車がパンクした。
ドライブがてら山奥のキャンプ場に併設しているカフェに行った帰り道、いつものように山道を走っていたら、道路に転がっていたネジを踏んだらしい。
「どう踏んだらこんな綺麗に刺さるのよ…」
路肩に止めた私の車の左後輪は空気が抜けていた。
走ってる途中に違和感があり、止めて見てみたらこの有様だった。空気は完全に抜けてはいないものの、このまま走り続ける訳にもいかない。
しかし生憎ここは結構な山の中、修理業者を呼ぼうにも、私のスマホは本来アンテナがあるべき場所に圏外の二文字。
「はぁ…」
どうしようかしら。車を置いて山を降りる…、電波の通らないような山道を?
車が通るのを待って、山の麓まで乗せてもらう…、厚かましいお願いにはなるが、それしかないか。
「…本当に通るのかしら」
こんな山奥。さっきのカフェにお客は私だけだったし。道中、家らしい家もなかった。
「とりあえず、待つしかないわね」
「多分これで大丈夫ですよ」
まさか、買ってきたばかりのパンク修理キットを早速使うとは思わなかった。
前に山の中でパンクして、くっそ重いカタナを押しながら帰ったのは、神からの啓示だったのかもしれない。
「本当になにからなにまですみません…」
「いえいえ、俺も初めて修理したんで上手くできてるかどうか…。一応ヒモは多めに入れましたけど、これバイク用なんで山降りたらタイヤ変えた方がいいと思います」
一応持ってた水ぶっかけて空気が抜けてないことも確認したし、多分大丈夫だとは思うが。
まぁこんなメガネの美人を助けられたのなら、パンク修理キットなんて安いモンだ。また買いに行けばいい。
「それにしても、小型のエアコンプレッサーなんてよく持ってましたね」
「一度パンクで痛い目見まして…。穴が直っても空気ないと面倒なんで買っといたんすよ」
コードレス電動空気入れなんて流石に売ってないと思ってたが、田舎のバイク用品店もばかにできないな。
「あの、なにかお礼を」
「あーいいですいいです。困った時はあれなんで!」
あれってなんだ。メガネの美人がしてくれるお礼ってなんだ!!
美人が路肩に車を止め、困っている様子だったから声をかけてみたが、まさかこんなにしっかり手を貸せるとは思わなかった。
しかしこのままでは伸び切った鼻の下が見られてしまう…。
この下心がバレる前に、迅速に、クールにこの場を離れよう。
「いや、流石にそれは…使ってもらった道具の分もありますし」
「あーじゃあ今度会った時なんか奢ってください!それじゃ!!」
急いでヘルメットを被り、バイクを走らせる。
去り際のセリフにしてはダサすぎないか。
これで良かったのだろうか。あの美人と蜜月な関係になれたのではないか。でもこっちの方がなんかカッコいいし…。美人の前ではカッコつけたいし…。
凄くもやもやしながら俺はバイクを飛ばした。
意外とすぐに人は通った。その青年は、私の後方に乗っていたバイクを停め、
「どうかしましたか?」
と尋ねてきてくれた。私と同い年ぐらいか…。
「車がパンクしてしまって…」
ヘルメットを二つ持っている様子もないし、麓まで乗せてもらうのは無理そうだ。あまり期待せず、私は彼にそう言った。
しかし彼はニカっと笑って背負っていたリュックを徐に開け始めた。
工具袋と何かが入ったビニールをリュックから出し彼は
「一回見てもいいですか?どうにかなるかもしれないです」
そう言ってくれた。
それが 志摩すずや との出会いだった。