柱島泊地日記帳   作:まちた

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提督として
教え①


「隊長……暗い、です……たい、ちょ……」

 

「暗いな」

 

「怖く、ない、ですか……」

 

「ああ、怖くない」

 

「怖い、です、よ……ずっと、ずっと、ここで、一人、で……」

 

「一人じゃないさ」

 

「やっと、来て、くれた、のに……また、人の、役に立てるって、思った、のに……」

 

「少し眠るといい。目が覚めたら――」

 

「めが、さめた、ら……?」

 

「一緒に飯を食おう。温かい飯を」

 

 

 

* * *

 

 

 

「おーう、自称・元一般人司令官やんか。今日は早めの朝飯やなあ」

 

「おはよう龍驤。その……自称っていうのはやめてくれんか……」

 

「あはは、冗談やがな! そやそや、司令官。今日の哨戒に使う予定の艦載機のことなんやけども、明石から何か聞いてたりせえへん?」

 

「……ああ、新型の艦載機を開発したと報告を受けているな。飛行試験を行いたいとも……空母全員が使えねば意味がないから試験飛行を通して順次確認をしようとしていたが、そのことか?」

 

「そういうことやったんかぁ! 倉庫に行ったら知らん艦載機がずらーっと並んでたから、何事や! 思てなあ」

 

「なるほどな。実戦配備は少し先になるだろうから、待っていてくれ。試験日程は追って知らせるが、遠くはならんだろう」

 

「新型かぁ、楽しみやなぁ……えへへ!」

 

「うむ。龍驤には彩雲を任せたこともあるからな、期待している」

 

「なんなら、()()くれた時みたいに、サプライズでもええねんで?」

 

「……ん、んんっ。新型兵装の試験には事前通達が必要だが、それは機密事項に抵触するため例外だと言っただろう」

 

「ふーん……ま、ウチは二番手でも三番手でもかまへんけど、艦載機の試験飛行はいっちゃん最初やないと嫌やで?」

 

「ああ、分かった。分かったから、からかうのは勘弁してくれ……」

 

「何を気弱なこと言うてんねや色男。しっかりしてや! ほんなら通達待ってるわ!」

 

 マルロクマルハチ。快晴。

 柱島泊地の朝は早く、この時間帯ならばもう少し気だるげな空気が漂っていそうな鎮守府は既に活気に満ちていた。

 食堂から一番に出て来た龍驤とばったり会った海原は、軽口を叩きあうように仕事の話をしつつ、にこやかなままにすれ違う。

 

「あーっと、司令官!」

 

「うん? どうした。確認漏れか?」

 

 食堂の扉へ手をかけた矢先、龍驤に呼び止められてぴたりと止まる海原。

 龍驤はにやりとして「今日の漬物は大淀が手伝って作ったもんらしいで」と言った。

 表情にこそ出さず「そうか」とだけ返した海原だったが、無意識に扉から手を離して軍帽を目深にしたことで感情の片鱗が見えてしまい、龍驤はケラケラと笑ったのだった。

 

「ウチが作っても照れてくれるん?」

 

「何を言っている。照れてなどいない……が、あー、うむ。嬉しくはある。龍驤も料理が出来るのか?」

 

 誤魔化すよう話題を逸らしていく海原だが、必死に表情を隠すような仕草に龍驤はからかい過ぎたかと胸中でほんの少しだけ反省して、またこう言うのだった。

 

「冗談やがな。じょーだん。料理って言えるもんは作れへんけど、ま、ちっとくらいは練習してみよかな」

 

 ほしたら、また後でな。

 

 そう言い残してひらひらと手を振って歩いていく龍驤の後ろ姿をしばし見つめていた海原だったが、食堂の中から聞こえてきた「あー! 時雨! それ夕立が取っておいたデザートっぽいぃ~!」という悲痛な叫びに意識を引っ張られ、顔をふいとそちらへ向けて食堂へ入っていく。

 龍驤の指に光る指輪をちらりと見てついた溜息の意味は、彼にしか分からないだろう。

 

「あら、提督。おはようございます。この時間にくるだなんて珍しいですわね? 今日は砲弾でも降ってくるのかしら」

 

「んぅ? おぉ、提督だ。おはよー! ほんっと珍しいじゃあん! とうとう仕事し過ぎてやることなくなった?」

 

 入室して一番に声をかけて来たのは、最上型重巡洋艦四番艦熊野と、同三番艦の鈴谷である。

 一見して花の女子高生が如き制服姿に、朝早くともきっちりと整えられた髪は、海原にとって眼福というべきか、目の毒というべきか。

 柱島に来たばかりの頃からは想像もつかない砕けたやり取りに無礼などとは考えもせず、海原は満足気な鼻息を誰にも分からないくらい小さく鳴らしつつ、手近に空いていた最上型の集まるテーブルへ歩み寄っていく。

 

「こらっ! 提督になんて口を利くんだい、まったく……ボクの立場も考えてよ!」

 

「あら、レディーからの小粋な挨拶でしてよ。悪意はありませんわ」

 

「そうそう、フレンドリーなだけだってぇ!」

 

 最上型重巡洋艦の一番艦、長女と呼ぶべき立場の最上が頬を膨らませて二人をたしなめつつ海原へ謝罪するも、海原からしたら「ご褒美です! アザッス! アザッス! もっかいオネシャス!」と、もう決して口には出してほしくない胸中でなんら問題などないのだが、最上の言葉を借りれば彼にも彼なりの立場があるため、無表情のまま。

 

「大丈夫だ最上、気にしていない。こうしてのびのびと仕事をしてくれるのならば、多少砕けていた方が私としても助かるのでな。だが、最上の言うこともよく聞くように」

 

「ほーら見てみろー! 鈴谷達に挨拶されて嬉しいって!」

 

「ま、朝から麗しいレディー達を見られるのですから、当然ですわね」

 

「もぉ、提督は甘いんだからさぁ……」

 

 調子に乗っているかと言えば、そうでもない。傍から見て分かるくらいニコニコしているし、海原が歩み寄っただけで座るとも分からないのに、鈴谷と熊野はさっと一つ分の席をあけている。一連の流れは一種の確認行為として周囲も受け止めていた。

 そも、そういった確認行為をおこなう艦娘が少なくないのも理由として挙げられるだろう。

 

 鈴谷、熊野然り。艦娘本来の年齢としてではなく、分かりやすく見た目から推察される年齢の若い艦娘ほどこういった確認行為が見受けられた。特に駆逐艦からは甘えられっぱなしである。

 渦中たる海原は本当に、心の底から、いや、さらに言えば無意識下で全面的に受け入れている()()()()()が故に、行為が激しくなるようなことはなかったが。

 それら行為を咎める艦娘が幾人も存在していることで、偶然とはいえ歯止めとなって上手く回っているのだった。

 

 世の中(鎮守府)とは実に巧妙である。

 

 鈴谷達があけてくれた椅子へするりと滑り込んで腰をおろしたところで、海原は「っと、飯を取ってくるのを忘れていた」と立ち上がりかける。

 

「これはいけませんわ……仕事のし過ぎで生活に影響が……」

 

「提督さー、ちゃんと寝てるのー?」

 

「いやいや、これはたまたまだ。お前達が声をかけてくれたのが嬉しくて、そちらに集中してしまった」

 

「うっ……」

「ぅくっ……」

 

「……どうした鈴谷、熊野?」

 

「な、何でもありませんわ! そこでぼーっと座っていなさいな! ワタクシが持ってきてさしあげますから!」

 

「はぁぁ、調子狂うなぁもぉ……お茶、温かいのでいい?」

 

「うむ、手間をかけてすまんな。ありがとう」

 

 食事を中断していそいそと立ち上がって歩いていく二人を見送る海原に向かって、福神漬けをかじりながら感心する最上。

 

「はぇぇ、提督は扱いが上手いねぇ。ボクも見習わなきゃ……後ろから刺されない程度に」

 

「うむ? なんの話だ?」

 

「べっつにー。あ、提督。ボク今日は非番だから、外出許可を貰いたいんだけど。申請書は――」

 

「それについては受理済みだ。一日ゆっくりと羽を伸ばしてくるといい。私も今日は舞鶴に用事があってな。大淀と合流して戻る予定なのだ。最上さえよければ途中まで送るが?」

 

「いいの!? やったね!」

 

 ガッツポーズをして喜ぶ最上の姿を見た鈴谷と熊野が、それぞれ手にお茶とお盆を持って早足で戻って来る。

 

「なになに? 提督に何お願いしたの最上!」

 

「抜け駆けはいけませんわモガミン! 何かする時は一緒にと――!」

 

「へっへーん、ボクの言う事を聞かずに提督をからかう妹には教えませーん!」

 

「なにをーぅ!? 熊野、ちょっとそっちお願い」

「承りましてよ! さぁモガミン、吐いてもらいますわよぉ……!」

 

「ちょ、二人とも! まだご飯食べて、あ、あっはっはっは! やめてよ! もー! あはははは!」

 

「ふふ、元気なようでなにより。だが、食事中は騒ぎ過ぎないように」

 

 海原の一言で嘘のように

 

「っちぃ……命拾いしたね最上……部屋に戻ったら聞かせてもらうよ……」

「寝る前に怖い話してやりますわ……」

 

 なんて恨めしそうな声を上げるも、すっと止まるに至る。

 

 今日も今日とて、柱島の一日が始まる。

 それが平和か否かは――まだ、誰も知らない。

 

 

 

* * *

 

 

 

「えへ、えへへ、ラッキーだなあ今日!」

 

「随分と機嫌が良いじゃないか。非番というのは、やはりテンションが上がる、というものか?」

 

「違う違う! 違うよ提督! 一緒にお出かけ出来るのがラッキーなの!」

 

「ふふ、最上は持ち上げるのが上手いな」

 

 柱島から出て呉鎮守府を経由し、新幹線に乗るべく呉駅を目指す道中。

 海原にとっては何度も通っている道で目を引くものなどあまりなかったが、最上は海原の周囲をちょこちょことついて回りながらも、キラキラと瞳を輝かせて街並みを眺めていた。

 

「最上の外出許可というのも珍しいものだが……今日は何か予定を立てているのか? 一人で大丈夫そうか?」

 

「も、もぉ! ボクは子供じゃないんだから大丈夫だよ! あのね、鈴谷達が見せてくれた雑誌に呉のデパートが載っててさ。ほら、最近、広報の人達がボクらの事を宣伝してくれてるみたいじゃない。そのグッズ? ってやつが売ってるとこに行きたくてさ!」

 

「あ、あー……艦娘キャンペーンか……」

 

「うん? どうしたのさ、提督」

 

「いや、なんでもない」

 

「もー、なにー!? 言ってよー!」

 

 ゲームとして艦隊これくしょんを知っており、また、キャラクターとして艦娘を知っている海原の胸中の複雑さといったらない。

 コスプレでもなく、当の本人がキャンペーン先のグッズを買いに出かけるというおかしな状況を面白がってもよいのか分からないというのが本音のところ。

 

 ましてや海軍の軍艦とはいえ艦娘という字面通り、キャンペーンでグッズ化されているのは少女であり、これまた買いに出掛けている最上も少女である。

 心配が先立つのも無理はないだろう。

 

 かと言って、仕事を放り出して最上の出先に随行していましたなどと誰が許してくれようものか。軍部は呆れかえるだろうし、海原の右腕たる大淀に至っては「はぁぁ……」と肺胞から酸素がなくなるくらい長い溜息を吐くに違いない。

 海原はかろうじて

 

「問題があれば連絡をするのだぞ」

 

 娘を心配する父親のようなことを言うのだった。

 

「問題って何さ……それよりボクは提督が心配だよ」

 

「私が?」

 

「ここのとこ毎日出掛けてるしさ……無理せずちゃんと帰って来てよ?」

 

 かえって娘から心配されるような言葉をかけられ、海原は苦笑してしまう。

 

「無理をするな、と口酸っぱく言っている私が言われては世話ないな。早めに帰れるよう、努力する。大淀もいるのだ、仕事など一瞬で終わるさ」

 

「約束ね」

 

「うむ。約束だ」

 

 そうして話しながら歩く事しばらく。呉駅に着いたために最上と海原は別れた。

 新幹線口へ歩いていく海原を見送ってから、最上は踵を返してバス停へ歩む。

 海原と歩いている時は気づかなかったが、ちらちらと視線を感じた最上は気配の先へ顔を向けた。

 

 そこには、数名の少女達。

 

 見るからに女子高生らしき少女らは、スマホを片手に声をかけて来た。

 

「あ、あの!」

 

「はい? え、っと……ボク?」

 

「はい! あの、艦娘さん、ですよね……?」

 

「そう、だけど」

 

 やっぱり! さっき一緒に歩いてたの絶対に軍人さんだったんだよ! テレビでも見たもん! と口々に会話しながら近づいてきた少女らに一瞬警戒したのもつかの間、最上はあっという間に囲まれ――

 

「SNSで見て! すっごいかっこよくって! それで! 写真とかってダメですか!?」

 

「おわわぁっ! しゃ、写真!? 写真、か……えーっと……」

 

 最上はしばし逡巡していたが、少女らに微笑みかけて言う。

 

「艤装、ってわかるかな……規則で街中じゃ出しちゃダメだから、ボクだけを撮ることになるけど、いいの? つまらないと思う、けど……」

 

 微笑みから苦笑に変わった最上の表情だが、少女らから一層大きく黄色い声があがった。

 

「ぎそー? とか分からないですけど、いいですいいです! 艦娘って可愛いよねーって皆で話してて! それで――」

 

「か、可愛いって……照れるなぁ……あはは」

 

 欠陥品と呼ばれたのは遠い過去じゃないはずなのに。

 世間の風向きすらも変えてしまった男の姿を思い出しながら、最上は照れ笑いで少女らと写真撮影に興じた。

 

 それから、ボクは用事があるからこれで、と言って少女らと別れて、またしばらく。

 

 デパートで艦娘グッズを購入するのにもひと騒ぎあったのだが、それを塗りつぶすような緊急通信が、帰路についていた最上に届いた。

 昼前だったのも今や夕方過ぎ。既に日は完全に落ちて、月が顔を覗かせようとしている頃だった。

 

『こちら柱島泊地。全艦娘へ通達。繰り返します、全艦娘へ通達』

 

 声の主は鳳翔だった。

 一瞬にして背中から脳天へ向かってぞわりとした寒気が走り、デパート前のバス停でぴたりと止まったまま、虚空を見つめる。

 それは最上の、いや、艦娘の勘だった。

 

 丁度やってきたバスの開いたドアの向こうから、怪訝そうに見つめてくる運転手が言った。

 

「お客さん? 乗るの? どうするん?」

 

「待って!」

 

「おっ……!? ま、待ってって言われても、こっちも仕事じゃけえ……」

 

「いいからッ!」

 

 少女の姿と言えど、軍艦。

 艦娘としての気迫が運転手を沈黙させた。

 

『舞鶴鎮守府へ視察に出た提督との連絡が途絶えました――』

 

「ぇ、う、そ……?」

 

『提督は舞鶴鎮守府を視察中、執務室付近で突如姿を消したとのこと。時刻はヒトヨンサンマルごろ、現在は常任秘書艦大淀が現場を捜索中で――』

 

「嘘だ……嘘、嘘だよ、今日は、早めに帰るって……」

 

 ぐらりと揺れる視界に、その場で尻もちをつきそうになる。

 がつ、とかかとを鳴らして踏み止まりながら、最上は運転手へ叫んだ。

 

「これ、どこまで行きますか!?」

 

「おぉあ! な、なんね君はぁ! 行先の事ね!?」

 

「そうです! これ! どこまで行きますか!」

 

 ばたばたと乗り込みながら問えば、がらりとした車内には運転手と最上の二人きりであるのに気づく。

 

「中区の順路を回るだけじゃけえ、こっから本通駅(ほんどおりえき)……」

 

「呉まで行けますか!」

 

「呉ぇ!? 無理じゃあ! 路線が違わぁな!」

 

 鈴谷達へのお土産にとお菓子やグッズを詰め込んだ紙袋を地面に落としながら、ばさばさと肩掛けバッグからカードを取り出す。それは、身分証明書だった。

 少女から日本海軍の身分証明書など突き出されたなら、思いつくのは一つだけ。

 

「事後処理はこちらで行います! 行けるとこまでで構いません、呉へ向かっていただけませんか!?」

 

「艦娘ぅ!? かぁぁ……はよ言わんねそういう事ぁ!」

 

 脅迫のつもりなどないが、軍人が一般企業の車両に乗り込んで突如として職務と違うことをしろと要請すれば、逆らえないのは言うまでもない。

 一抹の不安と申し訳なさがありながらも、最上は自分の必死さで伝わってくれと祈った。

 

 だが、杞憂だった。

 

 ここは広島。

 

 ()()()()の直轄であるのだから。

 あのどうしようもない人にあてられた広島の人々は、同じく、

 

「呉のぉ、えぇぇ……ほれ、鎮守府! 鎮守府まで行ったらええね!?」

 

「ぁ……」

 

 救われた人である。

 

「はい、お願いします!!」

 

「出来るだけ急ぐけど信号は無視できんけえね! 許してよ!」

 

 

 

* * *

 

 

 

 バスが路線から外れ呉へ向かう。その車内では、最上がじっと耳に指をあてて通信を聴いていた。

 叫んだかと思えば静かになった少女の姿が気になっている運転手だったが、緊急事態なのは間違いないとただ運転に集中する。

 

 ぐらぐらと揺れているのが車なのか自分自身なのか混乱しそうになりつつ、最上は声無く通信に答えた。

 

『こちら広島、重巡洋艦最上です! 今、通りがかったバスの運転手さんに協力してもらって呉鎮守府へ向かってます!』

 

『ザザッ……こちら鳳翔。最上さん、呉鎮守府で山元大佐に処理をお願いしてください。それから――』

 

『わ、わかってます! 呉鎮守府からすぐに舞鶴に――!』

 

『いえ、呉鎮守府で待機してください』

 

『なんっ……!? どうしてですか鳳翔さん!』

 

『提督と連絡が途絶えてはいますが、まだ四時間と経っていません。捜査本部を立てようにもあまりに時間が短すぎます』

 

『短いからって何ですか!!』

 

『まだ行方不明として届けを提出していないということです。先にも言った通り、提督は舞鶴鎮守府を視察中、執務室付近で忽然と姿を消したらしいのです』

 

 そんな神隠しのようなことあるわけが――否定しようにも、言葉を紡げなかった。

 鳳翔に代わり、現場からであろう、少し息の切れた大淀の通信が割り込んできた。

 

『こちら大淀……はぁ、はぁ……現在、舞鶴鎮守府にて、ふぅ……橘閣下、忠野閣下のご意向で付近駐屯地から派兵をしてもらい、捜索を続けています……ですが、全然、どこにも……』

 

『大淀さん! 提督と連絡が途絶えたって、本当に繋がらないの!?』

 

 最上の問いに、単純明快な解。

 

『最上さん……そう、でした、確か、本日は非番だったんでしたね。提督と広島まで出られたと聞きました』

 

『そんな事より! 連絡だよ!』

 

『私の探知にすら引っかからない、と言えばよろしいでしょうか』

 

『艦娘の探知、にも、って……』

 

『言うまでもありませんが、これを知るのは舞鶴鎮守府と周囲の駐屯地、それから柱島泊地に……最上さんが到着次第、呉も知ることになるでしょうが、たったそれだけです。まだ海軍内で大きな騒ぎにはなっていません』

 

『う、うん』

 

『提督はどのような事情であれ日本海軍元帥です。順序を間違えないよう捜索を続け、出来る限り迅速に見つけ出します。ですから、落ち着いて行動してください。いいですね』

 

『わ、かった……』

 

 敵艦を発見するための探知。その能力の高さは艦政本部の折り紙付き。

 日本海軍であらば全員が必ず携行している証明書も特殊なもので、チップが埋め込まれており本人の確認が一瞬で出来る優れものである。

 将官が携帯している証明書ならば尚更に高性能で、衛星通信によってどこにいるかを割り出すGPSが内蔵されていたりする。安全を確実にすると同時に、監視の役目を担う機能はそれだけにあらず、艦娘の電探にも反応する素材が埋め込まれている。

 

 だが、それすらも反応しないなどおかしな話だ。

 脆弱性など絶対にない、とは言い切れない。人の作ったものだから。

 冷静になって考えた結果が冷静さを奪うような混沌の胸中。

 

『これは予測ですが、提督は恐らく――まだ、舞鶴鎮守府にいます』

 

 大淀の声は震えていた。

 一番落ち着いているようで、感情を抑えつけているのは間違いなく彼女だろうと考えた途端、最上から焦りがほんの少しだけ失せる。

 

『気が、動転しちゃって、バスを捕まえるなんて、ごめんなさい……』

 

『いえ、広島ならば大丈夫でしょう。言い訳は山元大佐に考えてもらえばいいのですから』

 

 気丈に言う大淀に同調する鳳翔の声。

 

『ええ、そうですね。提督のことですから、きっと大佐も動いてくださいます。とにかく、最上さんはすぐに鎮守府へ移動して、いつでも動けるようにだけしてください』

 

『……了解』

 

 

 

 

 

 

 バスは速度を上げたまま、呉へと走る。




艦これアニメ……オワッチャッタ……オワッチャッタヨ……
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