柱島泊地日記帳   作:まちた

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日常【大淀・鳳翔・龍驤】

「限界突破かぁ」

 

 鎮守府の談話室は以前と違い様々な設備が整えられ、娯楽のみならず情報収集も出来るようにと共用のパソコンまで設置されていた。もちろん、柱島泊地は最前線かつ元帥の直轄であるために機密情報が漏れないようにと厳しい制限が設けられているものの、おおよそ一般的に使用するには問題のない程度である。

 テレビ、雑誌、漫画、パソコン、それ以外にも囲碁や将棋、チェスなんていうものを取り揃えたのは海原本人である。

 曰く、戦場に身を置く彼女らに潤いが無いのはいただけない、という事らしく、知的好奇心を満たすのは権利だというのだから生真面目なのか優しいのか。

 

 談話室以外にも、食堂にテレビ兼会議用にと大きなモニターが設置されているのだが、それらは柱島泊地に所属する青葉が面白がって制作した【鎮守府散歩】なる自主制作番組が常時垂れ流しになっているのが実のところである。しかしながらそれもまた好評なのだから、海原からは艦娘が肩の力を抜けるのならと黙認されている。

 内容こそ大淀が問題無いか精査しているものの、時たまギリギリな映像が流れる場合もあるとかないとか。何がギリギリなのかは、想像にお任せするとしよう。

 

「はい、限界突破です」

 

 談話室で難しい顔をしながら結婚情報誌を読みふけっている大淀に対して声を上げたのは、足と腕を組んで頭を揺らす龍驤である。

 

「ほんで、その限界突破っちゅうのにいくつか事例を作るのに一番槍になったろて大淀が手ぇ上げた事にする、と」

 

「……そうですね」

 

「今の間ぁ、さては個人的に司令官に言ったんが大きいな……?」

 

 龍驤の的確な指摘に対してびくりと反応してずれた眼鏡を押し上げながら咳払いした大淀は、龍驤の横に座っている鳳翔をちらりと見てあからさまに話題を逸らした。

 

「――んんっ! そ、そう言えば鳳翔さんはどうでしたか、勉強会」

 

「勉強会ですか? んー……艦載機運用の基本的な事をお話ししただけですから、勉強会と呼べるものだったか少し不安ですけれど……皆さん、とても真剣に取り組んでくださって、好感触でした」

 

 大淀と鳳翔が言う勉強会とは、井之上元帥、もとい大本営から第二次大侵攻を戦い抜いた艦娘達の経験談は共有されるべきであるとして各拠点にて開かれたものである。

 無論、軍機に抵触する事は上手く伏せられていたが、戦闘に際する多くの経験は各拠点の艦娘達との間でコミュニケーションも兼ねて共有され、柱島泊地の艦娘の多くは今や海原と同じく生ける伝説と化しているのだった。

 そも、彼女らにそのような意識は無いため気恥ずかしいやら気後れするやら、副次的かつ感情的な問題もあったりしたのだが、自分達の武勲が後続の役に立つのなら是非も無しといったところ。

 図らずも、欠陥と呼ばれた艦娘達は、最前線を駆ける最強の艦娘達として勇名を馳せ、教導する立場になったのだった。

 

 大本営からくだされる任務遂行の他、艦政本部にて開発されている新兵装の実験データの取り扱いや改革された海軍全体の調整、海原本人が自発的に行っている勉強等々――元々はただの会社員だったのだからこれからは必要だろう、と様々な勉強をしているらしい――多岐にわたる活動を表情一つ変えずにこなしている海原に比べれば楽なものと思えるが、それを差し引いても海軍の中核と言って申し分ない多忙さである。

 

 中核に申し分ない拠点だが……彼女らの間に横たわる、大きな問題がある。

 彼女らにとっての、大きな問題だ。

 

 

「歴戦の空母である鳳翔さんから指導を受けられるのですから、有意義な時間でしょう。それに、えーと……ほらぁ……」

 

 うんうんと唸りながら会話を逸らし続けようとするも、龍驤から出た溜息に言葉が途切れ、抱えていた雑誌が、くしゃりと歪む。

 

「大淀は戦場と執務室やと完璧やけど、それ以外はとこっとんアカンなぁ……」

 

「なっ……! どこがダメなんですか!」

 

「まず、そのドレスの頁を開いてるとこやろ」

 

「うっ」

 

「本から飛び出しとる付箋の数やろ」

 

「うぐっ」

 

「色分けされとるのを見るに、自分以外の艦娘が司令官に言い寄った場合も想定されとるみたいや。赤色は戦艦、緑は重巡、黄色と白は軽巡と駆逐か? 青は潜水艦やら特務艦……で、今見とるドレスの頁に貼ったピンク色のは自分用やろ」

 

「ちが――!」

 

「全部自分用やったか?」

 

「それでは私が提督を独り占めしようとしているみたいでは無いですか! 皆さんにもしもの事があれば迅速に情報提供が可能なようにしているだけです!」

 

「ほなウチの見立て通りやんけ。真面目で完璧なのにやっとる事が抜けとんねや君」

 

「……うぅ」

 

 余談だが、柱島泊地において多くの情報を抱えており、なおかつ見抜く力があると言ったら、次点は龍驤である。

 彼女は大淀に負けず劣らず分析が得意で、よく人を見ている。それ故に柱島泊地のご意見番、なんて呼ばれていたりもするのだが、それはさておき。

 

「ふふ、それでも想いが伝わって結実する事は、決して悪い事ではないじゃないですか」

 

「鳳翔が言うたら重いなぁ……」

 

「え、えぇっ!? そんなつもりは……」

 

「ははは、冗談や、冗談。ま、鳳翔も司令官とケジメつけに行く予定もあるし、そろそろ他人事じゃなくなるで?」

 

「ケジメって、そんな……」

 

 困った表情の鳳翔は、袴のような制服の裾を指先でちょいちょいと弄りながら、龍驤の言うケジメについて考えを巡らせる。

 もちろん、菅谷中佐の事だ。

 

 元情報部所属の男は闇に動いて、闇に葬り去られた。

 しかしてその功績は、未来、いわば今に繋がっている。

 それらが蔑ろにされてよいわけもなく、彼の上官である忠野中将は菅谷中佐の実家が建てた墓とは別に、鹿屋基地にこぢんまりとした慰霊碑を建てた。未来への活路を切り開いた勇敢で勤勉な軍人として。

 それ以外にも情報部は多くの軍人を失った。慰霊碑には簡単な文言しか彫られていないが、そこには多くの想いが込められている。

 

 勉強会で方々へ飛ぶことの増えた鳳翔は、九州に出向く事があれば墓参りをしようと海原から提案されている。慰霊碑であるか実家の墓であるかは分からないが、彼女も彼女で断る理由も無いために、機会があればとは言っている。しかし自分は艦娘かつ軍人――如何な理由であれ個を優先して良いものかと半ば遠慮気味だった。海原の多忙さも相まって時間など取れないだろう、と。

 だが海原は確実に任務を一つ一つ完遂しており、龍驤の言う通り、本当にそろそろケジメをつけに行けそうなのだった。

 

 靄のかかる胸中を知ってか、一人になる時間も必要だろうが、孤独にはならないようにと、大淀や龍驤はこうして行動を共にしている。

 鳳翔にとってそれはありがたい事だった。いつのまにか、柱島泊地のまとめ役はと問われたら三名の名が挙がるほどだ。それくらいに、気が置けない仲である。

 

 龍驤のからかいと違って、大淀は至極真剣に鳳翔に言う。

 

「私達と提督は、極めて特殊なケースです。軍人と艦娘……ではなく、元々は、会社員と欠陥品なのですから。そうした背景があってこその今ですが、鳳翔さんの気持ちは汲まれるべきだと考えていますよ」

 

「大淀さん……」

 

「だから、私はあえて限界突破と言ったんです。ここの全員が提督を嫌いでないにしろ、色恋とは別の好意を感じているだけの場合もありますからね。特殊な関係だからこそ、強く繋がりたいではないですか」

 

「……そう、ですね」

 

 大淀は雑誌を閉じると、立ち上がって、談話室の隅にある小さな台所へと向かう。

 手際よく三人分のお茶を淹れると、それをテーブルへ置いた。

 

「特殊な関係、なあ。まっさか自分らがこないな事考えるようになるなんて思わんかったわ。ウチはちっと分からんなあ、やっぱ」

 

「提督に撫でられたりとか」

 

「なんやいきなり」

 

「提督に褒めていただいたりとか」

 

「お、おう」

 

「よくやったな、と目の前で他の娘を褒めているのを目の当たりにして、自分にはそっけなくご苦労とだけ言われたら……?」

 

「なんも思わんわ別にぃ! なんやねんな、もう……」

 

「――龍驤、よくやったな、やはりお前は素晴らしい艦娘だ。と言われたら?」

 

 声を低くして、かぶってもいない軍帽のつばをつまむ仕草をする大淀。

 

「褒められるのは悪いこっちゃないやろ。多少嬉しいくらいやて」

 

 はん、と鼻を鳴らして顔を逸らした龍驤だったが、サンバイザーを目深に被ってわざとらしい咳払いとも呼べない声を出すのを見て、大淀はくすくすと笑った。

 

「龍驤、私はお前を特別に想っている……どうだろうか、お前さえよければ、今夜一緒に――」

 

 さらに海原を真似る大淀に、龍驤は自分の膝を叩いた。

 

「やめぇや大淀! そんなんちゃうかったやろ君ぃ!? あーもう!」

 

「ふふふ、すみません、龍驤さんの顔が真っ赤なのが面白くて」

 

「うせやん!?」

 

 ぱっと顔に手を当てた龍驤。

 我慢ならないと言った風に破顔一笑した鳳翔に、ばつが悪そうに腕を組んだ。

 

「鳳翔まで笑うんかいな……あーあー、そやそや。司令官は悪い男ちゃう! 褒められんのも誘われんのもやぶさかやない! 悪いんか、えぇ!?」

 

「も、もう、りゅーちゃんったら、そんな顔を真っ赤に、ふふ……ふふふ……!」

 

「やめてやぁ、もー!」

 

 血なまぐさい戦場を生き抜いたはずなのに、まるでそれが嘘だったかのように平和な時間。

 仲間内に想われるのが男一人というのは非常に特殊な状況だったが、それもまた柱島泊地らしい様相なのかもしれない、と大淀は微笑んだ。

 

「……ふぅ。冗談めかしましたが、ケッコンカッコカリについて詳しいところを共有しているのはお二人だけです。練度九十九が前提である事と、特別な様式が必要になるかは依然として艦政本部の開発状況次第である事、提督曰く、強制ではない事――これを、騒ぎにならないよう穏便に伝えるには、限界突破という名目が安牌だろうという話です」

 

「大騒ぎになったら困るんは司令官やしな。んでもや、ウチらだけしか知らんっちゅうこたぁ無いやろ。川内は? 司令官の直属の護衛やろ」

 

「川内さんもあきつ丸さんも知っていますよ。しかし、お二人は、ほら、ね?」

 

「別枠の扱い、かぁ……ま、二人は艦娘保全部隊やし、騒ぎを起こす側には回らんっちゅう事か」

 

「えぇ。艦政本部の新兵装の開発状況は随時提督へ送られていますが、それとは別にお二方が出張っていますから、それがどういったものかも理解しておられるかと。ですので、実験的に実装するのは私を含め、川内さんとあきつ丸さんの三名になるかと思われます。龍驤さんや鳳翔さんに問題が無ければ、実験データは多い方が良いでしょうから、参加していただきたい……というのが、真面目なところですかね」

 

「んー……ウチはかまへんけど、鳳翔はどないや?」

 

「私も構いませんよ」

 

「あぇっ? なんや、拍子抜けやな……」

 

「そうですか……? 提督には正直に気持ちをお伝えしましたし、提督も菅谷中佐の事を知った上で了承しておられますから、特に問題は――」

 

「あっ」

 

 大淀の声に二人が顔を向ければ、彼女は気まずそうに鳳翔を見て言った。

 

「……鳳翔さんは覚えておられますか、あの、褒美を与えるといった話で、私が正妻が良いと言ったのを」

 

「えぇ、覚えていますが」

 

「提督はどういう聞き間違いか、制して裁く、という方の制裁と勘違いなさっていたようで、私が話した時にようやく誤解が解けたんです」

 

「は、はぁ……」

 

「なので、その、鳳翔さんの話も誤解している可能性が――まずはその誤解を解くのが先になるかと……」

 

「えっ」

 

「なんやそれ」

 

 こんこん、と談話室の扉がノックされ、三人はびくりと肩を震わせた。

 扉が開かれると、そこには――渦中の人、海原の姿があった。

 

「ここに居たか。大淀、スケジュールの変更があってな」

 

「は、はい! わざわざご足労いただきすみません……! スマホに連絡を入れていただければ対応しましたのに」

 

 大淀はポケットからスマートフォンを取り出して振って見せた。

 これもまた、談話室や食堂に取り揃えられた設備と同じく、艦政本部の明石達が情報漏洩しないようにと細工を施した特別仕様のスマホである。

 一般的なウェブサイトへの接続の他、各種アプリも問題無くインストール出来る一見して何の変哲もないスマートフォンだが、細工を施すのに妖精の手も加えられているため、意外な事にも使えたりする便利なものだったりもする。例に挙げれば、作戦に携帯して行けば救難信号を出す道具ともなる。

 防塵防水はもちろん、艦娘の砲撃には流石に耐えられないにしろ、自動車に踏まれたくらいなら使用に問題無い程度の強度を誇る。他の艦娘が使用できないようにと認証機能もバッチリである。

 艦娘が使用するスマホの耐久性は重要だ! とは艦政本部の明石達曰く。

 

「もう昼時だったからな、予定変更を伝えるついでに久しぶりに食堂で飯を食おうと思ったんだ。それで、明後日を予定していた艦政本部への訪問だが、明日に変更したいと忠野から連絡があってな。どうやら新兵装の試作の目途が立ったらしい」

 

「それって――!」

 

「うむ、あー、その、あれだな。前に言っていた、アレだ」

 

 鳳翔と龍驤をちらりと見て言葉を濁した海原だったが、無論、二人は察していた。

 

「食事ついでにその事も話せればと思ったのだが、忙しいのならば後でも――」

 

「い、いえ! 任務ですから! その、秘書艦ですし! はい!」

 

 立ち上がって海原に駆け寄っていく大淀を「ウチらはもうちょい後で食堂行くわ」と見送る龍驤達。

 任務と口にしながらも、ぱあっと顔を輝かせた彼女を邪魔する二人ではなく、静かになった談話室で顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

 

「任務ですから! やて。任務て、顔に出てるっちゅうねんな」

 

「ふふ、本当に。でも提督が色々と働きかけてくださったお陰で、私達の環境も随分と変わりました」

 

「そやなぁ……艦娘にスマホ持たせるんも、最初は意味わからんかったけど……」

 

「まだ使いこなせていませんが、メッセージアプリで離れていても手紙のやり取りのような事が出来るのは素敵だと思いますよ? ほら、りゅーちゃんが教えてくれた……」

 

「ラインやろ。戦艦の集まりやら空母の集まりやら、派閥が出来てまうんか心配したけどやぁ……ま、杞憂だったわけやけども」

 

「派閥なんて出来ませんよ。まとめ役の大淀さんもいらっしゃいますし」

 

「あのポンコツ具合でまとめられるんかいな」

 

「……ふふふ」

 

 ポンコツ、とは口にしても、二人の表情は柔らかかった。

 

「司令官の基準もおもろいよな。駆逐艦やら海防艦には、スマホ持たせへんし」

 

「情操教育のため、とは言っていましたが……みまもりケータイというものは配布していましたよ?」

 

「あんなんスマホと別モンやん! ボタンも三つしかついてへんしやあ。執務室か大淀か大本営にしか繋がらんオモチャやんけ。それこそ通信で事足りるで」

 

「第六駆逐隊の暁ちゃんは喜んでましたよ? ケータイを持てる一人前のレディーだー! って。ふふ」

 

「ケータイで一人前て、安上がりなレディーやなぁ」

 

 大淀が淹れてくれたお茶を口にしながら、龍驤は一息ついた。

 鳳翔も同じようにお茶を一口呑むと、談話室はほんの少しの間だけ、静寂に包まれる。

 

 二人とも静寂というものはあまり好きでは無かったが、柱島に来てから、時折ふと訪れる、こうした何もない時間と静寂が好きになっていた。

 互いに言葉には言い表せない、心がほっとする、それでいてどうしようもなくつまらない時間が大切に思える。

 

 それは往々にして自分達の心と向き合う時間だった。

 一人で向き合わなければならないものでもなく、言うなれば互いを知る時間でもある。

 

「ほんま、変なやっちゃで」

 

「変?」

 

「変や、変。自称、元会社員の司令官も、今の海軍も、この時間も、ぜーんぶ変や」

 

「ん、そうですね。嫌いですか?」

 

「……好きやで、こういうんも悪くないって思えるくらいには余裕も出てきてるしな」

 

「一時も油断しなかったりゅーちゃんがこうなってるのも、変、ですね?」

 

「はは、そやなあ」

 

 あー、と言葉にならない声を上げながらサンバイザーを脱いで、だらしのない恰好でソファにもたれかかる龍驤を見て目を細める鳳翔。

 

 気づけば、何もかもが変わってしまった。

 

 油断ならない戦況は続いているものの、着実に戦力の底上げが行われ、各拠点の資源の管理も行き届き始め、艦娘の待遇も変わって、任務も死と隣り合わせの危険はあれど、死に向かうものではなくなった。

 けれど、何もかもが変わったと言うのに、相も変わらず日本は日常を変わらず送っている。

 

 先日、龍驤は外出許可を貰って広島に出た際――行き交う人々を見た。

 仕事に向かう人、遊びに向かうであろう人、店で買い物をしている人、井戸端会議をしている人、子を連れる母、それを見つけ手を振る父、それから――龍驤と共に広島に出て来た、隣を歩く提督の言葉が脳裏を過ぎる。

 

【これが、お前達が守り抜いたものだ】

 

 その、彼の目と言ったら、もう。

 背の低い龍驤が見上げた海原の横顔に、何を思っているのか分からない不思議な目が、龍驤は――

 

「……りゅーちゃん?」

 

「んお、ごめんごめん、なんや?」

 

「いえいえ、ぼうっとしてたものですから……」

 

「あー、ははは。この前、広島に出てる時の事思い出してもうて」

 

「提督と外出なさった時でしたっけ」

 

「そや。呉鎮守府で仕事がある言うて司令官もついて来てな。ま、一緒におったら息が詰まるやろって司令官はすぐに戻ってもうたけど……」

 

「デートはしなかったんですね?」

 

「するかい、んなもん! それ言うたら鳳翔かて勉強会で司令官と一緒やったやろ、デートのひとつくらいしたんか?」

 

「私は勉強会でしたから、デートなんて、そんなそんな……」

 

「はぁー……そないな奥手やとぜーんぶ秘書艦に持っていかれるでぇ?」

 

「も、持っていかれるってなんですか。私は別に構いませんが?」

 

「ほぉん? ま、鳳翔は鳳翔で色々考えてるんやろから、つっこまんとくけど……中佐の事もあるし、その、あれや」

 

 龍驤はすっかり冷めてしまったお茶を一息で呑むと、湯呑を置いて優しい声音で言った。

 

「あんま、無理しなや。今まではできひんかったけど、今は違うんやから、鳳翔の自由にしたって司令官もとやかく言わんやろ」

 

「……ありがとうございます」

 

「そんなかしこまらんといてやあ! ちっとな、気になっただけやから、な? ままま、まぁまぁよ。まぁまぁ」

 

「何ですかそれ、まぁまぁって。ふふ」

 

「まぁまぁは、まぁまぁや! 急ぎ足にならんと、ゆっくりやろやって意味!」

 

「えぇ……そうですね。あの人のもとなら、ゆっくりしても、いいんですかね」

 

「……それくらいの甲斐性はある男やで、あの人は」

 

「あら、厚い信頼」

 

「茶化すなやぁ! もー!」

 

「ふふふ」

 

 二人の会話に、ピロリン、という軽快な電子音が割り込む。

 どちらのスマホから鳴った音か、と見てみれば、それは正規空母赤城が率先して立ち上げたメッセージアプリのグループの通知だった。鳳翔も龍驤も参加しているものである。

 

「赤城ちゃんからだわ」

 

「問題でもあったんかいな」

 

 鳳翔はぎこちない手つきで、龍驤は慣れた手つきで画面を操作する。

 二人の画面に表示されたのは――やはり、平和なものだった。

 

『今日のお昼ご飯はチンジャオロースです!! 全空母、出撃してください!!』

 

「ぷはっ! 全空母に出撃かかってるで鳳翔、こら緊急事態やわ」

 

「うふふふ、赤城ちゃんったら、すごいはしゃぎようね……それじゃあ、行きましょうか、りゅーちゃん?」

 

「……ん、行こか!」

 

 立ち上がりざまに、もう一件メッセージが届く。

 今度は、大淀が主体で立ち上げたスマホを所持している艦娘全員が見られるグループにメッセージが来ていた。

 駆逐艦や海防艦にもメッセージが表示される、いわゆる緊急通知用である。

 

「おわ、ほんまに緊急のメッセージ……が……」

 

「あら……」

 

『提督ガ食堂ニ向カウ。全艦出撃用意サレタシ』

 

「……送ったん大淀ちゃうな」

 

「あきつ丸さん、ですね」

 

 龍驤はスマホをポケットにしまいこみながら、呆れたように笑った。

 

「ほんま変わったとこやでここは、もぉ……。ゆるぅなりすぎちゃうかこれ?」

 

「まぁ、ずっと緩いわけではないですから、ね?」

 

「全空母のオカンも甘いやっちゃなぁ……」

 

「ふふふ。さ、食堂へ出撃です!」

 

「……はいはい、出撃しよかぁ。あー、丁度ハラも減ってきたわぁ」

 

 

 

 こうして、柱島泊地の日常が流れていく。

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