柱島泊地日記帳   作:まちた

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立ち話、余談 【山元side】

 舞鶴鎮守府での一件からまた暫く、柱島泊地は日常を取り戻していた。

 前と同じかと問われたら、全員がそうではないと答えるであろうが、おおよそ日常と呼べるまでに回復したと言って差し支えないだろう。

 

 怪我をして帰って来てから所属艦娘の殆どから心配のあまり怒鳴られてしまった海原は平身低頭で詫び、もう無茶はしないと約束したが、やはり仕事量の多さについては未だに小言で背をつつかれる毎日である。

 本人はと言えば、右腕の怪我をものともせず社畜時代に培った無駄な技能たる両利きを駆使して書類仕事もなんのその。普段から右手で作業していたものだから、食堂で誰が食べさせるか議論が白熱したりしたが、さらりと左手で食事をしたことに全員が唖然としたのは言うまでもない。

 

 書類に関しては流石に自分が代筆すべきだろうと考えていた大淀も肩透かしをくらう結果となった。

 右手と何ら変わりなく動かして食事をした時から予想できそうなものであったが、海原は心配せずとも仕事は出来ると左手で同じ字を書いてみせたのだ。

 

 大淀含む艦娘達は仕事の心配をしているんじゃないと再三再四言っているのだが、無理をしているわけじゃないぞと本人の口から言われてしまうと、それ以上に言い返せないのであった。

 

 故に、通りすがりに「大丈夫? 仕事なくなった?」などと揶揄うようにして全員から挨拶代わりの言葉を投げられたりしているのだが、それはともかく。

 

「まさか自分が柱島泊地でこのように過ごす日が来るとは夢にも思いませんでした」

 

 柱島泊地の一角にある浜辺にて、昼下がりの陽射しを浴びながら立つ男が二人。

 舞鶴鎮守府での事の顛末を正式な報告を受けたと連絡だけで済まさずに呉鎮守府から顔を見せにきた山元勲は、柱島泊地の潜水艦隊が訓練と称して水遊びをしている光景を眺めながら言った。

 

 彼女らは資材確保の遠征が続いていたため、本日は非番らしい。

 

 海原は山元の隣で陽射しに目を細めて同じようにその光景を眺めていた。

 未だ包帯に巻かれた右腕を抱えたまま、新たに仲間に加わった潜水艦まるゆがイムヤに引っ張られながらぱちゃぱちゃと足をばたつかせる音と楽し気な声を聞きながら山元へ言葉を返す。

 

「前も来ただろう。ほれ、八代の」

 

 海原の返答に一瞬だけ顔をしかめた山元は鼻息を鳴らした。

 

「こうして、個人的にという意味です。長門や松風、神風や天龍……それに龍田に陸奥も……追い出されやしないだろうかとヒヤヒヤしました」

 

「そりゃあお前、あれだけの事をしたのだからそれくらいは受け止めんか」

 

「返す言葉もございません……」

 

 しゅんと肩をすくめる山元。

 

 こまごまとした任務の手続きやら報告書の確認やらで昼過ぎまでは動きっぱなしだったが、怪我人とは到底思えない海原の作業スピードと大淀の敏腕っぷりもあり、ようやく休憩をしている最中。

 浜辺に出る前に柱島泊地の敷地内で通りすがりに会った天龍達の顔を思い出しながら、山元は鼻息をさらに鳴らした。今度は犬のように。

 

「一発ぐらい殴られるものかと覚悟しておりました」

 

 時間が経てど過去は消えない。それを重々承知しているが故の覚悟ですれ違った山元は、呉鎮守府を発つ前からそのことばかりを気にしていた。

 しかし実際は、あっさりとした会話を交わしただけ。

 

『おう、大佐。久しぶりだな。佐世保の提督が来た時以来か?』

 

『お久しぶりです~』

 

 二人は呉鎮守府で見た事などなかった顔をしていた。

 彼女らに謝罪をしようとした山元だったが、それは、叶わず。

 

『おっと、頭を下げられちゃ許さなきゃいけねえだろ、やめてくれよ』

 

 天龍は声音こそ明るかったが、表情は真剣だった。

 

『オレは長門達とは違うからな。許す気はねェぞ。でも――力は貸すぜ』

 

 それもまた当然の反応か、山元はただ、わかったとだけ伝えた。

 力を貸してくれるだけでも十二分の許しに思えた。

 すっきりとしない気持ちこそ、抱え続けねばならない業であると自認した。

 それに、天龍達と別れたあとに海原からかけられた鋭い言葉が、天龍や龍田の代わりに自分を裁いてくれたように思えたのだ。

 

『許されようが許されまいが、やった事は決して変わらんぞ、ずっとな』

 

 取り返しのつかない、深い傷。

 認知が甘かったとは思わないが、時間が経ってから突きつけられた現実というものは極めて鋭利で、残酷で、どうしようもないものだった。

 

『それでもお前の味方でいてくれるんだ、心強いだろう』

 

 広島の人々に対しても、欲望と諦念が混ざった感情を向けてしまった海原や艦娘に対しても、どうやったって取り返しがつかないのだと認めた時の辛さといったら、どんな痛みよりも凄まじいものだった。

 山元は、心がねじ切れるみたいな後悔という感情を深く理解した。

 

「艦娘は人に危害を加えんだろう」

 

 海原の言葉に頷くも、山元は、例外的に、と前置いて言う。

 

「危害という意識が無ければ可能かもしれませんがね」

 

 ただの可能性の話で、試した者など一人もいなかったが、ふと海原が紡ぐ言葉に山元は驚いた。

 

「だろうな。大淀に心配をかけすぎだと折れた腕をつつかれたよ。なかなかに痛かった」

 

「はっ!?」

 

 未だ研究の続けられている艦娘は、深海棲艦の生態よりは判明していることの多い存在だが、それでもまだまだ謎は多い。

 反対派であった山元は、反対派であったが故に艦娘に関する話を多く知っている。大部分は今は亡き楠木少将からの情報で、残りが金森や八代といった上官からの情報だったが、信頼性のあるものではあった。

 

 どれだけ激情にかられようが、艦娘は指揮官に対して暴力をふるおうとすると、動きを止めてしまう。殴る寸前まで動けたとしても、自分からぴたりと止まってしまうのだ。殴りたい、でも殴れない、殴っちゃダメだ、そんな感情が見てわかるほどに顔に出る。

 それが、ただの意識の問題だと?

 

 この人はどうして重要な情報をあたかも当然のように……と山元が何度目かのため息を吐き出す。

 呼吸するたびに新たな報告義務が出来てしまうような気がして、山元は話すのをやめようか本気で考えそうになった。

 

「……それは、艦政本部に報告しておりますか?」

 

「報告? 何故こんなことを報告する必要があるんだ」

 

「表向き、というよりも、海軍全体で艦娘は決して人に危害を与えられないと周知されております。自分もそう思っておりました。先ほどまでは!」

 

「危害は加えられんだろう?」

 

「今、閣下がご自身で認めておられたじゃないですか! 意識が無ければ可能であると! 骨折した腕をつつくのも危険であると判断されかねません! 艦政本部に報告する義務がありますよ!」

 

「なら不可能ということにしてくれ。他にも仕事は多くあるんだ、そんなくだらん報告よりもな」

 

「なっ……はぁぁ、せめて忠野中将には――」

 

「あーあー、いらんそんな報告は。暴力を振るわれるような事をせねばいいだろうが」

 

「そっ、それを言っちゃあ、閣下……」

 

「心当たりがあるならばさっきの話は無しだ。いいな?」

 

「……了解しました」

 

 わざとらしく憮然とした態度で言った山元を横目に見た海原は、口角だけ上げて笑い、ボトル缶のコーヒーを傾ける。

 缶コーヒーが欲しい、と言った海原のために段ボール数ケースを購入して呉鎮守府から柱島泊地に持ち込んだものだ。

 

 軍服の男がボトル缶を片手に海を眺める光景は絵になるもので、山元はしばし無言で見つめた後に言った。

 

「にしても閣下、様になりますな」

 

「うん? なんだ急に気持ち悪い。仕事なら請け負わんぞ」

 

「素直に褒めただけじゃないですか! 話題転換にもなるかと気遣ったのでありますよこっちは」

 

「下手くそか」

 

「……こうして話すと、分からんでもないのですが、どうにも、慣れませんな」

 

「分からんでもないとは、何がだ?」

 

「自称・サラリーマンである、と」

 

「山元お前、次に自称と言ったらあることないこと曙に言うぞ。那珂にも言うからな」

 

「自分が言ったのではありません! みなが言っておったのです、柱島泊地のみなが!」

 

「そんな事を言う者なんて――! ……うーむ」

 

 言い返そうとして言葉が出て来ず、海原は思い浮かぶいくつもの顔を呑み込むようにコーヒーを流し込む。

 

「やはり閣下は軍人こそ天職です。サラリーマンなんて似合いませんよ」

 

「それもどうなんだろうなあ」

 

「ははは」

 

 冗談を交わして幾分か和らいだ空気に、潮風が吹き込む。

 

「それはそうと、気になっていたんだがな、山元」

 

「っは、何でしょう」

 

「お前はどうして艦娘反対派だったんだ」

 

「……」

 

「こんな話ができるお前が、どうしてああなったんだ」

 

 不思議と、空気は柔らかなままだった。

 それは艦娘達を眺める海原の表情が柔和なままだったからそう感じたのかもしれないし、声が優しいものだったからかもしれない。

 

「艦娘を兵器と呼んで、広島の人達まで敵に回して、深海棲艦との戦いを避け……私利私欲に溺れていたのが、私はどうにも信じられんのだ。自分の目で見ていたというのに、夢じゃなかったのかと思うほどにな」

 

「それを口にすれば、言い訳になってしまいます」

 

「いいじゃないか、言い訳で結構。正当性、合理性、そんなものを気にして聞いているのではない。年齢差があれ、立場があれ、今のお前は私の部下だろう。仕事のやり方について私と違う考えをもって、違う姿勢であった話を聞きたい。ただそれだけだ」

 

 反対派を良しとしているわけじゃないぞ? と言ってまた缶ボトルを傾ける海原の顔を見た後、山元は海へ顔を向けて暫く考えた。

 それから自分よりも年下であるとは思えない貫禄に負け、話し出す。

 

「……はじめは反対派ではありませんでしたよ。艦娘を理解しようとしておりました。艦娘がこの世界に現れて、もう十年以上も経ちます。未だに生態すら解明できていない存在を前にした過去の自分は、彼女らを化け物や兵器などとは考えてもおりませんでした」

 

「十年以上、か」

 

「閣下からすればゲームの話でもありますが、自分達は最初から、現実でしたからな」

 

「……うむ」

 

「ああ、決して閣下の出自がどうこう考えてはおりません。寧ろ、だからこそ閣下が軍人に向いていると思っているのです。現実であるとすぐに受け止め、前を向いておられるあなたをこそ」

 

「私の話はいい」

 

「失礼――そう、ですな。今になって思えば、深海棲艦との戦いで多くの犠牲が出て、自衛隊から海軍へと変わって環境が一変したのにも要因があったのだろうと思います。艦娘でなければどうやったって勝てない相手を前にして、その艦娘が無条件に戦って人々を守っているのが……怖かったのです。自衛隊員でもあり、軍人でもあった自分からしたら、守られる意味が分からなかったと言えばよろしいでしょうか」

 

「ほう? 守られることが理解できなかったか」

 

「ええ、ええ、軍人は国を守る存在でありますから、国を守るとは即ち人を守ることでもあります。その覚悟を持った仲間として許容するには、彼女らの超常的な力はあまりに大きすぎました。艦娘や深海棲艦の出現に伴い様々な変化が起こりましたが、たかだか十年です。されど十年とも言えますが、それでも、世界が変わるにはどうしても存在が大きすぎる」

 

 山元の話に、海原の表情は柔らかなまま。

 

「人の手に余るのです。政に詳しいわけではありませんが、艦娘の扱いについてはどの国も相当に揉めたと聞いております。世間においては艦娘を保護するか否かについて、海軍よりも先に意見が割れたくらいですから」

 

「世論が割れたか。それはそうだな、海を駆ける少女が現れて深海棲艦を退けたからと言って諸手を挙げて喜ぶなんざ、その時に限られる」

 

 艦娘を最優先に考える男にしては冷静だ、なんて思ってしまった山元の言葉が途切れると、海原は目だけを山元に向けて言った。

 

「人は都合良く考える生き物だが、大きな力に対しては不思議とその逆を考え、不安になってしまうものだろう? 自然災害が良い例だ。明日、大きな地震が起こると言われたら具体性が無かろうが漠然とした不安が生まれ、伝播する。誰かが艦娘を深海棲艦と同じように脅威と感じれば、少なからずそれに同調する人が出ても不思議ではあるまい」

 

「……仰る通りで。艦娘が出現したばかりの頃、ある噂が流れたのです。艦娘は危険である、と。その噂に具体的な危険性を語るものは少なかったですが、日を追うごとに尾ひれ背びれがつき、深海棲艦のように人を襲っていたのを見たとまで言われていたくらいです。無論、事実無根でしたが。艦娘は人に危害を加えられない、と海軍で周知されていると言いましたが、まあ、平たく言えば流布ですな。艦娘が軍を求めたが故に再編された海軍がそう流布することで、艦娘を危険視する世論の鎮静化を図ったのです。皮肉なもので、世論というものは危険でなければそれでいいと、今度は極端に舵を切って艦娘の保護をと言い始めました」

 

「……ふむ。それだけではお前が反対派になる理由がないように思えるが」

 

「郷田少将と同じ考えを持っていたと言えば、分かりますか」

 

「ああ」

 

 海原はそれで大方察したようだったが、続けろ、という風に浅く頷いた。

 

「艦娘は同じ顔をして、同じ声をしていますが、個々の違いは必ずあります。性格であったり、好みであったり、癖であったり……深海棲艦という人類の脅威に対抗するために関われば関わるほどに、彼女らが生きていると実感してしまう。人と違って頑丈な彼女らが、化け物と戦って、沈んで、まるで何事も無かったかのように、妖精がもたらした未知の技術によって出来たカプセルから同じ顔が生まれる。別の艦娘なのですから記憶がないのは当然ですが、同じ姿で、現れる。はっきり言って異常です、こんなものは。なら最初から彼女らは沈むべきなんかじゃありません、あの頃、郷田少将と同じような話を何度もしました。幼子の姿をした駆逐艦から、年頃の少女のような、嫁入り前の未来ある女性たちのような艦娘が自分らは軍艦だと勇ましく海を往く。そして我々の手の届かぬ海の向こう側で、沈むのです。これほどに恐ろしい話がありますか」

 

 熱を帯びる声に、海原は何も言わずに軍帽のつばを少し押し上げる。

 まだ、浅瀬で艦娘達の黄色い声が聞こえていた。

 

「深海棲艦と一進一退、いや、殆ど後退するような戦いを続け制海権を奪われる中、任務に加えて雑事はどんどん増えていきます。作戦海域から戻って来た彼女らは煤にまみれた顔で言うのです。ギラギラとした目をして、誰が沈んだか、どれだけの被害が出たか。私は……彼女らを、受け止められなかった。生きていると一度思った相手が海を駆けては沈んでいく。そんな恐ろしい敵が今にも海と一体化して艦娘もろとも世界を呑み込んでしまうのではないか。いつしか私は、彼女らの目を見ることをやめ、戦いを、諦めてしまいたくなった」

 

「それで、どうなった」

 

「……郷田少将に相談しました。郷田少将もまた、私と同じような思いをしていたと話してくれました。それでも、逃げてはだめだとも」

 

 山元は一度大きく息を吸い込むと、空を仰ぎ、息を吐き出す。

 

「自分は郷田少将を真似るつもりで、彼女らを兵器と呼びました。深海棲艦と人類の大戦争に勝つための道具だと言って、必要最低限の会話以外は接触を避けました。さっさと戦争を終わらせて、彼女らを自由にしたいと。そうして手探りの運用を続けながら海域を取り返しては奪われる戦いを続け、必要最低限と考えていた会話も減っていき……連携などあったものじゃない。当然の結果です。郷田少将を真似ただけで、同じ運用をしていたわけじゃないのですから、戦果など挙がるわけもない。それなのに、私は……どうして負けたんだ、そう聞いた記憶があります」

 

 軍帽を脱いで髪を撫でつけて被りなおす山元の目は虚空を見つめる。

 

「その当時、作戦海域に出撃したのは、軽巡洋艦那珂でした。自分の動きが悪かったから……彼女は申し訳なさそうにして泣きそうになっていましたが、仲間と共に生きて帰還しました。今になって思えば手探りであった当時、生きて帰って来られただけでも十分な戦果と言えましょう。敵の情報だって持って帰っていたのですから。それなのに私はどうして敵を沈めていないのかと、問い詰めたんです」

 

「そこからか」

 

「ええ」

 

 海原の言葉を肯定し、自分はそうして何度も那珂を怒鳴るようになったんです、と言った。

 

「何度も立ち上がる彼女らが不思議でなりませんでした。何故立てるんだ、どうして戦えるんだ……自ら否定した彼女らに聞く勇気はありませんでした。そうして私はその疑問から逃れるため……八代少将や金森中将のように、戦果を挙げ続けていた楠木少将に縋り、偽りの勝利や権力を求めるようになりました。っはは、権力を持てばどうなるのかなど考えもしなかった。力を見誤っていたのです。深海棲艦と戦える彼女らを権力に任せ虐げることによって、自分も強くなっているのだと錯覚していた。しかし心のどこかでは理解していたのかもしれません。常に前を見つめている彼女らが眩し過ぎた……だから私は怒りに任せ、愚行を」

 

 海原の言葉が山元の心臓を掴む。

 

「如何な理由とて、周りの者は認めんだろう。私とて認めない」

 

「……」

 

「作戦に不備はなかったか、艦娘の体調は万全だったか、そもそも会話していないのだから連携が取れていなかったと自分でも認めている。ならば作戦以前の問題であったかもしれんな。勝てぬような相手に挑むことは、愚かだと考えてしまうのも当然理解出来る。だが捨て鉢になる理由にはならん」

 

「……はい」

 

「非常につらい立場だ」

 

 山元は驚いて海原を見た。

 てっきり責められるものだと思っていたのに、と。

 

「深海棲艦も艦娘も両方を知らねばならない。私は過去を知らんが、それでも、話を聞くに理解の深さには偏りがあっただろう。世間が知る艦娘、軍が知る艦娘。深海棲艦についても、国ごとに今でも理解度に違いがある」

 

 私が調べた限りな、と言った海原はどこか自嘲気味に笑う。

 

「人が多く関われば、単純な話が複雑化してしまう。まして戦争となればなおさらだ。欲が絡めばなおのこと、理解のしようがない。それでも、分からないとは口に出せん。全く理不尽なもんだ。それでもお前は戦おうと戻って来た……お前はすごい男だ」

 

 すっと、海原の表情が変わる。

 先ほどの自嘲気味な笑顔でもなければ、柔和な顔でもない。

 山元はその表情をどう言い表せばいいか分からなかった。

 

 彼の目は、艦娘に向けられたまま。

 

「山元よ、教えてくれ」

 

「っは」

 

「我々がすべきことはなんだろうな」

 

「すべきこと、ですか」

 

「ああ、目的はなんなんだ? 戦争に勝つことか? 深海棲艦がいなかった頃のような世界に戻すことか?」

 

 多くの言葉が脳裏を過る。海洋からの侵略阻止、支配の維持、通商の復帰。

 それらを押し退けて頭に浮かぶ一言。

 

「……守ること、です」

 

「何をだ?」

 

「国であり、人であり、仲間であり……それらは多く、存在します」

 

「そうか。ならば、そうするしかあるまい。それが仕事だ。難しいことがどこにある」

 

「私に、できるでしょうか、そのように大それたこと」

 

 そう問うた山元の目に焼き付く、海原鎮という男の横顔。

 海から反射する光に照らされ、真っ白な軍服を潮風にはためかせる。

 

「出来る出来ないじゃない、やるんだ」

 

 海原の視線の先には――こちらに手を振る少女達の姿があった。

 彼女らにゆるゆると手を振り返しながら、彼は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうやって恰好をつけるんだよ、男ってやつは」

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