【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者57:オリンピア

 月明かりとヘスティアの神殿から漏れ出す光によって照らされた、全く同じ容姿を持つ2人の女。けれどその両者を見比べてみれば、内面は全く違う人物であることがよく分かる。

 目の開き方1つにしてもそうだ。まるで睨み付けるような眼力を発しているその女は、ピリピリとした威圧感を常に纏っている。一方で余計な力を纏っていない女は、何処か余裕のある大人びた印象を受ける。

 しかし見た目ではそう見えても、その内心は両者共に全くの逆のものだ。大人びた女の内心は荒れ狂っているし、圧のある女の内心は何処か余裕がある。……更にその奥を覗いてみれば、これもまた逆転するのかもしれないが。何よりその奥まで行き着くことこそが、今回の目的の1つとも言えるだろう。

 

 

『……今の私には、ベヒーモスを倒した時までの記憶しかないが』

 

 

「!」

 

 

『馬鹿乳から聞いた話と、お前が生き返っていること、そしてそこに私の剣があることから考えるに……なるほど、やはり私はそうしたのか』

 

 

「……この最後を、お前はその時から想定していたのか」

 

 

『というより、このスキルを発現した時からその選択肢はあった。最後にそれを選ぶかどうかだけが分からなかったが……それを選ぶだけの理由を、私は見つけたのだろう』

 

 

 まあ確かに、そのスキルの仕様をある程度理解してしまえば、どうやったってその考えは浮かんで来る。それを良しとするかどうかを、ラフォリアはベヒーモスと相対したその時でさえもまだ迷っていたということ。……ならばきっと、それを選ばせた最後の後押しは。

 

 

「……ベルは、妹の子だ」

 

 

『!』

 

 

「ゼウスに託し、小さな農村で育ち、英雄に憧れてオラリオへと足を踏み入れた……お前の従兄弟だ。恐らくその情報が、お前が私を甦らせることを決めた最後の理由だ」

 

 

『……そういう、ことか』

 

 

 そこでベルに対して嫉妬を抱くこともなく、むしろ2人を引き合わせたいと願うことが出来たのは、単純にそれほどラフォリアが優しかったからなのか。それともベルとアルフィアのことをそれほど愛していたからなのか。もしかしたらその両方ということもあるかもしれないが、だとしても。

 

 

『……どうだ、成長した甥の姿は』

 

 

「……泣かされたよ。ベルの方はまあ、戸惑っていたが。どうも私の姿を借りて好き勝手していた馬鹿娘が居たらしくてな、ベルはそちらの方に懐いているらしい」

 

 

『はっ、それは胸がすくな。……だがまあ、その様子では散々な扱いを受けたんだろう。これ以上は言うまい』

 

 

「……お前、そこまで分かっていてやったのか」

 

 

『当然だろう、自分が死んだ後の影響も分からないほど阿呆ではない。……だが、当時の私はそれでいいと考えたんだろうな。お前に対する仕返しも、それくらいで許してやる、と』

 

 

「………」

 

 

『まさかこんな形でもう一度引き合わされることになるとは、夢にも思っていなかっただろうが』

 

 

 結局のところ、当時のラフォリアが自分の死に方を選ぶにあたって、アレが1番良い終わり方であると判断したということだ。

 確かに荒れるだろうし、悲しまれるかもしれないが、それ以上の混乱によって悲しむ暇も与えない。何よりアルフィアという人間が蘇ったことで、明確に当たる事のできる相手が生まれ、喜ばしいことも増える。……その結果として殆どの負担がアルフィアに皺寄せされることになるが、ある意味それも代価としては安いくらいだろう。仕返しにしても、少し温いくらいの。

 

 

「……ラフォリア、お前を生き返らせる準備は出来ている」

 

 

『ほう』

 

 

「私の手を取れ。……後はもう、私に任せてくれていい」

 

 

『……なるほどな』

 

 

 少し強張った顔でそう言ったアルフィアに対して、ラフォリアは目を細める。しかし一歩も動こうとしないその様子を見るだけで、アルフィアはその答えを予想出来てしまった。元々想像は出来ていたことではあったけれど、やはりそう簡単にはいかなくて……

 

 

『アルフィア、お前は本当に私がその誘いに簡単に乗ってくれると思っていたのか?』

 

 

「……お前に断る理由はない筈だ」

 

 

『いや、ある。それは明確なものだ。だがお前が分からなくとも仕方がない』

 

 

「……?」

 

 

『そして、それをお前に言うつもりもない。……それでももし、聞き出したければ』

 

 

「……やはり、こうなるか」

 

 

『ああ、当然だろう。私がこんな機会を逃す筈がない。お前とてそれは分かっていた筈だ』

 

 

 一気に練り上げられたその濃密な魔力に対し、アルフィアも唇を噛みながら自身の魔力を発散させる。

 ……この濃密な魔力の衝突は、相応の力を持つ魔法使いであれば誰であっても分かるほどのものだった。そして同時にそれは、生物だろうと炎人だろうと逃げ出すような、そんな馬鹿げたもの。

 

 アルテミスがこの場に居なかったのは、正しくそのためだ。

 

 彼女はここから少し離れた高台の上で待機している。何故ならどうやったって自分の存在が2人の衝突に邪魔になることは分かっていたし、自分の役割はあくまでアルフィアのバックアップであることを理解していたからだ。動くのは自分ほどの力でも必要になった時でいい。言葉さえ、意思さえ不要だ。……少なくとも、今は。

 

 

『ああ……病が無いというのは、これほど心地の良いものなのか』

 

 

「……お前の病は、私のように恩恵に関係してはいなかったな」

 

 

『それでも、アミッドから薬は渡されているだろう』

 

 

「……ああ」

 

 

『ははっ、最高だ……!私もお前も、病から解放された状態で全力を出せる。これだけでも生き返った甲斐があったというものだ。ここは素直に感謝してやろう、アルフィア!』

 

 

「……私は、そんなつもりでお前を生き返らせた訳ではない!」

 

 

『それこそ、私の知ったことか!』

 

 

 ラフォリアの手に、アルフィアが持っている剣と全く同じ剣が出現する。それが本物と全く同じ性質を持っているかは分からない。しかし既にラフォリアが炎人の性質すら理解し、それを自身の意識で再現したということだけは明らかだった。

 ……故に、アルフィアは構える。こうなってしまった以上、穏やかな話し合いなど無意味だ。何せラフォリアは仕方なくでもなんでもなく、こうなることを望んでいるのだから。止めることなど出来ないし、止まる理由もどこにもない。せめて満足させなければ、きっと話し合いすら応じてはくれない。だってこれこそラフォリアの悲願なのだから。求めて求めて、それでも叶わないと諦めていたものなのだから。ならばもう、それは母親として、付き合うしかないだろう。……嫌でも、なんでも。

 

 

「っ!!」

 

 

『さあ!先ずは剣技から採点して貰おう!!』

 

 

「こっ、のっ……!!」

 

 

 ラフォリアとアルフィアの使う剣技は、その大元にザルドの剣技がある。アルフィアは一眼でそれを模倣したが、ラフォリアはそれに対抗して頭を下げて教わるという形で身に付けた。故に基礎の部分は変わらない。

 

 

「っ……言わずとも満点をくれてやる!!そもそも剣について私がお前に言えることなどあるものか!!」

 

 

 だが、そう、それ以外の部分は全く違う。

 

 それこそアルフィアは基本的にはザルドの剣技を使うが、ステイタス的に再現が出来ない箇所や、状況に応じて他の人間の剣技を使う。様々な模倣した技術を適切なタイミングで使ってくるため、予想が出来ず、相対する人間からすれば前衛職であっても対処は困難を極める。

 ……しかし、それでもアルフィアは決して前衛職ではない。ザルドと剣で戦えば勝てる筈もない。そこには剣技というものの奥深さと、前衛としての感覚、そして明確なステイタスの差があるからだ。

 

 

 では、ラフォリアの方はどうか。

 

 

『そう寂しいことを言ってくれるな!お前を剣で打ち負かすために、私がどれほどこれに打ち込んだと思っている……!!』

 

 

 ラフォリアは後衛型ではない、万能型だ。

 前衛職も後衛職も十二分にこなす、そうするためにステイタスもまた徹底的に万能に突き詰めて来た。全てのステイタスが高水準に纏まっており、元の傾向的に魔力にステイタスが偏るため、敢えてそれ以外を中心に努力をして来た。前衛としてのステイタスは単純にアルフィアより上である。

 

 そして同時に、ラフォリアはザルドから教わったその剣技を、そのままにはしなかった。当然他の技術も多く学んだ、しかしそれでは達人の技術を一眼で模倣するアルフィアに対しては付け焼き刃にしかならない。故に単純に突き抜けたものが1つは必要だった。よってザルドから教わったその剣技を、自己流に改造している。模倣故にステイタス的に再現出来ない部分を、他の模倣ではなく自己流にすることで補っていた。

 つまりは彼女はアルフィアとは違い、剣技の道を歩んでいるのだ。それを単なる手段の1つとはせず、それこそ物理反射を使いながらではあっても、オッタルと打ち合える程度には磨いていた。……否、物理反射ありきでの剣技を切り開いている。

 

 故に……

 

 

「っ……ぐぅっ!?」

 

 

『その技は……なんだったか、歌劇の都に行った時に似たようなものを見たな』

 

 

「一閃……!!」

 

 

『っ……それは極東だ』

 

 

「フルード……!!」

 

 

『それは初めて見たが……オッタルの方が早かったな』

 

 

「ぁぐっ……!?」

 

 

 近接戦闘における経験、知識、対応力。そして何なら物理反射という魔法も含めて、剣技においてアルフィアに勝ち目などなかった。7年の月日というのは、天才という人種において、それほどに長過ぎるものであった。

 

 

『ふむ……とは言え、まあここまでは当然の話か。これでお前に勝てなければ、そもそも前提が成り立たない』

 

 

「……言ってくれる」

 

 

『なに、物理反射があってさえお前に勝てなかった私の方が弱過ぎただけの話だ。故に真に重要なのは、お前が魔法を使い始めてからの話』

 

 

「……」

 

 

『まさか今更私に魔法が使えない、などとは言ってくれるなよ。そんなことを言われてしまったら、私は自分でも何をするのか分からない』

 

 

「っ」

 

 

 そしてそれこそ、アルフィアがこの戦いに素直に臨むことが出来なかった理由の1つ。

 

 

 アルフィアは、ラフォリアに音魔法を撃てない。

 

 

 撃てるはずがない。だってそれが原因でラフォリアはこれほどまでに苦しむことになったのだから。どころかラフォリアの側では他の魔法であっても絶対に使わなかったし、なんなら他の誰に対しても冗談で魔法を向けることが出来なくなった。

 オラリオへ『絶対悪』として牙を剥いた時、冒険者達にこの魔法を向ける度に、アルフィアは自分の心がその度に軋んでいたことを理解している。そうして殺してしまった者達を見ないように、ずっと目を閉じていた。それでも心は痛み、最後の死の際にはまるでそれから解放されるように何の躊躇もなく身を投げ出してしまった。……その後に後悔したのも、きっと、犯した罪を考えれば当然の罰であって。

 

 

『……アルフィア』

 

 

「……」

 

 

『……そうか』

 

 

「……」

 

 

 

 

 

『やはりお前にとって、私はその程度の存在か』

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 けれどラフォリアは、それを許してはくれなかった。そんなことを許してくれるほど彼女は温和ではなかったし、そんなことを許してくれるほど彼女は自分の母親に対して柔らかな感情を抱いてはいなかった。

 

 

『アルフィア、お前は何のためにそこに立っている』

 

 

「それ、は……」

 

 

『お前が何と言おうとも、私は生き返るつもりなどない。そしてお前も力づくにでも私に言うことを聞かせるつもりがないのなら、この話はここで終わりだろう』

 

 

「っ」

 

 

『帰ってくれ、アルフィア。私は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

 

 一瞬俯き目を閉じたラフォリアの真横を、凄まじい衝撃波を伴いながら轟音が通り過ぎる。

 それに目を見開いたのは当然ラフォリアだ。これまでの前提の全てを覆す様なその行動に、戸惑い、困惑すらしている。なにせ目の前の女はそれまで明らかに魔法を撃てないような言動をしていた。というのに、撃ったのだ。まるで今正に人が変わってしまったかのように。

 

 

『お前、本当にどういうつもりだ……?頭が狂ったのか』

 

 

「…………確かに、未だに抵抗があるのは事実だ」

 

 

『……』

 

 

「だがな、またお前に"愛されていない"と思わせるくらいなら……私は自分の心臓を握り潰したっていい」

 

 

『っ』

 

 

「あまり母親を舐めるなよ、馬鹿娘。私はお前を連れ戻すためにここに来た。……そもそも、お前ならば音魔法への耐性くらい既に身に付けているだろう。無策で挑んで来る筈もない。容赦などする必要もない、と5秒前に思い至った」

 

 

『……娘への理解が深くて助かるな、お母様』

 

 

「抜かせ」

 

 

 直後、両者が取った行動は真逆。

 

 

『爆砕(イクスプロジア)』

 

 

「魂の平穏(アタラクシア)」

 

 

 ラフォリアは爆破魔法を向けながら一気にその距離を詰め、アルフィアは距離を離すために背後にステップを踏みながら魔法無効の障壁を展開する。

 

 

『死鏡の光(エインガー)』

 

 

「チッ、福音(ゴスペル)」

 

 

 しかし生じた爆破は無効化されることなく、アルフィアとラフォリアを挟むような位置で土煙を巻き上げるように破裂した。それは決して攻撃のための爆破ではなく、物理反射の障壁を展開するためのもの。その意図を理解した瞬間に土煙に向けてアルフィアは音魔法の砲撃を放つが、当然そこに既にラフォリアは居ない。

 

 

「っ、分かりやすい太刀筋だ」

 

 

『この天災め……もう私の剣を把握したか』

 

 

「長期戦になればお前に勝ち目はない、それは誰よりお前が分かっているだろう」

 

 

『ほう?この日のために用意してきた策は120ほどあるが、それでもか?』

 

 

「……馬鹿だろう、お前」

 

 

『時には馬鹿になることも必要だと、とある大馬鹿者から教わったものでな……!!』

 

 

 魔法と剣技の応酬。

 2人の特徴的な魔法構成は、その戦闘をあまりに当然の形へと変えていく。

 

 魔法を無効化するアルフィアに対して、ラフォリアが勝つ手段は物理攻撃以外に他にない。一方で物理攻撃を反射するラフォリアに対して、アルフィアが勝つ手段は魔法攻撃以外に他にない。

 そしてアルフィアの音魔法は言うまでもなく強力だ、かつてのガレスすら1発でノックアウトしたほどの馬鹿げた威力。例えるならチャージを終えたベルのファイアボルトが連射されているようなものだ。掠めるだけでも致命的。

 一方でラフォリアの物理攻撃もまた強力だ。刃物とステイタスという要素はあるが、何より恐ろしいのは彼女の拳や蹴りといった肉体的な接触。物理反射により彼女の突きは威力が単純に2倍になる、それはLv.7のオッタルにさえ顔面への回し蹴りで致命的なダメージを与えたほど。決して前衛職でないアルフィアでは、まともに喰らえばそこで終わる。

 

 

『爆砕(イクスプロジア)』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 目眩しや地形破壊のための爆破魔法と、音魔法。

 距離を離し、近付き、それを繰り返しながら2人は森の中を徹底的に荒らしていく。たった2人の人間が起こしているとは思えないほどの非常に効率的な破壊、その光景は離れた高台から見守っていたアルテミスが冷汗を流すほどのものだった。……もちろん、冷汗を流しているのは決してアルテミスだけではない。

 

 

「とは言え!お前が不利なことに変わりはない……!いつまでもそう避け続けて居られるものか!」

 

 

『ああ、そうだな。……だからこそ、私にはこれがある』

 

 

「なに……?」

 

 

 

 

『……灼熱の激心、雷撃の暴心、我が怒りの矛先に揺らぐ聖鐘は笑う』

 

 

 

 

「っ、3つ目の魔法か……!!」

 

 

 アルフィアはその魔法の存在を知っている。けれどその魔法を彼女があまり好いていなかったこともまた知っている。……否、魔法自体は有益だと思っていたが、その詠唱文を気に入らないと思っていたことを知っている。

 そしてラフォリアと対峙するに際して、何より警戒すべき魔法がそれであったことも、当然に承知している。あのオッタルでさえ、その魔法だけは決して発動させてはならないと行動を起こしたくらいなのだから。そのせいでフレイヤ・ファミリアは壊滅したのだから。

 

 

『泡沫の禊、浄化の光、静寂の園に鳴り響く天の音色こそ私の夢』

 

 

「並行詠唱まで身に付けたか……!福音(ゴスペル)!!」

 

 

 攻めの手を止め、アルフィアの音魔法を樹々を使いながら避け、防ぎ、それほどの複雑な行動をしながらもラフォリアは容易く並行詠唱を紡いでいく。

 少なくともアルフィアが知っている限りでは、ラフォリアはこの魔法を並行詠唱することは出来なかった。そしてそれはフレイヤ・ファミリアと対峙した時でさえもそうだった。

 

 

『故に代償は要らず、犠牲も要らず、対価を求める一切を私は赦さない』

 

 

 それでも現在こうして出来るようになっているのは、ロキ・ファミリアを中心とした他の冒険者達と行動するにあたって、この魔法があまりに有益であったからである。

 他者を守る、集団を率いるという場面で、この魔法はあまりに便利なものであった。他者を癒すということが、彼女の人生の中でとても有益なものになった。オラリオに来て彼女の生き方がそう変わった。……故に詠唱文の気に入らなさを捨ててでも、ラフォリアはこの魔法を使うようになった。やろうとすれば出来たその努力を、する踏ん切りが付いた。

 

 

 

 

 

『これより全ての原罪を引き受ける。月灯に濡れた我が身を見るな』

 

 

 

「チィッ、やはり無理か……!」

 

 

 

『泣け、月静華』

 

 

 

 

 

 

 

 

【クレセント・アルカナム】

 

 

 

 超長文詠唱:クレセント・アルカナム。

 回復魔法に分類されるそれは、一時的に月の光を召喚する。正に"神の力(アルカナム)"と名を付けられるに相応しい超常現象。術者が対象とした人物に対し傷と病を治癒する効果があり、天井の存在しない状況であれば対象範囲と対象人数は凄まじいものになる。故に治療効果はそれほど強くはなく、消費魔力も多くはあるものの、なにより有益な効果はそれではない。

 

 

「……魔法防御力を、向上させたか」

 

 

 アルフィアのような魔法無効でないだけマシ。

 そう言うことは簡単だが、事実は違う。物理攻撃を反射し、魔法攻撃を軽減する。つまり防御面だけで言えば、現在の彼女は都市最高峰の前衛であるガレスやオッタルをも容易く上回る。特に魔法に慣れ、月の光のコントロールを可能にしたラフォリアは、その光を自身に一点集中させることで更にその効果を向上させている。

 ……加えて、恩恵の昇華の度に馬鹿の一つ覚えのように上げ続けた魔防の発展アビリティ。そもそもこんな魔法を使わなくとも、彼女の魔法防御力は高かったのだ。

 

 

「いや、それだけではない……」

 

 

『……』

 

 

「お前、何のスキルが発動している……?私の感覚が正しければ、既に何度かお前の身体に砲撃が掠めているはずだ」

 

 

『……くく、バレていたか』

 

 

 

 

 

 

 【魂園破音】

・特定条件下でのみ発動。

・魔法被弾時、音魔法に対する耐性を強化。

・魔法被弾時、発展アビリティ"魔防"の強化。

・魔法被弾時、発展アビリティ"治力"の一時発現。

 

 

 

 

『特定の条件は……まあ、言うまでもないか』

 

 

「お前……こんな私にしか使えないようなスキルを……」

 

 

『仕方ないだろう、そうまでしてでも勝ちたかったんだ。まあこのスキルが発現した時には、もう使える時など来ないと思っていたのだがな。役に立って私は嬉しいぞ』

 

 

 

 軽口を叩いてはいるものの、アルフィアの額から流れる冷汗。そして歪む顔。その反面、ラフォリアは酷く楽しそうに笑っていた。そんな苦しげなアルフィアの顔を見て、本当に楽しそうに。

 

 

 

『さあ、アルフィア……"シレンティウム・エデン"を解いて威力減衰のない"サタナス・ヴェーリオン"を試してみるのか、それとも魔法無効を保ったまま私の全ての策を打ち破ってみるのか。好きな方を選べ。どちらにしても、私は最後まで付き合ってやれるぞ』

 

 

「……」

 

 

『もちろん、"ジェノス・アンジェラス"を放ってもいい。それを相殺出来る手段も、私は用意して来たつもりだ』

 

 

「……愛が重過ぎるぞ、この馬鹿娘め」

 

 

 魔法の詠唱文や効果どころか、名前すら全て把握して対策を用意して来た娘に、アルフィアは素直に笑みを返すことなど出来なかった。

 

 どうやら、この戦いに対する本気度すらも、アルフィアは負けていたらしい。まあここまでいくとラフォリアの方が明らかに異常なのだろうが……少なくともアルフィアにはこの時点で、自分が勝てる未来が想像し難くなってしまっていた。

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