まぁ、そうそうキャラが変わる事はない、とだけ。
また、多数のUA、お気に入り登録、更にはランキング入りと、驚くやら嬉しいやら色んな感情がごちゃ混ぜになっておりますが、皆様には大変感謝しております。
今後とも、この気持ち悪いと称された主人公と、アニメともゲームとも異なる道を歩み始めたスズカさんの今後の活躍にご期待ください。
目が覚めてすぐ、上体を起こす。
――ハッピーニューイヤー、早永!
寝ている間に弛緩した筋肉を、背伸びをする事で引き締める。
そして、腰をぐるりと回し、ポキポキと音を鳴らす。
――いやぁ、去年は良かったじゃないか。君が求めてやまなかった『星』を、手中に収める事が出来たんだから。
布団を片付け、歯を磨く。
――おや、この言い方はよろしくなかったかな? じゃあ……『手籠めに出来た』! これならどうだい?
髪を整え、服を着る。
――うーん、これもお好みではないらしい。全く、困ったものだ。
それから、朝食を食べる前に、朝のルーチンに入る。
――まぁ、いいさ。ようやく舞台に上がったんだ。後は……
初代スターマンのマスク、そのレプリカに向かって伏し拝む。
――君がどれだけ、
拝む事、60秒。
――どんなスーツアクターだろうと、永遠永劫に仮面を被ったままではいられない。
「今年も、よろしくお願いします」
――その仮面が剥がれた時、君は……いや、君の中の『星』は、輝き続けられるのかな?
――いやいやもしかすると、何か異なる輝きを放つのかもしれないね。例えば、そう……
――黒くて赤くて、見る者を異界に導くような、そんな妖しげな輝きを放ったりして、ね。
――ねぇ、
******
――トレセン学園某所、『チーム・ベテルギウス』部室。
「あけまして、おめでとうございます」
トレーナーさんが頭を下げる。
それに続くように、ジャージ姿の私と、もう一人のチームメンバーであるブルボン――こちらは制服だ――も頭を下げる。
「あけましておめでとうございます、マスター」
「あけまして、おめでとうございます」
暫しの静寂の後、頭を上げると、皆同じタイミングで頭を上げたらしい。
珍しくマスクを外したトレーナーさんが、私を見やり、そしてブルボンを見る。
「……まずは、去年度の感謝から。サイレンススズカさん、担当になって下さり、本当に、ありがとうございます」
そう言いながら、トレーナーさんがさっきよりも深々と頭を下げた。
「い、いえ、そんなに頭を下げなくても……」
「しかし、これ以外となるとやはり何か献上せねばならないかと……」
「嘘でしょ……」
それも以前、止めたのは止めた。恭しくタオルセットを差し出された時は、正直驚いた。
最初こそ、最初に会った時よりもオーバー気味で演技か何かかと思ったのだけど……ブルボン曰く、どうやら素でやっているらしい。
『マスターが誰かに対しあのような態度を取った事は、私が観測した限りではスターマンに対して以外は無かったと認識しています』
初めて会った時のそれがトレーナーさんの普通なのだと思ったら、どうやら周囲からすればレアケースだったらしい。
ついでに言えば、彼はそんなに感情表現をしない、という事も。
私の前では号泣する程に感情的だったのに、ブルボンは――スターマンを語って熱が入る事を除けば――そのような彼を見た事がないのだとも。
「続いて、ブルボン。君には申し訳ない事をした。すまない」
そう言いながら、彼はブルボンに頭を下げた。
彼が言っているのは、去年のブルボンの復帰後の事だろう。
何を隠そう、元々ブルボンはトレーナーさんが初めて担当したウマ娘らしい。
聞いた話によれば彼女は、ジュニア期で朝日杯FSを、クラシック期では皐月賞と日本ダービーの二冠を達成した。
しかし、三冠目に当たる菊花賞では、同期であるライスシャワーに惜しくも敗北。
その後、怪我で戦線離脱を余儀なくされたのだという。
私と同じ、逃げを得意としていると聞いて、少しだけ興味があったから調べたのだ。……まぁ、参考になりそうなのはスタミナ増強の部分ぐらいだったけれど。
――そんな事を考えていたら、少し……走りたくなってきた。
……ブルボンが約1年のブランクの後、復帰戦に選んだのは秋のシニア三冠初戦に当たる天皇賞(秋)だった。
しかし、結果はこれまた僅かに及ばずの、2着。
「1年のブランクがあるにしては良く走れているものだ」とは、エアグルーヴ辺りが言っていたような気がする。
その後、間を置いて出走したジャパンカップではなんとか勝利を勝ち取り、観客を沸かせていた。
でも有馬記念では、同じように怪我をして休養していて、約1年のブランクから復帰したトウカイテイオーが、他のウマ娘やブルボンを差し置いて『奇跡』の復活を果たした。
「いえ、問題ありません。まだ私は走れますから。次は春シニア三冠の達成を目標に設定しています。その後は、再び秋シニア三冠に挑戦する予定です」
「……そうか。分かった。達成出来るよう僕もサポートする。今後もよろしく頼む」
「了解です、マスター」
多分、感情は籠もっている、のだとは思う。やり取りがまるで機械的だけど。
(……トレーナーさんもだけど、ブルボンも大概……)
ふと、私は去年、ブルボンと初めて会った時の事を思い出す。
******
「トレセン学園の独立愚連隊へようこそ。歓迎します」
新しく出来たチームの部室を開けた矢先、私達にそんな事を言ってきたのは、どこか機械的な印象を受けるウマ娘。
彼女の一言に、一瞬だが空気が凍り付いたかのような感覚を味わった。
「……ブルボン、何を見……いや待て当てる……シン・スターマンの予告か」
「はい。……お二人の顔から、ステータス『困惑』を検知。この様子だとサプライズは成功、となるのでしょうか?」
「そうだな、確かに困惑している。……君のそれをなんと言うか知ってるか?」
「? サプライズではないのですか?」
「奇行、あるいはオタクの悪い言動、もしくはゴールドシップがやりそうな事だ」
……どこからか「ンだとゴルァ!」という声が聞こえてきた……気がするが、気のせいだと思いたい。
「そう、でしたか……では、失敗と」
「……サプライズ自体は成功だ。ただ、ファンにしか通じないネタというのは往々にしてファン以外にやるのはタブーのようなものだという認識は持つべきだな。以後、気を付けるように」
「承知しました、マスター。『ファン以外へのネタ振りは要注意事項』、インプットしました」
よし、と頷くトレーナーさん。その横顔を見ていると……まるで、自分が間違えて別のトレーナーの所に来てしまったかのような錯誤に襲われてしまう。
恐らくは、このブルボンと呼ばれたウマ娘とトレーナーさんは、それなりの付き合いがあるのだろう。しかし、あまりにもやり取りが……冷たいというか、寒々しいというか。
そんな私の視線に気づいたのか、トレーナーさんがチラリとこちらを見やる。
「如何なされました? どこか、体調でも……?」
「い、いえ、なんでもありません」
これだ。私を見る時、彼の目は感情を帯びる。だが、さっきまでの彼の目には、凡そ感情と呼べるものがほとんどなかったように感じられた。
無い、という事はない筈だ。でなければ、ブルボンさんとあのようなやり取りなどそもそもしない筈だから。……人付き合いというものが苦手な私が言っても説得力がないだろうが、無いからこそ、そう感じられるというか。
そうして見つめている内に、ブルボンさんの方も私に目を向けて来た。
こちらも、雰囲気が何処か無機質な感じがあるが、しかし目を見るとそこには確かに感情があるのが見て取れた。
「貴方がサイレンススズカさんですね。話は聞いています。宜しくお願い致します」
「あ、はい。よろしくお願いします、ミホノブルボンさん」
「ブルボン、のみで構いません。リサーチの結果、どうやら貴方と私は同級生のようですから」
「えっ、そう、なの?」
知らなかった。あまりそういう事に興味を持ってこなかったから、エアグルーヴやタイキのように向こうから関わって来ない限りは、こちらから誰かに関わった事が無かったのだ。
「そうだったのか」
……どうやらトレーナーさんも知らなかったらしい。
「はい。確かに私はデビュー自体はスズカさんよりも先ですが、その辺りは気にせず接してもらえると、多少は関わりやすくなるかと」
「……あれ、でもブルボン……も、私にさん付けしてる、わよね?」
「私のこれは、システム上の仕様ですので」
「仕様……?」
「はい」
「それってあの、さん付けを外したりとか、敬語を無くしたりとかっていうのは……」
「それを行った場合、不明なエラーが発生して数時間行動不能に陥りますが」
「嘘でしょ……」
あまりにもな内容なので思わず口からそんな言葉が出てしまったが、彼女は……相変わらず真顔で、至って真面目に言っているらしかった。
「そうだったのか」
「はい。実は」
「嘘でしょ……!?」
トレーナーさんも知らなかったの……!?
******
「……まぁ、流れとは言えブルボンの目標は聞けた。というわけで、次はサイレンススズカさんの今年の抱負についてお聞き……しようかと思ったのですが、最初の聞き取りの時点で特にレースの指定は無かったので、ぼ……私の方から発表させて頂きます」
ブルボンと話をしている時とは違い、何処か緊張した面持ちで口を開くトレーナーさん。
そんな彼に言い知れない違和感を感じながらも、私は黙って聞く事にした。
――うう……走り、たい……
「当面の目標は、クラシック三冠を目指したいと、思っています」
クラシック三冠。皐月賞、
ウマ娘なら誰もが――凄い『景色』が見れるかもしれないという点では私も――目指す、夢の舞台。
特に日本ダービーは、その世代における日本一を決めるレースだという。
正直、日本一のウマ娘という称号にはあまり興味の無い私だが……『
聞けば、日本ダービーは出走するだけでも栄誉があるとされているそうだ。
一世代に多くのウマ娘がデビューする中で1勝するだけでも難しいらしいのに、G1という大舞台、それも世代の頂点を決めるレースに出られるのだから、誇りに思わないウマ娘はいないとか、誰かが言っていた気がする。
そんな狭き門を潜り抜けた上で、誰にも先頭を譲る事なく駆け抜ける。そして、その先に待っているであろう『景色』――
……ああ、さぞや気持ちが良い事だろう。
――そんな事を想像してたら今すぐにでも走りたくなってきた……
「恐らく、皐月賞は問題なく走れます。ダービーも、今後のスタミナ次第ですが問題はないかと。……ただ、三冠目に当たる菊花賞。これに関しては、サイレンススズカさんの距離適性が把握できないと何とも言えません」
――ああ、でも我慢、我慢よスズカ。今はトレーナーさんが大事な話を――
「ですので――サイレンススズカさん?」
「あ、はい?」
急に声を掛けられて、私は振り向いた。
「……あの、もしかして、走りたくなりましたか?」
「…………えぇと、その………………はい」
どこか心配そうにするトレーナーさんの問い掛けに、私は……素直に白状した。
「す、すいません! 長々と話すつもりは無かったのですが……ああ、そんなに申し訳なさそうになさらないで……!」
そうは言うが……私にも良心というものがある。正直、走る為なら例えエアグルーヴに怒られようと、寮長のフジ先輩に見咎められようと、何としてでも脱出を試みるが……彼のようなタイプは、久々なのだ。まるで、私の両親のような。
……いや、流石に両親もここまでヘコヘコして、顔を青ざめさせない。
「マスター、ここは早急に話を畳む方がよろしいかと」
「そっ、そう、だな。後はコースの使用許可申請をして、それから……」
そんな彼に対し、至って冷静なブルボンが提案をし、トレーナーさんは考えを纏めだした。
この辺りは、流石付き合いが長いだけあると言うべきなのかしら。
「えー、あー、ンンッ! ……とにかく詳しい話は今後詰めていきましょう今回はこれにて解散! さぁサイレンススズカさんどうぞ! 後はこちらでやっておきます!」
そうして早口で纏めたトレーナーさんが私を促したので、私は頷きを返し……いや、返さなかったかもしれない。とにかく走りたくて仕方なかったから、彼が「どうぞ」と言った辺りからもう扉に手を掛けていたから。
「気を付けていってらっしゃいませ――」
そんな声が聞こえた気もするが、気づいた時にはもうグラウンドに到達していたので良く分からなかった。
――なんだか、変な人。
そんな事を考えながら、私はコースの芝に脚を踏み入れた。
この後、「流石にコースに入るのが早過ぎる」という理由でたづなさんとエアグルーヴに注意&怒られ、トレーナーがスズカさんを庇って謝罪してた。
でもスズカさんは走れて嬉しそうだったのでOKです!