【完結】最後のヘラの眷属が笑って◯○までの話   作:ねをんゆう

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被害者7:千の妖精

「ねぇアイズ」

 

「ん?」

 

「アイズはさ、あの人のこと知ってる?」

 

「……知ってるような、知らないような」

 

「でもあの人、多分めちゃくちゃ強いよね。この前も暴れてるの全然取り押さえれなかったし」

 

「うん」

 

「それに……」

 

 

 

「さっさと立て雑魚エルフ、ミノタウロスを15体倒すまでは18階層には上げんからな」

 

「ひ、ひぃいん!せめて魔法使わせてくださーい!!」

 

 

 

「……レフィーヤ可哀想」

 

「うん……」

 

魔法を禁止され、ケツを叩かれながらミノタウロスの群に突撃させられているレフィーヤ。このプチ遠征に参加した誰もが、それを可哀想な目で見つめている。

 

『グォォオオオオ!!!』

 

「きゃぁあああ!!!」

 

「このトロ子が」

 

「きゃんっ!?」

 

危うくミノタウロスに叩き潰されそうになったレフィーヤを、ラフォリアは蹴り飛ばす。顔面を地面に擦り付けながら吹き飛んでいく彼女は、本当に哀れだった。きっと彼女も初めての経験なのだろう、こんな風に殴ったり蹴られたり罵倒されたりしながら受けるスパルタな特訓を付けられたのは。

 

「……おいエルフ、なんだアレは。才能の無駄遣いの権化か?」

 

「い、いや……精神的にまだまだ未熟でな。扱う魔力が膨大過ぎるがために、暴発すれば自分の魔力で吹き飛ぶ可能性がある。故に知識から学ばせているところなのだが……」

 

「チッ……トロ子、こっちに来い」

 

「は、はぃぃ……」

 

フラフラと歩いて来るレフィーヤ・ウィリディス、彼女はLv.3の魔導士だった。その特殊な魔法故に"千の妖精"とも呼ばれている彼女であるが、扱う魔力の規模故に色々と苦労しているロキ・ファミリアの大砲の一つでもある。

ラフォリアはそんな彼女に自身が持っている剣を握らせる。ゴブニュ・ファミリアで2000万ヴァリスで買って来た物だ、値段的には先日アイズが破壊したそれの大体半分くらいだろう。

 

「あの、これをどうすれば……」

 

「動くな」

 

「え……?」

 

「貴様に近接戦闘というものを教えてやる」

 

「え?え?」

 

突然レフィーヤの背後に回り、自身とレフィーヤの腹部を縄で縛り付け始めたラフォリア。突然のそんな行動に顔を赤らめながら困惑するレフィーヤであるが、次の瞬間彼女は地獄を見ることになった。

 

「ぎゃぁあああああ!!!!!」

 

「喧しい、黙って目を開けていろ」

 

「早い早い早い早い早すぎますぅぅううう!?!?!?」

 

レフィーヤを自分の体に縛りつけた状態で、剣を握らせた彼女の手を取ってラフォリアはミノタウロスの群を殲滅し始める。レフィーヤは今日まで感じたこともないその速度に目を回しているが、確かにレフィーヤは今自分の身体でミノタウロスを蹂躙している。

こんな風に高位の冒険者に本当に手取り足取り教えて貰う機会なんてそうあるものではない、人によっては本当に羨ましがる体験であろう。早々ここまでしてくれる相手も居ないし、本家の静寂であればこんなこと絶対にやらない。

 

「これで漸く13体だ、気分はどうだ」

 

「し、死ぬかと思いました……」

 

「ならばあと2体狩って来い、さっさと行け」

 

「ひぃん!こうなりゃヤケです!えいやぁああああ!!!」

 

ラフォリアの剣を持って、残り2体のミノタウロスへと突っ込んで行くレフィーヤ。レベルの差があるため元々ミノタウロスの攻撃くらいならば避けることが出来ていたが、ラフォリアが文字通りその身体で教えたためか、多少剣の振り方もそれらしくなっている。

それでも剣士としてはクソ雑魚であることに変わりはないが、色々ドジは踏みつつも、最終的には2体のミノタウロスをしっかりと討伐して来たのだから、頑張った方だろう。

 

「はぁ、はぁ……つ、疲れました……」

 

「ゴミだな」

 

「ゴミ!?」

 

「別に前衛職をやれるほどになれとは言わんが、最低でもそこのエルフ並みには動けるようになれ。……だからと言ってこいつを目指すなよ?それでは追い付くことも出来ん」

 

「は、はい。頑張ります……」

 

レフィーヤは貸して貰っていた剣を返す。

下手な使い手によって多少刃が痛んでしまってはいるが、こういう時のためにラフォリアは砥石を持って来ていた。本家の鍛治師並とは言わないが、多少手入れすることくらいならば自分でも出来る。荷物にはなるが、長期間潜るということであれば誰かは持っておくべきだろう。これも1人でダンジョンに潜ることの多かったラフォリアだからこその知恵だった。

 

「……そういえばトロ子、お前は他人の魔法を使用出来るらしいな」

 

「え?あ、はい。エルフの魔法に限りますけど……」

 

「チッ、使えんな」

 

「いきなり酷くないですか!?」

 

「せっかく無敵の存在にしてやろうと思ったのに」

 

「私に一体何させるつもりだったんですか!?」

 

他人の魔法やスキルで悪いことを考える、それもラフォリアの趣味の一つだった。

 

 

 

「……やはり好かんな、この街は」

 

18階層に降り、リヴィラの街を見て呟く最初の一言がそれ。以前にベート達と18階層に来た時には素通りしたが、今日はここで宿を取る予定である。ラフォリアにとって好かない人間の多いゴミ貯めにでも来たような気持ちであるが、仕方がないと割り切って後ろを歩く。

 

「あの……」

 

「?なんだ小娘」

 

そうして歩いていると、隣に並んで声を掛けて来たのは、これまで殆ど話したことのないアイズ・ヴァレンシュタイン。例の少年の想い人であり、恐らく現在のロキ・ファミリアで最大の成長株。

 

「……貴方は、"あの人"とは、どういう関係なんですか?」

 

「あの人?」

 

「"静寂"って言われてた人です」

 

「……会ったことがあるのか?」

 

「7年前に、少しだけ」

 

「……そうか」

 

それはあの大抗争の際、アイズは最後の瞬間にまでは立ち会えなかったものの、彼女と交戦したことがある。その際には軽々と弄ばれ、剣を奪われ、その剣を自分よりも上手く、そして強力に振われるという経験をすることになり、その時の記憶は今でもアイズの頭の中に残っていた。

 

「あれは私の先輩だ」

 

「先輩……?」

 

「……認めたくはないが、育ての親とも言っていい」

 

「育ての、親……」

 

アイズはその言葉に少し反応し、しかしラフォリアは対照的に目を閉じて言葉を紡ぐ。

 

「私は元は身寄りのない捨て子だった、拾ったのがあの女だ。冒険者として生きていく方法も、あの女から教わった。……とはいえ、所詮は7つの歳の差、あれもガキだった。色々と酷かったな」

 

そんな風に話す彼女を横目に、アイズは複雑そうな顔を隠さない。しかしラフォリアはそんなアイズの心の内になど興味もなく、正直泣こうが喚こうがどうでもいい。

 

「さっさと強くなれ」

 

「え……」

 

「お前はまだ若い、身体も健康だろう。今のまま、あと数年もすればオッタルすら追い抜ける」

 

「猛者を……」

 

「慢心するなよ、Lv.6からLv.7へ上がる瞬間が最も手間がかかる。Lv.6へ上がりたいのならウダイオスを倒せばいい、Lv.8に上がりたいのならバロールを倒せばいい。だがLv.7に上がりたいのであれば、適したモンスターは存在しない。事実、お前達の幹部共はああして停滞したままだろう」

 

「………」

 

「聞いた話ではあるが、オッタルはバロールを倒せなかったらしいな。……くく、次に会った時には笑って馬鹿にしてやるか」

 

都市最強と呼ばれ、あらゆる冒険者から恐れられる"猛者"を笑って馬鹿にしてやるなどと。そんなこと一体誰が出来るのかと、アイズにとっては目を丸くするような言葉だった。そうなると目の前の人が彼と同格の人物なのかとも思えて。

 

「……私にも」

 

「?」

 

「私にもレフィーヤみたいに、教えてくれますか……?」

 

「!」

 

アイズは気にしている、最近の自分のステータスが伸びないことを。そしてここらが自分のステータスの頭打ちであるということを。だからこそ……

 

「まずは恩恵を昇華させて来い、話はそれからだ」

 

何やら騒がしく人が集まっているところに先頭を歩いていたフィン達が向かっていることに気付いたラフォリアは、アイズにその言葉だけを残して去っていった。

アイズに対して、"Lv.6になりたいのならウダイオスを倒せばいい"という余計な知識を与えたまま。

 

 

 

「ほう、殺しか」

 

ヴィリーの宿屋という宿の中で、どうやら殺しがあったらしい。顔面を粉砕された、それ以外には状態の良い異様な男の死体。街の様子がおかしかった理由はそういうことだとフィンは言っているが、ラフォリアにとっては別に昔からこんなものだったろうというくらいの感想。

 

「それで……彼と一緒にこの宿を取ったっていうローブの女の特徴はわからないかい?体のどこかに目印とか」

 

「あー!そういやローブの上からでも分かるくらい滅茶苦茶良い体してたな!」

 

「おお!実は俺も街中で昨日見かけたんだが、ありゃ良い女だ!顔は知らんが……それこそ、そこの女くらいに!」

 

「……あ"?」

 

「「「あ」」」

 

リヴィラの街のまとめ役、ボールスの顔面に拳がめり込んだ。

 

「ボ、ボールスぅぅう!!!……ぶっ」

 

壁に叩き付けられる、奇跡的にも死体の横に死体と同じ格好で倒れる彼。見ようによっては死体が増えたように見えるその光景に、不謹慎ながらもヴィリーは吹き出す。

一方で殴った女の方は偉そうに近くにあった椅子に腕を組んで座るのだから、周りの人間は苦笑いをするしかない。

 

「あの……うん、気持ちは分からなくもないけど、暴力はやめようか」

 

「私に対して不快な目線を向けた罰だ、頬を腫らすだけで済んで良かったな」

 

「なんかティオネみたい……」

 

「いや、私でも流石に手までは出さないわよ……」

 

怒りはするし、脅しもするが、流石に殴るまではしない。こんな奴と一緒にされたくないと、ティオネは心外そうに顔を歪ませる。

 

そしてこんなことをしたものだから、倒れていた彼がガネーシャ・ファミリアのLv.4であるそれなりに有名な団員:ハシャーナ・ドルリアだと分かるや否や……

 

「ほ、本当はお前らの中の誰かがやったんじゃないのか!?特にお前!」

 

「………」

 

「「「あ〜あ……」」」

 

確かに彼女であればそれくらいは出来るであろうけれども、だとしても。

 

「た、確かにその身体を使えば………ぁ……っ????」

 

乱雑に放たれた裏拳がヴィリーの顎を掠め、彼の意識が刈り取られる。

なぜ学習しないのか。

取り乱して女を疑う発言をしてしまった男の冒険者の1人は腰を抜かせて首を振る。

 

「Lv.4程度の冒険者を殺すのに、何故わざわざ身体を使う必要があるのか理解に苦しむな」

 

「……な、なあフィン?そういえば見たことねぇんだけど、この姉さんって何者なんだ……?」

 

「あ〜、うん…………【撃災】って言えば分かるかい?」

 

「よぅし解散!!お前等この姉さんは無実だ!2度と関わるんじゃねぇぞ!!もし次に不敬なことした奴が居たら俺の方がぶん殴りに行くからな!!いいか!分かったな!!絶対だぞ!!」

 

 

「あの……何かしたんですか?」

 

「知らん、この町で何軒か店を爆破した記憶はあるがな」

 

「絶対それが原因ですよね……」

 

この街の纏め役であり、冒険者としての経験も長いボールスは知っている。当時まだ10歳の子供が18階層に1人でやって来て、柄の悪いこの街の男達が関わったことで起きてしまった、最終的にはリヴィラの街が1度滅ぶことになったあの大事件を。

 

 

 

 

 

 

場所は変わってヘファイストス・ファミリア。

その主神であるヘファイストスの元へ訪れたのは、ガネーシャ・ファミリアの団長であるシャクティ・ヴァルマ。珍しい客人に対してヘファイストスは自らで応対し、変わらず真面目な顔をしている彼の眷属に対して笑いかける。

 

「それで、今日はどうしたのかしら?貴女がこうして私を訪ねてくるなんて、かなり珍しいことじゃない?」

 

「……一つ、相談事をさせて頂きたいと思っています」

 

「相談事?ガネーシャじゃなくて私に?この前の騒動のことかしら?」

 

「いえ、街外れの廃教会の件についてです」

 

「廃教会って……あそこは今はヘスティアが住んでるはずだけど」

 

思わぬところから出た話題にヘファイストスは困惑する。もしかしてまたヘスティアが何かしたのではないかとも思ったが、彼女はここ数日、ずっとヘファイストスへの土下座や武器作りに没頭していた。それにヘスティアが何かをしたのであれば、わざわざ廃教会などという話題の持ち出し方はしないだろう。

 

「……ヘラの眷属が1人、この街に帰って来ています」

 

「なんですって!?」

 

シャクティが放ったそのたった一言で、ヘファイストスは事の重大さを悟る。あの廃教会が元々誰の物であったのか、そしてどんな物達が好んで訪ねていたのか、それを他でもないヘファイストスが知らない筈がない。

 

「ちょ、ちょっと待って。……"静寂"ももう居ないし、他にヘラの眷属なんて残ってない筈でしょう?まさか生き残りが居たってこと?あの戦いで?」

 

「お忘れですか、女神ヘファイストス。もう1人居た筈です。黒龍討伐の話が出る以前にファミリアを抜けた、当時まだ12歳の少女が」

 

「…………っ!生きていたの!?」

 

「はい。そして彼女は今、例の廃教会を拠点にしています」

 

「拠点って……まさかヘスティアのファミリアに入ったとか?」

 

「恩恵を授かっているかどうかまでは分かりませんが、廃教会を修繕して住んでいるようです。外装は殆ど変わっていませんでしたが、内装は徹底的に綺麗にされていました。……それこそ土足厳禁を徹底しているくらいには」

 

「ま、また勝手なことを……まあ綺麗にしてくれる分にはいいんだけど……」

 

「それとここからが一番の問題なのですが」

 

「なにかしら」

 

「……現在の彼女の容姿が、完全に"静寂"です」

 

「………え?」

 

シャクティの想像通りの反応を、ヘファイストスはした。

 

「ドレス、髪色、元々体格が近かったこともあり、私ですら最初は"静寂"が生きていたと勘違いしました」

 

「えっと、うん……なんでそんなことを?」

 

「"静寂"との賭けの約束だと、詳しいことは分かりません。ただ本人に止めるつもりはないように思います」

 

「……困るんだけど」

 

「その為の相談事です」

 

ヘファイストスの管理している場所に、再び"静寂"が居座っているとなれば、闇派閥との関係を疑われるだけでなく、そろそろ管理上の責任を追求される。

それにこうしてヘファイストスが今の今まで知らなかったくらいには、【撃災】の情報が出回っていないというのもよろしくない。せめて都市内の信頼出来る他のファミリアに所属しているのであればまだしも、単独というのも不味い。だからこそシャクティとしては、この話をヘファイストスに持って来た。

 

「恐らくですが、遠くない内に奴はあの場所の管理権を求めて交渉に来るかと思われます」

 

「本当にそんなことするかしら……?」

 

「アレは横暴ですが、筋は通します。その交渉の内容が常識的な物であれば、特に何事もなく事は進むと思われます」

 

「なるほど……私としては管理権の譲渡に問題はないわ、むしろ崩落して被害が出ないか心配していたくらいだもの。ヘスティア達の拠点については、まあ、そろそろ本人達で見つけて貰うことにすればいいわ」

 

「分かりました、それでは本題の方に」

 

「本題がまだあるのね……」

 

女神ヘファイストスが交渉にとんでもない金額をふっかける訳もなく、実際あの女も常識的な額を持って来る筈だ。変に値切りをするような姿も想像は出来ない。だからここまではシャクティもスムーズに進むと考えていた。

そしてそれとは別に持ってきた本題、それは……

 

「あの女を、女神ヘファイストスの眷属とすることは出来ないでしょうか」

 

「……話の意図が掴めないわね、どうして私なのかしら」

 

ヘファイストスは途端に雰囲気を変える。

それは笑って話せる事柄ではない。

 

「単に彼女の身元を確保するのなら、別に私でなくともガネーシャでも良い筈よ。なんならヘスティアだって良い、性質を考えればロキの方がいいとも思うわ」

 

「……1つ、気掛かりなことがあるからです」

 

「気掛かり……?」

 

「あの女が、"静寂"と同じ結論を出す可能性です」

 

「!」

 

それが彼女の顔を見たあの瞬間から、シャクティがずっと考え、そして恐れていた最悪のこと。

 

「あれは"静寂"の影響を強く受けています。そして彼女と同様に重篤な病を持っている。今のところ最も関わりの深いロキ・ファミリアに確認したところ、彼女が今のオラリオに対して失望感を抱いていることもまた、間違いないようです」

 

「あの病気、まだ治っていなかったの……?」

 

「完治はしておらず、今はステータスで押さえ込んでいると本人は言っていました。しかしそれも何処まで本当の話なのか……死を悟り、最期にこの地を訪れたということも考えられます」

 

「……それで、どうして私のところに?」

 

「女神フレイヤからの干渉を防ぐためです」

 

「っ……そういうこと」

 

「はい」

 

ここに来てようやく、ヘファイストスはシャクティのその深刻さに対して理解を示す。そういうことであれば彼女の言う通り、引き受けられる神は自分以外には存在しない。

 

「ヘラの眷属の最後の1人、それだけでフレイヤが手を出すには十分な理由だものね。何せ一度は煮湯を飲まされているんだもの」

 

「そしてそうなればあの女は、これ幸いと反撃をするでしょう。それが1ファミリア内で収まる程度の事であれば良いのですが……」

 

「……もしあの子が本当に"静寂"と同じ考えを持っているのであれば」

 

「ええ、そのままオラリオ全土を巻き込んだ戦争に発展させる可能性があります」

 

そこに闇派閥の残党まで乗って来てしまえば、いよいよ7年前の再現となってしまう。シャクティとしては、それだけは絶対に回避しなければならない。その上での延命の一手がこれであり、早急に打たなければならない手でもあった。

 

「貴女であれば、女神フレイヤは手を出せない。オラリオどころかフレイヤ・ファミリアにとっても重要な役割を担い、かつ女神であることから魅了の影響を受け難い」

 

「……それでも、フレイヤが本気を出せばどうしようもないわ。アレを防げるのなんて、この街だと処女神であるヘスティアくらいだもの」

 

「ですが延命処置にはなります。女神フレイヤが手を出せない状況を作るにはこれしかありません」

 

「あの子の方からフレイヤに手を出す可能性はあるんじゃないの?」

 

「それも否定出来ませんが、先程も言った通り彼女は筋を通す人間です。所属している女神に迷惑をかけるということを釘に刺しておけば、踏み止まると考えられます」

 

「……根拠としては弱いわね、結局あの子の考え次第だもの」

 

「返す言葉もありません」

 

もう2度と、あのようなことがあってはならない。

先達の冒険者を壁とし、踏台にさせ、犠牲にすることなどあってはならない。自分たちは7年前のあの時にそれを確かに決意した筈であり、胸に誓った筈だ。

だからこそ、あの女に絶対にその結末だけは辿らせない。自分より歳下の、まだ幼い姿が記憶に残っているような女には、絶対に。

 

「……分かったわ、その提案を私の方から彼女にしてみるわ」

 

「ありがとうございます……!」

 

「でも、断られたら私にはどうしようもない。食い下がる理由までは見つからないし、変に警戒されても困るでしょう?」

 

「ええ、それだけでも今は十分です」

 

今は何より時間を稼ぐことが先決、それまでの間にとにかく立てられるだけの対策をしておくことが重要だ。この件に関してだけで言えば味方はとにかく多い、いきなりオラリオを襲撃……なんて事がなかった以上、やれることはいくらでもある。

 

「……ちなみになんだけど、これからどうするつもり?」

 

「一先ず、"戦場の聖女"と"猛者"に話をしに行こうと思います」

 

「ちょ、ちょっと待って?……アミッドはともかく、どうしてオッタルにまで?彼経由でフレイヤに伝わってしまうんじゃない?」

 

「いえ、この件に関しては恐らく彼はこちらの味方です。表立って動く事は出来なくとも、情報制御くらいはしてくれるかと」

 

「……先達の犠牲という行為に対して、最も怒りを抱いているのが彼。ということかしら」

 

「相手が彼女となれば、それは"静寂"と"暴喰"の時以上のものになるでしょう。あの2人の関係は、知っての通りですから」

 

今ならまだどうにでもなる。

"勇者"は今は彼女とダンジョンに潜っているらしいが、戻り次第に根回しの準備も進めておかなければならない。

あの女は筋を通す、だからこそ筋の通ったやり方で徹底的に周りを固めておけば分かってはくれる。そしてその間に、彼女が認めるほどの成長がこのオラリオにあれば……きっとあのようなことにはならなくて済む。それが足を共にしているロキ・ファミリアの中にあれば良いのだが、それすら無かったのであれば……

 

「【象神の杖(アンクーシャ)】、何か他に協力出来ることがあればいつでも来なさい。私も全面的に協力するわ」

 

「ありがとうございます」

 

シャクティはもう一度深く頭を下げてから、ヘファイストスの私室を出る。

正直シャクティにも余裕はない。普段の仕事ですらも慌ただしい上に、例のモンスターフィリアでの一件、こうして時間を作るのも精一杯だ。それでも他でもない自分がしなければならないと思い立ち、こうしてフィンとは別口で動いている。

 

「……病に苦しんで、漸くまともな人生を歩めるようになった人間を、犠牲になどさせてたまるか……!!」

 

なぜなら、見てしまったから。

 

最早どうすることもない重病を抱えてしまい、

まともに歩くことすら出来なくなった末に。

 

あの横着で生意気だった小さな子供が、

隠すことも出来ずに浮かべてしまった……闇より深い、絶望を。

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