別作品でも話した内容なんですが、これだけは本当に伝えたいのでここでもまったく同じ文章を張らせて貰います。
本編の執筆はちょっとリアルの忙しさ的に全然追い付いておりませんが、この作品のことはまだ忘れていません。気長に待っていてください。
皆様こんにちは。マジカル赤褐色です。
本来はお正月茶番を出す予定でしたが、急遽予定を変更して、今回のお話をさせていただきます。
まず、石川県民、富山県民、その他日本海付近にお住まいの皆様がこの文を読んでくださっていることを、私は非常に嬉しく思います。
生きていてくれて、よかった。
まずはそれだけです。
小説は自分が思っていることを語りかけるぐらいしかできないので一方的な話です。
なので、大丈夫でしたか?とか、訊きたいことはありますが、それは小説の性質上、できません。
ですが、私は心から皆様の生存と生還を祈っております。それだけは決して嘘ではありません。
……………どうか、生きて帰ってきて。
不安だった人のための気休めではありませんが、このお話を読んで気を紛らわして貰えたら助かります。少しでも、元気を与えられたら嬉しいです。
これは私の実体験なので、生々しい部分もありますが、それはもう無視してもらって結構です。
なんなら、別にフィクションでもいいですよ、本当に奇跡のお話なので。
とにかく、私は読者の皆さんに伝えたいことを伝えたいだけですから。
ちなみに、これを読んでほしいのはすべての人間です。
被害に遭われた方はもちろん、地震の被害に遭わなかった方も是非読んでください。
なお、話は一部読みやすいように要約しておりますが、本来の私の体験から言わせると。
─────書いてある側としては、こんなもんでは済まされない有り様でした。
要約しているから読みやすいけど…………
あれは、言葉という物では言い表せない地獄だったのです。
───────2011年、3月11日。
太平洋沖地震、すなわち東日本大震災が発生した日の事。
当時の私は宮城県民で、学校に通っていた。
学校で授業を受けていたある日、突然小さな揺れを感じた。
「先生、地震」
クラスメイトの一人が「あっ」と気付いたように一声。
「そうですね、揺れてますね」
先生も黒板に走らせるチョークの手を止め、揺れに気付く。
「──────いかん、これはかなり」
先生の額に汗が浮かぶ。
そう、最初の揺れはすごく小さかったのになぜか鳴り止まない。
揺れは、長かった。
「─────きゃぁぁぁ!!」
突然に、クラスメイトたちが一斉に悲鳴を上げた。
唐突に、揺れは大きくなり、より一層力を強めた。
地震といえば横に動くものだろう。横に揺れるものが地震。
しかし、今日の地震は、横じゃない。縦に揺れたのだ。
実際はどうだったのだろう。しかし、私にはあのときの感覚をよく覚えている。
上下に動くセカイの流れを。
空へ飛んでいってしまいそうな机の浮きかたを。
「机の下に隠れてください!頭を守って!」
言いながら、先生も教卓の中に身を潜める。
私と皆は先生の指示の通り、机の中に身体を入れてみるが、結局なんにも。
机の脚をつかんでも何度も机が倒れそうになった。
揺れが強すぎて。そして、自分らの手が震えすぎて。
どれぐらい待っただろう、ようやく揺れが収まった。
「─────大丈夫でしょう、先生は今から職員室で先生方とお話をします。皆さんはそのまま待機していてください」
先生はそういって、恐る恐る机から出てくると、教室の扉を開けて外へ出ていった。
私は先生がいなくなった隙に、こっそりと机から顔を出す。
教室はひどい有り様だった。
文房具や教科書は床に散乱しており、立て掛けてあったものはすべて倒れている。
幸いにも、窓ガラスは割れなかったため、誰も怪我はしていない。
窓ガラスが地震で割れると、教室の端から端まで飛んでくるって先生が言っていた。
そんな事態だけは避けれただけでもありがたいと思って、私は机の中に身体を戻した。
「──────皆さん、今すぐ教室を出てください、避難しますよ」
先生はそう言うと、ヘルメットをかぶって生徒たちを並ばせることもなく、足早に教室を出ようとする。
「避難ってどこにですか?」
「津波が届かないところまで、届かなくなるまで。ずっと」
先生は扉を開けて外に出た。
生徒たちも訳がわからないままに、身支度をしていく。
「鞄を漁る暇などありません!全員今すぐ出なさい!」
先生が怒鳴った。
これしきのことで怒る必要はない。普段は優しいし、怒ったりもしないおだやかな先生がここまで声を荒げるか。
後から思えば、本当にそれほどの事だった。
皆は仕方なく鞄や教材を起きっぱにして教室を出る。
先生は早足で生徒の先を行く。
私も生徒たちに続いて先を急ぐ。
廊下は他の教室から流れ込んできた生徒の波で溢れかえっており、とにかくワーワーとうるさい。
こんな状況だ、パニックになるのも無理はなかった。
「おれが先だ!」
「前の列はやくして!」
「おまえどけよ!」
教室から、おしくらまんじゅうをしている廊下に出るのにすら、しばらく時間がかかった。
ようやく私は自分の身体を無理やり押し込んで、クラスメイトたちに続く。
私たちの教室は今では覚えていないが二階か三階か、とりあえず高いところにあったので、階段を降りなくてはならない。
階段は廊下よりも幅が狭い。だから必然、そこはさらにさらに混雑するのだ。
生徒を一列一列並ばせていればこうはならないのに。…………私はそう思っていた。
私には実は昔から精神障害に近いものがあり、とにかく物事に対する印象の持ち方が周りと乖離していた。
大問題といえる出来事を大したことないように思ったりするように。
だから、津波が来ると知ったとき、「そうなんだ~」で終わってしまった。
津波なんて見たことがなかったから。あれの恐ろしさをまだ私は知らなかった。
人は未知なるものに恐怖するというが、私の場合、その未知に対する警戒心が著しく欠けていた。
だから、いつも行き当たりばったりで向かい、物事の先読みができず、直行的で、浅はかで、軽率な行動ばかり取っていた。
ちなみに、これは今でも同じだ。この性格とは一生の付き合いをしなくてはならない。
──────さて、話を戻すが。
私はクラスメイトたちに続いて逃げようとしていた。少なくとも津波がヤバイやつということだけは流石の私でも理解はしていたからだ。
とりあえず避難はしようと、そう思っていた。
だが、私は我先に逃げるというほどの危機感がなかったため、私は他の生徒たちが階段を降りようと争奪戦をしているのを見て、
「これに参加するのは馬鹿馬鹿しいな」
と、思った。
なので、私は他の人たちと距離を置いて、階段が空くのを待った。
しかし、この校舎はまだ上がある。
上から降りてくる生徒たちもいるわけだ。
だから、この階層の生徒が降りるのを待ちながら、上から降りてくる生徒たちも待たなくてはならない。
宮城は学校が少ないため、一学校における生徒数が非常に多い。
何人いたのかな。少なくとも1000人は平気でいた。
その数が一斉に降りるのを待つのに、どれだけ時間がかかったか。
いちおう中央階段と西かな、東かな。どちらかに階段があったので1000人は待っていないかもだが、どのみち時間はかかった。
皆が我先にと逃げていく中、私はみんなに道を譲っていたのだ。
今になって思えばなんて馬鹿なやつだ。
そんなことをしたら─────
「あっ…………あれっ」
クラスメイトたちを見失うに決まっているだろう。
全員が階段を降りるのを待ち、最後の一人が下へ消えた後。
私はそこに一人だった。あんなに騒がしかった階段は私一人になっていた。
クラスメイトを見失った。どこへ逃げたらいいのかわからない。
仕方なく私は誰も通らなくなっただだっ広い階段をのこのこと降り、裏門から学校を出た。
後で知ったのだが、皆は正門から出たらしい。
私がなぜわざわざ裏門から出たかというと、通学路が裏門からだったからだ。
裏門から登下校していたので、私にとってはこっちこそが「学校のいつもの出入口」という認識だったのだ。
無意識にこっちへ出る。さっきから言っているように、無意識に軽率な行動を取るのは私の昔からの癖だ。
一人になったら仕方ない、怖いが一人で避難するしかない。
だが、私の脳内に一つ、こんな考えが浮かんだ。
(そういえば、家族は無事なのだろうか)
その一抹の不安が私の脳裏を掠めたとき、私の脚は、海の方向にある、私の家へと続く道に向いていた。
(そうだ、こっちに行っていれば逃げてくる家族と合流できるかもしれない。その時は一緒に避難すればいいじゃないか)
私は危機感を持たないだけあって、冷静な対応を取るのが得意。
だから無我夢中に本能的に逃げるという行為がなかった。
何か深いことを考えながら動いていた。
私はその時、これを完璧な考えだと思っていた。
何が冷静だ。こんなアホな考え、誰が思い付くのか。
今だったらこんなことは絶対にしなかっただろうに。
「そろそろ着くな」
私は家の近くまで走ってきた。
家族の心配をしていたので、もちろん学校から出るときのようにのこのこと歩いてなどいない。ちゃんと走った。
全速力で走ったこともあり、もう限界だが。
ともあれ、家の近くだ。家族には会えなかったが、家に着けば出会えるはずだ。
きっと、私が学校から避難するより先に家に帰ってくることを予測してくれて待ってくれていたにちがいない。
「もうすぐ家の近くに……………あれ?」
だが、私の目に映ったのは、家の付近ではなかった。
いつも見慣れた街はすっかり変貌しており、未知のセカイへとかわっていた。
──────なんだ、アレは。
家屋が水に流されている。
てゆーか、家の近くに茶色の湖ができていた。
「───────────」
私の前に現れたのは住み慣れた街ではなく、変わり果てた我が街であった。
車が、家屋が、その他諸々が流されている。バラバラになって渦に呑まれている。
自分があんなところに来てしまえばどうなるかなんて…………想像するには容易だ。
あの時、私はアレを間近で見ていた。高台から見下ろすとかそんな遠くからではなかった。
本当に、1キロもなかったかもしれない。
「ヤバい……………逃げないと!!!」
流石の私も家屋が流されるのを見たら危機感が沸いてくる。
これだけはヤバイ。これだけは本当にまずい。
─────死ぬ。マジで死ぬ。
アレに呑み込まれたらほんとうに死んでしまう。
私は全速力で走った後でろくに走れない脚で、来た方向にまた走り出した。
大丈夫だ、こんなに速く走れば。
それに、まぁまぁな距離もあったんだから行ける。
ある程度は坂道になっているから水も上がってこれないさ。
加えて、たかが水だ。この土地を見ろ。
この平野のありったけの広大さ。
コップに水を入れるのと、25メートルプールに水を入れるのとでは、同じ高さまで水が溜まるのに要する時間がまったく異なる。
25メートルプールと仙台平野の比較をしたらもう無理だ。
脚が浸水することは絶対にないだろう。
水が来たとしても大したことはない。
あの高潮の波に殴られたりしなければ大丈夫だろう。
あれに打ち付けられたから家屋があんなんになっただけで、浸水する程度ではこうはならない。建物って固いんだから。
大丈夫、大丈夫。絶対に逃げれるさ。
私は全力で走っていた。
家族の心配なんて、もう忘れていた。
「冷たッ!?」
───────しかし。
反対に走ってしばらくして、私の靴は急に濡れ始めた。
立ち止まって下を見下ろせば、私の足首は浸水していた。
後ろを見る。さっき走っている時にちらっと見た家屋が倒壊していた。
「────────え?」
なんで?あの波って、こんなところまでは来ないでしょ?
てか、もうこんなに浸水するの!?
25メートルプールと比べて、どんだけ広いと思っているんだ仙台平野。
こんな高さまで浸水したこと、今までない。どんだけ大雨が降ろうと、台風が来ようと、こんなんにはなったことがない。
足首から下が切り落とされたように見えない。
濁った水のせいだ。
「あ………………あぁ……………」
気付けば、自分の目の前に続く道すら、もう茶色の水で浸されており、道が見えなくなっていた。
落とし穴なんてあったら落下不可避。
見えない。マジで見えない。
「進まないと……………!!」
必死に脚を動かすが、私の脚はびくともしない。
疲れもある、うん。しかし、それ以上に…………
「水が…………重い…………っ!!!」
水圧が強すぎるせいで、まったく脚が動かない。
どんなに力を籠めてもだめだ。
動かない、動けない。逃げれない。
「そんな、どうして、どうして!!!」
焦りが出てくる。
───────次の瞬間、
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私は右脚に激痛を感じた。
立っていられなくなって地面に尻餅を付く。
「────────」
その時に気付いた。
私の脚に、なにやら大きな…………透明な板が矢尻のように突き刺さっていた。
脚から見たことのない色の血を流している。
校庭を走り回って転んだときのあの血と違う色をしている。なんか、もっと綺麗で、禍々しくて不気味な色をしている。
「う─────あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
恐怖と激痛で泣き喚く。
しかし、動けない。水圧で脚をとられ、疲労で脚が止まり、加えて脚に巨大なガラス片が突き刺さり、激痛で動けない。
「くっ…………うっ、うぅぅぅ…………」
怖さと痛さで涙が出てくる。
それでも生まれもった冷静さが欠けない私は、いまだに色んなことを考えていた。
あの時、階段をさっさと降りていればよかったかもしれない。
正門から出ればよかったかもしれない、そもそも家になんて向かわなければよかったのかもしれない。
学校に残っていたかもしれない先生に避難場所を聞くなり、同行してもらったら。
なんなら、仲の良い友だちや隣の席の子と集まって逃げたらよかったかもしれない。
いろんな後悔が後になってから浮かんでは消えていく。
………………私の身体は、座りこんだままの状態で波に流されていく。
滑り台を滑るような勢いと感覚だったが、ちっとも楽しくはなかった。
あるのは絶対の終わりという確信のみ。
死の予感と、それに対する恐怖。
ただ、それだけだった。
────────だが、
「ぐすっ…………死にたくないよ……………」
生きていたいという思いは、まだ尽きてなどいなかった。
「───────────」
動きようがないので、私は座ったままでしばらく波に身を預けていた。
流れてきた固形物を掴んでとにかく吹っ飛ばされないようにする。
そしてしばらくしていたら、知らない場所に流れ着いた。
津波が一時的に引いたのか。
たしかに、水の入ったコップを平行に素早くスライドすると、右や左に向かって交互に水のかさが上がったり下がったりする。
今はその余韻なのか。
とりあえずは、なんか生き残れたらしい。
運良く津波が前に押し出してくれたようで、津波はある程度進んだら戻ってくれた。
流されている途中でいろんな箇所を打ったり切ったりして怪我だらけだが、まだ生きているなら。
「………………生きてる!」
私は両腕を高々と上げて万歳するようにガッツボーズをした。
……………でもこれからどうしよう。
「まずはこれを…………」
刺さっているままでは動けない。
脚にずっと刺さっているこの巨大なガラス片を抜かないことには……………
「うぎゃぁぁぁぁ!!!」
私はガラス片に触れようとした瞬間に驚いて飛び上がった。
目の前から走ってくる一台の白い車のクラクションに驚いたのだ。
いやいや、だって動けないから。
「邪魔だよ」とクラクション鳴らされても。
すごいスピードで走ってきた車は私の前のギリギリで止まり、運転席から誰か降りてきた。
「まったく!なにしてんのあんたはこの馬鹿!!」
白い車からおっさんを予想していたが降りてきたのは若い女の人だった。
たしかに、あの運転はかなり慣れてなさそうな様子だった。
「ごめんなさい、でももう歩けないから」
「ちがうちがう!走行の邪魔だから怒ってるんじゃないのよこっちは!あーもう、ちょっとこっち来なさい馬鹿」
お姉さんは私の身体を抱き上げると、そのまま後部座席のシートをたたんでそこに私を押し込んだ。
災害時じゃなかったら完全に誘拐だが、私はとにかく人がいると言うことだけで信用できた。ものすごく安心した。
「はい、じっとしてて」
私を運転席に押し込むと、お姉さんはブランケットを出して、ガラス片の刺さった私の脚に被せてくれた。
巻くほどではなかったが、軽く服で押さえるかのようにかけてくれたのだ。
そして、私の上の服を強引に脱がせると自分が上から着ていた上着を上半身裸の私にかけてくれた。
「
「馬鹿。抜いたらダメよ、絶対に」
「なんで?抜かなかったら邪魔だよ、いまだってすごく痛いし」
「馬鹿。抜いたら血がもっともっと大量に出てきてしまうから。そうなったら死ぬわ」
このお姉さん、言うことが簡潔すぎて分かりやすいんだが言い方が淡泊すぎて怖い。
普通に息をするように死ぬとか言ってくる。しかも、めっちゃバカバカ言ってくるし。
「嫌だ………死にたくないよ!」
「えぇ、誰だってそうに決まってるわよ。まったく…………津波警報範囲のド真ん中で一人とかほんと大馬鹿者ね」
「馬鹿じゃないもん、マジカル赤褐色って名前があるもん!」
これは私のクラスで「バカ」とか言われて罵られたときの返しとして定番だった。
だから反射的に出てしまった。
「んなもん知ってるわけないでしょ馬鹿」
「お姉さんはだれ?」
「ひとみ」
この人は「ひとみ」さん(仮名)。
私を命の危機から救ってくれた人です。
私は脚が浸水し、ガラス片が脚に刺さって動かないで居て、流れついた場所にそのまま動けずに座り込んでいたときに偶然そこを通りかかったお姉さん。
車で避難していたそうで、その道中で私を見つけたそうです。
私がなんとかガラス片を抜こうとしていろんな力の入れ方をしながら試行錯誤していた時にクラクションを突然鳴らされ、びっくりして止まっていたところで、
運転席の窓から「馬鹿、刺さったもの抜いちゃダメでしょ!」と叱ってきたのが彼女との出会いでした。
口癖は「馬鹿」。覚えている限りでもかなり馬鹿馬鹿言われました。
さすがにここまでではなかったとは思いますが。
実質的に彼女がいなければ、私はここに居ませんし、今日を生きてもいませんし、こんな作品を執筆などしていません。
まさに、命の恩人です。
「へぇ、それは凄い怖い思いをしたんだね」
ひとみさんはぶっきらぼうな口調と男気ある性格が特徴的だったが、私に起きた出来事は真剣に聞いてくれた。
「しかし、ホントに君は馬鹿だね。階段降りるのを待ったのも馬鹿だけど、海に近寄ったのが一番の馬鹿」
「うん……………」
私はほんとうにそう思うと頷きながら、車の後ろに置いてあった防災グッズに目をやる。
水のはいったペットボトルが大量にある。
喉が乾いていて干からびてしまいそうだった。ちょっと借りたいところだ。
「ひとみさん、お水ちょっとだけ貰ってもいい?」
「馬鹿、ダメに決まってるでしょ」
「いいじゃん意地悪ー」
「馬鹿、違うわよ。大量に血を流している時に水飲んだら数少ない血液が薄まって死ぬわよ」
だから現実の突き付け方がストレートすぎるって。
「ヒエッ…………」
「まったく、怪我した時のことぐらい知っておきなさい。学校で習わないの?」
「そんなことは教わらなかった。ひとみさんはなんでそんなこと知っているの?」
「知り合いが消防隊やってるからね」
だから気が強くて正義感が強くて、私をあんなに軽々と持ち上げれたのか。
いや、腕力は関係ないか。
「あの…………まだ言ってなかったんだけど…………ありがとうございます」
「いいのよ、道端で君みたいなの見つけたら放っておけない性格なのよ、あたしは」
「優しいね」
「言われすぎてちっとも嬉しくないわね」
そうして私はひとみさんの車で最寄の避難所に到着した。
救護所の医師が診てくれて、とりあえず命に関わるほどのものではないと明らかになっただけ助かった。
ガラス片も上手く取り除いて貰い、次の日から私はしばらく避難所の布団で寝かされることになった。
「───────────」
生きている。
それに、これからも生きていける。
その歓喜があったけれど……………
「お母さん、お父さん……………」
家族に、まだ会えていない。
「どしたのよ、そんな悲しそうな顔しちゃって。男ならもっとしゃきっとせんかい」
「ひとみさん……………」
横にひとみさんが屈んで面倒を見てくれるそうだ。
「俺、家族に会いたいんだ」
「家族?」
「うん。昨日から顔を見ていないからさ」
「そっか」
ひとみさんは困ったような顔をする。
「君が津波に向かうなんて馬鹿なことしてまで会いたかった家族だもんね、そりゃあ相当会いたいか」
私は黙ってそれに頷く。
「ひとみさんは、一人暮らしなの?」
「いや、両親と三人」
「ひとみさんのお父さんとお母さんはどこに居るの?」
ひとみさんはわからない、と首を振る。
まぁたしかに、ひとみさんもずっとここで私の保護者代理として寝泊まりしているからそりゃあそうか。
「置いてきたのよ」
「置いてきた?」
「あたしはあの時家に居たんだけど、逃げるので精一杯だったから家族の帰りを待っている余裕なんてなかったのよ」
「────────待ってあげないの?」
私だったら絶対に待つ。
「馬鹿ねぇ」
「出た、また馬鹿」
「自分の安全が最優先に決まっているでしょ。なにのんきに人の心配なんてしているのよこの馬鹿」
「でも、大切な家族を見捨てるなんてできないよ」
「馬鹿。家族はどこに居るかわからないのよ。もしかしたら上手いこと逃げれているかもしれないじゃない。それなのにまだ逃げ遅れていると思い込んで津波に直行してハイさよならなんて馬鹿馬鹿しいでしょ」
「それは………………」
「君が生き残れたのは控えめにいって奇跡よ。君は脚を取られて波に呑まれて死ぬ、ガラス片が刺さって死ぬ、流されて死ぬ、自分でガラス片を抜き取って死ぬ、あたしが通りかからずに死ぬ、あたしが通りかかってもそのまま無視されて死ぬ。合計6回も死ねたのよ。君はそれらを悉く死に損なうことに成功した」
「すごいね、ラッキーだよ」
「えぇ、ラッキーとかの次元じゃないわ。一生ぶんの運は飛んだわよ」
「俺は生きているならそれでいいよ」
あっ…………………
「良く言ったわ、偉いわよ」
ひとみさんは私の頭を撫でてくれた。
「自分で言えたじゃない。「自分が生きていれたらそれで十分だ」って」
ひとみさんは初めて、それらしく私に笑顔を見せてくれた。
「ひとみさん、」
「なに?」
「じゃあひとみさんは、なんで家族は見捨てれたのに、俺を拾ってくれたの?」
「……………………」
「ひとみさんに無視されて6回死ねたって…………ひとみさんは俺を見捨てて逃げることもできたのに、わざわざ俺を助けたってことでしょ?津波が来たばかりの場所でわざわざ止まってまで俺を助けたのはなんで?」
「──────あたしには兄貴がいたの」
「お兄ちゃんが?」
「えぇ。あたしは君が津波に巻き込まれるより前、兄貴と一緒に津波に呑まれたのよ。波に流される妹を助けようと、兄貴は自ら波に飛び込んできた。逃げることよりも、助けることの方が大事だった。兄貴としてではなく、人命を救助する者として」
───────もしかして、ひとみさんの知人の消防士って……………
「兄貴はあたしを陸に引き上げるとそのまま第二波に呑まれて消えた。あたしは兄貴が置いていった車に乗り込んで逃げてきた。家族のことは見捨ててないけど、たしかに兄貴のことは完全に見捨てちゃったわね…………」
ひとみさんは切ない笑顔で上を見上げる。
「───────馬鹿」
「え?」
「ひとみさんは、馬鹿だよ」
私は、ひとみさんの口癖をそっくりそのまま返した。
「お兄さんは、ひとみさんに生きていて欲しいから身を投げたんでしょ?なら、生きていてあげないと。見捨てられたなんて、そんなことは思っていないよ」
「赤褐色くん…………」
「ひとみさんだって、津波に巻き込まれそうになった時、俺が助けに来たらきっと「馬鹿」って叫ぶと思うよ。だって、ひとみさんだって命をかけて俺を助けようとしてくれたんだから」
俺は、まっすぐひとみさんの顔を見てそう言った。
「────────そうね、あたしは兄貴なくしてなかった命。だから、この命を…………誰かのために使ってやりたかった。自分の安全よりも、ね」
「うん」
「あたしは馬鹿だから、自分よりも他人のことを優先してしまう。けど、君がもし同じ事を経験したら。その時は自分の命を自分のために使いなさい」
「なんで?」
「あたしは兄貴に、より多くの命を救うために助けられた。消防士なんだから、きっと多くの被害者を救助する予定だったんだから。あたしは兄貴のしたかった仕事を、肩代わりしているだけ。でもあたしは生きている。だから、君はあたしが兄貴に託された責務を引き継ぐ理由はない」
ひとみさんの鋭い顔がヒーローのようにカッコ良く見えた。
「だから、君の命を握る私が命令するわ────その命は、君が生き残るために使いなさい」
「わかった」
私はそう頷いた。
「君の命はただひとつ。君だけのもの。だから君が一番大切にしなくてはならないもの。他の人は自分の命を一番大事にしているから、君の命を一番に思うひとなどいない。だから、自分が自分を一番大切にしてやらなくてはならない。それを、忘れないで」
「───────うん」
「赤褐色!!!生きていたのね!!!」
「よかった、本当によかった!避難できたんだな!」
「あ、お母さんとお父さんだ!」
向こうから走ってくる両親に手を振る。
「───────ひとみさん、この人たちが…………」
振り向くが、そこには椅子だけが置いてあって、もうだれもいない。
「あれ……………………」
おかしいな、さっきまでいたのに。
「ひとみさん…………………?」
「ふぅー、あぶないあぶない。流石に見知らぬ女が居たらまずいっしょ…………上手いこと退却できたわね」
女は自分の車を目指して先を急ぐ。
「───────よっ、なんか忙しそうだったな」
その前から、一人の男がやってくる。
「ふん、あんたも大概な死に損ないだねぇ。なんであれでまだ生きてるのよ」
「驚いたのは俺だよ。まさか君が人の命を助けるとはね………消防士向いてるよ」
「あはは、あんたひょっとして馬鹿でしょ、兄貴」
あの後、私は家族と共にこの震災を生き延びた。
起きた出来事すべてが奇跡。
私は奇跡的に生き延びたが、不運にも命を落とした人は多くいた。
そうでなくとも、多くの人々が心と身体に傷を負い苦しみ、多くのものが失われた。
後の原発問題だって、とてつもない影響を及ぼした。
自然災害はいつ起こるかわからない。この不安定な地盤の上に住まう我々にとって、地震とは日本に住まう限り永遠に付き合っていく身近な災いだろう。
今回の地震のような、大きなものが起こることも多くあるだろう。
───────その時は……………
まず第一に、自分の身を守ってください。
気持ちはわかりますが、人の事を気にかけている場合ではありません。
私は家族を気にかけたことで死にかけました。
家族と連絡を取るには避難所についてからでもいいんです。まずは自分が死なないようにしてください。
私がひとみさんに与えられた命の使い方は自分が生きるため。
でもひとみさんはきっと、私に他の使命も託してくれたと思うんです。
自分を守ることの大切さ、それを人に伝えること……………
それこそが、私がひとみさんに与えられた真の使命であると考えております。
仮名だし、こんな伸びない作品のいち文章だし、一部要約なので届くはずがないのですが、本当に言わせて欲しいんです。
ありがとう、ひとみさん。
あなたのおかげで、私は今日も生きれています。
そして、私が伝えたあなたの教えが、また多くの命を救うことに繋がっています。
読者の皆様、こんな長話に付き合ってくださってありがとうございます。
とにかく、安全に気をつけてください。
地震は終わりましたが、次の日まで油断はできないと言われています。
いつでも逃げれる準備をしていてください。
そして、自分の命を最優先に守ってください。
これは、マジカル赤褐色と皆さんとの約束です。
私からの、使命なのです。
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