【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者48:静寂

「……ああ、そうか」

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「いや……なんでもない」

 

 

「………」

 

 

 既視感。

 きっとそれは、この教会の内装が以前の在りし頃の物によく似ているからだと。ずっとそう思っていた。けれどそれは答えの1つでもあり、どうやら間違いでもあったらしい。

 アルフィアはスッと手で机をなぞり、目を細める。

 

 

「この椅子と机の配置は、ラフォリアの指示か」

 

「え?あ、はい。うちらが動かしたものですけど……」

 

「……やはり私は、母親失格だな」

 

 

 違う、この既視感の正体はそれだけではなかった。

 この小さな机、椅子、ベッドの配置。飲み物や食べ物を置いてある場所、窓との関係性。そして布団の質感や色合い、なんなら枕の大きさまで。アルフィアはよく知っている。それを用意した自分だからこそ、知っているに決まっている。

 

 

「相当に我儘を言われただろう、お前達も」

 

「そ、そんなことは……」

 

「まあ、確かに注文は多かったですけど……でも、良い人だったんで……」

 

「……そうか」

 

 

 慕われていた娘。

 

 憎まれている母親。

 

 生き残ったのは皮肉にも後者。

 

 

 

 思い返す。

 

 ここから遠く離れた場所、そこで療養をしていた時。数年の試行錯誤をした結果、目の前に広がっているこの配置と殆ど同じ物に行き着いていた筈だ。……というより、そうやって動かすように、自分の暮らしやすい環境を作るために、そう指示をされて動かしてやっていた。

 だから自分は何より真っ先にこのことに気がつくべきだったのに。起き上がって直ぐに娘の存在を思い出すべきだったのに。それが出来なかった。

 やはり自分は母親としての意識があまりに不足していたのだと、思い知らされてしまう。娘より妹の方を大事にしてしまっているという、常に抱えていたその後ろめたさを。遂に最後まで解消することが出来ずに終わったのだと、その絶望と自分への嫌悪感に全身が脱力する。

 

 

「……お前のことだ。どうせ置き手紙も、ここにあるんだろう」

 

 

 枕の下。

 

 そこを探ってみれば、やはり当然のようにそこにある。

 

 意味しているのは、アルフィアがこの世界に戻って来た時に、酷く混乱しているだろうことを予測していたということ。そうして様々な人間から話を聞き、理解して、自分がここに戻って来た時に。

 

 嫌味ったらしく、こう言うため。

 

 

 

 

 

【ついに老眼がはじまったか?】

 

 

 

 

「……遺言の一言目がそれでいいのか、馬鹿娘」

 

 

 頭の下という最も近い部分に全ての情報があったにも拘わらず、それに気付くことなく外へと出ていく。そんな未来を見透かして、その様を馬鹿にする。そんな悪意に満ち溢れた一言だ。けれど今はそれほど不快にも感じない。7年経っても相変わらず反抗期が抜けていないその感覚に、むしろ泣きそうになるくらいだ。

 

 

 

【お前のことだ、もう既に大方の話は掴めたのだろう。故にここで1から10まで懇切丁寧に説明してやるつもりはない。精々、お前が死んでから7年が経った。死の間際であった自分の身体に、お前の存在を上書きした。お前が後を託したアストレア・ファミリアのガキ共は1人を残して壊滅した。お前達2人の犠牲は、私が1人で走り回るのと結果的には殆ど同価値だった。……状況説明はこのくらいでいいだろう】

 

 

 

「………」

 

 

 

【正直、お前に言ってやりたいことは色々ある。だが何より、お前の真意が分からない。常々母親を名乗っていたお前が、本当は私のことをどう思っていたのか。私には遂に分からなかった】

 

 

「………」

 

 

【故に、ここから先に書くことは全て私の本音だ。それがお前にとっての責苦となるか、嘲笑の対象となるのかは、もう知らん。嗤うなら嗤え。私はもう何も知らん、これを書いた後に読み返すことも無い】

 

 

「……嘘だな、3回ほど読み直した形跡がある」

 

 

【読み返した形跡を探すなよ、性悪女】

 

 

「……どうしてそこまで私の行動が読める癖に」

 

 

 私の想いは分からなかったのか、と言うことは出来ない。なぜなら自分だって、自分の想いがどこまで本気だったのか分からないのだから。本当に自分が娘のことを母親として愛せていたのかも分からないのに、相手が分かる筈もない。

 

 

【さて、前提としてだが。どうやら私はお前を母親として愛していたらしい。……忌々しいことにな。だがそれが最近になって漸く受け入れられる様になって来た】

 

 

「……そうか」

 

 

【お前の方がどうかは知らん、あらゆる才能で負ける私にお前の真意など見通せない。……だがそれでも、私にはお前しか居なかった。お前が死んだ時、お前がやったことを知らされた時、みっともなく泣いたのも事実だ。今更隠すこともない】

 

 

「……」

 

 

【どうして私があれから7年も生きていたのか、お前は不思議だろうから教えてやるが。……あれは、お前が死んで2年ほど経った頃だった。療養していた村にアルテミスのファミリアが訪ねて来た。そこに運が良いのか悪いのか、強化種を中心とした大量のモンスターが襲って来た。私は戦わざるを得なかった】

 

 

「……」

 

 

【2年でさえ、よく生きていた方だ。既に死ぬ寸前だった私は、魔法すら満足に使えなかった。立つことすらままならない状態で、それでも血を吐きながら頭の強化種をなんとか殺してやった。……後は想像できるだろう。死に際のそれが偉業と認められ、アルテミスに恩恵を触らせた。例のスキルが発現したのもこの時だ。そうしていなければ私は死んでいた。一応言っておくが、アルテミスを責めることはお門違いだ】

 

 

「……言われなくとも、責めはしない」

 

 

 きっとそれは、恐らく顔を合わせるであろうアルテミスに悪感情を抱かせないための一文。恐らく今も責任を感じてしまっているであろうアルテミスへの、ラフォリアからのフォローでもある。そしてアルフィアに対する再度の釘刺し。お前に他者を怒る権利などないと、直接言葉にはしなくとも、そう言っている。

 

 

【まあつまり、大凡偶然だ。それでもこの偶然が起きる日を願い、常に魔力制御を鍛錬することでステイタスをD評価まで上げる努力は続けていた。……故にこの件については、完全に私の勝ちということだ。お前は私の寿命に見切りをつけていたらしいが、私はそうでなかった。間違っていたのはお前だ。お前が私に全てを賭けていたら、何もかもが上手くいっていた。……言わずとも分かるとは思うが、これは嫌味だ。私ではなく、あんな小娘共に後を託したお前に対する。そして嫉妬でもある。どうして私を信じて託してくれなかったのだと、未だに毎晩のように考える】

 

 

「………」

 

 

【私はお前が本当に大嫌いだ、だがそれ以上にお前のことを愛してもいる。故に怒りはするが、憎みはしない。……感謝もしている。拾い育ててくれたお前を、慕っている】

 

 

「っ」

 

 

 

 

 

【だからお前は、幸せになれ】

 

 

 

 

 

 その1文だけが、他の何より強調して書かれているように見えた。何より伝えたいことがその1文であるのだと、嫌でも理解させられた。

 

 

【これは私からお前に対する唯一の親孝行だ。どうせお前は今、「こんな風に生き返らされても幸せになどなれるものか」と考えているかもしれないが】

 

 

「……ああ、その通りだ。娘の身体を使ってまで得た生など、私は」

 

 

【それでも、お前は幸福になれる。何故ならこの街には、お前の甥が居るからだ】

 

 

「っ!?」

 

 

【ヘスティア・ファミリアのベル・クラネル、それがお前の甥だ。……優しい子だ、可能性もある。私はあの子とお前を引き合わせたかった、だからこの道を選んだ】

 

 

「そんな、馬鹿な……」

 

 

【言っただろう、お前は幸福になれると。……あの子と出会い、あの子と言葉を交わし、その内を見た。故に断言出来る。お前はあの子のことを溺愛するだろう。お前は幸福になれる。そう確信したからこその今だ。故に私は一切の迷いなく自分の死を受け入れることが出来る】

 

 

 手紙を持つ指が震える。けれどそれは決して喜びからではない。むしろ恐怖だ。そして罪悪感だ。これまで以上の。

 なぜならその言葉の裏にあるのは【自分よりも妹の方を愛していたお前なら、きっと甥を自分以上に愛することが出来るだろう】という、ラフォリアが予想した最低の未来からだ。

【世界の未来のために自分を捨てたお前でも、あの子のためならば世界を捨てるだろう】という最悪の予想が見えてしまったからだ。

 

 ……けれど、きっとそれは間違っていない。

 

 どれだけ病状が悪化しようとも、妹の出産のために娘から離れていた自分だ。知り合いも居ない遠く離れた場所で療養していた娘にとって、友人の1人すら居ないというのに、それでも諸々の事情で常には側に居ようとしなかった自分だ。

 ラフォリアがハッキリと断言するほどに優しく育った妹の子、そんなものを見てしまえば自分は絶対に溺愛するに決まっている。きっと実際に会ってしまえば、この娘への強烈な罪悪感は、それ以上の感謝に塗り潰されてしまうだろう。このどうしようもない最悪の罪が、図々しい感謝などに変わってしまう。

 

 

【……私はお前のことを、その程度には理解しているつもりだ】

 

 

 それがどうしようもなく、苦しい。自分のそんなところまで見抜かれていたという事実に、罪悪感は増していくばかり。娘にそんな風に思われていたということに、恥を感じる。

 この女は母親を名乗っている癖に、その娘より妹の方を大切にしているのだと。きっとラフォリアはそれを当然のように受け入れていたのかもしれないが、そう思われていたという事実がアルフィアには重過ぎる。そして事実そうであることと、きっと今でさえ心の内ではそうであろうことが、どうしようもなく自分を責め立てる。

 

 

「……すま、ない」

 

 

 思い返す。

 

 妹の出産が迫って来た時、ラフォリアもまた病状が酷く悪化していた。それでも自分はラフォリアからの言葉もあって、妹の方を優先した。

 ……自分だけでなく、ヘラやゼウスも居た妹の方を。自分以外に誰も側に居ない娘を放って、そんな決断をした。

 

 

 あの時、ラフォリアはどう思っていたのだろう。

 

 遠慮している、自分のためにそう言ってくれている。そんなことは当時でさえ分かっていた。だが事実、その心の中で具体的に何を思い、どう考えていたかまでは分からなかった。同じ寂しさでも、真にアルフィアのことを思って遠慮していたのか、素直に言葉に出来なくてそう言わざるを得なかったのか。それは今でも分からない。

 

 ……もし後者だとすれば、本当に自分は。

 

 

 

【ベルのことを頼む】

 

 

「っ」

 

 

【後悔は無い、納得した終わりだ。私がこの世界ですべきことは、もう全て成した。……だから、お前もそうするといい】

 

 

「……嘘を、つくな」

 

 

【お前はベルにとって世界で唯一の血の繋がりのある人間だ。あの子は大成する。あの子が道を踏み外すことのないように、お前が見ていてやれ。それがお前の役割だ】

 

 

「……出来る訳がないだろう。自分の娘さえ見ていてやれなかった私が、今更そんなことを」

 

 

【だが過干渉はするなよ、あの子の人生を導くような真似だけはするな。自分の足で歩んでこそ、人は自分の生き方に自信を持てる。そこだけは釘を刺しておくからな】

 

 

「お前の方が、よっぽど……」

 

 

 そうして長かったラフォリアの残した手紙は、最後のページに差し掛かった。彼女が綴った最期の言葉。母親であるアルフィアに向けたこの手紙の中で、彼女が最後に一言伝えておきたいと思っていたこと。

 

 それは……

 

 

 

 

 

 

【お前に頼られるような人間に成りたかった】

 

 

 

「っ……」

 

 

 

【いつか私も、お前と肩を並べて戦えるようになりたかった】

 

 

 

「ラフォ、リア………」

 

 

 

【だがそれでも、私の死を自分のせいなどと思ってくれるな。娘から身体を奪うことを罪であると思うな。私の願いが叶わなかったのは、決してお前のせいではない】

 

 

「………」

 

 

【……何度も言うが、これは"親孝行"だ。余り物の金で贈り物をしたのと変わらない。余り物の寿命でお前を生き返らせただけだ。だからお前はただ私に感謝をすれば良い。ここまで責め立てるようなことを書いておいて今更だが、謝罪など要らん。ただありがたく受け取れば良い】

 

 

「……ふざけるな」

 

 

【間違っても私を生き返らせようなどとは考えるな、間違っても既に死んだ私に尽くそうとするな。お前はこれから漸く自分のための人生を始めるんだ。私でも妹でもオラリオでもなく、お前のための人生だ。お前が幸福になるための人生だ。……罪も罰も、全て私が持って行ってやる。お前は幸福になれ】

 

 

「ふざけるな……!」

 

 

怒りが沸く。

 

 

【ありがとう、アルフィア。私はお前が拾ってくれたおかげで、普通の人間としての人生を歩めた。……お前に拾われて、幸せだった】

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

 叫ぶ。

 周囲の者達が困惑していても、関係なく。

 

 

 

【幸せだった】

 

 

 

「そんな訳が、あってたまるものか……!!」

 

 

 

 読み終わった手紙を机の上に置き、行き場のない怒りを拳を思いっきり握り締めながら噛み締める。もしここに何か壊せるものがあれば、きっと何の迷いもなく破壊していただろう。

 

 

 

「アルフィア……」

 

 

 

「……お前の言っていることは、何もかも間違っている」

 

 

 

「……」

 

 

 

「先読みをして、どれほど言葉を尽くしたところで……幸福になるべきはお前だ、罪を犯した私ではない」

 

 

 

「……アルフィアさま」

 

 

 

「誤魔化せると、思うな……」

 

 

 

 何をどう言い繕ったところで、何をどう表現したところで、アルフィアがそれに騙されることはない。そんな言葉で丸め込まれる訳がない。言葉遊びでさえ、アルフィアはラフォリアに勝てるのだから。

 そしてそんなことを考えなくとも……この心はこれほどまでに、痛みを訴えているのだから。理屈なんてどうでもいい。言葉なんてどうでもいい。何より重要なのは、この心が何をどう感じているのかということ。

 

 

 

「……アルフィア、君はこれからどうするんだい?」

 

 

 

「……ラフォリアを諦めるつもりはない」

 

 

「だがそれは、ラフォリアの意思じゃない」

 

 

「ならば現状は、私の意思ではない」

 

 

「………」

 

 

「それでも…… 今直ぐに出来ることなど何も無いと、理解もしているつもりだ」

 

 

「……うん、流石はラフォリアの母親なだけある。ここで感情的にならないのは君達らしい」

 

 

「……そうか」

 

 

 そうだ、どれだけそれが認められなくとも、現実はそこにある。人の力だけではどうにもならないという現実が。

 現実を直視し、自身の立場を把握し、すべきことを定め、行動に移す。アルフィアとて心掛けている事ではあっても、これに関しては誰よりもラフォリアが優れていたように思う。

 アルフィアに追い付くために生き急ぎ、残りの命の少なさを自覚して生き急ぎ、その末に生まれた資質なのだろうが。その結果として誰よりも行動力に優れてしまった彼女は、他の人間を置いて行き、今回こうして誰も止める間も無く1人で旅立った。

 

 だから、アルフィアでなければ駄目だったのだ。

 

 彼女のその早さに付いていけるアルフィアでなければ。

 

 ラフォリアの自殺を、止めることなど……

 

 

 

「女神アルテミス、頼みがある……」

 

 

「うん、なんだい?」

 

 

「私は、この病を治さなければならない……この身体を返すその時のためにも、何より優先して……」

 

 

「……ご安心ください、その点は私が責任を持って成し遂げます」

 

 

「それなら、君は私に何をして欲しいんだい?」

 

 

「……神の視点から、どのようなスキルを作ればあの子を救い出せるのかを、考えて欲しい」

 

 

「っ」

 

 

「それを作るためであれば、私はどれだけでも自分を改変して見せる」

 

 

「………」

 

 

 彼女のその言葉に、アルテミスは眉を顰める。そんなことをラフォリアは求めていない、そんなことをされても嬉しいとは思わない。それは間違いないからだ。

 けれど、きっとそれはアルフィアだって分かっている。彼女はそれでもラフォリアを取り戻そうとしている。

 

 

「……本当に、君達はよく似ているな」

 

 

 もし2人の立場が逆だったとしても、ラフォリアは今の彼女と同じことを言っただろう。自分を犠牲にして愛した相手を守ることに躊躇いがない。仮にそれで相手が傷付いたとしても、今よりは幸福になれる筈だと。そう思い込んで、相手を傷付けてしまう。天才ではあるけれど、不器用で、愛の深い。

 

 

「そこまで言うのなら、何か考えてみよう。……けれど、勘違いしないで欲しい。私が考えるのはラフォリアを救う方法ではなく、君達2人を救う方法だ」

 

 

「……!」

 

 

「そうでなければ、きっとラフォリアもまた同じことをするだろうからね。……私も、そんな繰り返しに付き合ってあげられるほど優しい女神ではないんだ」

 

 

「っ…………ありがとう」

 

 

「いいや、お礼を言われることじゃない。これは薮を突く行為でもある。……最悪、知らなければ良かったと思うような真実に突き当たる可能性もある。世界というのは時に、神でさえも目を覆いたくなるような最悪が隠れているものだ」

 

 

 そうでなくとも、それはそんなに簡単な話では無い。というか不可能に近い。なぜなら現状アルテミスの中には何の案も無ければ、神の恩恵で実現出来ることにも限りがある。参照できる魂が何処にもない人間を、どうやって復元すればいいのか想像も付かない。仮に神の力を使うことが出来たとしても、参照する対象を探すために時を遡る必要さえあるような、途方もない話だ。少なくともアルテミスだけの思考では限界があるし、大抵の神々は『無理だ』と迷いなく言うことだろう。

 

 

「だから、少し時間がかかる。君はその間に治療を済ませていて欲しい、定期的に顔を見せには来るよ」

 

 

「ああ……」

 

 

「それに、それ以前に君はこの街に恨まれている。恨まれていなくとも、君自身が罪を抱えている。……私くらいしか居ないだろう、君とこうして何の憂いもなく話せる神なんて」

 

 

「……すまない」

 

 

「お礼ならラフォリアに言ってあげて欲しいかな。……正直に言ってしまうと、私がここまで罪人である君に深入りするのは、彼女の慕っていた母親という理由以外に他にないんだ」

 

 

「………」

 

 

「私もアフロディーテと同意見だ。私だって見ず知らずの君より、ラフォリアの方が大切に思っている。そこから先の行動は、彼女とは違うけれど」

 

 

 それはとても悪い言い方だ。けれどアルテミスだって、怒っている。それはアフロディーテとは違い、ラフォリアを捨てて彼女に深い絶望を抱かせたアルフィアに対して。しっかりと目と目を合わせて、彼女に怒っている。それくらいにあの村で最初に出会ったばかりの頃のラフォリアは、絶望に染まっていた。

 

 

「家族は、嫌でも似るんだ」

 

 

「っ」

 

 

「君は家族の心を無視して世界のための犠牲となった。だからラフォリアも同じことをした」

 

 

「……私は」

 

 

「ラフォリアが君の幸福のために自分を消したように、今君はラフォリアの幸福のために自分を消そうとしている」

 

 

「………」

 

 

「何処かで断ち切らないと、これは終わらない。そしてこれを終わらせるのは、親か子供か、どちらの役割だろう?」

 

 

「……少し、考える」

 

 

「ああ、そうするといい。幸いにも時間だけはある。……色々な人に会って、ラフォリアのことを聞くと良い。君はきっと自分の娘のことでも知らないことが多い筈だ。だから先ずは知ることから始めないといけない。君がこれから先も彼女の母親を名乗り続けたいのなら」

 

 

「……ああ」

 

 

 罪を清算するのは、これからだ。

 逃げることなど許されない。知り、向き合い、そして苦しむことこそが今すべきことであり。そして同時に、それを終えた時にこそ、母はもう一度、娘に向き合うことが出来るようになる。

 

 その時になればきっと、この手紙の見え方だって変わる筈だ。

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