かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

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第五十七章 怨嗟の夢

 

 

───────時は泰平の世、

 

民は日夜馬鹿を繰り広げて騒ぎ立てる平穏なる世。

上様のお通りだ、お侍様のお通りだ、将軍様のお通りだ。

わやわやと民は手にした野菜や小銭を落っことしながら慌てて道を飛び開ける。

楽しいものだ、愉快なものだ、幸せそうで何よりだ。

 

 

──────だが、その極楽の中にも、必ず落ちこぼれがいる。

 

いつの世も………誰かは絶対に受け皿から零れ落ちる。

 

 

 

「おいおい、うちはアンタを雇う余裕なんてねぇっての!さっさと帰れ、邪魔だ邪魔だ、」

 

俺ら武士は、大きく分けて2つ…………

 

「幸せな武士」と、「不幸な武士」。

 

居場所が「ある武士」と「ない武士」。

 

生きるためには、職が必要だ。

生きるためには、働かねばならない。

けれど………もうとっくに落ちぶれた俺を拾ってくれる場所なんてどこにもなかった。

 

 

()ぁねぇ、また浪人?」

 

「ほんと勘弁して欲しいぜ………雇う場所がねぇってのは気の毒だが、最後は盗っ人になって俺らから略奪するんだってんだからよぉ」

 

また突っぱねられて萎えきり、どうしようかと思って俺は江戸の町を歩く。

こっちは生きるために真剣なのに、職がないのは俺のせいじゃないのに、職がある奴らは揃って俺を睨む。

身分階級的には武士のほうが町人よりも上だ。

だが─────浪人は武士の中でも例外。

 

働き口を持たず、収入を得られず、マトモな生活も送れない。

金勘定の仕方も、商いのやり方もわからない。

町人なんかのほうが、ずっと幸せだ。

いや、働かないぶん、社会になんの貢献もしていない俺らは百姓未満か。

 

ただひたすら、酒と喧嘩に明け暮れる日々。

なんの意味もない。酒を飲めば金は減る。

喧嘩したって護衛役でもないのだから金は増えない。

気に入らないやつを倒して、金を奪い取る。

そうやって今の俺は生きている。

 

今ではクソ人間だが、これでも昔は槍の師範だった。

喧嘩して勝てない相手はほとんどいない。

俺はいつも通りのことをしていれば良い。

こうしていれば、いつかは………誰かに求めてもらえると思って。

 

「─────────ん」

 

だんっ、と肩がぶつかった。

なんの当てつけでもない、ただ考え事をして歩いていたらぶつかってしまった。

城下の喧騒に紛れて人の流れに巻き込まれたようだ。

背の高い、いかにもガラの悪そうな男にぶつかった。

 

 

「──────おい、」

 

太い声で威圧するような声は、俺に向けられたものだと俺は一発で確信した。

 

「────────チッ、」

 

面倒事が増えると思って俺はそのまま無視して歩き続けた。

 

「おいテメェだよテメェ!ヒトにぶつかっといてなんか挨拶とかねぇのか!?あぁ!?」

 

「─────────気をつけろ、」

 

挨拶しろと言うのなら挨拶する。

前を見て歩かなかったのは俺のほうだ。

だが、今の俺は冷静にそんな事を考えられるような生き方はしていなかった。

 

「テメェ……………」

 

後ろから大男が早歩きで寄ってくる。

どうやらその男も武士のようで、腰から刀を吊るしていた。

 

「浪人風情が………俺様相手に無礼働いといて、舐めた口利いてんじゃねぇぞ───!!!」

 

武士が刀を抜いた。

その一動作で人混みの中から悲鳴が上がり、荒れ狂う海のような密集地帯は左右に分断されて、間に出来た広い一本道には俺と武士だけが至近距離で向かい合って取り残された。

 

「───────────」

 

「ブッ殺してやる…………!幕府様にも付かない野良のゴミ共が…………!」

 

「───────────」

 

俺は刀を持っていなかった。

本来は槍の使い手だし、加えてこんな人混みを槍担いで彷徨くのは野暮天だったからだ。

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

刀を振り上げてこちらに走ってくる敵の縦斬りを、

 

「ふっ、」

 

俺は真後ろに飛び退いて躱した。

 

「チィッ!!!」

 

俺を追いかけるように走り寄ってくる武士の袈裟斬りが飛んでくる。

 

「チィェェェェァァァァァァァ!!!!!」

 

バシッ、と剣を振り下ろす腕を掴んで止める。

 

「ぬぅっ!?」

 

「徳川に付いてるくせに鍛錬してねぇのか。太刀筋が曲がってるし、なにより振る速度が遅すぎるんだよ」

 

「テメェ…………浪人の分際で…………!!!」

 

「雑魚が」

 

そのまま上手投げで武士を投げ飛ばした。

すぐ近くの店の棚に激突して棚を壊しながら武士は倒れる。

その拍子に、近くに立て掛けてあった売り物の櫂が空に舞う。

俺は飛び上がってそれを掴んだ。槍の代わりには十分だろう。

 

「ふざけやがって……………!!!」

 

武士は刀を拾い上げ、今度は脇差しも一緒に抜いて2本の刀で迫ってきた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

「─────────やっぱり遅いんだよな、」

 

「きぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

2本の刃が同時に振るわれる。

左右から飛んでくる刃のうち、長い方を俺は櫂で殴りつけ、完全に弾き返した。

 

「は─────!?」

 

いきなりの出来事に止まった敵の左腕を櫂で絡めて背中に回し、腕を膝で蹴りつけて脇差しを落とさせた。

 

「なぁっ!?」

 

「ふんッ!!!」

 

後頭部を櫂の尻で突き、怯んだ敵を横薙ぎで倒す。

 

「ごはぁぁっ!?」

 

こっちがなんの苦労もするまでもなく、一撃で敵は倒れた。

 

 

「ぐっ………………」

 

「酷い親もいたもんだ。自分の力量も分からずに息子に刀を教えるとはな。所詮は浪人未満、徳川の未来を担うには役不足ばかりだな」

 

「黙れクソが…………殺してやる…………」

 

「うるせぇよ。お前負けてんだよ」

 

 

 

 

 

「──────そこまで!!」

 

 

そんな時、俺たち二人しか居ないこの場所に、三人目の人影が現れた。

 

 

 

「あ、アンタは……………!!!」

 

徳川の武士が驚いた表情で息を呑んだ。

 

 

 

「すまない、ちょっと良いだろうか。彼は私の門下でな。突然の無礼、心よりお詫び申し上げる。ここは私に免じて、彼の愚行を許してはくれないだろうか?」

 

「い、いえ。他でもない貴方のお願いとありましたら。はい、こちらこそご迷惑をおかけしました。申し訳ございません!」

 

「ありがとう。ご厚意、感謝する」

 

 

 

──────そこへ来た女に、俺は拾われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────そして歳月を過ごしたある日、先生は俺たちに言った。

 

 

 

 

「強い國を作る、その為にはそこに住まう民が、一つになることだ」

 

 

 

──────と。

 

 

 

「貴殿らは、社会に見捨てられた者たち………私は、そのような者たちをひとり残さず受け止め、そのすべてを救うと決めた。それは貴殿らも例外ではない」

 

 

 

先生は、俺達をひとり残さず守ると云っていた。

 

 

 

 

 

「──────先生、」

 

俺は誇らしいことに、江戸では大層名の売れた学者だったその先生の右腕としていつも彼女の隣にいた。

そんなある日、この講義を聞いた後に俺は一人だけ残されて先生に呼ばれた。

 

「──────□□、強い國とは何だと思う」

 

□□………これが俺の名。

 

「──────先生の仰る通り、誰も取り残されない世界。それが、俺達が皆幸せになれる世界だと思ってます」

 

「あぁ………そうだな………その為に我々はいつか、権力に立ち向かわねばならない時が来る………」

 

「権力に対抗する………?」

 

「時に人とは、武力を以て声を挙げねばならない時がある。自分たちの意見を訴えるために、過ちを正すために」

 

先生は俺達に武装蜂起という択を教えてくださった。

どれほど声を挙げても聞く耳持たない幕府の者にこの声を拾ってもらう為の。戦い。

闘争というものが、俺達を示すための方法だと。

 

「はい。それは、常に覚悟しています」

 

「すまないな。貴殿を、巻き込むことになる」

 

「いえ。俺は、どこまでも先生に付いていくと決めたのですから」

 

俺は、この人に恩返しをするために。

この人と共にどこまでも歩んでいくと決めていた。

 

 

 

 

 

───────なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕らえたぞ!!!」

 

 

俺はその人に、まんまと裏切られた。

 

 

「誰だ………!!誰だ!!密告した腰抜けは………!!」

 

「いやしかし、ほんとにうまく行くもんなんだな。槍使いの貴様のことだ、こうやって丸腰で出てきたところを捕獲すりゃいいんだって「あの方」が仰った通りだ」

 

「クソ、クソ、クソ、クソ…………クソォォォォ!!!」

 

 

 

なぜ、貴女は俺達を置いて行った────

 

 

誰よりも信頼していたのに。

 

 

俺の生きる道は、貴女の横しかなかったのに。

 

 

なぜ、すべてを俺に託して…………

 

 

そして、なぜ奴らの側に寝返った…………!!!

 

 

許せない、俺を置いて行った恩師を。

 

 

許せない、俺を裏切った仲間たちを。

 

 

許せない、俺を取押さえた幕府共を。

 

 

許せない、俺を産み落とした世界を。

 

 

「作戦成功、だな。いやしかし、本当に素晴らしい策を思いつかれるものだ………我々も見習わなくては。やはり、軍学者というのは違いますなぁ」

 

この野郎共……………ふざけやがって……………!!!

 

 

 

 

 

「─────そうでしょう?■■先生」

 

 

 

 

 

そして。上から降ってきた即席の檻に閉じ込められた俺が隙間から見たのは…………

 

 

「あ、あぁ…………………」

 

何故か、敵と一緒にいた俺の恩師だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ図りやがったな………………!!!!!」

 

 

そしてすべてを恨んだ俺は、怒りで眼の前が真っ赤に染まった。

俺の味方だと思っていたのに………最後は、誰よりも尊敬していた人に裏切られた…………!!!!!

 

 

 

「許さんぞ、■■──────!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は磔刑に処された。

 

木の柱に打ち付けられ、槍で殺されるのが通常の磔なのだが、俺の場合は違った。

首を上げないと視線に入らないぐらい高い所に吊るされるはずが、俺は踏み台ひとつ分程度の高さだった。

そして俺は磔刑の中では異例中の異例…………刀で斬り殺された。

一撃だったのがせめてもの救いだったのか。

 

 

 

──────だが、俺を処刑したのも……………

 

 

 

 

「すまない□□………貴殿の想いに応えてやる事が出来ずに…………そして、このような形で、仲間を失う事になって」

 

処刑したのも……………アイツだった。

我を失っていた俺には恨み言を吐く気力もなかった。

 

「あの世で我が汚名を嘲笑ってくれ。私は賤しい者だ。烈士になれなかった、武士でも………まして、一人の教育者でもない…………ただの卑怯な私を、恨んでくれ。だからせめて楽に、地獄へ堕ちる私とは違って、楽に………天へ旅立ってくれ────恨め、□□。貴殿には、その資格がある」

 

 

 

 

 

俺の身体を両断したその刃は、確実に俺の命を殺めた。

 

 

 

 

 

「…………………………先…………生………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬ直前に頬を伝った冷たい何かが、俺の内に潜む俺を目覚めさせた。

 

 

 

この瞬間──────俺の中で何かが砕けた。

 

 

 




いつも呼んでくださっているみなさんありがとうございます、マジカル赤褐色です。
今回は谷さんの実態に迫るお話でした。
元浪人として生きてきて、最後の最後で恩師に裏切られ、磔刑に処される。よりにもよって恩師の手によって。
以上が谷さんの狂った原因になります。
そして、恩師に裏切られ、仲間に裏切られ、社会に見捨てられ、行場を失って壮絶死した彼の望む聖杯への願いとは一体何か。
それは果たして、世界への復讐なのか。それとも他の何かか。
次回もお楽しみにー!

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  • 非正式セイバー(三度笠セイバー)
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