【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話 作:ねをんゆう
復活した陸の王者は、再びその身を灰と変えていった。凄まじい爆破によって地形ごと吹き飛ばされた肉体は、仮にそこに再度ドロップ品が生まれていたとしても、確実に木っ端微塵になっているだろうと確信できる有様。ラフォリアが最後に放った一撃はそれほどの威力を持っていて、黒の砂漠に灰のない空間を生み出すほどに馬鹿げた爆発を生み出したのだ。
事前に退避したにも拘わらず吹き飛ばされてしまったアイズとオッタルはその状況を視認した瞬間に思わず恐怖してしまったくらいであるし、それがラフォリア・アヴローラという女の最大の攻撃だと知り、複雑な気持ちになったりもした。これほどの攻撃が出来なければ、三大クエストの攻略は出来ないのだと。改めて突き付けられた様で、自身の成長を思わず疑う程に。
今のオッタルにあれほどのことが出来るだろうか?
……いや、無理だろう。
少なくとも、まだ無理だ。
Lv.8になっても、スキルによってステイタスの補正があっても、魔法による一撃の強化をしたとしても、きっとまだベヒーモスを喰らった時のザルドには達せていない。英雄の一撃と呼ぶには、今持っている手段では不足している。圧倒的な格上を屠るには足りていない。
だからこそ、羨ましいと思った。
その手段を持っている彼女が羨ましいと、そう思った。
その手段が芽生えていない自分のステイタスを憎くも思った。
……全てが終わった後の、彼女の。
その姿を見るまでは。
「カッ……ガッ、ぁ、ガェっ、ェオッ……ゴッ……!?」
「っ!!一度全て吐いて下さい!意識を保って!……なんとか、なんとか治してみせます!!治しますから!!」
「ラフォ、リア……?」
凄まじい量の血液を口から吐き、灰色の髪を赤黒く染めながら苦しむ彼女のその姿に、立ち尽くす。アミッドが残った魔力で全力で治療を行っていても、思うような結果を得られていないその様子を見て、目を見開く。
あのラフォリアが、これほどまでに苦しんでいる。苦痛など決して顔に出さないようなあの女が、弱味など絶対に人に見せないようなその女が。目を見開き、血にひれ伏し、苦痛にもがき苦しんでいる。少しの余裕もなく、ただ苦しみに喘いでいる。他者への気遣いすらも、出来ないほどに。それすら考えられないほどに。
……ならば、それは。もう。
「っ、穴は塞ぎました!ゆっくり、ゆっくり血を吐き出して下さい!強い咳が悪化を招きます!苦しいですが、ここを乗り切れば一旦は大丈夫です!ですから!」
単に普段のように相手の治癒力に乗せて回復させる方法では駄目であると判断したアミッドは、回復魔法を全てマニュアルで行使しながら治療方法を模索し、臓器に空いた穴を塞ぐ。魔力の消費量も多く、精神的な疲労も凄まじい治療法ではあるが、これでなければ彼女を救うことが出来ない。未だその方法が効くだけマシなのだ。これですらどうにもならなくなれば、その時点で終わりなのだから。
……そうして、治療が完了したのは、結局それから10分ほどが経った頃のことだった。血を吐き切るまでに再び穴が出来てしまい、再度塞ぐ作業が必要になり、苦痛は余計に長引いた。最後には彼女は気を失ってしまい、それほど過酷な状況に居たのだと否が応でも理解させられた。
「……深刻な状態です」
「「「………」」」
既に住民達がアフロディーテ・ファミリアと共に避難した為に無人となったエルフの里に戻り、彼女をベッドの上に横たわらせると、アミッドは3人に対して顔色悪く全身を血に濡らしながらそう告げた。言われなくとも見れば分かることではあるが、それを言ったのがアミッドであればまた意味が違う。彼女が言う深刻とは、つまりはもうどうしようもないに等しい。他の人間が言うものとは、その重みと絶望感が違う。
「僅かな刺激が致命的な症状を引き起こします。戦闘は疎か、走ることどころか、帰りの馬車の振動すら危惧すべき状態です」
「そ、そんなに……?」
「はい、そもそも以前より戦闘自体を避けるようにお話ししていたのですが……正直、今回ほどの相手を前に、生きて帰れるというだけでも」
「そ、そんな状態でここに来ていたんですか!?」
「……そうでもなければ勝てなかった、当然だ」
「と、当然だなんて……」
「……ラフォリアならば、そう言うだろう」
「「………」」
回復体位で横たわり、今は静かに寝息を立てている彼女。本格的な治療のためにも早くオラリオに戻りたいが、しかしこの場にいる4人全員が疲労している。それほどまでにベヒーモス亜種は強かった。オッタルはまだ動けるが、他3人は完全に限界だ。最低でもオラリオに戻るためには1晩は休む必要があるだろう。そうして休んでも万全には程遠い。
「猛者、申し訳ありませんが少しの間ラフォリアさんを見ていて貰えないでしょうか……比較的安定している今のうちに、睡眠を取っておきたくて……」
「問題ない、何かあれば起こす」
「ありがとうございます……」
「レフィーヤも眠ってて。私は食糧を探して来るから、お腹空いたし……」
「……はい、そうさせて貰います」
最早、眠れるのなら何処でもいい。血に濡れた衣服だけは脱ぎ、柔らかなカーペットの上に身体を横たわらせて、レフィーヤとアミッドは寝息を立て始める。そんな2人を見てアイズもまた小さく欠伸をしながら、一瞬ラフォリアの方に目を向けてから部屋を出ていく。
事前に自由に使っていいと言われていた部屋であるとは言え、食料や浴場が何処にあるのかはアイズは把握していない。それはラフォリアとアミッドが聞いていた事だから。そうでなくとも、帰りの馬車もここにはない。まさかこの状態のラフォリアを抱えて帰る訳にもいかないのだし、暫くの滞在は覚悟しておくべきだ。その辺りの問題も解決していかなければならない、問題は山積みと言える。
「……最初から、余裕が無かったことには気付いていた」
酷く顔色を悪くして、けれど静かに寝息を立てている彼女を見る。
彼女との付き合いは相応にあったのに、彼女の寝顔と言うのは実のところ初めて見た。それもここまで弱々しい姿……オッタルとしては、意外というか、なんというか、複雑な気持ちだけが深まっていく。改めて見るこの女は本当に整った容姿をしているが、しかしそれはオッタルの記憶の中にある彼女の容姿とは全く異なる。正直、未だにオッタルの中ではラフォリアの容姿と言えば昔のものだった。未だに彼女を見て重なるのは、黒髪のその姿だった。それくらいにラフォリアという女の姿は、その瞳に焼き付いていた。
「……女の、寝顔を……まじまじと、見るな……」
「っ、起きたか」
「待て……起こす、必要は、ない……」
「……」
体勢はそのままに目を薄らと開けて、小さく言葉を紡いでいく。アミッドを起こそうとしたオッタルを止めると、少し息を置いてから、彼女はそれでも指揮官としての責務を成し遂げようとした。
「……大樹海へ、向かえ」
「っ、だが……」
「お前に、ここで……何が、出来る……」
「……」
「何の、ために……私が……お前の、代わりに……っ」
「ラフォリア……!」
「………っ」
それ以上は、言わなくとも分かる。息も絶え絶えに苦しげに言葉を詰まらせた彼女を見れば、それ以上の言葉を出させる訳にもいかない。首を振って次の言葉を不要と伝え、オッタルはただ立ち上がる。
『何のために、私がお前の代わりにベヒーモスにトドメを刺したと思っている』
つまりは、オッタルに少しでも余裕を与え、このまま大樹海のアンタレス討伐に加わらせる。それがラフォリアがベヒーモスの姿を見た瞬間から想定していた事。
「……行ってくる」
「……ああ」
故に、当初から想定出来ていた最も労力が必要であろうベヒーモスに対する最後の一撃は、どれほどの苦痛が伴おうともラフォリアがしなければならなかった。ここで生じるオッタルへの負担は、可能な限り減らさなければならなかった。そして彼女はそれを成し遂げた。少なくともオッタルは今からでも無理をすれば走り向かうことが出来るのだから。この場にいる誰よりも確実に、遠く離れた大樹海へ辿り着くことが出来るのだから。
「猛者……?じゃなくて、オッタルさん。何処に行くんですか?」
「……大樹海だ」
「……!」
「剣姫、ラフォリアを頼む」
「……分かりました。食糧も、持って行って下さい」
「ああ」
扉を出た瞬間に鉢合わせたアイズから幾つかの食糧を受け取り、オッタルはそのまま建物を出た。ベヒーモスとの戦闘中に砕け散った大剣の片割れの代わりに、ラフォリアが使っていた剣を手に持って。
……ベヒーモスにトドメを刺したいと思っていたのは本当だ。それをラフォリアに取られてしまい、悔しく思ったのも本当だ。けれどそんな自分とは違い、彼女はより先を見ていた。これが終わった後のことまで見ていた。それがラフォリアに出来て、オッタルに出来なかったこと。そしてこれからオッタルが出来るようにならなければならないことでもある。
「……死ぬなよ、ラフォリア」
まだ言いたいことがたくさんある。言わなければならないことも、きっとたくさんある。死んで欲しくないと、心の底からそう思っている。もう本当に今更な話ではあるけれど、それでも……彼女は自分にとって、特別な存在なのだから。
「……行った、か」
「ラフォリアさん」
「ああ……」
オッタルがそうして走って行った音を聞き、片目を閉じたラフォリアにアイズは近寄る。息は少し荒い、しかしアミッドを起こすほどではないと彼女は目で伝える。彼女としてはアミッドに休息を取らせたいのだろう。彼女がそれほどに疲労していて、同時にこれからも世話になってしまうことが確実であるから。我慢出来るだけは、我慢するのが彼女である。むしろ彼女にとっては、自身の身体の不調など今更なくらいに長い付き合いでもあって。
「……明日、オラリオに……向かえ……」
「分かりました」
「……やる、ことは」
「討伐の報告と、馬車の手配と……オラリオへの、加勢?」
「……良い子、だ」
教える前に自分のやるべきことを自覚していたアイズに、ラフォリアは微笑みながら褒める。本当は頭も撫でてやりたいくらいではあったが、今はそれも出来ない。
「っ、ラフォリアさん……」
自分のすべきことを終えたからなのか。伝えるべきことを全て伝え終わったからなのか。そのまままた意識を落とした彼女を見て、アイズも目を擦りながら彼女のベッドにもたれ掛かる。恐らくこれを伝える為だけに、彼女は無理をして起きたのだろう。それほどに心配させてしまっていた。
……食事を終えたら自分も睡眠が必要であるが、ここに居れば仮にラフォリアが咳をし始めても直ぐに気付くことが出来る。冒険者という職を長く続けている以上、睡眠くらいは何処でだって出来るし、異変があれば直ぐに起きる事だって出来る。
(……まだ、戦いは終わっていない)
アンタレスの攻略戦は時間を掛けて行うとフィンは明言していたし、この機に乗じてオラリオでも何かしらの事が起きるだろうと言われていた。より多くの人達を救うためにも、走らなければならない。休息はこの一晩だけ。けれどダンジョンに慣れたアイズにとって、それは今更だ。走れと言われれば走る。それが必要なことならば、三日三晩戦い続ける事だってするだろう。
「ベルも、頑張ってるのかな……」
そういえばと、戦争遊戯を挑まれた少年のことを思い返す。彼も今頃は戦っている最中であるだろうが、勝つことは出来ただろうか。それも気になるところである。
次の日、アイズは目を覚ましてレフィーヤを起こすと、血と汗を流して着替えた後、直ぐ様にエルフの里から出て行った。必要最低限の睡眠、そして補給、彼女らしいと言えば彼女らしいだろう。
一方で、そうして最低限の説明だけをされたレフィーヤ。ここからは彼女がアイズの代わりにラフォリアを見ていなければならない。未だ精神疲労は色濃く残っているものの、それはアミッドに比べれば優しいものであったから。最低でも彼女が起きるまでは、万全の状態になるまでは、疲労と眠気に負けずに起きていなければならない。
「……ラフォリアさんの魔法、すごかったなぁ」
アイズが残して行ってくれたパンを齧りながら、レフィーヤは呟く。思い返すのは昨日の戦闘、彼女が最後に放った全身全霊の一撃。最早レフィーヤの魔法とは比較にならない規模の攻撃。……しかしあれほどの攻撃が出来なければ3大クエストの魔獣達を倒すことは出来ないのだと突き付けられたようで、レフィーヤとしては見えてしまった先の長さに少し落ち込んでいるところもある。
ヘラ・ファミリア、かつての最強の一角。その最後の眷属たる彼女の実力はレフィーヤも知っていたつもりであったし、理解していたつもりでもあった。けれど、所詮それは"つもり"でしか無くて。結局なんだかんだ言っても都市最強の魔導士はリヴェリアだろうと信じて疑っていなかったが、その考えすらも甘かったらしい。何かを失いながらも極限まで突き詰めた天才というのは、格が違った。
少なくともレフィーヤがあれほどの魔力を、他者に指示を出しながら緻密に操作出来るようになるためには、数年あっても足りることはない。単にスキルや魔法があれば同じことが出来る訳ではないのだ。それを上手く使用するためにも、才能と努力が居る。魔法を本来以上の性能にまで引き出すには、何より頭がいる。並行詠唱すら最近覚えたばかりのレフィーヤには、それが足りない。あれほどの魔法の重ね掛けなど、普通なら脳が吹き飛んでもおかしくない。
「……あんな風に、なれるのかな」
否、なれと言われているのだろう。
後衛に徹するのならば、それでいい。だがそれなら他者に指示が出来るようになれと、そう言われている。けれどそれは難しいことだ。少なくとも今のレフィーヤに手が付けられる領域の話ではない。他者に指示を出すというのは、それはそれで別の勉強が必要なことだからだ。
ラフォリア・アヴローラは天才であり、秀才でもある。彼女は10年近くのブランクがあり、その最中に当然ながら知識を蓄えることはしていた。彼女はそこで指揮についても学んだのだろう。それを一切の実戦もなく本番で十二分に出来てしまうのは完全に才能故だろうが。
前衛も出来、後衛も出来、指揮も取れる彼女はあまりにも万能過ぎる。冒険者として目指すべき姿どころか、理想の姿だ。そのうちの1つでも同じくらいに熟せるようになれば、普通の人間なら十分なところ。
……だが、ラフォリアはレフィーヤに対して1つではなく2つ出来るようになれと言っている。それはレフィーヤにそれが出来るだけの才能と素養があると見込んでの話である。つまりは期待されている。
「期待が、重いなぁ……」
そうは言っても、レフィーヤに才能があることは事実だ。何故なら普通の人間であれば、アイズやリヴェリアに追い着こうなどと考えることすら出来ないし、ラフォリアのあの魔法を見て『自分が同じ規模の魔力を操作出来るようになるには……』なんて思うことさえしない。
そこが彼女の中で唯一ズレているところでもあるだろう。同じファミリアの団員達から、苦笑いされている部分でもある。そして同時に、彼女に秘められた才能の大きさを表している証明だ。そもそもLv.3でここまで戦えること自体が異常なのだから、ラフォリアが目を留めるのも当然のもの。
「レフィーヤ、さん……?」
「あ、アミッドさん。起こしてしまいましたか?」
「私は、どれくらい眠って……」
「まだ日が昇って直ぐくらいです、もう少し眠っていても大丈夫だと思いますけど……」
「……いえ、そういう訳には参りません」
そうこうしている内にどうやらアミッドも目を覚ましてしまったらしく、未だ疲労を抱えているだろう身体を彼女は無理矢理に起こす。そうして立ち上がってまず先にすることが当然に患者であるラフォリアの確認なのだから、やはり彼女は生粋の治療師なのだろう。
彼女は確かに冒険者ではないが、しかし治療師としての立場上、常に万全の状態で治療に当たれる訳ではない。それこそ大事が起きた時には、限界まで体を酷使しながら治療を行っている。故にこういうこともそれなりに慣れているというもの。ある程度は回復した精神で魔法を使い、彼女の身体の状態を確認していく。相変わらず顔を強張らせながら、その状態の悪さを目にしつつ。
「どう、ですか……?」
「……正直、状態はかなり悪いと言えます」
「治療、出来ないんですか……?」
「……治療魔法というのは本来、元の健全な状態に向けて肉体を再構成することが基本になります。しかしラフォリアさんの場合、間違った形が健全な状態として登録されてしまっているんです」
「間違った形って……そんなことがあるんですか?」
「本来なら無いでしょう。しかし質の低い回復薬や魔法による治療を繰り返し、そこに音魔法による全身への微細な影響を受け続けた結果。小さな歪みが全身に多く生まれ、それが全体のバランスを崩しています。この歪みを彼女の身体が悪質なものであると判断出来ないので、魔法では治せないのです」
「そんな……」
一応、これはあまりにも例外的な話である。何故なら音魔法という希少な攻撃を、それこそ何度も何度も受けることで生じる事例なのだから。前例など、質の悪過ぎる回復薬を繰り返し使い続け、肉体に不全が生じたという僅かな事例くらいしか存在しない。それがここまで悪化したという話など、アミッドでさえ聞いたことが無かった。
「ですが、治療魔法を手動操作することで何とか延命は可能です」
「手動操作……」
「つまり、健全な状態を設定して治療魔法を走らせるのではなく。私が臓器等の構造をイメージし、それに向けて治療する。……治療どころか、創造の域の話にはなりますが」
「そ、そんなことが出来るんですか!?」
「可能ですが、やはり延命措置にしかなりません。私のイメージで作りますので、それすらも新たな歪みになります。歪みは別の場所に影響を与え、そこを治せばまた別の場所が歪む。一度崩れ始めてしまったものは止められない。……イタチごっこです、どうやっても完治は出来ません」
もし完全に治すとするのなら、脳を含めた肉体全てを再構築する必要がある。しかしそれは最早、神の領域の話であり、アミッドにだって出来ない。そうでなくとも、そうして作り上げたラフォリアは以前のものとは別人だろう。なにせアミッドのイメージで治療をしているのだから、アミッドのイメージした人間になるだけ。
故に完治は出来ないし、余命はその歪みが生命を維持するにおいて必要な場所に辿り着くまでの期間になる。今日かもしれないし、明日かもしれない。それでもアミッドの目測では、1年は確実に無理だ。どれだけ運が良くとも、そこまで保つほど楽観視出来る状態ではない。
「……もう、戦えないんですよね」
「戦闘どころか、出歩くことさえ許可出来ません」
「っ」
「自身の咳すらも、歪みを広げる要因になります。それこそ今の彼女にとっては、大きな物音でさえ苦痛になることでしょう。……なるべく静かな場所で安静にする必要があります」
「……そう、ですか」
彼女の病歴は知っている。そしてこれまで何年も寝たきりでいたことだって知っている。だから、それはきっと彼女にとっては最も辛いことであることもアミッドは分かっている。
……けれど、もうそれ以外にどうしようもないから。アミッドだって何とか出来るのなら何だってするが、それすら許して貰える状況ではないから。せめて安らかに最期が迎えられるように、努力するしかない。
「ラフォリアさん……」
崩れていく。
その姿をただ見せ付けられるこの現状は、治療師でもないレフィーヤにとってあまりにも苦しいものに見えた。