旦那様、離婚しても大丈夫なんですか…? 作:hapihapi
よりにもよって公爵との結婚を一番反対していた子爵家の人間の登場に使用人達はざわつくが、公爵はその声にゆっくりと顔をあげると恨めしそうな目で妻の兄を睨み付けた。
「どういうことだと……?それはこっちの台詞だ!お前たち子爵家の人間は『大人しくて器量が良い娘』だと言ってこのアバズレを『妻』にと勧めてきたのに……!結果はどうだ!?勝手に商会を作ってこの屋敷を勝手に担保にした挙句、私以外の男の子供を身ごもっているではないか!?くっ、くそおおおおお!こんな屈辱、子爵家に援助金を申し込んだ時以来だ!!」
「………へえ、援助金を屈辱呼ばわり、僕の大事な妹をアバズレ呼ばわり、か。……分かりました……もう貴方みたいな恩知らずな男に大事な妹を任せておけません!このまま妹を連れて帰らせて貰います!」
「フン!勝手に実家にでもどこにでも連れて行け!!」
「言われなくてもそうします!さあ、リーゼ!お兄様と一緒に家に帰ろう!」
「うぅ……お、お兄様……?ま、待って……」
売り言葉と買い言葉の応酬を公爵と繰り広げた妻の兄こと現子爵家の当主は使用人達に支えられていた妹をひったくる様に横抱きにして持ち上げると、怒りの籠った目で公爵を一瞥して、そのまま妹を抱えて部屋から出て行ってしまった。しかし、公爵は二人を追いかける素振りを見せないどころか、のそのそと立ち上がり、部屋に据え置かれていたソファに座るとおもむろに懐から本を取り出して読み始める。そのあまりに余裕綽々な態度に痺れを切らせた使用人の一人が公爵に向かって叫んだ。
「旦那様!!奥様を追いかけなくてよろしいんですか!?」
「フン、なぜ私があんなアバズレ女を追いかけなくてはいけないんだ」
「いやいや、そんなこと言っている場合ですか!?このままだと本当に奥様が子爵家に連れて帰られてしまいますよ!?」
「ハッ、だったらなんだと言うんだ。あんな女いなくなって清々するわ」
「ああ!?た、大変!もう馬車に乗り込んでいるわ!」
「旦那様!」
「いいから早く奥様を追いかけて下さい!」
「旦那様!!」
「…………」
使用人達は必死に公爵に妻を追い掛けるように呼びかけるが、公爵は使用人達の言葉をガン無視して、手元の本に視線を下す。そして、そうこうしている間に無常にも妻を乗せた子爵家の馬車は馬のいななきと共に走り出してしまった。使用人達は窓越しに土煙を上げ、すごいスピードで走り去っていく馬車に声にならない声を上げるが、結局公爵が妻を乗せた馬車を追い掛けることはなかったのだった。