かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

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セイバー岡崎正宗の唐突な蜂起によって此度の聖杯戦争の運命は大きく動き出した。
蝦碑教会に逃げ込んだ銀子を狙った曹総連合会とそれを迎え撃つ非正式ライダー陣営の戦いは銀子を逃がしたあとも続いていた。


第五十二章 疾風(はやて)の夢

 

「どりやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぜやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

教会の敷地内でその争いは続いていた。

撃鉄音が鳴り響く度に地面がその都度抉られ、瓦礫を伴って空に投げ出される。

落下した岩盤は再度武器の衝突による衝撃を受けて粉々に砕ける。

それが永遠と続くものだから、敷地内の緑は土色の穴ぼこだらけに変貌していた。

その、免許を持っていない運転手がブルドーザーで走り回ったのかという荒地の中で、勢い変わらずに槍を振るうサーヴァントが二騎。

 

一人は赤毛の青年、非正式ライダーのアイアス。

もう一人は銀髪に白い厚着が特徴の、筋肉に恵まれた体格をした大柄な男性。真名は不明だが、それは非正式聖杯戦争のランサーの姿だ。

非正式ランサーかと思われていたケイアスのランサー、ハデスは正式側のランサーであり、彼こそが真の非正式ランサーであった。

 

 

 

「ハッ!!」

 

ランサーは体格からは想像もつかない素早い動きでライダーに向かって突撃していく。

 

「うぉぉぉ!!!」

 

ライダーはランサーよりもさらに速い。ランサーの攻撃を躱し、弾き。その後にランサーの死角から槍を放って反撃を見舞う。

ランサーはその攻撃を弾き返し、反動で仰け反ったライダーに追い討ちをかける…………これの繰り返しだ。

 

(しぶとい…………!!)

 

最初は速度もあったので余裕そうなライダーであったが、だんだんとランサーが強敵ということに気付き始めていた。

だからといって敗けの色も見せなかったが、苦戦はしているようだ。

 

(チッ、向こうのマスターはずっと何をしているんだ?あそこでずっと突っ立っているだけで、ランサーの援護もオレの妨害もしねぇ)

 

ライダーにとって、ランサーのマスターである時雨はかなり気になる存在のようだ。ずっと冷めた顔で戦いだけを見つめている。支援能力がない…………?まさか、なにかはしているはずだ。サーヴァントとサーヴァントの戦いを黙って見ている男、場数は相当踏んでいるに違いない。

何かを絶対に用意している。

 

(ランサー、そろそろやれ)

 

(相分かった)

 

ランサーはライダーの突き出してきた槍を槍で弾くのではなく、脚で蹴り返した。

 

「なんだ!?」

 

そしてランサーは急激に後退し、ライダーと距離を取る。

 

「ガン待ち戦法…………?腹立つな!!」

 

ライダーは槍を持ち直し、再びブルドーザーのように地面を抉りながらランサーの懐へと殺到する。

 

 

 

「─────迸る須臾の雷霆(ペルーンス・モルニヤージュ)!!」

 

その一言と共に、ランサーの手に金の弓が握られる。

つがえられた矢が稲妻を纏い、空気を震わす程の凄まじい速度でライダーの突撃を迎え撃った。

 

「ランサーかアーチャーか、ハッキリしやが…………れ!!!」

 

その神速の矢も、ライダーは弾ききってしまった。その大アイアスと名付けられたギリシャの大英雄の名は伊達ではない。

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

遠くへ弾きとんだ矢を確認した後、ライダーはそのまま勢いを緩めることなくランサーに迫る。

矢を撃った後の硬直は槍を振るうよりもずっと長い。

下手に武装を変えたのが仇となった。

ここで槍をめいっぱいに引く。

あとはその右腕を放つだけという次の瞬間、

 

「ぐ、うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ライダーの背中を矢が貫いた。

 

「フッ、」

 

狙ったとばかりに微笑むランサー。

突然の大ダメージに、ライダーは前に転倒してしまう。

ランサーはその様子を見ながら、転がってきたライダーの肩に槍を打ちおろす。

 

「づっ…………!!!」

 

ギリギリで棒部分を掴んだが、槍の先端が肩に突き刺さる。

 

「驚いたな、心臓を貫かれて生きていようとは」

 

「この程度でくたばって、何が英霊だオラァ!!」

 

そのまま立ち上がって脚だけ弾けさせ、ランサーの顔面に頭頂をぶつけて頭突きを食らわせる。

 

「ぐっ……………!!」

 

「はぁ、はぁ……………いいモン持ってるな、オマエ」

 

ライダーは確かに矢を弾いたが、矢は背中からライダーに命中したのだ。

 

「一撃では死なないか、なら、もう二発ほど!」

 

雷が二条、弓から再度迸る。

 

「もうおんなじ技には当ったんねぇよ!!」

 

正面から弾く。

軌道の逸れた矢は間違いなくライダーの横を通り過ぎるのだが、

 

「─────っ!!また戻ってきやがった!」

 

今度は警戒していたからさすがに気づいたのか、ライダーは振り返って戻ってきた矢を弾こうとする。

 

「ぐはぁぁぁ、あぁぁぁッ!!!」

 

二本の矢はやはり心臓を貫く。

 

「クソッ、追尾機能なんかに甘えやがって」

 

確実に「ある箇所を穿つ」宝具があるという。

心臓を穿つ宝具は、どこへ逃げようと確実に心臓を穿つ。必中の槍があるというが、今回はそれの弓。

 

「チッ、小賢しい」

 

ライダーは強引に、胸に刺さった二本の矢を引き抜く。

心配は不要。ランサーはまだ彼がアイアスだと気付いていないからただ単にこの男がしぶといだけだと思い込んでいるが、英霊アイアスは脇腹以外は不死身。どこをどう射貫かれようが、死には至らない。

 

「クッ、なんという生命力だ」

 

「残念だったな。きっとここで決める予定だったんだろうが、生憎とオレが頑丈すぎたな……………」

 

「────────ッ」

 

 

 

「伝説によれば、オマエは教会の屋根を確実に射貫いたとされているが、その時の必中の逸話が宝具化されたわけか」

 

「いかにも。我が名は雷神ペルーンをこそ指し示す。この雷霆こそが、我輩の宝具の真価だ、アイアスよ」

 

つまるところ、ランサーの矢は雷神の鉄槌である。それでもかの有名な大神ゼウスの雷霆には遠く及ばないが、種類は全く同じである。

神の力を具現化させたその宝具、本気を出せば街一つ灰にしかねないその禁断の宝具は加えて必中であった。

 

 

 

「要は、おたすけモードでプレイしているってコトか」

 

「なに…………!?」

 

しかし、ライダーはそれを鼻で笑った。

当然、宝具の侮辱はサーヴァントの侮辱に等しい。というか、その名の名誉どころか、その英霊の逸話に対する侮辱、すなわち伝説の冒涜である。名前や一家の侮辱をも越える無礼千万である。

当然、ランサーも瞬間に溢れた怒りを隠せなかった。

 

「急に距離を離して弓を持ちやがったからびっくりしたぜ。そういうことだったのか」

 

「───────」

 

「オマエまさか、弓使いなのにランサークラスなのは下手すぎてアーチャー適性がないからだったりするか?」

 

「ほざくな…………!!!」

 

ランサーの弓が再度火を吹く。

3弾の矢がライダー目掛けて飛来する。

 

「もう当たんねぇよ!!!」

 

ライダーはかつての戦場で幾度となく披露したその槍捌きを以てして矢を一本一本確実に弾いていく。

しかし、弾いても弾いても返ってきて身体に突き刺さる。

 

「─────あァッ、めんどくせぇ!!!」

 

「こうなれば、ダメ元で全ての部位を撃ち抜いて強引に弱点を見つけるしかないか!!」

 

ランサーはついに考えることを放棄し、我武者羅に矢を放ちまくる。

どれだけ適当に撃とうと矢自体は必中、ランサーが狙った部位に確実に命中する。

 

(脇腹なんてこんなメジャーな弱点、たぶんすぐ狙われるな………)

 

ライダーは気づかれないように脇腹への攻撃を警戒しながら立ち回っていたが、こうなると脇腹を露骨に防御する必要が出てくる。

弱点が漏れるどころか真名まで悟られてしまう。

自分も向こうの真名を知ってはいるものの、相手に情報はできるだけ渡したくない。

 

 

(アンザス、おい!何やってる、早く援護してくれ!)

 

ライダーは念話でアンザスに呼びかける。

この状況はアイアスにとって非常に不利。アンザスの支援がなければ状況打破は厳しい。

 

しかし、アンザスの応答はない。

 

(アンザス?おい、聞いてんのか!早く応答しろ!アンザス!)

 

必死に呼びかけるが、アンザスからの返答はない。

 

 

 

(まさか……………!!!)

 

ライダーはさっき時雨が立っていた方角を見る。

 

そこにはもう時雨の姿はなかった。

どさくさに紛れてライダーの目を盗んで教会の中へ侵入したのだろう。

 

(おい、アンザス!オマエがもたもたしてるうちに敵が中に入って来ちまったじゃねぇか!早く迎撃しやがれ!)

 

(もう、いいんです)

 

アンザスは一言念話でそう呟いた。

 

 

(は?)

 

(もう、いいですから。ライダーも戦わなくていいです)

 

(は?は!?ちょ、どゆことだ!?)

 

(もう、諦めましたからわたしは)

 

 

アンザスのいつもの快活さは抜けきっており、元の明るいシスターの声はなくなっていた。

今、アンザスは教会の奥にある自室の隅でうずくまって、何もせずに止まっている。

 

(ちょ、は?オマエ何言ってんだ)

 

(わたしは………お姉ちゃんを、守りきれなかった………)

 

その理由はただひとつ、最愛の姉の死だった。

 

(それがどうした!起きちまったことは取り返しつかねぇ!オマエは今自分のことだろうが、不貞腐れてねぇで早く立て!)

 

(えぇ、そうなんです。取り返しがつかないんです)

 

ライダーの叱責にもアンザスは聞く耳を持たない。

いつも通りの事だったが、今回は違う。

明日のことも忘れられるほど(はしゃ)いでいたいつもの姿はなく、そこにはただ後悔による諦めの念だけがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お前が、フランスの件での野郎か」

 

そして、時雨の魔の手はとうとうアンザスの自室に届いた。

爆破されたような、右眼を覆うほどの漆黒のクセ毛。

白のシャツに黒のスーツという社会人らしい整った出で立ちが逆に恐怖を与えるこの男は羽織った黒のコートから銃器を一丁取り出して迷うことなくアンザスに向ける。

 

 

(アンザス!ふざけた事言ってねぇで、さっさと敵をやれよ!もうすぐそこまで来てるはずだ!)

 

 

ライダーはアンザスに呼びかけながらも必死に矢を弾き返している。

しかし、ホーミング矢なので当然意味などなく悉くが突き刺さっていく。

 

「ぐっ…………!!!(畜生、なにやってんだよアイツは………!このままじゃオレも持たねぇぞ………!)」

 

ライダー、アイアスの弱点である脇腹にはまだ矢が当たっていないが、宝具級の矢を受ければおそらく致命傷だ。

ついでに、そこを一発打たれることで他の部位にも攻撃が通るようになる。そうなるとすべてが終わりだ。

 

「うずくまっていないで答えろ、どうしてわざわざ関係のない餓鬼が、俺たちの組織に対抗した。ついでに、精鋭部隊を全滅させるなんてお前らいったい何者だ」

 

「それを答える義務は、私にはありません…………」

 

「は────どんだけ追い込まれようとその姿勢だけは崩さない。聖職者ってのはわからんもんだ」

 

「殺しに来たのでしょう?なら、早くしてください」

 

「殺す────?」

 

どうやらアンザスと時雨では認識にズレがあるらしい。

時雨は疑問に眉をひそめながら銃を下ろす。

 

「まさか、お前を殺す筈がない」

 

「じゃあ………なんの為に………」

 

「生け捕りにする為だ。わざわざ殺すかよ」

 

時雨は部屋の隅へ一歩一歩と近寄っていく。

 

「お前勘違いしているようだが、俺は復讐するために人を殺したりはしねぇぜ」

 

時雨はいつも顔に感情が宿っていない。

笑いも怒りも悲しみもしない、普通がどこなのかのラインもおぼろげだ。

そんな男が同じペースで革靴を鳴らして歩いているなら、並の人間ならその重圧で恐怖するだろう。

 

「俺は神を信じない、なぜかわかるか?神は天罰を下さないからだ。俺らみたいなやつにはもちろん、お前らみたいなやつらにだってそう。お前らは「主は人に平等」と偽りながら、そこにあるのは救いばかりであって悪い事は何も言わない。宗教も所詮は意識の集団にすぎない、人間が結束するための拠り所………実在するはずもない辺りは迷信あたりが丁度いい例えか。許しは神に乞うもんじゃない、金で買うもんだ。免罪符ってやつを売ってた時代が一番宗教色が濃かったんじゃないか?」

 

「それが…………どう、」

 

「だからさ。俺らはやられたことは自分で後始末しなくちゃいけない、ってことだよ。神がなんもしてくれないんなら、天誅ってやつは俺たちが下さなくちゃならないってことなんじゃないのか?」

 

時雨は弾の残り弾数を確認しつつ銃器で遊びながらアンザスを見つめる。

 

「それはそうとして、お前いいのか?もうすぐお前のサーヴァント死ぬぞ」

 

「別に良いですから。早く、わたしを殺してください」

 

「話、聞いていたか?殺さねぇつってんだろ」

 

「なら、どうするんですか」

 

「えー?端的に言うと下っ端たちの遊び道具、そんぐらいか」

 

そう、時雨は殺して終わりにはしない。

 

「あれな、国こそフランスだけど、いちおう日本の連中を遠征に行かせてた訳なんだわ。たぶん現地の連中ほぼいないと思うよ。それを全滅させられてさ、俺が殺して「はい終わり」じゃ納得いかないっしょアイツら」

 

「──────────」

 

「ヤクザってさ、洗礼と違って盃交わして家族みたいなもんになって初めて門に入れる組織なんだよ。要は全員、義理的に俺の血筋ってこと。だから成果も恨みとかも俺のウチじゃあ山分けになるんだよな。だから俺が一人で決着つけるもんじゃ、家族が納得行くわけない。…………母親がさ、四人家族で父と次男と自分にだけメシ作っていただきますしてるところ想像してみ?長男納得行かないだろ、それと同じだ」

 

「──────────」

 

「だからさ………俺、別にお前を殺す必要ないんだよね。なんで………お前ここで死ねねぇぞ」

 

「そん………………」

 

「──────────」

 

アンザスがショックを受けて高い声を挙げたと同時に時雨は胸に瞬時に銃を突きつけてすぐさま引き金を引いた。

 

ズドォン、と銃声がしてアンザスが倒れる。

 

「あーあ………こういう時が一番狙わられるってわかんないのかね、女って」

 

気だるそうに銃を見つめながらまた本体をいじって遊ぶ。

そのままアンザスについた銃傷に脚を乗せて体重をかける。

 

「ぐっぁ…………はッ…………!!!」

 

アンザスは血を吐きながら床で暴れる。

 

「で?蘇生はいつ終わるんだ。あと5回は生き返るだろ」

 

「ぐっ…………」

 

「あーあー、簡単に死なないってチートっぽいけどこういう時に損するよなぁ。毎日5回ずつ殺したら生き地獄じゃんか。こーれは飽きねぇぞアイツら。無限に死ねるオモチャとか好きそー」

 

時雨は何故か、アンザスの令呪の特性を完全に把握していた。

 

「なぜ……………」

 

「この街に何人うちの組のやつらいると思ってるんだよ、この街にいたらだいたい俺らには何しようが筒抜けだ。そんぐらい把握してるよ」

 

そう、時雨率いる曹総連合会は数と規模では日本有数。狙った相手の情報はぜんぶ収集する。

 

「もう遅いとは思うが忠告な───自分だけが特殊能力あると思ったら大間違いだぞ」

 

時雨の背後に、巨大な人影が映ったようにアンザスには見えた。

うっすらとしすぎていてよく見えなかったが、槍のような剣のような武器を持っていた人物がいた。

 

「妖……………精……………」

 

「なっさけねぇな…………じゃ、そんだけ諦めているんなら連れてかれても文句ねぇだろう?」

 

「ぐっ…………はなしなさい…………!!」

 

「蘇生早っ、怖。もう一発だけやっとこ」

 

「ごっ……………!!!!」

 

額に当てた銃口を弾けさせて再度アンザスを射殺する。

 

「─────さて、向こうのサーヴァントもそろそろ死んでるかな」

 

時雨はアンザスの襟を掴んで引きずって部屋を出る。

 

「やれやれ………男は理系(リアル)、女は文系(メルヘン)って言わないの?文系なら妖精に逆らったらバチが当たることぐらいすぐ想像付くだろ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────────」

 

ここは…………どこ…………

 

 

「オラオラオラオラオラオラ!!!!!!」

 

「…………!?」

 

わたしはけたたましい雄叫びで目を覚ました。

 

「─────ここは…………!?」

 

気がつけば、わたしは無限に広がる荒野の上にいた。

わたしが座っている箇所は大きく揺れており、度々身体が浮き上がる。

 

「まさか…………」

 

この場所、戦車の上…………!?

眼の前には2頭の馬がおり、それが引く鋼鉄のチャリオットの上でわたしは荒野を駆け抜けていた。

 

「──────夢、」

 

これは………ライダー、英霊アイアスの夢…………

まさか、死んで蘇生中一時的に意識が止まっている最中にこんな夢を見るなんて。

これは、まさか、ライダーの生前…………?

 

「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

わたしが乗る戦車を引く2頭の馬、その先のはるか彼方に、一台の戦車が見えた。

 

─────わたしの乗るものより圧倒的に速い、というか(はや)い。

まるで流星のようだ。

 

 

「アレが生前のライダー…………?」

 

でも…………少しだけ印象が違う。

アイアスといえば髪色も相まって緋色のイメージ。

しかし、わたしの眼の前に映る青年の後ろ姿から確認できる髪色は翠だ。

なにも緋どころか反対色。それに、ライダーはあそこまで背が高くない。

あれは、アイアスではない…………また別の人物?

だが、明らかにあの男は特別な存在だ。この夢に出てきた様々な存在の中で最も存在感が強い。

あれは、アイアスと共に駆けた英雄なのか?

 

 

 

「おぉい!待ちやがれ!オマエが飛ばしてくせいでオレの獲物がねぇじゃねーかよ!」

 

自分の後ろから太い声がした。

まさか、最初の雄叫びはこの声?

真後ろを振り向くと、そこには男の腹があった。

だから最初巨人がいるのかと思った。

自分の目線が胴体の真ん中ほど。少なくとも自分の2倍近くは背がある男なのだ。

 

後ろを見たまま上を見上げると、そこには…………

 

なんと、緋の髪の男がいた。

見た目はまったく違うがわたしは一瞬彼をライダーの姿と重ねてしまった。

屈強な肉体と大き過ぎる図体………たしかに英霊アイアスはトロイア戦争では随一の怪力と巨体を持っていたと聞いていたが…………確信した、彼が………生前のライダー…………

 

 

「お前さんが遅すぎ…………いや、こいつは失礼。俺が速すぎただけだったな!真の英雄たるものは戦場を一番に駆け抜けるってことだ、そうだろ兄弟!!」

 

 

前を進む戦車から声がする。

英霊アイアスの兄弟分、いや、従兄弟?

あの速度…………最速の英雄、神速の英雄…………

 

 

 

 

「アキレウス!いいから前向け!!」

 

やっぱり、あの男は…………ヘラクレスに並ぶとされたギリシャ最大にして世界最大の大英雄、アキレウス!

 

 

「わかってるって!おら、道開けろォォォォォ!!!」

 

アキレウスの戦車は戦場を我が物顔で駆け抜けて、邪魔する存在のすべてを轢き潰す。

通り過ぎた後に敵兵はゼロであり、地面には戦車の轍が深々と刻まれてその勢いの強さを遅れてやってくる味方全体に示している。

 

「ハァッ!ははは、流石だな!最速の英雄!」

 

「そっちもな、準最速の英雄!」

 

「俺ら、いいコンビなのかもな、」

 

「なに言ってる、前々から俺らは最強の兄弟だろ?」

 

戦場のど真ん中で愉快な会話をしながら二人は戦場無双。

まとわりつく雑兵たちを容赦なく蹴散らす。

この2つの災害を止めるに値する敵は一人もいない。

 

「つまんねぇんだよ!!!」

 

「あぁ!!!生ぬるいぜ!!!」

 

まさに、約束された勝利だ。

こんなの、どうして止めれるのか。いや、不可能だろう。

 

「この戦いが終わったら足りねぇ分はお前さんで賄わせて貰うからな?」

 

「当たり前だ、オレも同じこと言おうとしてた!」

 

「っと、その前に…………どっちが多くの雑魚を倒せたかの競争が先だな!」

 

「ちょ、おい、フザけんな!!それ圧倒的にオマエ用ルールだろ!」

 

「関係ねぇ!安心しな、今夜の酒を多めに分けてもらうだけだよ!」

 

「良くねぇ!!こうなったらオマエより多くぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

 

─────そう、彼らに敵などいなかった。

彼らの進む道に敵らしい敵などいない。

いつも、彼らの戦うべき敵は自分と相手。

二人で共に高めあい、共に成長してきた日々だった。

戦ったような気分などしない。勝った感慨もない。

ただ─────

 

 

 

 

─────彼は相棒に負けたくないだけだ。

─────彼は相棒に負けたくないだけだ。

 

 

 

 

 

 

でも─────それが楽しい。

彼こそが最高の仲間だ。

 

 

 

 

 

 

 

追いつけない。そんなことはわかっている。

アキレウスより速く走ることはできない。

そんなことはわかっている。アキレウスは図体以外なら何もかも優れている。

英雄としての格も向こうのほうが上だ。

でも彼は─────進み続ける。

先に行けなくたって…………

 

いつかは、彼の隣で戦いたい。肩を並べて背中を預けて、同じ数の敵を同時に倒してやりたい。

 

 

 

 

 

「───────じゃ、俺は先に行くぜ!!」

 

アキレウスの戦車が加速する。

 

「おい、きたねーぞ!!!そっちは馬3頭も連れやがって!しかもそのうち2つめっちゃ強いじゃねーか!」

 

「お前さんが重すぎて馬が耐えられねぇだけだよ!それが嫌なら自分で走りな!」

 

消えていく翠の流星─────

 

その戦車の上に、女がひとり乗っていた。

 

 

 

 

「あ───────っ!!!」

 

自分によく似た…………青い髪の女が、こっちを振り向くと。

 

 

 

「アンザス、先に行ってるわね────」

 

そう、微笑んでいた。

 

 

 

 

「──────────そう、」

 

そうだ。わたしは一刻も速く、彼女に追いつく。

彼もそう思っている。

 

 

 

 

 

わたしたちの願いはただ一つ───────

 

 

 

 

 

「絶対に追いつく!!!!」

「絶対に追いつく!!!!」

 

 

 

 

 

──────彼(女)に、追いつく事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速度を上げろ。

わたし一人ではあの戦車に絶対に追いつけない。

なら、わたしには…………この戦車が必要だ。

チャリオットの乗り方なんて知らない。なら、わたしにはこの英霊が必要だ。

なら、こんなところで諦めている場合じゃない。

 

なにより、お姉ちゃんがやられて…………

わたしが黙って終わらせるわけにはいかない。

そんな悔しいことしたら、お姉ちゃんがなんていうか。

きっと怒るに違いない。まだこっちに来るなと言ってくる。

大好きだからこそ、彼女の気持ちがわかる。

 

こんなところで、終わってたまるか────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令呪を以て我が伴侶に命ず────わたしを救いに来て、ライダー!!」

 

「その言葉────遅すぎるんだよ!!!」

 

 

 

 

 

「なに…………っ!?」

 

教会の壁を破壊してライダーが駆けつけてきた。

 

 

 

「ライダー!!」

 

「アンザス、大丈夫か!!」

 

「ちっ、変なところで決意を取り戻しやがって、」

 

冷静に距離を取るランサーのマスター。

 

「派手にやってくれたじゃねぇか、だが、こうなった瞬間にオマエの負けだぜ」

 

「ライダー、身体のあちこちに矢が………何やってたんですか」

 

「あー、すまねぇなぁ。これでも体当たりタイプ…………って!オマエのせいだろうが!!!」

 

ライダーの様子はいつもどおりだ。

夢で見た姿よりだいぶ弱々しい細身だがむしろ強くなっている。

あの夢のおかげで、わたしとライダーの二人は完全に精神で一つになった。

マスターとの精神性が合うほどもちろんサーヴァントは力を発揮しやすくなる。

ライダーの力は今までよりずっと強い。

もう今なら、アキレウスに、お姉ちゃんに、追いつけそうだ!

 

 

 

「しょうがねぇやつだ…………ランサー!!」

 

「相、マスター!」

 

なぜか弓を掲げたランサーが現れた。

 

 

「弓…………!?」

 

「こいつ、槍が当たらねぇからって突然ホーミング弓に持ち替えやがったんだ」

 

「いい気になるな…………吾輩にあそこまで追い詰められていたあの有り様で…………」

 

「追い詰めた?なに勘違いしてるんだクソエイム」

 

「クソ………エイム………だと!?」

 

「オレたちの本気はここからに決まってんだろうが!!」

 

ライダーは不意打ちでランサーに飛び蹴りを浴びせた。

 

「ぐ………おあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ランサーは再び教会の外へ投げ出される。

庭で大爆発が起きた。

 

「雑魚処理は生前からのお家芸だ、任せときなマスター!!」

 

ライダーもいまだかつてない神速で外へ出る。

 

 

「ば、この…………!!!」

 

ランサーのマスターが銃をライダーへ向ける。

 

 

 

「令呪開放────!!」

 

強化した黒鍵を投擲して銃を落とす。

 

 

「ぐっ…………!!」

 

「さて………食事の前の運動と行きますか」

 

黒鍵を大量に取り出して一斉に構える。

思い出した。あの顔は曹総連合会の時雨木幡。

となると………わたしたちの故郷を襲った連中への復讐、その大本に対する延長線ということになるか。

 

「面白くなってきたな、だが…………」

 

時雨の背後にあの影が現れる。

赫と黒の2色が特徴のあの存在は…………彼が憑依させているのか?それとも…………

 

「俺はただのヤクザなんかじゃねぇぜ………?」

 

初めて時雨が狂気的な笑みを見せた。

 

羅刹天(ラクシャス)……………」

 

インド神話の鬼神、仏教における邪鬼の王…………

いったいどこでどうやってそんな力を得たのかは不明だが、たしかにこれは通常の暴力団組員とはまるでわけが違うようだ。

 

 

「ライダーのマスター、アンザス・マリオン。今ここに、教会の鍵の名を示します」

 

「時雨木幡、よろしく………」

 

もはや交わす言葉もない。

だん、とわたしは一歩駆け出す。

わたしの振るった黒鍵と時雨の背後に立つ鬼神の大剣がぶつかり合う。

時雨本体は動かずとも、本人の意志で自由自在に動くのか!

 

「はぁっ!!」

「せぇりゃっ!!」

 

蝦碑教会の中と外に響く2つの剣戟音が、わたしとライダーの第二の戦いの始まりを告げた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

アンザス・マリオン

 

身長 161cm

体重 姉より0.5キロだけ重い

サーヴァント アイアス(非正式ライダー)

触媒 無し(非正式なので触媒不要)

魔術 教会の秘蹟、黒鍵術

令呪 プロペラ状に3枚の羽が生えたもの

所属 聖堂教会代行者、蝦碑教会司祭代行

イメージCV:直田姫奈さん

 

 

 

「教会の鍵」の異名をもつ銀髪に青のメッシュが特徴の超絶美少女聖堂教会代行者。

といっても、反転した混血を退治することばかりで蓋折姉妹の件を除いて死徒の相手をしたことは一度もない。

マスターとして聖杯戦争に参加するつもりはなかったが、マスター適性が強すぎたせいで勝手に巻き込まれてしまった。当の本人は「面白そうだしいんじゃないですか?」と割り切ってしまっている。

自身のサーヴァントであるライダーを困らせに困らせまくってぐうたらした生活を送っているが、これでも蝦碑教会の司祭(本来女性司祭というものは認められていないのだが、彼女が仕えていたネロア司祭代行の突然の病死で後継者が見つからないため現在はあくまで司祭代行としての名目で蝦碑教会を代表している)。

激辛担々麺が大好物であり、毎食ライダーを行きつけの店に連れ回している。

 

聖杯にかける願いはなかったのだが、将来のパートナーにしようとするほど愛していた姉であるエインスの死をきっかけに彼女との再会を望むようになり、自暴自棄になっていた状態から再生し、むしろ願いを得たことで聖杯戦争へのモチベーションがMAXになり全力を出すようになった。

 

という身の上があることからわかるように、性格はとにかくめんどくさがり。なんでもかんでも後回しにして、物事に対して責任を負うことをとことん嫌う。なんでこいつが司祭代行なれたんや。

しかし、そんな性格とは裏腹に聡明で理知的な一面や圧倒的な戦闘技術を用いて現在では見た目以上に有利に立ち回っている。

ネロア司祭代行から譲り受けた30画の令呪を用いた自己強化と聖堂教会武装である黒鍵を巧みに操り教会の鍵の異名に恥じない活躍を見せる。

令呪は毎朝回復するのだが、その体質がなぜか聖杯戦争の令呪にも引き継がれ、毎朝マスターとしての令呪も回復するという完全なチート能力まで備えている。

 

どうやら妖精が取り憑いているらしいが、そこについてはまだまだ不明点が多い。

他にもカレーが好きな代行者を友人に持っていたり教会で黒鍵使いの修行マニアサークルを設立してそこに多くの辛党代行者を招いていたりと本編では語りきれないぐらい深いところまで設定が用意されている。二十代前半とはまるで思えない危険人物だ。

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます、マジカル赤褐色です。
止める場所わかんなくなって長くなりすぎました笑
なんか本作のアイアス人気凄まじいですよね、まぁ………永遠に来ないキャラなんで私が狙ったってのもあるんですが。
私も本作のアイアスは好きですね。色んな鯖出てきますがアイアスの設定はかなり深く作ってます。とくに兄弟分であるアキレウスとの描写。これアイアスの生前の象徴的エピソードですからここめっちゃ丁寧にやってます。
アキレウスの真後ろを進むため絶対にアキレウスには届かない。転じてアキレウス以外で最強。
この設定あまりにもカッコよすぎて気に入ってます。今回のエピソードを期にもっとアイアス推しが増えてくれると嬉しいです。
好きな鯖投票アイアスで100埋めよう。
それでは次回もお楽しみにー!!

完全版 好きなサーヴァントは?

  • 非正式セイバー(三度笠セイバー)
  • 非正式アーチャー(紬アーチャー)
  • 非正式ランサー(ランサーお爺)
  • 非正式ライダー(アンザスライダー)
  • 非正式キャスター・オベロン(妖精王)
  • 非正式キャスター・リアン(妖精妃)
  • 非正式アサシン(遠野志貴)
  • 非正式バーサーカー(アルクェイド)
  • 正式セイバー(姫セイバー)
  • 正式アーチャー(モンゴルアーチャー)
  • 正式ランサー(ケイアスランサー)
  • 正式ライダー(エインスライダー)
  • 正式キャスター(リィンキャスター)
  • 正式アサシン(見えないアサシン)
  • 正式バーサーカー(メイドのバーサーカー)
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