【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者3:ギルド

その日、ギルド長であるロイマン・マルディールは酷く頭を悩ませていた。

 

「……あの【撃災】が、帰って来ただと……?」

 

「は、はい……」

 

目の前で報告するのは勤続5年目のエイナ・チュール、勿論彼女はその冒険者についてはよく知らない。偶々その手続きに立ち会っただけであり、今日は本当に必要な事務手続きだけをして彼女は去っていった。手続きは特に問題なくすんなりと終わり、特に彼女のレベルを聞くこともなく、確認をしたのは今はアフロディーテという女神の恩恵を背負っているということくらい。

故に大した話ではなく、15年ぶりなんて珍しい話……という程度でエイナは一応ロイマンに報告を持って来ただけであった。

 

「あの、彼女はそれほど大変な人物なのですか……?」

 

「……エイナ、まだあの女の過去記録を見ていないのか?」

 

「あ、はい……その、これから資料を探そうと思っていたところだったので」

 

「……アレは元ヘラ・ファミリアの天才児だ」

 

「えっ、ヘラ・ファミリアの!?」

 

「そうだ。ヘラのファミリアには"静寂"という才禍の怪物が居たが、あの女も十分過ぎる才能を持って冒険者達を蹂躙した。6つの頃に冒険者となり、12歳にしてLv.5到達。魔法の相性があるとは言え、当時5つの年の差があった"猛者"を完封したほどだ」

 

「そ、れは……またすごいですね……」

 

成長の速度としてはアイズに近い。

アイズも7つの頃に冒険者となり、13の頃にLv.5となった。それに猛者に勝ったという戦績も、当時のヘラとゼウスのファミリアに彼に負ける様な人間は1人を除いて居なかったくらいなのだから、確かに高い壁ではあるとは言え、あの時代ではそれほど驚かれる様な事でもなかった。

 

「……確かに、17の頃にLv.7に到達した"静寂"と比べると何かこう……」

 

「物足りない、所詮は剣姫と同程度だ。しかし問題が一つある」

 

「というと……?」

 

「アレは凄まじい暴君なのだ……」

 

「暴君……?」

 

当時12歳の子供が暴君。

果たしてどういう話なのか。

受付で事務処理を行っていた限りでは、口数の少ない落ち着いた人物という感じであり、あまりその辺りがエイナには想像出来なくて。

 

「あの女はとにかく手が出る、何をするにも過剰防衛だ」

 

「はぁ……」

 

「声を掛けられただけで殴り掛かる、肩に手を置かれでもすれば半殺しは免れん。気に入らなければファミリアに乗り込んで壊滅させ、主神の顔をボコボコにして裸で吊るして帰って来る様な奴なのだ。……12歳だぞ!?それが子供のすることか!?」

 

「うわぁ……」

 

そういえばと思い出せば、ここ数日、街の中で突然殴られてディアンケヒト・ファミリアに運び込まれる事案が何件か発生していることをエイナは思い出す。

なるほど確かにこれはロイマンが頭を抱えるのも頷ける、これから余計な仕事が増えるのは間違いないのだから。少なくとも怪我人は増える、治安が良くなる可能性があるのがまだマシなのかもしれないが。それでも苦情も増えるだろう。

 

「……あれ、そういえば」

 

「なんだ」

 

「彼女はどうして15年もオラリオを離れて居たんでしょう?それこそ、それほどの実力があれば黒竜討伐はともかく……あ、そうか。その後ヘラ・ファミリアが追放されたから……」

 

「……いや、あの女の事情にヘラとゼウスのファミリアの追放は関係ない。それより以前にあの女はオラリオから離れている」

 

「そうなんですか?」

 

「そもそもあの女が追放など受け入れるものか、そんなことをされればロキとフレイヤの両方に乗り込みに行くだろうが」

 

「あぁ、確かに……」

 

順調に行くなら、今のアイズの15年後の強さを持っていてもおかしくないというのに、それほどの長い期間彼女がオラリオを離れていた理由。追放が理由でないのなら、冒険者を辞めたくなったとも考えられないし、それならリヴェリアの様に外の世界を見に行きたくなったとかだろうか?それが一番納得できる気もするが。

 

「病だ」

 

「!」

 

「肺に重い病を患ってな、なんとか治療は行ったが完治することは無かった。故にアレは空気の良い遠方の土地に送られ、そこで療養をすることとなった」

 

「……やはり天才は短命なのでしょうか」

 

「さあな。だが女神ヘラは当時既に2人、同じように病に苦しむ眷属を抱えていた。だからこそ過剰なほどに金を費やし、治療のために奔走した。こうして戻って来たということは、その甲斐はあったのだろう。……我々にとっては嵐が戻って来たようなものだがな」

 

しかし単純な話、オラリオとしての戦力は相当に上がったということが予想される。果たしてオラリオの事情にどこまで関わってくれるのかは分からないが、少なくとも非常時に頼れる戦力があるというのは重要だ。その戦力に頼るためにはギルド長の頭を2、3回地面に叩き付ける必要があるかもしれないが、それでもその程度でオラリオを守れるのならロイマンはやるだろう。

 

「……ええと、彼女についてはどうすれば?」

 

「一先ずは放っておけ、最低限のやり取りだけで構わん。手続きも重要なものでなければ省いておけ、私が許可する」

 

「承知しました」

 

報告はそこまでとなり、エイナは自分の席へと戻る。エイナも色々と過去の記録には目を通している、それは7年前の事件についても同様だ。果たして彼女は元ヘラ・ファミリアの先輩に当たる人間があの様な末路を辿ったことに対して、どういった感情を抱いているのだろうか。

本当に彼女がこのオラリオに協力してくれるかどうかについても、今一度確認しておく必要はあるとエイナは資料を探りながら結論付けた。

 

 

 

 

「……君は本当に器用だねぇ」

 

「……おい馬鹿乳、口を動かすより先に手を動かせ」

 

「その馬鹿乳っていうのやめてくれないかい?これでも僕は女神なんだぞ」

 

「馬鹿デカイ乳と、乳しか詰まってないような馬鹿頭、これ以外に適した呼び名が何処にある」

 

「本当に酷いな君は!!」

 

脚立の上に乗り、バシバシと教会の横に生えている庭木の剪定をしているラフォリア。つい先程までは地下の清掃をしており、今は塗った壁を乾かしているため全ての家具が庭に出されて、早めにバイトを切り上げたヘスティアによって掃除をされていた。

 

「君は一体こんな技術を何処で教わって来たんだい?」

 

「気に入らなければ自分で作った方が早い、単にそれを繰り返して来ただけだ」

 

「へぇ、それはすごい」

 

「……そうでなくとも、この教会がこのまま朽ち果てていくのを見過ごすことは出来ん。いずれは女神ヘファイストスからも買い戻す」

 

「あれ、それって僕達が追い出されることにならないかい?」

 

「当然追い出すが」

 

「やっぱり酷いな君は!!」

 

「他に拠点を持て、所詮は女神ヘファイストスの土地に居座る居候だろうが」

 

「それは君も同じだろ!」

 

草刈り機だったり、剪定鋏だったり、工具だったり、そういった物を自前で買ってきて自分で使っているのだから、普段の態度から考えてみても本当に意外としか思えない。教会の端の方には知らぬ間に小さな倉庫が出来ていて、そこに色々な工具や資材が置かれていたりするので、もう我が物顔で好き勝手していると言ってもいい。

 

「……そういえば今朝はギルドに行って来たんだってね、冒険者になるのかい?」

 

「昔はこの街に住んでいた、なるというよりは復帰だ」

 

「なんだ、そうだったのか。道理で色々と詳しいと思ったよ」

 

「15年も昔の話だがな」

 

「……そ、それならさ!アフロディーテもオラリオに来るかは分からないんだし、僕のファミリアに入ってくれたりなんか……!」

 

「魅力がない」

 

「ぐふっ」

 

「貴様に乳のデカさ以外に何の取り柄がある、搾取されるだけの生活など御免だ」

 

「うう、それを言われると辛いものが……」

 

「何もないのならせめて動け、働け。必死になって眷属に尽くせ。他者を勧誘するなど、そうして1人を育ててからの話だ」

 

「はいぃ……」

 

もうなんかちょっと泣きそうになりながらも、ヘスティアは机を拭く。

 

「……それなら君はステータスの更新はどうするんだい?信頼できる神なんてなかなか見つけられるものじゃないぜ?」

 

「今直ぐに必要はない、どうせこれ以上は伸びんからな」

 

「?どういうことだい?」

 

「ステータスが殆ど上限を叩いている、仮に上がったとしても2〜3程度に過ぎん。レベルを上げん限りは何をしても無駄だ」

 

「ああ、なるほど」

 

「とは言え、レベルを上げること自体も条件さえ整えれば容易い。契約する神に早めに目星を付けておく必要はあるか」

 

「……容易いのかい?」

 

「見合った階層主でも殺せば終わる話だ」

 

「それは容易いって言うのかなぁ」

 

なんだかあまりこの女をベルの側に置いておかない方が良いのではないかと思ってしまう。変な影響を受けてしまいそうだから。まあ今のところはそういうことはないし、むしろ色々と世話を焼いてくれているところはあるが。……とは言え。

 

「頼むからベル君にそういうことを教えないでくれよ?僕はそんなに急いであの子を強くしたいとは思っていないんだ」

 

「私とて強制するつもりはない、誰にでも出来ることでもない。ただし求めて来たのであれば相応の地獄は見せてやる、その末に折れたとしても私は知らん」

 

「……君は優しいのかそうでないのかよく分からない子だね」

 

「私より優しい人間もそう居ないだろう」

 

「それは流石に過大評価が過ぎると思う……」

 

「この街の腑抜けた冒険者共を纏めて地獄に突き落とさないだけ、感謝して欲しいくらいのものだがな」

 

いつかの彼等のように。

それを知らないヘスティアはよく分からないと首を傾げているが、わざわざそれを語ることもない。

 

「『爆砕(イクスプロジア)』」

 

「ひぁっ!?な、なんだい!?今のは君の魔法かい!?」

 

「退け、そろそろ下も乾いた頃だろう。机を運ぶ」

 

「あ、うん!ありがとう!」

 

ただまあ、こうして重い物はヘスティアに任せず運んでくれるところは、確かに優しいのかもしれない。本人的には時間の無駄だから、という考えもあるかもしれないけれど。

剪定して纏められた木の枝が、金属製の大樽の中で燃えている。近隣住民から煙たいと苦情が来ないことだけをヘスティアは祈った。

 

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