転生したら親友のヒロインポジになりました。   作:Yuupon

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孤児院で子供達とたわむれる話②

 

 

 

 

 ライルに案内されたのは孤児院にある中庭だった。

 彼は太い枝を拾ってくると、ゾリゾリと地面に大きな円を描く。

 三メートルくらいの範囲だ。

 

「これはフィールドだ。この中で戦う」

 

 そう言って地面に円を描き終えたライルは、孤児院の隅にある樽を見せた。

 そこには木で出来た色んな武器が刺されている。

 剣とか、短剣とかが主な種類だ。そこから彼は一本の木刀を引き抜いた。

 

「この樽の武器を好きに使え、準備出来たらあの円に来い。ルールは簡単、両者が円に入ったら勝負は開始だ。そしてどっちかが円の外に出るか、致命の一撃を受けたら負けだ」

「……教室の時みたいに罠は仕掛けないんだ」

 

 思ったよりしっかりしたルールに驚く。

 ヤンチャ坊主だから、てっきり小学生特有の悪戯系の仕返しとかがくるものだとばかり思っていたのだが……。

 

「うるせえ。女相手に正面からやられたんだ。正面からやり返してやらぁ!」

 

 そう吠えてライルは木刀を抱えて、円の方に歩いていく。

 それにしても血の気の多いことだ。俺の剣の腕についてはトーヤに筋力が足りんと匙を投げられたのが記憶に新しいが、今の俺にチャンバラごっこなんか出来るだろうか?

 試しに木刀を引き抜いて振ってみる。

 真剣に比べると遥かに軽く、振ること自体は出来た。とはいえそれなりの重さはあるので当たったら痛いと思う。

 黒板消しはともかく、これでやり過ぎるのは流石に良くないよなぁ。

 とはいえ遊んでやらねば、ライルは納得しないだろう。

 どう戦ったものだろうか?

 とりあえず教わったことあるから、という理由で木で出来た短剣を太もものホルダーに装着する。

 とはいえこれじゃ打ち合いにならないので、手に持ったままの木刀をそのまま持っていくことにした。

 先に円に入っていたライルに向き合う。

 

「おい、女。今なら謝れば許してやるぜ。俺は寛大だからな」

「チャンバラごときで謝るつもりはないです。あと寛大なら黒板消しの件くらい笑って許して欲しいんだけど……」

「……良い覚悟だ。決めた、お前は絶対に泣かす」

 

 今の俺は貧弱だが、相手は子供だ。

 流石に打ち合えるだろう。駄目でも痛いだけだ。怪我なら治せるし、付き合ってやろう。

 この孤児院は見たとこ、それなりに大きな男の子はライルしか居ないし、力が有り余ってしょうがないんだろうな。

 とりあえず自分から打ち込むことはせず、木刀を構えて待ちの姿勢をとる。

 

「この石が地面に落ちたら、開始だ。良いな」

 

 そう言ってライルは石ころを真上に放り投げた。

 ふわっと浮き上がった石ころは、やがて重力に従い落下する。

 そしてカツーンと地面に落ちた瞬間、彼は斬りかかってきた。

 

「うおおおおおお!」

「っ!」

 

 力任せに縦に振り下ろしてきたのを木刀でどうにか受け止める!

 思ったよりも力が強い。

 カンッ! と木の音を立ててどうにか受け止めたが、ビリビリと腕が痺れた。

 どうやら俺の腕力はライルよりも無いらしい。

 力任せの勝負は不利そうだ。木刀を受け止めた体勢のまま足払いを掛けるが、ひょいと避けられる。

 

「ちっ、案外やるじゃねーか!」

 

 ライルはかなり身軽なようだ。

 なるほど、正面から倒してやると言うだけのことはある。

 俺に勝てると踏んだから、不意打ちなどをせずに正面から挑んできたのだろう。

 そういえば。よく考えると、これがこの世界で初めてのまともな戦闘になるのだろうか? ナンパ野郎と、誘拐犯との戦いはただの不意打ちだし。

 正面から向き合ってやりあうのは初めてだ。

 

「いくぞ……!」

 

 今度はこっちの番だ。

 ファンタジーの世界に来たなら、一度はやってみたかったアレをやろう。

 ーーーー俺は木刀を握り、剣を逆手に持つ。

 そして重心を下げると、正面からライルを睨みつけた。

 その独特な構えに、驚きを感じたのだろう。ライルは目を見開く。

 

「なんだ、その構え……! 知らねえぞ」

 

 そりゃあそうだ。

 これは究極奥義だ。大地を斬り、海を斬り、空を斬る。それら全てをこなして初めて扱えるという、究極奥義。

 父親が持っていた漫画の影響で、子供の頃に傘で練習したものだ。

 だがただの真似ではない。

 回復魔法はキラキラ光るのだ。俺は、剣に回復魔法を掛ける。

 するとただの木刀が、キラキラ輝いて光り出した!

 それっぽい! それっぽいぞ! まぁ見た目だけで何の効果もないが、ただのエフェクトでも持っている剣がキラキラ輝くのは憧れがあった。

 

「なっ、光りやがった!?」

「いくぞおおおおおっ!」

「ま、まて! やめろおおおおおっ!」

 

 これはいける。

 おののくライル目掛けて、思いっきり踏み込んで、俺は剣を大きく振り抜く。

 木刀とはいえ剣を握ってこの技を繰り出していると思うと、何とも俺の中の少年心というか、熱い思いが溢れてきた。

 そして振り抜いた一撃は狙い澄ましたようにライルの身体を真っ二つにーーーー!

 

「おおおおお……ぉ?」

 

 しなかった。

 カンッ! と音を立ててあっさりと受け止められる。

 受け止めたライルがしばし呆然としていたが、見た目が派手だっただけだとすぐに気付いたらしい。

 顔を怒りに染めると、思い切り剣を弾いてきた。

 

「てめぇ! ふざっけんなよ! ころ……ころしてやる!」

 

 ブチ切れている。

 流石にふざけすぎたか。真面目モードに思考を戻す。

 次からはさっきみたいな遊びをしたら、容赦なく反撃してきそうだ。

 ともかくにも攻撃しなくては勝てない。

 今度は真面目に攻撃を仕掛ける。

 

「……ふっ!」

 

 冷静に分析すると、腕力で負けている以上、普通に斬りかかっても受け止められるし、こっちの腕が痺れてしまう。

 ……さっきの攻撃も、実は結構手が痛い。

 そこで受け止めにくい攻撃方法として、突きを選択した。

 無論、体に直撃したら間違いなく痛いので、剣の根元を狙う。いわゆる相手の武器を弾き飛ばしちゃおう作戦だ。

 だが、これは狙いを外した。

 何回か剣を受け止めていたことで、痺れが残っていたらしい。

 剣先が逸れて、空を切る。

 その隙を見逃さず、ライルが踏み込んできた。

 

「今だあ!」

「うあっ!?」

 

 斜めに振り下ろす一撃。どうにか受け止めたが腕がジーンと痺れる。

 無理な体勢で受け止めたのでキツい。

 チャンスだと思ったのだろう、ライルが連続で攻撃を繰り出してくる。

 

「オラオラオラァっ!」

「ぐっ……く、……あっ!」

 

 一発、二発とかろうじて防いだが、三発目を耐えられなかった。

 カァン! と木の音を立てて剣が舞う。

 斬りあげるような攻撃を受けて、思わず持っていた剣を取り落としてしまった音だった。

 早く拾わないと! そう思って剣の落ちた方に駆け出すが、それより先にライルが剣を蹴り飛ばす。

 剣はくるくる回りながらフィールドの外に転がった。円の中からでは手を伸ばしても届かない位置だ。

 ……いかん、不味いぞ。武器を失った。

 

「へへ、チェックメイトだぜ」

 

 ブンッ! と剣を振ってライルはニヤニヤとした顔で俺を見る。

 くそっ、悔しいなあ。本気でやってたんだけど。

 とはいえまだ負けではない。あくまでルールは円の外に出るか、致命の攻撃を受けたら負けなのだ。

 ……とはいえ子供相手に大人気なく喧嘩殺法というのは流石に、控えたほうが良いだろう。

 使う気は無かったが、念のために仕込んでおいたアレの使い時かもしれない。

 

「くらえや!」

 

 容赦なく木刀で攻撃してきたのを、転がるようにして避ける。体に掠って痛いが、致命的な一撃ではないので戦闘は終わらない。

 勝つためにどうにか近づきたいが武器を持っている以上、近づきすぎれば危ないというジレンマがあった。

 結果として逃げ回るしか出来ない。

 しかもそれも長くは続かなかった。

 フィールドの端に追い込まれたのだ。

 

「……さぁーて、いよいよ終わりみてえだなぁ」

 

 背後に一歩でも下がればフィールドの外だ。

 ここがターニングポイントである。

 たった一つ。俺に残った唯一の勝ち筋はもう一つしかない。

 だが、アレを決めるには、相手を油断させなくてはならない。

 

「…………、」

 

 だから思い出す、あの光景を。

 あの暗闇の部屋で、起きた出来事を。そう、俺の腹を貫いたのは、ちょうどあの木刀くらいの太さだった。

 あれは痛かった。ヒールを唱えたけど、呪文が発動しなくて、死にかけたんだ。

 空を見上げると夕焼けが見える。あぁ、あれは火だ。血を流し過ぎれば死んでしまうから傷口を無理やり焼かれたんだ。

 それをずうっとやめてくれなかった。

 人の体も、焼けると肉の香りがするんだよな。

 ……記憶を想起すると、自然と身体が震えだす。恐怖が脳裏をよぎった。

 少年が近づいてくる。

 彼の顔は勝利を確信したように笑みを浮かべていた。

 今の俺の顔は恐怖に怯えているように見えているだろうか。

 いや、見えているのだろう。実際、恐怖を感じているのだから。

 そして少年。ライルが目の前まで来た瞬間だった。

 

「ーーーーっ!」

 

 俺は、勢いよく自分のスカートを捲る!

 修道服に隠れていた太ももが露わになった。は? とライルが驚いたような顔で固まる。

 その隙に俺は、太ももに巻きつけた短剣を引き抜いて、ライルの懐に飛び込んだ!

 

「ぐっ……!?」

 

 そして、ライルの胸に短剣の持ち手をグッと押し付ける。

 刃の方を向けなかったのは、木製でも刺されば痛いからだ。

 とはいえこれは文句無いだろう。確実に心臓の位置に当たった以上、致命の一撃だ。

 

「げっほ……て、てめえ」

「……はい、私の勝ち。惜しかったね」

 

 僅かに浮かんだ涙を拭って、にこりと微笑む。

 それなりに強く押し付けたので、効いているらしい。

 咳き込んだ彼は、叫ぶ。

 

「……くそっ、そりゃ卑怯だろうが! そんなの有りか!」

「だってこの樽の武器を好きに使えって自分で言ってたじゃないですか? 武器二つ使ったら駄目なんて言われてませんよ?」

「違えよ! そっちじゃねえ!」

「じゃあなんですか? ルール違反はしてませんよ」

「なにってそりゃ……くそっ、こんなの口で言えるか!」

 

 ライルは叫んで剣を放り捨てた。

 怒っているようで顔が赤い。やめだやめだ! と彼は言う。

 

「付き合ってらんねえ! その剣片しとけよ!」

 

 そう言ってライルは走って行ってしまった。

 おいおい、負けたのに俺に片付けさせるのかよ。

 まぁ良いけどさ。

 ……それにしても随分負けず嫌いなやつだ。

 まさか逃げ去るとは。

 でもその気持ちは俺にも覚えがある。小学生の頃とかはちょっとしたことでも負けるとめちゃくちゃ心にくるよな。

 顔が赤かったことを考えると、相当悔しかったとみえる。特に今回は武器を使ったチャンバラごっこだったし、この孤児院じゃ彼とチャンバラ出来そうな子供も居なそうなことを考えると、負け知らずで自信があったに違いない。

 それが、不意打ちとはいえ女の子に負けたという事実があいつのプライドを傷つけているんだろう。

 まぁ、寝て起きたら気持ちもリセットするさ。

 流石に今日はもうライルも突っかかってこないだろう。

 それにしても、俺にとっても丁度いい練習になった。これならいざ襲われても対応出来そうだ。ちょっと自信が付いた。

 

「……ユクモ」

「ひゃっ!? と、トーヤ? いつからそこに……?」

 

 そんなことを考えているといつの間にかトーヤが近くに立っていた。

 いつから居たのだろう。全く気が付かなかった……!

 驚いて思わず変な声出ちゃったし。淑女教育中だったら多分怒られてたな。慌てて口元を押さえた。

 トーヤは頭が痛そうな表情で俺に言う。

 

「そのだな……あぁいうことは控えろ」

 

 ああいうこととは何だろうか?

 ……あっ、さっきの決闘か。確かに俺は守られる側なんだから、自分から戦っちゃ駄目だって言われてたもんな。

 やってしまった。

 

「……ごめん。遊びとはいえ、無断で戦っちゃ駄目だよな」

「違うそうじゃない、子供の前でスカートをめくるなと言ってるんだ」

「えっ?」

 

 謝るとトーヤは即座に否定してきた。

 えっ、そっちなの? 確かに情操教育には良くないかもしれないけど、でもあのくらいの年齢なら別に性の目覚めとかもまだしてないぜ?

 ルシカに黒板消し仕掛けるくらいだし、そんなの気にしないって。

 

「……何で昨日は自分から恥ずかしがってたのに、今日はそんな素振りなんだ?」

「えっ、だって子供にパンツ見られても何も思わないよ? 流石に、大人に見られるのは恥ずかしいけど……」

「お前はもっと自分の見た目を意識しろ」

 

 答えるとトーヤは呆れた顔を浮かべた。

 ううーん……そうなのか? 可愛いとは思うけど俺の見た目ってロリだぜ? 細っこくて肉付きも良く無いから色気も少ないと思うけどなぁ。

 首を捻っているとトーヤはポツリと言う。

 

「……俺はお前が心配なんだ」

 

 こうまで正面から言われると何だか心にくるな。

 そうか、心配なのか。まぁ迷子になったり、攫われたり、拷問されたりしたばったりだしね。

 トーヤがここまで言うってことは俺が悪いんだろう。

 ちゃんと受け止めなくてはならない。

 

「……分かったよ、おれが悪かった。気を付ける」

 

 そう言って俺は謝る。

 確かに、言われてみると子供相手とはいえ無防備だったかもしれない。

 心配までされちゃあ、何も言えないや。

 

「トーヤ、いつもありがとね」

 

 そう言ってトーヤの顔を見上げると、背景で夕陽が輝いている。

 いつの間にやら夕方になっていたらしい。

 俺がふわりと笑顔を浮かべると彼は呟いた。

 

「……そういうとこだぞ」

「どういうこと!?」

 

 あかん、意味分からん。

 ショックを受けている俺を見て、トーヤは溜息を吐く。

 だが、やがて彼は言った。

 

「帰ろうか」

「……うん」

 

 黄昏。良い時間帯だった。

 孤児院に挨拶回りをする。

 

「マリアさん、今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとうございます。また来てくださいね?」

 

 殆ど今日は会話することが無かったが孤児院には定期的に来るのだ。

 丁寧に挨拶して回って、ルカと合流する。

 彼女も随分子供たちと楽しく過ごしたらしい。上機嫌だった。

 そして孤児院を後にして、三人で帰り道を歩く。

 そんな一日だった。

 

 

 

 

 

 

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