【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

12 / 69
被害者12:静寂

『……まさかお前に看病される日が来るとは思わなかった』

 

『生意気な口だけは達者だな、それと"お前"と呼ぶなと何度言えば分かる』

 

『痛っ……』

 

額をコンッと叩かれる。

それに対して何の反抗も出来ない今の自分、それが無性に悔しくて歯を噛み締めながら頬を膨らませることしか出来ない。しかし目の前の灰髪の女はそんな自分のことが無性に面白いのか、ニヤニヤとしながら顔を覗き込んで来る。

 

『私のことは何と呼べと言った』

 

『……先輩』

 

『"お義姉さま"、若しくは"お母さま"と呼べ』

 

『絶対に嫌だ、そんなことを言わされるくらいであれば舌を噛み切って死んでやる』

 

『強情め』

 

『7つしか変わらないのに、"お母さま"はないだろ』

 

『誰がここまで育ててやった』

 

『…………それは単純に卑怯だ』

 

『母親特権というものだ、育ててやった事実以上に強い権力もあるまい』

 

『それが仮にも母親を自称する女の言うことか……?』

 

『妹に子が出来たろう?若干の対抗心がある』

 

『そんなつまらんことに私を巻き込むな』

 

『こうして世話を焼いていると、可愛げも湧いて来るしな』

 

『くっ、触るな。何れは動けなくなったお前を馬鹿にして笑ってやろうと思っていたのに、これでは逆じゃないか……げほっ、げほっ』

 

『不遜が過ぎるだろうお前』

 

咳き込む自分の背中を摩り、水と桶、そして拭き布を手渡される。口の中に感じる血の味に顔を顰めながら、私は素直に水を含んで口を濯ぐ。

オラリオを出てもう2年、今やこの山奥の村落での生活にも慣れた。定期的に顔を出すのは、目の前の灰髪の女か、元主神の女神くらい。

むしろもうそれくらいしか残っていないというのが実情か。あれほど世話を焼いてやった図体だけデカい猪も顔どころか手紙すら送って来ない。薄情な奴も居たものだと、呆れながらに口を拭く。

 

『……そもそも、こんな所に来ている暇があるのか。あの妹も、子供なんか産めるのか』

 

『……そうだな。今のところは問題ないが、出産後にどうなるかまでは予想出来ん』

 

『私に構っている暇なんか無いだろ」

 

『死に掛けの子供を放っておくことの方が出来んだろう。13のクソガキが重病で生死を彷徨っていることの方が、世間的に見ればよっぽど悲観的だ』

 

『……別にもうそこまで酷くない』

 

『日に数度もこうして吐血するのにか?』

 

『それだけで済んでいる』

 

『今のところ完治の見込みもないがな。今でもオラリオで治療法を模索させているが、なにしろ前例が全くない。奴等が治療法を見つけるか、お前が先に力尽きるか、見ものだな』

 

『私が自力で治す方が先だ』

 

『お前のそのよく分からない自信は何処から来るんだ』

 

『こんなところで死ぬのは納得出来ん』

 

『…………そうか』

 

肺を含めた呼吸器系が極端に脆くなっている、そう言われた。

僅かなことでも出血し、身体を動かすことなど以ての外。原因は不明、前例も存在しない。治療法も当然ない。ただ応急処置的なことをして"治療を行った"と言われているのは分かっている、所詮は単なる延命措置に過ぎない。連鎖的に起きていた出血と損傷を止め、特殊な薬品で常に再生を促している。そもそもこの薬品自体が自分の寿命を縮めている、これで治療を行ったなどとよくもまあ声を大にして言える物だと思ってしまうくらい。

 

『せめてあと1つ、レベルが上がればな……』

 

『……先にお前が自分の血液で溺れ死ぬのが先だろう』

 

恩恵の昇華をすれば、今より間違いなく状態は良くなる。治療した人間はそう言っていた。

しかしそもそものそれが現実的ではない。

アルフィアの力を借りようにも、彼女の音の魔法はこの病にとって一番の天敵だった。もしかすれば彼女の魔法を受け続けたがために発症したのではないかと言うくらいに。ふざけた事を抜かすなと、この女の魔法で死ぬほど柔ではないと一蹴したが、それでも現実は甘くない。アルフィアは自分の近くでは"サタナス・ヴェーリオン"以外の魔法すら使うことは無くなったし、必要のない余計な心労を掛けているのも理解している。実際こうして話しているだけでも吐血の頻度が増える程度には脆くなっているのだから、それが今は心の底から恨めしい。

 

『……ラフォリア』

 

『なんだ』

 

『私より先に死ぬなよ』

 

『!…………当然だ、お前は私が打ち倒す。先に死ぬことなど絶対に有り得るものか』

 

『……ふっ、お前はあと何十年私を生かすつもりだ。もう少し楽に死なせて欲しいものだがな』

 

『ぶっ飛ばすぞお前本当に……』

 

しかしアルフィアはこちらが抵抗出来ないのをいいことに、嫌がる自分の髪をわしゃわしゃと掻き回し、最後にまた額を手の甲で叩いて笑みを浮かべる。

 

『さっさと寝ろ、馬鹿娘』

 

納得はいかないが、渋々と起こしていた身体を横たわらせ、布団の中に潜り込む。……布団の中から睨み付ける私を、軽く笑みを浮かべながらベッドに座って見てくるアルフィア。どうせ自分が寝たらオラリオに戻ろうとしているのだと知っている。なんだかその事実にもムカついたから顔を背ける様にして目線を切ったが、それでもまだ視線を向けられているのを感じていた。

 

 

 

 

「………アルフィア。私は」

 

 

 

 

 

「あっ!ベル君!ラフォリアくんが起きたみたいだ!!」

 

「ほんとですか神様!?」

 

 

「…………?」

 

騒々しい声が聞こえて来る。

目に入って来るのは何処か懐かしさを感じさせる白い髪と、目に入れるのも邪魔臭いクソデカい乳。徐々に起き上がる脳と意識、そして理解する自分の現状。

 

「……何日、眠っていた」

 

「何日ってことはないさ、君が帰って来てからまだ1日しか経ってないぜ?」

 

「……そうか」

 

思いの外、自分が想像していたよりかは時間は経っていないらしい。

ラフォリアは自分の身体の痛みを自覚しながらも起き上がる、傷の手当ては一通りされているようだった。右手を握って、開いて、確かめる。

 

「ああ、まだ起きたら……!」

 

「問題ない。……世話になったな」

 

「これくらいなんてことないさ!君が帰って来てくれただけで十分だよ!な、ベル君!」

 

「はい、僕もそう思います!……怪我だらけで帰って来たのを見た時は流石にビックリしましたけど」

 

「ああそうだ!お腹が空くと思ってバイトの帰りに色々買って来たんだよ!冷たくなってるかもしれないけど、好きに食べてくれていいからね!」

 

「……ああ、貰おう」

 

まあなんというか本当に、お人好しな奴等だ。

ラフォリアは思わず苦笑する。

買って来たパンは少し硬くなっていたが、流石にLv.7となれば多少硬かろうがなんだろうが苦ではない。……そう、自分はLv.7になったのだと。それをパンを食べながら自覚するというのはこれまでに無かった経験で、なんとなくそれを面白くも感じてしまう。

 

「それで、えっと……何があったのか、聞いてもいいかい?」

 

「2回ほど死にかけた」

 

「2回!?」

 

「まあ色々あってな、かなりの無茶をした。だがその甲斐はあった、私はこうして生きている」

 

「そ、それは喜ばしいことなんだけど……」

 

「この程度で狼狽えていてどうする、そのうちベルも似たようなことをやり始める」

 

「えぇ!?そうなのかいベル君!?」

 

「し、しし、しないですよ!?」

 

「お前の性格を考えれば、どうせやる。今から覚悟しておいた方がいいくらいだな」

 

「や、やめてくれよー!これ以上僕の心労を増やさないでくれー!」

 

本当に喧しい、あの女なら魔法の一つでも撃っていると思うくらいだ。……しかしまあ、少し長くダンジョンに潜っていたせいか、今はそれも嫌いではない。ラフォリアは黙って彼等に好き勝手話させることにした。

 

……ただ、それからもまた長かった。

ヘスティアの愚痴から始まって、今度はベルが新しく少し怪しげな雰囲気のあるサポーターを仲間にしたという話に。加えて"豊穣の女主人"で魔導書と知らずに貸して貰ったそれを読んでしまい、魔法を発現してしまったとか。話題に事欠かない連中だ。

ラフォリアをそれを黙って聞く。

途中途中で適当に相槌を打ったりしながら。

 

「……そういえば、今日もリリと一緒にダンジョンに潜ったんですけど、なんだかギルドが慌ただしそうにしてたんですよね」

 

「へぇ、そうなのかい?」

 

「ええ、なんだか事故があって沢山の冒険者が運ばれたとか。ダンジョンが突然崩落したみたいです」

 

「そ、そんなこともあるのかい?は〜、ダンジョンって怖いんだなぁ」

 

「………」

 

なるほど表向きにはそうなっているのかと、ラフォリアは思う。しかしそれも本当に表向きの話、実際にはその異常性に多くの者が気付いているはず。それこそ【勇者】は今回起きたことの全てを既に掴んでいるくらいだろう。

……となると、やはり行動は早い方が良い。これだけは早めに目を覚ました自分を褒めてやりたいくらいだった。

 

「ベル君は明日もダンジョンに行くんだろう?」

 

「はい、そのつもりです」

 

「それなら僕は明日のバイトは休むよ、ラフォリアくんの様子が気になるからね」

 

「気にするな、少し身体が痛む程度だ……けほっ」

 

「ああほら、あれだけの血を吐いてたんだから無理したら駄目だよ。あのミアハが最後まで眉を顰めているくらいの状態だったんだ、数日は寝ていないと」

 

「……寝たきりの生活はあまり好きではない」

 

「それでもだ、ちゃんと休みを取ること。いいね?」

 

「……2日間だ、それ以上は無理だ」

 

「むむ……まあ休まないよりマシかな。ただし明日もまたミアハに診てもらうこと、いいね?」

 

「分かった」

 

どうせ碌なことを言われまい。

それについてはもう諦めている。

だからラフォリアはその提案に適当に即答した、結果など知れているのだから何を言われようとどうでもいいと。

 

それからヘスティアはラフォリアの為に体を拭ける用意をしに地下室へと向かった。本当はシャワーを浴びたかったが、それは流石にまだ駄目だということ。

そうして取り残されたベルに対して、ラフォリアは暇潰しに声を掛ける。

 

「少しは成長したか」

 

「成長……ええと、ステータスはそれなりに上がったと思います。少しずつモンスターにも慣れてきて、そろそろ10階層も見えて来るかなぁって」

 

「ほう、もうそこまで来たか。成長が早いというのは本当の話だったようだな」

 

「はい、それに魔法も覚えたので色々出来ることが増えたのが大きいです。リリが手伝ってくれるおかげで、効率も良くなりました」

 

「そうか、それは良いことだな。稼ぎも増えたと見える」

 

「そ、そうですね。少しは増えたと思います。……だから、その」

 

「?」

 

「今度、その、良ければなんですけど……夕食を奢らせて貰えないかなぁって、思ってて……」

 

「…………お前が、私に?………何故だ?」

 

「それはだって、色々お世話になってますし。こんなことくらいしか返せないんですけど、何かお返しがしたくて……」

 

「………全て宿代代わりと言ったろう」

 

「でも……僕がそうしたいと思ったので」

 

「……おかしな奴だな、お前は」

 

「そ、そうですかね」

 

そんな風に真っ直ぐな好意を向けられてしまうとは思わず、自然と口角が上がるのに気付いて、勘付かれない程度に口元を手で隠す。

その赤い瞳は何故かあまり好きではないが、人の良さが全面的に現れている甘ったれた顔は嫌いではない。真っ白な髪も相まって、まるであの女を見ているようだった。あれも大層甘い言葉を並べる女だった、姉の方とはえらい違いだと最初は驚いたものだ。まあ怒った時に一番怖かったのもあれではあったが。

 

「恋愛の方はどうなった」

 

「れ、恋愛って!?」

 

「あのアイズとかいうガキのことだ」

 

「そ、それはその……」

 

「?」

 

「……………膝枕を、して貰いました」

 

「???」

 

口元の笑みを隠すために適当に放り込んだ話題であったが、なんだかよく分からない返答が返って来る。何がどうしたら碌に面識もない相手に膝枕をされることになるのか。どうしてそうなったと、ラフォリアは普通に困惑してベルに尋ねる。

 

「その、実は魔法を覚えた日に嬉し過ぎてダンジョンで使いまくってしまって……」

 

「気絶したところを助けられたという訳か」

 

「は、はい。それでその、そしたら、目を覚ました時に膝枕をして貰っていて……」

 

「良かったな」

 

「……でも」

「ん?」

 

「……また、逃げちゃいました」

 

「…………」

 

また恋愛相談か、と。

ラフォリアは遠い目をする。

まあ今回話を振ったのはラフォリアからなので、付き合うのは仕方のないことではあるけれども。そもそも生まれてこの方、一度も恋愛などしたことのない自分に果たして何を助言出来ることがらあるというのか。自分がどちらかと言えばアルフィアと同類の人間であることなど、ラフォリアとて理解している。

 

「そ、そろそろアイズさんに嫌われちゃいそうで……で、でも、いざとなると照れてどうしようもなくなっちゃうんです。僕どうしたら……」

 

「両手両足を縛って顔を合わせたらどうだ」

 

「それ僕ただの変態ですよね!?」

 

「衝撃を与えられるぞ」

 

「それ絶対与えたら駄目なタイプの衝撃ですから!!」

 

「面倒くさい、今度あの女のケツにでも投げ付けてやろうか」

 

「最悪捕まりませんかそれ!?」

 

「2度と忘れられなくなる」

 

「そんな覚えられ方嫌ですよ!」

 

恋愛というのはよく分からないが、こうして恋愛をしている人間を弄るのは面白いものだなとラフォリアは思った。否定するつもりもない、結局はそうして人は生まれて来るのだから。

あの才能に溢れた小娘と、才能はなくとも優しさに溢れたこの子兎。もしその間に子が生まれるのであれば、確かにそれはラフォリアとて気にはなる。そういう意味では応援はしてやらなくもないが、焦ったい人間は好きではない。さっさと突っ込んで来いと思ってしまうのも、恋愛経験のなさから来るものか。

 

そうこうしているうちにヘスティアは戻って来た。

ベルはまだ何かを話したそうにしていたが、自分の素肌を見せようとして以前にヘスティアに文句を言われた。ならば今日はここまでだろう。

 

「ベル」

 

「はい?……あうっ」

 

「さっさと寝ろ、もう夜も遅い」

 

「……はい」

 

額を軽く手の甲で叩いて、そう言ってやる。

相手に寝ることを促す方法など、ラフォリアはこれしか知らない。けれどベルは渋々とそれに従って、ヘスティアと入れ替わりになって地下室へ戻って行った。

 

「……あの女も、こんな気持ちで私を見ていたのか」

 

もう今更なそんな考えを、思わず抱く。

だとしたら自分は、10年遅れてあの女の後追いをしているということになるのだろうか。けれどそれも別に嫌ではない。……結局のところ、自分は最後まであの女が何を考えていたのか、よく分からなかったのだから。それを知るためにも、これはもしかしたら必要な出会いだったのかもしれない。

 

 

 

 

一方、頭を抱えていた人間は他にも居た。

 

「……やってくれたねシャクティ」

 

「すまないフィン。言い訳がましいが、私もまさかここまでの事態になるとは思っていなかった」

 

わざわざロキ・ファミリアのホームにまで頭を下げに来たシャクティに対し、さしものフィンであってもフォローしていられる余裕はなかった。

今や別件でも諸々の厄介ごとを抱え始めているロキ・ファミリア、そこに件のフレイヤ・ファミリアのことまで舞い込んで来たとなれば溜息の1つや2つもしたくなる。

 

「うん……まあ彼等の関係はなかなかに理解のし難いものであるし、仕方のないところはあるよ」

 

「関係、というのは……?単なる友人とか、腐れ縁ではないのか?」

 

「簡単に言ってしまえばそうなんだけどね。個人的に色々と調べてみたんだけど、まあ本当に面倒臭い関係だった」

 

既に15年前のことを知る者はこの年の中には少ない、しかしそれも神であれば別。7年前の件で多くの高齢の冒険者は死んだが、その主神達は今なおこの街に居る。当然オッタルと彼女の関係を知る者も。

 

「幼馴染、という関係を思い浮かべて貰うと早いかもしれない」

 

「幼馴染……」

 

「とは言え、世間一般的にはその言葉を使うには馴染みの時間は長くはないんだけれど。それでも僕はこの"幼馴染"という関係が一番厄介だと思っていてね」

 

「?」

 

「う〜ん、彼等の面倒臭い関係を表すのに一番適した話を挙げるとするなら……ラフォリアはそもそも、自分の病についてオッタルに一度も話したことがなかったらしい」

 

「は……?」

 

あれだけ互いに殴り合っていたのに?

シャクティがそう思ってしまうのも仕方がない。

 

「多分オッタルがそのことを知って手を緩めるのが嫌だったんだろうね。そして結局、彼女が都市を出る日までオッタルはそのことを知ることはなかった。むしろ都市から出る理由も嘘をついていたみたいだよ、"少し長めの依頼をこなして来る"みたいなね」

 

その後に真実を知ったオッタルは、果たして何を思っただろうか。

……ああ、これは確かに面倒臭い。シャクティも思わず目元に手をやって小さく唸る。

 

「むしろ2人が恋仲にでもなってくれるのなら、もう少し話は簡単だったんだけれど……」

 

「あの2人に限ってそれはない」

 

「……うん、まあそういうことさ。そもそも当時の時点ではラフォリアの病は相当なものだったらしくてね、治療という治療も応急処置的なものばかり。数年以内に確実に死ぬって言われていたらしい」

 

「ああ、それについては私も知っている。長く生きるのは絶望的だと言われていた。だからこそ、女神ヘラが追放されてからは音沙汰もなく、もう死んだものとばかり思っていた」

 

「そう考えていたのはオッタルも同じだったってことさ。女神の手前、彼女に執着することも出来なかった……というよりは、しなかった。その反動が今になって来ているのかもしれない」

 

「…………面倒臭いな」

 

「ああ、本当に面倒臭い」

 

そこに彼女がもしかすればザルド達と同じことをし始めるかもしれない、などと聞けば、こうして強硬手段に出てしまうのも当然の話と言えるだろう。女神フレイヤが恐らく後押ししたであろうこともまた余計で。

フィン達の感覚としては彼女にはそういった気は一切ないように感じたが、そもそもオッタルはそのことすら知らない。それ以前に元ヘラの眷属である彼女と再会し、言葉を交わすことさえも、女神に対する背信のように感じていたのかもしれない。

せめてその機会があれば、この様な事態にならなくとも済んだであろうに。

 

「死者3人、重傷者43人……うち8人は再起が絶望的。全員がディアンケヒト・ファミリアとの協力の下で治療中だが、状態は相当悪いらしい」

 

「破壊した規模に対して言えば、被害はかなり少ない方なのかな」

 

「とは言え、これだけの被害を受けて女神フレイヤが黙っているはずがない」

 

「それ以上に、一度やられたラフォリアがこの程度で許すはずがない」

 

「………どちらが脅威だと思っている?」

 

「ラフォリア」

 

「迷わずか」

 

「今回の件でフレイヤ・ファミリアの魔導士はほぼ全滅した。ラフォリアがLv.7になっていたとしたら、もう誰も彼女を止めることは出来ない」

 

「……お前達が加勢する必要もなく、フレイヤ・ファミリアを叩き潰せるということか?」

 

「僕はそう思っているよ。唯一可能性があるとするなら、彼等が連携をして集団戦で事に当たることだけど……」

 

「まず有り得ないな」

 

「そういうことさ」

 

つまり、まだ何も終わっていないということ。

むしろこれからが始まり。

しかしこれに対してロキ・ファミリアが介入することも難しい。下手に動けば本当に都市を巻き込んだ全面抗争になりかねないし、正直どちらも敵に回したくはない。

中間、つまり仲介役に回るのが一番だろう。

 

「ただのすれ違いから、まさかここまでの事態になるとは……」

 

「正直僕は女神フレイヤが何を考えてるかの方が気になるね」

 

「これに闇派閥の残党が便乗しなければいいんだが……不穏な噂もよく聞く」

 

「事が起きたら、可能な限り僕達が被害を抑える様に動くよ。直接関与はしないけどね」

 

「それだけでも十分……」

 

 

ーーーーーッッ!!!!!!

 

瞬間、遠くの方から巨大な爆発音がした。

窓の外を見てみれば、フレイヤ・ファミリアの本拠地である『戦いの野』がある方角から上がる黒い煙。そして何故か浮かんでいる小さな月とその光。

例の出来事があってからまだ2日目の朝、その様子を呆然と見つめる2人。街の喧騒が徐々に大きくなっていくのに対し、2人の内心は凄まじい勢いで冷え始めた。そんなことをしていられる余裕もないのに。

 

「………ちくしょう!もう始めたなあの馬鹿娘!!」

 

「シャクティ!今直ぐ避難誘導を開始してくれ!僕達も今居る全団員で『戦いの野』を囲む様に陣取らせる!!ギルドへの説明は後でいい!」

 

「分かった!こちらも全団員を動員する!ヘファイストス・ファミリアにも支援の要請と……ディアンケヒト・ファミリアにもか!!」

 

「とにかく出せる人員は全部出すんだ!」

 

その日、抗争は始まった。

規模は小さくとも、あまりに影響力の強い、オラリオを揺るがす様な抗争が。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。