【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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もう一波乱です。


被害者63:静寂

「……ありがとう、誇り高い美の眷属」

 

 

 その膝を突き、衣服が汚れることさえ躊躇わず、ただただ心からの感謝の意を示す。

 目の前に横たわる1人の女の遺体。痛むことのないように丁寧に保存されていたそれに対してアルフィアは、本当に感謝以外の言葉が見つからない。その女性と言葉を交わしたことがないのは、その内面を知ることがなかったのは、残念なことなのか、それとも幸福なことなのか。しかしどちらにしても、彼女の選択は間違いなく尊ばれるべきものだ。

 

 

「……死後の自分の身体を明け渡すなんて、なかなか出来ることじゃない」

 

 

「ああ、だからこそ丁寧に弔いたい。……弔うと言っても、ただ感謝を伝えることくらいしか出来ないが」

 

 

 育った文化にもよるかもしれないが、国によっては死体というのは死した人々が最後に帰ってくる場所であると主張する者も居る。それほどでなくとも、死んだ後もそこに彼等は残っていて、それを傷付けることは故人を傷付けると同義であると考える者も多いのが実際だ。

 それも別の人間に譲り渡すなど、拒否感を持つ人間の方が多いくらいだろうに。それを迷うことなく申し出てくれたというのなら、その人物を忘れることなど許されないだろう。他でもないアルフィアは、当然に。

 

 

「……そういえば、あの猪はどうした」

 

 

「何処かに行ってしまったよ。……最初に会うべきなのは自分ではないって、そんなことを言っていたかな」

 

 

「……そうか。まああの男の主義主張などどうでもいい、どうせ気持ちの悪い話になる。居ないなら居ないでこのまま進めなければな、もうそれほど時間に余裕も無い」

 

 

 ヘスティアの分身がラフォリアに話していた内容からすれば、そろそろベル達の方も何かしらの結末を迎える頃合。それがどうなったとしても、結末を迎えた時点でヘスティアの加護は消えるだろう。そうなってはもう何も出来なくなってしまう、これはヘスティアの加護ありきでの策なのだから。

 ヘスティアが十全に力を行使出来る今のうちでなければ、ラフォリアを生き返らせることなど出来ない。

 

 

「ふむ、なるほど……そうなったんだね、彼女は」

 

 

「ああ、今はこの結晶の中で眠っている。お節介な男神の力も入っているようだが、それについての問題はない。私が保証する。……それで?これを飲ませればいいのか?」

 

 

「いや、彼女の胸の上に置くだけで良いと思うよ。そこから先はヘスティアが上手くやってくれるさ」

 

 

「……そうか、であれば後は任せよう」

 

 

 アルフィアが大切に持っているその真っ白な宝石こそ、今のラフォリアの姿である。元より仮初の身体。それを他者の肉体の中に入れるとなれば、まあこういう形にするしかないだろう。

 

 アルフィアはその宝石を彼女の胸の上に置く。

 

 もしこれで他に何か不足しているものがあれば、もうどうしようもないが。しかしエレボスからの補完もあり、ヘスティアが責任を持つと言っている。そして少し心配だが、他でもない神であるアフロディーテとアポロン、そしてアルテミスが用意した状況でもある。

 

 ……だから、後はもう信じるだけだ。

 

 アルフィアに出来ることは、もうこれ以上はない。

 

 

 

「大丈夫だよ、アルフィア」

 

 

「アルテミス……」

 

 

 それでも"もしも"のことを考えてしまい、不安そうな顔をしたアルフィアに対してアルテミスは隣に座って声を掛けた。分かるとも、そしてそれが嬉しくも思う。

 漸く気付き、ようやく花開いたその愛情。アルフィアのラフォリアに対する想いは、これまでの比ではない。そこに僅か1%でも最悪の可能性がある以上は、絶対に心を休めることなど出来ない。……それは確かに辛いことではあるけれど、そうなることができたということでもある。次があると考えるのではなく、次があっても今を絶対に取りたい。心からそう願っている、そのためならどんな努力だって出来る。そして実際にそのための努力を彼女はした。ならばもう、誰だってその"愛"を認めるとも。

 

 

「だってラフォリアは、帰って来ると言ってくれたんだろう?それなら帰って来るさ。……どんな手段を使っても、絶対に」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

「だって君達は、ようやく親子になれたんだから」

 

 

 

 その時、光を放ち始めた宝石と肉体。

 

 起き始めた変化に思わず息を止めるが、変化は微少。

 

 きっともう少し時間がかかるのだろう。

 

 故にアルフィアは、ただ待つ。

 

 アルテミスに背中を摩られながら、待つ。

 

 祈りながら。

 

 願いながら。

 

 ただその時を、待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ」

 

 

 

「おい……身体が消えたんだが」

 

 

 

 

 

 なお、何事も上手く行くとは限らないのは。

 

 

 きっと天界でも下界でも変わることのない事実の1つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!ラフォリアくん助けてぇぇぇえええええええ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

「こんの馬鹿乳がぁぁぁああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 例えば。

 

 信じてくれた眷属達の力を借りて汚れた炎を祓うことを決意したとして。それを祓うために幾つもの偶然が重なり、そこに"神の力"さえ増幅させる奇跡的なスキルを持つ『ベル・クラネル』という少年が居たとして。

 

 だからと言って、何もかもがうまく行くはずもなく。

 

 

 例えば。

 

 想定していたよりも炎の勢いが大き過ぎて、チャージを終えた最大最強の一撃である"聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)でさえも拮抗にさえ届かなくて。

 

 それでも諦めたくないと。

 そう願って。

 そう思って。

 立ち向かうとして。

 

 

 ……そんな時に、丁度必要なパーツが全て揃い、復活が可能になった1人の天才が手元に居たとしたら。

 

 

 それに頼ってしまったとしても、一体誰が責められよう。

 

 

 

「ようやく帰って来れたかと思えば直ぐこれか!!少しは感動的な再会くらいさせろボケナス!!爆砕(イクスプロジア)・撃災(カラミティ)!!」

 

 

 まあ、本人には責める資格はある。

 

 

「ごめん!!本当にごめんよ!!でも今は助けてくれ!!僕達の力だけじゃ届かないんだ!!」

 

 

「ラフォリアさぁぁああん!!」

 

 

「本当に退屈させてくれないなお前達は!!」

 

 

 

 押し寄せる灼熱の炎、目を開けた瞬間に広がる地獄の様相。それに対して反射的に放った爆破魔法は、それでも波を押し返すことなど出来ない。そんなもので容易く押し返せるようなものであるのなら、ここまでの苦労などしていないのだから。これだけでは足りていないのは明白。もう1押し。否、もう2押しくらいは必要だ。

 少なくとも現状では、再会の喜びに浸る余裕すらここにはない。

 

 

「っ……ベル!!5秒時間を稼げ!!振り絞れ!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「チィッ!私もやるしかないか!!爆砕(イクスプロジア)……!!」

 

 

 片手で爆破魔法を放ち続けながら、もう片方で爆破魔法を重ね掛ける。両の手で全く別の作業を行い、しかも片方はベヒーモスを打ち倒した時と同等の作業。それを僅か5秒という短時間でやらなければならないのなら、それはもう本当に限界を打ち破るとかそういうレベルの話ではない。しかしそれをやらなければ、この場をどうすることも出来やしない。

 

 ならばもう、やるだろう。

 

 現実的な話でなくとも、この女はやる。

 

 やらなければ、全てが台無しになってしまうのだから。

 

 

 

 

 

「17☆4(#.4…5|→…3(…・(64(♪+7595☆,1|=☆(1576♪〜3…2♪+76♪☆○〜<(%々(♪#☆.$0→・>(|576♪〜3…2♪+23÷2(€52♪^*〜%々(♪#☆,2→…+4☆°|4☆#☆〜=8%.4(♪%(+<4(^・576♪〜6…%(4(♪2……」

 

 

 

 

「か、神様ぁ!?ラフォリアさんがなんだかよく分からないことを言い出したんですけど!?何かの詠唱ですかあれ!?」

 

 

「き、気にするんじゃないベルくん!!彼女は今、僕達神から見てもドン引きするような、とんでもないことをしているんだ!脳が焼き切れる寸前なんだ!!」

 

 

「生き返ったばかりですよね!?」

 

 

「生き返ったばっかりなのにね!!ごめんよ!本当にごめんよラフォリアくん!!」

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜……………………………完成ジたァ!!!」

 

 

 

「「流石天才!!」」

 

 

 脳から不要な情報も機能も一切を排除し、鼻血さえ出しながら殆ど完全な演算装置として脳を酷使する……最早それは天才とかそういう次元の話なのかと、普通の魔法使いから見たら顔を青くさせるような馬鹿げたことを成したラフォリアは、次元すら歪ませるような魔力の塊を持ってベルを見る。

 5秒ではなく6秒かかってしまったけれど、それはむしろ早過ぎてヘスティアでさえドン引きしてしまうようなこと。そしてそれくらいの時間をベルは稼ぐことが出来た。

 

 

「絞り尽くせベル!!押し返すぞ!!」

 

 

「やってみせます!!」

 

 

「いいか!息を合わせろ!魔力の全てを1滴たりとも無駄にせず、1滴たりともその身に残すな!!馬鹿乳の全てを使い尽くしてやれ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 

「も、もうこの際なんでもいいよ!だから………いっけえぇぇぇえええ!!!!!!」

 

 

 

「黙れ!お前が勝手に指示を出すな!いくぞ!!ベル!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 

「えぇ……」

 

 

 問答無用でヘスティアの言葉を一蹴し、ラフォリアはベルの隣に立つ。なんだかいつもより妙に顔が近くにある従兄弟と目を合わしてしまえば、あとはもう合図など必要なかった。

 ……息など、合うに決まっていた。こうして肩を並べたその瞬間に、お互いがそれを確信していたくらいなのだから。それくらいには互いに、互いのことがよく分かっていた。そしてそれほどに2人の相性は、良かった。

 

 

 

【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】!!

 

 

【黒撃災(カオス・カラミティ)】!!

 

 

 

 白と黒の大瀑布が、穢れた炎を押し流す。炎どころか祭壇すら消し飛ばし、地上に向けて巨大な大穴を開けるほどの馬鹿げた威力。全く別の2つの力は、しかし決して反発することなく混ざり合い、凄まじい轟音と共に全てを喰らい尽くす。

 ……こんな力が未だに自分の身体の中に残っていたのが信じられないほどの魔力が、ベルの身体からも放たれた。いくらラフォリアと肩を並べられたことに嬉しさを感じ、気力を取り戻していたとしても。流石にこれは異常なレベルで。

 

 

 

 

「ぁぁぁああああ!?べ、べべ、ベルくぅぅうん!?ぼ、ぼくの力を使い過ぎじゃぁぁああ……!?」

 

 

 

「えぇ!?こ、これそういうことだったんですか!?ご、ごご、ごめんなさい!?でも止め方とか分からなくて……!!」

 

 

「はっはっは!それはいい!!ベル!そのまま使い潰してやれ!もう2度と今回のような馬鹿をやらかせないように!少しは痛い目を見せてやれ!!自業自得だ!!」

 

 

「!……はい!そうします!」

 

 

「べ、ベルくぅぅぅん!?!?なんだかラフォリアくんから悪い影響を……ぁぁぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いっけえぇぇぇええええええ!!!!!!!」」

 

 

 

 

「いかないでくれぇぇぇええ……!!」

 

 

 

 ……それはきっと、物語の終わりを飾るには酷く間抜けな光景だった。それこそ想いと言葉で舗装され辿り着いたこの場所で、少年とその義姉が肩を並べ、女神が1人搾り取られている。

 最後の女神だけが、あまりにも余計だった。

 

 

 

 ……けれど、だからこそ、それでいい。

 

 

 

 

「ははっ、やっぱヘスティア様はこうでないとな」

 

 

「……まったくです」

 

 

「最後まで締まりませんね」

 

 

「でも……こういうのを、待っていた気がします」

 

 

 

 

 だってもう、確信していたから。

 

 例え何があろうとも、もう負けることはないと。

 

 こんな間抜けをやらかしているからこそ、勝てるのだと。

 

 絶対に押し返されることなど、無いのだと。

 

 

 

 それほどに強い信頼感が、ここにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで?どんな気分だい、ラフォリアくん」

 

 

「最低だが?私はアルフィアと感動の再会をするつもりだったというのに、なんだこれは?本当になんだこれは?感動も何もかもが纏めて吹き飛んだが?」

 

 

「ま、まあまあ、"天の炎"も一緒に吹き飛んだということでここは1つ……」

 

 

「何も上手くないからな、ベル」

 

 

 

 空っぽになったその空間で。その場に仰向けに倒れた3人は、何の緊張感もなくそう話す。明らかに不機嫌そうにヘスティアを睨み付けるラフォリアであるが、ヘスティアはただただ目を逸らすばかり。

 

 そこに嘆きは無いし、涙もないが……けれど泣きそうになっている少年は居た。こんな平穏が戻って来たからこそ、冷静にそれを認識出来るようになってしまって。するともう、止まらなくなってしまって。それで。

 

 

「……くく。なんだ、少しは男らしくなったかと思えば。また泣くのか?ベル」

 

 

「っ……だって、だって……」

 

 

「お前のナイフから聞いていただろう?アルフィア達が私を生き返らせようとしていたことは」

 

 

「それでも……」

 

 

「やれやれ、少しは良い顔をするようになったと思ったが。お前はまだまだ子供だな、安心した」

 

 

「……それを今の君が言うのかい?ラフォリアくん」

 

 

「ああ、そうだな。その話もしなければならないなぁ?ヘスティア」

 

 

「うぐっ」

 

 

 泣き始めてしまったベルの頭を優しく撫でながら、彼のことをヴェルフ達に任せる。命と春姫に肩を貸してもらいながらも、ラフォリアはヘスティアの顔面を思いっきりアイアンクローした。そこに容赦など存在しない。その明らかな怒りの感情に、命も春姫も見て見ぬ振りをして目を逸らした。

 

 

 

 ……ただそれにしても、異様なのはその位置関係。

 

 

 同様に立ち上がっているにも拘らず、ラフォリアのアイアンクローはヘスティアよりも低い位置から伸びている。

 

 

 彼女のことを見上げながら、彼女はそれをしている。

 

 

 つまりはまあ、現在、身長で優っているのは何故かヘスティアの方ということで……

 

 

 

 

「それで?どうして私はこんな子供の姿をしているんだ?あぁん?」

 

 

「ご、ごご、ごめんよぉぉお!!でも仕方がなかったんだ!君を急いで生き返らせようとしたら、それが1番手っ取り早くて!ナイフのおかげで情報は揃っていたし!君の心と身体の親和性的にも……!」

 

 

「だからと言って20近くも下の歳で生き返らせる奴があるかぁぁあ!!!!やり直すにしても身体が幼過ぎるだろうがぁああ!!!」

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛ぁぁぁああい!!!」

 

 

「ラフォリアさんストップ!ストーーップ!!」

 

 

「ヘスティア様が送還されちまいますから!そうなったらマジでなんの意味も無くなっちまいますから!!」

 

 

「こんの馬鹿乳がぁぁあ!!!!」

 

 

「ご、ごご!ごめんなさぁぁあい!!!」

 

 

 今のラフォリアの身体は、見ての通りの幼い子供。10歳あるかどうか。それこそエルピスと名付けられたベルのナイフが被っていたその姿そのものと言っても良い。

 ……どうしてそうなったのかは、まあ色々と理由はあるが。しかしその原因はヘスティアにあり、ラフォリアにあり、ベルにもある。そして経緯を考えると、もう仕方ないと言ってしまってもいいのかもしれなくて。

 

 

「と、とにかく一度戻りましょう!ヘスティア様のせいでラフォリアさまがこっちに来てしまったのなら、アルフィアさまもとても驚いているのではないかと……!」

 

 

「……あ、そっちもヤバい」

 

 

「……おい、まさか何も伝えていないのか?」

 

 

「そ、そんな暇が無かったんだ!!でもヤバい!絶対にヤバい!絶対に向こうもヤバいことになってる!というかアルフィアくんは絶対に取り乱してる!!」

 

 

「ええい!全員急いでここを出るぞ!!最悪の場合この島そのものが消え失せると知れ!!」

 

 

「なんかラスボスが1人増えたんですけど!?」

 

 

「こ、ここから地上までそこそこ距離がありますよ!?」

 

 

「ベル立て!!さっさと送り届けねぇと大変なことになるぞ!!」

 

 

「た、助けてヴェルフ……!もう力使い切っちゃって、立てなくて……!」

 

 

「もう色々最悪じゃねぇか!!」

 

 

 何度も言うが、世の中何事も上手くいかない。

 とは言え、まさかこれほどまでに不幸が重なるとは、一体アルフィアが何をしたと言うのか。流石にこれ以上に彼女を悲しませる訳にはいかないと、娘は精神疲労で震える脚を強引に立ち上がらせる。休息を求める身体を叱咤する。そしていつまでも立ち上がれないヘスティアのケツを蹴り上げる。最終的にヘスティアは命に担がれたが、なんだかそれもムカついて、ついでにもう1発ケツを引っ叩いておいた。

 

 

 

 ……この日、ラフォリアは久しぶりに全力で走った。

 

 色々と考えていた再会の時の言葉とか、会話の流れとか、なんかもうその辺りのことを全部投げ捨てて。すっかり小さくなってしまった身体で、必死に。

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