かつて自作した聖杯戦争   作:マジカル赤褐色

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第六十章 魂喰らい

 

「はぁ…………」

 

無の四時間授業を過ごした後、私はお昼休憩に入った。

昼食は朝食のコロッケのあまりにでもしようかと思っていたが残念ながら弁当を作り忘れていたので命よりも大事な小遣いで学食になった。

この学校の食堂で一番安いメニューであるかけうどんを頼み、丼と箸と飲み物を乗せたトレイを持って食堂を出る。

ここの食堂は常に席が一杯であり、中で席を取ると確定で戦争になる。

人と言い争ったりするのが面倒で嫌いになったのでもうさっさと外に出たほうが早い。

外にもベンチがあったりするのだからそこで食べればいいし、うちでは学食で注文した料理はどこで食べてもいいという校則になっている。

休み時間を利用して世間話やSNSの話で盛り上がっているほかの女子のキラキラしている姿を見るのがイヤになって、ずっととにかく一人の場所が好みだった。

私には、校則で禁止されているにも関わらずバレないように化粧をするスリルや校内の廊下で通行人の邪魔をしながら友達とSNS用の動画を撮ったりするような青春は存在しない。

もっと平凡で、根暗で、充実感のない………そんな生活の方が良い。

 

 

 

「どうしたんだ、そんな箸でも止めて」

 

スパイアーがトレイに冷やし中華とアイスを乗せてやってきた。

うちには食堂の近くに購買も来ていて、そこではオリジナルの惣菜類やパンに加えて、コンビニで買うような有名なジュースやアイスが売ってたりもしている。

スパイアーが選んできたアイスはなんとまぁ………そんなごたいそうな…………

商品名までは言わないけど………それ、アレだよね。ボトル状の透明な柔らかい容器に包まれている、2本が横に繋がってる真ん中を縦に2つに割っておすそ分けしたりして食べるやつだよね、コーヒー味の。

私もたまに独り占めして食べるけど美味しいよねそれ。

ちなみに私の選ぶ最強のアイス第一位は、ちっちゃい粒状で外側がチョコレートによってコーティングされてるバニラアイスが十個ぐらい並んで入っているあのアイス、そのアソートパックに限定で入っているアーモンド味。

深い茶色のチョコレートコーティングが薄い黄色に変わっていて超美味しい。

通常版もアレだけ詰まってるやつあったら飛ぶように売れると思うけどね。

贅沢したい時には買ったりしてるんだけど、手が止まらないもので気がついたらものの2日で全部なくなる。

しかも最後の最後はチョコ味とアーモンド味に比べて多めに入っているいつものバニラ味ばっかり余って後悔するものだ。

 

「なに勝手に買ってるのよ…………」

 

「いや、盗んだ」

 

──────ファッ!?

 

「はい?」

 

「いやだから、盗んだんだって」

 

たぶん現行犯逮捕された泥棒でもそんな潔く言わないよ。

万引き成功してからそのまま交番まで自分の意志で直行して勝手に自白してるやん。

 

「化粧してスカートの丈短くしてる不良女子が連れとゴタゴタ話してる隙に実体化してトレイ回収して全速力で食堂抜けた、以上」

 

オーマイガー。ターゲットの内容的にたぶんスパイアーは「こいつからなら盗んでも全く胸痛まないな」って判断したんだろうなぁ。

 

「バカだろアイツら。戦いは背後が正面って習わねぇのかよ」

 

そりゃ普通の一般人は戦わないもん。

 

「つーか、成長期で化粧したら肌荒れんだろうが。化粧してもしなくても不細工なんだから余計にバケモノになる必要ないだろ。なに?アイツら将来は黒髪ロングにして井戸から出て他人を驚かしてぇみたいな夢でもあるのか?」

 

井戸…………今どきこの映画の内容知ってる人いないでしょ。

 

「バカだよなぁ、自分が一番汚い場所を露出しようとする女どもの気持ちがわかんねぇなぁ。個性を伸ばせよ個性を。つーか化粧と制服改造は校則的にオーケーなのかよ?」

 

「そっとしてあげて…………」

 

たぶんスパイアーと口喧嘩したら、大方ほぼ全ての陽キャがメンブレするから。

二日目入ってようやくなんとなく分かってきたのがたぶんこの男マジレス勢だ。

悪ノリとか全然理解できないタイプだと思う。

掲示板とかに書き込んだら絶対炎上するタイプ。

でも私は無言勢な上に陽キャは苦手なのでスパイアーは嫌いじゃない。

 

「それにしてもあんた…………結構食いしん坊属性………?」

 

ギャルから盗んできたのはたぶんそのアイスだろう。

じゃあその冷やし中華はどこから持ってきた?

あと、まだツッコミ入れてないけどトレイの上にぶっかけうどん(大盛り)も乗ってるね!?

 

「いや、単に冷えた食い物が好きなだけだ。逆に熱い料理は嫌いなんだけどな。せっかく出来たてなのにわざわざ冷ます行為が損してる気分するんだよ」

 

「なるほど」

 

それは確かに一理ある。

鍋とかせっかく作っても熱すぎるから少し冷まさないといけない。

どうせなら出来たてが食べたいのに少し時間を待たないといけないのが彼には気に食わないらしい。なるほど、今晩からスパイアーにはあんまり熱めの料理を出さないように気をつけよう。

今晩は冷製パスタにでもしようかな。

 

「スパイアーは昔どんなことを学んでいたの?」

 

「あ?昔の話か?」

 

「あ、嫌だったら良いんだ。ただ、昔の塾ってどんなことを教えて貰えたのかなって」

 

スパイアーには先生がいるとか。そんなことを朝に言っていた。

スパイアーはベンチに座る私の横に来てベンチを外れて地べたに座り込む。

 

「先生は………俺に色々なことを教えてくれたな。軍学から、国のことまで………俺の知らない事を全て知っていた」

 

「その先生って、どんな人なの?」

 

「人間の底辺………だな………」

 

スパイアーはずるずると冷やし中華をすすっていく。

 

「…………………………………」

 

「だが…………意味はわかる。あの人が人間の底辺に成り下がろうと決意するだけの理由があったんだろ。ま、だからといって俺ら教え子たちを裏切った事だけは許さんがな」

 

スパイアーのトレイから冷やし中華がなくなったと思ったらもうそこのうどんまで食べきろうとしていたところだった。

 

「あんた、自分の師匠のことすごく嫌っているのかと思ってたけど。世の中と人間がどれだけ嫌いになっても、その人の事だけはずっと尊敬していたんだね」

 

「……………当たり前だ、腐っても俺の先生なんだからな」

 

スパイアーはアイスを取り出して半分に割ると、片方を私に投げ渡してきた。

 

「あ、ありがとう…………」

 

あれ?でもこれさっき確か盗んだとか…………

 

「個人としては今じゃ大嫌いだ。だが、武士としては尊敬している。俺が否定させはしねぇ…………あの人こそが本物の烈士なんだってな」

 

「スパイアー……………」

 

もしかして彼は………………

 

 

 

「スパイアー、あんたの真め……………」

 

私が言おうとした瞬間、スパイアーはアイスを一口に吸いきると、ずっ、と立ち上がった。

 

「なんかうるっせぇな、周り」

 

「え?」

 

私もアイスを口に押し込んで立ち上がる。

 

「バカな事考えるやつもいるんだな。学校に魔力を蝕む結界って」

 

「なっ…………そん……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……………ぁ……………」

 

「うっ…………から、だが………っ………」

 

2018年10月20日 琴女高等学校13:23昼休み。

校舎一面は地獄と化していた。

教室で、食堂で、廊下で。

安息のひと時を過ごしていた生徒たちは次々と倒れていった。

原因は結界による全校生徒からの魔力吸収。

魔術師ならともかく、一般の人間にはとても耐えられない魔力の吸引に、体調を崩した生徒たちは次々と意識を失う。

2年生教室のある3階廊下はあっという間に気絶した生徒の山になっていた。

 

 

 

「マキリの手品もこう見れば大したものね、こんな真っ昼間に、一般人を巻き込んで。人道性の欠片もないわね〜」

 

その中には結界に対するバリアーを張って直立しているリカルド・アルゴノーツの姿が混じっていた。

そしてその横には豪華絢爛な和服を何重にも重ねた麗しの美女、姫セイバーの姿があった。

 

「マスター、彼らは大丈夫なの?私、一般人を巻き込むような事はしたくないわ」

 

「ご安心なさい、姫。命までは取らないから。少し、具合が悪くなる程度に留めておくように約束してあるはずよ」

 

その横から、一人の男とサーヴァントが現れる。

 

「魔術師の【工房】に土足で入るとは、お前も大概人道性ないだろう。それに、そうでなくともお前はこの学校への不法侵入者だ」

 

琴女高校生徒会長──────晴燕寺新嵐。

そして正式アーチャー。

 

「ふっふっふ。問題ないわよ、個人差はあるだろうけど教員も生徒も今頃全員ぐったり。私を捕まえる余力なんてありはしないもの」

 

「そういう意味じゃない、帰れ。【協力者】とはいえ、いちおう他人の工房だぞ。最後はお前も俺の敵なんだから、怪しい動きをしているようじゃこの場で死んで貰うぞ」

 

「うふふ、工房ですって?ここが…………?」

 

リカルドは倒れる生徒の海を背に、晴燕寺に向かい合い両腕を広げる。

 

「罪もなければ聖杯戦争への関連すらもない、そんな一般人をこんな目に合わせるような魔力吸収の結界を敷いたのは【貴方】よ?ご丁寧に下準備までした大規模な結界で。うー、ひどい気分。この私ですら姫の魔力プロテクターがあってもバス酔いしたように具合が悪くなるのに、一般人がこれを食らおうものなら即気絶でしょうね。言うまでもないことだけど、気絶って【意識不明の重態】って意味よ?命に関わる状態なんだから。これだけの生徒を対象にこんな術式を開いたら何かの間違いで不運にも何人か命を落としてもおかしくはないわね」

 

「そんな【戯言】を言うためにここまで来たのか」

 

「Wow,これを戯言扱いと。本当に周りの人間の事なんてどうでも良いらしいね。私も大概だけどあ、貴方も相当な外道ね」

 

「好きなだけ言え、俺は自分なりの勝ち方でやるんだよ」

 

「でも不思議なものね、別に貴方の魔術回路はアルケードに比べれば良質なのに、わざわざこんなことしてまで魔力を回収しなくても。別に、そのアーチャーもキャスター寄りのサーヴァントではなさそうですし」

 

「敵にそんな簡単に情報を渡すかよ。お前の考察は前提が的外れだって事だ。いいからさっさと出ていけ、この国の法律は他国とは違う。刑法第130条住居侵入罪と同時に、帰れと言ってるのに帰らない「不退去罪」っていうのがあるからな。公共放送の集金訪問も、、家主の引取要求飲まず帰らなかった場合は罪に問われるんだぞ」

 

「あら法学部怖い。もう裁判所はこりごりよ。ま、でも確かに貴方の言う通りもうここに要はないし、撤収させてもらうわ。行くわよ、姫」

 

「えぇ、それじゃあお二人共また会えたらどこかで」

 

「お前との挨拶なんかどうでもいいから早く出ていけ。もうじき奴がやってくるぞ」

 

リカルドと姫セイバーは魔力の渦の中へ消えていった。

 

 

 

「あっ、生徒会長!!どうなってるんですか、この状況は!?」

 

だんだんだん、と廊下を走ってくる一人の男子生徒。その横には女子生徒もついていた。

それに気付いたアーチャーはすぐさま霊体化して姿を消した。

 

「お前か、廊下は走るな」

 

晴燕寺は先程までの本性を完全に秘匿してあくまで生徒会長として接する。

 

「今はそんな状況じゃないですって!学校中で生徒たちが………いや、先生方まで体調不良で倒れているんです、すぐに消防と警察への緊急要請を、」

 

「そうだな。ところでお前たちは平気なのか」

 

「平気?何がですか………?」

 

「確かに、私たちだけ平気だよね?何でだろう、あっ。それより会長!銀子は今大丈夫なんですか!?」

 

「円堂のことか?彼女なら大丈夫だ。無事に助かって、今はこっちに向かって来ているだろう」

 

「か、会長!なんで俺達3人だけが─────」

 

 

ズドォン、と大きな音がした。

 

 

「がっ…………!?」

 

眼鏡を掛けた生徒が気付いた時にはもう遅い。

彼の腹部は真っ赤に染められており、晴燕寺の右手にはいつの間に出したのか、煙を上げている半自動式拳銃が握られていた。

 

「な…………ぜ…………」

 

「すまん間淵、今は忙しいから黙っててくれ」

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

廊下には一発の銃声と男子生徒が血を流して倒れる音と、女子生徒の悲鳴が響き渡った。

 

「いや、やだ………間淵くんがぁぁぁぁ!!!!」

 

悲鳴を上げて女子生徒は背中を向けて逃走を図る。

 

しかし───────

 

 

「アーチャー、逃がすな」

 

「承知しました」

 

「うそっ、どこから出てきて…………!!!!!」

 

女子生徒の逃走経路を待ち伏せて瞬時に実体化したアーチャーが彼女を捕らえた。

 

 

「ひ、ひいっ…………!!!はなし……………うっ!」

 

「円堂の名前を挙げたのが運の尽きだな。まぁ、お前たち3人は仲が良かったからな。どのみち消すつもりでいたが…………」

 

晴燕寺が拳銃を差し出すように向けると、アーチャーが腰から吊るしていた刀を抜き、女子生徒の首に刃を突きつけた。

 

「あ、あぁ………………!!!」

 

「───────マスター、指示を」

 

「指示ぃ?フン、要らないだろうそんなもの」

 

晴燕寺が天井に空砲を放つ。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

空砲に驚いた女子生徒が絶叫する。

 

 

 

「ハハハハハ────たかだか女なんぞどうでもいい!さっさとぶっ殺しちまえよ、アーチャァァァァァァ!!!!!」

 

髪を乱して邪悪な笑みを浮かべる晴燕寺の命令にアーチャーは冷酷にも頷く。

彼の外道働きに異を唱えるつもりはまるでないようだ。

終わりを確信した女子生徒が震えながら叫ぶこともせず涙を流し始める。

 

「はっ、承知────────」

 

その刀が振り上げられ、今まさにその首筋へと振り下ろされようとしたその刹那────!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなクソ野郎──────!!!!!」

 

 

─────廊下の窓ガラスを突き破って二つの影が3階廊下に飛び出てきた。

 

槍を構えた男は自分の脇に抱えた少女を投げ飛ばすと窓枠を蹴って飛翔方向を変更、アーチャーの方に突進していった。

 

 

「うッ……………!!!!」

 

 

強襲にアーチャーは防御行動を強制され、振り下ろした剣を留めて女子生徒の命を殺めることより槍を防ぐことに徹した。

そして、事態はその一瞬の判断が破った。

ぶっ飛ばされたアーチャーの腕に抱えられた女子生徒が解放されたのだ。

 

「フン、マスターの命令よりも自分の命を優先したってか?三流だよ、お前」

 

「………………………………………」

 

アーチャーは女子生徒の身柄を諦め、剣を構えてすぐさま標的を男の方に切り替えた。

 

そして大声を上げた少女は廊下に着地すると真っ先に襲われた二人の姿を確認すると、次に眼鏡越しに鬼の形相で晴燕寺を睨んだ。

 

「本当に来たのか。期待を裏切らないな、お前というやつは」

 

晴燕寺はそれを笑う。

 

「晴燕寺…………よくも間淵くんを…………」

 

異変に気付いた円堂銀子はスパイアーと共に晴燕寺の陰謀を確信して校舎に飛び込んできたのだ。

 

「さて、何のことだか?」

 

「──────────────」

 

晴燕寺の起源弾は対魔術師特化。通常の銃弾に比べると一般人への殺傷能力は控えめであるため間淵楪葉は無事だが、動けず目の前の状況もわからずに弱々しく呻いている。

 

「淑恵、間淵くんを引きずって早く逃げなさい。校舎の外に」

 

「ぎ、銀子……………!!」

 

「早く!!!怒るわよ!!!」

 

「わ、わかったよ………ぉぉぉ………っ!!!」

 

美尾淑恵は間淵の脚を掴んで引きずるようにして階段から逃げようとする。

 

 

 

 

 

「隙ありだ、円堂!!!」

 

「しまった!?」

 

その様子を見守っていた銀子は背後からの攻撃に気が付かなかった。

 

 

晴燕寺は銀子に向けた銃の引き金を引──────

 

 

 

 

「なんてな!!!」

 

 

─────かなかった!

 

代わりに、今放たれたその銃の銃口は……………

 

 

 

今まさに逃げようとしていた美尾に向けられていた。

 

 

「くっ……………!!!」

 

 

 

だんっ、と銀子は走り出す。反射的に友達を守りたいと思った結果だ。

銀子はムササビが滑空するようにして放たれた銃弾の軌道の前に飛び込んだ。

 

 

「ぐうっ…………ぁ…………!!!」

 

美尾へ放たれた弾丸は咄嗟に盾になろうとした銀子の努力のおかげで途中で止められた。

 

「銀子──────!!!!!」

 

「いいから早く!!!」

 

銀子は肩口を抑えて口から血を垂らしながら叫ぶ。

銀子の決死の行動により、美尾と間淵は3階からの逃走に成功した。

階段の中に消えていった二人の姿を見て銀子は安心したように立ち上がる。

 

「先輩…………しばらくお留守かと思っていたらこんなタイミングで…………」

 

「誰が戦いをやめたと言った?お前がこの学校の生徒である以上、俺から最も近いマスターはお前なんだ、真っ先に排除するのはお前に決まってるだろう?」

 

「だから学校に結界を張ったのか………!全校生徒の身の安全を保証せずに…………!」

 

「そりゃそうだ、何でも願いの叶うという聖杯のためならば!犠牲なくして得るものはない!」

 

「あんたは、この世の中は自分中心だとでも思ってるの?」

 

「ふ──────ふははははははははははははハハハハハハハハハ!!!!」

 

その問いかけに晴燕寺は大爆笑する。

 

 

 

「何言ってるんだ、俺中心だよ。この世界はな!俺は聖杯を使って、誰にも逆らうことのできない世界の支配者になる!何もかもが俺の思い通りに行く、最高の新世界を作るんだ…………!この【僕】が!」

 

その人格の変貌具合に銀子はドン引いている。

 

「おい銀子。そんな厨二病野郎…………他人の趣味をバカにして未来の可能性を潰すような貧乏人共と同じくらい生きる価値ねぇぞ。さっさと分からせてやろうぜ」

 

スパイアーが槍を持ち直したと思ったら一気に突き出してアーチャーを後退させる。

 

「ふーん、やるな。敵の攻撃を避けれるんだ」

 

スパイアーは堂々と敵の挑発をする。

 

 

 

「スパイアー……………」

 

銀子は呟くと、意を決して顔を上げる。

その顔には決意の(ひとみ)と憤怒の(まなこ)

 

 

 

 

 

(白黒つけろよ。オマエはどうしたいんだ?【殺したくない】のか?それとも、【生き残りたい】のか?)

 

 

 

 

 

「────────────────」

 

 

 

 

「ははははははは……………もういいか。やれ、アーチャー!以前とはなぜかサーヴァントが違うが関係ない!そのサーヴァントを殺してしまえ!」

 

「覚悟せよ─────ランサー!!!」

 

その意気揚々とした構えにスパイアーは軽く吹き出す

 

「ふふ、お前は弓兵(アーチャー)というよりド阿呆(チャンパー)だな…………で?銀子、指示でも出せよ。今、機嫌いいから命令ぐらい令呪なしで聞いてやる」

 

 

 

スパイアーはニィッ、と微笑む。

 

 

 

「───────わかってる。スパイアー、気を付けて。敵は【チンギス・ハーン】。モンゴル帝国初代皇帝よ」

 

「ハッ。大英雄かと思えば、なんだその美味しそうな名前のマイナー英霊は。大英雄ならせめて蔦屋重三郎とか紀伊国屋門左衛門あたりだろ」

 

 

 

 

 

「──────さては貴様、私を侮っておるな?」

 

「やっと口開いたかよ!お前の煽り耐性はこのあたりか」

 

スパイアーは完全にアーチャーで遊んでいる。

 

「この屈辱………あの男に裏切られた時以来だ。えぇい許せん、そもそも、そういう貴様は何者なのだ?」

 

「俺は高校の教科書にすらたまに乗らない事もあるぐらいのどマイナー英雄。お前と同じ四流だ」

 

「貴様…………」

 

「早くしろアーチャー!何をやっているんだ!」

 

 

 

「黙れよ、銃でしか戦えねぇクセにイキってんじゃねぇこの激弱テニス部員が」

 

「が……………貴様ぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ドグシュッ、と晴燕寺の胸に棘が刺さる。

 

 

 

「お前みたいな大馬鹿者には最初からこう言っとけば良かったな。スポーツやってるから偉いと思ってるお前みたいなやつ…………危機感、絶望的に欠如してるんじゃねぇの?」

 

「う、うるさい黙れ!四流サーヴァントの分際で…………!」

 

「は?何言ってんの?立ってるだけで何もできねぇくせに顔ピクピクさせながら強がってんじゃねぇよ。ノロノロ逃げようとする一般人すら射殺できねぇお前に取れる聖杯はねぇよ、このシード分配担当が」

 

「が…………おのれ…………」

 

シード分配担当というのは、わかりやすく言うと大会に出る部員を決めるためのトーナメントで残らせたい部員が途中で負けないように戦わせる要するに負け確要員の事だ。

 

「もういいよスパイアー、そんだけ煽り倒せばスッキリしたでしょ」

 

「煽ったつもりないんだけどな」

 

「もういいから。ここから先は力でさっさと黙らせるわよ。あんたは煽ってるだけでスッキリするだろうけど─────私はこの顔が目の前にあるだけで十分すぎるほどにイラついてるから、」

 

 

 

 

 

銀子はナイフのように鋭い眼光で晴燕寺を睨む。

そして振り上げた手を前に突き出して叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────殺せ、スパイアー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────待ってましただ、その台詞!」

 

 

 

 

 

スパイアーは過去一番の邪悪な笑みを浮かべると、槍の刃で床を殴った。

カァン、と気持ちの良い音がなると同時に地面に擦らせた刃を振り上げると──────

 

 

 

 

 

「何……………妖術のたぐいか……………?」

 

 

「たまには、【3割の本気】でやらせてもらう!」

 

 

 

なんと、彼の自慢の槍に燃え盛る炎が灯ったのだ!

 

 

 

「ば、バカな…………魔術を使う槍兵の武士など…………聞いたことが…………!!」

 

「ま、魔術(これ)も先生の教えの賜物ってだけだから知らないのも無理はない。先生は教科書に書いてあったがな」

 

 

 

「スパイアー…………それ、」

 

「さて、最初の相手にしちゃあ、やや………というかかなり役者不足だが、まぁチュートリアルには丁度いい。えーとジンギスカンだっけか?」

 

「チンギス・カン。いや……………似てるけど」

 

「よもや許さん、貴様のその肉体、膾に下ろしてくれる!」

 

 

アーチャーが刀を携えて飛び込まんとする。

 

 

「剣じゃ勝てっこねぇだろ、弓を出せよアーチャー。それぐらいの時間はくれてやる」

 

 

 

 

「先輩……………あんたは絶対にここで敗退させます」

 

 

「それはこっちの台詞だ…………お前同様、こっちも前回見せれなかった切り札がたくさんある。むしろそれの解放がお前の前で出来て嬉しいぐらいだ!」

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

銀子とスパイアーが同時に駆け出した。

 

敵は正式アーチャー、チンギス・ハーンとそのマスター、晴燕寺新嵐。

琴女学校とその罪なき生徒教員たちを聖杯戦争の戦禍に巻き込んだ正真正銘の外道に、彼女らは鉄槌を下すことができるのか。

学校の生徒同士を巡る因縁についに決着を着けるその瞬間が、今まさに始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

晴燕寺 新嵐(せいえんじ あらし)

 

身長 173cm

体重 62kg

サーヴァント チンギス・ハーン(正式アーチャー)

触媒 霊廟から出土した赤い織物

魔術 起源弾、魂喰い

令呪 巨大な円とそれを貫く三叉の槍

所属 晴燕寺当主、琴女高等学校生徒会長

イメージCV:竹本英史さん

 

マキリの分家筋にあたる魔術家系、晴燕寺の末裔。起源や体内に貯蔵される魔力など、人体に関する魔術を特に極めたとされているが、それは表の姿であり本来の晴燕寺は「魔術師潰し」を生業としていた。

魔術師潰しによって身内で立場を得た晴燕寺は魔術刻印とその技術を代々研鑽・継承させてきた、生業の残酷さはともかくれっきとした由緒正しき歴史ある魔術家系であった。

魔術師潰しとはどういうことかというと、相手を殺さずして魔術師としての歴史を破壊することを指す。

わかりやすく言えば「魔術刻印の破壊」。

むろんこれは魔術師にとっては最悪の生き地獄であり、一族の歴史を破壊される事に他ならないため、ありとあらゆる魔術師がその魔の手を恐れたのだとか。

彼本人は銀子の通う琴女高校の生真面目な生徒会長であり、教員、生徒たちから絶対的な信頼を置かれている。

 

──────というのは表の顔。

彼の本性は自己中心的で傲慢な極悪人。

世界全てが自分中心に回っていると思っており、自分のためになるのならその他いかなる犠牲をも当然と思っている。

「自分の学校だから」と言い張って堂々と学校を自身の工房にしてみたり、罪のない学校の生徒たちから魔力を吸い上げ瀕死の状態にさせたり、容赦なく生徒に銃器を放つ様子や、相手を騙したりととにかく姑息で下劣で悪質な手口が多い。

魔術を自身の私利私欲の為に濫用し、それどころか快楽的に罪のない人々に被害を与えてはその様子を高らかな引き笑いで嘲笑う、これ以上とない悪魔が彼の正体である。

 

そして魔術師のくせして聖杯に捧げる願いは「世界の何もかもが自分の思い通りに行くようになる」こと。

魔術師として根源を目指すつもりも、一族の技術に磨きをかけることもない。

魔術師に生まれたことは「自分は特殊能力を使うことができる選ばれし存在である」という風にしか思っておらずその責務の重要性も責任も一切感じていない。

そして自分に知識と技術を与えた先達たちのことは「死人に口なし、確かに技術も刻印も先達のものだが自分の人生は自分だけのもの、聖杯戦争に勝ち残るこの業績は自分だけの手で掴んだものだ」と主張しないがしろにする。

 

人間性のみならず、魔術師としての素養も底辺に位置する最悪最低のケダモノ。

 

そしてその腐りきった彼の性根に相応しい起源は「腐敗」。

過去から盗み出した「起源弾」の技術をもとに銃弾を相手に撃ちこむことで相手の魔術回路・魔術刻印を腐敗させる事ができ、なんとも皮肉なことかこのような男に魔術師潰しとしての天才が舞い降りてしまった。

 

生物の屑、人類の恥を極めたような人柄だがなぜか正式アーチャーとの相性は悪くなく、そこそこ息のあった動きをする。

 

──────しかし、それも仮面にすぎず、本来は「サーヴァントが居ないと自分は生き残れない、最後まで生き残ったらこのサーヴァントを三画の令呪全て切って自害させて自分で聖杯を独り占めすれば良い」と契約した時点から画策しており、もはや救いようがない程ににどこでもその屑っぷりを発揮している。

 

硬式テニス部なのだが、運動神経は良いがテニスそのもの成績が振るわずいつまでたっても部活の中で下位の実力に留まっていることをコンプレックスとしている。

お前もっと危機的な部分あるだろ、と言いたいかもしれないがそれは禁句というものだ。




あい、いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます、マジカル赤褐色です。
でました、本作ナンバーワンのクズ野郎。
スパイアーなんてぜんぜん良いやつです。聖人です。
晴燕寺に関しては私が考えつく限り最大限に性格悪いのを作り出しました、うん、見事なモンスター。まぁでも「腐敗」の起源を持ってるくせになんか性根ぜんぜん腐ってなかったですもんね彼。そもそも起源が腐敗である事自体がこうなる伏線でしたから。

さて、今回を持ちまして私マジカル赤褐色、少々お暇を頂きたいと思います。
期間はそうですね、とりあえず今年いっぱいにしようと思います。
もしかしたら延長が起こるかもしれませんがとりあえずお正月には何かしらのアナウンスをしておきたいと思います。
ということで次回の投稿は2025年1月1日と大きく間を空けることになりますが私普通に二ヶ月三ヶ月続きを出さないこともあったので皆さんなら待ってくれていると信じていますw
さて、今年一杯かつて自作した聖杯戦争をご愛読ありがとうございました。
あ、最後にですが人気投票のほうを更新させていただきました。
追加で増えた近衛兵サーヴァントたちの事も見てあげてください。
姫バサカとラスト一人に関しては出番0なのでどうしようもないとは思いますがまぁ、他に推しがいらっしゃるなら是非。

では、来年の頭に元気な顔で皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。
それでは、今までありがとうございました!
遠く離れますが次回もお楽しみに!
最高の展開をご用意して皆さんをお待ちしています!!!

完全+α サーヴァント人気投票

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  • 非正式アーチャー
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  • 非正式ライダー
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  • 姫セイバー
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  • 正式アサシン
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  • 右衛士・スパイアー
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  • 右兵衛・姫バーサーカー
  • 衛門・最後の一騎
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