【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者16:サポーター

『ベルがここに来る時は、そのサポーターとやらも連れて来いと伝えておけ』

 

そんなラフォリアの言葉。

ヘスティアは当然ながらベルにそのことを伝えて、それから2日後に彼の新しいサポーター:リリルカ・アーデと共に治療院を訪れていた。

今やフレイヤ・ファミリアの殆どの眷属達は退院し、完全に更地と化した本拠地を立て直したり、金銭の都合を付けるために深層へ向かう準備をしている最中であったりもする。故に多少静かになったこの雰囲気こそが、なんだか妙に緊張したりする。

 

「あ、あの、ベル様?ヘスティア様?……その、ラフォリアさんという方は一体」

 

「うん、なんというか、その……流れ的に僕の恩恵は刻んでいるんだけど、一応ファミリアには所属していないっていうか」

 

「同居人、って感じかな。少し厳しいけど、優しい人だよ。それに僕はよく知らないけど、冒険者としても凄い人みたい」

 

「はぁ……」

 

リリルカ・アーデは、諸々の経緯があってベルのサポーターを正式に務めることとなった小人族の少女であった。

そんな彼女にとって冒険者というのはあまり良い印象の存在ではなく、こうしてベルのサポーターを正式にするようになったのも、単にベルの人柄に自分の全てを預けても良いと思えたからに過ぎない。

……故に、緊張している。

もしその人が自分を嫌うようであれば、もしかすればベルの隣に居れなくなってしまうかもしれないから。そう言われてもおかしくないようなことを、昨日までの自分はして来たのだから。そう思うと……

 

「ラフォリアく〜ん、入るよ〜」

 

『入れ』

 

「っ」

 

女神に対して凄まじく不遜な言葉が聞こえて来て、思わずリリは身体を跳ねさせる。しかしそれに慣れたように苦笑いをして扉を開け始めるヘスティア。少し待ってほしい、そんな覚悟はまだ出来ていない。怖い冒険者というのは本当に嫌いなのだ。

 

「リリ」

 

「……ベルさま?」

 

「大丈夫だよ」

 

ベルは優しく微笑みながらリリの肩に手を置く。

そうされてしまうと、途端に恐怖感は和らいでいく。

彼がそこまで言うのだから、本当に優しい人なのかもしれない。……なんて直ぐにそう思い変えてしまうのだから、リリも本当にチョロくなったものだと自分のことながら思ってしまう。しかし実際にベルがここまで信頼している相手ならば、他の誰に紹介されるより信用出来るのは確かである。リリはそうしてベルに手を引かれながら、病室の中に入っていった。

 

「……ほぅ、それが新しいサポーターか」

 

「は、はいっ!?リリルカ・アーデです!よ、よよ、よろしくお願いします!?」

 

「喧しい」

 

「ごめんなさい!?」

 

なお、その信頼は病室に入って一歩目で秒速で破られた。

 

(ど、ど、どこが優しい人なんですかベルさまぁぁああ!!!一言目から"喧しい"って怒られたんですけど!?殺されそうな目で睨まれたんですけど!?)

 

リリは必死になって頭を下げた。

 

「あ、あはは……ええと、君に言われた通りに一応挨拶には来たんだけど……これ本当に必要だったのかい?」

 

「単純に私が気になっただけだ、特に意味はない」

 

「3人も呼びつけておいて、なんて言い草だ……」

 

「顔を上げろ小人族」

 

「は、はいぃぃっ!?」

 

まるで本当に王とか神だとかいうくらいの傲岸不遜な態度でそう言うものだから、もうリリにはそうとしか見えなくて。思わず膝を付けて座りそうになってしまいながらも、リリは彼女に顔を向ける。

 

「……悲惨な目をしているな」

 

「えっ……」

 

「私の嫌いな目だ」

 

「…………す、すみません」

 

「ベル、こっちに来い」

 

「え?あ、はい」

 

「お前も来い」

 

「え?」

 

突然自分の目を嫌いだと言われて、リリは落ち込む。それは自覚していることであるから。しかしそんな風に顔を俯かせていたら、今度は何故かベルと一緒に近くまで呼び出され、何故かこうして互いに顔を合わせて向かい合わせて立たされる。

なんだかその妙な行動に困惑しながら、しかし目の前にはベルの顔があって、ヘスティアが悔しそうな顔をしているくらいには役得を感じてしまう。

 

「どうだ、腑抜けた顔をしているだろう」

 

「腑抜けた!?」

 

「しかも未熟者でお人好しで馬鹿だ、そこの馬鹿乳に聞いた話では無謀で楽観的でもあるらしい」

 

「ごふっ」

 

「…………だがまあ、これくらいで丁度いい」

 

「「……え?」」

 

「人間、少し馬鹿なくらいが丁度良いと言うことだ。こいつに然り、あの男に然り、馬鹿みたいに必死になれる人間の方が好ましい」

 

「……えっと」

 

「関わる相手によって人間の性質というのは影響されるものだ。困ったらこいつの顔を見ておけ、自然とお前も馬鹿面になる」

 

「な、なんか、あの、褒められてるんですよね……?」

 

「いや?」

 

「褒めてなかったんですか!?……ひぐっ!?」

 

「ベル様!?」

 

シパーンッと、突然何の理由もなくベルの額に放たれるデコピン。

少したたらを踏んで下がったが、しかしそれでも尻餅をつくことなく立ち直った彼を見て、ラフォリアは少し驚いたように、けれど何処か嬉しそうにして笑う。

 

「……強くなったな、ベル」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。……まあ実力は期待出来んが、サポーターとしての歴は長いのだろう?」

 

「え?あ、はい、それはそれなりに……」

 

「ならば下手な新人よりよっぽど良い。精々助けてやってくれ、容易く死なれては寝覚めが悪いからな」

 

「は、はい……!それは当然です……!」

 

思っていたよりもすんなりと受け入れられてしまって、確かにヘスティアが言っていた様に、彼女は意外と優しいところがあるのかもしれない。……ただ、リリとしては正直未だに彼女のことがよく分からない。少なくとも、そこそこの年数をこのオラリオで活動しているリリであっても、ラフォリアという女性冒険者の名前は聞いたことがなかった。彼女が強い眷属であることは雰囲気からなんとなく分かるのだが、そもそもヘスティアの恩恵を刻まれている時点で有名な人間ではあるまい。そうなると一体彼女はどういう人なのか、本当に信用してもいい人間なのか、気になってしまったりして……

 

「あの、ひとつお聞きしても良いですか?」

 

「うん?なんだ」

 

「その、ラフォリア様はお強い冒険者だと聞いていたのですが、一体どれほどお強いお方なのでしょう……?」

 

「Lv.7だ」

 

「「ぶっ」」

 

ベルとリリは吹き出した。

あとヘスティアは目を背けた。

まるで自分は関係ないとばかりに、まさかその一助に自分がなっていたとは思わせないように。

 

「な、な、ななっ、7!?なな!?Lv.7!?そ、そんなの【勇者】を超えて"都市最強"と同等じゃないですか!!」

 

「ああ、いずれ公表されるが【猛者】は"都市最強"ではなくなったぞ」

 

「はぁっ!?」

 

「私も良くは知らないが、どうも何処かの美人に負けたらしい。そのうち公表されるが、今の"都市最強"は別人だ」

 

「そ、そうだったんですね。僕全然知らなかったです」

 

「白々しいなぁ……」

 

「…………えぇ」

 

いくらなんでも、ここまで言われて気付かないほどリリも阿呆ではない。……いや、それに完全に誤魔化されているベルを阿呆だとか言っている訳ではなくて。ただ、話の内容的に少なくとも現在の"都市最強"がこの女であることは、ほぼ間違いのない話なのだろう。

……そういえば、ベルとリリがダンジョンで諸々のことがあったあの日。ギルドは酷く慌ただしく、しかもフレイヤ・ファミリアの本拠地で爆発事故があったということをリリは聞いた。それも一帯が更地になるほど酷いものであったらしく、フレイヤ・ファミリアの団員達もほぼ全員が治療院に運ばれたとか……

 

(ま、まさか、全部この人の仕業……?)

 

もしそうなのであれば、果たして優しい人間とは一体なんなのかという話にもなってくる。

というか少なくとも、もし彼女の言っていることが本当なら、ヘスティアが否定しないということは、確実に今のリリなんかが話を出来る相手でもなくて……そもそも想像していたより3倍くらいヤバい立ち位置に居る人で。もうなんだかその辺りのベルやヘスティアが気付いていない辺りまでリリの脳は弾き出してしまって。

 

「あ、ああ、あの、あのあの……!」

 

「なに、安心しろ。私にとってはレベルが幾つあろうが全て等しくゴミだ、判断基準はその人間の将来性だからな」

 

「ゴ、ゴミ……」

 

「相変わらず酷そうなことを言いながらまともなことを言うよね、君は」

 

「その点で言えばお前も悪くはない」

 

「え……」

 

「良い具合に泥臭いというか、泥に浸って生きて来ただけあって、お前は手を選ばないだろう」

 

「っ」

 

「そのまま掃き溜めに落ちて行くのならまだしも、このお人好しに引き上げられたのなら、上手く育てば使える人材にはなる。地獄を見ながらも光の下に這い上がって来た人間は、貴重な役割を担えるからな。何処のファミリアにも1人は居て欲しい存在だ」

 

「そう、なんですか……?」

 

「結局は努力次第だがな。最低でもそこの阿呆が騙されるのを防ぐ程度の役には立つ」

 

「ラフォリアくん、そろそろベル君が泣くぜ?」

 

「勝手に泣かせておけ」

 

「ひ、ひどい……」

 

ここまで聞いてリリが感じたことは、良くも悪くも、この人は自分の価値観に忠実だということだ。

きっと自分はベルに救われたから認められているし、ベルに救われる前であれば見捨てられていた。しかしその基準は決してベルの関係者というものではなく、将来性があるかどうか。それはリリだって自覚している、以前の自分に将来性など皆無であったということくらい。

そして一方で恐らく彼女に気に入られているであろうベルは、リリから見ても将来性の塊だ。つまりはそういうことだ。

才能だけではなく、境遇、性格、考え方、そういった多くの要素を含めて彼女はそれを判断する。……ならば彼女に好印象を持って貰えているうちは、自分にはまだまともな道を進めているということ。それを教えて貰えるというだけでもこれは非常に価値がある出会いであったのではないかと、リリは考える。

 

「さて………お前達、もう帰れ」

 

「はっ!?」

 

「え!?ま、まだ僕達来たばかりですよ!?」

 

「この後、別の男とも約束をしていてな。邪魔だ、さっさと帰れ」

 

「もうなんか、酷いとかそれ以前に普通に非常識だよね、君……」

 

「非常識な乳をした奴に言われたくないが」

 

「そんな変な形はしてないやい!!」

 

「ああ、だが馬鹿乳は残れ。少し聞きたいことがある」

 

「くうぅ、僕は君より大きいんだからな!これは立派なアドバンテージっていうやつだ!僕の方が凄いんだ!」

 

「邪魔だから要らん、今でさえ肩が凝るのに。これ以上など何の罰だ」

 

「罰って言った!?今罰って言ったな!?」

 

「……ああ、そうだベル、お前に小遣いをやる。これで備品を揃えて飯でも食って来い」

 

「えぇ!?そんなの貰えませんよ!?」

 

「祝金だ、拒否すれば殺す」

 

「ありがとうございます!!!!」

 

「よし、ならば行け」

 

「はい!!行ってきます!!」

 

「え!?あ……あ、ありがとうございました!?」

 

受け取らなければ殺す、などと言って金を渡す人間が一体どこに居るというのか。ここに居るが。それにベルも随分とラフォリアの対応に慣れたものだとも思う。彼女の厚意は拒むものではなく、受け取った上で返すものだ。彼女が厚意を断られることを不快に思い、それを表に何の遠慮もなく出す人間だからこそ学べることでもあるのかもしれない。

……とは言え、今回は少々強引にも見える。

 

「……それで?こうまでしてベル君を追い出して僕に何を聞きたいんだい?」

 

「ベルのステータスの上昇量が異常過ぎる、アレは何のスキルを持っている」

 

「っ!?どうして分かったんだい!?」

 

「私の指弾きで容易く吹き飛んでいた様な奴が、今やたたらを踏む程度で済んでいる。どう考えても異常だろう。まさか正攻法でそこまでステータスが上がる訳もあるまい」

 

「…………」

 

いつかはバレてしまうとは思っていたが、やはりラフォリアには隠せないようだった。ヘスティアは諦めて、溜息を吐きながらポツポツと話し出す。

 

「……簡単に言えば、早熟するスキルだ」

 

「条件は?何の条件もなくそれほどの恩恵が受けられるはずはないだろう」

 

「懸想、つまり想いの強さが鍵だ。……対象はまあ、なんとなく分かるだろうけど」

 

「なるほど、あの娘か」

 

「そういうことさ。想いが続く限り効果は持続するし、想いが強くなるほど効果は大きくなる」

 

「……危険なスキルだな」

 

「え?」

 

「逆に言えば、想いが打ち砕かれることになれば成長が止まる可能性もある。失恋するなり、あの娘が下衆に成り下がるなり、若しくはベル自身が自分は相手に相応しい存在ではないと思ってしまえば、そのスキルは途端に枷になる」

 

「………!!」

 

「ステータスの伸び幅は?」

 

「そ、それはかなり凄いよ。一回の更新でトータル200以上の上昇は当たり前なくらい……」

 

「ベルにこのスキルのことは?」

 

「つ、伝えてない……当然、他の誰にも言ってない。他の神に遊ばれても嫌だから」

 

「正しい判断だな。……しかし、この下衆と糞神の多いこのオラリオでこの条件はかなり苦しいだろう。ステータスはともかく、レベルの上がる速さは誤魔化せん。厄介な神々共に狙われるのは最早回避も出来ん」

 

「うぅ……」

 

例えば何処かの美の女神とか。

ラフォリアは言わないが、あれはもう完全に狙っているし、本気も本気のど本命。

そしてあの女神が本気になるほどということは、余程神々からしてみればベルという人間は魅力的に映るのだろう。ベルをめぐった争奪戦が起こってもおかしくはないし、女神によっては身体や魅了を使って強引に襲いに来る可能性だってある。というか女神に限らず、男神でもだ。

ベルは正に神から好かれるというのは決して良いことでもないという話の良い例になるような男だ。いつの時代も純粋な人間というのは遊ばれ易い。

 

「……まあ、最低限は助けてやる」

 

「本当かい!?」

 

「将来性があるからな。……だが、極力関わることはない。私が介入すればより面倒になる事態も多い」

 

「あ、そこは自覚してるんだ」

 

「それと、相手が正攻法で来るのであれば、そもそも手を出すつもりもない」

 

「それは、どういうことだい?」

 

「つまり、相手が暴力や権力を使うことなく、ベルに直接的な勧誘や告白をして来た場合だ。それはたとえ相手が神であろうと正当な権利だからな、手も口も出さん」

 

「……うん、僕もそれはそう思うよ」

 

要は手を貸してくれるのは、ベルが相当な理不尽に晒された場合のみ。『自分で解決できることは自分でしろ』……どころか、『解決出来る可能性があるのなら自分でやれ』くらいの話。どう考えても無理だと判断した時にだけ手を貸す、その程度のものだ。

ラフォリアは、そういったトラブルを乗り越えてこそ身につく物もあると考えている。それは単純な実力だけでなく、繋がりだったり、精神的な成長だったり、決して全てを肩代わりすることは優しさではないし、むしろ時には試練を与えるべきであるとも思っている。

 

「それにしても……成長を早めるスキルと来たか、またとんでもないレアスキルを1人目の眷属から引いたものだな」

 

「うぅ、こんなの相談出来るの君くらいだよ……」

 

「当人には碌な才能がないが、その伸び代を意志の強さで引っ張って来たと考えるとまた面白いがな。上手くやれば直ぐにでも中堅のファミリアになれる、良かったな」

 

「別に僕はそんなこと望んでないんだけどなぁ……ベル君が幸せになってくれるのなら急いで大きくなる必要もないと思うし」

 

「出来るうちに大きくしておけ。所詮は実力主義の街だ、力のない者はただ搾取される。それが単に金であればまだ良いが、眷属までその対象になるのが厄介なところだ」

 

「ほんと、僕達(神)って碌でもないよねぇ……」

 

「そうだな、恩恵が無ければ何柱殺していたか分からん」

 

「………」

 

こいつも碌でもない奴である。

 

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