【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話 作:ねをんゆう
あれから3日。
遂にこの日がやって来た。
「ふむ、遅刻は無しか」
「遅刻はテメェだろうがァあッ!?」
ベートが吹き飛んでいった。
「「ひぃっ」」
「………テッ、メェ!!」
「平伏せ犬、弱者に吠える権利もない。弁えろ」
「上等だゴルァァア!!!」
「ちょっ、ベート!ここまだ地上!」
ダンジョンに入る前、バベル近くでの待ち合わせ。
周囲にまだ人がいる状況で、本気の形相で飛びかかったベートに対して、ラウルとアナキティは焦る。あれは完全にキレている、周囲など全く見えていない
「………『
「ぐぁっ!?」
「「!?」」
しかし直後、飛び掛かったベートが空中で爆発し地面に落ちた。
女がしたことは、ただ一言の詠唱文を呟いただけ。しかも落ちてまだ意識のあったベートに追い討ちをかける様に顔面を蹴り付けて気絶させるのだから、もう本当に容赦がない。
出会って2分、ラウルとアキはもう既に目の前の人間が恐ろしい。
「超短文詠唱、よね……?」
「行くぞ、付いてこい」
「は、はいっす……!」
気絶したベートの足を持ち、ズルズルとダンジョンの中へと引き摺っていく。こんなところを他の多くの冒険者に見せつけている様にしているのだから、ベートが後に怒り狂うことを予想して、2人はもう既に頭が痛くなりそうだった。
(元ヘラ・ファミリアの、天才児……)
事前にリヴェリアから聞かされていた、彼女の経歴について思い返す。正直なことを言えばアナキティは、どうしてフィンやリヴェリア達がこうして彼女を信頼して自分達を任せたのかが理解出来なかった。
ヘラ・ファミリアといえば思い返すのは7年前のあの出来事。
ラウルとアキも参戦こそしていなかったものの、後方支援を担当していた。だからこそ多くの悲劇についても知っているし、その女と同じ格好をしている目の前の女を到底信用することなど出来ない。
突然ホームに襲撃を仕掛けて来たり、こうしてベートを叩きのめしたり、彼女が危険人物なのに間違いはない。それなのに、そんな彼女の一体何を信用しているのか、アナキティには分からない。
「凡夫、黒猫」
「は、はいっ」
「な、なんッスか!?」
「3日分の準備はしているんだろうな?」
「は、はい。食料もそれなりに」
「ならば良い、目的地は27階層だ」
「に、27……」
「け、結構行くんスね……」
「あそこは水浴びが出来るからな」
「え、そんな理由……?」
「時間があれば37階層まで降りても良かったのだが」
「あ、すみません生意気言いました」
「27階層でお願いします」
「少々物足りんが仕方ないか」
普段はロキ・ファミリアの2軍メンバーの中心人物として、最前線から少し下がった辺りを定番としているラウルとアナキティ。しかし今日ばかりは2人とも必要最低限の荷物だけを持ち、むしろ一番前に立たされて進んでいる。
流石にベートは今は首根っこを引っ掴まれてズルズルと引き摺られているが、むしろ今ほどベートに居て欲しいと思うこともない。
モンスターが出て来るたびに2人で対処し、その様子を背後からジッと見つめられている。2人は特殊過ぎる魔法やスキルなんて持っておらず、基本的にはその身一つで対処する。だからこそ派手さは少なく、高位の冒険者として期待される様な大きな働きというものはできない。
「ア、アキ……!なんかめちゃくちゃみられてるんッスけど!怖くて後ろ見れないんすけど!」
「わかってるけど、どうしようもないでしょ!生きて帰りたいなら必死に頑張んなさい!」
「ひぃ〜っ、なんで自分達なんかが選ばれたんっすかー!」
「そんなの私だって知りたいわよ!」
まさかの名指しで選ばれたこの3人。
どうしてアイズやレフィーヤを差し置いて自分達が選ばれたのか。
ラウルとアナキティは付き合いが長いだけに抜群のコンビネーションでモンスターを処理していくが、そこに深層にでも居るような妙な緊張感を抱えているのも事実。
「あ」
「しまっ」
「ふんっ!」「ぐぇっ」
「「…………」」
後ろに漏らしたモンスターの1匹を、彼女は気絶したベートを叩き付けることで吹き飛ばす。もう本当に酷い。人間のすることじゃない。逆らってはいけない相手というものがこの世には居るということを思い知らされる。ああにだけはなりたくない。ラウルとアキは必死になって戦い、階層を進めた。
それから数時間後。
「や、やっと18階層っすね……」
「なんか、いつもより妙に疲れたわ」
「ふむ……さて、では前に並べ」
「「は、はいっ!!」」
18階層、モンスターの出現しない安全地帯。
漸く精神的にも肉体的にも休憩が取れると思った矢先に、整列する様に指示を受けた2人。
なおベートは未だに気絶している。
ここに来るまでに武器代わりに何度もモンスターに叩き付けられていたのでそれも仕方ないが、18階層に着いたと同時にその辺にポイっと捨てられたその様子を見ると、いくらベートであってもやはり可哀想としか思えない。
「…………地味だな貴様等」
「「あー……」」
なお講評は一言目から何の遠慮もなくぶった斬られた。
「まずは凡夫、貴様は大したスキルや魔法を持っていないな?」
「は、はいっす……」
「体格も平凡、盾にもならんな。だが武器の扱いについては目を見張るものがある。特定の武器を扱うというよりは、選択肢を増やしている具合か」
「!……一応、意識してはいるつもりっす」
「それで構わん、尖りが無いのなら肥大しろ。何処に居ても最低限は熟せる駒になれ。……遠距離手段はあるか」
「えっと、魔剣くらいなら」
「ふむ、そういう手もあるか。ならば貴様は魔剣を集めることに専念しろ」
「え!?」
「足りないのであれば金で補え、凡夫から万能者へと開花しろ。Lv.6になる頃には見れる様になっている」
「れ、Lv.6っすか。遠いっすね」
「3回ほど死線を乗り越えれば辿り着ける程度の範囲だろう、5年も掛からん」
「い、いやぁ、流石にそれは……」
(………意外)
意外にもこの女は、ラウルのことをしっかりと評価していた。
その平凡さ故に下に見られることの多い彼であるが、ラフォリアの言う通り、彼はあらゆる武器を人並み程度に扱うことが出来る。確かにいつもオドオドとして頼りなく見えるが、彼は本当は凄い人物であるとアナキティは知っている。
だからこそ、こうしてラウルが認められている様な姿を見て嬉しく思った。それこそ彼女に対する警戒心が少し薄れるくらいに。
「次にそこの黒猫」
「は、はいっ」
「……貴様はまだ余裕があるな」
「えっ」
「想定していたよりは実力はある、しかしどうにも後ろに下がる傾向が見受けられる。性格的な問題だろうが、いつまでも自分の前に背中があると思うな」
「!」
「せめてその男の横に立て、話はそこからだ」
「………はい」
「貴様もいい加減に起きろ」
「ぶはぁっ!?」
密かに気付いていた痛いところを突かれ、アキが少し俯いている一方で、倒れているベートの鼻目掛けてポーションがブッ込まれる。流石にこれには起きたベートが周囲を見渡せば、いつの間にか18階層。色々と察して彼はラフォリアの方を睨み付けるが、流石に2度も同じことはしなかった。
「さて、休息が終わり次第27階層に向かう」
「え、今日は18階層で休んだりしないんですか……?」
「テントは27階層に張れ」
「「「……え」」」
「3日間しか無いというのに、まさか足を伸ばして熟睡でもするつもりだったか?」
「「「…………」」」
「それと27階層までは貴様が1人で全ての戦闘を請け負え、駄犬」
「ハァ!?」
「ここまではそいつ等が請け負っていた、当然の話だろう」
「チッ、仕方ねぇ」
「ちなみに一体漏らす度に貴様のケツを一度蹴り上げる」
「ざっけんなクソババア!!」
「『
「ぶほっ!?」
なぜ同じことを繰り返してしまったのか。
「いいか?もしこれに懲りず"ババア"と口にすることがあれば、次は貴様の睾丸を爆発させるからな」
ベートはここまで言われて漸く諦めた。
というかこんな脅しをされてしまえば男ならば誰でも平伏すしかないので、むしろ当然の結末であった。
更に数時間後。
「ゼェ……ゼェ……」
「ふむ、3匹か。思った以上に奮闘したな」
「ベ、ベート?大丈夫?」
「ベートさん!ポーションっす!」
「よ、寄越せ……」
18階層から27階層までの長い道のり。
計9階層分を休みなく、全ての戦闘を引き受けたベート・ローガは、流石に肉体的な限界と戦っていた。
手渡されたポーションを一気飲みし、大きく息を乱している。ここまで単独で必死に動いたのも、彼にとっては久しぶりであった。というか半分イジメと言っても良かった。処理に苦戦している時を狙って、この女がわざとモンスターを引き寄せるように大きく手を叩いていたのを、ベートは知っている。
「さて狼、デカい口を叩くだけのことはあったな。褒めてやる」
「……ちっくしょう」
「だが貴様は精神的なブレが大きいな、状態が精神に左右され易い。フィン・ディムナを見習え。あれは腕の骨が折れようが、足の骨が折れようが、冷静に目の前の敵を分析する」
「……柄じゃねぇだろ」
「落ち着きを持てという話だ、未熟者」
「………」
ラフォリアからベートへの評価は、意外にもそれなりに高い。しかしだからこそ、精神的な弱さが目立ってしまう。
精神的な成熟は歳を取り、経験を積んで行く中で自然となされていくもの。とは言っても機会に恵まれず、何の努力もしなければ、精神的に子供な大人が生まれるだけ。故にラフォリアは指摘する、それに向き合えと。
「貴様は先ず、先達というものを知るべきだな」
「先達だと……?」
「貴様も私のことを暴君だと思うか?」
「間違いなくそうだろうが」
「だが私など、当時のヘラ・ファミリアの長であった"女帝"と比べれば、まだ可愛い方だ」
「「「え」」」
「"最恐の女"と称されたLv.9の眷族であったアレは、正しく歩く天災だった。同じ神々からも忌避されるほど苛烈な性格をしていた女神ヘラの生写しとまで言われた女だ、アレが表に出るだけで人波が割けるほどのものだった」
「……地獄か?その頃のオラリオは」
「その女を差し置いて"最強の眷属"と称されていたのがゼウス・ファミリアの長だ。あれはLv.8だったか」
「な、なんか次元が違うというか、信じられないというか……」
「Lv.8とかLv.9って……なに?」
「そして7年前にこのオラリオを襲撃したゼウスとヘラの生き残りである"静寂"と"暴喰"。奴等はLv.7でありながら条件次第ではその2人を喰らうことが出来るほどの力を持っていた」
「「「…………」」」
「強者というのは、ああいう化物共のことを指す。今は生意気にも都市最強と呼ばれているあの猪人も、目の先にあるのは山の頂ではなく、件の化物共だろうよ。……今の貴様が強者を名乗るなど、烏滸がましいにも程がある」
せめてオッタルと同等の意思と視点を持ってから出直して来いと、ラフォリアはベートに諭す。そして同時に、ラフォリアがオッタルを強者として認めていることもまた理解する。まあむしろアレほどの怪物が強者でなければ何なのか、という話にもなるが、それでもベートの中に悔しさが生まれたのは確かだ。
「……話が長ぇ、さっさと始めろ。余計な時間は使わねぇつってただろうが」
「ふむ、そうだな。だがこれから行うことは単純だ、これを使う」
「?なんだそれ」
ラフォリアが鞄から取り出したのは何かが入った少し大きめの皮袋。ベートもあまり嗅いだことのない匂い、つまり使ったことのない道具。
「モンスターを引き寄せる特殊な匂い袋だ」
「………は?」
「ここは27階層、25階層から巨蒼の滝が3階層分を貫いている。特にこれは当時のヘラ・ファミリアでも使われていた特注品でな、影響範囲がかなり広い」
「お、おい待て……テメェまさか……」
「い、いやいや、流石にそれは……冗談っすよね……?ね?」
「普通に、死ぬ、わよね……?」
3人の顔が青褪める。
ベートも流石に強がりが言えなくなる。
しかしラフォリアは変わらず薄らと笑みを浮かべたまま。当たり前のように、何も恐れてすら居ないように、その匂い袋に火種を近付ける。
「安心しろ、滝周辺の天井は私が崩して広げておいてやる。安心して3階層分のモンスターに襲われると良い」
「ふっざけんなヤメ……!!」
直後、地獄は顕現した。
☆☆それから更に3日後☆☆
「いやぁ、ついに明日はフィリア祭やんなぁ!フィン達は行くん?」
「いや、流石に僕は遠慮しておくよ。色々と遠征の後始末が残っているからね」
「私もギルドに提出する報告書がまだ出来上がっていない、ロイマンからの催促も五月蝿いからな。それを優先するつもりだ」
「儂も備品の点検をせねばならん、希少な物は次の遠征に間に合わせる必要があるからな。行くつもりはない」
「なんやなんや、みんなして面白ないなぁ。まあ正直、今更ってところはあるかもやけど」
ベート達がダンジョンに旅立って3日後、明日がモンスターフィリア開催に迫った頃合。フィン達はラフォリアを待つ為に揃ってロキの部屋に集まっていた。
予定であれば帰って来るのは今日の夕方以降であり、ロキの感覚でも3人は無事。むしろラウル達がどう成長して帰って来るかを楽しみにするくらいの軽い気持ちで待っていた。
「なんか余裕やなぁフィン、ベート達が心配やないんか?」
「心配は特にしていないよ、彼女は横暴ではあるけど善人だからね」
「横暴なのは間違いないがな」
フィン達から見たラフォリア・アヴローラに対する印象は、そんなところ。
「あの子の本質は世話焼きだ、それは昔から変わらん。ゼウスとヘラのファミリアに叩きのめされたオッタルにも、よく声を掛けていたな」
「おお、そんなこともあったな。その後、結局自分も叩きのめしていた覚えがあるが」
「何十回も付き合ってくれるだけ優しい方じゃないかな?彼等の最終的な戦績なんかは知らないけどね」
「ま、今回の提案も向こうからやったしなぁ。闇派閥に加担したり、フレイヤのファミリアに入ろうとせん限りはウチはええわ」
「それは流石にオッタルが嫌がると思うよ」
「闇派閥にしても、入るくらいならば、一度破壊して作り直しそうではあるな」
そんな風に噂をしていれば、影がさす。
外の門番達が騒がしくなって来た。
そして直後に再びバン!!という大きな音、あの女が戻ってきたという証拠だろう。4人は立ち上がってベート達を出迎える。
「戻った」
「お〜う、おっかえ……」
「………」
「………」
「………」
「………生きとるん、よな?」
「治療は既に済ませてある、気絶しているだけだ。こっちの駄狼はなんとか意識を保っていたのだがな、地上に着いた瞬間に力尽きた。まあ及第点と言ったところか」
ラフォリアに抱えられ、ピクリとも動かず気を失っているボロボロの3人。ガレスとリヴェリアは急いで彼等を受け取り、怪我がないかを確認してソファへと寝かせるが、その様子から凄まじい戦闘をして来たということは明白だった。
「あ〜……一応聞くけど、何をして来たんだい?」
「3日間、毎日2回25〜27階層のモンスター全ての相手をしていた。匂い袋の継続時間が5時間程度、然程大した地獄でも無かったのだがな」
「………」
「………」
「精神的には……大丈夫なんやろか……」
「知らん、そこはお前達でなんとかしろ」
「相変わらず酷過ぎる……」
ラフォリア自身も相当に衣服がボロボロになっていることから、ラウル達を守りつつ戦闘に参加してくれていたのだろうが、それにしてもベートまで気を失うほどの鍛錬の後もこうしてピンピンとしている姿を見ると、やはりヘラとゼウスのファミリアはこんなことばかりしていたのかと恐ろしくも感じてしまう。
しかし確かに彼女の言う通り、あまり得られない体験をしたということも事実だろう。特にベートにとっては大きかった筈だ、彼のこのような姿はフィン達も見たことが無かったくらいなのだから。
「まあ暇潰しにはなった」
「暇潰して……」
「あ、ああ、そうだ。夕食は食べていくかい?一応君達の分は用意してあるよ」
「……用意されているのであれば、断る選択肢もあるまい。リヴェリア、話し相手になれ」
「?まあ構わないが」
そうして、片付けをしている人間以外夕食後の食堂に勝手に降りていく彼女。リヴェリアも彼女を追って部屋を出る。
行動の早い彼女は何の迷いもなく食堂へ向かっているが、1人で行っても食堂の人間が困るだけだろうに。そういうことを気にせず前に歩いていけることもまた彼女の強さの一つであるのかもしれないと、リヴェリアは思った。
「それで?私を呼び出した理由はなんだ」
「あの女の墓は何処だ」
「!」
「まさか何も作っていないということはあるまい、チンケな墓石くらいは飾り立てているだろう。それを教えろ」
相変わらず丁寧な所作で食事をしながら、直球で要求をぶつけて来た彼女に、リヴェリアは言い淀む。
一応、リヴェリアは男神ヘルメスが作った彼等の墓の場所は知っていた。しかしそれはとても公に出来るものでもなかったため、酷く見窄らしいものだったのだ。それを見せた時、果たして彼女がどんな反応をするのか。それがわからなかったからである。
「木枝がさしてある程度でも構わん、仮に無くとも何も言わん。いいから教えろ」
「……そういうことであれば」
事情を説明し、場所を説明し、現状を説明すると、彼女はフォークとナイフを置いて一息を吐く。もしや怒りを抱いたかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「した行いを考えれば、墓があるだけマシだろうな。その事に関してとやかく言うつもりはない」
「……お前は、彼等が起こした行動についてどう思っているんだ?」
「愚かな行いだ」
「……意外とハッキリ言うのだな」
「本当にオラリオを思っているのであれば、そもそも貴様等の追放自体を受け入れるべきではなかった。闘争を起こしてでも居座り、頭を下げてでも席を取り、後進の尻を叩き続けるべきであった。……実際、ヘラとゼウスが消えた後、貴様等はこうして15年もの歳月を腑抜けて費やした。10年近く床に伏せていた私と同等、それ以下とは、一体どういう了見だ?」
「……それを言われると返す言葉もない」
「アストレア・ファミリアが消え、お前達は腑抜け続け、結局あの女が残した物は今この瞬間、何も残っていない。これが無駄と言わずなんと言う。奴等の死は無駄だった」
「いくらなんでもそこまでは……っ!」
目と目を合わせた瞬間、全身で感じた秘められた凄まじい憎悪の感情。しかしそれは彼女が瞼を閉じた瞬間に気の所為であったかのように消失し、彼女は再び食事を再開する。
「……話が逸れたが、礼儀として墓参りくらいはしに行くつもりだ。あの女の墓石には酒瓶を叩き付けてやるつもりだがな」
「そ、そうか………程々にな」
「知らん、昔年の恨みをぶつける良い機会だ」
リヴェリアは確信する。
表には出さないようにしているようだが、この女は間違いなく自分達に対して怒りと憎悪を抱いているのだと。彼女が帰って来るまでは『世話焼き』だのなんだのと言っていたが、そうまでして世話を焼こうとする動機にまでは思い至っていなかった。
(……見放されていないだけマシ、ということか)
本当に見放されていたのであれば、恐らく初日のあの瞬間にこの女はロキ・ファミリアを破壊していただろう。そうならなかった理由は、単純にベートやラウルを含め、将来性のある者が育ち始めていたのを見たから。個人が力を伸ばすために動くフレイヤ・ファミリアとは異なり、ロキ・ファミリアは集団での戦力向上に重きを置いている。それを多少なりとも理解したからこそ、自分達は許された。
せめて幹部の3人がLv.7に到達していれば、この反応ももう少し良くはなっていたのだろう。それが出来なかったのは単純に自分達の失態であり、腑抜けていると言われても仕方がないと自覚はしている。
「……さて、私はそろそろ帰る」
「次にダンジョンに潜るのはいつだ?」
「モンスターフィリアとやらが終わってからで良いだろう、私とて祭の気分に水を差すつもりはない。……3日後にまたここに来る、誰を連れて行くかはその時に決める」
「分かった、私からも適当に声を掛けておこう」
「…………」
「?どうした」
突然目を閉じて何も話さなくなった彼女を見て、一瞬疲れで眠ってしまったかと思ったリヴェリアであるが、そのまま立ち上がって出口の方へ歩いて行ってしまう。
何が何やらと呆然としていたリヴェリアに、しかし一言、彼女は最後に言葉を残していった。
「……食事は美味かった。それとあの3人に伝えておけ、根性だけは褒めてやると」
「……ああ、分かった」
彼女は確かに暴君であるが、それだけではない。常識がないように見えるが、常識自体は持っている。それを知っている上で選別して破ってくる。だからこそ恐ろしくもあり、頼もしくもある。そして常に気を配らなければならない。……決して切り捨てられることのないように。