【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話 作:ねをんゆう
「はぁ………………なんだこのドレスは、生娘か私は」
「………すまない」
「あら、いいじゃないラフォリア。よく似合っているわよ、少しだけ嫉妬しちゃいそうなくらい」
「馬鹿を言うな」
夜道をゆっくりとした速度で進んでいく馬車の中で、ラフォリアは少し不機嫌そうな顔をして窓の外を見る。そんな彼女の様子にオロオロとしているオッタルを他所に、笑みを浮かべるフレイヤ。
彼女は嬉しそうにラフォリアのその姿を見守る。
「全身を白で統一するだなんて……もしかしたらオッタルの中では、これが貴女の印象だったのかもしれないわね」
「……なんだ?お前には私が清純な乙女にでも見えていたのか?見る目がないにも程があるだろう」
「い、いや、そういう訳では……」
「そもそもこの髪の色に白のドレスなど似合うものか、せめて色のついた物を持ってこい。本当に店員に聞いたのか」
「色は……その……」
「それでも、黒髪には似合う色よね。貴女の元の髪色になら」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………まあ、目隠しが黒色だからな。そこまで悪くは見られんだろう、今日のところは許してやる」
「ああ……」
「ふふ、だから言ったのに」
そうこうしているうちに、馬車は宴の会場に着いた。
ヘスティアやベル達はミアハやタケミカヅチと共に既に会場に入っており、ラフォリアはあまりの恥ずかしさからまだそのドレスを彼等には見せてはいなかった。
しかしまあ、オッタルが今の自分ではなく以前の自分の姿に似合うドレスを選んでいたと聞かされてしまえば、それをもう恥ずかしく思うことはない。ただそれを素直に認めるのも癪で少しイラつき気味に降りるが、やはりこの3人が現れれば嫌でも周囲からの目は引いてしまうというもの。それこそ少し前に本拠地を破壊するほどに衝突したラフォリアとオッタルが一緒に出て来たとなれば、神々も興味深く彼等の姿を見てしまう訳で。
「さて、いきましょうか」
「…………おい、なんだこの腕は」
「あら、2人で私のことをエスコートしてくれるんでしょう?仮にもパーティなんだもの、当然よね」
「…………」
もしかすればこれが目的だったのではないかと、ラフォリアは溜息を吐きながらも嫌々フレイヤと腕を組む。所詮は会場に着くまでの間だ、最低限の顔くらいは立ててやる。
しかし左右を都市最強と元都市最強に挟まれて、それはまあ良い気分だろう。しかも片方は元ヘラの眷属、この街のどこよりも今この場所が安全だと言い切れる立ち位置にフレイヤはいる。彼女はニコニコだ、一切を隠すことなく。
……一方で会場にはベルとヘスティアも既にそこに居た。
タケミカヅチと命、ミアハとナァーザ、そしてヘルメスとアスフィで集まって、会話を交わしながら食事を楽しむ。
そしてそんなところに、彼等は現れた。
予想だにしていない面子で、堂々と、酷く目立ちながら。
「おお、こりゃまた大物が………ん?」
「え………ラフォリア、さん……?」
「ちょいちょいちょいちょいちょーい!!ど、どど、どうしてラフォリアくんがフレイヤと一緒に居るんだ!?パーティに来るとは聞いてたけど、ヘファイストスと一緒じゃなかったのかい!?」
そんな喧しいヘスティアの声に気付いたのか、腕を組む2人を見せつけるようにしてこちらへ歩いて来るフレイヤ。
ラフォリアはあからさまに不機嫌そうな顔をしており、しかしヘスティアはそれどころではなく、フレイヤに見惚れかけたベルの目を必死になって塞ぐ。
それを見てラフォリアは更に面倒臭そうな顔をした。
「み、見るんじゃないベルくん!!子供達が美の神を見ると、たちまち魅了されてしまうんだ!!」
「そ、そうなんですか!?で、でもラフォリアさんは……!!」
「私がこの女の魅了にかかる訳がないだろう、それと宴の席ではしゃぐな馬鹿乳」
「あいたっ!?」
ラフォリアのデコピンがヘスティアの額に直撃する。
痛みに悶えながら蹲るヘスティア、そんな彼女を無視してラフォリアはフレイヤから腕を離した。
ここまで連れて来たのならもう十分だろう、不満そうに頬を膨らませるフレイヤを無視してラフォリアはベルの服装を見る。
「……まあ、及第点だな。お前に限って服装の乱れはないか」
「あ、ありがとうございます。ラフォリアさんもその、すごく綺麗です」
「そうか………名を上げれば否が応でもこういった席に参加することが多くなる、今のうちに最低限の作法くらい覚えておけ。恥は早めにかいておくに限る、くれぐれもそこの馬鹿乳のように食い物を掻っ込むような真似はするなよ」
「わ、分かりました!」
「ひ、酷いやラフォリアくん……」
実際に見ていて恥ずかしい姿を晒していたのだから仕方がない。ここが会場でなければ容赦なく拳骨を落としているところだ。
仮にもファミリアの主神として、最低限の品位くらいは持っておかなければベル達にも迷惑である。そういうところから舐めてかかって来る馬鹿な輩はどこにでもいるのだから、ファミリアの顔たる主神は相応の立ち振る舞いが期待されるということ。
「へぇ、貴方が例のベル・クラネルね」
「え?あ、はい」
「どれどれ、もう少し私にも顔を見せてくれないかしら?」
「ひぅっ!?」
そんなラフォリアとベルの間に割り込むように入り、ベルの顔に手を当てるフレイヤ。意外にもこれが初対面であった2人だが、やはりフレイヤの魅了はベルには効いていないようだった。
……まあ、スキルの内容が内容だけに当然といったところだろう。
そんな彼女の行動にヘスティアは怒鳴り散らかすが、フレイヤからしてみればその事実は残念でもあり、逆に興味をより惹かれてしまう要素の一つにもなりうる。
何度も言うがラフォリアは他人の恋愛事情に口を挟むつもりはない、ベルの想いを尊重するやり方をしている間は。そしてラフォリアが元気で居る間はフレイヤもそんな大袈裟なことはしてこないと考えている、フレイヤとてそれは分かっている筈なのだから。それに仮にそれが本気の恋であるとするならば、正攻法で手に入れなければ価値を下げるだけだろう。そんなことを伝えておけば、自尊心の高いフレイヤは分かっていても乗ってくるだろう。ラフォリアがベルを守るために出来ることなどそれくらいしか存在しない。
「……それにしても、ラフォリアくんはそんなにフレイヤと仲が良かったのかい?君とフレイヤはほら、その……色々あったろう?」
「別に仲が良い訳ではない。オッタルと交友があり、この女がそれを利用して面倒なことをしてくるだけだ。私としては不本意でしかない」
「酷いわね、私は今でも貴女のことをずっと狙ってるのに」
「やめろ面倒臭い」
「え……………と、都市最強と交友……?」
「……ベル・クラネル、訂正しておくが現在の"都市最強"は俺ではない」
「「「え」」」
「俺はラフォリアに負けた、つまり現在の"都市最強"はそいつだ」
「………………………………えええぇぇぇええええ!?!?!?!?」
「オッタル、余計なことを言うな」
「すまない」
ベル・クラネル、知らなかった。
命とナァーザも知らなかった。
そしてラフォリアも言っていなかった。
言う筈もない、話すはずもない、こうやって確実に面倒なことになるのだから。ラフォリアは既にこの状況がもう面倒臭かった。
「ラ、ラフォリアさんが、都市最強……!?ほ、ほんとなんですか!?」
「喧しいぞ」
「あぅっ!?」
「大声で騒ぐな、私はそういう過剰な驚き方が一番嫌いだ」
「うっ……す、すみません……」
「いやまあ、普通それくらい驚くことだと思うよ?僕も驚いたし」
「雑音が耳に障る、あまり叫んでくれるな。……私は風に当たってくる、何かあれば呼べ」
そう言ってバルコニーの方へと飲み物を持って歩いて行ってしまう彼女は、本当に宴には顔を出しに来ただけのようだった。ベル達とこの機会に何かを話すようなつもりすらサラサラないようで、最低限の挨拶は済ませたからといったような雰囲気で背中を向けて歩いていく。
アポロン・ファミリアの人間に椅子を持って来るように言いつけ、自分の席をバルコニーに作るその太々しさ。きっと何かしら食事を食べたくなれば、ああして追加で持ってこさせるつもりなのだろう。もしかすれば、あれはあれでこの状況を楽しんでいるのかもしれない。彼女なりに、ではあるが。
「……あの、怒らせちゃいましたかね」
「なに、気にすることないさベルくん。彼女も少し疲れているだけだろう、これからはあまり近くで大きな声を出さないようにしてあげれば十分さ」
「ヘルメス様……わ、分かりました、気を付けます」
「……それじゃあねヘスティア、私達もそろそろ行くわ」
「そうかい?……ああそうだ、ラフォリアくんを連れて来てくれてありがとうフレイヤ。彼女も息抜きくらいには……なるのかな?」
「ふふ、息抜きはまだまだここからよ。そうよね?オッタル」
「………え?」
その瞬間、オッタルは自分の背中を焼き焦がすような勢いで嫌な予感が走っていったことに気がついた。
それほどに今自分の目の前では、女神フレイヤが満面の笑みを浮かべていたからだ。それも普段オッタルにはあまり向けてくれないような、心から楽しそうな笑みを。
宴の合図と共に始まったアポロンの演説。喧しいそれから目を逸らし葡萄の果実搾りを飲みながら外の風景を見ていたラフォリアの元に、2人分の足音が近付いてくる。
ラフォリアがそれを気にすることは特にない、ただこうして見回りをしているアポロン・ファミリアの団員達を値踏みしているだけ。どうやらここには特にラフォリアの目に留まる団員は居ないように見えた、それを知ってしまうと大きく溜息を吐いてしまう。
「なんや、せっかく無事に帰って来たんなら一度くらい顔見せてくれてもよかったんやないんか?ラフォリア」
「………ロキか」
「こんばんは、ラフォリアさん」
「ああ、元気そうだな」
珍しくめかし込んだ姿をしたアイズと、そんな彼女に合わせたのか殆ど男装のような姿になっているロキ。そんな2人はラフォリアの姿を見かけたからか、はたまたヘスティア達から聞いたのか、声をかけに来たようだった。
そして2人は目の前の彼女がまた珍しい姿をしていることに驚き、まじまじと見る。どこに行ってもそれは言及される、それほど彼女の着ているドレスが目立つものであったから、仕方がない。
「そないなドレス持っとったんか?アルフィアのドレスしか持っとらんと思っとったわ」
「………オッタルが選んで持って来た物だ、私の趣味ではない」
「は!?"猛者"が!?」
「!……オッタルさんが」
「女神フレイヤの指示と聞いたが、流石にこれを着て人前に出るのは私とて戸惑う。……あいつ本当にパーティ用のドレスを選んで来たんだろうな?」
「まあ確かに、ちょっとしたウェディングドレス言われてもいけそうやんな。猛者がドレス選びなんて、店員に遊ばれとっても不思議やないし」
「……でも、似合ってます」
「……そうか」
なんとなく、彼女が別にそのドレスを言葉で言うほど嫌ってはいないように見えて、アイズは微笑む。褒められて口角が上がるのに、本気で嫌がっているはずもない。そんなことはアイズにだって分かる。……決して言葉にはしないけれど、ロキも指摘はしないけれど。彼女はこうしてそれでパーティに出ても良いと判断したことが、そもそも受け入れているということなのだから。
「ありがとうな、ラフォリア」
「……?なんのことだ」
「ウチの子達のこと、助けてくれたんやろ?」
「……大したことではない、そもそも原因は私が半端に手を出したからだ。自分自身の不始末を片付けただけに過ぎん」
「そないな"もしも"をラフォリアのせいにしたら、ウチ等は取れる責任が何もなくなってまうやろ。闇派閥にも劣る下衆にさせてくれるなや」
「………」
「ま、せやから色々考えたんよ。何をしたら恩を返せるかって」
「そんなことを考えている暇があれば力を付けろ、それ以上は望まん」
「そう言われると思ったわ」
ラフォリアに何かを返したい、そう思っている人間はそれなりにいる。だが彼女に対して果たして何を返せるのかと言われれば、誰もが"何もない"と口を揃えてしまうのが現状。
恩も謝罪も何もかも、こちらが原因で彼女に与えてしまった不利益までも、彼女には返せない。そもそも彼女は何も求めていないし、自分達には強くなること以外を望んでは来ない。
それはフレイヤとオッタルでさえ同じだろう。
もし彼女の病を治せる方法があるのなら返せるものもあったかもしれない、もしアルフィアやヘラ・ファミリアが何かを残していたのなら、それを探し出すことも彼女へのお返しになるかもしれない。
……だが、そんなものはない。
彼女に返せるものは、本当に、悉くと言って良いほどに存在しない。こちらの負債が増えていくばかり、しかし彼女はそれで構わないといった具合の反応を返す。
……というよりはまあ、そもそも期待していないのかもしれない。自分達に対してそんなことを。強くなるという単純なことさえも出来ない自分達に、それ以上のことを。
「……ティオナとティオネ、それとベートがLv.6になった」
「ほう、それは本当か」
「それとレフィーヤもLv.4になれるようにはなったけど、今は保留中や。魔力アビリティをA後半くらいまでは上げたいからな」
「そうか……あの小娘は使える、育て方を間違えるなよ」
やはり、こういう話題の方が彼女は嬉しそうだった。これでリヴェリア達もLv.7になれていれば少しは反応が良かったかもしれないが、そう上手くはいかない。
こんなものが返しになっているという時点で反省しなければならないのだろうが、だとしても出来ることをやる以外には何もない。
アポロンの演説が終わり、ダンスが始まる会場。ロキはそれを機に背を向けてその場を離れる、彼女は彼女なりに他に用事もあるのだろう。
一方で残されたアイズとラフォリア、特に話すことはなく2人は揃って会場の方を見つめる。
「ラフォリアさんは、踊らないんですか……?」
「誰と踊れと言うつもりだ、お前こそ踊って来ないのか?相手に困る容姿はしていないだろう」
「……相手が、居ないので」
「ふむ……」
似た者同士、とは言わないが、アイズにとってもあの会場でボーッとしているよりは、こうしてラフォリアの側に居たほうが落ち着くのかもしれない。
ラフォリアが取り寄せた果実搾りと料理を椅子に座って食しながら、神と眷属、それに囚われることなく踊っている者達を見るだけ。食事は美味しいが、それは別段面白い光景でもない。そもそもそれほど知り合いもいない。唯一見知った顔があるとすれば……
「………ベル?」
「オッタル……?」
なにやら奥の方で、ベルとオッタルがヘルメスと話をしている様子が見える。そして側には男神ミアハと眷属のナァーザも居て、ミアハがナァーザにダンスを申し込んでいるようだった。
女神フレイヤはロキとヘスティアが喧嘩をしているところを楽しそうに見ているし、妙に真剣な顔をしたベルとオッタルのその様子に、ラフォリアは徐々に嫌な予感がして来る。
「……こっちに来る?」
「まさか、な……」
まさかとは思うが、まさかとは思いたいが、しかし2人はどうも身体を緊張でカチコチにさせながらアイズとラフォリアの元へと歩いて来る。
背後で顔を青褪めさせながらも、やり切った感を出して笑っている男神ヘルメス。フレイヤはそんな様子を見て、一瞬嬉しそうな顔をしたが、直後にその上がった口元を震わせる。きっとヘルメスはこの後、死ぬのだろう。オッタルどころかベルの背中まで押したという、その罪で。
「「…………私と、踊っていただけますか」」
ラフォリアは完全に停止した。