【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者51:調停者

 結局のところ、あれからラフォリアを救い出す術が見つかることはなかった。

 

 その一方で、アルフィアの治療は順調に進んで行き、彼女は定期的に訪ねて来るようになったベルと仲を深め、充実した毎日を過ごすようになった。完治するのも時間の問題だろう。

 

 アルテミスはオラリオを歩き回り、可能な限り多くの神々の知恵を頼った。だがその収穫は殆ど0と言っても良いくらいで、流石の彼女も思い悩んでいる。

 

 闇派閥の企みに対しても、アンタレスとの戦いで昇華を果たしたロキ・ファミリアは戦況を優位に進めていき、そこに精神的な変化もあったのだろう。本人曰く『目指すべきものが分かった』という言葉通り、団長のフィンは以前よりも大胆かつ意志強く物事を進めるようになった。その速度に驚いているのは、他ならぬ闇派閥達である。

 

 

 

 何もかもが上手くいっている。

 

 

 

 ただ、ラフォリアを救い出す術が無いというだけ。

 

 

 

 この喜ばしい報告に溢れたオラリオの中で、その事実だけが残酷に浮いている。

 

 

 

 

「……融通の利かない奴め」

 

 

 

 それでも、決して何の成果もなかったということではない。

 

 

 例えばそれは、アルフィアの身体について。

 

 

 

 

『ウィーネ!』

 

 

 それはヘスティア・ファミリアが言葉を話すヴィーヴルであるウィーネを匿うために、彼女をアルフィアが寝ている教会の中に咄嗟に運び込んで来た時のこと。

 モンスターを匿うという、オラリオにおいてあまりにも禁忌であるその行為にアルフィアが口を挟もうとしたその瞬間に、事は起こった。

 

 

『っ………!?っ!?!?』

 

 

 突如、アルフィアは言葉を話せなくなった。

 

 ……というより、口を開く事が出来なくなった。

 

 その事実に誰しもが一度は慌てたものの、しかし直後に彼女は普通に話せるようになる。しかし特定の事について言及しようとすると、再び口は開かなくなる。

 

 その共通点はつまり……

 

 

 

【だが過干渉はするなよ、あの子の人生を導くような真似だけはするな。自分の足で歩んでこそ、人は自分の生き方に自信を持てる。そこだけは釘を刺しておくからな】

 

 

 

『ベルの選択には、干渉をするなということか……!ラフォリア……!』

 

 

 ベルが決めたことに、決意したことに、口を出さない。彼が自分で選ぶべき道を、勝手に決めつけない。アルフィアが色々と試してみた結果分かったのは、概ねそんな条件。要はラフォリアが手紙の中でアルフィアに伝えた、『人生を導くな』という言葉そのもの。

 元々はラフォリアの物であったこの身体は、常にベルの選択を尊重していたし、それ故に彼がどれだけ苦労することになろうとも、傷付くことになろうとも、彼のどんな馬鹿げた無茶も肯定していた。それを成すために助言する程度であれば許されるところも、実にラフォリアらしいというところだろう。

 

 

 

 他にも……

 

 

 

『っ!?……何故今邪魔をする、ラフォリア』

 

 

『……そう、未だにあの子はあんな約束を守ってくれるのね』

 

 

 それは女神フレイヤが訪ねて来た時の話。

 彼女がベルに対して熱を持っているということを知るや否や、当然のようにアルフィアは拒絶の意思を示そうとした。……しかし、直後に起きたのは身体の停止。それは決してフレイヤの魅了によるものではない。原因がラフォリアにあるのだと、アルフィアは直ぐに思い至った。そしてそのフレイヤの言った約束というのは、正直フレイヤとしては軽い口約束程度にしか捉えていなかったようなもので。

 

 

 

【私は貴様の恋愛事情に口を出す気はない、好きにしろ。その末にどうなろうと私は知らん。だがせめて、誰に語っても恥ずかしくない恋愛をすることだな。……恋愛などしたこともない私に、こんなことを言わせるな】

 

 

 

 けれど、結局はそれもベルに対して道を強制させないということに通じる。魅了や武力によって自由を奪うな、恋愛をする相手など好きにすれば良い。誰を好きになろうとも構わない。口を出すつもりもない。それだけの話。

 

 

『だからきっと、私があの子を力で無理矢理奪うなんてことをしない限り、貴女は私に手を出せない』

 

 

『あのクソ真面目……!』

 

 

『……ほんとに、馬鹿な子』

 

 

『っ』

 

 

 まだヘラ・ファミリアが現存していた頃から、目の前の女神がラフォリアに興味を持っていたことをアルフィアは知っていた。その眼から遠ざけるために密かに気を遣っていたのも本当だ。

 ……だが、その時に向けられる目線から感じていた感情と、今こうして目の前で女神フレイヤが向ける感情は違う。

 

 

『……何の罪悪感だ、それは』

 

 

『私とオッタルがラフォリアの寿命を削ったも同然だもの、責任くらい感じているわ』

 

 

『……あの猪は、何をしている』

 

 

『暫く戻って来て居ないわ、ずっとダンジョンの中』

 

 

『……そうか』

 

 

 そんなやりとりはあったものの、しかし話の肝はそこではない。問題なのは、完全にアルフィアの身体となった筈のそれにも、未だにラフォリアの意思が染み付いているということだ。

 ラフォリアの意識があるとは思えない、それは他でも無いアルフィアが断言出来る。それでも事実としてこういった奇妙なことが起きている。所謂"残留思念"とでも言うべきものなのかもしれない。故に暫く時間が経てばこの縛りも少しずつ効力を失っていくのだろう。少しずつアルフィアの身体に成っていく。それは話を聞いていたアルテミスも同意していた。

 

 

「……そんなにベルのことが気に入ったか、ラフォリア」

 

 

 誰も居ない部屋の中で、いつものようにそう独りごちる。最早ベッドの上に居なくとも問題ないが、今はこの退屈と孤独と窮屈さを感じていたいとも思う。

 

 

「お前はずっとこうして、私を待っていたのか」

 

 

 神々は今回の件について、三者三様の意見を出した。それこそヘスティアの様に、どんな形であれその死と決意を無為には出来ないと言った神も居る。ヘファイストスもまたヘスティアに同意しているようだった。

 しかし少なくとも、彼等のそんな話を聞いてもなお、アルテミスとアルフィアはラフォリアを諦めるつもりなど全くなかった。それがたとえラフォリアの意思を冒涜するものであると言われようとも、手を引くつもりなどなかった。

 

 そんなこと当たり前だ、巫山戯るな。

 

 確かにラフォリアはその短い生涯と自由時間で懸命に生きて、その中でも最大の結果を出したと言えるだろう。彼女の最後の決意を尊いものであり、彼女の献身は英雄たるに相応しいものであったと事情を知っている者なら誰もが言う筈だ。

 

 ……だが、ラフォリアは本当に何の未練もなかったのか?

 

 あるに決まっている。当たり前だ、あったに決まっている。その短い生涯の中でしたいことなどいくらでもあったろうし、出来なかったことなどいくらでもあった筈だ。これから先のオラリオと従兄弟の成長を見守っていたかった筈だ。もう一度だけでもアルフィアと顔を合わせ、直接言ってやりたいこともあった筈だ。先の短さ故に諦めたことも、手放した物も、後悔すら出来ない後悔だって、いくらでもあった筈なのだ。

 

 どうしてその事実を無視出来る。

 

 仮にそれが禁忌であったとしても、それがラフォリアの努力に泥を塗る行為であったとしても、アルフィアはいくらでも罰を受けたって良い。それで娘がもう一度普通の人として生きる事が出来るのなら。だから諦めるつもりなど毛頭なかった。

 それこそ、これから先の人生をその可能性を探るために費やすつもりであるくらいに。アルフィアは本気である。説得など無意味であると、そう断言出来る。

 

 

 

 

 

 ……とは言え。

 

 

 

「結局、現状出来ることは何も無い」

 

 

「まあ、そうだろうな……」

 

 

 異端児の一件が終息し、諸々の情報共有のためにやって来たリヴェリアに対し、アルフィアは半ば口の様にそう溢した。しかしそれも当然の話。何せ現状、本当にラフォリアのために出来ることなど何も無いのだから。少なくとも懸命に情報を求めているアルテミスが殆どお手上げ状態の今、アルフィアが何をしようとも新たな情報が手に入る可能性など皆無に近い。

 

 

「"果報は寝て待て"という言葉もあるらしいが、寝ていたところで果報は来なかった。オラリオでは情報収集にも限界があるか」

 

 

「とは言え、何処に行くつもりだ?ここ以上に情報が集まる場所というのもそう無いだろう」

 

 

「各地の遺跡を虱潰しに回って神器を探す、そういう手段もある」

 

 

「……気の遠くなる話だな」

 

 

「ああ……本来、こういった作業はラフォリアの方が得意なのだがな」

 

 

「そうなのか?意外だな、あらゆる才能においてお前に劣っているとラフォリアは言っていたが」

 

 

「確かに才能は私の方が上だが、あの子は私との差を埋める為に、相手を見て取り入れる情報を増やす事に長けた。こちらが圧を感じるほどに目を向けて来るのはそれが理由だ。人工的、もしくは神工的に作られた意図ある遺跡物の探索において、あの娘の右に出るものは居ない」

 

 

「……つまり、今度はお前がその努力をしなければならないということか。これもある意味で皮肉だな」

 

 

「才能に胡座をかいていたつもりはなかったのだがな」

 

 

 ラフォリアのそんな意外な特技を今更ながらに知りながら、以前に会った時よりも少しは精神的に落ち着いた様に見えるアルフィアに目を向ける。7年前にはまさか彼女とこうして面と向かって穏やかに話す日が来るとは思っても見なかったが、しかし現状こうしてアルフィアと落ち着いて話すことが出来る冒険者というのも自分くらい。この立場になるのも仕方ないところはある。

 

 

「お前はいいのか、こんなところに居て」

 

 

「ああ……一応、大方の方針は決まっている。今はフィンがそれを煮詰めているところだ。クノッソス攻略作戦のため、お前から得た情報も含めて順調に進んでいる」

 

 

「一度は向こう側に居たとは言え、耳障りな連中である事に変わりはない。ラフォリアが戻って来るまでには処理しておけ」

 

 

「簡単に言ってくれる、お前が手を貸してくれるのなら楽なのだがな」

 

 

「……気が向いたらな」

 

 

 もちろんアルフィアに手伝う気などサラサラない。それは闇派閥よりラフォリアの方を優先したいという考えはあるが、何より今は自分達の時代ではないという思いがあるからだ。その攻略作戦に自分が参加してしまえば、否が応でも中心に据えられるだろう。しかしこれまで努力し続けて来たのはリヴェリア達であり、都市を守り続けて来たのも彼等だ。ぽっと出の人間が入り込むべきではない。アルフィアはそう考えている。

 

 

「ああ、そういえば……」

 

 

「?」

 

 

「最近は都市外からのクエストも多くてな」

 

 

「何……?」

 

 

「どうもモンスター達の動きがおかしい。今も手の空いている団員達を派遣しているところではあるが、お前も外に出るのなら気をつけた方がいいだろう」

 

 

「……"異国の船団"とやらは、その関連か?」

 

 

「ん?いや、アレはまた別の話らしい。……とは言え、まあ厄介事の匂いがしない訳でもない。私達は闇派閥対策に集中したい。もしそちらで何かあれば、お前に任せたい」

 

 

「……やれやれ、いつの世も平穏は遠いな」

 

 

 メレン港の方角から、汽笛の音が聞こえて来る。

 それは正にこれから始まるアルフィアに対する試練の到来を告げている……と評するのは、まだ気が早いのか。しかしそれに対して何となく嫌な予感がしていたのは、リヴェリアもアルフィアも同様だった。

 

 

 

 

「というかお前、今のオラリオはどう思っている……?」

 

 

「安心しろ、同じことをするつもりはない」

 

 

「本当か?本当なんだな……?」

 

 

「なんだ、して欲しいのか」

 

 

「絶対にやめろ」

 

 

 

 

 

 

 アルフィアがそうしてリヴェリアと話している一方で、酷く頭を抱えていた者達も居た。例えばそれは男神ヘルメスであり、彼は今正に目の前に到着した船団を前に顔色を青くさせて口元を引き攣らせている。そしてそれは勿論、その付き人であるアスフィも同様に。

 

 

「なぜだ……なぜこうも厄介なことが重なる……」

 

 

「ヘルメス様、私これから勇者の頼みでクノッソスの鍵の複製をしなければならないのですが……」

 

 

「どう考えてもクノッソス攻略までに1ヶ月も無い……覚悟しておけよアスフィ、これから俺達は毎日がデスマーチだ」

 

 

「最悪過ぎます……」

 

 

 とある"古の地"から訪れたこの船団は、その"古の地"についての情報を知っていれば知っているほどに、今回のこの交流が明らかに厄介を含んでいることもまた想像出来るというもの。この話が来た時点で既にヘルメスは頭を抱えていたし、最近のラフォリアとアルフィアの件にあまり首を突っ込むことが出来なかったのは、正しくこれが原因である。

 

 

「"永久の神域"、神都オリンピアからの使者……どうなさるおつもりなのですか?単に観光目的な筈がありません」

 

 

「当然、基本的にヘスティアとベル君達に頼むしかない。可能な限り迅速にこの問題を解決して、なんとかクノッソス攻略に間に合わせる。そしてクノッソス侵攻中はベル君達にクエストを出して無理矢理作戦から遠ざける」

 

 

「……ヘスティア・ファミリアも顔を真っ青にさせるでしょうね。新興ファミリアに求める仕事量ではないのでは」

 

 

「だが仕方ない」

 

 

「"静寂"については、その……」

 

 

「……さて、どうしたものかな」

 

 

 船の上で妙にキャピキャピと騒いでいる若い使者達を見上げながら、ヘルメスは溜息を吐いた。

 正直に言えば現状アルフィアという存在を持て余している。強力な戦力ではあるものの、扱い辛い。何故なら彼女のスタンスが分からないし、最近の様子から見るにラフォリアの様に都市の問題に積極的に関与してはくれないのだろう。

 そして彼女が7年前に抗争に加わった理由を考えるに、頼り辛いというところもある。猫の手すら借りたい状況ではあるものの、その手を借りるのは覚悟の居る行為だ。今回の件に彼女を関わらせるかどうかも、思案しているところ。

 

 

「一先ず、やれることをやるしかないだろう。一応リューちゃん達にも声を掛けておいてくれよ、アスフィ。最悪、俺達もオリンピアに行く事になるぜ」

 

 

「はぁ……正直興味はありますが、もう2月ほど後にして欲しかったと心の底から思います」

 

 

「ああ、俺もだよ」

 

 

 ヘルメスはまだ知らない。

 例えばこれから起きる事だとか、例えば船を動かしている船員の中に魅了に掛かった者が1人紛れている事とか、それによって事態は思わぬ方向に進んでいく事になるとか。

 

 しかし、それでも、どちらにしても。

 

 今このタイミングで彼等がこうしてオラリオへとやって来たのは、果たして偶然なのだろうか。そしてこれが本当に何かしらの意図が働いているとするのであれば、それに間違いなく関わって来ることになるのは……

 

 

「さて……彼等は"彼女"に何を齎してくれるんだろうな。可能性という希望なのか、それとも、暗闇という絶望なのか」

 

 

 これから始まるのは、心を探す旅。

 

 自分の心を、探す旅。

 

 その果てに彼女がどんな決断を下すのかは、なるようなった後にしか分かりはしない。




最終章:アエデス・ウェスタ編です。
よろしくお願いします。
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