【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者20:とある冒険者

遠征当日。

集合場所はバベル前の中央広場。

今回の大規模遠征に参加するロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの鍛治師達、その他にも物資を届けに来た製作系ファミリアの眷属達を含め、その場は普段とはまた違う少しの緊張感の走った異様な盛り上がりを見せていた。

 

「……"ベルに試練を与える"か。よくもまあそんなことを準備していられる時間があったな」

 

その集合場所にて一枚の手紙を持って立っていたのは、ラフォリアだ。その手紙はここに来た際にフレイヤ・ファミリアの下っ端の1人が持って来たものであり、内容は簡潔。女神フレイヤがベルにミノタウロスという試練を与えるため、その邪魔をしないで欲しいというもの。

フレイヤの眷属達は未だに金策に奔走しているというのに、当の本人はどれだけ暇なのかと。むしろそれよりもベルの方が彼女にとっては重要なのかもしれないが、どちらにしてもラフォリアにとって好都合なことには変わりない。ただ唯一心配なのは……

 

「ミノタウロス相手……となると、咆哮を封じるために喉を斬っておくのが定石だが。オッタルはそのことを知っているのか……?」

 

ミノタウロスの咆哮(ハウル)は強制停止効果を持っており、これは通常のLv.1の冒険者では決して防ぐことが出来ない。

故に恩恵を昇華する試練としてミノタウロスを選ぶ場合は、その喉を予め斬っておくことが定石だ。しかしそれを手下の面倒など見たことがあるのかも怪しいオッタルが知っているのかと問われると、途端にラフォリアの表情は歪む。

まさかフレイヤからの直接の命令を金策に勤しんでいる他の団員にさせる筈もなく、そうなると動いているのはオッタルで間違いないのだし……

 

「……………フィンに言っておくか」

 

もし必要であれば、隊列から離れる許可を取っておく。

その辺りのタイミングがどうなるかは分からないが、ベルは今日はもうダンジョンに入っている筈だった。フレイヤの試練はありがたいものではあるが、それで殺されてしまっては困る。もしそうなれば今度は本当にオッタルを教育し直し、フレイヤを自由のない鳥籠の中に閉じ込めておかなければならなくなる。同じ考えを持っている眷属共を扇動してやれば、そこまで行き着かせるのは容易いことだ。

 

「おお、お主が【撃災】か!」

 

「………?誰だ」

 

そんな風に考え込んでいると、どうも馴れ馴れしく話しかけて来たハーフドワーフの女が視界に映る。少なくともラフォリアは知らないし、フレイヤ・ファミリアとの一件以来、こうして知らぬ他者から話しかけられることも珍しかった。そして目の前のその女はラフォリアに対して殆ど恐怖とかそういうものを抱いていないようにも見える。

 

「誰というか、一応これでもお主が入ることになったファミリアの団長なのだが……」

 

「ほぅ、ということは鍛治師か」

 

「そういうことだ。堅苦しい挨拶は好かん、"椿"と呼んでくれ」

 

「……鍛治師の割には力があるように見えるが」

 

「なに、所詮は試し斬りの副産物よ。主等のような本職には及ばん」

 

「なるほど、お前も馬鹿の1人だということか」

 

「はっはっは、酷い言われ様だが……否定は出来んな」

 

試し斬りなどという名目でLv.5まで上げたというのであれば、殆どの冒険者の立つ背がなくなる。しかしそれを本気で言っているのであれば、彼女もまた本物の大馬鹿者なのであろう。

ちなみに彼女は現在38歳、15年前となれば未だ下っ端の身であった。

 

「その武器の使い心地はどうだ?」

 

「鍛治神の造った武装となれば、悪い筈もない。……ああ、お前達が居るということはダンジョン内で自分で研ぐ必要もないということか」

 

「うむ、それは任せてくれて良い。必要となればダンジョン内で新たな武器すら打って見せるとも。……にしても、最近は砥石の使い方すら分からん冒険者も多いが、流石はヘラの眷属といったところか。手前等としては儲けが増えて助かるが」

 

「元より単独で長期間ダンジョンに潜ることが多かった、必要に駆られて身につけた技術だ。本職には敵わん」

 

「とは言え、50階層までの戦闘は殆どが幹部以下の者達が請け負うと聞いている。主の出番は少ないのではないか?」

 

「私の立ち位置はフィン達より上だ。奴等がどうにもならなくなった時にしか、この剣の出番はない」

 

「なんと、そうであったか。……つまりは保護者的な立ち位置ということか?」

 

「そういうことだ。7年前の件で大半の年寄り共が死んだと聞いた、久しぶりに他者に自分の指示や動きを見られている感覚を味わわせてやるのも一興だろう」

 

「なるほど、それは緊張もひとしおだろう。面白い話を聞けた」

 

そうこう言っているうちに、フィンによる出発の演説が始まった。まあ色々と言いはしたが、結局のところは予備戦力である。所詮は59階層へ行くだけ、今の戦力を考えればラフォリアは戦闘に参加する気など毛頭ない。もし死にそうな人間が出た時に、手を貸すのみ。

 

「……だと、良いのだがな」

 

そうは上手くいかないのがダンジョンであると、ラフォリアはよく知っている。

 

 

 

 

「59階層に何がある、フィン」

 

「………」

 

先頭集団を歩くフィンの横に付き、ラフォリアは声を掛ける。完全に隊列を無視しているが、この浅い階層、どころかラフォリアの特殊な立ち位置もあって誰もそれを指摘することはなかった。

階層を歩き始めてまだ数分、一応フィンの隊列にはそれなりに内情を知るものしか居ないと知っての行動である。

 

「……先日18階層で君が返り討ちにした赤髪の女のことは覚えているかい?」

 

「ああ、あのヒトモドキか」

 

「アイズ達が27階層の食糧庫でまた彼女と戦ってね、どうやらその時に59階層へ来るように言われたらしい。そこに知るべきものがあると」

 

「なるほど、つまり敵は59階層以降を容易く出入り出来る存在ということか」

 

「……そうなるね。それと恐らく闇派閥との関わりがある、かつての幹部が怪人となって敵側に居た」

 

「分かっているのか、フィン」

 

「何をだい?」

 

「所詮は貴様程度の身体能力しか持っていない人間が59階層以降へと出入りしていた、つまりは何らかの裏がある」

 

「……モンスターには攻撃されないのか、全てのモンスターを使役出来るのか、それとも」

 

「特殊な方法でダンジョン間を移動出来る手段を持っている。人間でないとすれば、ダンジョン側の存在とも考えられる。少なくともこちらよりダンジョンに詳しいのは間違いない」

 

「…………」

 

それは少しばかり飛躍した考えだとも言えるが、相手が人ではない人である以上、そして59階層を指定してきた以上、その線は限りなく濃い。

 

「ラフォリア、君は何か知らないかい?例えばダンジョンに別の出入り口がある、なんて話を」

 

「…………いくつか心当たりはある」

 

その言葉に目を見開いたのはフィンだ。

ラフォリアは知っていた。

僅かではあったが、知識があった。

……否、彼女の場合は経験があった。

 

「あれは確か10になったばかりの頃だったか、1月ほどダンジョン内に籠っていたことがある」

 

「何をしているんだい君は……」

 

「主に27階層辺りまでを目安に彷徨っていたのだが、奇妙な壁を見つけた」

 

「壁……?」

 

「純度の高いアダマンタイト製の壁だ。当時の私には破壊出来る力もなく、そもそも興味も無かった故に忘れていたが……ダンジョンの壁を破壊した先にそれを見つけた」

 

「……一つ聞きたいのだけど、どうして君はダンジョンの壁を?」

 

「18階層で備品を調達していた時、馴れ馴れしくもこの私の身体に触れて来たクソ野郎が居た。2度と同様のことが出来なくなるよう両腕を粉々にしてやったのだが、怒りが収まらずにモンスターに八つ当たりをしていた。その時の副産物だ」

 

「両腕を粉々に……」

 

「今同じことをすればギルドからの罰があるかもしれないが、当時は良くも悪くもよくある話だったからな。気にするな」

 

下克上が流行っていた時代。

冒険者同士で競い合い、その経験値を奪い合っていたような時代の話だ。実際フィン達も似たようなことをしていたので何も言えないが、確かにあの時代であれば大きな問題になることはなかったろう。特に相手がヘラの眷属ともなれば当然に。

 

「そのアダマンタイトの壁が、地上に繋がる通路か何かだと?」

 

「想像だがな、まさか59階層まで続いているとは思わんが」

 

「……いくつか心当たりがあると言っていたね、他にはあるのかい?」

 

「ああ。まあ、これについては恐らく似たような体験をした冒険者も過去には居ただろうが………喋るモンスターを見たことがある」

 

「喋るモンスターだって?」

 

そして再びもたらされたその情報に、再びフィンは驚かされる。いくらヘラの眷属だからといって、どうしてそれ以上にダンジョンに潜っていた筈の自分より彼女は多くを知っているのだろうかと。

しかしその認識は間違っている。

フィンの方がラフォリアよりもダンジョンに潜っている総時間が多いかどうかは、今ならともかく、当時であれば決して確実ではない。

 

「定期的に依頼に上がるだろう、誰もいない筈のダンジョンの壁奥から声が聞こえるだのなんだのと」

 

「ああ、この間も似たようなのが出ていたのを見たよ」

 

「先程の話の後、地上に戻ってからアルフィアに怒られてな。今度は不貞腐れて2ヶ月ダンジョンに潜ってやった」

 

「本当に何をしているんだい君は……」

 

「その時に適当に引き千切ってきた依頼の中にそれがあってな、そこで見つけた」

 

「喋るモンスターをかい?」

 

「ああ、26階層で喋る人蜘蛛を見つけた。普通に会話も出来てな、思考もあった」

 

「……信じられない話だ。それを君はどうしたんだい?」

 

「どうでもよくなってモンスター狩りに戻った」

 

「……え?」

 

「興味がなかったからな、喋ろうが何しようがどうでもいい。流石に狩るべき相手ではないと手を出しはしなかったが、それよりも私にとっては"あの女"を叩き潰すことの方が重要だったからな。どうでも良かった」

 

それは結構大切な話ではないのか?とも思いもしたが、しかし彼女も先程言ったように、もしかすれば同様のことに遭遇したことのある冒険者も過去には居たのかもしれない。

僅かにでもそうした噂が出るのであれば、ラフォリアのように実際に遭遇したことのある者が居たとしてなんらおかしくないのだから。

……つまり。

 

「理知のあるモンスターが徒党を組んでいる可能性がある……?」

 

「それがあのヒトモドキと同類なのかは知らんがな。私が出会った人蜘蛛も人間と似たような造形をしていた、しかし特別人間に対して悪感情や敵意を抱いているようにも見えなかった。食料をくれてやったら素直に喜んでいたからな、敵対するかどうかは結局のところ奴等の現状次第だ」

 

「……敵にするにしても味方にするにしても、冒険者としては判断に困るね」

 

「結局59階層以降については人の手が殆ど触れられていない。凄まじい強化種が存在している可能性もあれば、そうした知能を持つモンスター達が支配している可能性も十分にある。ダンジョンが未知とはよく言ったものだが、奴等が地上への侵略を企み密かに通路を作っていた……などという話も可能性がないわけではない」

 

その先兵たる存在が59階層に居たとしても、何らおかしくはない。

 

「……ラフォリア、万が一の時は君にアイズ達を任せたい」

 

「違えるなフィン。万が一の時に逃げるのはお前達だ、そして残るのが私だ」

 

「………」

 

「地を這ってでも生き残れ、貴様と私とでは担っている責任の重さが違う。しかしその時は今以上に黒龍討伐のために死力を尽くせ、私がお前達に求めているのは最初から最後までその一点のみだ」

 

「……心に留めておくよ」

 

さて、そんなことを話していると、なにやら前方の方から数人の怪我をした冒険者達が走ってくることに気がつく。

対応するのはティオナとベート、そして走って来る彼等はそんな集団のことを見て驚きながらも何処か安堵しているようにも見えた。

 

「ミ、ミノタウロスが出たんだ!!!」

 

(………なるほどな)

 

どうやらタイミングは完璧だったらしい。

見つけたのは9階層。

そして案の定……

 

「白髪のガキが襲われてるのを見て!俺達はとにかく逃げるのに必死で……!」

 

(やはりベルの関係か)

 

そうして、ラフォリアの不安が確信に変わる。

この慌てようでは間違いなく彼等もそのミノタウロスに襲われており、それはつまり、オッタルがその個体のコントロールを雑に行っていたということに他ならない。

ベルに試練を与えるだけならばまだしも、未だ不適格な他の冒険者達にまで被害を与えているとなると、それはもう雑にも程がある。

 

「アイズ!?」

 

「何やってんだお前!?」

 

アイズが隊列を抜け出してかっ飛んでいく。

数日共に鍛錬をしたせいか、それなりに思い入れが出来てしまったらしい。しかしこうなると試練もまた邪魔をされてしまうことになる。……いや、そうならないように"あの男"は配置されているのだろう。となるとラフォリアのすべきことは……

 

「フィン、少し離れる」

 

「ああ、僕達も後で追うよ。アイズを頼む」

 

アイズほどの速度は出なくとも、そもそもステータスを満遍なく上げていたラフォリアはLv.7ということもあって相当に速い。

ラフォリアはあの男の性格をよく知っている。

その脳筋のほどをよくよく知っている。

その考えの足らなさを、何度も見せつけられている。

 

 

「さて………………説教の時間だ」

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