
「キャスター!!!電子レンジが爆発したー!!!スパゲッティにフォーク突き刺しっぱにしていたからかな~?とにかく大変なことになってるから助けてー!!!」
そんな時、屋敷のほうからリィンの叫び声がした。
「────────────────」
キャスターはため息つくことすら億劫になって、すぐさまリィンの元へと舞い戻るのであった。
「──────ここが…………」
車窓から背の高い、白壁の美しい教会が見えた。
「言われた場所はこちらで間違いないでしょう。本当に降りられますか?」
運転手が運転席からこちらを向いて丁寧に私に聞いてくる。
私は黙ってうなずいた。
「そうか。じゃあさっさと降りろ。俺は一足先にお前の仲間が居るという邸宅に行って妹と合流してくる。お前は用事だけ済ませたらここに手配しておく別の車に乗って後から来ればいい」
なんでもないように、冷たくも暖かい親切をくれる響也さん。
車2台を普通に手配…………経済力の塊か。
なんだかんだでいい人だ。
「響也さん、ありがとうございます。なんか、色々してくださって」
私はリムジンの一番後ろの座席で寝かせていたエインスさんを背負って車から降りると開いた窓から響也さんにお礼を言う。
「礼をしたいのはこっちの方だ。冷織を保護してくれたのはお前なんだ。一生かけて感謝するぞ。あのクソサーヴァントに捨てられたお前の事は、しばらくの間面倒見てやる」
響也さんはめんどくさそうにそっぽ向いて言うと、車は走り出していってしまった。
「───────自分の事でも精一杯だろうに」
それでもこちらに尽くしてくれる彼に感謝しながら、私は改めてこの建物の正門を見つめる。
門は空いていたが、入る気になれない。
教会はもともと神聖な場所であるというのもそうだが、ここに居る魔術師となると、ただ者ではないのは確かだ。
今は亡きライダーさんの紹介とはいえ、簡単に話が通じそうにも思えない。
「──────でも、行くしかない」
ここで止まってても死ぬだけだ。
サーヴァントを失った私にはもう生き残る術がない。だから、匿って貰うか、せめて盾にできる人物がほしい。ここに入ってやられるのも、ここで何もせずにやられるのも同じだ。
何か動きがあるこちらの道を選ぶ。
そうして、私は門をくぐった。
立派な庭園の向こうに見える荘厳な聖堂。
見ているだけで胸がぐっ、と引き締められる。宗教に関係のない人間にすら、神の畏怖、神々しさというモノを植え付けてくる。
足がすくみそうだが関係ない。先へ向かおう。
エインスさんを背中に背負っていくのは大変だ。女性の中では軽いが、死んだ人間もそれはそれでまた別の重さを感じる。
死んだら人間は軽くなるはずなのだけど。
「────────あ」
少し先に、人がいた。
ここの関係者かと思ったが法服を着ていないからそうではないようだ。赤い髪の毛の、黒のレザージャケットに身を包んだ青年。
だが、遠くからでもわかるこのピリついた辛い空気、サーヴァントのものだ。
この教会にいるという魔術師は、彼を従えているマスターなのだろうか?
「──────ご苦労だったな」
青年は全て知っていたかのように、私のことを出迎えてくれた。
「あ、あんたは……………」
「一昨日、お宅のお仲間にやられたライダーのサーヴァントだ。だが別に恨みとかはねぇから、身構えなくてもいいぞ」
赤毛の青年は私のことを敵とも思っていないようだ。
「い、いいの?私がもしかしたらこの人を殺した犯人だって、疑ったりはしないの?」
「確かに目を見れば、オマエは死体を見慣れているみたいだな。だが、一方で、人を殺す度胸があるようには見えない。だいたい、サーヴァントの一騎も連れていない雑魚を、いちいち相手にするか?」
「いや、そんな必要ない…………」
「あぁ、そうだよな。だから、ここではオレのことは信用してくれていい。オレのマスターの命令次第だが、殺れと言われていない以上は絶対に手出しはしねぇ。英雄として当然の礼節だ」
誇る事もなく、規律正しく、それが正義であるかのように男は主張する。
「───────私に何があったのか、話してもいい?」
何故か、この人だけは信用できる気がする。
「いいぜ。なんの解決案もくれてやらねぇがな」
教会の中に入ると、一昨日私がビルから一緒に落ちたあのシスターが待っていた。
気まずいが、特になんの会話もなく、シスターはエインスさんの体だけ無言で持っていった。
確か、家族じゃなかったのかな…………あの二人。
何か、言うこととかないのかな。
体格差的にエインスさんが姉かな?…………が亡くなられて、シスターはどんな心持ちで、私から体を受け取ったのだろう。
「──────心配すんな。家族の別れを惜しむような意気地無しが、聖杯戦争に参加などしねぇ」
「──────いま、」
私、黙っていたよね。
「顔を見りゃあ分かる、安心しろ。二人は合流した日から、便所に行くだの、買い出しに行くだの、とにかく二人が離れる度に別れを覚悟しているってアンザスが言ってた。聖杯戦争では文字通り、いつ死ぬのか分かったもんじゃない」
「───────────────」
「だから毎回毎回、永遠の別れになる覚悟で望んでいるんだ。とりわけ、家族で参加しちまった場合はな」
「そんなの………………」
「間違っている…………か。まぁ、どうなんだろうな。でもアイツの本音はどうなんだろう。オレも聞いてねぇし、聞くつもりもねぇしな」
ライダーとアンザスという名前のあのシスターさんとの関係性はマスターとサーヴァントのようだ。
だが、お互い深くは触れない関係性なのかもしれない。
なんか、距離感が良いというか。
「それで?オマエにあった事って?」
そうして、私はライダーにさっきの出来事を説明した。
氷所冷織を襲ってきた正親のことから、セイバーが突然エインスさんを斬ったこと、そしてそれでエインスさんが亡くなったこと、そして私はそれを期にセイバーと別れたことまで全部。
一通り聞き終わると、ライダーはうーむ、と唸った。
「結論から言うと…………とんだ災難だったな」
「喜ばないんだ。一人、敵が減ったっていうのに」
「ハン、敵だと思ってもねぇからな。自意識過剰だな、オマエら」
アーチャーにやられといて何を言っているんだ。
「ま、冗談だ。純粋に興味深いし、他人事じゃあねぇしな」
「それはその、エリミネーターっていうサーヴァントが?」
「それもある。けど、その前に、自分の仲間を裏切るセイバーが許せねぇんだ。なんだって仲間を裏切るんだ。エインスはオレの大切な仲間っていうのもあるが、それ以前に何故仮にも英雄ともあろうヤツが外道働きをしやがる」
どうやら、ライダーからするとエインスさんがやられたことよりも、非道に走ったセイバーのほうが腹立たしいらしい。
「…………サーヴァント失格ね、あんた」
「なんとでも言え。オレはサーヴァントじゃなくて英雄だ。ご主人サマの為に働いてえらいえらいして貰うそこいらの使い魔とは違ぇんだよ」
ライダーはいとも簡単に自分を英雄だと言ってみせた。
「サーヴァントっていうのは気難しい生き物だからな。勝敗とか以前に、自分の誇りとか、一家の名誉とかの方を気にする。エリミネーターにとっちゃ、それは【与えられた仕事を全うする事】にあったんだろうな」
「解せないのに、解るの?」
矛盾した台詞だ。彼はセイバーを許せない、理解し難いと言いながら、彼の信念は解っている。
「何言ってるんだ、解るから争うんだろうが。相手の正義が、自分の正義と相容れないと解っているから、オレたちは互いに争うんだろ?」
「はぁ………………英雄って複雑ね」
「オマエにもいずれわかる時が来るさ─────さてはオマエ、誰も傷つけずに聖杯戦争を生き残る気か…………?」
そこまで自信に満ちていた清々しい声が一転、本気で私の身を案じているような声に変わった。
「──────うん」
「──────正気か?」
「──────じゃないなら、私はもうとっくに壊れている」
「しょうがねぇヤツだな」
ライダーは呆れてため息をつくと、私に現実を突きつけてきた。
「残念な話だが…………聖杯戦争は殺し合い、オマエにやる気がなくても周りは全員やる気だ。オレだって、命令ひとつでオマエの首もはねる。みんな仲良く譲り合いしましょうね、なんて甘い話じゃねぇ」
「わかっているわよ、そんなこと」
だから、いつも峰打ちにしたり、仲間にしたりしていたんだ。
「エリミネーターだって、オマエの不殺に反してでもやりたい仕事をしたんだ。オマエだって、いつかは、【やらなくちゃいけねぇ】選択をする事になるぞ。まだ、先の話かもしれねぇがな」
「だって、今までは誰も……………」
「【今までは】じゃねぇ、【これからも】だよ、大事なのは。忠告してやる、今のオマエのままじゃ、絶対にどこかでやらなくちゃならねぇ時が来る。唯一誰も殺さずに終わらせたいなら、オマエが殺られるしかない」
「───────────」
「オマエは自分で判断したみてぇだが、その選択は大きな間違いだ。いや、その局面じゃあロクな正解こそないんだがな。オマエがエリミネーターと絶交した今、オマエはいつでも殺される状態なんだ。言ってしまえば残りライフ1。しかもシールドもアタッカーもない。ダイレクトアタックされて即死。相手のフェイズが始まっただけでオマエは死ぬ。オマエ、自分がそういう状況だってこと理解できてんのか?」
「────────────」
「オマエはエリミネーターと居たら、本当に人を殺してしまうかもしれない。そう判断したんだろ?確かに、あのルートならこれからの事を選ぶことすら出来なかっただろう。だが、こっちの道に来てしまったせいでオマエの生存率は最悪に落ちた。6割程度あったのが1厘程度に下がったんだ。装甲となるサーヴァントがいねぇオマエなんて、装甲車どころかオープンカー…………いや、むしろ原付だよ」
………………そう。
私は、一番危険なルートを、選んでしまったのだ。
「────────────」
「白黒つけろよ。オマエはどうしたいんだ?【殺したくない】のか?それとも、【生き残りたい】のか?」
「私は………………」
ライダーの問い詰めに、私は言葉を失う。
───────生きろ。
───────生きろ、銀子。
───────生きろ、■■■■■。
「私は……………………誰も殺さずに生き残りたい」
私は、彼の眼を見てそう言った。
いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。マジカル赤褐色です。
実は3話ほど貯金ができていましたので、一つ使わせて貰いました。エインスとライダーはもう少し活躍させてやりたかったなぁ…………なんて思っているんですがね。
とりあえずこっからはアイアスに頑張って貰います、今のところ、アイアスは噛ませですからね。
基本、本作に噛ませは存在しません。全員、宝具を全種使って爪痕残して貰います。なので、【まだ切り札を残したまま退場する】ようなサーヴァントはございません。
シキやキャスターも、持っている切り札全部使って消えましたのでね。これからもサーヴァントが消えたりするときは全部やった後になります。
さて、次回の貯蔵も用意できているんですが、まぁ次回が一番衝撃大きい回になると思います。
ついに【あの人】が大変なことになっちゃいますよ~。
次回もお楽しみに。
完全版 好きなサーヴァントは?
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非正式セイバー(三度笠セイバー)
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非正式アーチャー(紬アーチャー)
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非正式ランサー(ランサーお爺)
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非正式ライダー(アンザスライダー)
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非正式キャスター・オベロン(妖精王)
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非正式キャスター・リアン(妖精妃)
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非正式アサシン(遠野志貴)
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非正式バーサーカー(アルクェイド)
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正式セイバー(姫セイバー)
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正式アーチャー(モンゴルアーチャー)
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正式ランサー(ケイアスランサー)
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正式ライダー(エインスライダー)
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正式キャスター(リィンキャスター)
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正式アサシン(見えないアサシン)
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正式バーサーカー(メイドのバーサーカー)