【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

27 / 69
被害者27:未完の少年

18階層野営地。

50階層での闘争の後、ここまで帰って来るのも容易いものではなかった。

ポイズン・ウェルミスのモンスターパーティというダンジョンの中でも最も出会いたくない最悪の相手に直面してしまい、脱出こそしたものの多数の団員がその毒の餌食となってしまう有様。そこからなんとかこの18階層に辿り着くことは出来たものの、やはり限界は来た。倒れてしまった団員達も体力が限界であり、このまま地上を目指すのは難しいと判断したフィンは、ここに臨時の野営地を設置することを決断した。

 

「治療の方はどうだい?リヴェリア、ラフォリア」

 

1箇所に集められ寝かされた団員達。

彼等の上空には小さな月がその姿を見せており、そこから溢れる光が団員達を照らしている。それが何であるのかは、最早説明の必要もない。ここに来ても彼女の力に頼らざるを得ない現状を、フィンも負い目を感じている。

 

「問題ない、特効薬が届くまでは保つだろう」

 

「ああ、ラフォリアの魔法には僅かにだが解毒効果があった。流石に完治までは至らないが、この調子ならばベートが戻って来るまで十分に余裕はある」

 

「そうか……ありがとう、ラフォリア」

 

「構わん、私の薬を取りにも行かせているからな。それに女神ヘファイストスにも眷属を助けてやれと言われている、これは私の義務だ」

 

けほっけほっ、と相変わらず咳をしながら団員に用意された椅子にもたれ掛かり体を休める彼女に、フィンは目を細める。

 

……明らかに彼女の休憩の頻度が多くなっている。

つまりは疲労している。

 

行きと帰りで休息の回数を変えるのは仕方のないことではあるが、それでもその変化は彼女の場合明らかだった。単純に疲れているのか、それともフィンの想像が当たっているのか。

どちらにしても今はまだ彼女を地上には送れない。せめてベートが特効薬を持って帰らない限りは、ポイズン・ウェルミスの猛毒に対する効果的な処置は彼女にしか出来ない。

 

「余計な気を回すな」

 

「っ」

 

「この回復魔法には病に対する治療効果も存在する、僅かではあるがな。これを発動させていることは私にとっても無益ではない」

 

「……良い魔法だね」

 

「個人的にはあまり好きではないがな」

 

ラフォリアのその魔法の有用さは、フィン達も59階層で理解させられた。

確かに魔法を無効化するアルフィアの魔法と比べれば見劣りするが、それでも魔法防御力を上げるというのは便利だ。加えてリヴェリアや他の治療師達のように短時間での回復量はそう多くないものの、指定した対象全てに継続的に治癒効果が働く設置型の回復魔法というのも、集団を率いるフィンからすれば素直に羨ましい。同じ魔法を使える団員が居ればさぞかし重宝しただろう。しかも状態異常の軽減効果もあるとなれば尚更、集団戦闘では開幕早々に使いたいそれ。

 

……そんな集団戦闘向きの魔法を覚えたということは、色々と想像出来ることもあるが。そこは下手に詮索はしない。そこは触れてはならない部分だとなんとなくでもわかるからだ。

 

「……聞いてもいいかい?」

 

「大凡お前の想像通りだ」

 

「……まだ何も言っていないんだけれど」

 

「私はアルフィアの魔法を使える」

 

「その代償に、彼女のスキルの影響も受けている。つまり病を二重に発症している。この解釈で良いのかい?」

 

「そうだ」

 

「つまり君のステイタスは最終的には完全に"静寂"のものになる。……いや、容姿もかな」

 

「………」

 

「その目、もう色が変わっているんだろう?……その髪色すらも」

 

50階層から今日まで、彼女はずっと目を閉じている。

それこそかつてのアルフィアと同じように、彼女とはまた違った理由で。目の前の物から目を背けるためではなく、目の前の者に目にさせないために。そこまでの現状を見れば、フィンとリヴェリアがここまで推測するのは容易いことだった。それほどに目の変化というものは隠すのが難しい。

 

「私としては当たり前のように目を伏せてダンジョンを歩くその様子に驚いたが……」

 

「あの女とてしていたことだ、私に出来ない筈がない」

 

「そんな理由で納得できることか?」

 

「私は天才だからな」

 

「ああ、それはな……」

 

そう自信満々に言われてしまうと納得せざるを得なくて、確かに彼女は天才なのだから。けれど問題はそこではなくて。

 

「最終的にはどうなるんだい?君は」

 

「……さあな」

 

「君の意識や記憶は、残るのかい?」

 

「知らん、今のところは問題ない」

 

「そうか……」

 

その言葉もどこまで本当かわからない。

それは別に彼女が嘘をついているとかではなく、当人ではその違和感に気付けなくともおかしくないというだけの話。

ただそれでも、常に最悪の事態は考えておかなければならないし、そうでなくとも最悪の中で生きて来た彼女だ。彼女自身がLv.7だからこそ忘れてしまうが、本来Lv.7のアルフィアのステイタスを模倣するというのはあまりにも強過ぎるスキルだ。その代償は相応のものでなくてはならず、存在そのものの塗り潰しが代償というのであれば、それは妥当だとフィンは考える。

 

「一先ず、今回の遠征はこれで終わりだ。次の遠征も流石に少し時間を置いてからになる、僕達も色々とやらなくてはならないことができたからね」

 

「そうか」

 

「……君はどうするんだい?」

 

「貴様等はすべきことがあるのだろう、安易に団員を連れ出すような真似はせん。必要になったら呼べ、それまでは好きにやる」

 

「個人的な思いを言うのなら、出来れば精霊や闇派閥に刺激は与えないで欲しいかな」

 

「知らん、私は私の好きに動くだけだ。必要があれば手を出すし、気に食わなければ叩き潰す。文句は私に言うな、相手に言え」

 

「ああ、うん……せめて報告だけはしてくれると嬉しいかな」

 

「気が向いたらな」

 

ただどちらにしても、一先ず彼女はロキ・ファミリアと距離を置くことになるのだろう。自分のことが知られ、こうして余計な気遣いを受けるようになった。それが窮屈に考えているというのはありありと分かる。

……だが、それに対してフィン達にとってみれば彼女への借りは多い。彼女は気にするなと言うのだろうが、なかなかそう出来る訳でもない。

そもそも最初の最初から、こちらが受け取るばかりの立場であるのだから。仮にも都市最大派閥の長として、そして冒険者としても対等でありたいというのであれば、その辺りのことはしっかりとしておかなければならない。

 

「ラフォリア」

 

「まだ何かあるのか」

 

「君の無茶を1つ聞き入れる」

 

「……何を言っている?」

 

「僕達は君に借りがあり過ぎる、君がどう言おうともそれは返すべきものだ。だが今の僕達には君に返せそうなものはなにもない」

 

「はっ、何でもするなどと言えば確実に後悔することになるということを知らんのか」

 

「知っているさ」

 

「……場合によっては貴様の目的も遠ざかるぞ」

 

「それを承知しているからこそ釣り合うと、そう言っているんだ」

 

「………」

 

名声なり、名誉なり、失墜する可能性もある。

それはフィンの人生の全てだ。

だからこそ釣り合うと。

もしこれから先にラフォリアがフィンと敵対することになったとしても、フィンは彼女の願いを一度だけ受け入れなければならない。その末に積み重ねて来た信頼が崩れ落ちたとしても、それは仕方がないと。寿命を懸けて仲間達を救ってくれた彼女に返せるものはそれしかないと。そう判断したのだ。

 

「ならばそれを今ここで使う。……黒龍を殺せ」

 

「「っ!」」

 

「貴様等が生きているうちにそれを成せ、どんな形であろうとも構わん。この地上に真の平穏を取り戻せ。決して忘れて偽りの平和の中で生きるな」

 

「………黒龍は、君が倒すんじゃなかったのかい?」

 

「私ではもうどう考えても時間が足りん、貴様等の準備が出来るまで生きていられるとは思えんからな。それは諦めることにした。……貴様等が現時点で当時の私達(ヘラ・ファミリア)と同等の力を持っていたのであれば話は別だったのだが、今更それを責めたところで仕方あるまい」

 

「………すまない」

 

「謝っている暇があるのなら走ってこい、偶には体力の限界を体験してこい。そういうガキのような意識が足りんのだ、お前達には」

 

「……分かった、そうするよ」

 

フィンは言われた通りに立ち上がり、走ることにした。

まるで一心不乱に上を目指していた15年前のように、直向きに英雄を目指していた子供の頃のように。周りの団員達から信じられないものを見たような目で見られながら。

 

オッタルが1人でバロールの討伐を、誰に言われずともしに行ったように、そういう必死さが今の自分にはないことは自覚している。

上に居た者達を決して追い抜かした訳でもないのに、目を逸らし続けていたことも分かっている。

今日まで必死にやって来たつもりではあったが、それは強くなるための努力とは別物。ここでしたラフォリアとの約束を守るのであれば……フィンは馬鹿にならなければならないだろう。冒険者というのは、多少馬鹿なくらいが丁度いいのだから。

 

 

 

 

 

そうしてフィンが夜中まで自分の体力の限界に挑戦していた頃。

この18階層にも一つ変化があった。

それは限界挑戦に何故かティオネが加わったこととはまた別に。

 

「邪魔するぞ」

 

「ラフォリアさん……」

 

「ラフォリアさん!?ど、どうしてここに!?」

 

ベル・クラネル、18階層到達。

それは冒険者になって僅か1ヶ月でのことだった。

気絶したところをアイズに拾って来られ、ロキ・ファミリアに連れて来られた彼等は、今こうして一つのテントを借りて、治療を受けた上で寝かされていた。ラフォリアが少し遅れてここに来たのは、回復魔法をもう一度毒に侵されている者達にかけ直すため。

 

「……本当にここまで来たのか」

 

「あ、あはは……その、成り行きで……」

 

切っ掛けはダンジョン内で"怪物進呈"をされ、そのまま命からがら最も距離的に近い18階層まで逃げて来たという理由ではあったものの。それでもラフォリアはそのことについて素直に驚き、未だ目を覚さないリリとヴェルフの横に座ると、優しくベルの頭を撫でる。

まるで母が子にそうするように。

努力して成した子供を褒めるように。

 

「あ、あの……?」

 

「……よくやったな」

 

「!!」

 

たった一言。

なんでもないその一言に、ベルの中で途端に何かが千切れたような感触があった。

憧れている女性が横に居るのに、こんなみっともない姿を見せるなんて絶対にしたくないのに。込み上げて来る熱と息苦しさはどうやったって抑えられなくて、それは下手なモンスターよりも手強くて。

 

「……アイズ、リヴェリアとフィンにベルが目を覚ましたと伝えて来てくれ」

 

「……分かりました」

 

いつの間にかアイズのことを名前で呼ぶようになっていたのは、彼女のことを認めたからなのか。しかしアイズも自分がここに居て、それを見てはいけないというくらいのことは分かる。彼が自分を気にして感情を抑えていることくらい理解出来る。

だから、そんな純粋な彼を微笑ましく思いながら、アイズはテントを後にした。彼にも自分にとってのリヴェリアのような人が居たのだと、それを嬉しくも思いながら。

 

「ご、ごめんなさい……その、僕こんな……」

 

「男が泣くな、と言うつもりはない。男が他人の前で泣くな、とは言うがな。その点、あの娘の前で我慢しただけ褒めてやる」

 

「でも、ラフォリアさんの前で……」

 

「私が許してやる、私が規則だからな」

 

「な、なんですかそれ……っ!」

 

小さく嗚咽をしながらポロポロと涙を流す少し控えめなその泣き方を笑いながら、ラフォリアは自分の胸元に彼の頭を押しつけて、目を開ける。

3日も会わなければ男は変わると誰かが言っていたが、まあこれは実際にランクアップを果たしたのだろうと容易く分かった。そしてベル自身も、ミノタウロスという障害を乗り越えたことで精神的に強くなったと理解出来る。

 

……だが、それでも彼はまだ14の子供だ。

仲間達を守るために必死になり、唯一のLv.2として恐怖や不安、そして孤独を噛み締めながらここまで来た。それが途切れて泣き出してしまったからと言って、いったい誰がそれを責めることが出来ようか。

失敗したのならまだしも、彼はその役割を見事に全うし、こうして仲間達を誰一人欠けさせることなく辿り着いたのだから。それはラフォリアだって褒めるし、胸を貸してやる。純粋なままに強くなり、必死になって生きている彼に、少しの愛情を抱いてしまっても仕方がない。

 

「今くらいは好きなだけ泣け。……泣くという行為は本来、人として出来なければならないものだ。時と場所を選べば我慢する必要などない。特に、事を成した後の涙であれば、それは勲章だと私は考える」

 

「勲章……」

 

「格好の良い涙だということだ」

 

「……!」

 

「だから気にするな。仲間を守り抜いた今のお前の涙は、決して格好の悪いものではない」

 

「……………!!!」

 

ああ。きっと、自分に息子が居たのならこうしていたのだろうかと……そんな変な考えが頭を過ぎる。体力的にも永久に叶うことのないそんな想像、何の意味もない。

それでもこうして心が満たされるようなこの感覚が、もしかすれば母性というものなのかもしれないと、ラフォリアは知る。こんな女に勝手に母性を抱かれても、ベルは困るだろうにと自分を嘲笑しながら。

再び目を閉じて、涙を拭いたベルに向き合う。

 

「もういいのか?」

 

「は、はい……あの、ありがとうございました」

 

「気にするな、年長者としての義務を果たしただけだ」

 

「ラフォリアさんには、いつもその、色々教えてもらっているというか……」

 

「?まだ大して何も教えていないだろう」

 

「そ、そういうことじゃなくて……」

 

何かを言いたいのに、言いにくそうな。

恥ずかしそうに、けれど悩ましそうに。

そんな煮え切らない様子のベルの姿。

 

「面倒臭い」

 

「酷いっ!?」

 

多少の母性が宿っても、彼女はやっぱり彼女だった。中途半端は嫌いだ。言うなら言う、言わないなら言わない。黙って余計な時間が過ぎていくのが彼女は一番嫌いだ。

 

「それで?知らないうちにもう一人仲間が増えたようだな」

 

「あ、はい。ヴェルフって言って、その、ヘファイストス・ファミリアで鍛治師をしているんです」

 

「鍛治師?なんだ、専属の鍛治師でも見つけたのか?」

 

「は、はい!前から気に入ってた防具の作り主だったので!ヴェルフから誘ってくれて、それにお願いする形で!」

 

「ようやくお前に男の知り合いが出来たわけだ」

 

「う"っ」

 

「一度死線を潜った仲間は大切にしろよ、なかなか得られるものではない」

 

「は、はい!それは当然……!!」

 

……冒険者として成長していくベル。

少しずつ仲間が増え始め、選択肢が増え始め、正に今こうして彼は冒険者としての人生を歩み始めている。

 

ラフォリアにはそれがとても羨ましく思えた。

思えてしまった。

思い返せば自分の冒険者人生は普通とはかけ離れたもので、仲間などというものには恵まれなかった。基本的には1人で潜り、偶にアルフィアや他の団員達がついて来たくらい。

信用できる仲間など得たこともなく、共に死線を潜り抜けた背中を任せられる相棒などいたこともない。

ただ己が強くなるために自分勝手に行動し、その甲斐もあって強さは手に入れたが、気を許せる友を得ることもなかった。まあなんと寂しい人生だというのか。

だからそんな自分とは違い、順調に成長しているベルを見て安心する。仲間に恵まれ始めた彼を見て、間違った道を進んでいない事を確信する。

 

……ラフォリアからしてみれば、強くなることは難しいことではない。自分の身体さえ問題なければ。幼い頃からずっとやってきたことなのだから。それこそ、他の者達が本当に強くなる気があるのかと思ってしまうくらいに。

だがどうしても、他の冒険者達が普通にしていることが出来なかった。そもそも自分自身が本気で求めてはいなかった。求めてはいても、それを素直に言葉に出すことは出来なかった。それは今も同じだ。

……女神アルテミスのところに居た時は、少しはそういう気分も味わえていたのかもしれないが。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。