【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者42:九魔姫

 それからラフォリアは、主にダフネを動かして色々な者達を呼び寄せた。自分が死ぬ前になるべく多くの者に、それこそオラリオに来てから一度も顔を合わせたことのない様な者にまで、伝えておかなければならないことがあったからだ。

 ……つまりは、自分が死んだ後のことも考えて根回しをしておく必要があると考えた。たとえ体が動かなくとも、その頭が動く限り、ラフォリアには出来ることがあまりにも多くあった。あり過ぎた程だ。なにせ彼女は天才であるから。その才能と行動力に何より驚かされたのは常に側に居続けたカサンドラであり、その度に人を呼び寄せに行くダフネである。

 自分達よりも才能に恵まれ、実力もあるのにも関わらず、そんな自分達とは比べものにならないほどの行動力を持つ。客人が居ない時は常に物を書いており、疲労で横たわっている時でも常に目を瞑って何かを考えている。

 

 (天才にあんなに努力されたら……凡人のアタシ達が勝てる訳がない)

 

 ダフネはそう思いつつ、しかしそれから学ばなければならないということも心に刻み込む。そんな彼女の手伝いが出来るということは、きっと普通であったら得られない経験である筈だから。これを無駄にすることは絶対に出来ないと、そう感じていた。

 

 

 

「……そうか、そこまでか」

 

 

「ああ、流石にな」

 

 

 それこそダフネにとって何より有益に感じたのは、この仕事を通してオラリオの有力な人物達と顔合わせが出来たことに違いないだろう。

 例えば今日こうして呼びに行き、今彼女と話しているその人物。リヴェリア・リヨス・アールヴという人物は、ハイエルフということを抜きにしても、普通であれば言葉を交わすことすら凡人には難しい。そんな彼女に対して上から目線で接することの出来る人間など、それこそラフォリアか同期か神々くらいだろう。

 

「お前のおかげで、アイズとレフィーヤが無事に帰って来れた。そして私達もまた犠牲を出すことなく状況を打破出来た。感謝している」

 

「アレはオッタルの阿呆が筋金入りの脳筋だったからこそだ、礼ならアイツに言え」

 

「言ったとも。……その様子では、まだここに来ていないのか?」

 

「というか、呼んでいない。アイツを呼び出すのは最期でいい」

 

「……落ち込んでいるんじゃないか?」

 

「知るか、そんなこと。……お前達の方は問題ないのか?闇派閥の関係についてだ」

 

「ああ、今はメレン港とダイダロス通りを二手に分かれて調査している。……アンタレスの一件で我々もレベルを上げることが出来た、それ故に多少の無茶も通る様になった」

 

「ほう?それはめでたいことだ。……いや、それほどまでにアンタレスが凶悪であったということか」

 

「無尽蔵の体力、尋常ならざる基礎性能、遠距離攻撃すら可能。大精霊に討伐ではなく封印されるほどの存在、事前情報以上の馬鹿げた怪物だった。それこそ女神アルテミスが自身の身体を食らわせて、わざと神力を使わせようとしたくらいにはな」

 

「……不慣れな神力を使わせることで無理矢理に制御に力を割かせ、動きを鈍くさせようとしたということか。相も変わらず無茶をする」

 

「それをせずに済んだのはオッタルのおかげだ。アレを相手にまともに前衛を張れるのはガレスとオッタルとフィンだけだった。そうまでしても、終わった頃には私も含め全員が満身創痍だったがな」

 

「特攻武器でもあれば良かったのだろうがな、まあ勝てたのなら良い。お前達3人のレベルも上がったというのなら、それ以上のこともない」

 

「ああ、世話をかけたな」

 

「全くだ」

 

 それこそラフォリアは最悪の場合、その3人の為に死力を尽くすことも考えていた。オッタルをLv.8に上げたのなら、ロキ・ファミリアの3幹部もLv.7に引き上げなければならないと。そこまでするのが最低限の自分の役割であると考えていた。しかし彼等が自分達でそれを成し遂げたというのなら、それでいい。

 それに彼等だけではない、今回の件でロキ・ファミリア内の多くの眷属達が昇華を果たしている。それこそレフィーヤでさえステータスの伸びは足りなくとも、偉業は成し遂げたという扱いになっている。まあ彼女の場合はアイズとアミッドに守られながらも、延々と砲撃でベヒーモス亜種の分身を焼き払っていたので、当然と言えば当然なのかもしれないが。そうでなくとも本体の足を持っていったのも彼女である、トップ3の功労者であると言ってもいいだろう。

 

「……少しは、安心させられたか?」

 

「……」

 

「私たちはお前に、少しくらいは、期待を持たせることが出来たか……?」

 

 リヴェリアは顔を俯かせながら、そう呟く。何せラフォリアがこんな状態になってしまった原因の一端は自分達にあると、責任を感じていたから。彼女は別にアレは自分のミスだと言うかもしれないが、しかしアレを彼女のせいにするには自分達はあまりに未熟過ぎて。不足過ぎて。

 

「……まあ、及第点と言ったところか」

 

「……厳しいな」

 

「お前達がアルフィアやザルド、若しくは私の様に、条件さえ整えればLv.9とて打倒出来る可能性があるのなら話は別だ。……しかし無いだろう、精々アンタレスを打倒したお前の魔法くらいしか」

 

「……まあ、お前達と比べられてはな」

 

「ならば単純にレベルを上げるしかあるまい、これまで以上の速度で。……そうまでしなければ、お前達は死ぬ」

 

「……」

 

 

 

「お前達は生きろ」

 

 

「っ」

 

 目を合わせてはくれない、けれど彼女はそう言葉にする。それにリヴェリアは驚いたし、困惑した。そんなことを彼女が言ってくれたということに、嬉しさもあった。それでも、それをまともに捉えていい言葉だとも思っていない。それが単なる照れ隠しだとは思っていない。

 

「私が死んだとしても、数人が悲しむ程度で終わる。だがお前達が死ねば、この世界の多くが絶望する。……お前達の命の価値は、あまりにも重い」

 

「……そういう言い方は、あまり好みでは無いが」

 

「だが事実だ。お前達がLv.7に昇華したと言う事実を誰よりも喜ぶのは、お前達ではなく周りの者達だ。そして世界の何処かの顔すら知らぬ者達だ。……故に、お前達は生き残らなければならない。世界を救うその時まで。未だ顔を見せない英雄候補達に希望を見せ続けるためにも、死ぬことだけは絶対に許されない」

 

「……重い、な」

 

「それがお前達の責任だ。ヘラとゼウスの生き残りを追放してでも得た立ち位置だ。……自覚を持て、もう逃げられん。尻を叩かれながらでも、ここまで来たのだからな。お前もまた英雄と呼ばれ、英雄として生きていかなければならない」

 

 もう逃げられない、その責任を背負って生きていかなければならない。それはなんとなく自覚はしていたけれど、実際にこうして目の前に突きつけられると狼狽えてしまうものがある。英雄として生きていく覚悟、それは決して容易いものではない。そんな覚悟を自分は本当の意味で出来ているのだろうかと。リヴェリアは思い返し、軽く唇を噛む。

 

「……逆にお前はどうしてそこまで達観出来る、私より何歳下だ」

 

「知らん、180くらいか?」

 

「ふざけるな、誰がそこまで歳を取っているものか。……お前達"母娘"はどうしてそう私の年齢をだな」

 

「なんだ、あの女にも何か言われたのか」

 

「癇癪持ちのババアだの、年増だの、色々な」

 

「……いや、私とてそこまでは言っていないだろう」

 

「年増とは言っただろうが、覚えているからな……確かにエルフとしては良い年齢になってきている自覚はあるが」

 

「今更、結婚願望があるのか?」

 

「……いや、まあそれほど無いが」

 

「ならば別にいいだろう。お前はアイズを育てた。娘が居り、ファミリアという居場所がある。それ以上の何を求める。伴侶など居なくとも、お前はより多くのガキ共を育てられる」

 

「……まあ、そうだな」

 

「その点ヤバいのはフィンの方だろう。ガレスはもうその気はないだろうが、アイツは確実に拗らせるに決まっている。将来のことを考えるのであれば、自分の伴侶のことよりアイツの嫁のことを考えた方が、よっぽどファミリアの為だろうな」

 

「……そんなに不味いのか?お前から見たら」

 

「40の男が我儘を言うな、他者に好かれているだけ感謝しろ。お前の理想の高潔な女は、お前のような奴は絶対に選ばない。……そう言っておけ」

 

「そ、それを私から伝えるのか……」

 

「私のせいにして言えるだけ十分だろう。それとも今から10年後に、お前の責任で、お前の口から言ってみるか?」

 

「わ、分かった。伝えておく……」

 

「ああ、そうしておけ」

 

 きっとそれを言われたフィンは、苦笑いをしながら、何とも言えない顔をするだろうけれど。しかし何処かで納得しつつ、もしかしたら考えを変えるかもしれない。変えなければ、もうどうしようもないが。それでもフィンは、ラフォリアの言葉を全く無視する様なことはないだろう。

 そんなことまでラフォリアが危惧していたということにリヴェリアはなんとなく面白さも感じてしまうが、もう本当に何処まで自分達のことを見て考えていたのだろうと、申し訳なくもある。それこそフィンの婚約のことなんて敢えて触れずに居た手前、今になって少しの後ろめたさもあって。

 

「……私は先に消えるが、可能な限りの物を残していくつもりだ。既にこの経験値を十分に受け渡すことすら難しいが、それ以上に価値のある物をこの地に残そう」

 

「……本当に私達は、信用されていないんだな」

 

「信用していようが、いなかろうが、私は同じことをする。お前達がそれを9割成し遂げられる力があるとしても、確実でない限り私は力を尽くす」

 

「私達も……いつかお前と同じ境地に至れるだろうか」

 

「お前達がそうならずに済む様に、私達は死ぬんだ。同じことを繰り返す様なら、私達はお前達を許さん。……精々平穏な世界で、何の想い残しもなく大往生して死ね。それがお前達の役割だ」

 

「……分かった」

 

「それでいい」

 

 こほっこほっ、と咳をこぼし。彼女はカサンドラから差し出された薬を混ぜた水を飲む。咳1つすら酷く苦しそうにするその様子は、リヴェリアの心にも痛みを齎す。自分よりも遥かに若い娘が、誰よりも大人にならざるを得ず、最後までこうしてその誰よりも前に立ち最後を迎えようとしている。

 自分より若い者が死ぬのは辛い、それがここまで献身している人間となれば尚更だ。むしろ自分達の尻拭いまでさせたとなれば、心が痛いで済む話でもなくて。

 

「……お前には、何か願いはないのか?」

 

「願い?そんなもの……」

 

「違う、オラリオの未来の話をしているのではない。お前自身、それ以外のことで心残りはないのかということだ。……こう、これをしておけば良かったな、というような」

 

「………」

 

「少なくとも、私はお前を友人だと思っている。お前もそう思ってくれるのなら、1度くらい、お前の本音の欠片程度でも聞かせてくれていいんじゃないか?」

 

「……はっ、友人だと?自惚れるにも程がある」

 

 リヴェリアのそんな突拍子もない言葉は、正直自分で言っていて少し気恥ずかしいところもあった。けれどラフォリアはそうして一度大きく溜息を吐くと、隣に居るカサンドラに一度部屋を出る様に促す。彼女は恐らく何度か同じことを経験しているのか、それを直ぐに察知すると一度頭を下げてから部屋を出ていった。

 それはつまり……

 

「……友人として認めて貰えた、ということか?」

 

「馴染みとしてだ。お前には世話になったのも事実、問いの1つにくらい答えてやろう」

 

 もしかしたら彼女は、友人と言われたことを少しは嬉しく思ってくれたのかもしれない。呆れた様に笑う彼女を見て、リヴェリアはそう思った。何せ彼女に友人など居なかったのだから。そんな風に言ってくれる人間が、27年も生きてきて1人たりとも居なかったのだから。憧れさえあっただろう。友人という存在に。そう言ってくれる人間の存在に。

 

 

「そうだな………最後に一度くらい、あの女に会いたかった」

 

 

「っ」

 

 

「それだけが、心残りだ」

 

 

 けれど、リヴェリアにとって彼女から放たれたその言葉は何より苦しいもの。何故ならリヴェリアはアルフィアという女の最後の戦いに参戦していた、彼女と直接戦ってはいなくとも、決して無関係ではない。自分のやったことに納得はしている。けれどその原因の一端を自分は握っている。

 

「あの女は突然姿を消したかと思えば、何の言葉も残すことなくこの世からも消えた。散々に私の母親を名乗っておきながら、私に何も残すことはなかった。……あの女が私に何を思い、何をしたかったのか。私はそれが知りたかった」

 

「……そうか」

 

「私の人生には、あの女の存在が大き過ぎる。私の生きている意味さえ、あの女に依存していた。他者に偉そうなことを言う私こそが1番の世間知らずであるのだから、笑い話にもならない」

 

「……アルフィアはお前にとって、母親だったのか?」

 

「……素直に認めたくはないが、今にして思えばそうだったのだろう。歳の差はそれほどなくとも、あの女がどう思っていたのかは分からなくとも、私にとっては母親だった。私はあの女に甘えていた。奴が居なくなったからこそ、自覚したことだ」

 

そうしてラフォリアは近くにあった手鏡を手に取り、その中に映り込む自分ではない自分の姿を見つめる。そこにアルフィアは居るが、そこにアルフィアは居ない。何を語りかけたところで、彼女が答えてくれることはない。

 

「……私達を、恨んでいるか?」

 

「ああ、恨んでいる」

 

「……」

 

「だが、それだけだ。恨んでいたところで何をする訳でもない、恨んでいたところで殺そうとは思わない。……悪いのは私達だ、お前達は悪くない。私はそう結論付けた」

 

「……お前にまでそう言われてしまったら、私達はどうすればいいんだ。お前には私達を恨む権利がある。私達が悪くないなどということは決してない。お前とお前の母親を殺したのは、間違いなく私達だ」

 

「違えるなよリヴェリア。私もあの女も、お前達のことが無くとも病で死んでいた身だ。お前達に責はない。……あの女がオラリオに行かなければ、私も床の上で死を待つだけだった。むしろ生かされたくらいだろう」

 

「……なぜ、なぜ恨んでくれない。どうしてそう物分かりが良いんだ。声を荒げて罵倒してくれた方が、私達はよっぽど」

 

「これから死に行く人間に、そう心を割く必要はない。お前達はこれからの事を考えれば良い。特にお前の人生は長いだろう」

 

「だからこそだ、私達にはまだ時間がある。だがお前はそうではないだろう。これから死に行く人間が、どうして私達に気を遣う必要がある。お前こそ自分のことを考えるべきだ」

 

「……ふっ、見解の相違というやつだな。平行線だ」

 

「……馬鹿者が」

 

 リヴェリアは痛々しい顔をするが、反面ラフォリアは微笑ましそうにそんなリヴェリアを見る。このエルフがここまで他者に優しくあれるようになったのは、やはり娘のおかげであるのだろうか。であるならば自分の存在で、あの女は少しは丸くなったのだろうか。そんなことを考えながら、手鏡を机の上に置いた。

 

 

「オラリオを頼んだ、リヴェリア」

 

 

「……ああ、任された」

 

 

 会話はそれで終わった。

 リヴェリア達はまた託される。あの頃にまだ幼い子供でしかなかった彼女から、未来を託される。本来なら自分達が託すべき立場であったにも関わらず、そうでなければいけなかったにも関わらず。

 

 

 

 

「……あ〜、話は終わったかな?」

 

 

「っ、男神ヘルメス?……それと」

 

 

「……久しぶりだな」

 

 

「……どうも」

 

 

「入って来い、次はお前達の番だ。……その前に、少し休息を取らせて貰うがな」

 

 

 赤い痰の混じった咳を何度かしながら、ラフォリアは次の客人を受け入れた。

 まだ少し、もう少し、話さなければならない者達が居る。

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