火に関係するあらゆるモノを抑える効果を持った錠剤
あらゆる火に対するために作られた物
制作可能なアイテムの一つ
発狂の蓄積を軽減する
これは狂い火の王の運命や巨人の火に魅入られる事を防ぐ事を目的とした物になるはずであった
しかし、外なる神の力は薬程度で抑えられるものではなかった
製作者は薬程度では神の力には勝てないと知っていた
それでも、可能性を信じて挑んだという
「イフリートを倒してほしい」
「…それはシズの身体は大丈夫なのか?」
「もし身体が無事でも私自身、イフリートがいないと長くは持たない。だから、気にしないでいいよ」
シズはどうやらイフリートのお陰で普通の人間ではあり得ないほど長生きだったらしい。
だが、それでも身体や精神に限界がきて、イフリートの暴走を抑えきれなくなっているらしい。今はシルシテイの薬でなんとかなっているが、やはり身体と精神が限界を迎えてしまうらしい。
…どうやら他に方法はないらしい。できることなら救いたかった。しかし躊躇してしまえば被害が出てしまう。
…覚悟を決めなければ。
「分かった。俺が何とかして見せる。幸いにも俺には『熱変動耐性』があるから、イフリートの火にも耐え切れる筈だ」
「わしも気合いで耐えて見せよう。炎属性なら輝石の氷塊や氷霧がよく効くはずじゃ」
「ありがとう…リムルさん、シルシテイさん…」
「おう、任せろ」
〜
それからシズはいろんな事を話してくれた。
まずこれから戦うイフリートの話。
話しても大丈夫なのかと思ったが、イフリートが眠っている今しかないらしい。
そのあとシズは自分の身の丈を話してくれた。
自分を救った勇者の話。
聖騎士団長になった教え子と、自由組合と言う組合の長になった教え子の話。
置いてきてしまった子供たちの話。
その子たちも助けてあげて、と言われてしまった。その時、気軽に承諾してしまったが、男に二言はない。やってやろうじゃないの。心強い
聞いてあげているだけでもとても楽しそうだったが、楽しい時間はそう続かない物だ。
「…っく…んっ…はあ…」
「…もう、限界か。リムル、準備はいいか?」
「おう。お前は?」
「わしもとびっきりのやつを用意した。よっこいせ」ドスン
「でかっ」
「これは指紋石の盾っていう大盾じゃ。火には大盾の中で一番強い…はず。炎の精霊なんじゃ、死ぬほど高い温度だと考えたほうがいい。知ってるか?焼かれて死ぬのが一番辛いらしいぞ」
「怖えこと言うなよ…」
「…っごめん…なさい…」
「謝らんでいいよ、シズさん。わしは焼く程度じゃ死なんぞ。溶岩の上でタップダンスができる」
「俺は効かんしな。だから、任せてくれ」
「…頼んだよ……ううう… うぐっ…うぐぅあああああああ!!」
俺は杖を構えた。シルシテイも杖と石の塊みたいな大盾を構える。
シズは呻くのを止めると同時に静寂が訪れた。
シズの仮面にヒビが入り、そこから妖気が漂い出した。
そしてシズは詠唱を始めた。
〜
side 三人称 ゴブリン達の町 建設中
〜
建設中の町から離れた丘、そこから火が噴き上がる様子が町からも見えた。
「あわわわわわ…大丈夫ですよねぇ?何とかしてくれますよねぇ?」
「大丈夫だって!シルシテイさんは巨大妖蟻をあんな簡単に倒したんだ、きっと強い。リムルさんなんてスライムなのに喋れる時点で普通じゃねえし、何とかしてくれるさ、シズさんのことも…」
ぬわーーーーーっ!
シルシテイーーっ!
「…本当に大丈夫でやすか?」
「…多分大丈夫」
噴き上がる火を見たのは三人組だけではない。
「うわー…すげえ炎っすねぇ」
「うむ、まああのお二人ならば大丈夫であろうが…」
ぬわーーーーーっ!
シルシテイーーっ!
「「シルシテイ様っ!?」」
〜
side リムル 名も無き丘
〜
「ぬわーーーーーっ!」
「シルシテイーーっ!」
始まって早々にシルシテイが炎に巻かれた。
世界の声が響くと同時に周囲にはサラマンダー(大賢者調べ)が発生し、シズさんは炎の巨人、イフリートに変化した。そしてシズ…いや、イフリートは魔力波動を解き放ったのだ。俺はいい。衝撃はともかく、熱に関しては完全な耐性を持っている。だが、シルシテイは…
「あー、死ぬかと思ったわ」
「大丈夫そうだな、心配して損した。回復薬はいるか?」
「狭間時代からのとっておきがあるから大丈夫じゃ!それよりリムル、わしがサラマンダーとやらを相手する!お前はイフリートをどうにかするんじゃ!」
シルシテイは輝石のつぶてをそれぞれサラマンダーに撃ち、ヘイトを集めた。
そして、俺とイフリートは一騎討ちの状態となった。
過ごした時間は短いが、同郷を苦しめ続けたことは許せない。覚悟しろよイフリート…お前の技は俺には効かないからな。目指すは
先に動いたのはイフリートだった。
炎が吹き荒れる。目の前でイフリートが分裂したのだ。
まあ効かないけどな。やはり分身体は本体より弱いらしい。
さらに氷霧により、本調子を出せないまま消えていく。
どうせダメージは無いのだから、イフリートにのんびりと近づく。俺が油断していると見せかけてやるのだ。
ん?どうやら広範囲結界に囚われたらしい。
イフリートが自分の体を気化させ、その技を発動させようとした時、
オオオオアアアアアアアアアア‼︎
文字に起こしたらそんな音。だが、聞けばわかる。それは間違いなく竜の咆哮であった。
そこには水色の鱗の竜の頭があった。その頭の下は…見覚えのある下半身が。
「シルシテイ!?」
「どいておれ!巻き込まれるぞ!」
竜の頭からシルシテイの声が聞こえる。
竜の頭からブレスが吐き出される。
《告。このブレスは熱変動耐性等の耐性を持っていなければ危険なほどの冷気を持ったブレスです。また、単純にエネルギーの塊をぶつけているような物なので、聖魔耐性等が無い限り、防ぐことは困難です》
やばぁ…念のため避けてよかったわ…
ブレスが段々と弱くなり、完全に止まった。
イフリートはひざまづいていた。イフリートはもう弱っている。とある事を思いつく。
「シルシテイ。試したいことがあるんだがいいか?」
「ん?いいぞ」
俺はイフリートに近づき…
《ユニークスキル『捕食者』を発動しますか?YES/NO》
答えはもちろん、YESだ!
辺り一帯を光が包む。
「ぐわーーー!」
そして消える。
「あーびっくりした」
こいつ喧しいな…
後に残されたのは俺と、シズと、目を抑えたシルシテイだった。
「目が〜」
「しまらねぇな…」
〜
あれからシズは目を覚まさない。俺やシルシテイで世話をしているが、もしかしたら…もう…
「…リム…ル…さん…?」
「! シズ!おいルーン!シズが目を覚ましたぞ!」
「シズさん!?大丈夫か!?」
「…イ…イフリートは…どうなった…?…あの三人は…?」
「あの三人は仕事があるらしくて帰ったよ。また来るって言ったたから挨拶をしに来ると思う」
「…ごめん…な…さい…私は…もう…長く無い…」
「…え?」
「…ねぇ…リムルさん。最期に…お願いがあるんだ…」
「…なんだ」
「…私を…食べておくれ…」
「は?」
「…イフリートを…食べてくれたんだろう…?…嬉しかったよ…。イフリートを取り付かせたやつには…文句を言いたかったけどね…」
静かに語るシズ。絞り出すように…ゆっくりと…
「…私は…この世界が嫌いだ…。でもね…この世界が…憎めなかった。まるで…あの男のようだ…。この世界に…あの男を重ねて…見ているのかもしれないな…。だからね…この世界に取り込まれたく…無いんだ…」
それを叶えることはとても容易い。しかし、その願いは俺を縛る呪縛となる。彼女の願いを、憎しみを、無念を、全て引き継ぐのだ。
しかし、彼女に安心して逝ってもらうことができるようにするためならば…迷うことは無い。それにもう引き受けてたしな。
「分かった。貴女の想いは俺が引き継ぐ。貴女を苦しめた男の名は、何という?」
「レオン・クロムウェル…。最強の魔王の…一人…」
「約束しよう!リムル=テンペストの名において!レオン・クロムウェルにきっちりと貴女のおもいをぶつけて、後悔させてやろう。…シルシテイ?」
「すまんなあ…」
シルシテイが頭を抱えてひざまづいている。そうか…。シルシテイは狭間の地ってところで戦い続けて…。救えなかった命があったのか…。まともな奴は少ないとは言ってたが、いることにはいたんだろうな。救えなかったのはそう言う奴らだったんだろうか。
「シルシテイさん…、私は貴女に救われたんだよ…?」
「…?」
「私は…暴走するところだった…。それを…貴女が止めてくれた…。あの炎化爆獄陣だって…発動してたら辺り一帯が焼け野原になってしまうところだった…。シルシテイさんには感謝してるんだ…。だから…自分を責めないで…?」
「…分かった。すまないな、死に際だってのに気を使わせて」
「ううん、大丈夫さ…」
「わしも夜の王シルシテイの名に誓おう。貴女の遺した願いを叶えると」
…ありがとう… 彼女はそう呟いた。目を瞑り、眠るように息を引き取る。
《ユニークスキル捕食者を使用しますか?YES/NO》
…安らかに眠れ、俺の中で。YES、と念じる。
苦しみ続けた彼女が、せめて俺の中で覚めることのない幸せな夢を見れる様に。俺は祈るなんてことはそうしないが、その時、久しぶりに祈った。
〜
…二つの足音が聞こえる。
コツンコツンコツン…
ズリズリズリ…
彼女は頭を上げる。幼く、可愛らしい顔立ち。そして安堵し、微笑みを浮かべた。
(ここに、いたんですね!もう私を、置いていかないで!)
背筋の伸びた人影は少女に手を差し伸べる。少女がその手を取ると、その人影はもう一つの足音の主の腰の曲がった老婆について行く様に歩き出した。
頼りない青い灯火を持った老婆はゆっくりと進んでいく。
ある程度進むと、人影は少女を前に出す。老婆は前を指した。
そこには…
(お母さん!)
少女は走り出す。人影はもう消えていた。老婆は、少女が母の元へ辿り着いたのを見ると、足音を立たぬ様にゆっくりと去っていった。
薄幸の少女、井沢静江。彼女は正しく死んだ。眠るように、穏やかに、最期は幸せな夢を見て、死んだ。
〜
シズは、逝った。
俺たちに、目標を与えて。一つは、魔王レオン・クロムウェル。もう一つは残された子供たち。
俺も、シルシテイも簡単に、だが決意を持って引き受けた。
約束を果たそう。
そして俺は彼女から三つのものを残してくれた。一つ目はユニークスキル『変質者』。名前があれだが変質する者という意味であって変な人ということではない。
二つ目はエクストラスキル『炎熱操作』だ。そういえばイフリートを宿していた。それが影響したのかもしれない。
そして三つ目は…
「ふふふ、ふはは、ふはははは!へーんしん!」
「おおー」
そう!人の姿だ!
俺は早速擬態した。
…あれ?擬態の時にいつも出る黒霧が出てこない。
どうなってんだ!?と思ったら視点がちょっと高くなった。
てか、手と足がある。
俺が体を確認している時、ふとシルシテイを見ると、なんかワナワナしている。疑問に思った次の瞬間、
「服をっ!着ろーっ!」
「あべしっ!?」
かっこいい鎧を叩きつけられた。
〜
よーく調べた結果、小学生女児みたいな見た目になっていた。何もついてないとはいえ、裸ではまずいだろう。
シルシテイの配慮には感謝しなければ。この鎧もなかなかかっこよく、竜の翼や鱗が材料となっているらしい。
いらなくなるまで貸してやろうと言ってくれた。
話は変わるがこの体には、俺の息子もいなかった。まだ使ってなかったのに…
まあいい。分身体で確認したら見た目はすごい可愛かったし、問題はない(?)。
ちなみに分身体は黒霧を使うことで、色々な状態にできることもわかった。
なによりも、人の体を得た。これによる恩恵は沢山あり、その中の一つには…
「てか味覚あるんじゃ無いか?」
「そうだよシルシテイ!いやー何食べよっかな〜」
味覚を手に入れた!これは今まで手に入れたものの中でも上位に入るほど素晴らしいものだ!
嬉しくて小躍りしていたらシルシテイが声をかけてきた。
「それなら食べてほしいものがあるんじゃ」
「お、なんだ?楽しみだなあ」
「用意するからちょっと待ってくれ…よっこいせ」
鍋を用意して何かを準備するシルシテイ。
どうやら何かを茹でるようだ。
準備が終わって、水を茹で始めるシルシテイ。
なんかすげえ綺麗な装飾された瓶*1に入った水を塩を入れながら沸騰させた。
そしてそこに蟹をぶち込んだのだ。丸一匹である。
味付けは塩をかけたりしているので、それだろうか。
蟹を解体し始めるシルシテイ。完成したようだ。
ハサミの部分を俺に渡してくれた。俺は蟹を食う機会ってのはあまりなかったから分からないけど、あんな豪快にやるもんなんだな。
シルシテイは俺を見つめている。食べるのを待っているらしい。かつて、シルシテイが俺に蛇を差し出してきた、あの時を思い出した。って、そんなことより。
見れば見るほどうまそうだ。早速一口。
「…ッ!」
「美味いか?」
「美味い…」
「そりゃよかった」
なんて言うんだろ…。濃過ぎず、薄過ぎずの絶妙な塩加減で、とにかく美味い!
「…」モグモグ
「…」ニコニコ
俺は一心不乱に蟹を食べて。シルシテイは嬉しそうに蟹を茹で続ける。
穏やかで、幸せで。でも、約束を守る為の確かな決意を抱いた夜は、静かに更けていった。
「あ、そういえばあの竜の頭は何?」
「ああ、あれは祈祷じゃ。強力だけども隙もでかい。そう言えばリムル。最近段々上位の魔法や祈祷が使えるようになってきたんじゃ」
「お、魔法も?また教えてくれよ」
そんな話もしながらね。
〜
数日後
side 三人称 ジュラの大森林 街から離れた地点
〜
シルシテイは訳もわからず戦っていた。おかしい、狩りについてきただけのはずなのに。
相手はオーガ。一人一人が強力な力を持った強者であった。
一応事情があると思われるのでトリーナの灯火とトリーナの剣に眠り壺という眠りに特化した装備で戦っていた。
かなり強力な眠りで戦技の範囲も広いため黒髪のオーガと紫髪のオーガの無力化には成功している。
ただ、それでもあと四人のオーガがいる。殆どの者は桃髪のオーガに魔法で眠らされてしまった。
残ったのはランガ、ゴブタ、リグル、そしてシルシテイ。
そのうちの一人、ゴブタも今は救援を出してもらう為に離脱している。
ランガは青髪と戦っており、リグルは白髪と戦っている。
シルシテイは赤髪と桃髪の二人を相手にしていた。
しかしこの二人、シルシテイのとって最悪のコンビであった。前衛の赤髪と後衛の桃髪。
赤髪に攻撃しても桃髪に攻撃しても残った方になにかしらの方法で塞がれてしまう。
実に面倒な相手であった。
神肌の二人だってもうちょっと隙はあったぞ。
シルシテイはそんなことを考えながら戦える辺りまだ余裕があると言える。
赤髪はその余裕がわかるようで、悔しそうにしていて、また焦っていた。
焦りからか、攻撃が読み易くなっており、全て避けられてしまう。
また、焦りとは体力を奪うものであり、実際赤髪は肩で息をしていた。その隙を見逃さずシルシテイは猟犬ステップで回り込み…桃髪を狙った。
今まで見せなかった素早い移動に不意をつかれる二人。
シルシテイはいつのまにか剣を仕舞っていた右手から巨大な竜の腕を出現させ桃髪を掴んだ。
身動きの取れない桃髪に左手の灯火による眠りの炎を吹き付ける。
傷つけることなく眠らせる優しい炎は桃髪を穏やかに眠らせた。例えそれが竜の手の中であったとしても。
「さあ、これで一対一じゃな。なんで戦っとるかは分からんが、とりあえずあんたらには落ち着いて貰わないかん。」
「邪悪な魔人め…よくも姫を…!」
「何が邪悪かもいまいち分からんが…。…あららら」
「大丈夫ですか、若」
「こっちは終わった。そっちは…かなり強いらしいな」
どうやらランガもリグルも無力化されてしまったらしい。
怪我はしているが、死んではいないようだ。
もう二対一ではない。三対一となった。
これはもう眠らせるだけでは無力化は無理。シルシテイはそう判断した。
再び竜腕を出現させ大きめの木を一本引っこ抜き薙ぎ払う。薙ぎ払った先にあった小さめの木々は折れて飛んでいき、多少凸凹してはいるが広場ができた。
そこにシルシテイは跳躍し、竜腕を保ったまま語りかける。
「なんだったかな…。ああ、そうだ。『殺さない。』『無力化はする。』。両方やらなくっちゃあならないのが今のわしのつらいところだな」
オーガたちは突然振るわれた凄まじい力に動けないでいる。
そんなオーガたちにシルシテイは続けて言う。
「覚悟はいいか?わしはできてる」*2
そしてシルシテイは咆哮をした。
それと同時に三人のオーガが襲い掛かる。
激しい戦いが幕を開けようとしていた。
…ちなみに咆哮により、竜腕が邪魔であまり眠りの炎で焼けなかった桃髪が目覚めてしまっている。
これにより、シルシテイは四対一となった。
〜
side リムル ゴブリンたちの町
〜
リグル達を見送ってしばらくしてから。俺は人の姿の時用の服を作る為の採寸をしたり、洞窟で自分のスキルの実験をしたりしていた。
そしてシズさんの仮面をつけることで、今まで少し漏れていた妖気が完全に抑えられることも分かった。
問題が一つ解決して満足した俺は地上に向かった。
帰ったら焼肉が待っているんだ!と、思っていたんだが…
洞窟から出ると凄まじい戦いの雰囲気を感じた。
どうしたもんかと考えているとゴブタが走ってきた。
曰く、救援にきたゴブリンライダー達をすぐに無力化できる実力者達がいてリグルとランガとシルシテイが戦っているらしい。
シルシテイはともかくリグルとランガがやばいらしい。
俺は今すぐ向かうことにした。
〜
「ここかゴブタ!」
「はいっす!…リグルさん!?」
「怪我は…あんまり酷くないみたいだな。ランガも大丈夫そうだ。回復薬でどうにかなるだろう。で、シルシテイは…!?」
シルシテイは戦っていた。それも、凄まじい戦いだった。
あの茹で蟹を食べた夜、色んな祈祷が使えるようになったと話していた。
シルシテイはそのうちの一つの竜腕を使って戦っていた。
だが、相手は四人のオーガ。それもかなり強力そうだ。全員に立派な角が生えている。同じような角を生やしたオーガが二人倒れていた。
生きてはいるので、無力化されたのだろう。
シルシテイはと言うと、かなりきつそうだ。
体中に傷が刻まれており、その竜腕にも傷が付いていた。
「争うのを止めろ」
シルシテイとオーガ達が動きを止める。
「ルーン!大丈夫か!」
「はあ、はあ、ああ、大丈夫だ、はあ」
「すげぇ息切らしてんじゃん、代わろうか?」
「頼むわ、ふ〜」
「ま、ゆっくり休め」
さて、選手交代だ。シルシテイは竜腕を消してゴブリンたちの元へと向かった。そして何かを飲むと傷が一瞬で治った。
その様子にオーガ達が目を見開く。
イフリート戦で言ってたとっておきかな?
「もういけるぞ」
「はえーよ。…じゃああの桃髪を相手してくれ。魔法使ってたんだろ?ゴブタから大体の話は聞いた。あ、殺すなよ?」
「任せな。いやー、何でこんなことになったんだか」
「しらばっくれるな!そこの邪悪な者達を使役するなどただの人間にできることではないだろう!我らの里を滅ぼした豚共を操ったのも貴様らの仲間なんだろう?たかがオーク如きに我らが負けるなど考えられん。全ては貴様ら魔人達の仕業なのだろうが!」
ん?何かすげぇ誤解が生じている気がする。
オークなんてこの世界じゃ会ったことも無いぞ。
シルシテイもそれに気づいてか、反論しようとする。
「オーク?ちょっと待て。もしかしてそりゃ誤解じゃnいてぇ!?」
「むむ、確かに頭を撥ねたと思ったんじゃが…」
白髪のオークがいつのまにか背後におり、シルシテイの首を狙っていた。
一応当たってはいたがシルシテイの脅威の耐久力が防ぎきったらしい。どうなってんだよ…
「いたたたた…ったく、わしの後ろについたところで首は落とせんよ。まあ、もうできんがな」
シルシテイが武器を取り出した。刀の様だが…いや長い長い。軽く人の背丈ほどはあるぞ。
「何、次は外さんぞ」
「言っておくが、わしとの戦いでまともな斬り合いができると思うなよ?外道の技の数々、見せてくれるわ」
どうやらあそこでの勝負になった様だ。悪役ムーブやめろ。赤髪も「死ね、同胞の仇め!」と言いながらシルシテイに襲い掛かろうとしたので、
「おっと、お前の相手は俺だ。ランガ、すまんが桃髪のオーガの相手をしてくれないか?」
「勿論です我が主よ。ご武運を」
「ああ、お前もな。さて赤いのと青いの。話を聞いてもらいたところだが、実力の差がわからないと話も聞いてくれないだろう?俺の実力を見せてやる」
そんなことを話しながらスキルを変質者を使って改造していく。
《告。ユニークスキル『捕食者』の擬態、スライムの固有スキル『溶解、吸収、自己再生』をユニーク『変質者』にて統合、エクストラスキル『超速再生』を獲得しました。また、『捕食者』の擬態と、『変質者』の統合分離の合成能力として、エクストラスキル『万能変化』を獲得しました》
ありがとう大賢者!という訳でスキルを二つ手に入れた。さっきの白髪の斬撃は俺が喰らえば多分普通に切れるだろうから、強力な再生能力として超速再生が必要だ。万能変化も戦略を広げる上では大変便利でよい能力だ。
こんだけの能力があればまあ、勝てるだろう。
「どうした?かかってこいよ」
「くそっ…いくぞ」
「ああ」
赤髪と青髪が同時に襲いかかってきた。
青髪の一撃は腕を硬質化させて防いだが、赤髪の技量が思ったより高く腕を切り落とされてしまった。
俺はすぐさま切れた腕を掴み取り一旦後退する。
「ハン!片手を失って仕舞えばもう終わりだろう?」
だが、問題はない。俺は右腕を取り込み、『超速再生』を使って再生させる。
オーガ達は驚いている。勝ち筋が見えたのに一瞬で再生されたら、驚くのも無理はない。
「はーっはっはっは!腕を切り落としただけで勝ったと思うなよ!だが、少々お前たちを舐めていた様だ。少しだけ本気を出してやろう」
そう言いながら仮面を外す。
驚いていたオーガ達は俺の溢れ出した妖気に危機感を抱いたのだろう。
「化け物め、貴様は絶対に殺さねばならん!焼き尽くせ、鬼王の妖炎‼︎」
奥の手なのだろう、途轍もない熱を持つ炎熱攻撃を赤髪が放った。だが…
「効かんな。そんな炎じゃ、俺は殺せないぞ?」
自分の切り札が効かない、その現実に赤髪は少しだけ怯えを見せた。だがそれを、強い意志でねじ伏せたらしい。
しかし赤髪は抑えつけた怯えを再び見せた。
原因を探ろうとした瞬間、シルシテイが相手にしているはずの白髪がこちらに飛んできた。
そして、見事な着地を見せた。
「どうした!大丈夫か!?」
「いえ大丈夫です、若。ですがあれは力も技も術も我らに迫る…いや、超えるかもしれませんぞ」
オーガがそんな話をしているとシルシテイが近づいてきた。
燃えている。身体と刀が燃え上がっている。
そういえば白髪のオーガは怪我こそしていないが服がところどころ焼け焦げている。
「ルーン!?なんで燃えて…ああ、あれか!」
「そう、前言った祈祷じゃ。刀は炎撃で燃やした。だけどもこれちょっと強すぎる。奴の刀を折るところじゃった」
祈祷とは、『火よ力を』という術のことである。
なんでも、物理の力と、火の力を強くする術らしい。
武器が燃えているのは炎撃と言う戦技のせいらしい。
「…さてリムルよ。そろそろお前の力の一端を見せてやれ」
「…ああ、なるほど。いいだろう」
シルシテイはオーガが動かない今、力の差を見せつけるという作戦でいくつもりらしい。
なるほど、これで心が折れれば話を聞かせる事ができるってことか。
まあ、これで折れなかったら…もう慈悲はない。
「いいか…これが本当の炎ってものだ!」
「見た目は似るが別物の、命を蝕む悍ましい炎も見せてやろう」
そう言いながら左手に黒炎を撒きつかせる。
シルシテイも似たような色の炎で刀を燃やした。不思議なことに炎が綺麗に刀に纏わりつく。
どちらも演出くさくて笑いそうになるが、ビビらせる為なので我慢する。
「お、お兄様…あの…あの炎は…お兄様のような幻妖術の類ではありませぬ!」
と、桃髪がいい感じにビビっている。
すると、シルシテイから小声が。
(リムル、もう一押しいけないかね)
(確かに決定的に折れてはいないんだよな。よし、俺は『黒雷』を使う。お前はどうする?)
(わしは、オリジナル祈祷でいい感じのがあるから、それ使うわ)
念話で打ち合わせを終え、
「ふふふふ、その通り。だが、より面白いものを見せてやろう」
「あの炎を投げてもいいのだがな、俺だと迫力に欠ける。より強力で、迫力のあるやつを見せてやる」
俺は魔力の出力が三割程度になる様に調整する。
シルシテイは跪いて祈っている。
「見ろ!これが俺の、真の力だ!」
そう言って『黒雷』を大岩に放った。黒雷は大岩を凄まじい音をたてながら、蒸発させた。
いや、やばすぎ。燃費はシルシテイから教わった魔法の方がいいが、威力だけなら黒雷の圧倒的勝利である。
黒雷も本当は燃費がいいんだけどな。
シルシテイはもう一つの大岩を狙っている様だ。
先程の大岩と形がそっくりである。観光名所とかじゃないよな?
シルシテイが立ち上がり手を突き上げた。
瞬間。
『狙い澄ます古竜の雷撃』
大岩に赤い雷が直撃した。たったの一撃でその大岩は完全に蒸発した。
凄まじい威力、とんでもない飛距離。デメリットは祈りの長さと、燃費の悪さだ、と寸前の打ち合わせで聞いた。
聞いてはいても、やはり恐ろしい技である。見えていればどこまでも届くとも言っていたので、それも燃費の悪さの原因なのだろう。何発も打ってるのでちょっと締まらないが。
さて、オーガの反応次第だが。
どうか、負けを認めてくれ…
「…ここまでとはな。我等では貴様達には遠く及ばないらしい。だが俺も、力ある種、オーガの頭領として育てられたのだ。無念に散った同胞達の恨みを晴らさんで、何が頭領か。届かないとしても、せめて一矢報いてくれよう!」
「御伴致しましょうぞ、若」
「ああ、覚悟はできている」
逆効果だった様だ。シルシテイは頭を軽く抑えている。
覚悟を決めた戦士は殺さずに制圧するのは困難だ。始末するしかないのか…
するとシルシテイは今にも壊れそうな壺を渡してきた。
(顔にぶつけろ、眠るから)
なるほど、シルシテイはまだ諦めてはいないらしい。
いいぞ、最後まで付き合ってやろう。失敗しても死にはしないだろう。
覚悟を決めたオーガ三人と、壺を持った俺ら二人。
動き出そうとしたその時、
「お待ち下さい!」
オーガ三人と、俺ら二人はその声で、動きを止めた。
その声の主は桃髪のオーガ。赤髪達の前に立って手を広げ、制止の声を上げたのだ。
「お兄様、考えてみてください。これだけの力を持つ魔人様が、わざわざ豚共をけしかける理由がありません。お二人の内、一人でも本気を出せば我らは皆殺しにできますよ。この方々は確かに異質ですが、里を襲った者共とは無関係なのではないかと…」
「なんだと!だが、言われてみると…」
桃髪は続ける。
「それに、あの壺を被った魔人様のあの竜の腕は手加減をされていました。あの力を本気で振るわれたら、死んでいましたよ?」
「よく見抜いたな、やはり後衛職ってのは厄介だな」
あの全力に見えた戦い、手加減をしていたらしい。
「まじ?」
「マジじゃ。もうちょっと力を込めれば衝撃波も発生するし、薙ぎ払ったら地面を抉ったり、掴んで叩きつけたりとか応用が効く。ただ、スタミナが無くて肩で息をするまでになっちまった」
「そうだったのか…申し訳ない、追い詰められて勘違いしてしまった様だ。どうか謝罪を受け入れてほしい」
どうやら勘違いを認めてくれたらしい。
これで一件落着…とはいかないだろうな。
「まあ、一先ず村に戻ろう。今日は宴をする予定だから和解の意も込めた宴だ。今日は焼肉だぜ?楽しんでいってくれ」
「困ったことがあるなら助けてやろう。止むに止まれぬ事情があったんだろう?宴の後にでも聞かせてくれ」
オーガ達は同意してくれた。
という訳で、眠っている奴らを全員起こして村に戻ることにした。解決してよかったよ、ほんと。
〜
その晩、みんなで宴をした。
久しぶりに食べる焼肉はめっちゃ美味かった。シルシテイも美味しそうに食べていた。
嬉しい誤算だったのは桃髪が料理にも長けている事だった。
ゴブリナ達もその技を身に付けようと一生懸命に教わっている。向上心があることは良いことだな。
同じ女性の紫髪は、美味しそうに焼肉を食べていたが料理をするタイプではないらしい。
得意分野に合わせた事をする風習でもあったのだろうか。
それは良いことだと思う。
俺の作る国も、そうしたいものだ。
明日、オーガ達に何があったか聞いてみるか。
俺はそんな事を考えながら宴の夜は更けていった…
いや〜エルデンキャラがオリ主以外で初めて出ましたよ!
腰が曲がっている灯火を持った婆さん…誰なんでしょうね(すっとぼけ)
今後の婆さんの出演予定は未定です。出ない方がいいけどね、役的に。
あと遅い言い訳をさせてもらうと、書いてるのがちょいちょい消し飛ぶんですよね。
だから書き直すのに時間がかかるんですよ。
シルシテイくんの現在のいろいろ
使える武器や魔術、祈祷から見た能力値(威力は別)
生命力 40
精神力 40
持久力 30
筋力 40
技量 40
知力 30
信仰 30
神秘 30
装備
頭 壺頭
胴 黒き刃の鎧
腕 黒き刃の手甲
脚 黒き刃の足甲
いろんなセリフを知っている理由(ジョジョ、物語シリーズのセリフ)
彼…というか他の奴等もこれは知っています。
彼らには一度大いなる意志(俺ら)が宿っておりその啓蒙()の一部が彼らに伝わった…という経緯があります。