【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者36:-

 結局その後、今回の作戦に参加する5人の眷属達は一度ロキ・ファミリアの作戦室に集まっていた。それはそれこそ、自分達だけでなくフィンも含めた作戦会議をするために。時間も情報も無いからこそ、彼の勘にも頼る必要があったから。

 

「……以上がこちらから出せる情報だ。と言っても、それほど多くはないけれど」

 

「十分だろう」

 

「黒い竜巻……しかも第二級冒険者でも簡単には崩せない耐久力って……」

 

「……分裂か?」

 

「生命力の権化のような存在だ、それくらいはするだろうな。……道中の雑魚共は極力無視する、構わないな?」

 

「ああ、君達は大元を倒すことだけに集中して欲しい。倒せなくとも足止め……最悪、ある程度の情報を持っての撤退まで視野に入れて」

 

 とは言え、正直に言ってしまえばフィン達による援軍というのは難しい。なぜならアンタレスが出現した地点とベヒーモスが出現した地点では、かなりの距離があるからだ。もちろんヘルメスが用意した特殊な飛行手段も無いことは無いが、それで望めるのは僅かな人数の移動のみ。むしろアンタレスの方に援軍が必要になる可能性も、無いこともない。

 実質的には、討伐か引き延ばしの末の撤退か。そのどちらかだと考えた方が良い。本当に現実的な話をするのなら。

 

「元より撤退するつもりなどない」

 

「オッタルさん……」

 

「奴は俺が倒す」

 

 しかし今回、この相手に対して、オッタルもまた並々ならぬ拘りがある。その気持ちはフィンもラフォリアも十分に理解しているつもりだ。それこそフィンだって、本当ならそっちに着いて行きたいと思っているくらいに。けれど……

 

「馬鹿を言うな脳筋」

 

「っ」

 

 彼と同じように尋常ならざる拘りがあったとしても、その女だけはいつもと変わりはしなかった。いつもと変わらず、オッタルのケツを引っ叩いた。

 

「必要なら撤退する、拒否は認めん」

 

「ラフォリア……!」

 

「五月蝿い、貴様の命はどうでもいい、死にたいのならば勝手に突っ込んで死ね。……だが、この小娘共だけは別だ」

 

「「「っ」」」

 

「こいつ等には将来がある、希望がある。この困難を乗り越えた先に、更なる成長がある。世界の希望に成り得る可能性がある」

 

 ……今回の件で何よりオラリオにとって都合が良いのは、ここにラフォリアが居ることだろう。それは決して単純な戦力的な意味だけではない。

 本来ならば独善的な行動をしていたであろう猛者も、彼女のその言葉には逆らう事が出来ず、身を引かざるを得ないからだ。それがこの2人の関係性、オッタルはラフォリアが自分より正しい選択をする人間であると理解している。逆に言えば、この2人だからこそオッタルの力は十分に有効利用されると考えても良い。それを知っているからこそ、オッタルも口を閉じる。

 

「いいか、この場に居る全員が徹底しろ。命の順位付けで1番下が私、その次がオッタルだ」

 

「ラフォリアさん……」

 

「次にレフィーヤ、次にアイズ、最後にアミッド。この順位付けを決して忘れるな。順位が上の者は守られろ、下の者は守れ。これを逆にすることは絶対にならん。……そして私とオッタルは、何があろうとも次世代の希望たるお前達を生かして帰す。これは前提だ」

 

「あ、あの……どうして私はレフィーヤより上なんですか……?」

 

「お前が死んだら誰が敵から逃げられる?」

 

「……!」

 

「お前の高速移動の手段が無ければ、そもそも撤退そのものが出来ん。回復役はそれ以上に重要だがな。……だからと言って魔導士であるその愚図を1人にさせるのも違う。臨機応変に最低限は守ってやれ」

 

「分かりました……」

 

 命の価値は平等、などとラフォリアは口が裂けても言うことはない。命の価値は不平等だ、世界が不平等なのだから当然だ。

 あらゆる怪我や病を癒やすことのできるアミッドと、生い先の短いラフォリア。ここには明確に命の価値に差がある。それは受け入れ難いことではあるかもしれないが、戦場においては受け入れておかなければならないことでもある。何より生き延びたいのなら。

 

「オッタル、お前はもう少し恐れろ」

 

「なに……?」

 

「死を恐れない。聞こえは良いが、そもそも恐怖とは克服するためのものではない。生き残るためのものだ。それを完全に排除してしまえば、お前は本当に獣以下にまで堕ちるぞ」

 

「………」

 

「……そこらのモンスター相手ならばそれでいいだろうが、あの龍を相手にしても、お前は同じように死を恐れず正面から挑むつもりか?」

 

「それ、は……」

 

「今のうちから慣れておけ。頭の良い人間に全てを任せず、お前自身でも最善を考えろ。……いつまでも私がこうして説教出来る訳でもない、お前の側に常に代わりに頭を回してくれる人間が居る訳でもない。言われるがままではなく、少しは私からも学べ」

 

「………すまない」

 

「分かれば良い」

 

 

 

 

 ((オッタルが尻に敷かれている……))

 

 

 この男の頑固さを良く知っているフィン達だからこそ、改めてその態度と関係性には驚いてしまう。この女は確かに暴君ではあるが、割と理詰めで説教をして来るタイプでもある。恐らくこうして昔から実力でもボコボコにされた上に、言葉でもズタボロにされて来たのだろう。悲しいかな、しっかり染み付いてしまった上下関係。

 

「とは言え、まあ基本的にやるしかないだろう。アンタレスだったか?大精霊によって封印された伝説の魔獣、お前達にもそれほど余裕はあるまい」

 

「ああ、基本的にこちらに関しては一切の情報がない。"万能者"の力も借りながら情報を集め、時間を掛けて攻略していくつもりだ。何より確実を取りたい」

 

「ならばこちらの事は気にするな。最悪、私とオッタルが捨て身をすれば時間は稼げる。それで倒せれば万々歳か」

 

「それは……」

 

「それほどの相手だと思え。こちらも敵の力量が不明とは言え、いくら弱体化を見据えたとしても戦力が少な過ぎる。対面して無理だと判断すれば、即座に撤退戦に切り替えて足止めをしながらオラリオへ引きつける。犠牲よりも確実に倒すことを優先しろ。生存者は多いほど良いが、倒さなければ何も解決しないのだからな」

 

 これほどの事が同時に起きた、明らかに普通ではない。遠く離れたこのオラリオでさえ、今後何かしらの予兆はあるかもしれない。何故ならここにはダンジョンがあるから。守りを弱めてしまえば、本拠地が陥落という身も蓋もない様になる。

 使える戦力で、やれるだけのことをやるしかない。フィンにだって余裕はない。アンタレスという魔獣は、つまりは大精霊でさえも封印せざるを得なかった怪物なのだから。三大クエストの怪物達ほどでは無くとも、今のロキ・ファミリアで果たして対処出来るものなのか。彼でさえ不安なのだから、頼り切るのも違う。

 

「フィン、オラリオの指揮は誰だ?」

 

「フレイヤ・ファミリアのヘディン……エルフの男性を覚えているかい?」

 

「ああ、あいつか。ならば問題あるまい」

 

「何か伝えておくことがあるなら、伝えておくよ」

 

「………フィン、これはお前に対しても言っておくべき事だが。一先ず今回の件については、各々の指揮官は自分達の役割を果たす事だけを考えろ。他の箇所について思考を割くのは、自分達の仕事を終えてからでいい」

 

「……それは僕も同感かな、恐らく何処もそんな余裕はない。最悪の場合、全ての箇所で敗北する可能性もある。これだけの戦力を動かしておいて、闇派閥が察知しない筈が無いからね」

 

「やれやれ、発生箇所が離れていなければ順に潰せたものを」

 

「そこに悪意を感じるよ。ダンジョンで時折感じるような、それに近いものを」

 

 どちらにしても、やるべきことをやるしかない。どちらもオラリオへ向けて進行を開始している、放っておいて良い相手ではない。

 増え続ける黒嵐と蠍型のモンスター、広がり続ける被害。手が付けられなくなる前に、致命的な被害が出てしまう前に、多少欲張りになってでも守らなければならない。そうでなければ黒龍と対峙する未来が更に遠くなってしまうから。これ以上に先を伸ばすことなど、決して許されることではないから。

 

 

 

 

 

 

「でも、正直ラフォリアさんが居てくれて良かったって思っています」

 

「……?」

 

 ギルドが用意した馬車に揺られながら、ラフォリアはレフィーヤのそんな言葉に眉を顰める。

 馬車の上に乗って周囲を見渡しているアイズ、何故か1人だけ外を走らされているオッタル。定期的に襲い掛かって来る小さな黒嵐は彼等2人によって瞬く間に処理され、その殺り残しをラフォリアは片手間に魔法で処理していた。この速度で進軍出来るのも、一重にこれだけの人数しか居ないからこそ。

 

「だって、ラフォリアさんが居なかったら戦力も指揮官も足りなかった訳じゃないですか。……私も、ラフォリアさんなら信じて付いていけますし」

 

「……そうか」

 

 こほっこほっ、と小さく咳を溢せば、隣に座っていたアミッドが治療魔法をかけてくれる。これをしてくれるだけで、ラフォリアとしては素直にありがたい。

 ラフォリアだって、これほどの敵に挑むに当たって、自分が何事もなく無事に帰って来れるとは思っていない。最低でも病状が悪化し、2度と戦えなくなることまでは覚悟している。恐らくアミッドもまた、それを理解しているだろう。それでもこうして何も言わずに治療してくれるのだから、そこは素直に感謝だってしていた。

 

「1つ、話をしてやろう」

 

「話ですか……?」

 

「……私には昔、母親を自称する女が居た」

 

「………」

 

 レフィーヤは静かに彼女の話を聞く。アミッドもまた、何も言うことなく。ただ隣でじっと彼女の顔を見つめながら。

 

「私が強くなろうと思ったのは、その女に負けたくなかったからだ。……あの時代、あのオラリオで、力とは即ち全てだった。強き冒険者こそが他者を見下ろす権利を持つ。私はあの女を負かしたかった。何をしようにも力の差を見せ付けられたからこそ、勝つことに執心した」

 

 そのために無茶をした。普通の人間ならしないようなこともいくらだってした。なぜなら自分には、あの女ほどではなくとも確かな才能があったから。そしてあの女とは違い健康だったから。その健康と才能に任せて、滅茶苦茶をやった。それこそあの女を超えるほどの速さでレベルアップを繰り返すほどに。

 

「だが、今になって思う。……あの女に勝ったところで、私は……何をしたかったのだろう、と」

 

「………」

 

「気に食わなかった、間違いない。子供扱いされたくなかった、当然だ。……だが、その果てに。もしかすれば私はあの女と、対等になりたかったのではないかと。最近になって思い始めた」

 

「対、等……」

 

「つまりは、肩を並べたかった。あの女と同じ場所に立ち、同じ物を見たかった。守られてばかりではなく、頼られたかった。……認められたかった」

 

「っ」

 

 レフィーヤは彼女のその言葉に、息が止まりそうになる。だってそれは正しく自分がアイズに対して抱いている感情であり、この人もまた自分と同じだったということなのだから。だからその思いが痛いほどによく分かる。むしろ自分はマシな方だ。彼女の場合はもっと、彼女自身の性格も相まって、拗れてしまっていたから。

 

「私は幼い頃から賢かった、天才だからな。……だが、だからこそ見たくないものまで目に入った。例えばあの女が意図的に自分にファミリア内の情報を流さないようにしていたことも、分かっていた」

 

「………」

 

「分かっている、それはあの女の優しさだ。だが当時の私にとってそれは馬鹿にされているように感じられた。天才ではあっても、ガキだったからな」

 

「……同じ立場なら、私も悔しいって思うと思います」

 

「ああ。だからまた無茶をして、あの女に叱られた。そして不貞腐れてまた無茶をして、叱られる。そんなことを繰り返していた」

 

「反抗期、でしょうか」

 

「だろうな、今思えばそれでしかない。……私とて、昔はそんなクソガキだった。いや、それは今もか。私は結局のところ、未だにあの女に認めて貰えなかったことを引き摺り続けている」

 

「………」

 

「私はな、結局その程度の人間だ。お前達が思うほどに立派ではなく、大人でもない。……だが同時に、そんな私でもお前達を率いる程度のことは出来る」

 

「……っ!」

 

 ラフォリアは目の前のレフィーヤの額を指で跳ねる。彼女があまりにもジッと目を見つめて来るから、煩わしかったのだ。こんな昔話をしている顔を、そう見詰められたくはない。今でさえ、自分らしくない行動を取っていると自覚しているのに。

 

「何れ、お前も私と同じ立場になる」

 

「……!」

 

「お前に足りないのは精神的な成長だ、それさえ成せば瞬く間に才能を開花させるだろう。そうしてお前は今の私のように、人を率いる立場に立つことになる」

 

「そんな……私なんて……」

 

「だからこそ、私はお前達を死なせる気はない」

 

「ラフォリアさん……」

 

「確かにゼウスとヘラのファミリアが存在した頃を、オラリオは最盛期と呼んでいる。だが16や17の歳でLv.4以上にまで辿り着けるような者達がこれほど揃い完全に育っている世代は、過去にはなかった。……私から言わせれば、真の最盛期はお前達が成熟した頃だろう」

 

 当然、アルフィアやラフォリアほど頭のおかしい速度でレベルアップを繰り返す者は早々いない。しかしラフォリアはこの街に来て、多くの若い冒険者達と出会い、実際にその様を見たことによって、確信することが出来た。

 

 ……ああ、未来に希望はあるのだと。

 

 ならば先の短い自分のすべき事は、試練を与えるのでもなく、ケツを蹴り上げることでもなく、もしかすれば……その若い芽達を、守ることなのではないかと。最近になって漸く、そう思えるようになった。

 

 

「信じて付いて来い」

 

 

「っ」

 

 

「見て、学び、糧としろ。何一つとして無駄にはするな。……いつかお前が私に追い付いた時、その背を見る者達に同じ言葉を言えるように。成長しろ」

 

「……はい!」

 

 憧れる。

 レフィーヤは憧れてしまった。

 自分も言ってみたいと、言えるようになりたいと、そう思わされてしまった。だってそれくらいにはカッコよかったから。『信じて着いて来い』なんて言葉を、自分も言えるようになってみたくなったから。

 本当にそんな日が自分に訪れるのかは分からないけれど、それでも。そんな日がいつか来てしまった時に、その言葉を言えるような人間にはなっていたいと、そう思えた。

 

 

「アミッド、お前もだ」

 

「私も、ですか……?」

 

「治療だけで救える人間など、たかが知れている。それは誰よりもお前が1番に理解している筈だ」

 

「っ」

 

「別に戦えとは言わないが、もう1つくらいレベルは上げておけ。それだけで広げられる手の大きさも変わる。……Lv.2やLv.3でも最前線で活躍出来る才能など、私から見ても馬鹿げているものだ。いつまでも過保護にされておらず、こいつらの遠征にでも着いて行ってみろ」

 

「……ディアンケヒト様に相談してみます」

 

「ああ、やってみろ。どうせロキ・ファミリアが壊滅すれば崩壊する世界だ、一蓮托生するくらいが丁度良い」

 

 そうしてラフォリアは馬車の外で黒嵐を一撃で吹き飛ばした、『Lv.8』に昇華した馴染に目を向ける。せめて肝心の彼が、自分の1/10程度でも周りが見れるようになればいいのだが。……まあ、それはそれで彼の強みが減ることにもなるか。

 

 空は忌々しいほどに晴れている。

 

 これから向かう先は、地獄のように曇っているが。

 

 ラフォリアは溜息を吐きながらそれに目を向けた。

 

 

 

 一度諦めることが出来れば、色々な見え方も変わるものだ。自分の未来を諦めれば、見えなかった物も見えるようになった。あの女は常に死を自覚していたから、きっと常にこの景色も見えていたのだと確信する。

 ……たとえどんな手段を使ってでも、アレを倒す。そして未来を築き上げる希望の象徴たる彼等を守り抜く。それこそが自分がこうして才を持って生まれてきた理由であり、果たすべき役割なのだと思ったら。

 

 なんだかむしろ、晴れやかな気持ちにさえなっていた。

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