【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者5:女

 

「今戻った」

 

「!ラフォリアさん!」

 

「き、君ぃ!心配したんだぞ!」

 

「?」

 

教会に戻って来たラフォリアは、シャワーを借りるためにヘスティア達の元に顔を出した。すると顔を見た途端に集って来るベルとヘスティア、それを鬱陶しそうな顔をしながら彼女は掻き分ける。

 

「何をそう心配する必要がある」

 

「い、いや!突然3日も不在にしているって聞いたら心配くらいするさ!」

 

「出掛ける前に声は掛けたろう」

 

「『少し出掛けてくる』の『少し』が少しじゃないんだよ!」

 

「そもそも私はお前の眷属ではない」

 

「そういう問題でもないやい!君が帰って来ないって聞いたから僕はわざわざヘファイストスにお願いして……ぶほっ!?」

 

よくは分からないが、まあ特に気にすることもなく、ラフォリアは手土産に買ってきた物をヘスティアの顔面に投げ付ける。

 

「…………っ!?というかラフォリアさん!?な、なんか服が凄いことになってませんか!?」

 

「ん?……ああ、肩紐が切れていたか。先程までは繋がっていた筈なのだがな」

 

「というか本当に何処に行ってたんですか!」

 

「ダンジョンに決まっているだろう」

 

「3日間もですか!?」

 

「むしろ日帰り出来る範囲など限られている、より探索に力を入れたいのであれば数日程度の寝泊まりは当然の話だ。貴様も何れ他人事ではなくなる」

 

「いたっ!?」

 

今度は理由のないデコピンがベルを襲う。

ベルは以前と同じようにベッドへ吹き飛んでいった。

 

ああ、鬱陶しい。

ああ、鬱陶しい。

心配などをされるのはもう懲り懲りだと。

さっさと服を脱いで浴室に入る。

 

疲労はある、溜め込んでいることもある。

しかしまあ、この街に来た価値はあった。

あれほど容易く地獄を作ることが出来るのであれば、やはりレベルを上げるのは難しい話ではない。これはオラリオの外では得られない環境だ。

今生の願いは決して叶うことのないものにはなってしまっても、未だ生きている意味はここにある。強さを求める理由が無くなっていないだけ、まだ幸せなのだろう。

 

「…………」

 

鏡に映る自分の姿。

それはあの女を思い起こさせるのに十分なもの。

鏡が曇り、顔が隠されると、まるでそこに本当にあの女が居るようにも思えてしまう。

 

「……私に、何を求めていた」

 

何を考えて、こんな呪いを残した。

それだけがどうしても分からない。

あの女の考えていたことが何一つ分からない。

他にも道はいくらでもあった筈だ。

それなのにどうして踏み台などという最後を選んだのか。

結局それは何の意味も成さず、人々の記憶からも消え始めている。せめて今の自分のようにフィン・ディムナ達のレベルを上げることに尽力していれば、確実な成果は得られていただろうに。

……鏡の中の女は何も答えない。

何も答えてはくれない。

いつものように。

変わることなく。

 

 

 

「……なんだ、まだ寝ていなかったのか」

 

「あ、はい。……その、ラフォリアさんに聞きたいことがあって」

 

「私に、聞きたいこと?」

 

シャワーを浴び、寝巻きを着て出て来たラフォリアに、何をするでもなくベッドの上に座っていたベル。どうやらベッドを使うことを許されたらしい。既にヘスティアは外に出て行ってしまったらしく、ラフォリアは空いていたソファに座ることにした。

 

「あの馬鹿乳は何処に行った」

 

「あ、えっと、なんだかヘファイストス様と色々お話しているみたいです。せっかく帰って来たのに、また直ぐ出掛けて行ってしまいました」

 

「なるほど……手短に済ませろ、明日も早いのだろう」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

明日のモンスターフィリア祭。ラフォリアは特に行く気もなかったので時間はあるが、ベルは恐らくそういう訳でもないだろう。まだ少し濡れた髪を乾かしながら、ラフォリアは彼の話に耳を傾ける。

 

「……実は僕、今憧れている人が居まして」

 

「恋愛についての助言など私は出来んぞ」

 

「そ、そうじゃなくてですね!……その、その人に追い付くために、強くなりたくて」

 

「ほう」

 

「神様が言うには、今の僕は成長期みたいなんです。ステータスの伸びが自分でもビックリするくらい良くて」

 

「話が長い、本題に入れ」

 

 

 

「………どうしたらレベルを上げることが出来ますか?」

 

 

 

「………なるほど」

 

とどのつまり、焦っている。

現実を見たのか、焦る理由が出来たのか。

そこまで踏み込むつもりはないにせよ、これがそれほど良い状況でないということだけはラフォリアも分かった。

強さを求めるのは構わないが、身の丈に合わない成長を求めるのは危険だ。未だ押し引きも分かっていない子供が、単独でダンジョンに潜っている。それは一歩間違えれば容易く命を落とす危険な行為だ。その中で更にレベルも上げたいと欲を出せば、運が良くなければ大抵死ぬ。

 

「……まずは信頼の出来る仲間を探せ」

 

「仲間、ですか……?」

 

ベルは意外に思った、この人からそんな言葉が出て来るのかと。何をするにも一人で十分だと言いそうな人から、信頼できる仲間などという助言を貰えたことが。

 

「レベルを上げるには神すら認める偉業を成す必要がある、それは知っているな?」

 

「はい、聞きました」

 

「だが単に偉業を成せばレベルが上がる訳ではない」

 

「……他に何か要るんですか?」

 

「生きて帰る必要がある」

 

「!」

 

それは単純な当たり前の話であったけれど、同様にベルが見落としていたことでもある。

 

「仮に格上の敵に勝ったとして、それだけで終わることはない。全ての力を出し切り打ち倒したとして、それで解決する問題でもない」

 

「……地上まで、生きて帰る必要がある」

 

「そうだ、そのためにも背中を任せられる人間が必要になる。戦闘の役には立たなくとも、傷付いたお前を地上まで連れ帰ってくれる人間を探す必要がある」

 

「……でも、人数が増えるとレベルを上げる難度も」

 

「上がるが、生き残る可能性も高くなる」

 

「!」

 

「生きていなければ意味がない、死んでしまえば全てが無となる。……冒険と自殺を違えるな。8割死ぬ挑戦などすべきではない。万全の準備を施し、常に離脱手段を用意しろ」

 

つまり、一人で冒険をするなということ。

無茶をしたいのであれば、せめて他の冒険者に助けを求めに行ける人間を付けておくべきだ。自分と同等かそれ以上の仲間を手に入れることが出来るのなら、それに越したことはない。

 

「……何を倒せば、いいですか?」

 

「単独でミノタウロスが倒せるのであれば、恩恵の昇華は間違いない」

 

「ミノタウロス……!」

 

「だがあれは強制停止を起こす咆哮(ハウル)を使う、それに対抗出来ない者にはそもそもの挑戦権がない。それならば複数人のパーティでインファント・ドラゴンの討伐でもした方がまだ現実味はあるだろう」

 

「ラフォリアさんはどうやって上げたんですか……?」

 

「インファント・ドラゴンを嬲り殺した」

 

「でも珍しいモンスターなんですよね、なかなか出てこないとか」

 

「ああ、だから11階層でテントを張り、3日ほど出現を待った」

 

「それも仲間が居るからこそ出来ることなんですね……」

 

「……いや、私の場合は1人だ」

 

「え……1人!?」

 

「当時は同様に昇華狙いでインファント・ドラゴンを狙っている奴等が多く居たからな。奴等を出し抜くために10日の滞在を予定していた。そんなことに付き合ってくれる奴もそうは居るまい、結局討伐も1人で行った」

 

「…………」

 

「私を参考にするな、他にもっと見習うべき冒険者を探せ。その辺にいくらでもいるだろう」

 

あの時代に生きていた冒険者の馬鹿げた行動など、ベルのような若い人間が見習うべきではない。レベルを上げるためならば格上の人間に襲撃を掛けるような、そんな頃の話だ。確かに冒険者達のレベルの上がりも早かった時期ではあるが相応に死者やトラブルも多かった。ラフォリアとてあの頃に戻れとまでは言う気はない。それくらいの気概を持てとは言うけれど。

 

「……それで、お前の懸想している相手とは誰のことだ?」

 

「えぇ!?それ聞くんですか!?」

 

「別に構わんだろう。なんだ、他人には言えないような相手に惚れたのか」

 

「そ、そういうわけではないんですけど……」

 

年相応に照れた顔をするベル。

まあ本当に純粋というか、子供だった。

ラフォリアの視線の圧に負けて、ベルは肩を落として白状する。

 

「ロキ・ファミリアの……アイズ・ヴァレンシュタインさんです……」

 

「アイズ?……ああ、あの娘か」

 

「知ってるんですか?」

 

「まあな、確かに見目は良かったな。そうか、お前はああいう女が好みか」

 

「そ、そういう言い方をされるとアレなんですけど……」

 

「しかしアレはLv.5はあるだろう、先は長いな」

 

「そ、そうですよね……」

 

「それにファミリアが違うというのも問題だ」

 

「やっぱりファミリアが違うと、大変なんですか……?」

 

「……そうだな」

 

ラフォリアはベルから少し目を逸らして、あることを思い出しながらそれを語る。

 

「昔、私が所属していたファミリアの話だ。その頃には私はオラリオから離れていたが、どうも団員の1人が付き合いの多かったファミリアの下っ端のサポーターに孕まされたらしい」

 

「はらま……」

 

「その結果起きたのは、まあ地獄だ。その子供をどちらのファミリアで預かるのか、そもそも許可すら得ることなく人様の団員に手を出すなど何事か、病弱の娘に子を孕ませるなど殺す気だったのか、と大きな抗争にこそならなかったが相当に揉めたらしい」

 

「な、なるほど……」

 

「結果的にはその子供は相手方のファミリアの主神に引き取られることになったようだが、少し前に会った時には未だに根に持っていたな。……その件は男の方が全面的に悪かったとは言え、やはり異なるファミリアの女に手を出すというのは色々と面倒臭い」

 

「でも、しっかりと相手の主神様に許可を貰えればいいんですよね……?」

 

「相手はロキだ、せめて【勇者】と同等にならなければ許されんだろう」

 

「え"」

 

「それでも許されるかどうか分からんがな。案外あの娘が本気で頼めば折れるかもしれんが、それにしても最低限の実力と名声は必要だ」

 

もう完全に恋愛相談になって来ているが、冒険者として生きていくのであれば必要な知識でもある。その結果、実際に抗争に発展してしまった事例もそれなりにあるのだから。後はヘスティアとロキの関係というのも大きく関わって来る。もしあの2柱の関係が最悪であれば、また難易度も上がるだろう。ラフォリアとしては優秀な冒険者の子供が生まれるというのは喜ばしいことだと思うが、やはり簡単な問題ではない。

 

「……まあ難しいこと考えず、誠実に努力を積み重ねろ。お前の性格であれば拒む神の方が少ないだろう」

 

「は、はい……頑張ります」

 

「そうか、気が済んだのならさっさと寝ろ」

 

「あう」

 

いつものデコピン……ではなく、額を軽く指で押されて倒される。

立ち上がったラフォリア、小さく笑みを浮かべてベルを見下ろす。

 

「格好の良い男になりたいのだろう、ならばしっかりと寝ろ。好いた相手を抱えられるくらいにはならなければな」

 

「……あの、ありがとうございます。本当に」

 

「優しくするのはお前がその意志を持ち続けている間だけだ。少しでも腑抜けるようであれば即座にダンジョンに放り込んでやる」

 

「あ、あはは……見放されないように頑張ります……」

 

「そうだな。仕方がないとは言え、私の時間をこれだけ奪っているんだ。相応の働きはして貰わねばな」

 

おやすみ、と灯りを消して部屋を去る。

何をクソ真面目にガキの恋愛相談に付き合ってしまったのかと溜息を吐きつつも、自然とあの少年に対しては自分が妙に柔らかく接してしまっているということも自覚している。理由は特に分からない、ただ接していて不快ではないということだけは確かだ。冒険者としての才能は見た限り殆どなく、強くなりたいとは言っていたがそれが実際に何処まで実現するかはそんなに期待出来るところでもない。

 

(時間の無駄……)

 

あんな子供の相手をしている暇があるのなら、ロキ・ファミリアで燻っている冒険者共をダンジョンに引き摺って行った方がずっと意味がある。それは間違いなくて、自分自身分かっているのに、なんだかおかしい。

今日の探索でそれなりに金は稼げた。女神ヘファイストスに交渉してこの教会を買い取る交渉をして、さっさと追い出してしまえば、もっと楽に動けるようになる。……それならば何故それを今日の帰り際にでもして来なかったのか、普段の自分であれば深夜だろうが何だろうが関係なく乗り込んで行くだろうに。

 

「……疲れているだけだな。久しぶりのダンジョン生活に体力を使ったか」

 

持っていた物を全部放り出して、ベッドの上に倒れ込む。チラと横を見ればここを出る前に自分が掃除した教会の祭壇が映った。

……この場所を好んでいたあの姉妹、もうどちらもこの世界には居ない。あの頃に面倒を見てくれた団員は本当に1人も居なくなってしまった。

知っている筈の街なのに、今や知っている人間の方が少ないくらい。信用の出来る人間なんて居なくて、ただこの街の全てが憎くて、許せなくて、怒りばかりが増していて。

 

「……やはり疲れているな、私は」

 

思考を投げ捨てて目を閉じる。

眠るのは嫌いだ、恐ろしくなる。

出来るのであればずっと起きていたいのに、そうすることの出来ない自分の身体が恨めしい。

 

 

 

『さっさと寝ろ、馬鹿娘』

 

 

 

そう言って額を叩いて来た女は、もう2度と帰って来ることはない。

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