【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者26:神

フィン達が遠征に行っていた頃、地上では3ヶ月に一度行われる神会(デナトゥス)が開催されていた。

神会とはその名の通り神々の集まりであり、主に冒険者の命名式や都市で開かれる催しの発案などが行われている。参加条件はLv.2以上の冒険者を眷属に持つ主神のみ、基本的には不真面目な議題が話されているが今回ばかりはそういった様子でもない。

ちなみに今回の司会進行はロキである。

その目的は新種のモンスターについて知っている神を炙り出すため、ヘルメスやディオニュソスと共にこの場に望んでいた。勿論、今回の神会がそう容易く済むものではないと予め知っていたため、割とロキも渋々と言った感じでこの役割を引き受けたらしたのだが。

 

「…………マジで【撃災】帰って来てたのかよ」

 

「しかもLv.7ってマジ?」

 

「すまん、バロール単独討伐って何の冗談だ?」

 

「オッタルさん超えてんじゃん」

 

「まあ実際超えてるんですけどね」

 

「フレイヤのとこに襲撃かけたってマジ話なん?あたし見てなかったんだけど」

 

「そらマジよ、今の"都市最強"なんだから」

 

命名式にラフォリアの資料が出て来た瞬間に、一気に静まり返る神々。

特にフレイヤ・ファミリアとの一件は彼等にとってもかなりの衝撃であったらしく、その話題を出す際にはなんとなく居心地悪そうにフレイヤの方をチラチラと見る有様なのだから、いつもの弾けた雰囲気はそこにはない。

しかし肝心のフレイヤは特に気にする様子もなくラフォリアの資料を見ているので、果たしてどう扱ったらいいのかも分からない。イシュタルなど明らかに嬉しそうにフレイヤの方を見ているのに、フレイヤはそれすら無視をしている。特に不機嫌な様子もなかった。しかし別に機嫌が良さそうという訳でもなかった。

 

……そして様子がおかしいのはもう1人。

 

「………」

 

ヘルメスもまたラフォリアの資料を見て、しかし真剣な顔をして同時に何かを考えている。

そんな彼の様子に気になる者も多いが、一先ずは命名式だ。

ちなみに彼女の身柄はヘファイストス・ファミリアの預かりということになっている。つまり大手のファミリア所属ということで、神々もおかしな名前を付けにくいというのはあるのだが……それにしても、やはり例外というものは何処にでも存在しているものであり。

 

「……現状維持で良くね?」

 

「っつうか、変なの考えた奴は次の日ドブ川に捨てられるだろ」

 

「俺よく知らねぇんだけどさ、そんなにヤバい奴なのか?」

 

「あの子の最初の二つ名、確か『爆裂少女(ボンバーガール)』だったんだよ」

 

「へぇ、可愛いじゃん」

 

「それ考えた奴が次の日に中央広場に全裸で吊るされた」

 

「……は?」

 

「それを決定した進行役も、その次の日に全裸で噴水広場に浸けられてた」

 

「………」

 

「結局、臨時の神会を開いて二つ名を急遽変えたんだよな」

 

「おう、そんで落ち着いたのが【撃災】。ありゃ完全に災害だったからなぁ」

 

「その件以降は彼女の二つ名にだけは絶対に触れない、って感じでここまで来たわけだ。つまり今回も現状維持以外は選択肢がないのと同義」

 

「屈したのか……」

 

「ちなみに案を出しただけでも沈められるぞ」

 

「過激すぎだろ!!」

 

気に入らなかったのだろう、単純に。

なおそれが原因で小規模の抗争が起き、一つのファミリアの本拠地が爆砕される事態になったりも過去にはしたのだが、それはまあ別の話として。

 

二つ名は今回もやはり現状維持で一致した。

そこを変える勇気が彼等にはなかった。

というかどうせ変えても臨時神会を開くことになるので、無駄だと思ったのだ。神意に逆らうどころか、神をマジ殴りに来るような女なのだから。

……やはり暴力、暴力は全てを解決する。

 

「ちなみに書いたるやろけど、ラフォリアはファイたんのところに所属することになるから。変な手出すなよ、お前ら」

 

「手出した瞬間に叩き潰されるだろ」

 

「そんな命知らず居る?」

 

「居ねぇよなぁ?」

 

「居たら手をあげてくれ、見に行くから」

 

「いいこと教えてやろう、【撃災】は野次馬も殴るぞ」

 

「酷過ぎる」

 

「暴君かよ」

 

「まあ何にせよ、あんま悪いことすんなや。逆鱗にでも触れたら本気で爆破されんで」

 

意外なことに、話はその程度で済んだ。

なぜなら実質的には都市内の序列はそれほど変わっておらず、一番上に1人が割り込んできたというだけなのだから。これでフレイヤ・ファミリアが壊滅していれば全てが滅茶苦茶になっていたかもしれないが、そういう訳でもない。単に"都市最強"が変わっただけ、その称号に何かしら大きな権利や役割がある訳でもない。

それに彼女は行動に難があるとは言え、それほど敵対的で話が通じない相手という訳でもなく、その地雷にさえ触れなければ被害もない。

……つまり、悪いことさえしなければいいのだ。

逆に言えば悪いことをしている者達にとっては非常に脅威となる。

 

(おーおー、えらい顔しとるやんけイシュタル)

 

先程までフレイヤのことを笑っていたその顔が、ロキの言葉で大きく歪む。

ゼウスとヘラのファミリアと言えば、諸々の影響はあったとは言え、結局のところは都市と世界の平穏を願っていた者達だ。当時の街の治安は良くも悪くもあのファミリアが強い影響力を持っていたし、彼等のおかげで抗争はあっても平穏は保たれていた。つまりはラフォリアも間違いなくそちら側、悪を許してはくれないと考えられる。許してくれはしないだろう。

 

……ちなみに実際には、存在そのものが反吐が出るという理由で徹底的に殲滅するので、彼等の想像より厳しかったりもする。

魅了でもかけて自由を奪おうものなら、とあるスキルの関係で完全に疲弊させない限りは魅了を無効化してしまうので、むしろ怒りを買って全てを破壊されることになる。彼女がそんな絶対イシュタル殺すウーマンであることは、今のところはオッタル以外は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

結局はそれからアイズやベルのランクアップの報告があり、ラフォリアの話は流れてしまったが、神会は無事に終わりを告げた。

大きな問題もなく、ベル・クラネルの最速レベルアップに関する件も、フレイヤが口を出したことによって無事終息した。その様子からフレイヤとヘスティアの間にはまた面倒な事が起きるだろうとロキは予想して辟易としたが、それとは別に、それでもラフォリアが帰って来たという正式な報告は一部の者達にとっては強い影響があったということも実感させられた。

例えばそれは、最初から妙な反応をしていたこの男についてだとか。

 

「それで、どういうことやヘルメス?妙に急いで解散したと思ったら、こないなところで待ち伏せするやなんて」

 

「………」

 

神会が終わった後、先に用事があると離れていったヘルメスが、ディオニュソスと別れたロキを待ち伏せしていた。誘われた小さな店で、ロキは訝しげな顔をしながら、妙に真剣な顔をした目の前の胡散臭い男の顔を見やる。

 

「……ラフォリアとはもう会ったんだよな?ロキ」

 

「あん?そりゃまあ最初に来たのがウチやからな、それからも縁は続いとるわ」

 

「それなら聞くが、彼女はどこまで"アルフィア"になっている?」

 

「………どういうことや」

 

それはまだフィン達も気付いてはいないこと。

それをヘルメスは知っていて、当然ロキも知っているとばかりに言葉にした。しかしそのロキの反応を見て、ヘルメスは天を見上げる。

最悪だ、と言わんばかりに。

 

「何の話や、ヘルメス」

 

「……あの子はアルテミスとアフロディーテのファミリアと一時的に行動を共にしていたことがある。俺はそれを本人達から聞いた」

 

「それがどないしたんや」

 

「彼女等が言葉を揃えて言っていたことがある」

 

「?」

 

「……何れ彼女は、自分自身を完全に失う、と」

 

「自分を、失う……?」

 

言っていることが分からない。

しかしそれが嘘でも冗談でもないということだけは分かる。

だからロキは身を乗り出した。

そしてヘルメスの言葉を待つ。

 

「彼女には、アルフィアの恩恵を自身の身に転写するというスキルが存在するらしい。……これだけで意味は分かるな?」

 

「っ!」

 

そのただ一言で、恩恵について真に理解している神であれば、誰でもその結論に行き着くだろう。それはロキが一瞬で顔色を変えたことからも明らかだった。行き着かないのは例えば、恩恵に鍵があることを知らなかったりとか、その程度の理解しかないような神々だけ。

 

「恩恵を、転写やと……?」

 

「そうだ、つまり彼女はアルフィアのスキル、魔法を使用することが出来る」

 

「それだけやないやろ!恩恵は子供達の魂に根付いたモンなんやぞ!」

 

「ああ、そうだ………だからこれは言い換えるのなら、"静寂のアルフィアの魂そのものを、自身の魂に転写している"ということになる」

 

「!!」

 

そこまで噛み砕けば、子供達でも分かるだろう。

その危険性、その恐ろしさ、その代償の大きさを。

 

「魂は子供達そのものであり根源だ、魂が変革すれば肉体もまたそれに応じて変化する。アフロディーテのところに居た時には、既に髪色が完全に変わっていたと聞いた」

 

「……その程度で済む話な訳あるかいな」

 

「………」

 

「このままいけば、ラフォリアの魂そのものがこの世界から消滅する。2度と輪廻の輪に戻れんどころか、もう既に殆ど手遅れや」

 

「……そうだ」

 

魂の形は既に変わってしまっており、歪なものになってしまっている。

それは元に戻せるものではない。

むしろ最終的にはアルフィアの魂がこの世界に2つ存在することになってしまうくらいだろう。そんな歪なことが今正に起きようとしている。魂の上書きとも言えることが、神の恩恵によって行われている。

 

「待て……そんならラフォリアは、人格も変わっとるんか……?」

 

「……ああ」

 

「フィン達どころか、オッタルすら気付いとらんかったんやぞ!?」

 

「それは変化しているのが彼女の意識の薄い部分からだからだろう。彼女の意識の強い、つまり"猛者"や"静寂"に関しては未だ彼女の色が色濃く残っているはずだ。……だが彼女が意識していない部分については、そもそも感知出来ていないのだから、彼女自身がどれほど努力したところで戻せはしない」

 

だからヘルメスは頼まれた。

アルテミスとアフロディーテから。

彼女達の元からいつの間にか姿を消していたラフォリアの存在を消させないようにと、オラリオに戻る前に願われた。

 

しかしそれもフレイヤ・ファミリアと抗争を起こしたと聞いた途端に、既に手遅れであったと悟ってしまった。やはり彼女はそれを必要があるとなれば迷いなく行使するのだ。そもそも彼女自身がそのスキルの本当の代償について理解していないのだから。

……若しくは目を逸らしているのだから。

 

「っ、ほんまに何も説明せえへんな!あの子は!」

 

「それも仕方がない、あの子は本心では俺達(神々)のことを信用していないからな。……結局は俺達は皆、最初はゲーム感覚、暇潰しで下界に来ている。そんな俺達の薄っぺらい言動を見抜ける程度の才を、彼女は持っている」

 

「……せやからアルテミスか」

 

「ああ、ヘラの次に付き合いが長いのは、そういう理由もあるだろう」

 

そうなれば女神アストレアとも、もしかしたら良い交友関係を築けたかもしれない。皮肉なことに。

彼女達はそもそもの目的が娯楽ではなく子供達であったのだから。

子供達と共に肩を並べて戦うし、子供達の居る場所へ危険を承知で同席する。たとえ自分達が神として死ぬ危険があったとしても、彼女達は迷わない。

たった1人の眷属のために、自身の永久すら引き換えにするだろう。

大半の神々であれば、精々自身も天界に戻ってその子供達の魂を回収する程度に収めるだろうに。フレイヤだって、ロキだってそうする筈だ。その考え方の溝は、神々にとってあまりにも大きい。

 

……そういう意味では、彼女がヘスティアのことを手元に置いている理由も納得出来る。彼女も結局その同類なのだから。あれも必要とあらば神としての自分を捧げるだろう、大切な子供達のために。

 

「せやけど、それやったらヘルメス。自分ラフォリアに一番嫌われるタイプやろ」

 

「うっ」

 

「あの子は結局、神意に導かれるのを嫌っとる。神々に踊らされて、傀儡にされるのを心底嫌がっとる。理由は自尊心かもしれんけど……今思えば、フレイヤが殴られたんはそれが一番の理由やろな」

 

「……厄介だな」

 

「やろうな」

 

つまりはまあ、ロキやヘルメス達が彼女に何を言おうとも、それは聞き入れて貰えないだろう。彼女を救うために奸計を仕込めば、むしろ怒りを買ってしまう。この件については下手に手を出さない方がいいという結論になる。それでもと関わるつもりであるのなら彼女に、それだけの誠意を見せなければならない。ロキとヘルメスに彼女に対してそこまでの気持ちがあるのかと問われれば、頷くことは出来ないだろう。相手がフィンやアスフィであるならばまだしも、結局のところラフォリアは他派閥の人間なのだから。頭は動いても気持ちが動かない。

 

「フィン達に任せるしかない、か……」

 

救うといっても、現状維持以外の方策などないのだが。

そしてそれを成すために必要なのは、ラフォリアよりも強い冒険者が何人も出てくることくらい。

なかなか条件は厳しいし、時間だって無さすぎる。

これは神々には出来ないことの1つなのだ。

子供達がしなければならない。

もし神が手を出してしまえば、彼女は本当に……次の"静寂"になりかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、そういえば"静寂“と言えば」

 

「ん?まだなんかあるんか?」

 

「アルフィアとザルドの墓だけが周りから浮くくらい綺麗に作り直されていたんだが」

 

「…………」

 

「それとアルフィアの墓には酒瓶が叩き付けられていた」

 

「………ほんま面倒臭い子やなぁ」

 

「あれ多分エレボス泣いてるぜ」

 

「まあ壊されんかっただけマシやろ、恨まれてもしゃあないわ」

 

言うまでもなく、ラフォリアはエレボスを憎んでいた。

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