【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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ギリギリ間に合いました……3時間しか余裕無くて……
誤字訂正いつもありがとうございます、ほんと助かっています……


被害者61:撃災

 

「さあ、行くか」

 

 

 洞窟から出たのは、結局のところ次の日の夕暮れであった。

 つまりは制限時間ギリギリ、仮にベル達が上手くやっていたのなら全てが解決されていてもおかしくない。そんな時間に、アルフィアは娘の元へ足を運んだ。十分な休息が必要だと考えたからだ。それ以外の理由は特にない。

 

 加えてオッタルとアルテミスは当然ながら着いては来ない、今回も遠く離れた場所から戦いの様子を見守っている。あれから諸々のことがベル達の方ではあったようだが、3人はそれにも触れることはなかった。ただじっと身体を休め、その時を待った。今この瞬間を、待ち続けた。

 

 

『……遅かったなアルフィア、あのまま諦めたかと思ったが』

 

 

「悪かったな、寂しい思いをさせて」

 

 

『……なるほど、冗談を言えるくらいには回復したらしい』

 

 

 もしかすれば、あの時から今の今まで彼女はずっとそうしていたのか。ラフォリアが見上げていたヘスティアの神殿は未だにそこに何の変わりもなく存在している。

 どうやらまだ時間はあるらしい。少なくともアルフィアは2度目の立会いとなる今回に、それほど多くの時間をかけるつもりは無かったが、それでも心配であったことに間違いはない。……もしかすればラフォリアもまたそうだったかもしれないが、それは本人以外には分からないこと。気にしても仕方ないことを、今のアルフィアは特に気にすることもしない。

 

 

『それで?私に勝つ算段でもついたか?』

 

 

「さあ、どうだろうな。どちらにしても私には勝つ以外の選択肢など存在しない。算段があろうが無かろうが、やることは同じだ」

 

 

『……それもそうか』

 

 

「ああ、だから無理に話す必要もない。そうだろう?」

 

 

 言葉は少ない、しかしそれも当然。話すべきことなどもう既に話し終えている。互いの意見が噛み合わない以上は、譲ることが出来ない以上は、もう無理矢理に相手に言うことを聞かせるしかない。それが1番簡単で、それが1番丸く収まる。

 

 

「『………』』

 

 

 互いに全く同じ剣を引き抜く。 

 間合いは遠い、つまり優位があるのはアルフィアの方。

 

 

『死鏡の光(エインガー)』

 

「魂の平静(アタラクシア)」

 

 

 物理攻撃の反射、魔法の無効化、似ていながらも全く逆の性質を持つ付与魔法を、2人は目を交わしながらも発動した。

 相手がどう動くのか、それを伺うのはラフォリアの方である。攻めるのはアルフィア、攻める理由があるのがアルフィアだからだ。ラフォリアはこのままヘスティアを待って立ち尽くしていてもいいのだから。こうなるのは必然。

 

 そして今この瞬間までの1日半もの間の休息時間、まさか単に傷を癒すためだけに使った訳でもあるまい。アルテミス等の自分以外の者達の言葉も踏まえて、導き出した勝利への工程。アルフィアがその手始めとして作り出した1つめの策とは……

 

 

 

 

 

 

【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪……】

 

 

 

『そう来たか……!!』

 

 

 アルフィア最大最強の魔法『ジェノス・アンジェラス』の初手ぶっぱ。詠唱速度を調整しながらも、その中で込められるだけの全力の魔力を込めた一撃を、何の迷いもなく彼女は準備し始める。遠い間合いを利用して、背後にステップを踏みながら詠唱だけを続けていく。

 それこそが彼女が採用したラフォリア対策である。

 

 

【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】

 

 

 前提として、彼女がこれを選んだのには2つの理由があった。

 

 まず1つ目として、同じ長文詠唱であってもアルフィアの方が詠唱が早いという事実。ラフォリアも並行詠唱が出来るようになったとは言え、それでも練度で言えばアルフィアの方が上だ。既にラフォリアの最速の詠唱を知っていたアルフィアは、それを少し上回る速さで可能な限りの魔力を込めて詠唱を紡いでいく。

 

 

【神々の喇叭、精霊の竪琴、光の旋律、すなわち罪禍の烙印】

 

 

 そして2つ目の理由、それはラフォリアのスキルにある。音魔法に対する耐性を引き上げるスキル『魂園破音(ラフフィオラ)』の発動条件は、魔法被弾時である。つまり1度魔法を受けた後に効果を発揮するということ。故にラフォリアの防御が最も薄いのは何より初手なのである。初手から最大の魔法をぶち当てる事こそが攻略の鍵。

 

 

 ……その筈だった。

 

 

 

 (まあ、やはり何かしら対策はあるか……)

 

 

 

【箱庭に愛されし我が運命よ砕け散れ。私は貴様を憎んでいる!】

 

 

 恐ろしいのは、その2つの理由をラフォリア自身もまた完全に把握しており、アルフィアの詠唱を聞いた瞬間に魔法防御力を上げる『クレセント・アルカナム』を発動させるという選択肢を何の迷いもなく切り捨てたこと。

 彼女はアルフィアを追いかけながら右手を前に出し、何かに集中するように目を細めている。そしてアルフィアも馬鹿ではない、確実にジェノス・アンジェラスの発動は邪魔されるのだろう。むしろ邪魔出来なければこのままアルフィアの勝ちなのだから、ラフォリアは確実に手は打って来る。それに何かしら策があることは分かっていたが、これほどまでに冷静なラフォリアのその様子を見てしまえば、それはもう間違いないというレベルで……

 

 

 

【代償はここに。罪の証をもって万物を滅す】

 

 

 

 

 

 

 

『見えた』

 

 

 

 

 

 

【哭け、聖鐘……】

 

 

 

 

 

『爆砕(イクスプロジア)』

 

 

 

 

「くっ……!?」

 

 

 

 正に直前。それまで高め上げた魔力を一瞬にして沈静の方へと引き戻し、アルフィアは口を閉じて身体ごと思いっきり飛び込みながら顔を背後に向ける。

 生じたのは小規模の爆発、ただそれだけ。地面へ向けてダイブするほどの反応をしたにも拘わらず、生じた爆破の規模はあまりにもショボイ。それこそアルフィアの背後で起きたそれは、普段であれば何の警戒もしない程度のものだろう。魔法無効を敷いていなくとも、問題ないくらいの。

 

 

『……ほう、まるで知っていたような動きだな』

 

 

「チッ、やはりお前に対して長文詠唱は使えないようだな」

 

 

『むしろ対策していない方が愚かだろう。私はお前を倒すために努力して来たのだから』

 

 

 まあ、知っていたとも。

 

 知っていなければ、まんまと引っ掛かっていた。

 

 

 口の中を範囲指定した起爆。

 

 

 魔法殺しとも言えるそれを、アルフィアはオッタルから事前に聞かされていた。なにせオッタルもまたそれを食らい、結局あの戦いの中で彼は魔法を使うことが出来なくなってしまったのだから。誰よりもその恐ろしさは身に沁みていたし、何より先にそれを忠告した。魔法使いであるアルフィアにこそ有効的に働く技術であると、明らかだったから。

 

 

『私の魔法は指定した空間を起爆する。……付与魔法は所詮、身体の表面に纏っているに過ぎないからな。口の中に入り込もうとする魔法であればまだしも、空間そのものを起爆する魔法を防ぐことはできない』

 

 

「その様子では口を覆っていても意味がないな?」

 

 

『当然だ、そのために3次元的な空間指定に思考の大半を割いている。お前が人間の身体を持っている限り、そこに空間は存在する。……何れは臓器の内部を空間指定出来るようになりたいところだが、今の私ではまだ戦闘中にそこまでの演算処理は出来んのでな。そう残念がるなよ』

 

 

「っ、この天才め……」

 

 

 つまりは、停止している相手であれば既にそれが出来る段階には至っているということ。敵を身体の内部から安定して起爆出来るようになれば、それこそ彼女は最強の存在になるだろう。……それは彼女の魔法の特性に加えて、その才能故に実現可能なことであるのだろうが。

 一先ず、少なくとも現状でさえ、口を多く開く長文詠唱を彼女の目の前でしようとすれば、容易くそこを空間指定されてしまうということ。口元を覆っても意味がないというのも、恐らく空間指定の起点を鼻や目等を含めて行えるように演算体系を確立しているからだ。これに対抗するには可能な限り口の中の空間を無くすよう意識するしかないが、そうなると詠唱が出来なくなる。超短文詠唱ならばまだしも、長文詠唱は絶対に不可能だ。この技術だけでリヴェリアなんかは完封されてもおかしくない。

 

 

『さあ、まさかこれで終わりということはあるまい……!』

 

 

「なに、そこまで失望させるつもりはない……!」

 

 

 当然、ジェノス・アンジェラスによる初手砲撃は捨てる。そもそも所詮は当てられたらいいな程度の試しだった、それが出来なくなっても問題はない。

 アルフィアの詠唱文を知られていたこともまた空間指定を容易くさせてしまっていた要因かもしれないが、ここまで繊細な操作はラフォリア自身も言っていた通り、戦闘中に行うのは至難の業だ。一先ず今後に影響することはないだろう。

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『それがどうした!』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『はっ、何度も同じことを……』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『っ……』

 

 

 一転変わって近距離戦闘。アルフィアは剣をぶつけ合いながら、衝突の瞬間にサタナス・ヴェーリオンを連射し始める。それこそまるで魔法の斬撃を放っているかのように、近距離戦闘に強引に魔法を捩じ込んでいく。そこにもやはり一切の迷いはない。

 

 

『くっ……灼熱の激心、雷撃の暴心、我が怒りの矛先に揺らぐ聖鐘は笑う』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『泡沫の禊、浄化の光、静寂の園に鳴り響く天の音色こそ私の夢』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『故に代償は要らず、犠牲も要らず、対価を求める一切を私は赦さない』

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『っ……これより全ての原罪を引き受ける。月灯に濡れた我が身を見るな!!』

 

 

 たとえスキルで軽減していても、決してダメージにならないということはない。燃費も何もかもを無視してとにかく狂ったように音魔法を撃ってくるアルフィアに対し、ラフォリアは堪らず長文詠唱を始めた。

 しかしそれでもアルフィアの連射は止まらない。先程までとは違い、むしろ自分から不利な近距離戦闘を仕掛けて行き、剣技で負けていようとも数に任せて魔法を当ててくる。

 

 

 

『泣け、月静華ーークレセント・アルカナム』

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 完成した第三魔法:クレセント・アルカナム。召喚された月の光は暗くなり始めた空から2人を照らし出し、ラフォリアに向けて月の加護を与え始める。自動回復と魔法防御力の向上、彼女以上に魔法防御力を与えてはいけない者は居ないだろうに……

 

 

 だが、それでも今回のアルフィアは本気だ。

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

『そんなものはもう……!!』

 

 

 

 

 

【炸響(ルギオ)】

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

 スペルキー、その場に残っている音の魔力を起爆させるアルフィアのそれ。彼女の脅威的な砲撃はそれによって二段構えの砲撃と化すことで有名であるが、今回ばかりはその目的が違う。

 とにかく連射しラフォリアに当てまくったそれは、2人を中心に広く音の魔力として広がっていた。故に現状での起爆というのは、2人を中心とした広範囲を爆破させることに等しい。そしてその中でアルフィアだけは無傷、そもそも魔法が通用しないのだから、自分の魔法さえ無効化することは容易い。……故に。

 

 

「ふっ!!」

 

 

『チィッ……!!』

 

 

 爆破の瞬間、アルフィアはラフォリアの右肩を斬りつけた。もちろん、それでもやはり致命的になるほどのダメージを与えることは出来ず、そこに切り傷を付ける程度。

 一度間合いを取ったラフォリアは直ぐ様に傷口に月の光を集めると、やはり容易く回復し始めてしまう。この程度では戦況を優位に進めることなど出来やしない。

 

 

 

 

「まあ、普通ならな」

 

 

 

『……?お前は一体何を…………っ!?』

 

 

 

「さて、どれくらい効果があるものか」

 

 

 

『貴様………ッ、毒を塗ったな!?刃先に!!』

 

 

 

 ポイズン・ウェルムスの毒。それはオッタルがここに来る前にダンジョンで拾ったドロップ品であり、彼が換金すらせず単身でここに乗り込んで来たが故に残っていた品である。海水で駄目になっていなかったことが奇跡に近い。

 

 ……実際、これも対策の1つである。

 

 ラフォリアはこれまでのレベルアップの際、とにかく魔防の発展アビリティを上げ続けて来た。故に同レベルの冒険者と比較しても、対異常のアビリティがそれほど高くないのだ。

 

 

『普通、元病人に……毒など使うか……?』

 

 

「普通なら使わん。だがお前のその魔法は病や毒すら治療するのだろう、死ぬことはあるまい」

 

 

『くっ……』

 

 

 その証拠に傷の治りが遅くなっていく。つまりそれは優先して毒の治療をし始めたということだ。この程度の毒で死ぬようなことは絶対にない。なにせ彼女は同じポイズン・ウェルミスの毒に侵されたロキ・ファミリアの団員達を助けたことだってあるのだから。

 

 それに加えて。

 

 

 

『……………ァァアルフィアァァァアアア!!!!!』

 

 

 

「……まあ、そう来るだろうな」

 

 

 スキル【激震怒帝(グランド・バーン)】、これこそラフォリアという冒険者が対異常をそれほど上げなくともダンジョン内で十二分に活動出来た理由の1つである。

 怒りに応じて全能力を上げるだけでなく、全ての耐性を上げるという、あまりにぶっ壊れた効果を持つそれは。常に何かに対する怒りを抱えていた彼女にこそ最適なスキルでもあった。

 

 そして毒に侵された彼女は、怒りによって再び動きを取り戻す。どころかそれ以上の力を持って、圧力を持って、アルフィアの前に立ち上がる。たとえポイズン・ウェルミスの毒であろうとも、彼女のその足を止める理由になどなりはしない。

 

 

 

「さて、ここからは泥沼だな……来い、ラフォリア。それ以外に言うことはない」

 

 

 

『叩き潰す……!!』

 

 

 

 そこから先は、アルフィアの言う通り本当に泥沼であった。

 怒り狂ったラフォリアからアルフィアは逃げ続け、とにかく音魔法を撃ちまくる。ラフォリアは今更そんな大してダメージにもなりもしない音魔法など完全に無視をして、とにかく剣を叩き付ける。

 

 そんな泥沼。

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

「炸響(ルギオ)」

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

「福音(ゴスペル)」

 

 

 

 

『あぁ!!くどい!!』

 

 

 

「っ……炸響(ルギオ)」

 

 

 

 溜まりに溜まった音の魔力を起爆し、アルフィアは再び距離を取る。既に周辺の木々はその殆どが倒れており、森であったにも拘わらず立っている木の方が少ないのではないかというくらい。

 感知手段がないことを良いことに身を隠したりなんなり試してはみたものの、やはり同じ天才であるラフォリアに対してはそれほど効果は見られなかった。予想出来たことではあるが、余裕など何処にもない。一瞬でも気を抜けば叩き切られる。それほどの実力差が、今のラフォリアとアルフィアの間にはある。

 

 

「はぁ、はぁ……互いに息も、絶え絶え、という感じ、だな」

 

 

『お前は……そんなに私を、怒らせて……楽しいか……!!』

 

 

「ふふ、馬鹿を言うな……こんなことの、何が楽しい、ものか……んぐっ」

 

 

『っ、精神回復薬か……!』

 

 

「……やれやれ、相変わらず不味い薬だ」

 

 

 飲み干した2本分の管を投げ捨てる。基本的に魔力消費の激しさが疲労の理由であったが故に荒い息も大分落ち着きはしたものの、それでも現状をひっくり返せるほどのものではない。それはアルフィアだってラフォリアだって分かっていることだ。故にラフォリアは何処か不満げな顔をしながらも何も言わないし、アルフィアも決して油断はしない。ただ目の前の娘の顔を見つめ、剣を握る。

 

 

「さてラフォリア、1つ聞かせて欲しい」

 

 

『……今更、なんだ』

 

 

「今の私を、お前はどう思う?」

 

 

『………』

 

 

「ふふっ」

 

 その問いに対し、ラフォリアは何も答えない。ただ口を結び、けれど険しい表情を隠すこともなく睨み付けてくるばかり。それに対してアルフィアは苦笑した。

 だがまあ、それもそうだろう。自分がやっていることに対して、アルフィア自身も未だに受け入れ難いところはある。回復薬はまだしも、娘に毒まで使って。本当に最低だ。母親として失格にも程がある。それを言わないだけラフォリアの優しさであるとも知っている。故に本当に優しい娘であるとも、思っている。

 

 

「だがまあ、頃合いだな」

 

 

『なに……?』

 

 

 だからこそ、ここまでだ。

 争うのはもう、ここまででいい。

 もうひっくり返す手段など、アルフィアの中には残っていない。完全なお手上げ、逆転の手段など可能性さえ完全に潰えた。魔法を使って変えられるものなど、もうここにはない。

 

 

「……私はなラフォリア、1つ決めてきたことがある。もしここでお前を連れ戻せないのなら、ここで私の命を断つということだ」

 

 

『……は?』

 

 

「それくらいの気概で挑む、そう言うことは容易い。だが私の場合、今更自分の何もかもが信用出来ない。故に決めてきたんだ。それくらいの気概で挑むのではなく、実際にそうしなければならないと」

 

 

『待て……お前は、何を言っている。なんだ、遂に頭がおかしくなったのか。お前の言っていることが私には何も理解出来ない』

 

 

「なに、別に難しい話ではない。これ以上やったところで私に勝ち目などない、それが分かった。やはり世の中それほど上手くはいかないということだ、簡単ではない」

 

 

『なんだ……何が言いたい?お前は本当に何をするつもりだ!?』

 

 

「ラフォリア、しっかりと私の目を見ていろよ。私は本気だ」

 

 

『っ!?』

 

 

 そんな自分で言っていても意味不明なことを言葉にしながら、アルフィアは剣を逆手に両手でしっかりと持つ。切先は自分の腹部の中心に、両膝を地面に付けて呼吸を1つ置いた。

 ……ラフォリアは動かない。その目の中から酷い困惑が伝わって来る。強い混乱が伝わって来る。それは分からないだろう、何も。何の脈絡もないのだから。しかしだからこそなのだ。何の脈絡もないからこそ、意味があるのだ。

 

 

 

 アルフィアはそのまま両手を大きく振り上げる。

 

 迷いはない、そんなものは捨てて来た。

 

 結局こうなった、分かっていたことだ。

 

 何もかも失敗したのだから、当然の結末だ。

 

 むしろこの瞬間のために、全てはあった。

 

 

 

 

 

「……ラフォリア、すまなかった。私はお前のことを本当に愛している」

 

 

 

『アル、フィア……?』

 

 

 

「またな」

 

 

 

『待て!!ふざけるな……!!!』

 

 

 

 アルフィアは何の迷いもなく、その剣を自身の腹部の中央に向けて振り下ろす。直前で止めたりすることもない。自身の力の限り、全力を持って自害を決行した。

 

 自分で自分の命を終えることを、決断した。

 

 

 

『アルフィア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり優しい子だな、お前は」

 

 

 

 飛び込んで来た娘に、剣を弾かれる。

 

 

 直後、アルフィアは娘の右手首を叩き剣を落とすと、そのまま唖然とする彼女を無理矢理に押し倒し、自身の身体を使って両手足を絡め取った。

 

 

『?……??……???』

 

 

 何が起きたのか分かっていないラフォリア。

 

 

 思考が追い付かず、されるがままに手足を取られる。

 

 

 武器も落とされ、地面に磔にされる。

 

 

 ……その結果としてあるのは、今正に自害を図ろうとしていた母親の顔が、直ぐ目の前にあるということだけ。

 

 

 そして自分の身体はもう……少したりとも、動かすことが出来なくなっていて。

 

 

 

 

「ようやく捕まえたぞ、この馬鹿娘め」

 

 

 

『あ……え……?』

 

 

 

「ふふ……いや、今はこう言ってやろう。この愛娘め」

 

 

 

 怒りも吹き飛び、既に体力の底も見え始めてしまっていた今のラフォリアは。むしろ気力や精神さえも奪われて、心さえも奪われて……

 ただただ嬉しそうな笑みを浮かべる、月明かりを背負った母の目を見ていることしか出来なかった。

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