【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者18:炉の女神

オッタルとフレイヤとの会話から数日が経ち、ラフォリアは漸く退院することが出来た。やはり15年前よりも医療に関する技術は主に【戦場の聖女】ことアミッド・テアサナーレの活躍によって飛躍的に向上しており、新しく受け取った薬は以前の物より効果が高く、副作用も少なくなっているらしい。

ラフォリアの主な問題としては、"静寂"のステイタスに直接刻まれている病ではなく、元より自分が持っていた方の病だった。というかそもそも、前者の方は明確な治療方法というのは存在しない。アルフィアでさえそれを緩和させることが精一杯だったのだから。

 

『どちらの病も現時点で明確な治療方法は存在しません。特に貴女が抱えている呼吸器系の異常については、度重なる破壊と治療の繰り返しが齎したダメージの蓄積が原因と私は考えます。……つまり、精度の低いポーションや半端な治療魔法による回復は、むしろ貴女の寿命を縮めることになります。個人的には音魔法どうこう以前に、ダンジョンに潜ること自体を認めることは出来ません』

 

過去にまで遡ってもあれほどまでに優秀な治療師はいないとされている彼女がそう言うのであれば、実際にまあその通りなのだろう。

ポーションや治療魔法でも完璧な再生など出来る筈もなく、元の形から僅かなズレが生じる。ラフォリアはそのズレを蓄積させ過ぎたがために、呼吸器系が異様に脆くなっている。しかしそのズレの蓄積は異常なものとして認識はされない、何故なら既に治療を行った結果生まれたものであるのだから。

 

「……原因はまあ、【サタナス・ヴェーリオン】だろうな」

 

音による振動魔法、ラフォリアの身体全体にそのズレが生じているのは間違いない。それが最も影響を受けていたのが呼吸器系というだけ。

そしてLv.7に上がったことによる恩恵も、【ジェノス・アンジェラス】の使用の反動によって丸ごと吹き飛んでしまったというところだろう。その上アルフィアの病まで引き受けてしまったのだから、身体の弱体化は増していくばかり。呼吸器系の脆さも、それが相まってより深刻さを増している。

 

「さて、あと何年生きられるか……」

 

何事もなく治療院に居れば、10年以上は生きられる。むしろ自分が絶対に生かしてみせるとアミッドは言った。しかしラフォリア自身が、そんなことを望む筈もない。そんな最期はお断りだ。最後のヘラの眷属として、他の者達も怒るに違いない。少なくともラフォリアはそう思っている。

 

『この事は他の誰にも言うな、絶対に。広めれば殺す、分かったな?』

 

そんな強引な言葉を置いては来たものの、いざとなれば彼女はそれを他の誰かに打ち明けるだろう。あれはそういう頑固者だと、なんとなく気付いてはいる。

 

 

「お、おはようございます!!」

 

「おはようございます!!」

 

「ああ、おはよう」

 

ファミリアの団員でもないのに、当然のように本拠地に入ろうとするラフォリアに対し、深々と頭を下げて見送るロキ・ファミリアの門番達。流石に彼等もあの騒動を見ていたからなのか、ラフォリアに対する対応が変わっていた。まあ現状"都市最強"の座は彼女にあるのだから、彼等からしてみたら親交の深いオッタルがここに来たようなものなのかもしれない。

 

「やあ、来てくれたか」

 

「ああ。手紙だけで呼び付けるとは、良い身分になったな、フィン」

 

「そう言うな、ラフォリア。お前のせいで私達まで諸々と走り回ることになったのだ、他にもややこしい案件も幾つかあったが……」

 

「……ロキとガレスはどうした?」

 

「遠征の調整のためにヘファイストス・ファミリアに行っているよ」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

なんの遠慮もなく促される前に足を組んで座ったラフォリアは、病み上がりの自分を呼び出すくらい忙しい中でもフィン達が伝えたかったことを悟る。

ただの遠征、という訳ではないのだろう。

 

「59階層に行きたい」

 

「なるほどな……」

 

ロキ・ファミリアの階層更新。

かつてのゼウスのファミリアが更新し、その後は誰も足を踏み入れていない。15年間、記録にしか残っていない半未知の領域。

以前にロキ・ファミリアはその前の58階層で撤退を余儀なくされた。そこを目指すとなる以上は、フィンも最善を尽くしていきたいということなのだろう。

 

「ラフォリア、59階層について何か知っていることはあるかい?」

 

「……恐らくはお前達が知っている程度の知識しかない。あの頃の私はクソガキだった上に他のことなど目にも入れていなかったからな、自慢話も殆ど聞き流していた」

 

「少しも覚えていないのか?」

 

「……というより、私の世話役をしていたあの女が余計な情報を殆ど遮断していたのが大きい。黒龍討伐どころか、ベヒーモスやリヴァイアサン討伐すらも私が知ったのは事後だ。あの女を叩き潰すためにダンジョンに潜りまくっていた私も悪いのだがな」

 

意外と"静寂"は過保護だったのかもしれない、フィン達はそう思った。

まだ10の子供にゼウスとヘラの眷属達が抱えていた様々な問題を打ち明けるにはまだ早いと判断したのだろう。それとも同じように年少でありながら幹部として多くのことを知ってしまった彼女だからこそ、そういったことに関しては過保護になっていたのか。

それが結果的に良かったのか悪かったのかは分からないが、少なくともこの件に関しては彼女には知識がない。ならば頼れるのは彼女の力くらい。

 

「……遠征に付いて来てもらうことは可能かい?」

 

「……いくつか条件がある」

 

「どういう条件だ?」

 

意外にもすんなりと協力、という訳にもいかなかった。何処か迷っているような、その中でも何か譲歩したような。そんな彼女の様子にフィンとリヴェリアは訝しむ。

 

「まず1つ、基本的に私は戦闘には参加しない。どうしても必要となれば私の判断で動くが、基本的には当てにするな」

 

「なるほど、分かった。つまり君は僕達の遠征の助けになるというより、もしもの時の受皿になってくれるってことかな」

 

「そういうことだ。それともう一つ」

 

「なんだ?」

 

「……お前達のところに腕の良い治療師は居るか?」

 

「治療師?……一応リヴェリアが回復魔法を使えるし、Lv.2だけど腕の良いリーネも居るけれど」

 

「なるほど。ならば仮に私に治療の必要がある場合は、お前達で行え」

 

「……何かあったのかい?」

 

ラフォリアの出したその条件は誰から見ても異常であり、少し考えれば何かしら彼女にあったことが容易く想像出来る。

フィン達はフレイヤとオッタルから、彼女が抱えている事情を聞くことが出来ていない。故に病のことなんて露ほども知らない。しかしこの話を聞くということは……

 

「……ポーションが身体に合わないことが発覚した」

 

嘘ではない。

 

「……そういう話があるのは聞いたことがあるけど、アミッドの診断なのかい?」

 

「ああ、治療を行う際には必ず腕の良い治療師の力を借りるようにと念を押された。ポーションであれば万能薬でなければ許可出来ないともな」

 

「それはまた……」

 

「面倒な話だが、持病を悪化させる可能性があると言われれば頷くしかあるまい」

 

「……そうなると、やはり治療はリーネに任せるべきか。あの子の魔法は相手に寄り添う様な性質がある、私の様な魔力に物を言わせた雑把な回復魔法よりは良いだろう」

 

「なるほど、ではその旨を伝えておいてくれ」

 

「分かったよ」

 

話におかしな点はない。

しかしフィンはラフォリアが何か隠していることに気付いている。

この短期間ではあるが、フィンは彼女が嘘をついたり何かを隠そうとしている時、かつてのアルフィアの様に目を閉じる癖があることに気付いていた。今まさに彼女はそうして目を瞑っており、フィンやリヴェリア達と目を合わせようとはしない。

 

「……ところで、遠征までの間に時間はあるかな。もしよければ」

 

「悪いが既に予定は埋まっている。【象神の杖】に呼ばれている、それとベルと食事にも行かねばならん。新しい剣も用意する必要があるか」

 

「ベル……?」

 

「うん……まあ、そういうことなら仕方ないかな。分かったよ、それなら当日バベルの下で落ち合うことにしようか」

 

「ああ、それではな」

 

色々と気になる点はあるが、引き止める理由もない。部屋を出ていくラフォリアを見送り、リヴェリアとフィンは目を合わせる。

 

「……どう思う?」

 

「病は治っていない、アミッドの診断で彼女の想像以上に悪化していた……こんなところかな」

 

「なるほど、確かにその可能性が高そうだ。……アミッドに確認を取りに行った方がいいだろうか」

 

「確認を取った上で、基本的にはそのことを知らない形で動いた方がいいだろうね。だからその役割は僕が担おう、アミッドに聞いた事は君にも共有はしない」

 

「ああ、必要があれば指示を出してくれ。こちらも編成を見直してリーネとラフォリアを同じ隊列に加えることを考えてみる」

 

彼女があまり嘘が得意ではないタイプというのが、救いだったのかもしれない。

フィン達にとっては、今のラフォリアはそこに存在するだけでいいのだ。それだけで抑止力となり、都市の力を上げてくれる。……そんな甘ったれたことを言えば、間違いなく彼女は怒るのだろうが。それでも彼女が生きているだけでオラリオの平和の一部は確保されている。単純計算でオッタルが2人居るというだけで、闇派閥を含めた敵対組織は動き難くなるからだ。

故に2人は祈るしかない。

もし仮に彼女の寿命が尽きかけた時、彼女がその最期をアルフィアやザルド達と同じように生きている者達の犠牲にしないことを。今はそのつもりはないとしても、何れそういう結末を辿ることのないことを。そしてそれを彼女にさせるか否かは、結局のところ、フィン達の努力次第である。

 

 

 

「えぇえ!?3日後にまた深層に行くのかい!?」

 

その日の夜、いつもの廃教会からは再びそんな女神の声が響いていた。

それはベルとアイズの秘密の特訓がヘスティアにバレてしまったりした、そんな日のことだった。

 

「次はロキ・ファミリアの付き添いだ、大した問題はない」

 

「ち、ちなみになんですけど……それって何階層くらいの……」

 

「59だ」

 

「「59…………」」

 

ヘスティアとベルは互いに似たようなアホ面を晒して数字を呟く。最早想像出来るとかそういうレベルを超えていたからだ。そして今は毎日のように特訓に付き合って貰っているアイズ・ヴァレンシュタインもまたそこへ向かうということに、ベルの内心はもうどう表現したらいいのかも分からない。

 

「せ、せっかくこうして無事に帰って来たと思ったら……」

 

「何か問題でもあるのか」

 

「あるに決まってるだろ!いくら仮とは言っても、君は背中に僕の恩恵が刻まれている大事な眷属なんだぞ!!」

 

「ああ、その話だが……一先ず私の所属ファミリアはヘファイストス・ファミリアになることに決まった」

 

「うぇ!?」

 

もう本当に、この女は突然そういう話を持ってくる。仮にも恩恵を刻んだヘスティアになんの断りもなく。

 

「ど、どうしてヘファイストスが!?君は鍛治もやるのかい!?」

 

「そんな訳がないだろう。……正直ここまで来たらお前のファミリアに所属しても良かったのだがな、そうなるとファミリアの等級が確実に上がる」

 

「……?上がるとどうなるんだい?」

 

「遠征の義務が課せられる。つまりヘスティア・ファミリアに階層更新や階層主の討伐が定期的に命じられることになる」

 

「「え」」

 

故に、ラフォリアはその話に乗った。

探索系のファミリアには遠征の義務が課せられるが、製作系のファミリアはその限りではない。

そしてそんな製作系のファミリアの中でラフォリアが与えられる表向きの役割は……製品試験・市場調査・訪問販売。『病によって探索系ファミリアでは活動出来なくなったので、その知識を活かして製作系ファミリアで活動をする』という理由でギルドには押し通している。というか、ラフォリアを押し付けられる場所が生まれたことでギルド側としては最早なんでも良いという感じだった。正式な手続きは今は手を付けられないらしいが、街の復興が軌道に乗ればロイマンは直ぐにでもそれに取り掛かるだろう。

 

「それとこの教会の権利も今日付で私の物になった」

 

「「うぇっ!?」」

 

「1ヶ月の猶予期間とその後については月7万の話した通りだ。気合を入れて働けよ」

 

「か、神様!?どういうことですか!?僕達ここ追い出されちゃうんですか!?」

 

「お、おお、落ち着くんだベルくん!僕達が毎月しっかりとお金を納めれば……!!」

 

「普通に考えればその金で他に良い部屋を借りられそうなものではあるのだがな」

 

「ぐ、ぐぬぬ……!!」

 

しかしこうなると、ヘスティアにはここを捨てられない理由も出て来るというもの。だってここを出てしまえば本当にラフォリアとの繋がりがなくなってしまう。色々と酷い彼女ではあるが、今やヘスティアにとっては彼女は大切な家族の1人だ。恩恵をヘファイストスに移すのにも抵抗感があるし、出来れば自分のファミリアに来て貰いたい。……勿論、それによって遠征という不利益が生じるからこそラフォリアが拒んでいることも分かってはいるが。

 

「さてベル、明日はお前のために時間を取ろう」

 

「へ?」

 

「?お前が言ったんだろう、私に食事を奢ってくれると」

 

「……!覚えていてくれたんですか!?」

 

「偶然な」

 

「そ、それなら明日!行きましょう!ご馳走させて下さい!」

 

「ふっ、奢るお前の方が嬉しそうなのは妙な話だがな。まあいい、大人しく奢られてやろう」

 

「む、むむむ……」

 

なんだかベルとラフォリアの関係が羨ましくなってしまって、ヘスティアは頬を膨らませてその様子を見守る。

……しかし本当に、ラフォリアはベルを追い出すつもりがあるのかも疑問である。ヘスティアに対してはともかく、ベルに対しては誰から見ても妙に優しいというのに。そんな風に他の人間には見せないような優しげな表情をしていれば、誰にだって分かって当然だ。本人は気付いていないのかもしれないけれど。

 

(本人が気付いていないからこそ、なのかなぁ……)

 

もし本人が気付いたのなら、もう少し何かが変わるかもしれない。変わったとすれば、どうにかなるのかも分からないが。

 

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