柱島泊地日記帳   作:まちた

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婚【海原鎮】

 仕事終わらねえんだが?

 

 なあ、あのさ。

 

 仕事、終わらねえんだが?(半ギレ)

 

「兵装も受け取ったし井之上元帥への報告も終わったな。次は舞鶴だったか」

 

 確認の意を込めてクールに独り言を漏らせば、隣を歩いている大淀は人差し指と親指だけで器用にスケジュール帳らしきものを捲って、これからの予定を読み上げてくれる。

 

「はい。舞鶴に向かい新任の提督が鎮守府を問題無く運営出来ているか視察――それから、先に到着しているであろう神通さんを交えて演習を行い、練度の向上……と、いう名目での書類上で報告されている練度との差異が無いかの確認です。舞鶴に向かう前に、一度大阪の方へ寄って艦政支部の倉庫の確認も。忠野中将から通達があった通りならばそちらに――」

 

 あっ、待って待って大淀、ちょっと待って。ゆっくり喋って。

 まもるは仕事をこなせても出来る男というわけじゃないのだ。ごめんね。

 

「そこまで焦らないでいい。舞鶴を優先し、大阪の方を後にする」

 

「えっ……? で、ですが忠野中将は柱島に送る資材の確認をと……」

 

 分かっているとも! と頷いてみせた。

 

 あれから季節は巡り、海軍大将ことお湯被り変態クソ提督まもる(妖精命名)、改め――海軍元帥の一人となったまもるです。

 第二次大侵攻と呼ばれるようになった作戦から暫くして、俺は井之上さんの野郎に……井之上元帥に割り振られる多くの仕事をこなすハメになっ……割り振られる多くの仕事をこなしながらも、何だかんだで平和に過ごしていた。

 

 柱島に籠っているだけではさぞおつらいでしょう、といらん気を使われて日本全国津々浦々まで出張しろと俺をコキ使ってくれやがる忠野の言われるままに各鎮守府の視察までさせられる始末である。ダメだもう許せねえ!! 労働基準法に準拠しろ!!

 

 もちろん、文句は言えませんでした。

 

 仕方ないね、社畜ならぬ国畜だからね。

 

 胸中で冗談めかしつつ悪態をついてはいるものの、忠野さんも井之上さんも柱島にて書類に圧し潰される毎日を送る俺を気遣ってくれているのだと感じられ、不快感は無かった。嘘、ちょっとだけある。

 先の通り、資材を融通してくれているのも、その証拠と言えよう。

 資材に余裕が無ければ資材遠征にイムヤ達を出動させっぱなしにしなければならないし、第二次大侵攻後から何度かそういった場面に陥ってしまった事もある。マジでごめん。やっぱりまもるはクソ提督でした。

 

 幸いにもイムヤ達が反旗を翻して執務室に魚雷をぶち込むなんて事態にはならなかったが、それでも艦隊これくしょんと現実とでは違うのだと何度も考えていたにもかかわらず、実際に資材遠征でオリョクルじみたことをさせなければならなくなった時には頭があがらなかった。

 イムヤやゴーヤ、ニムにハチは

 

『頑張れば美味しいランチが待ってるわ!』

 

『美味しいランチ!? それなら、いーっぱい頑張るでちぃ!』

 

『ロッゲンミッシュブロート……』

 

『な、なにその怖い響き……』

 

『はっちゃん、それただのパンでち』

 

『前に食べさせられた、あのすっぱいやつ?』

 

『ニム……食べたんでちね……』

 

 と、健気にクルージングへ出向いてくれた。柱島泊地の資材事情を支えているのは間違いなく潜水艦隊の皆様です。本当にありがとうございます。

 ナチュラルに美味しいランチを要求しつつただのパンでも出そうものなら分かってんだろうなと言われている気がしないでもないが、優しい潜水艦達のことである、きっとそれくらいに頑張るから、ご褒美をきちんと用意しておけという……あれおかしいなやっぱ要求されてるな。

 

 そ、それはさておきだ。

 

 何だかんだでただの社畜であった俺は、海軍元帥として仕事を必死にこなしている、ということである。

 そんな俺を支えてくれている秘書艦である大淀には、驚かされたが。

 

 彼女は、俺に好意があるらしい。

 

 いや、らしいというのもおかしな話だ。俺は間違いなく彼女の口から聞いたのだから。『だから、愛してしまったんじゃないですか』と。

 

 ここまで言われて黙っていられるほど男としても提督としても落ちぶれちゃいねえぜ! 大淀、その想い――受け取ったァッ!

 

 と、俺は勇み足でケッコンカッコカリに必要な指輪まで忠野さんに用意してもらったのだった。完全にやりすぎである。

 

 さらにはプロポーズまでしようと言うのだから頭ん中身お花畑だ。

 お湯被り変態クソフラワー提督である。

 

 如何に俺に好意があるとは言え、大淀の愛は本当に俺に向けられているものなのか? と疑問を抱いたのは言うまでもない。それがどれだけ失礼にあたろうとも、俺は信じられなかったのだ。

 

 あれから彼女――大淀とは多くを語り合った。

 

 大淀が置かれていた状況も、資料などではなく彼女の口頭から聞いた。

 俺がここに来る事になったトンデモな状況も、俺の口から話した。

 

 互いが驚愕したことはもちろん、俺にとってゲームのキャラクターであっただけの彼女達の存在は現実という名の別世界に生きる俺の支えであったことや、深海棲艦や自分達がただの絵空事である平和と言えば平和と呼べる同じようでいて全く違う日本の話は、幾日語り合っても、尽きることはなかった。

 

 本当にそんな恐ろしい勤務形態の企業があるのですか!?

 

 なんて目を剥かれた時には、それはもう、重々しく頷きましたとも。マジだよ、と。

 

 そんな企業ばかりではないことも話したが、悲しいかな、度合いは違えどそれは日本という国における性質なんじゃないか、なんてことも語った。

 俺からすれば、ブラック企業で使い潰されるのと大淀と共に戦うのとでは選択などあってないようなものだから、今は感謝していると言ったのだが、彼女は真面目過ぎるきらいがあるので「やはり提督は会社員ではなく軍人が向いていますよ」などと明後日の方向へホームランをぶっ飛ばす勢いの返答をしたのだった。

 

 軍人よりブラック企業のが楽に決まってるだろ! いい加減にしろ!

 

 でも艦娘がいるから海軍のほうが俺は好き!

 

 現実逃避にどんどんと乖離していく思考を掴みなおすように咳払いをひとつしてから、大本営から出て歩くすがらに大淀へぽつりと提案する。

 

「東京観光でもして帰るか?」

 

「舞鶴に向かう時間もありますので」

 

 即答である。真面目な顔をして逃げようとしても大淀様はお見通しなのだ。フフ怖。

 

「そうか」

 

 なんて何でもない風を装うので精一杯な俺。情けなさマックスである。

 こういう時こそ、むつまる率いる妖精部隊が俺を助けるべきなんじゃないですかァッ!? ぱっと現れて我儘の一つでも言ってくれりゃあ、それを理由に東京観光という名目でサボれたのによォッ! くっそぉ……!

 

 むつまるは現在、俺の着ているじゃらついた勲章の邪魔くさい上着のポケットでスヤッスヤである。こいつほんっま……と俺の心の龍驤もご立腹。

 

 さて、ここまで来てどうして俺の胸中がここまで愉快な事になっているかと言えば、やはりケッコンカッコカリの指輪が原因と言えよう。

 俺と大淀を舞鶴の視察前に呼び出した理由でもある。

 

 柱島泊地からわざわざ大本営に行って井之上元帥に報告をあげたのもまた、試作された兵装は機密事項であるからして誰が装着するのかを見極める必要がある、とのことだった。

 どれだけ茶化そうとも海軍は海軍、現実は現実なのだ。

 

 それに乗じてプロポーズとかしちゃう? なんて考えている俺も俺だが。

 

 未だ衰えない深海棲艦の勢力は日本近海に出現こそすれど各鎮守府が確実に撃滅している。だが、出現そのものが問題である。

 近海に出現するということは防衛が意味を成しているかへの疑問を呈する。

 しかして防衛のていをとらねば国民への示しもつかず、安全への配慮さえ疑問視されかねない。

 海外からもソフィアという女研究者を通して情報共有されているが、日本と同じく、沿岸部での防衛線をあざ笑うかのように深海棲艦の出現が確認されているとのことだった。

 

 不気味なのは、それらがあまりにあっけなく撃滅できることだ。

 

 まるで艦隊これくしょんのように、それこそ、デイリー任務のためだけに出現しているのではないかと思えるくらいに、ふと駆逐級の深海棲艦が現れては、あっけなく撃沈され、静寂が戻る。

 

 軍部中枢の将官は口々に言った。

 相手は拮抗を選んでいるのではないかと。

 

 過分なくこの世界中で一番に深海棲艦への造詣が深い俺も、殆ど同じ意見だった。

 

 だからか、俺は勇み足でケッコンカッコカリなどというシステムを持ち出して自分を優先するような愚かな真似をしてもよいものか、とも考えてしまっている。

 既に試作品が大淀の手中にあるのに、ここにきて、やはりこんな場合ではないのではと今更になって至極真面目に考えあぐねているのだ。

 

 流れるような現実逃避に愉快な胸中だが、その中心核には不安があった。

 

 艦娘に支えられたから。艦娘が好きだから。ただそれだけで深海棲艦と戦い、少年漫画やアニメの如く世界を救えるのか? それこそ否であるなど、無論のこと。

 

 必要なものは多くあるが、俺には何もない。

 

 あるとすれば深海棲艦に対する知識、前世のゲームの知識のみである。

 

 それさえ時間の経過に伴って海軍へと浸透していくだろう。

 そうすれば、俺だけの武器ではなくなり、以上を望むべくもない。

 

 故に、俺は恐れていた。

 

「大淀」

 

「は、はいっ! まだ新幹線の搭乗予定時刻には間に合うかと思われます!」

 

 大淀がいつか俺から離れて行ってしまうのではないかという、情けない恐れ。

 黙りこくっていた俺が突然に声をかけたものだから、彼女は驚いた様子だった。

 それか、俺の口から出た声があまりに弱弱しかったからかもしれない。

 

 仕事の話を口にする大淀を見て、俺はもやもやとした胸が少しだけすくような気持ちになった。それでも拭えない不安を誤魔化すように笑い、

 

「そうじゃない。休憩は必要無いかと思ってな」

 

 逃げを選んだ。だが、大淀は違う。

 

「いえいえいえ、全然、はい、大丈夫です!」

 

 ふんふんとやる気に満ちた様子を見て、俺は責任を投げるような心持で彼女の言葉を翻す。

 

「うむぅ……では、少し休憩するか」

 

 ごめんね。まもるは難しいことを考え過ぎて疲れています。休ませてください。

 またも冗談めかす胸中。道から逸れていく俺の足取り。

 

 このまま道を逸れ続けていれば、きっと取返しのつかない事になる。

 

 もう一つの現実――かつての俺がそうだったのは、身をもって知っているはずなのに。

 

「あのっ! 提督、私は大丈夫ですから!」

 

 俺を呼び留める声に、するりと言い訳の言葉が無意識に紡がれた。

 

「私が休みたいのだ。我儘を許してくれ」

 

「……え、あ、ぅ……ずるいですよ、もう」

 

 ふふ、と自嘲気味に笑う俺の後ろについてくる大淀の足音。

 どこまで行こうか、どこに行こうか。

 

 逃げ道を探す俺に、ふと小さな声がかけられる。

 

『みぎ』

 

「うん?」

 

『みぎだっていってるでしょ!』

 

「ぉぁ……!? な、ま、待てって、おま――!」

 

 どういう原理で入り込んでいるのか、勲章の留め具で隙間が無さそうな胸ポケットからぴょこんと顔を出したのは、むつまるだった。それ以外にも、ポケットの雨よけを押し上げて多くの妖精が顔をのぞかせて右へ左へ大合唱。

 

 あっあっ、待って、怖い怖い、やめて、ナニコレ!? 艦これ!?

 

『ちょくしーん! すすめー! まもるー!』

 

『こんどはひだりだー! とまるなー! ぜんしーん!』

 

「やめんかお前達……! 今は仕事中で、大淀もすぐ後ろに……!」

 

 ひそひそと抗議するも、

 

『うるさいよ! いくじなし! いいからすすんで! ほらはやくっ!』

 

「ひぇっ」

 

 酷い言われようである。なんだこいつらは。

 そうだね、妖精だね。

 

 言われるがまま、導かれるがままに俺は歩いた。歩かせられた。是非も無し。怖い。

 

 休憩したいと言い訳した手前、大淀に助けを求めるわけにもいかず、ちらりと後ろを振り返ってみるも、彼女は顔を伏せて俺についてくるばかり。

 

『なにがこわいの?』

 

「あ……?」

 

『こわがってるみたい』

 

『しんかいせいかんがこわい?』

 

「それ、は……」

 

『かいぐんがこわい?』

 

『じゃあ、おおよどさんがこわい?』

 

「大淀が怖いのはそう」

 

『うそだ! ……って、わけでも、ないみたいだね』

 

「……」

 

 こそこそと呟きを落とす俺に、語り続ける妖精達。

 

『ずっと見てたから、分かるよ私には』

 

『そうだね、私達には、分かるよ』

 

「お前達――」

 

 妖精の言う、ずっと見てた、というのは額面通りの意味を持っているのだろう。

 それもそのはずだ。妖精は――彼女達は――【俺の艦娘】だったのだから。

 

『やっぱり、出会わなきゃよかった……なんて思うかしら』

 

 妖精の小さな姿から、らしからぬ艶めいた()()の声がした。

 

「そんな事はない」

 

 即答するが、それに続く言葉を持ち合わせず。俺は再び閉口する。

 しかしそれも、数秒のことだった。

 

「……これは、戦争なんだ」

 

 だから、どれだけ冗談めかしたって、現実は世界を襲うのだ。

 いつかのように彼女らは戦火へ飛び込み、平和を口にして砲撃しあう。

 

 身を震わせるような轟音と黒煙にまみれて、俺はただ、遠くからそれを見ていることしかできない。

 

 そんなの……残酷過ぎるじゃないか。

 

 ひょんなことから提督になったとはいえ、短く、あるいは長く、そしてとてつもない濃度の時間を共有した俺に、何ができるというんだ。

 ゲームの知識で無双? 出来るわけがない。

 多くの任務を成功させてきたのは俺の力がほんの少し、殆どが生死をかけた彼女らの献身あってこそ。

 

『だから?』

 

「だからって……それは、その……ほら……」

 

 いざ我が身となればゲームや漫画、アニメや小説などのように上手くはいかないのだ。常に必死になって、どうすればいいのかばかり考える。

 それも大体が、逃げるために。言い訳するために。

 

「難しいんだよ、色々と……大人、だからさ……」

 

 仕事だから出来るのだ。無茶も、無謀も、無鉄砲も。

 今は、一つの間違いだって命取りになりかねない。

 

 井之上さん達を裏切りたくもなければ、艦娘にだって恰好をつけたい。

 平和になれば御の字、正直に言えばそんなものは二の次だっていい。

 

 俺は――彼女達と、艦娘と生きたいだけなのだ。

 

『ふぅん……大人だから、なにが難しいの?』

 

「体裁とか、あるだろ……もう、ゲームじゃないんだぞ、これ……俺の、我儘ひとつで縛るような……」

 

『そうね、もうゲームなんかじゃないわ。私も、あなたをブラウザ越しに見ているわけじゃない』

 

「だろうな。ポケットからだけどな」

 

『ふふ、茶化したって無駄よ』

 

「……」

 

『仕事、仕事、仕事……ブラウザ越しのあなたはいつもそう』

 

 何で怒られてんだ俺は、と俯いてしまう。そうすると、妖精たちと俺の距離はさらに近くなる。

 皮肉なものだ。顔を上げれば艦娘たちと距離が縮み、俯けば妖精たちと距離が縮む。

 

 もう逃げ場なんてものは存在しなかった。

 

『ここに来ても、仕事、仕事、仕事ばーっかり。いい加減にして欲しいわね』

 

「……」

 

『ほんの少しだけ正直になったかと思ったのに……あ、次の道は左よ』

 

 そうして、

 

『ストップ』

 

 立ち止まる。

 

『はい。にげてもいいよ』

 

 また拙い声音になったむつまるを見れば、むつまるは俺ではなく、俺の向こう側を見ていた。

 顔を向けてみれば、そこには小さな教会が一堂。

 

 場違いに、ある種、この場に合った考えが巡る。

 それが何であるのかは、口にせずとも理解している。

 

「逃げたら、どうなるんだろうな」

 

『さぁ? おおよどさんが追いかけてくるかも。しごとしてくださーい! って』

 

「……ふふっ」

 

『それでもにげつづければ……むつまるも、わかんない』

 

 尻すぼみになる言葉に、そうか、とだけ返した。

 幾度となく脳をかきむしる現実や仕事と名の付く命がけの任務群に、足が震えた。

 

 前は、どうして逃げたんだっけ?

 

 仕事がクソブラックだったからだ。意味も分からん仕事を任され、成果も感じられずに文句ばかりつけられては理不尽に虐げられ、孤独だったからだ。

 

 今は、どうして逃げたかったんだっけ?

 

 怖いからだ。意味も分からずやってきたゲームの中なのかどうかさえ不明な世界が、どうしようもない現実だと心底理解してしまったからだ。

 今しがたしようとしていることは、俺の我儘で彼女達を縛り付けることにほかならない。その第一歩が、目の前にある。

 

『まもるは、どうしたい?』

 

「そうだな……俺……いや、私は――」

 

 ダメだ。こんな危ない現実に身を浸すべきじゃない。

 強烈で悪辣な痛ましい思考を押し退けるのは――やはり、俺にとって一つしかなかった。

 

 無意識に振り返って「っと、大淀、少しいいか」と声を上げる。

 短く返事をした大淀に装備を要求すれば、ちらりと横目に教会を見た彼女が戸惑う。

 

 そりゃそうだ。こんな場所でカッコカリの指輪を要求しているのだから。

 

「雰囲気は大事だろう」

 

「は、ぃ……」

 

 やはり言い訳じみた言葉を紡ぐも、俺にとっての言い訳は、言い換えればポーズなのだ。そういった、恰好なのだ。良いか悪いかなんて、考えるまでもない。

 名前なんてものも、なんだっていい。

 

 威厳スイッチなんて名前だっていい。

 

 おずおずと差し出された指輪を受け取る前に俺は言う。

 

「――後悔は無いか」

 

 大淀に対しての不安を正直にぶつけた言葉であり、再確認であり、むつまる達が俺に用意してくれた逃げ道だ。

 いつしか靄に覆われていた気持ちは、なんて単純なことか、大淀の顔を見ただけで霧散してしまっていた。

 俺は彼女につままれた指輪をすっと取る。

 

 ただただ晴れやかに、素直なままに、さらに言う。

 

「大淀、後悔は無いか」

 

「私は、そ、の……後悔、なんて……」

 

 どこか、似ているな、と考えた時のことだった。

 ポケットから顔を出していた妖精たちがクスクスと笑う声が聞こえた。

 

『にたものどうしだねー』

『ていとくとかんむすだからねー』

『そりゃにるかー』

『ねー』

 

 もうちょっとだけ我慢してもらっていいですか、今からほら、ね、分かるでしょうよお前らもよ、こっから感動的かつ俺がかっこよくプロポーズする場面ってことくらいさ。な?

 

『ポーズがひつようなの?』

『プロポーズだけに?』

『フッフーゥ!』

 

「……」

 

 クソッ……上手い……じゃねえ! オラァッ! やめろォッ! 恰好悪くなるからァッ!!

 

 俺を見つめる大淀の目が涙を湛えているのに気づき、思わず、

 

「これはただの兵装、そう、試作機の兵装だ。練度向上のための――!」

 

 なんて言ってしまう。だが、すぐに俺は言いなおした。

 

「……すまん。恰好がつかんな」

 

 カッコ悪い……しかし、これでいい。真っ直ぐなままでいいんだ。

 うだつの上がらない社畜であろうが、国畜にダウングレードしていようが、俺は俺なのだ! お湯被り変――じゃない、海軍元帥、柱島泊地の提督、海原鎮なのだ!

 

「初めてなのだ、このような、その、ほら、分かるだろう。だからいつどのようにして嵌めるべきなのかも分からんし、見当すらつかん。雰囲気作りだって、私なりに、努力はしてみたの、だが……」

 

 言えーッ! 言うんだまもるーッ! 男を見せろォォッ!!

 

「泣かせるつもりは、なく、だな……ああ、くそ」

 

 すみませんヘタレでぇ……。(手の平ドリル)

 

 震える手で大淀の右手を取り、あ、違う、と左手を取り直す間抜けっぷりを披露しつつ、俺は言った。

 

「大淀」 

 

「……はい」

 

「改めて――私と、ケッコンしてくれ」

 

「……は、い」

 

 それから俺は後頭部をぶつけることになる。

 最後の最後まで情けない限りだが、まあ、これが海原鎮なのだから仕方が無い。

 

「提督っ……提督っ……!」

 

「名前では呼んでくれんのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まもるさん」

 

 ポケットから飛び出した妖精達が、きゃあきゃあと笑いながら教会を飛び交った。

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